(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742853
(24)【登録日】2020年7月31日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】持続性ケルセチン配糖体製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7028 20060101AFI20200806BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20200806BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20200806BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20200806BHJP
【FI】
A61K31/7028
A61P9/12
A61P9/10 101
A23L33/10
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-154178(P2016-154178)
(22)【出願日】2016年8月5日
(65)【公開番号】特開2018-20984(P2018-20984A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 駿介
(72)【発明者】
【氏名】折越 英介
【審査官】
伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−524522(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/095675(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第1969997(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第1969998(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第1969999(CN,A)
【文献】
Planta Medica,2007年,73(7),pp.683-688
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるプレニル化ケルセチン配糖体を含有することを特徴とする持続性ケルセチン配糖体製剤
;
(式1)
【化1】
式中、Xは水素又はプレニル基を表し、少なくとも一つのXがプレニル基であり、
及び式中、Rは糖を表す。
【請求項2】
請求項1に記載の持続性ケルセチン配糖体製剤を含有することを特徴とする経口用組成物。
【請求項3】
食品である、請求項2に記載の経口用組成物。
【請求項4】
医薬品である、請求項2に記載の経口用組成物。
【請求項5】
医薬部外品である、請求項2に記載の経口用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレニル化ケルセチン配糖体を含有することを特徴とする持続性ケルセチン配糖体製剤に関する。更に詳細には、長時間にわたって血中でのケルセチン抱合体濃度を維持し、投与回数を減少することができる、持続性ケルセチン配糖体製剤、それらを含有する経口用組成物、食品、医薬品または医薬部外品に関する。
【背景技術】
【0002】
高脂肪食や運動不足など、近年の生活習慣の欧米化に伴い、糖尿病、高血圧症、高脂血症、または動脈硬化症などといったいわゆる生活習慣病の増加が大きな社会問題のひとつとなっている。これらの各種病態に対する予防もしくは改善効果を発揮することのできる組成物として、フラボノイドも期待されるものとして検討されている。
【0003】
また、ルチンやケルセチンなどの動脈硬化抑制作用(非特許文献1、特許文献1)や、酵素処理イソクエルシトリンの抗動脈硬化作用(特許文献2)や抗高血圧作用(特許文献3)などが報告されている。
このように、ケルセチン配糖体は、多機能を有するために、機能性食品の成分として注目されている。
【0004】
さらに、多くの研究者らによって、これらフラボノイドの代謝・吸収に関する研究がなされ、ケルセチンはそのままの形で腸管より吸収され、一方、ケルセチン配糖体は、摂取し腸に達すると腸内細菌のもつβ−グルコシダーゼ等の作用を受けて、アグリコンであるケルセチンと糖に加水分解されてから吸収され、その後ケルセチンは、吸収される際に腸の上皮細胞でグルクロン酸抱合化を受けてケルセチン抱合体となり、門脈を経て肝臓に入り、さらに肝臓で硫酸抱合化、メチル化を受け、その後血流に入り末梢組織に移動し、最終的には腎臓を経て尿中に排泄されると考えられている(非特許文献2、3、4)。
【0005】
しかしながら、ケルセチンやルチンを経口投与した場合、排泄が速く、また、投与量がある一定の濃度に達すると、それ以上の吸収は望めないことから、その生物学的利用価値が低下すると考えられている。よって、種々の疾病の予防・治療上必要とされるケルセチン抱合体の血中濃度を長時間維持することは困難であった。このため、適当量を少量ずつ分割投与することがケルセチン抱合体の生物学的利用価値を高めるのに有効であるが、ケルセチン抱合体の血中濃度の持続性は低く、このために投与回数を増やさなければならないと考えられ、それゆえに、このような欠点の無い、生物学的利用価値の高い持続性ケルセチン配糖体製剤の開発が強く要望されている。
