(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742445
(24)【登録日】2020年7月30日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】ヘッドライト装置
(51)【国際特許分類】
F21S 41/135 20180101AFI20200806BHJP
F21S 41/143 20180101ALI20200806BHJP
F21S 41/27 20180101ALI20200806BHJP
F21S 41/37 20180101ALI20200806BHJP
F21S 41/64 20180101ALI20200806BHJP
F21V 7/24 20180101ALI20200806BHJP
F21V 9/14 20060101ALI20200806BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20200806BHJP
F21S 41/13 20180101ALI20200806BHJP
F21W 102/155 20180101ALN20200806BHJP
F21W 102/17 20180101ALN20200806BHJP
F21W 103/60 20180101ALN20200806BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20200806BHJP
【FI】
F21S41/135
F21S41/143
F21S41/27
F21S41/37
F21S41/64
F21V7/24
F21V9/14
G02F1/13 505
F21S41/13
F21W102:155
F21W102:17
F21W103:60
F21Y115:10
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-564519(P2018-564519)
(86)(22)【出願日】2018年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2018001319
(87)【国際公開番号】WO2018139325
(87)【国際公開日】20180802
【審査請求日】2019年5月16日
(31)【優先権主張番号】特願2017-11047(P2017-11047)
(32)【優先日】2017年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】317015179
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國井 康彦
(72)【発明者】
【氏名】杉山 寿紀
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩二
【審査官】
下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−186850(JP,A)
【文献】
特開2003−297116(JP,A)
【文献】
特開2005−071731(JP,A)
【文献】
特開2008−252357(JP,A)
【文献】
特表2010−500735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/135
F21S 41/13
F21S 41/143
F21S 41/27
F21S 41/37
F21S 41/64
F21V 7/24
F21V 9/14
G02F 1/13
F21W 102/155
F21W 102/17
F21W 103/60
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の一部に取り付けられて前記車両が走行する路面上に照明光を照射する車両用ヘッドライト装置であって、
前記照明光を発生する光源装置と、
前記光源装置の光軸上に配置され、前記光源装置からの前記照明光が所望の配光分布を形成するように投射するレンズと、を備えており、
前記光源装置は、
白色光を放射する1つまたは複数の半導体光源素子と、
前記半導体光源素子の各々の発光軸上に配置され、固体光源である前記半導体光源素子の各々から出射された光を略平行光に変換する1つまたは複数のコリメータを有するコリメータ部と、
前記コリメータ部の出射面側の前記半導体光源素子及び前記コリメータごとに設けられ、入射光を所定の偏光波に変換する偏光変換素子と、を含んでおり、
前記光源装置の前記偏光変換素子から出射される前記照明光を、前記レンズを介して所定の方向に照射するように構成されている、ヘッドライト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドライト装置において、
