特許第6742898号(P6742898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742898
(24)【登録日】2020年7月31日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】金属化フィルムコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20200806BHJP
【FI】
   H01G4/32 511
   H01G4/32 500
   H01G4/32 511D
   H01G4/32 511G
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-251762(P2016-251762)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-107273(P2018-107273A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼垣 甲児
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/164903(WO,A1)
【文献】 特開2013−214688(JP,A)
【文献】 特開2016−207828(JP,A)
【文献】 特開2013−219305(JP,A)
【文献】 特開2015−073112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムの表面にアルミニウムを主成分とする金属粒子を蒸着して蒸着電極を形成し、前記蒸着電極の幅方向の一方端の表面に蒸着膜厚を厚くして抵抗値を低くした低抵抗部を形成して第1および第2の金属化フィルムを作製する工程と
得られた前記第1および第2の金属化フィルム各々の前記低抵抗部の前記幅方向における位置関係を互いに反対側とする状態で、これら第1の金属化フィルムと第2の金属化フィルムとを重ね合わせ巻回する工程と
得られた巻回体の軸方向の一端および他端にそれぞれ陽極側および陰極側の電極引出し部を接続してコンデンサ素子を作製する工程と
前記コンデンサ素子の前記陽極側および陰極側の各電極引出し部にそれぞれ極性を対応させて陽極側および陰極側の外部引き出し端子を接続する工程と
を備えた金属化フィルムコンデンサの製造方法であって、
前記蒸着電極および低抵抗部を形成する工程は、
前記アルミニウムを主成分とする金属蒸着源から蒸発される金属微粒子を前記誘電体フィルムに付着させる第1の工程と、
亜鉛とマグネシウムの混合蒸着源から蒸発される亜鉛・マグネシウムの微粒子を、前記アルミニウムを主成分とする蒸着電極の幅方向の一方端の表面に付着させて前記第1および第2の金属化フィルムにおける前記各低抵抗部を亜鉛とマグネシウムの混合蒸着層で形成する第2の工程と
を有することを特徴とする金属化フィルムコンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、前記低抵抗部を構成する亜鉛とマグネシウムとの蒸着金属中のマグネシウムの含有量が10〜50重量%に設定されている請求項に記載の金属化フィルムコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体フィルム、金属蒸着電極、膜厚を厚くした低抵抗部(ヘビーエッジ部)を基本構造とする第1および第2の金属化フィルムを交互に重ね合わせ、陽極側および陰極側の電極引出し部(メタリコン)が接続されてなるコンデンサ素子を有し、さらに、金属蒸着電極としてアルミニウム(Al)を主成分とする蒸着電極を用いて構成される金属化フィルムコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成の金属化フィルムコンデンサは一般的に図2に示すような構造(概略構造)を有している(例えば特許文献1参照)。図2において、1は第1の金属化フィルム、2は第2の金属化フィルム、1a,2aは誘電体フィルムとしてのポリプロピレンフィルム、1b,2bはアルミニウムを主成分とする蒸着電極、1c′,2c′は膜厚を厚くした低抵抗部、1d,2dは絶縁マージン、3Aは陽極側の電極引出し部、3Bは陰極側の電極引出し部、4はコンデンサ素子、5Aは陽極側の外部引き出し端子、5Bは陰極側の外部引き出し端子である。
