特許第6742487号(P6742487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6742487-エルデカルシトール含有医薬組成物 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6742487
(24)【登録日】2020年7月30日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】エルデカルシトール含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/593 20060101AFI20200806BHJP
   A61P 5/18 20060101ALI20200806BHJP
   A61P 3/14 20060101ALI20200806BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20200806BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200806BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20200806BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20200806BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20200806BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   A61K31/593
   A61P5/18
   A61P3/14
   A61P3/02 102
   A61P43/00 107
   A61P19/00
   A61P19/10
   A61K9/48
   A61K47/14
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-147002(P2019-147002)
(22)【出願日】2019年8月9日
【審査請求日】2019年8月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592073695
【氏名又は名称】日医工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】熊田 俊吾
(72)【発明者】
【氏名】村田 友昭
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 豪克
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/074943(WO,A1)
【文献】 国際公開第2001/015702(WO,A1)
【文献】 特開2019−014676(JP,A)
【文献】 「エディロールカプセル0.5μg・0.75μg」添付文書(第8版),2019/4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルデカルシトールと、前記エルデカルシトールの製剤化及び安定化のための油脂とを含有し、
前記油脂は中鎖脂肪酸油(MCT:Medium Chain Triglyceride)であり、
前記MCTは遊離脂肪酸等の不純物を除去する精製工程を経たH−NMR測定にて7.4〜8.2ppmの範囲に不純物のピークを示さない精製MCTであり、
抗酸化剤を実質的に含まない(前記MCTに対して0.0001質量%未満)、医薬組成物。
【請求項2】
ソフトカプセル剤である、請求項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分エルデカルシトールの安定性が改善された医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エルデカルシトール[(5Z,7E)−(1R,2R,3R)−2−(3−ヒドロキシプロポキシ)−9,10−セココレスタ−5,7,10(19)−トリエン−1,3,25−トリオール]は下記構造式(1)で示される化合物であり、ビタミンD誘導体である。
エルデカルシトールを含む製剤は、カルシウム代謝調節作用、骨代謝調節作用、副甲状腺ホルモン分泌抑制作用及び細胞分化誘導作用など多様な生理作用を有しており、骨粗鬆症治療剤として知られている。
【化1】
【0003】
前記有効成分を含む製剤として、日本では「エディロールカプセル0.5μg」及び「エディロールカプセル0.75μg」(エディロールは登録商標)が発売されている。(非特許文献1)
【0004】
エルデカルシトールはビタミンD誘導体であり、特許文献1,2には、このエルデカルシトールの製剤化に当たり、油脂を基剤に用い抗酸化剤を添加することで、この有効成分がタキステロール体、トランス体に分解するのを抑えたことが記載されている。
同公報は基剤にMCTを用い、抗酸化剤の添加有無による類縁物質の発生率を比較した結果が示されている。
