特許第6742902号(P6742902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742902
(24)【登録日】2020年7月31日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】高密度細胞バンキングの方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20200806BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20200806BHJP
   C12M 3/06 20060101ALN20200806BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20200806BHJP
【FI】
   C12N1/02
   C12N5/10
   !C12M3/06
   !C12M1/00 A
【請求項の数】17
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-502533(P2016-502533)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公表番号】特表2016-512684(P2016-512684A)
(43)【公表日】2016年5月9日
(86)【国際出願番号】US2014027757
(87)【国際公開番号】WO2014143691
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月10日
(31)【優先権主張番号】61/793,021
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】シャオシア・ジン
(72)【発明者】
【氏名】ハオディ・ドン
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・ブサー
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−525984(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/091248(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/128703(WO,A1)
【文献】 特表2012−531930(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/006461(WO,A1)
【文献】 Seth G, et al.,Development of a new bioprocess scheme using frozen seed train intermediates to initiate CHO cell culture manufacturing campaigns.,Biotechnol Bioeng.,2013年 1月 4日,Vol.110, No.5,p.1376-1385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)増殖培地を培養物から連続的に除去し、新鮮な増殖培地と取り替えることによって灌流バイオリアクタにおいて第1の細胞密度まで細胞を培養する工程であって、該バイオリアクタが、フィルタを含む交互接線流ろ過システムを含む細胞保持システムに連結されている、前記工程;
b)細胞保持システムに連結された灌流バイオリアクタにおいて培養された該細胞を非遠心分離濃縮する工程であって、該細胞が、該フィルタを用いて該培養物から増殖培地を除去し、増殖培地の量を減らすことによって第1の細胞密度よりも高い第2の細胞密度まで濃縮され、1×108細胞/mLの濃縮された細胞集団が製造される、前記工程;
c)該濃縮された細胞集団を凍結保存することにより、高密度凍結細胞バンクを製造する工程
を含み、該高密度凍結細胞バンクが、少なくとも90%の解凍後生存率を有し、該培養物のpHおよびDOが、自動化されていない方法によって制御され、工程a)の間、該バイオリアクタが、5°〜10°の揺動角度により5rpm〜22rpmで揺動され、工程a)の間に培養物のDOが≦45%となった場合、該バイオリアクタが、12°の揺動角度により25rpmで揺動され、濃縮工程b)の間、該バイオリアクタが、5°〜8°の揺動角度により5rpm〜15rpmで揺動され、第1の細胞密度が約30分以内に第2の細胞密度まで濃縮され、第1の細胞密度が第2の細胞密度を達成するよう約4倍濃縮される、高密度凍結細胞バンクを製造するための非遠心分離方法。
【請求項2】
フィルタは、少なくとも0.3mの表面積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フィルタは、0.2μm、0.4μm、および0.65μmからなる群より選択される孔径を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記凍結保存工程は、濃縮された細胞集団に5v/v%から10v/v%の最終濃度までDMSOを加える工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記凍結保存工程は、凍結保存条件下での貯蔵のためのコンテナにおいて、濃縮された