【0003】
第1の金属化フィルム1において、ポリプロピレンフィルム1aのフィルム面上にアルミニウムを主成分とする蒸着電極1bが形成され、蒸着電極1bの幅方向の一端側の表面に膜厚を厚くした低抵抗部1c′が形成されている。同様に、第2の金属化フィルム2において、ポリプロピレンフィルム2aのフィルム面上にアルミニウムを主成分とする蒸着電極2bが形成され、蒸着電極2bの幅方向の他端側の表面に低抵抗部2c′が形成されている。
【0004】
第1の金属化フィルム1と第2の金属化フィルム2とが重ね合わされた上で多重に巻回されて円筒状にされ、プレスで断面小判形の扁平柱状体に成形され、その軸方向の一端および他端のそれぞれにおいて亜鉛(Zn)の金属溶射により陽極側の電極引出し部3Aと陰極側の電極引出し部3Bを接続してコンデンサ素子4を構成している。蒸着電極1bと低抵抗部1c′は陽極側の電極引出し部3Aに接続され、蒸着電極2bと低抵抗部2c′は陰極側の電極引出し部3Bに接続される。
【0005】
そして、陽極側の電極引出し部3Aに対して陽極側の外部引き出し端子5Aが接続され、陰極側の電極引出し部3Bに対して陰極側の外部引き出し端子5Bが接続されて金属化フィルムコンデンサが構成されている。
【0006】
一般的に亜鉛の溶射によって形成される電極引出し部3A,3Bに対してアルミニウムからなる蒸着電極1b,2bを電気的に接続する。この場合に、接続抵抗を小さくするために蒸着電極1b,2bの端部に亜鉛の蒸着膜による低抵抗部1c′,2c′を形成し、この亜鉛の低抵抗部1c′,2c′を介してアルミニウムの蒸着電極1b,2bと亜鉛の電極引出し部3A,3Bとを接続する。
【0007】
図3は特許文献2に開示された第1の従来例の金属化フィルムコンデンサの要部の断面構造を示す。ポリプロピレンフィルム11上にアルミニウムからなる蒸着電極12Aが形成され、このアルミニウムからなる蒸着電極12Aの幅方向端部に亜鉛の蒸着膜による低抵抗部12Cが形成されている。そして、亜鉛の低抵抗部12Cとアルミニウムの蒸着電極12Aとの全体に対してマグネシウムからなる蒸着電極12Bが形成されている。なお、蒸着電極部のうち低抵抗部12Cを除いた部分であるアクティブ部はアルミニウムの蒸着電極12Aとマグネシウムの蒸着電極12Bとの2層構造となっている(図8A、段落[0076]参照)。
【0008】
蒸着電極部のアクティブ部をアルミニウムとマグネシウムとの2層構造とすることにより、アルミニウム単独で構成する場合に比べて耐湿性が改善されるとしている(段落[0071]参照)。すなわち、アルミニウムは水分と反応して酸化アルミニウム(Al23 )を生成するが、これは絶縁体であるために、蒸着電極部としての機能が損なわれることになる。そこで、水分との反応性がアルミニウムより高いマグネシウムを加えることにより水分を取り除き、耐湿性の改善を通じて漏れ電流を低減する(段落[0029]〜[0034]参照)。
【0009】
亜鉛の低抵抗部12Cの上部を被覆するマグネシウムの蒸着電極12Bの役割については、マグネシウムの蒸着電極12Bが亜鉛の低抵抗部12Cの酸化劣化を抑制するとしている(段落[0076]参照)。
【0010】
図4は特許文献3に開示された第2の従来例の金属化フィルムコンデンサの要部の断面構造を示す。ポリプロピレンフィルム3a(3b)上にアルミニウムの蒸着電極4a(4b)が形成され、このアルミニウムの蒸着電極4a(4b)の幅方向端部に亜鉛(またはアルミニウム)の低抵抗部13a(13b)が形成されている。そして、亜鉛の低抵抗部13a(13b)の上面に対して主成分が酸化アルミニウム(絶縁体)からなる蒸着膜(第1の膜)14a(14b)が形成され、さらに酸化アルミニウムの第1の蒸着膜14a(14b)の上面に酸化マグネシウム(MgO)からなる蒸着膜(第2の膜)15a(15b)が形成されている。5a(5b)は絶縁マージンである。