前記レンズより出射される照射光は、前記路面に対して垂直な平面上で振動するp偏光波である、ヘッドライト装置。
【請求項3】
請求項1に記載のヘッドライト装置において、
更に、前記偏光変換素子と前記レンズを結ぶ光軸上に配置された映像表示素子を備えている、ヘッドライト装置。
【請求項4】
請求項3に記載のヘッドライト装置において、
前記映像表示素子は、LCDパネルである、ヘッドライト装置。
【請求項5】
請求項4に記載のヘッドライト装置において、
前記LCDパネルと前記レンズの間には、更に、偏光ミラーが、その出射面を下方に所定の角度で傾けて設置されている、ヘッドライト装置。
【請求項6】
請求項1に記載のヘッドライト装置において、
前記光源装置を構成する前記偏光変換素子の出射面側に、更に、自由曲面レンズが設けられている、ヘッドライト装置。
【請求項7】
請求項1に記載のヘッドライト装置において、
更に、赤外光を発生するための赤外光発光手段を備えている、ヘッドライト装置。
【請求項8】
請求項7に記載のヘッドライト装置において、
前記赤外光発光手段は、赤外光を放射する1つまたは複数の半導体赤外素子と、前記半導体赤外素子の各々の発光軸上に配置され、前記半導体赤外素子から出射された光を略平行光に変換する1つまたは複数の赤外コリメータを有する赤外コリメータ部と、から構成されている、ヘッドライト装置。
【請求項9】
請求項8に記載のヘッドライト装置において、
前記偏光変換素子と前記レンズを結ぶ光軸上に配置された映像表示素子を備えており、
前記映像表示素子と前記レンズの間には、更に、偏光ミラーが、その出射面を下方に所定の角度を傾けて設置されており、前記赤外光発光手段は、出射する赤外光を前記偏光ミラーの出射面で反射して、前記レンズを介して所定の方向に照射するように構成されている、ヘッドライト装置。
【請求項10】
請求項1に記載のヘッドライト装置において、
前記コリメータ部を構成する前記コリメータの各々は、透光性の樹脂により形成され、略放物断面を回転して得られる円錐凸形状の外周面を有すると共に、その中央部にレンズ面を形成した凹部を有する、ヘッドライト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体発光素子を用いた車両用ヘッドライト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるLED等の固体発光素子の著しい発展に伴い、当該固体発光素子を光源として利用した照明装置は、小型・軽量で、かつ、低消費電力で環境保護にも優れた長寿命な光源として、各種の照明器具において広く利用されてきており、更には、車載の電子装置として各種の制御が可能な車両用のヘッドライト装置としても利用されてきている。
【0003】
例えば、従来、車両用のヘッドライト装置として、ロービーム用LED光源アレイとハイビーム用LED光源アレイと、これらLED光源からのロービーム光とハイビーム光を受けてコリメートする第1の光学ライトガイドと、コリメートされたロービーム光とハイビーム光を拡散パターンの組み合わせとして拡散する第2の光学のライトガイド等を備え、これらのアレイや光学ライトガイドをケーシング内に機械的に支持する車両用ヘッドランプは、以下の特許文献1により既に知られている。
【0004】
また、特許文献2によれば、いわゆる、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)を使用した配光制御ヘッドライトに関するものであり、非可視光である赤外線を利用する車両用ヘッドライトが開示されている。ここでは、眩しさを与えないように、可視光をオフした領域に赤外光が照射されるようにミラーの角度を制御する。更に、特許文献3によれば、太陽光による発光ダイオードへの悪影響を低減する車両用ヘッドライトが提案されている。
【0005】
加えて、以下の特許文献4によれば、LED光源とは異なり、従来のランプに関するものではあるが、偏光変換したp偏光を照射するヘッドライトが開示されており、更には、特許文献5によれば、反射型偏光子を利用してs偏光を反射させて位相板で楕円偏光にした後、p偏光成分として利用する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−532250号公報
【特許文献2】特開2015−174551号公報
【特許文献3】特開2015−133170号公報
【特許文献4】特開2004−235127号公報
