(54)【発明の名称】対象物体の将来状態を計算により予測する方法の性能を向上するための方法、運転者支援システム、そのような運転者支援システムを備える車両、並びに対応するプログラムの記憶媒体及びプログラム
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
−前記予測結果は、将来の状態として、自車両の運転者により実行されると予想される、又は運転者支援システムにより制御されると予想される、自車両の挙動を表現するものであり、
−前記実際の状態は、運転者により実行される動作である、
ことを特徴とする、請求項1ないし11のいずれか一項に記載の方法。
コンピュータ上で実行されたときに又はコンピュータ上にロードされたときに、当該コンピュータにデータを記録し再生する方法を実行させることとなるコンピュータ読み取り可能なプログラムを保存する、プログラム記憶媒体であって、前記プログラムは、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の前記データを記録し再生する方法のステップで構成される、プログラム記憶媒体。
コンピュータ上で実行されたときに又はコンピュータ上にロードされたときに、当該コンピュータにデータを記録し再生する方法を実行させることとなるプログラムであって、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の前記データを記録し再生する方法のステップで構成される、プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本システム及び方法の態様及び好ましい実施形態について詳細に説明する前に、本方法についての説明が、コンテキストベース予測ステップと物理的予測ステップを用いる2段階予測アルゴリズムを用いた対象物体についての移動挙動予測に基づいて行われる点に留意されたい。ただし、本方法は、単一の予測ステップのみを用いる予測についても用いることができる。さらに、以下に示す説明において、将来状態とは、挙動の種類、車両位置、及び車両制御動作をいう。ただし、もちろん、予測され及び又は観測され得る他の将来状態も、本発明の対象となり得る。さらに他の例として、速度も使用され得る。また、以下の説明は、車両運転を少なくとも部分的に自動制御する先進運転者支援システム(advanced driver assistance system)において本発明を用いることに関するものであることにも留意されたい。ただし、もちろん、本発明をそのような先進運転者支援システムにおいて実施することが必要であるということではない。
【0024】
図1は、先進運転者支援システム1の概観図である。本システムは、少なくとも一つの対象物体(車両)についての、推定される将来状態の一例である将来移動挙動を予測するのに用いられる予測システム2を備え、及びグローバルシーンコンテキスト(GSC、global scene context)ユニット3を含む。
図1に示すように、ホスト車両の交通環境に関する(又は、当該環境を表現する)データ10が、一つ又は複数のセンサ6.1、6.2、6.3、...から取得される。センサ6.1、6.2、...は、異なるタイプのセンサ又は同じタイプのセンサとすることができ、特に、ホスト車両の走行方向前方を観測できるように当該ホスト車両に搭載され得る。センサ6.1、6.2、6.3、...は、ホスト車両を含む複数の交通参加者間の互いの関係を特定できるように、相対的な速度、位置、又はその他の変数を測定するよう構成される。
【0025】
交通環境に関するデータ10は、車車間(car-to-car)又は路車間(car-to-infrastructure)の通信手段7、無線交通サービス受信機8、カーナビゲーション手段9、GNSS受信機5などの情報ソースから取得したり、又はその他の、ホスト車両の交通環境の個々の情報要素(information elements)に関する外部の又は内部の(車載の)情報ソースとのインターフェースから取得するものとすることもできる。
【0026】
交通環境を表現する取得されたデータ10は、予測システムユニット2へ出力される。予測システムユニット2は、予測結果15を車両アクチュエーション手段17へ出力する。これにより、当該予測結果15に基づいて、ステアリング、ブレーキ、又はスロットルなどのホスト車両の制御器が、直接的に作動されるか、又は
図1においては不図示の制御ユニットを用いて作動されることとなる。通常、予測結果15に基づいて生成されるアクチュエーション信号(作動信号)は、スロットル制御及び又はブレーキ制御に用いられる。さらに、これに加えて又はこれに代えて、予測結果15は、運転者警告手段16(例えば、最も単純な例としては信号ランプ)から運転者警告を出力させる。
【0027】
ホスト車両の交通環境を表現するデータ10が予測システムユニット2に出力されるほか、交通環境を表現するデータ10は、グローバルシーンコンテキスト評価ユニット(GSC評価ユニット)11にも出力され得る。GSC評価ユニット11は、そのデータを処理し、交通環境を表現するデータ10に基づいてグローバルシーンコンテキスト情報(GSC情報)12を生成する。
【0028】
GSC評価ユニット11は、グローバルシーンコンテキストを特定するべく、交通環境を表現する入力データ10の個々の要素を分析する。例えば、GSC評価ユニット11は、センサ6.1、6.2、...により認識された全ての交通参加者の速度を分析して、車両についてのグローバルな速度制限を特定すべきか否かを判断する。
【0029】
GSC情報12は、モジュレーション信号コンバータユニット(GSCコンバータユニット)13に出力される。ユニット13は、これを処理し、予測システムユニット2のための予測適合情報14を生成する。
【0030】
コンバータユニット13は、GSC評価ユニット11から受信した推定されたGSC情報12から、予測をどのように修正するかについての具体的な情報を導出するよう構成されている。コンバータユニット13による出力は、例えば、予測システムユニット2における挙動予測ステップの結果を直接的に修正するためのパラメータを含み得る。