【0011】
この場合に、亜鉛の低抵抗部13a(13b)を酸化アルミニウムの第1の蒸着膜14a(14b)で覆い、さらに第1の蒸着膜14a(14b)を酸化マグネシウムの第2の蒸着膜15a(15b)で覆っているので、低抵抗部13a(13b)の腐食が抑制され、アルミニウムの蒸着電極4a(4b)とメタリコン電極6a(6b)との優れたコンタクト性を長期間にわたり維持できるとしている。その理由は、マグネシウムは水に対する反応性がアルミニウムよりも高くてコンデンサの内部に浸入してきた水分を取り除く性質に優れるため、低抵抗部13a(13b)と水分の接触を抑制できるからであるとしている(図4、段落[0045]〜[0049]参照)。なお、第2の蒸着膜15a(15b)については、酸化マグネシウムの代わりに酸化ベリリウムまたは酸化チタンで構成してもよいとしている(段落[0051]参照)。
【0012】
以上、第1の従来例と第2の従来例について詳しく見てきた。いずれも水分との反応性がアルミニウムより高いマグネシウムを追加することによって水分を取り除き、耐湿性を改善することに重点をおいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2013−219094号公報
【特許文献2】国際公開第2011/055517号
【特許文献3】国際公開第2013/179612号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献2、3に記載のフィルムコンデンサによれば、耐湿性は改善するものの、以下に示す問題があった。
【0015】
アルミニウムや亜鉛を誘電体フィルム上に蒸着する際に、誘電体フィルムは蒸着源からの熱影響を少なからず受けてしまうが、ポリプロピレンフィルム等の誘電体フィルムは比較的熱に弱い。そのため、アルミニウム蒸着源や亜鉛蒸着源に加えてマグネシウムを蒸着するための蒸着源を設けた場合には、誘電体フィルムが受ける熱ダメージが大きくなり、誘電体フィルムが劣化するおそれがある。
【0016】
また、マグネシウムを蒸着するための蒸着源を新たに配置する必要があることから、設備の増設を要し、コストが増加してしまう。
【0017】
また、特許文献1に記載のフィルムコンデンサでは、低抵抗部の亜鉛とポリプロピレンフィルム等の誘電体フィルムの密着性が悪く、低抵抗部と対向する誘電体フィルムとが密着せず、低抵抗部と誘電体フィルムとの界面にわずかではあるが他の部位と比較して大きな空隙が生じ、長期使用における電圧印加によって空隙での部分放電が頻発し、誘電体フィルムの絶縁性能の低下、フィルム端部の集中破壊ひいては金属化フィルムコンデンサの寿命短縮を招いていた。
【0018】
本発明はこのような事情に鑑みて創作したものであり、誘電体フィルムの熱による劣化を抑制しながら、低抵抗部と誘電体フィルムとの密着性を改善することでフィルム端部の集中破壊を確実に防止し、金属化フィルムコンデンサの寿命を向上させることを目的とする。
【0019】
すなわち、一方の金属化フィルムにおける低抵抗部と、この金属化フィルムに重ね合わされる他方の金属化フィルムにおける誘電体フィルムとの密着性の改善を図ろうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、次の手段を講じることにより上記の課題を解決する。
【0022】
発明による金属化フィルムコンデンサの製造方法は、
誘電体フィルムの表面にアルミニウムを主成分とする金属粒子を蒸着して蒸着電極を形成し、前記蒸着電極の幅方向の一方端の表面に蒸着膜厚を厚くして抵抗値を低くした低抵抗部を形成して第1および第2の金属化フィルムを作製する工程と
得られた前記第1および第2の金属化フィルム各々の前記低抵抗部の前記幅方向における位置関係を互いに反対側とする状態で、これら第1の金属化フィルムと第2の金属化フィルムとを重ね合わせ巻回する工程と
得られた巻回体の軸方向の一端および他端にそれぞれ陽極側および陰極側の電極引出し部を接続してコンデンサ素子を作製する工程と
前記コンデンサ素子の前記陽極側および陰極側の各電極引出し部にそれぞれ極性を対応させて陽極側および陰極側の外部引き出し端子を接続する工程と