【特許文献5】特開2014−222567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固体光源であるLEDは、その発光効率の向上に伴って車両用のヘッドランプ装置における発光源として用いることが有効となっている。しかしながら、上述した従来技術、特許文献1、特許文献2では、その光利用効率特性や均一照明特性において未だ不十分であり種々の改善の余地が存在する。
【0008】
また、特許文献3でも、レンズ表面にフォトクロミック層を設けることで、太陽光に含まれるUV成分により、昼間は透過率を落とし、他方、夜間はその透過率を回復させる。しかしながら、フォトクロミック層は、DVDなどの色素に使われている技術であり、太陽光環境に放置しておくと、色素が変化しなくなってしまうことから、通常、太陽光下にさらされるような自動車の外装部品として使用することは困難である。特許文献4では、固体光源であるLEDへの適用については述べられておらず、また、特許文献5では、多重反射によるロスの発生などが問題となる。
【0009】
そこで、本発明は、モジュール化された面状の照明用光源として容易に利用可能な光源装置を利用することにより、具体的には、LED光源から放射される光の利用効率が高く、かつ、均一な照明特性を向上すると共に、装置の小型化を達成し、加えて、低コストで製造可能な車両用のヘッドライト装置を提供することを、その目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための一実施の形態として、本発明によれば、車両の一部に取り付けられて前記車両が走行する路面上に照明光を照射する車両用ヘッドライト装置であって、前記照明光を発生する光源装置と、前記光源装置の光軸上に配置され、前記光源装置からの照明光が所望の配光分布を形成するように投射するレンズと、を備えており、前記光源装置は、光を放射する1つまたは複数の半導体光源素子と、前記半導体光源素子の各々の発光軸上に配置され、前記固体光源から出射された光を略平行光に変換する1つまたは複数のコリメータを有するコリメータ部と、前記コリメータ部の出射面側に設けられ、入射光を所定の偏光波に変換する偏光変換素子と、を含んでおり、前記光源装置の前記偏光変換素子から出射される照明光を、前記レンズを介して所定の方向に照射するように構成されている、ヘッドライト装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低コストで製造可能、かつ、小型でかつモジュール化が容易で、高い光利用効率を備えた光源装置を用いることにより、低消費電力で、環境保護にも優れ、かつ、長寿命な車両用ヘッドライト装置が提供されるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1に係る車両用のヘッドライト装置を自動車の前照灯として適用した全体構成(a)とその一部(b)を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る車両用のヘッドライト装置の全体構成(a)とその展開構成(b)を示す展開斜視図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る車両用のヘッドライト装置の全体構成の側面断面図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る車両用のヘッドライト装置におけるコリメータユニットを中心とした可視光照明ユニットの構成を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る車両用のヘッドライト装置におけるコリメータユニットのコリメータの構造とその動作を示す一部拡大断面図である。
【
図6】本発明の実施例1に係る車両用のヘッドライト装置におけるコリメータユニットを中心とした可視光照明ユニットの動作を示す上面断面図である。
【
図7】本発明の実施例2に係る車両用のヘッドライト装置の全体構成を示す展開斜視図である。
【
図8】本発明の実施例2に係る車両用のヘッドライト装置の全体構成の側面断面図である。
【
図9】本発明の実施例2に係る車両用のヘッドライト装置におけるコリメータユニットを中心とした可視光照明ユニットの斜視図(a)と上面断面図(b)である。
【
図10】本発明の実施例2に係る車両用のヘッドライト装置における異なる入射角のs偏光とp偏光に対して、偏光ミラーの入射光の波長に対する透過率を示す透過率特性のグラフである。
【
図11】本発明の実施例2に係る車両用のヘッドライト装置における赤外線照明ユニットの全体構成を示す斜視図である。
【
図12】本発明の実施例3に係る車両用のヘッドライト装置の全体構成を示す斜視図(a)と上面断面図(b)である。
【