細胞集団の少なくとも一部を凍結する工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
コンテナはバイアル瓶である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
コンテナはクライオバッグである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
灌流バイオリアクタの灌流速度は、0.02nL/細胞/日から0.5nL/細胞/日の間である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
灌流バイオリアクタの細胞培養物は、6.8から7.2の間のpHを有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
灌流バイオリアクタの細胞培養物は、少なくとも30%の溶存酸素濃度を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
灌流バイオリアクタはフレキシブルバッグバイオリアクタである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
高密度凍結細胞バンクは、少なくとも95%の解凍後生存率を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
細胞は哺乳動物細胞である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
細胞はトランスフェクトされた細胞である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
a)増殖培地を培養物から連続的に除去し、新鮮な増殖培地と取り替えることによって、灌流バイオリアクタにおいて細胞を1×108細胞/mL未満の細胞密度まで培養する
工程であって、該灌流バイオリアクタが、フィルタを有する交互接線流ろ過システムを含む細胞保持システムに連結されており、該バイオリアクタが、フレキシブルバッグバイオリアクタを含み、該フィルタが、少なくとも0.3m2のフィルタ表面積および少なくと
も50kDaのMWCOサイズを有する、前記工程;
b)細胞保持システムに連結された灌流バイオリアクタにおいて培養された該細胞を非遠心分離濃縮する工程であって、該細胞が、交互接線流ろ過システムを用いて該培養物から増殖培地を連続的に除去し、増殖培地の量を減らすことによって濃縮され、1.0×108細胞/mLの密度を有する濃縮された細胞集団が製造される、前記工程;
c)高密度凍結細胞バンクを製造するために該濃縮された細胞集団を凍結保存する工程であって、該濃縮された細胞集団に5v/v%から10v/v%の最終濃度までDMSOを加える工程を含む、前記工程
を含み、
該高密度凍結細胞バンクが、108細胞/mLの細胞密度を有し、該高密度凍結細胞バ
ンクが、少なくとも90%の解凍後生存率を有し、該培養物のpHおよびDOが、自動化されていない方法によって制御され、工程a)の間、該バイオリアクタが、5°〜10°の揺動角度により5rpm〜22rpmで揺動され、工程a)の間に培養物のDOが≦45%となった場合、該バイオリアクタが、12°の揺動角度により25rpmで揺動され、濃縮工程b)の間、該バイオリアクタが、5°〜8°の揺動角度により5rpm〜15rpmで揺動され、第1の細胞密度が約30分以内に第2の細胞密度まで濃縮され、第1の細胞密度が第2の細胞密度を達成するよう約4倍濃縮される、高密度凍結細胞バンクを製造するための非遠心分離方法。
【請求項16】
交互接線流ろ過システムが、交互接線流ろ過4(ATF4)システムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
交互接線流ろ過システムが、交互接線流ろ過4(ATF4)システムを含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2013年3月15日に出願された米国仮出願第61/793,021号に対する優先権を主張するものであり、なお、当該仮出願の内容は、あらゆる目的のために、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
従来の細胞バンキングは、治療関連タンパク質の製造を含むいくつかの用途での使用のために解凍され得る凍結された特性解析済みの細胞のストックを維持するために、広く使用されている。典型的には、凍結保存されたストックは、より低い密度において維持されるか、または貯蔵のためにより高い密度のアリコートを作製するために遠心分離される。より低い密度のストックは、大容量の培養物の効率的な播種が可能ではなく、その一方で、遠心分離ベースの濃縮方法は、細胞に対して非常に損傷を与え得る(凍結保存プロセスの際にさらに壊れやすくなるであろう)。したがって、改良された細胞バンキングの方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本開示は、細胞バンクの作製のための改良された方法を提供する。ある特定の態様において、本発明の細胞バンク化プロセスは、生産細胞培養における後の使用のために素晴らしい細胞生存率を維持しつつ予想外に高い細胞密度での凍結保存を可能にする、細胞の灌流培養技術および非遠心分離濃縮を採用する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって、一態様において、本発明は、以下の工程:a)細胞保持システムに連結されている灌流バイオリアクタにおいて細胞を培養する工程;b)当該細胞を非遠心分離濃縮することにより、濃縮された細胞集団を製造する工程;およびc)当該濃縮された細胞集団を凍結保存することにより、高密度凍結細胞バンクを製造する工程、を含む、高密度凍結細胞バンクを製造するための非遠心分離方法を提供する。