を備えた金属化フィルムコンデンサの製造方法であって、
前記蒸着電極および低抵抗部を形成する工程は、
前記アルミニウムを主成分とする金属蒸着源から蒸発される金属微粒子を前記誘電体フィルムに付着させる第1の工程と、
亜鉛とマグネシウムの混合蒸着源から蒸発される亜鉛・マグネシウムの微粒子を、前記アルミニウムを主成分とする蒸着電極の幅方向の一方端の表面に付着させて前記第1および第2の金属化フィルムにおける前記各低抵抗部を亜鉛とマグネシウムの混合蒸着層で形成する第2の工程と
を有することを特徴とする。
【0023】
上記構成の本発明の金属化フィルムコンデンサおよびその製造方法においては、誘電体フィルムのフィルム面に金属の蒸着によって蒸着電極を形成するが、これについてはアルミニウムを主成分とする蒸着電極とする。誘電体フィルムに蒸着電極を形成したものが金属化フィルムであるが、これには陽極側の金属化フィルムと陰極側の金属化フィルムとがある。これが第1の金属化フィルムと第2の金属化フィルムであり、いずれが陽極側であってもいずれが陰極側であっても構わない。第1の金属化フィルムの幅方向の一端側の表面に蒸着膜厚を厚くして抵抗値を低くした低抵抗部が形成され、第2の金属化フィルムの幅方向の他端側の表面に同様の低抵抗部が形成される。低抵抗部は蒸着電極(主成分アルミニウム)の幅方向の端部でその電極面に積層する状態で蒸着されたものである。第1の金属化フィルムの低抵抗部は第2の金属化フィルムの誘電体フィルムに接触し、第2の金属化フィルムの低抵抗部は第1の金属化フィルムの誘電体フィルムに接触する状態で、第1の金属化フィルムと第2の金属化フィルムとが交互に重ね合わされる。
【0024】
本発明の金属化フィルムコンデンサにおいては、金属化フィルムの幅方向端部における蒸着金属上の低抵抗部が亜鉛とマグネシウムとを含有する蒸着金属(混合蒸着金属)で構成されていることから、この亜鉛・マグネシウムからなる低抵抗部と誘電体フィルムとの密着性が向上し、その結果、低抵抗部と誘電体フィルムとの界面での空隙の発生ひいては電圧印加による空隙での部分放電を防止する。よって、誘電体フィルムの絶縁性能の低下(フィルム端部の集中破壊)を確実に防止することができ、金属化フィルムコンデンサの寿命を延ばすことが可能となった。
【0025】
また、従来例のように亜鉛の蒸着とマグネシウムの蒸着とを個別に実施する場合は個別の蒸着源の熱影響による誘電体フィルムの熱ダメージが大きいが、本発明のように混合蒸着することは亜鉛とマグネシウムの蒸着源を共有一体化することであり、蒸着源の熱影響による誘電体フィルムの熱ダメージを軽減し、誘電体フィルムの劣化を抑制することができる。
【0026】
さらに、本発明においては、蒸着源の坩堝(るつぼ)内で亜鉛とマグネシウムを混合状態とした上で蒸発させ、誘電体フィルム上の蒸着電極上に蒸着する。誘電体フィルム上のアルミニウムの蒸着電極に対して亜鉛とマグネシウムとを含む低抵抗部を金属蒸着によって形成するのに、亜鉛の蒸着とマグネシウムの蒸着とを前後して層状に形成したり、あるいはマグネシウムの蒸着と亜鉛の蒸着とを前後して層状に形成する場合に比べて、亜鉛とマグネシウムが混在するかたちで蒸着して一挙に形成するようにしている。亜鉛の蒸着とマグネシウムの蒸着とを個別に実施する場合は、蒸着源の坩堝および加熱源、冷却部、制御部などを別個に必要とするが、混合蒸着であればそれらの設備を単一化ないし共通化することが可能となり、製造設備をその規模(コスト、設置スペース)において縮小化することができる。
【0027】
なお、低抵抗部を構成する亜鉛とマグネシウムとの蒸着金属において、マグネシウムの含有量が10〜50重量%に設定するのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、誘電体フィルムに対する低抵抗部の密着性を向上させ、両者間での空隙の発生ひいては部分放電を防止し、誘電体フィルムの絶縁性能の低下(フィルム端部の集中破壊)を確実に防止するため、金属化フィルムコンデンサの寿命延長に効果を発揮する。さらに、亜鉛とマグネシウムとを含む低抵抗部を形成するに亜鉛の蒸着源とマグネシウムの蒸着源とを共有一体化してあるので、製造設備(コスト、設置スペース)を小規模化できるとともに、蒸着源による熱ダメージを軽減して誘電体フィルムの信頼性を向上することができる