図13】本発明の実施例1の構成の変形例(実施例4)として、LCDパネルに対して、光源装置である可視光照明ユニットが小さい場合の構成例を示す展開斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(実施例)について、添付の図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付けて示し、また、その繰り返しの説明については省略する場合もある。
【0014】
(実施例1)
まず、
図1から
図3には、本発明の実施例1に係る、光源装置を用いた車両用のヘッドライト装置を、その斜視図および断面図により示している。
図1(a)は、本発明の車両用のヘッドライト装置100を搭載した車両1の全体を示しており、
図1(b)は、当該車両のヘッドライト装置部分の拡大図を示している。
図2(a)は、上記ヘッドライト装置100の全体斜視図であり、
図2(b)は、その内部構成を展開した状態で示している。また、
図3は、上記ヘッドライト装置100の側面断面を示している。これらの図からも明らかなように、ヘッドライト装置100は、基本的には、本発明の光源装置である可視光照明ユニット10と、当該照明ユニットからの出射照明光を車両1の前方空間、および車両1が走行する路面上に照射するための光学系である、いわゆる、プロジェクタレンズ50から構成されている。
【0015】
本発明の光源装置である可視光照明ユニット10は、表面上に、後にも述べる1つまたは複数の固体光源である半導体光源素子LED(Light Emitting Diode)やその制御回路等を実装したLED基板11を含んでおり、当該基板の裏面には、LEDからの発熱を周囲の空気に放散するためのヒートシンク12が取り付けられている。なお、本例では、合計15個のLEDが、LED基板11上で、5(横)×3(縦)の格子状に配置されている。更に、LED基板11の発光面側には、以下に述べるコリメータユニット13が取り付けられている。
【0016】
このコリメータユニット13は、
図4にも示すように、板状の枠体の内部に、LED基板11上に搭載された単数または複数のLED111の各々に対応して設けられたコリメータ131(本例では、5(横)×3(縦)=15個)を平面上に並べて配置することにより構成される。
【0017】
なお、コリメータ131の各々は、例えば、ポリカーボネートやシリコン等の透光性と耐熱性を有する樹脂により形成されており、各コリメータ131は、
図5にも示すように、略放物断面を回転して得られる円錐凸形状の外周面132を有すると共に、その頂部には、その中央部に凸部(即ち、凸レンズ面)133を形成した凹部134を有する。また、その平面部の中央部には、外側に突出した凸レンズ面(あるいは、内側に凹んだ凹レンズ面でもよい)135を有している。なお、コリメータ131の円錐形状の外周面を形成する放物面(外周面)132は、LED111から周辺方向に出射する光をその内部で全反射することが可能な角度の範囲内において設定されており、あるいは、その表面には反射面が形成されている。なお、かかるコリメータは、例えば、一般的な成形加工により容易かつ安価に製造することが可能である。
【0018】
他方、LED111は、それを搭載する回路基板であるLED基板11の表面上の所定の位置に取り付けられており、このLED基板11は、
図5からも明らかなように、コリメータ131に対して、各LED111が、それぞれ、対応するコリメータ131の凹部134の中央部に位置するように配置されて固定される。
【0019】
かかる構成によれば、
図5に示すように上述したコリメータ131により、LED11から放射される光のうち、特に、その中央部分から上方(図の右方向)に向かって放射される光は、コリメータ131のLED光が入射する面と出射する面に形成される2つの凸レンズ面133、135により集光されて平行光となる。また、その他の部分から周辺方向に向かって出射される光も、また、コリメータ131の円錐形状の外周面を形成する放物面(外周面)132によって反射され、同様に、集光されて平行光となる。換言すれば、その中央部に凸レンズを構成すると共に、その周辺部に放物面(外周面)132を形成したコリメータ131によれば、LED111により発生した光のほぼ全てを、平行光として取り出すことが可能となる。これにより、発生した光の利用効率を十分に向上することが出来る。
【0020】
図6に示すように可視光照明ユニット10において、コリメータユニット13の表面側には、偏光変換素子14が、そして、更には自由曲面レンズ15が取り付けられる。なお、この例では、偏光変換素子14は、特に、悪天候の場合等において、光源装置からの照明光が路面上で反射することや雨滴/霧により反射することの抑制を目的として、路面に対して垂直な平面内で振動する直線偏光である、p偏光に変換するように構成されている。