しかし、同公報に開示する発明はMCTを単に基剤として用いたものであって、エルデカルシトールの安定化のためにMCTを検討したものではない。
特許文献3には、水溶性の基剤を用いた場合にエルデカルシトールの安定性確保には、抗酸化剤の添加が不可欠である旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4921794号公報
【特許文献2】特許第5529104号公報
【特許文献3】特開2019−14676号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】骨粗鬆症治療薬(活性型ビタミンD3製剤),医薬品インタビューフォーム,2014年10月改訂(第8版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MCTは炭素数8〜10個程度の中鎖脂肪酸で構成される油脂の総称であり、炭素数8のカプリル酸、炭素数10のカプリン酸が主な構成脂肪酸であり、中には炭素数12のラウリン酸が構成脂肪酸となるものがあるが、それらのトリグリセリドである。
本発明者は、抗酸化剤を用いずにエルデカルシトールの安定性向上を試みたところ、抗酸化剤を添加しなくとも安定性を確保できる手法を見出した。
従って、本発明は抗酸化剤を用いずに安定性を確保したエルデカルシトール含有医薬組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る医薬組成物は、エルデカルシトールと、前記エルデカルシトールの製剤化及び安定化のための油脂とを含有し、前記油脂は中鎖脂肪酸油(MCT:Medium Chain Triglyceride)であることを特徴とする。
エルデカルシトールは製剤化するに当たり、製剤単位における含有量が0.5μg,0.75μg等少なく、プレ体や類縁物質の生成を抑える必要がある。
しかし、薄い濃度の有効成分に対して、抗酸化剤を均一に作用されるのは困難であり、抗酸化剤等の添加物を用いることなく、製剤化に用いる基剤のみでエルデカルシトールの安定化が可能になれば、製剤品質が安定する。
エルデカルシトールの含有量は、MCTに対して0.0001〜0.01質量%レベルである。
【0009】
本発明に係る医薬組成物は、抗酸化剤を実質的に含まない点に特徴がある。
ここで、抗酸化剤を実質的に含まないとは、積極的に添加調整したものではないことをいい、本医薬組成物にあっては基剤に対して、0.0001質量%未満である。
【0010】
また、本発明に用いるMCTは、遊離脂肪酸を除去する精製工程を経た精製MCTが好ましい。
精製MCTとは、精製度を測定したとき、不純物が除去されていることを確認できるものであり、測定方法としては、固体NMR測定装置やHPLCなどがある。
本発明に係る医薬組成物はカプセル剤であってもよく、例えばソフトカプセル剤が好ましい。
ソフトカプセル剤は、軟カプセル剤とも称され、ゼラチン等に可塑剤を加えた皮膜にて薬物を溶解した油脂を封入したものである。
皮膜には必要に応じて、遮光剤が配合されていてもよい。
例えば、黄色5号,カルミン,酸化チタン等を含有させると、光安定性が向上する。
また、本発明に係る医薬組成物を小型カプセル化し、それらを用いて、錠剤や顆粒製剤としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る医薬組成物は、抗酸化剤を添加しなくとも有効成分エルデカルシトールの安定性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1H−NMR測定チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。
【0014】
本実施形態における有効成分は、エルデカルシトールであり、(5Z,7E)−(1R,2R,3R)−2−(3−ヒドロキシプロポキシ)−9,10−セココレスタ−5,7,10(19)−トリエン−1,3,25−トリオールの化学名を有する上記に示した構造式(1)の化合物である。
【0015】
特許文献1,2には、抗酸化剤を添加しないと特定の類縁物質の生成を抑えることができない旨の記載があるものの、プレ体の生成については充分に検討されていない。
そこで本発明者らは、基剤にMCTを用いて抗酸化剤の相違によるエルデカルシトールに対する安定性を比較評価したので、以下説明する。
【0016】
<試験1>
エルデカルシトール:MCTを1:10000の質量比率で混合したものと、表2に示した抗酸化剤を用いて、エルデカルシトール:MCT:抗酸化剤を1:10000:1の質量比率で混合したサンプルを製作し、評価した。
【0017】
上記のサンプルについて、40℃・密栓で3箇月保存して液体クロマトグラフィーで類縁物質量の測定をおこなった。
表2中に示したプレ体は化学名,6Z−(1R,2R,3R)−2−(3ヒドロキシプロポキシ)−9,10−セココレスタ−5(10),6,8(9)−トリエン−1,3,25−トリオールである。
液体クロマトグラフィーの試験条件は、以下に従うものとする。