【0031】
予測システムユニット2は、交通環境に関する取得されたデータ10に基づいて直接指標を算出する直接指標算出ユニットを備える。交通環境を表現するデータ10は、位置、速度、...に関する情報を含み、コンテキストベース予測のための間接指標を算出するための間接指標算出ユニット(詳細は後述する)へ更に出力される。これらの間接指標は、間接指標算出ユニット内においてセンサ6.1、6.2、6.3の信号から算出された、従来技術に従い算出された間接指標を含み得る。指標の算出と交通物体についての挙動予測の実行とに関する情報については、以下において詳述する。
【0032】
図3内の拡大詳細図において図示するように、直接指標は物理的予測ユニット24に提供され、間接指標は(及び、場合により直接指標も付加的に)予測システムユニット2のコンテキストベース予測ユニット23に提供される。コンテキストベース予測算出の結果は、その後、例えば検証のためや尤度チェックのため、物理的予測算出ユニット24へ出力される。最後に、予測システムユニット2により予測結果15が出力され、これにより、例えば運転者警告の通知が、対応する運転者警告ユニット16において実行されることとなる。予測結果15は、コンテキストベース予測結果、物理的予測結果、又はその両者、で構成され得る点に留意されたい。さらに、これに加えて又はこれに代えて、車両アクチュエーションユニット17に信号が出力され。当該車両アクチュエーションユニット17は、当該信号に基づき直接的に、又は予測システムユニット2が出力した信号を入力として受信する制御ユニットにより、作動され得る。通常は、当該出力信号を用いて、スロットル制御及び又はブレーキ制御が行われる。
【0033】
以下において詳述するように、本発明は、特に(ただし、これに限定することなく)、運転者支援システム1の性能を向上し得る。これまで説明したようなシステムは、予測精度の点で本来的に限界がある。予測結果が実際の交通状況の展開により良く一致するように本システムを向上させるため、本システムは、さらに、観測状態メモリ(図示の実施形態では、観測された挙動を保存するメモリ18)、及び又は運転者動作観測手段19、及びシステム評価器20を備える。以下に詳述するように、メモリ18を用いて、交通状況の実際の展開が予測結果と整合(一致)するか否かに関して分析され得るように、例えば位置データなどの取得されたデータが保存される。これは、システム評価器20により実行される。すなわち、システム評価器20では、予測結果と交通状況の実際の展開との一致が分析されて、予測の品質が評価される。
【0034】
これに代えて、例えば運転者がスロットル(アクセル)を踏んだか否かといった運転者動作を観測するものとしてもよい。これにより、そのような運転者の挙動が予測結果に対応するものか否か、又は当該運転者挙動が、予測結果に基づいて運転者支援システム1により提案され又は制御された動作に反するものであるか否かが、判断される。
【0035】
予測結果に関連して、対象車両の実際の状態(例えば、対象車両の挙動)や自車両の実際の状態を分析することにより、運転者支援システムは、自身の性能に関して最適される。すなわち、予測精度が向上する。実際の状態としての運転者動作を、予測結果に基づいて提案され又は実行された動作と比較することにより、システム性能が、個々の運転者の要望を考慮しつつ改善される。以下においてこれら2つの態様について詳細に説明するが、それらの詳細な説明を行う前に、まず、好ましい予測アルゴリズム及び本発明についての理解のため、関連語句の簡単な定義を示した後、コンテキストベース予測と物理的予測とについて説明する。
【0036】
〔定義〕
ホスト車両: ホスト車両とは、交通状況の中に存在する車両であって、本発明に従う運転者支援システムを備え、且つ、センサと、他の交通車両の可能性のある将来挙動の計算を可能とするコンピューティングシステムと、を備えた車両である。
【0037】
センサ: センサは、或る時点における交通シーンを表現するための適切な情報を出力することのできる何らかの手段であり得る。そのようなセンサは、カメラ、レーダ、ライダ(lidar)等であり得る。
対象物体(対象車両):対象物体又は対象車両とは、少なくとも一つのセンサを用いて情報を生成することにより観測される、将来挙動の推測対象である物体又は車両である。
【0038】
x
it: 時刻tにおける対象物体iであり、
【数1】
で表わされる。ここで、
【数2】
は、それぞれ、時刻tにおける物体iの横方向位置と縦方向(長さ方向)位置、
【数3】
は、それぞれ、時刻tにおける物体iの横方向速度と縦方向(長さ方向)速度、
【数4】
は、それぞれ、時刻tにおける物体iの横方向加速度と縦方向(長さ方向)加速度、である。
【0039】
S
t: 時刻tにおけるシーン(「状況」又は「場面」ともいう)を表し、当該シーンには、時刻tにおいて認知されている全ての交通物体(traffic object)と道路環境(レーン、レーンマーキング、交通標識、交通信号灯、など)が含まれる。
B={b}: 交通物体(“参加者(participant)”)が行う挙動の集合(セット)である。以下では、交通参加者x
itが時刻tで行う挙動を、b
it∈Bを用いて表わす。
【0040】
〔指標〕
次の指標I
【数5】
を、次式に示す関数の集合として定義する。
【数6】
【0041】
ここで、v
jt は、時刻tにおける対象車両の将来又は実行中の挙動についての情報を運ぶ測定可能な変数であり、c
jt は、変数v
jtの正しさについての信頼度である。信頼度c
jtは、S
tの全ての要素のセンサ信頼度(sensor confidence)を結合して得られ、v
jt の計算に際して評価される。ここで、センサ信頼度とは、検出された情報の信頼性を表わす数値である。一般性を失うことなく、指標は、v
jt∈[0,1]となるように定義することができる。すなわち、v
jt の値は、例えばフェルミ関数を用いることにより、0と1の間に正規化される。そのような正規化は、後述するように、指標を組み合わせる際に有用となる。