【0021】
偏光変換素子14は、上述した
図6にも明らかなように、断面が平行四辺形である柱状(以下、平行四辺形柱)の透光性部材141と、断面が三角形である柱状(以下、三角形柱)の透光性部材142とが組み合わされ、コリメータユニット13からの平行光の光軸に対して直交する面に平行に、複数、アレイ状に配列されて構成されている。更に、これらアレイ状に配列された隣接する透光性部材間の界面には、交互に、偏光ビームスプリッタ(以下、「PBS」と省略する)膜と反射膜が設けられており、また、偏光変換素子14へ入射してPBS膜を透過した光が出射する出射面には、1/2λ位相の波長板143が設けられている。
【0022】
この偏光変換素子14の出射面側には、上述した自由曲面レンズ15が配置されている。この自由曲面レンズ15は、その出射面、または入射面もしくは出射面と入射面の両面を自由曲面で構成したものである。この自由曲面レンズ15によれば、
図6に矢印で示すように、遠方への照明を実現するため、光の分布を中央部が強くなるようにする等、レンズの面形状により光線の出射方向を制御して、所望の光度分布を有した照明光を得ることが出来る。
【0023】
以上にその詳細な構成を述べたヘッドライト装置100によれば、LED111からの出射した光は、コリメータユニット13の働きにより略平行光に変換され、その後、偏光変換素子14により直線偏光(p偏光:紙面に垂直な偏光)に変換される。更に、自由曲面レンズ15により所望の光度分布を形成し、プロジェクタレンズ50により拡大投影されて、車両前方の空間や路面に照射される。即ち、上述した実施例1に係る車両用のヘッドライト装置によれば、LEDの採用により低消費電力でかつ環境保護にも優れ、長寿命であり、低コストで製造可能、かつ、小型でかつモジュール化が容易で、高い光利用効率を備えた車両用ヘッドライト装置が提供される。
【0024】
以上には、本発明のヘッドライト装置とそれに用いられる光源装置の一例について詳細に述べたが、以下には、その変形例を含めた他の実施例について詳細に述べる。
【0025】
(実施例2)
まず、上記でその基本的な構成を述べた車両用のヘッドライト装置100において、更に、映像表示素子である液晶パネル(LCDパネル)20を設けることによれば、当該パネルを構成するLCDパネル(液晶表示素子)20のオン/オフを制御することによって配光を細かく制御することで、対向車線を走行する車や同一車線を走行する車への眩惑を抑制しつつ、遠方の視認性を確保した照明が可能となる。更には、自車両の走行速度や方向などを含めた運転状態を示す情報やその他の車両の運転に関する各種の情報を、照明光を利用して、路上に表示することも可能となる。
【0026】
図7および
図8は、上記のLCDパネル20を、光源装置である可視光照明ユニット10からの照明光の光路上に配置した、より具体的には、可視光照明ユニット10の自由曲面レンズ15とプロジェクタレンズ50との間に配置した構成を示している。また、図中の符号21は、LCDパネル20に電気的に接続されたFPC(Flexible Printed Circuits:フレキシブル配線基板)であり、LCDパネル20は、当該FPC21を介して制御回路(ここでは図示せず)から入力される制御信号によって制御される。
【0027】
なお、LCDパネル20を設けた場合には、外部から入射する太陽光の照射による焼けやその特性の劣化等が考えられる。このことから、その防止対策として、本実施例では、更に、偏光ミラー30を、プロジェクタレンズ50との間に配置している。
【0028】
なお、路面上に情報を投影する場合には、LCDパネル20の画素毎にプロジェクタレンズ50を通して路面に投影される像の距離が異なる為、フォーカス性能の低下が発生することから、路面上に投影される像で発生するデフォーカス量を低減するため、LCDパネルは光軸に対して傾斜して配置することが好ましい。そのため、本実施例では、
図8にも示すように、LCDパネル20は、その出射面が上方に角度θp(例えば、10〜15度)だけ光軸に対して傾斜して配置されている。また
図7、
図8に示すLCDパネル20は光軸に対して傾斜しているが、路面に情報を表示せず通常のヘッドランプとして使用する場合については、LCDパネルを光軸に対して、傾斜させなくてもよい。
【0029】
また、この時、LED111からの出射光は、LCDパネル20を透過する際にその偏光方向が90度回転する。このことから、上述した偏光変換素子14は、
図9(a)にも示すように、可視光照明ユニット10から路面に対して水平な平面で振動する直線偏光(s偏光:紙面に平行な偏光)に変換されるように構成することが望ましい。本実施例において偏光変換素子14は、