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施例における金属化フィルムコンデンサの構造を概略的に示す断面図
図2】一般的な金属化フィルムコンデンサの構造を概略的に示す断面図
図3】第1の従来例の金属化フィルムコンデンサの要部の構造を示す断面図
図4】第2の従来例の金属化フィルムコンデンサの要部の構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、上記構成の本発明の金属化フィルムコンデンサにつき、その実施の形態を具体的な実施例のレベルで詳しく説明する。
【0031】
図1は本発明の実施例における金属化フィルムコンデンサの構造を概略的に示す断面図である。図1において、1は第1の金属化フィルム、2は第2の金属化フィルム、1a,2aは誘電体フィルムとしてのポリプロピレンフィルム、1b,2bはアルミニウムを主成分とする蒸着電極、1c,2cは膜厚を厚くした低抵抗部、1d,2dは絶縁マージン、3Aは陽極側の電極引出し部(メタリコン)、3Bは陰極側の電極引出し部、4はコンデンサ素子、5Aは陽極側の外部引き出し端子、5Bは陰極側の外部引き出し端子である。
【0032】
第1の金属化フィルム1は、ポリプロピレンフィルム1aのフィルム面上にアルミニウムを主成分とする蒸着電極1bが形成され、さらに蒸着電極1bの幅方向の一端側の表面に膜厚を厚くした低抵抗部1cが形成されたものである。同様に、第2の金属化フィルム2は、ポリプロピレンフィルム2aのフィルム面上にアルミニウムを主成分とする蒸着電極2bが形成され、さらに蒸着電極2bの幅方向の他端側の表面に膜厚を厚くした低抵抗部2cが形成されたものである。第1の金属化フィルム1における低抵抗部1cと第2の金属化フィルム2における低抵抗部2cとは、幅方向(コンデンサ素子4の軸方向)で互いに反対側に位置している。
【0033】
第1の金属化フィルム1と第2の金属化フィルム2とが重ね合わされた上で多重に巻回されて円筒状にされ、さらに直径方向にプレスして断面小判形の扁平柱状体に成形される。その軸方向の一端および他端のそれぞれにおいて亜鉛(Zn)などの金属溶射により陽極側の電極引出し部3Aと陰極側の電極引出し部3Bを接続することにより、コンデンサ素子4を構成している。
【0034】
第1の金属化フィルム1の場合、低抵抗部1cに対して幅方向の反対側の端部において蒸着電極1bが形成されていない絶縁マージン1dが確保されている。これは、蒸着電極1bが陰極側の電極引出し部3Bに対して非接続の絶縁状態を保つためである。第1の金属化フィルム1における蒸着電極1bと低抵抗部1cは陽極側の電極引出し部3Aに対して電気的に接続される。一方、第2の金属化フィルム2の場合、低抵抗部2cに対して幅方向の反対側の端部において蒸着電極2bが形成されていない絶縁マージン2dが確保されている。これは、蒸着電極2bが陽極側の電極引出し部3Aに対して非接続の絶縁状態を保つためである。第2の金属化フィルム2における蒸着電極2bと低抵抗部2cは陰極側の電極引出し部3Bに対して電気的に接続される。このような接続形態は扁平柱状体のコンデンサ素子4の各周回部分で重ね合わされている第1および第2の金属化フィルム1,2のそれぞれに当てはまる。
【0035】
そして、コンデンサ素子4の陽極側の電極引出し部3Aに対して陽極側の外部引き出し端子5Aが接続され、陰極側の電極引出し部3Bに対して陰極側の外部引き出し端子5Bが接続されて金属化フィルムコンデンサが構成されている。
【0036】
上記構成の金属化フィルムコンデンサにあっては、誘電体フィルム(1a,2a)がポリプロピレンフィルムで構成され、蒸着電極1a,2aが主成分をアルミニウムとする蒸着膜として形成され、さらに低抵抗部1c,2cが亜鉛とマグネシウムとを含有する蒸着金属で構成されている。
【0037】