【0042】
直接指標と間接指標とを区別して説明する。
【0043】
〔直接指標 I
D⊂I〕
直接指標は、検出対象とすべき挙動が開始されたときに、かつ、その時にのみ、観測することのできる変数を提供する。例えば、レーン変更を予測する場合の直接指標は、横方向速度、レーンに対する横方向相対位置、レーンに対する相対的な方向変化、又は、他の交通参加者に対する相対的な方向変化である。
【0044】
このような方向は常に観測が可能であるが、方向変化は車両がレーンを変更しつつあるときに観測される。レーン変更を行う場合、車両はヨー軸の周りで回転するためである。横方向速度は、時間と共に変化する横方向の位置の変化であるので、位置の変化が検出される。
【0045】
〔間接指標 I
I⊂I〕
間接指標は、予測された挙動が開始される前に観測が可能となっている変数を提供する。間接指標は、次式に示すように、直接指標の集合以外の、他の全ての可能な指標の集合として定義される。
【数7】
【0046】
間接指標には、以下に示す2つのタイプがある。
【0047】
1.第1のタイプは、少なくとも一つの交通参加者と一つ又は複数の他の交通参加者又は静的なシーン要素(static scene elements)との間の関係についての情報に関するものである。
例えば、以下に示す指標の少なくとも一つを用いることができる:
【0048】
≪左ギャップ適合(fitting-left-gap)≫
【数8】
は、x
itの位置、速度、及び長さに適合するギャップ空間が、左レーンで利用可能となっているか又は間もなく利用可能となるときに、値
【数9】
を出力する。
【0049】
ここで、x
itの左隣のレーンにおけるx
itの先行物体をx
lptで表わし、x
itの左隣のレーンにおけるx
itの後続物体をx
lstで表わすものとする。ギャップは、前方位置、後方位置、前方速度、及び後方速度により定まる。前方位置と前方速度は、x
lptの位置及び速度に等しく、後方速度はx
lstの速度に等しい。後方位置は、x
lstの位置に、x
lstの長さと、速度に応じた安全マージンと、を加算した位置である。
【数10】
である場合、すなわち、x
itの左側に先行物体がない場合、前方位置と前方速度は、無限大に設定される。また、
【数11】
の場合、すなわち、x
itの左側に後続物体がない場合、後方位置と後方速度は、ゼロに設定される。
【0050】
車両x
itに対するギャップgの適合性は、以下の複数の要因により定まる:
・x
itの長さと、そのギャップの大きさとの比
・そのギャップの前方境界に対するx
itの縦方向TTC(接触余裕時間、Time To Contact)。このTTCは、x
itとx
lptとの間の縦方向TTCとして定義され、次式で与えられる。
【数12】
・そのギャップの後方境界との、x
itの縦方向TTC
・そのギャップが利用可能となる時刻(いわゆる“ギャップ実現時刻”(Time To Gap、TTG)。x
itがギャップgより後ろに位置する場合、TTGは、そのギャップの後方境界までの縦方向TTCに等しい。x
itがギャップgより前に位置する場合、TTGは、そのギャップの前方境界までの縦方向TTCに等しい。そのギャップが現在存在している場合、TTGはゼロである。
【0051】
≪右ギャップ適合(fitting-right-gap)≫
上記と同様に、
【数13】
は、x
itの右隣のレーンにおいて調整用ギャップ(fitting gap)が利用可能であるときに、値
【数14】
を出力する。
このギャップは、右側レーンにおける先行物体x
rptと後続物体x
rstとにより定まる。
【0052】
≪先行物体接近(approaching-predecessor)≫
この指標
【数15】
は、x
itが自身の走行するレーン上において近くの先行物体に近づくと、値
【数16】
を出力する。
これは、x
itと先行物体との間の縦方向TTCから導出される。
【0053】
≪左レーン適合(fitting-left-lane)≫
【数17】
は、x
itの左レーンがx
itの走行に適しているときに、値
【数18】
を出力する。これは、x
itと左レーン上の先行物体との間のTTCにより、及び又はx
itの現在の速度を、左レーン上の平均速度と比較することにより、算出される。
【0054】
≪現在レーン適合(fitting-current-lane)≫
【数19】
は、x
itの現在のレーンがx
itの走行に適しているときに、値
【数20】
を出力する。これは、x
itとその先行物体との間のTTCにより、及び又はx
itの現在の速度を、x
itのレーン上での平均速度と比較することにより、算出される。
【0055】
≪右レーン適合(fitting-right-lane)≫
【数21】
は、x
itの右側のレーンがx
itの走行に適しているときに、値
【数22】
を出力する。これは、x
itと右側レーン上の先行物体との間のTTCにより、及び又はx
itの現在の速度を、右側レーン上の平均速度と比較することにより、算出される。
【0056】
≪テールゲーティング(tailgating)≫
この指標
【数23】
は、x
itが自身の走行するレーン上の先行物体にテールゲートしている(ぴったり付いて走っている)ときに、値
【数24】
を出力する。
この値は、x
itと先行物体との間の縦方向距離を、速度に応じた安全距離で除算して得られる比により算出される。
【0057】
≪ギャップへの退避(evade-to-gap)≫
この指標
【数25】
は、x
itが自身の走行するレーン上の先行物体に接近しつつあり、かつ、調整用ギャップが現在使用可能であるか又は先行物体との衝突前に使用可能となる場合に、値
【数26】
を出力する。
この値は、指標
【数27】
と、指標
【数28】
と、を組み合わせて、縦方向TTCとTTGとの差により算出される。ここで、(・)は、任意の引数用のプレースホルダーである。
【0058】
≪ギャップ調整加速(accelerate-to-gap)≫
この指標
【数29】
は、x