【表1】
【0018】
その試験結果を下記の表2に示す。
【表2】
【0019】
上記表2に示した試験結果から、次のことが明らかになった。
MCTを基剤に用いて、有効成分エルデカルシトールを1/10000レベルの割合で混合した場合には、抗酸化剤の種類を変えても、殆どその効果が認められなかった。
【0020】
上記試験結果から、MCTを基剤に用いたことによる特有の効果なのか否かを調査すべく、基剤の種類を変えて、再度、試験を実施した。
【0021】
<試験2>
エルデカルシトール、表4に示した各種基剤を1:10000の比率で混合してサンプルを調製した。
【0022】
上記のサンプルについて、40℃・密栓で29日保存して液体クロマトグラフィーで類縁物質量の測定をおこなった。
液体クロマトグラフィーの試験条件は、以下に従うものとする。
【表3】
【0023】
その試験結果を下記の表4に示す。
【表4】
【0024】
上記表4に示した試験結果から、次のことが明らかになった。
試験1は、有効成分エルデカルシトールの安定性に基剤の影響を受けなかったのではなく、基剤にMCTを用いた特有の効果であり、MCTにはエルデカルシトールの安定性に効果があることが見出された。
【0025】
さらに、抗酸化剤の添加量による安定性への影響を確認するため、エルデカルシトールとMCTあるいはPEGに対してトコフェロールの添加量を変動させた際の安定性を比較評価したので、以下説明する。
【0026】
<試験3>
エルデカルシトール:基剤(MCTあるいはPEG):トコフェロールを1:10000:0〜10の比率で混合してサンプルを調製した。
【0027】
上記のサンプルについて、40℃・密栓で1箇月保存して液体クロマトグラフィーで類縁物質量の測定をおこなった。
液体クロマトグラフィーの試験条件は、以下に従うものとする。
【表5】
【0028】
【表6】
【0029】
上記表6に示した試験結果から、次のことが明らかになった。
MCTではトコフェロールの添加量が安定性に影響しなかったが、PEGにおいてはトコフェロールの添加により安定性が改善する効果が認められた。
【0030】
抗酸化剤の添加の有無による安定性への影響について、製剤においても同様の結果が得られるかについて比較評価したので、以下説明する。
【0031】
<試験4>
下記表7の処方に従い、エルデカルシトールをエタノールに溶解し、MCTに混合し充填液とした。
比較のためにトコフェロールを添加したものも作成した。
また、カプセル剤皮成分を精製水に分散溶解させてゼラチン液とした。充てん液とゼラチン液をシームレスカプセル充てん機により、循環液中(中鎖脂肪酸トリグリセリド)に滴下し、乾燥させて軟カプセルを作製した。
【表7】
【0032】
上記のサンプルについて、40℃・75%・気密容器で3箇月保管して液体クロマトグラフィーで含量の測定をおこなった。残存率を表9に記載する。
液体クロマトグラフィーの試験条件は、以下に従うものとする。
【表8】
【0033】
【表9】
【0034】
上記表9に示した試験結果から、製剤においても抗酸化剤を添加していなくても安定性への影響は認められなかった。
【0035】
上記のような結果は、特許文献1,2に記載されているMCTを基剤に用いた抗酸化剤の有無による比較試験結果と異なる。
特許文献1,2に用いられたMCTが、どのようなものか明らかでないので、試験1,2に用いたMCT<市販品A>の他に<市販品B>のMCT及び精製MCT(7.4〜8.2ppm付近に不純物のピークを認めないことを特徴とする精製MCT)を用いて比較試験を行った。
【0036】
上記の試験に用いた各MCTについて、以下の条件に従いH−NMR測定を実施した。市販品A及び市販品Bは、7.4〜8.2ppm付近の不純物のピークを確認している(図1)。
NMR測定条件:
本品を核磁気共鳴スペクトル測定用重水素化クロロホルムに溶かした液につき、核磁気共鳴スペクトル測定用テトラメチルシランを内部基準物質としてHを測定(500MHz)。
【0037】
<試験5>
エルデカルシトール:表11中のMCTを1:10000の比率で混合してサンプルを調製した。
【0038】
上記のサンプルについて、60℃・密栓で21日保存して液体クロマトグラフィーで類縁物質量の測定をおこなった。
液体クロマトグラフィーの試験条件は、以下に従うものとする。
【表10】
【0039】
【表11】
【0040】
上記表11に示した試験結果から、次のことが明らかになった。
MCTの精製の有無によって安定性への影響に差があることが確認され、特にMCT中に含まれる微量の不純物質の混入がエルデカルシトールの安定性へ影響をもたらすことが判明した。
【要約】
【課題】本発明は抗酸化剤の添加が不要で、エルデカルシトールの製剤化に用いる基剤のみにて安定性を確保したエルデカルシトール含有医薬組成物の提供を目的とする。
【解決手段】エルデカルシトールと、前記エルデカルシトールの製剤化及び安定化のための油脂とを含有し、前記油脂は中鎖脂肪酸油(MCT:Medium Chain Triglyceride)であることを特徴とする。
【選択図】 図1
図1