【0005】
一実施形態において、当該細胞保持システムは、フィルタを含む交互接線流ろ過システムを含む。別の実施形態において、当該フィルタは、少なくとも0.3mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約0.5から約1.0mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約0.7から約0.8mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約2.0から約3.0mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約4から約5mの表面積を有する。
【0006】
一実施形態において、当該フィルタは、約0.2μmの孔径を有する。
【0007】
一実施形態において、当該濃縮された細胞集団は、少なくとも約1×10細胞/mLの細胞密度を有する。
【0008】
一実施形態において、当該濃縮された細胞集団は、約1×10細胞/mLの細胞密度を有する。
【0009】
一実施形態において、凍結保存工程は、濃縮された細胞集団に約5v/v%から約10v/v%の最終濃度までDMSOを加える工程を含む。別の実施形態において、凍結保存工程は、凍結保存条件下において、貯蔵にとって適切なコンテナにおいて、濃縮された細胞集団の少なくとも一部を凍結する工程を含む。
【0010】
一実施形態において、当該コンテナはバイアルである。一実施形態において、当該コンテナは、少なくとも2mLの容積を有する。一実施形態において、当該コンテナは、約5mLの容積を有する。
【0011】
一実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、約4.5×10の細胞を含む。
【0012】
一実施形態において、当該コンテナはクライオバッグである。別の実施形態において、クライオバッグは、約5から約150mLの容積を有する。
【0013】
一実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、約1×10細胞/mLの細胞密度を有する。
【0014】
一実施形態において、灌流バイオリアクタの灌流速度は、少なくとも約0.2nL/細胞/日である。
【0015】
一実施形態において、灌流バイオリアクタ細胞培養は、約7のpHおよび少なくとも約40%の溶存酸素濃度を有する。
【0016】
一実施形態において、当該バイオリアクタは、フレキシブルバッグバイオリアクタである。別の実施形態において、当該フレキシブルバッグバイオリアクタは、10Lの容積を有する。別の実施形態において、当該フレキシブルバッグバイオリアクタは、少なくとも20Lの容積を有する。別の実施形態において、当該フレキシブルバッグバイオリアクタはさらに、少なくとも1つの浸漬管を含む。
【0017】
一実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、少なくとも60%の解凍後生存率を有する。別の実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、少なくとも90%の解凍後生存率を有する。別の実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、少なくとも95%の解凍後生存率を有する。
【0018】
一実施形態において、細胞は哺乳動物細胞である。別の実施形態において、当該哺乳動物細胞は、CHO、CHO−DBX11、CHO−DG44、CHO−S、CHO−K1、Vero、BHK、HeLa、COS、MDCK、HEK−293、NIH−3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT20、T47D、NS0、CRL7030、HsS78Bst細胞、PER.C6、SP2/0−Ag14、およびハイブリドーマ細胞からなる群より選択される。
【0019】
一実施形態において、細胞はトランスフェクトされた細胞である。
【0020】
一態様において、本発明は、以下の工程:a)交互接線流ろ過システムに連結された灌流バイオリアクタにおいて細胞を培養する工程であって、当該バイオリアクタが、フレキシブルバッグバイオリアクタを含み、当該フィルタが、少なくとも0.3mのフィルタ表面積および少なくとも50kDaのMWCOサイズを有する、工程;b)約1×10細胞/mLの密度を有する濃縮された細胞集団を製造するために、交互接線流ろ過システムを使用して当該細胞を非遠心分離濃縮する工程;c)高密度凍結細胞バンクを製造するために当該濃縮された細胞集団を凍結保存する工程であって、当該濃縮された細胞集団に約5v/v%から約10v/v%の最終濃度までDMSOを加える工程を含む、工程、を含み、当該高密度凍結細胞バンクが、約10細胞/mLの細胞密度を有する、高密度凍結細胞バンクを製造するための非遠心分離方法を提供する。