itが加速(又は減速)しており、かつ、ギャップの位置又は速度(すなわち、左隣又は右隣のレーン上にいる先行物体及び後続物体がそれら物体の速度で移動することにより、ギャップが移動している場合)に対しより良好に適合するようにするためその加速が必要である場合に、値
【数30】
を生成する。
この値は、ギャップの加速とx
itの加速とを考慮しつつ、かつ上述の指標により与えられる結果を統合してTTCを計算することにより求められる。
【0059】
≪TTC無配慮加速(accelerate-despite-ttc)≫
この指標
【数31】
は、x
itが先行物体より速く加速しており、かつ、この2者間のTTCが少ないときに、値
【数32】
を生成する。
【0060】
≪後続物体接近(successor-approaching)≫
この指標
【数33】
は、x
itの走行するレーン上にいる近くの後続物体がx
itに接近しているときに、値
【数34】
を生成する。これは、x
itの後続物体とx
itとの間の縦方向TTCから導出される。
【0061】
≪空レーン(free-lane)≫
この指標
【数35】
は、x
itの前方のレーンが空である場合、すなわち、センサの検知可能範囲内に先行物体が存在しない場合に、値
【数36】
を出力する。
【0062】
≪レーン退避による追越容認(free-lane-and-let-overtake)≫
この指標
【数37】
は、以下の場合に、値
【数38】
を出力する。
【0063】
・x
itの先行物体が存在しないとき。当該先行物体が存在するか否かは、
【数39】
により示される。
・隣接するレーン上にギャップが存在するとき。当該ギャップが存在するか否かは、
【数40】
により示される。
・x
itの走行レーン上に非常に高速の後続物体x
stが存在し、x
itはgへ抜け出すことができ、x
stは追い越すことができる状況であって、x
itは速度をgに合わせることなく元のレーンへ戻ることができるとき。この状況は、x
itとgとの間の縦方向TTCと、x
st及びx
stの後続物体で形成されるギャップとx
itとの間のTTGと、を比較することにより判断される。
【0064】
≪交通標識(traffic-signs)≫
この指標グループは、交通標識を守るためにx
itが自身の挙動を適応させなければならないときに、値
【数41】
を与える。
たとえば、「速度標識」指標や「速度制限」指標は、x
itがその速度標識が示す速度より高速で走行しているときに、大きな値(high value)を出力する。「追い越し禁止」指標は、x
itが左レーン(高速レーン)上を走行し、かつ、追い越し禁止標識の適用対象であるときに、大きな値を出力する。
【0065】
≪レーンマーク(lane markings)≫
この指標グループは、レーンマークを守るためにx
itが自身の挙動を適応させなければならない場合に、値
【数42】
を出力する。
例えば、「道路終端」指標は、x
itが、まもなく終端するレーンを走行しているときに、大きな値を出力するものとすることができる。あるいは、「破線」指標は、x
itがレーン変更が許されていないレーンを走行しているときに、小さな値を出力するものとすることができる。
【0066】
≪上記指標の組み合わせ≫
上述した指標を組み合わせて新しい指標を構成することができる。
例えば、指標
【数43】
と、指標
【数44】
とを組み合わせて、ギャップが使用可能であり、かつ、x
itがx
ptに近付きつつあるときに、大きな値を出力する指標を作成することができる。組み合わせは、一方の指標の大きな値が他方の指標の中間値を補うような方法で行う。このような組み合わせは、次のような2つの値の重み付け加算により実現することができる。
【数45】
であって
【数46】
【0067】
2.間接指標の第2のタイプは、その挙動を予測すべき交通参加者により能動的に伝えられる運転者の意思に関する情報を伝えるものである。
このタイプの指標として、例えば以下の指標がある。
【0068】
≪方向指示灯(turning-signal)≫
この指標は、対象車両の方向指示灯が動作しているときに大きな値を出力する。
≪ブレーキ灯(breaking-light)≫
この指標は、対象車両のブレーキ灯が動作しているときに大きな値を出力する。
≪車車間通信(car-to-car-communication)≫
この指標グループは、通信により取得される送信車両の速度又は方向の変化に反応することができる。
【0069】
上述した指標の代わりに、[0,1]の範囲に正規化されていない指標を用いることもできる。特に、指標が存在するか否かを示すための閾値を定義することもできる。すなわち、閾値を超えていれば、その指標は存在するとみなされる。
【0070】
〔物理的予測〕
物理的予測では、測定された位置を、状況モデルにおける軌跡と比較する。物理的予測では、動きの発生に関し、実際に生じる可能性のある軌跡の集合を決定する。また、この予測においては、コンテキストベース予測/振る舞い認知が誤りを生じた時点を示すこともできる(自己検証)
【0071】
物理的予測では、予測器
【数47】
の集合を用いる。
【0072】
交通参加者iの、直近のT+1個の状態の履歴を、
【数48】
で表わす。
【0073】
ここで、μ(p
z, a)=p
x を、パラメトリック軌跡モデル(parametric trajectory model)とし、当該モデルは、縦方向位置p
zとパラメータ集合aが与えられると、横方向位置p
xを返すものとする。
【0074】
また、A
b={a} を、振る舞いbについての異なる軌跡をカバーする、μについてのパラメータの集合とする。
【0075】
物理的予測器である
【数49】
の仕事は、状態履歴X
itと現在の状態S
tが与えられた時に、x
itが振る舞いbを行って時刻t+Δtにおいて位置
【数50】
に存在する尤もらしさ(尤度、likelihood)を求めることである。この尤度は、次式で求められる。
【数51】
【0076】
式(9)において、ν
b(・)は、いわゆる検証関数(validator function)である。x
itが時刻t+Δtにおいて位置
【数52】