【0006】
一方、プレニル基が結合したポリフェノールが近年発見されて、その機能解析が進んでいる。特に、ホップ中に含まれる8-プレニルナリンゲニンが骨密度の減少抑制や骨格筋の分解抑制が示唆されている(非特許文献5、
1470096753674_1.html
参照)。また、プレニル化されたケルセチン(C8-、C5’)も発見されており、その生理効果の研究が進んでいる(非特許文献6、
1470096753674_2.htm
参照)。また、ポリフェノールに対し、プレニル基を導入する酵素も発見されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】藤本健四郎、現代医療「天然抗酸化物質」、Vol.28, No.8, p.129-134 (1996)
【非特許文献2】食品と開発,Vol.33,No.3,p24-26(1998)
【非特許文献3】食品と開発,Vol.35,No.6,p.8-10(2000)
【非特許文献4】FOOD Style,Vol.21,No.4,p.81-84(2000)
【非特許文献5】ビタミン,Vol.87,No.2,p.110-112(2013)
【非特許文献6】Synthesis,Vol,44,No.9,p.1308-131(2012)
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−524522号公報
【特許文献2】WO2006/095675パンフレット
【特許文献3】特開2005−272348号公報
【特許文献4】WO2010/147196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、長時間にわたって血中でのケルセチン抱合体濃度を維持し、投与回数を減少することができる持続性ケルセチン配糖体製剤、それらを含有する経口用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行なった結果、ケルセチン配糖体にプレニル基が結合したプレニル化ケルセチン配糖体を含有することを特徴とする持続性ケルセチン配糖体製剤を口腔用組成物に用いることによって、体内吸収性が向上し、また、代謝されにくくなり、長時間にわたって血中でのケルセチン抱合体濃度を維持することが可能であることを見出し、この発明を完成させるにいたった。
この発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
項1.プレニル化ケルセチン配糖体を含有することを特徴とする持続性ケルセチン配糖体製剤。
項2.プレニル化ケルセチン配糖体が式(2)で示されるものであることを特徴とする項1に記載の持続性ケルセチン配糖体製剤。
(式2)
【化2】
項3.項1または2記載の持続性ケルセチン配糖体製剤を含有することを特徴とする経口用組成物。
項4.食品である、項3記載の経口用組成物。
項5.医薬品である、項3記載の経口用組成物。
項6.医薬部外品である、項3記載の経口用組成物。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、ケルセチン配糖体にプレニル基が結合したプレニル化ケルセチン配糖体を含有することを特徴とする持続性ケルセチン配糖体製剤を口腔用組成物に用いることによって、従来のケルセチン配糖体よりも、体内吸収性が向上し、また、代謝されにくくなり、長時間にわたって血中でのケルセチン抱合体濃度を維持することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明のプレニル化ケルセチン配糖体は、(式3)のとおりである。
(式3)プレニル化ケルセチン配糖体の構造式
【化3】
【0014】
上記の構造式を満たしていればどの様なケルセチン配糖体でも構わない。例えば糖に関して言及すると、単糖、枝分かれ構造、直鎖構造を始めとしたいずれの結合方式でも構わない。また、これらの結合方式のいずれか、あるいはすべてが混合しているケルセチン配糖体でも構わない。
【0015】
この発明のプレニル化ケルセチン配糖体は、例えば、Synthesis 2012; 44(9): 1308-1314 記載の方法を用いて調製することが可能である。
【0016】
また、本発明は、プレニル化ケルセチン配糖体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む薬学的組成物、食品組成物および化粧品を提供する。これらの形態は、水溶液、懸濁液、エマルション等の液状またはペースト状あるいは粉末等の固形物のいずれであってもよい。
【0017】
上記の組成物を個体に投与することができる。本発明で個体とは、疾病の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、人間または非人間である霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、犬、猫、馬、および牛などの哺乳類を意味する。
【0018】
本発明の薬学的組成物は、投与のために、上記に記載した有効成分の以外に、追加で薬学的に許容可能な担体を1種以上含めて製造することができるし、様々な剤形で製造することができる。