低抵抗部1c,2cを構成する亜鉛とマグネシウムとの混合割合については、マグネシウムの含有量を10〜50重量%、亜鉛の含有量を90〜50重量%とするのが好ましい。マグネシウムの含有量を10重量%以上とすることにより、金属化フィルムコンデンサの寿命レベルを向上させることができる。また、マグネシウムの含有量を50重量%以下とすることにより、耐電流性能の低下を防止することができる。
【0038】
金属化フィルムを製造する蒸着装置にあっては、巻き出しロールから繰り出された未蒸着のポリプロピレンフィルムが大径円筒状の冷却キャンに案内されて通過するときに、その下方にあるアルミニウムの蒸着源から蒸発されるアルミニウムの微粒子がフィルム幅方向一端部の絶縁マージン領域1d,2dを除いてほぼ全幅にわたってポリプロピレンフィルム上に冷却付着される。引き続いて冷却キャンの回転方向下手側にある亜鉛・マグネシウムの混合蒸着源から蒸発される亜鉛・マグネシウムの微粒子が絶縁マージン領域1d,2dとは反対側のフィルム幅方向端部の狭い領域においてポリプロピレンフィルム上のアルミニウム蒸着金属1b,2bの上に冷却付着され、低抵抗部1c,2cを形成する。
【0039】
亜鉛・マグネシウムの混合蒸着源は、亜鉛の蒸着源とマグネシウムの蒸着源とを分離することなく単一の蒸着源としたものである。
【0040】
冷却キャンを通過して巻き取りロールに巻き取られ、金属化フィルムが作製される。第1の金属化フィルム1と第2の金属化フィルム2とでは亜鉛・マグネシウムの微粒子からなる低抵抗部1c,2cの位置がフィルム幅方向で互いに反対側とされる。
【0041】
そして、第1の金属化フィルム1と第2の金属化フィルム2とを重ね合わせた状態で巻回し、得られた巻回体の軸方向の一端および他端にそれぞれ陽極側および陰極側の電極引出し部3A,3Bを接続してコンデンサ素子4を作製する。さらに、コンデンサ素子4の陽極側および陰極側の各電極引出し部3A,3Bにそれぞれ極性を対応させて陽極側および陰極側の外部引き出し端子5A,5Bを接続し、金属化フィルムコンデンサを得る。
【0042】
以上のように、亜鉛の蒸着源とマグネシウムの蒸着源とを分離することなく単一の蒸着源である亜鉛・マグネシウムの混合蒸着源としたので、両蒸着源を別個に配置するものに比べて製造設備の規模(コスト、設置スペース)の縮小化を図ることができる。
【0043】
加えて、亜鉛の蒸着源とマグネシウムの蒸着源とを共有一体化してあるので、蒸着源の熱影響によるポリプロピレンフィルム等の誘電体フィルムの熱ダメージが軽減される(フィルムの劣化抑制)。誘電体フィルムに対する熱ダメージの抑制は、比較的熱に弱い誘電体フィルムに対する信頼性の向上に寄与する。
【0044】
また、低抵抗部を亜鉛・マグネシウムの混合蒸着層で形成することにより、低抵抗部と誘電体フィルムとの界面での空隙の発生ひいては空隙での部分放電が防止され、フィルム端部の集中破壊が確実に防止される。すなわち、金属化フィルムコンデンサの寿命延長に貢献することができる。
【0045】
本実施例では、誘電体フィルムにポリプロピレンフィルムを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなど公知のフィルムを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、金属化フィルムコンデンサに関して、誘電体フィルムに対する低抵抗部の密着性を向上させ、両者間での空隙の発生ひいては部分放電を防止し、誘電体フィルムの絶縁性能の低下を確実に防止する技術として有用である。また、蒸着源を簡素化し、製造設備を小規模化する技術として有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 第1の金属化フィルム
2 第2の金属化フィルム
1a,2a ポリプロピレンフィルム(誘電体フィルム)
1b,2b アルミニウムを主成分とする蒸着電極
1c,2c 低抵抗部(亜鉛とマグネシウムと亜鉛とを含有する蒸着金属)
3A 陽極側の電極引出し部
3B 陰極側の電極引出し部
4 コンデンサ素子
5A 陽極側の外部引き出し端子
5B 陰極側の外部引き出し端子
図1
図2
図3
図4