に存在しないことを示す証拠がないときに、ν
b(・) が
【数53】
を返すことは、重要な性質である。ν
b(・)は、x
itが上記の位置に存在しないことを示す証拠がある場合に限り、1より小さい値を返す。その結果、物理的予測器φ
b(・)は、x
itが振る舞いb
it+ΔTを実行するか否かを予測するコンテキストベース予測に依拠して、空間を制限する、すなわち、x
itによるその振る舞いの仕方(態様)を絞り込むのである。
【0077】
検証関数は、次式により証拠を検証する
【数54】
【0078】
λ
p(p
x, p
z, a) は、パラメータaによりモデル化された軌跡の上に位置(p
x, p
z)が存在する尤度を算出する。この計算は、次式のように行われる。
【数55】
【0079】
λ
h(X
it, a) は、パラメータaによりモデル化された軌跡から履歴X
itが発生したとする尤度を算出する。この計算は、次式により行われる。
【数56】
【0080】
λ
s(S
t, a)は、パラメータaによりモデル化された軌跡が現在の状況に合致する尤度を算出する。この算出は、交通参加者が、他の交通参加者の振る舞いに依存する特定の振る舞いをどのように行うか、に関する統計に基づいて行われる。これらのパラメータとしては、他の交通参加者とのTTCが大きくなる軌跡を与えるパラメータのほうが、当該TTCが小さくなる軌跡を与えるパラメータよりも好ましい。
【0081】
モデルと測定される位置との間のくい違いを算出するための式(12)に代えて、他の任意の方法を用いることができる。
【0082】
ドライバが特定の振る舞いを実行する場合、その理由はそのドライバが置かれた状況に強く依存する。例えば、高速道路では、ドライバは他の車両を追い越すためにレーンを変更するが、市街地の交差点では、右左折レーンに入るためにレーン変更を行う。
【0083】
したがって、コンテキストベース予測に用いられる指標も、状況に強く依存するものとなる。
【0084】
その実行、すなわち、その振る舞いの実行のされ方も、現在の状況に依存する。例えば、高速道路と市街地では、車両の動きが異なるため、レーン変更の軌跡は全く異なったものとなる。
【0085】
この現象は、各振る舞いbに対し複数の状況依存モデルを定義することにより扱うことができる。このモデルは、いわゆる状況モデルm
jbであり、次式で定義される。
【数57】
【0086】
すなわち、交通参加者についての予測を行うべき各状況に対し、それぞれ一つの状況モデルを定義することができる。これらの状況モデルは、特定のコンテキストベース予測γ
jb、特定の指標I
Ib、特定のパラメトリックモデルμ
b、及び当該モデルに適合させるためのパラメータセットA
bを含む。
【0087】
すべての利用可能な状況モデルにおいて予測を計算することは計算能力を極度に消耗するので、デジタル地図情報やセンサ情報に基づいて、モデルセレクタにより必要な状況モデルを予め選択するものとすることができる。例えば、レーンマーク(例えば黄色のレーンマーク)を認識したことをもって、建築現場におけるレーン変更を扱うための特定のモデルをアクティブ化(有効に)するものとすることができる。接近する高速道路の入り口や出口についての地図データにより、レーン合流等を扱うモデルをアクティブ化することができる。さらに、GPS測位を使って、追い越し用の好ましいレーン(a preferred lane for overtaking)などの、地方固有の規則をアクティブ化することもできる。以下の説明においては、ホスト車両は、左側でのみ追い越しが許容される交通システム内を走行しており、かつ、ホスト車両と他の交通参加者とが高速道路又はこれに類するタイプの道路を走行しているものと仮定する。
【0088】
図2には、本発明に従う方法及び運転者支援システムを説明するための第1の状況が示されている。
図2は、2つの異なる交通システムにおける、同様の交通状況を示している。
図2のA)は、他車両の左側からでのみ当該他車両に対する追い越しが許される、ヨーロッパにおける右側交通を示している。すなわち、
図2には、レーンcと、当該レーンcの(車両走行方向に沿って)左側のレーンlが示されている。レーンc上では、車両Bが第1の速度で走行している。対象車両Aは、同じレーンcを車両Bより速い速度で走行し、後方から車両Bに接近しつつある。この図においては、各車両の速度が、実線矢印の長さで示されている。
【0089】
自車両Eは、レーンl上をより高速で走行しており、車両A及び車両Bに接近しつつある。ヨーロッパ用に設定された、上述のようなコンテキストベース予測を行う機能を有する従来の予測システムは、このような交通状況においては、対象車両Aがレーンlに割り込んで来るものと予想するであろう。上述したようなヨーロッパの交通システムに関しては、対象車両Aは、もちろん車両Bをその左側においてのみ追い越すことができるので、したがってこのコンテキストベース予測は正しいものとなる。
【0090】
例えば米国において、これと同じ予測システム又は運転者支援システムを使用した場合には、この状況は異なるものとなる。ここで、車両A、B、及びEのそれぞれの速度は、上述したヨーロッパの例の場合と同様であるとする。米国の場合には、ヨーロッパの場合とは異なり、追い越し対象である車両の(走行方向に沿って)右側に隣接するレーンからであれば当該追い越しが許される。したがって、灰色の矢印で示すように、対象車両Aは、車両Bをその右側で追い越すことができる。ここで、対象車両Aが対象車両Bをその右側で追い越すように実際の交通状況が展開し、他方、コンテキストベース予測の予測結果が、もちろん、ヨーロッパの場合と同様であったとすると、この状況についての予測と実際の展開とは、一致(整合)しないものとなる。観測された実際の挙動(右側での追い越し)と予測された挙動(レーンL上への割り込み)との間では、一致の程度が低いことが認識され得る。“対象車両Aはレーンlに割り込むであろう”とするこの予測結果により運転者支援システムが運転者に警告を発したとすると、自車両Eの運転者は混乱するであろう。より深刻には、ホスト車両Eが自動運転されている場合であれば、対象車両Aが割り込んで来るであろうとする予測結果のため、車両Eの速度が早々に減速されてしまうこととなり得る。