【0019】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法に応じて、経口投与するか、または非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができるし、投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食事、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度などに応じて、その範囲が多様である。
【0020】
本発明の薬学的組成物の好ましい投与量は、患者の状態や体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路、および期間に応じて異なるが、当業者によって適切に選択することができる。しかし、好ましくは、1日0.001ないし100mg/体重kgで、より好ましくは0.01ないし30mg/体重kgで投与する。投与は、1日1回投与することもできるし、複数回に分けて投与することもできる。
【0021】
本発明のプレニル化ケルセチン配糖体またはこれの薬学的に許容可能な塩を食品添加物に用いる場合、そのまま添加したり、他の食品、または、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオシド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、d1−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料または保存剤などの食品添加物と一緒に用いたりすることができ、通常の方法によって適切に使用することができる。有効成分の混合量は使用目的(予防、健康または治療的処置)によって適合するように決定することができる。一般的に、食品または飲料の製造の際に本発明のプレニル化ケルセチン配糖体またはこれの薬学的に許容可能な塩は、原料に対して15質量%以下、望ましくは10質量%以下の量で添加される。しかし、健康及び衛生を目的にしたり、または健康の調節を目的としたりする長期間の摂取の場合、上記の量は、上記の範囲以下であることができるし、安全性の面で何の問題がないため有効成分は上記の範囲以上の量でも用いられる。
【0022】
上記の食品の種類には特に制限はない。乳製品、各種スープ、飲料、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤などが可能であり、その他の通常の意味での健康機能食品をすべて含む。
【実施例】
【0023】
プレニルケルセチンの調製方法
10gのケルセチン(東京化成社製)に3倍量ピリジン溶媒に10倍量の無水酢酸を加え、130〜140℃で1時間反応させ、シリカゲルカラムにて精製した。続いてチオフェノール(1.2倍量)、イミダゾール(0.35倍量),N-メチルピロリドン存在下で0℃、1.5時間反応させた。続いてイソブチルアリル炭酸エステル(3倍量)、テトラヒドロフラン溶媒下、−20℃〜0℃、テトラキス(トリデニルホスフィン)パラジウム(5mol%)を触媒として2時間カップリング反応させた。その後、無水酢酸中で120〜130℃1時間加熱し、プレニル基をC8へ転移させる。最後に10倍量の酢酸アンモニウムで脱アセチル化し、メタノール還流させ、減圧濃縮にて乾燥させ、C8位にプレニル基が結合したケルセチンを7g調製した。
【0024】
プレニル化酵素処理ケルセチンの調製方法
ルチン(東京化成社製)20gを水400mLに投入し、pH調整剤を用いてpH4.9に調整した。これにラムノシダーゼを0.1g添加して反応を開始し、これを65℃で24時間保持した。その後、反応液を20℃に冷却し、冷却によって生じた沈殿物を濾別した。得られた沈殿物(固形分) を乾燥し、イソクエルシトリン13.4gを回収した。
上記のイソクエルシトリンを、プレニル化ケルセチンと同様の手順にてプレニル化した。これに50倍量の水を加え4倍量のコーンスターチを投入し、これに0.1倍量のシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを添加して反応を開始し、これをpH8.0、50℃の条件下、24時間保持して得られた溶液を減圧濃縮した後、凍結乾燥することによって、2gのプレニル化酵素処理イソクエルシトリンを調製した。
【0025】
(体内吸収・代謝確認試験方法)
7週齢の雄C57/BL6マウスを室温23℃ AIN−93Mの食事と水を1週間与えた。試料投与前、18時間は食事を与えない。プレニルケルセチン(PQ)、ケルセチン(Q)、酵素処理イソクエルシトリン(E)、プレニル化酵素処理イソクエルシトリン(PE)はプロピレングリコールに5g/Lになるように溶解し、50mg/kg body weightで経管栄養にて投与した。0.5、1、2、4、8、24、48時間後の血漿を採取し、β-グルクロニダーゼ処理の後にHPLC法にて代謝されたプレニル化ケルセチン及びケルセチン濃度を測定した。プレニル化酵素処理イソクエルシトリンは、吸収性は低いが代謝されにくく、48時間後の血漿中濃度が最も高かった(
図2)。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】プレニルケルセチンの調製(Synthesis 2012; 44(9): 1308-1314より)