図9(b)に示すように、断面が平行四辺形である柱状(以下、平行四辺形柱)の透光性部材141と、断面が三角形である柱状(以下、三角形柱)の透光性部材142とが組み合わされ、コリメータユニット13からの平行光の光軸に対して直交する面に平行に、複数、アレイ状に配列されて構成されている。更に、これらアレイ状に配列された隣接する透光性部材間の界面には、交互に、PBS膜と反射膜が設けられており、また、偏光変換素子14へ入射してPBS膜を反射した光が出射する出射面には、1/2λ位相の波長板143を設けることで、s偏光を照射することが可能となる。
【0030】
他方、偏光ミラー30(
図8を参照)は、光軸に対して、その出射面が下方に45度以上、より好ましくは、60度の角度θoで傾斜して取り付けられている。本実施例では、
図8に示すように角度θoは、60度に設定されている(θo=60°)。なお、この偏光ミラー30の傾斜角度θoは、45度以上にすることにより偏光ミラー30のp偏光透過率を高く保ったまま、外部から入射するs偏光の反射率を高くすることが出来ることによる。更に、偏光ミラー30の出射面を、光軸に対して上方ではなく、下方に傾けることによれば、
図8にも示すように、水平(光軸)方向に対して上方から入射する太陽光に対する偏光ミラーの法線面の角度θsを、より大きく設定することが可能となる。
図10は偏光ミラー30として設計した膜の透過率特性を示している。偏光ミラーにより選択的にs偏光の透過率が低減していることと入射角が大きくなるほどその効果が大きくなっていることがわかる。そのため、偏光ミラー30により太陽光におけるs偏光成分の透過率が低くなり、LCDパネル20へ到達する太陽光の強度が弱められ、LCDパネル20の太陽光による焼けや特性劣化が防止/抑制されることとなる。
【0031】
また、偏光ミラー30は、赤外光に対しては、その透過率が低くなる特性を有していることから、太陽光に含まれて赤外光成分を低減して、より一層、太陽光による焼けや特性劣化を防止することが出来る。また、斜めに配置した偏光ミラー30の板厚tは、コマ収差、非点収差の発生要因ともなることから、当該板厚tは、1.5mm以下、強度の関係から0.6mm以上が好ましい。
【0032】
加えて、上述したようにLCDパネル20を設ける場合には、上記可視光照明ユニット10内において偏光変換素子14の出射面側に設けられる自由曲面レンズ15は、当該LCDパネル20に入射する光の分布がその中央部で強くなるように集光するようにその自由曲面が設定される。これにより、ヘッドライト装置で要求される遠方への照明光の照射を実現することが可能となる。
【0033】
以上に詳細を述べたヘッドライト装置によれば、LED111からの出射光は、コリメータユニット13により略平行光に変換され、偏光変換素子14により紙面に平行なs偏光に変換される。この出射光は、自由曲面レンズ15により、その中央部での光強度が強くなるように集光されてLCDパネル20上に照射され、当該LCDパネル20により各種情報の映像光に光変調されて透過し、偏光ミラー30へ出射される。その際、偏光変換素子14で変換されたs偏光は、当該LCDパネル20によりp偏光に変換されることから、偏光ミラー30に対しては効率良く、具体的には、80%以上の光が透過することとなる。この偏光ミラー30を透過した光は、更に、プロジェクタレンズ50により拡大投影されて、路面上または/および前方に照射される。
【0034】
ここで、上述したLCDパネル20に加えて、更に、上記の
図7や
図8にも示すように、赤外光を照射する赤外線照明ユニット40を設けることも可能である。なお、この赤外線照明ユニット40は、例えば、夜間における車両の外部の状況を検出する赤外線センサ(ここでは図示せず)のための赤外光を照射するものである。図示の例では、ヘッドライト装置は、上記偏光ミラー30を利用することにより、可視光照明ユニット10からの照明光に赤外線照明ユニット40からの赤外光を重畳し、照明光として車両前方の路面に照射する。
【0035】
赤外線照明ユニット40は、
図11に示すように、上記の可視光照明ユニットと同様に、1つまたは複数の固体光源である半導体赤外LED(Light Emitting Diode)41を赤外LEDコリメータユニット42に取り付けて構成される。図示の例では、一例として、複数の(7個)の赤外LED41を、一列に配列し、それぞれが赤外LEDコリメータユニット42を構成する赤外LEDコリメータ421の凹部(上記
図5の符号134を参照)の中央部に位置するように固定された例を示している。なお、ここでは図示されないが、赤外LED41も、上記LED111と同様に、制御回路などを実装した基板上に配置され、かつ、当該基板の裏面には、LEDからの発熱を周囲の空気に放散するためのヒートシンクが取り付けられていることは当業者であれば当然であろう。