【0091】
次に、
図3を参照して、本発明の方法及びシステムを用いてそのような誤った予測の回数がどのように低減されるかを説明する。
図3は、基本的には
図1に相当する簡単化された図であるが、システム全体の性能向上につながる信号フローが図示されている。上述において既に説明したように、自車両Eの交通環境に関する情報を含むデータ10が、予測システム2に与えられる。データ10はメモリ18にも与えられるので、当該システムは対象車両Aについて観測された挙動を知る。すなわち、米国交通システムに関する図示の場合のように交通状況が更に展開した後には、対象車両Aの実際の挙動と、対象車両Aについての予測された挙動と、の比較が可能となる。したがって、上述したような状況においては、実際の挙動と予測された挙動とは、不整合(不一致)であるものと判断される。この判断は、システム評価器20において実行される。システム評価器20には、メモリ18から、対象車両Aの実際の挙動についての情報が与えられる。そのような情報は、メモリ18から、“生データ”(例えば、連続する特定の時刻における一連の位置情報)を提供することにより、又はそのような“生データ”についての解釈として、与えられ得る。そのような解釈は、例えば、対象車両Aが割り込まなかったという単なる情報であり得る。そのような場合、メモリ18は、実際には、データの単なる保存場所を超える機能を有するものであって、データ10を対象車両の状態に関して分析して、そのような実際の状態を保存できるものであり得ることは明らかである。
【0092】
他方で、予測システム2は、予測結果(単数又は複数)をシステム評価器20に送り、システム評価器20内において予測の品質評価を実行できるようにする。この比較の結果は、その後、モジュレーション信号コンバータ13へフィードバックされる。
【0093】
予測結果を取得するため、予測システム2内において直接指標と間接指標とが算出され、少なくとも間接指標に基づいてコンテキストベース予測が実行される。さらに、直接指標に基づいて、及びコンテキストベース予測の結果にも基づいて、物理的予測が実行される。
【0094】
コンテキストベース予測結果及び物理的予測結果は、予測システム2により出力され、上述したように、システム評価器20へ提供される。
【0095】
上述した例では、コンテキストベース予測結果と対象車両Aの実際の挙動との比較はミスマッチ(不一致、不整合)を生じている。システム評価器20の判断結果は、その後、モジュレーション信号コンバータ13により将来の予測サイクルのために用いられる。コンバータ13の出力は、予測システム2へ送られ、将来の予測サイクルにおいて用いることが可能となる。モジュレーション信号コンバータ13は、システムコンバータ20により出力された情報から、偽陰性予測及び偽陽性予測についての個々の不整合率(不一致率、mismatch rate)を取得するよう構成されている。偽陽性予測は、上述の例(割り込みが予測されたが観測されなかった)に対応するものであるが、もちろん、ヨーロッパの交通状況においては、例えば、コンテキストベース予測が“対象車両Aは割り込みをしない”と予測したが、実際には車両Aの運転者は割り込みを行うことを決断した、ということもあり得る。
【0096】
予測システムユニット2内では、モジュレーション信号コンバータ13により出力されたモジュレーション信号14に基づいて、予測の適合が実行される。例えば、モジュレーション信号コンバータ13は、モジュレーション信号として、コンテキストベース予測についての信頼度値を出力する。そのような信頼度値は、不整合率が予め定めた閾値未満であるとき、1となる。たとえば、偽陽性予測の不整合率が55%未満の場合を考える。この不整合率がそのような閾値を超えるものである場合には、肯定的な予測結果を示すそのコンテキストベース予測についての信頼度値は減少される。他方、偽陰性予測の不整合率が、個別に設定された又は偽陽性予測についての値と同じに設定された閾値を超えている場合には、その偽陰性予測についての信頼度値は増加される。
【0097】
図示の例では、モジュレーション信号としてコンテキストベース予測の予測結果についての信頼度値を用いている。これは、予測システムユニット2を拡大した詳細図において、破線矢印で示されている。信頼度値を用いて、コンテキストベース予測サブユニット23の出力が修正され、その後、このような修正されたコンテキストベース予測結果が、予測についてのさらなるステップにおいて用いられ、特に、物理的予測サブユニット24において物理的予測ステップのための入力としても用いられる。
【0098】
システム性能を向上するための他の実施形態について、以下に説明する。まず、本発明を用いない運転者支援システムの問題について説明する。世界の様々なエリアにおいては、発生する平均的な走行状況は互いに異なっている。例えば、中国の高速道路における交通密度は異なったものであり得るので、レーン変更を実行する際の角度は、ヨーロッパとは異なるものとなり得る。まず、ヨーロッパの高速道路における状況について再度説明する。これは、基本的には
図2Aを用いて説明した状況と同様であるが、より後の時刻におけるものである。このことは、対象車両Aが、すでにレーン変更を開始しており、物理的予測により予測された軌道に沿って走行していることから認識され得る。すなわち、対象車両Aの実際の軌道は、物理的予測結果と一致している。
【0099】
状況は、
図4のB)では異なっている。ここでは、同じパラメトリック軌道モデル(
図4に示すヨーロッパの状況(A部分)に対しては正しいモデル)が適用され、したがって、時々刻々の対象車両Aの予測された位置は破線矢印のとおりである。しかしながら、実際には、例えば中国のような他の交通環境においては、通常はより低速に制限されるため、より急角度でレーン変更が行われるので、対象車両Aの実際の軌道は、予測された軌道から逸れることとなる。このことが、太線矢印で示されている。この場合、物理的予測結果と対象車両Aの実際の挙動とは一致しない。物理的予測の品質を向上するため、対象車両Aの実際の軌道がわかるように、この場合も、交通環境に関するデータ10がメモリ18に保存される。この軌道に関する情報は、モジュレーション信号コンバータ13に与えられる。モジュレーション信号コンバータ13は、例えば割り込みの場合には実際の軌道についての知識に基づいて、モデルパラメータを最適化することができる。この場合も、そのような最適化は、システム評価器20により所定の値を超える不整合率が認識され得る場合にのみ実行されることが好ましい。これに代えて、パラメータの最適化は、例えば予測の品質尺度である不整合率がそのような閾値を超えないときにも実行されるものとすることができる。不整合は、実際の軌道の、予測された軌道からのずれが、予め定めた所定の値を超えた場合に、認識される。
【0100】
予測システムユニット2には、モジュレーション信号コンバータ13により定められて出力された、モジュレーション信号内で規定された、適合されたパラメータ又はパラメータセットが与えられる。モジュレーション信号コンバータ13内では、パラメトリック軌道モデルに用いられるパラメータの最適化が、特定の挙動に関する対象車両Aの軌道のような、保存されているすべての実際の状態に基づいて、又はイベント履歴の一部に基づいて、実行され得る。
【0101】
パラメータの最適化が必要であることがシステム評価器20により示された場合、モジュレーション信号コンバータ13は、対象車両Aの対応する軌道をメモリ18から読み出すことができる。処理すべきデータの量を減らすため、特定の挙動に関する所定の数の最新の軌道のみをメモリ18に保存することができる。これに代えて、パラメータ最適化に用いる軌道の数が時間当たりのイベントの数に依存するように、或る時間期間の間のみそのような軌道を保存しておくものとしてもよい。メモリ18内に保存された位置履歴(一般的には、データ10)は、全ての予想され且つ正しかったレーン変更(一般的には、真陽性(true positives))又は予想されなかったレーン変更(一般的には、偽陰性)及び予想されたが誤っていたレーン変更(一般的には、偽陽性)について、個別に保存されることが特に好ましい。これらの位置履歴に基づいて、次に、モジュレーション信号コンバータ13内でパラメータ最適化アルゴリズムが実行され得る。そのようなアルゴリズムの例は、最小二乗誤差法(least-square error method)、焼きなまし法(simulated an annealing,)、離散勾配ベースモデル(discrete gradient based models)、及び進化的最適化(evolutionary optimization)である。パラメータ最適化は、モジュレーション信号コンバータ13において、オンラインで又はオフラインで実行され得る。最適化は、基本的には、モジュレーション信号コンバータ13において異なるパラメータセットに基づいて算出された予測結果と対象車両Aの実際の軌道との比較であり、これにより、最も一致する予測結果を与えたパラメータセットが、予測システムユニット2において更なる予測に用いられ得る。すなわち、モジュレーション信号コンバータ13内で最適化されたパラメータセットが、予測ユニット2に与えられる。
【0102】
図4を参照して説明した例では、それは、レーン変更の急峻さについてのパラメータであるモデルスロープであり、レーン変更が
図4の図示下部に示したように実行される場合には、減少させたモデルスロープが、モジュレーション信号により予測システムユニット2へ送られる。
【0103】
また、
図5に示す予測システムユニット2の詳細図(基本的には
図3と同様)には、スロープパラメータを含むモジュレーション信号が物理的予測サブユニット24へ提供されることが、破線により示されている。すなわち、この場合には、コンテキストベース予測の算出は変更されない。コンテキストベース予測結果に加えて、スロープパラメータが、入力として物理的予測サブユニット24に提供される。その後、予測システム2により実行される次の予測サイクルは、物理的モデルに用いられるパラメトリック軌道のパラメータの一つである新しいスロープパラメータに基づいて行われる。
【0104】
次に、運転者支援システム1の性能を最適化するための他のアプローチについて説明する。まず、従来の運転者支援システムでは運転者に対し不満足な結果を提供することとなり得る状況について、説明する。まず、
図6の図示上部に、第1の時刻における状況が示されている。上記において説明した状況と同様に、対象車両Bの現在の走行速度は対象車両Aの走行速度より小さく、対象車両Aは先行車Bに接近していく。図示の状況においては、運転者支援システムは、対象車両Aの割り込みを予測(コンテキストベース予測)し、したがって自車両Eを自動的に減速し得るが、自車両Eの運転者は、自車両Eの前の対象車両Bを対象車両Aに追い抜かさせたくないと決断する。
【0105】
したがって、当該運転者は、加速のためスロットルを操作し、その結果、自動制御の場合には減速動作がオーバライドされ、ギャップが閉じる。そうでない場合に運転者支援システムにより実行されることとなる挙動、すなわち、自車両Eの減速は、このように、運転者の判断によりオーバライドされる。この場合、以前における運転者支援システムのための提案は、適合されない。すなわち、そのような状況が新たに生ずるごとに、自車両Eの運転者は、常にスロットルを操作してシステム1を無効化しなければならない。運転者支援システムの作動(アクチュエーション)を無効化した結果が、
図6の図示下部に示されている。ここでは、自車両Eは、その後の時刻において、最初の時刻におけるよりも高速で走行している。すなわち、最初の状況においては対象車両Aが利用可能であったギャップはもはや存在せず、したがって、予測システムユニット2は、対象車両Aの割り込みはもはや実行されないだろう、と正しく認識することとなる。
【0106】
本発明によれば、運転者動作は自車両の実際の状態として観測され、したがって、システムは、運転者が、ホスト車両Eについて提案され又は開始された減速(推定された将来状態)とは異なり、他の挙動(すなわち、加速)を選択したか、又は少なくとも運転者支援システムの目標速度と異なる速度で走行することを決断したものと認識することができる。