【0036】
この赤外線照明ユニット40は、上記
図7や
図8にも明らかなように、上述した偏光ミラー30を利用して配置されており、即ち、一例として、その出射面を光軸に対して所望の角度だけ傾斜して取り付けた偏光ミラー30の光軸より下方に配置されている。これによれば、赤外LED41から出射した赤外光は、偏光ミラー30の表面で反射し、可視光照明ユニット10からの照明光に重畳されて車両前方の路面に照射されることとなる。その際に、太陽光の偏光ミラー30で反射された成分が赤外線照明ユニット40に入射しない設置角度とすることが望ましい。
【0037】
このように、以上に詳述した実施例2によれば、太陽光による劣化を防止しながら配光制御を可能にするLCDパネルと共に、赤外光の照射が可能な赤外線照明ユニットを搭載することにより、その機能性においても更に優れたヘッドライト装置を、上述した実施例1と同様に、低コストで製造可能であり、かつ、小型化やモジュール化を容易にする効果を達成する。
【0038】
(実施例3)
更に、
図12には、上記実施例1の構成に加えて、ヘッドライト装置の内部において、シェード60を設けた構成の例を示す。なお、このシェード60は、車両がすれ違う際に発生する、自動車用灯具からの光線が互いにすれ違うビーム(いわゆる、ロービーム)に対して要求されるヘッドライトカットライン(配光)を形成することを可能にするものである。図にも示すように、このシェード60は、遮光部材により所定の形状に形成した部材によって構成されており、プロジェクタレンズ50の焦点近傍に配置されて固定される。
【0039】
このようなシェード60によれば、上記の可視光照明ユニット10からの照明光の一部を遮断することによりすれ違いビーム(いわゆる、ロービーム)で要求されるカットラインなど照明光の照射パターンを形成することが可能となる。なお、このシェード60は、図示したような固定式の他に、ここでは図示しないが、例えば、電動モータ等の回転機構を設けることによってその位置を移動可能とし、走行ビーム(いわゆる、ハイビーム)と共用させることも可能である。
【0040】
以上のように、実施例3によれば、更にその機能性に優れたヘッドライト装置を、低コストで製造が可能であり、ヘッドライト装置を小型化し、かつ、モジュール化を容易にすることが可能となる。
【0041】
(実施例4)
更に、
図13には、上記実施例1の構成の変形として、LCDパネル20に対して、光源装置である可視光照明ユニット10が小さい場合の構成例を示す。
LCDパネル20に対して可視光照明ユニット10が小さい場合には、自由曲面レンズ15により、偏光変換素子14から照射される略平行光を、LCDパネル20のサイズに合わせて絞り込む必要がある。
図13において、自由曲面レンズ15は、入射面と出射面をそれぞれ凸形状とすると共に、偏光変換素子とLCDパネル20の距離を長くとることで、絞り込みを実現している。また、小さなLCDパネル20からの光を、プロジェクタレンズ50を介して、広い配光角で光を放射するために、プロジェクタレンズ50の焦点距離を短くし、LCDパネル20とプロジェクタレンズ50の距離を短くしている。
【0042】
以上のように、実施例4によれば、より小さなLEDパネルを使用することで機能性に優れたヘッドライト装置を、低コストで製造が可能であり、ヘッドライト装置を小型化し、かつ、モジュール化を容易にすることが可能となる。
【0043】
以上に詳述した本発明に係る車両用のヘッドライト装置によれば、高い光利用効率を備え、低消費電力で、環境保護にも優れ、かつ、長寿命な車両用ヘッドライト装置を実現することが可能となる。
【0044】
以上では、本発明の種々の実施例に係る車両用のヘッドライト装置について述べた。しかしながら、本発明は、上述した実施例のみに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するためにシステム全体を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
100…ヘッドライト装置、10…可視光照明ユニット、11…LED基板、111…LED、12…ヒートシンク、13…コリメータユニット、131…コリメータ、132…外周面、133…凸部(凸レンズ面)、134…凹部、135…凸レンズ面、14…偏光変換素子、143…1/2λ位相の波長板、15…自由曲面レンズ、20…液晶パネル(LCDパネル)、30…偏光ミラー、40…赤外線照明ユニット、41…赤外LED、42…赤外LEDコリメータユニット、50…プロジェクタレンズ。