【0107】
ホスト車両Eのそのような減速は、コンテキストベース予測結果のみに基づくものであり、物理的予測結果に基づくものではない点に留意されたい。上記と同様に、システム評価器ユニット20は、予測システムユニット2の結果を受け取る。したがって、システム評価器ユニット20は、対象車両Aの運転者が割り込みを意図している、というコンテキストベース予測結果を知る。運転者動作が観測され、当該観測の結果はシステム評価器ユニット20にも提供されるので、システム評価器20は、提案され又は仮定された挙動に反して自車両の運転者が他の運転挙動をどの程度頻繁に実行したか、を認識することができる。対象物体についてのコンテキストベース予測結果の結末である提案され又は推奨された挙動が、例えば30%の頻度で無効化された場合、システム評価器20は、モジュレーション信号コンバータ13へ提供される情報信号を出力する。この情報信号は、コンテキストベース予測の条件を設定するパラメータが適合を必要としていることを示す、モジュレーション信号コンバータ13のための情報を含んでいる。本運転者支援システムでは、
図7に示すように、モジュレーション信号コンバータユニット13は、上述において既に説明したように、推定されたグローバルシーンコンテキストに関する情報を受け取る。そのようなグローバルシーンコンテキストに基づき、例えば、穏やかな交通量(mild traffic)か高密度の交通量(dense traffic)かが区別される。そのようなグローバルシーンコンテキストに基づき、モジュレーション信号コンバータユニット13は、モジュレーション信号としてスケーリングファクタ(scaling factors)を生成する。当該信号は、予測システムと、予測システムユニット2の詳細図に示すように間接指標生成サブユニットと、に送られる。これらのスケーリングファクタは、また、モジュレーション信号コンバータ13により、システム評価器ユニット20から受信した情報に基づいて予測性能を向上するために用いられる。すなわち、モジュレーション信号コンバータユニット13内では、コンテキストベース予測のための間接指標を当該コンテキストベース予測の結果が個々の運転者の希望とより良くフィットするように重み付けすべく、当該重み付けに用いることのできるスケーリングファクタはどれか、が決定される。
【0108】
例えば、穏やかな交通量(mild traffic)の際に用いられるスケーリングファクタは、対象車両Aの割り込みの確率が自車両のレーン上のギャップが小さいほど減少するように、間接指標を重み付けする。すなわち、スケーリングファクタが“通常の交通密度(normal traffic density)”に対応するパラメータに初期設定されている場合、モジュレーション信号コンバータ13は、運転者がコンテキストベース予測結果の基礎であるシステムの決定をいつもオーバライドする場合には、“穏やかな交通量(mild traffic)”に設定する。その後、モジュレーション信号“穏やかな交通量”に従って間接指標の重み付けを行うスケーリングファクタに基づいて、将来の予測が実行される。これにより、自車両レーンlに非常に大きなギャップが存在する場合にのみ、割り込みが予測されることとなる。その結果、通常の交通状態において割り込みが予測されることとなっていたギャップサイズに対しては、もはや割り込みは予測されないこととなり、したがって、自車両の運転者は混乱を生じず、システムは、予測結果が適合されているので、自動的には減速を実行しない。すなわち、その後においては、そのような状況でも自車両の運転者の介入は不要となる。
【0109】
図8は、モジュレーション信号内の、モジュレーション信号コンバータ13から受信したそのような適合されたスケーリングファクタが、割り込みを決定するための基礎となる指標に対しどのように影響するかについての、他の可能性を示す図である。例えば、間接指標“先行車接近”についてのスケーリングファクタ又は重み付け係数が0.8に設定され、指標“強加速”についての重み付けファクタが1.0に設定され、指標“左ギャップ適合”についての重み付け係数が0.6に設定される。そして、組み合わされた又は集められた重み付け指標値に基づいて、さらなるコンテキストベース予測が実行され、当該予測の処理自身についての更なる適合の実行は必要とされない。
【0110】
これらの例は、好ましいアルゴリズムに基づいてモジュレーション信号コンバータ13の動作原理を説明したものであることに留意されたい。予測アルゴリズムのパラメータの修正及び結果の修正は種々の方法で行い得るが、これらは、予測の品質(例えば、不整合率)についての尺度を生成する種々のオプションとは独立である。モジュレーション信号コンバータ13により出力されるモジュレーション信号は、コンテキストベース予測のための指標値及び又は物理的予測のための軌道を含むパラメータセットを変更しつつ、予測信頼度のスケーリング(scaling)、又はアクションの開始指示(トリガ)を行うための当該信頼度に適用される閾値のスケーリング、のいずれかを用いることができる。他方で、システム評価器20は、観測された挙動を、コンテキストベース予測による予測された挙動、及び又は物理的予測の予測された挙動、又は運転者挙動、と比較することができる。モジュレーション信号コンバータの出力のいずれかは、システム評価器の何らかの出力に基づき得る。
【0111】
予め保存された複数のパラメータセットは、既に“穏やかな交通量(mild traffic)”、“通常の交通密度(normal traffic density)”、などについて記述されているので、これらの予め保存された複数のパラメータセットから更なるパラメータを選択することができる。ただし、パラメータセットの適合は、現在のパラメータから開始してパラメータ値を修正することにより行うこともできる。この修正は、特に、少しずつ(incrementally)又は連続的に(continuously)実行することができる。