【0021】
一実施形態において、培養物のpHおよびDOは、自動化された方法によって制御される。
【0022】
一実施形態において、培養物のpHおよびDOは、自動化されていない方法によって制御される。別の実施形態において、当該pHおよびDOは、以下:培養物に導入されるガスの混合物の調節、バイオリアクタの揺動速度の調節、またはバイオリアクタの揺動角度の調節、のうちの任意の1つまたはそれ以上により制御される。
【0023】
一実施形態において、当該バイオリアクタは、8°の揺動角度により15rpmにおいて揺動される。
【0024】
したがって、一態様において、本発明は、以下の工程:a)細胞保持システムに連結されている灌流バイオリアクタにおいて細胞を培養する工程;b)当該細胞を非遠心分離濃縮することにより、濃縮された細胞集団を製造する工程;およびc)当該濃縮された細胞集団を凍結保存することにより、高密度凍結細胞バンクを製造する工程、を含む、高密度凍結細胞バンクを製造するための非遠心分離方法を提供する。
【0025】
一実施形態において、当該細胞保持システムは、フィルタを含む交互接線流ろ過システムを含む。別の実施形態において、当該フィルタは、少なくとも0.3mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約0.5から約1.0mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約0.7から約0.8mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約2.0から約3.0mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約4から約5mの表面積を有する。
【0026】
一実施形態において、当該フィルタは、約0.2μmの孔径を有する。
【0027】
一実施形態において、当該濃縮された細胞集団は、少なくとも約1.1×10細胞/mLの細胞密度を有する。
【0028】
一実施形態において、当該濃縮された細胞集団は、約1.1×10細胞/mLの細胞密度を有する。
【0029】
一実施形態において、凍結保存工程は、濃縮された細胞集団に約5v/v%から約10v/v%の最終濃度までDMSOを加える工程を含む。別の実施形態において、凍結保存工程は、凍結保存条件下において、貯蔵にとって適切なコンテナにおいて、濃縮された細胞集団の少なくとも一部を凍結する工程を含む。
【0030】
一実施形態において、当該コンテナはバイアル瓶である。一実施形態において、当該コンテナは、少なくとも2mLの容積を有する。一実施形態において、当該コンテナは、約5mLの容積を有する。
【0031】
一実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、約4.5×10の細胞を含む。
【0032】
一実施形態において、当該コンテナはクライオバッグである。別の実施形態において、クライオバッグは、約5から約150mLの容積を有する。
【0033】
一実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、約1×10細胞/mLの細胞密度を有する。
【0034】
一実施形態において、灌流バイオリアクタの灌流速度は、少なくとも約0.2nL/細胞/日である。
【0035】
一実施形態において、灌流バイオリアクタ細胞培養は、約7のpHおよび少なくとも約40%の溶存酸素濃度を有する。
【0036】
一実施形態において、当該バイオリアクタは、フレキシブルバッグバイオリアクタである。別の実施形態において、当該フレキシブルバッグバイオリアクタは、10Lの容積を有する。別の実施形態において、当該フレキシブルバッグバイオリアクタは、少なくとも20Lの容積を有する。別の実施形態において、当該フレキシブルバッグバイオリアクタはさらに、少なくとも1つの浸漬管を含む。
【0037】
一実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、少なくとも60%の解凍後生存率を有する。別の実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、少なくとも90%の解凍後生存率を有する。別の実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、少なくとも95%の解凍後生存率を有する。
【0038】
一実施形態において、細胞は哺乳動物細胞である。別の実施形態において、当該哺乳動物細胞は、CHO、CHO−DBX11、CHO−DG44、CHO−S、CHO−K1、Vero、BHK、HeLa、COS、MDCK、HEK−293、NIH−3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT20、T47D、NS0、CRL7030、HsS78Bst細胞、PER.C6、SP2/0−Ag14、およびハイブリドーマ細胞からなる群より選択される。
【0039】
一実施形態において、細胞はトランスフェクトされた細胞である。
【0040】
一態様において、本発明は、以下の工程:a)交互接線流ろ過システムに連結された灌流バイオリアクタにおいて細胞を培養する工程であって、当該バイオリアクタが、フレキシブルバッグバイオリアクタを含み、当該フィルタが、少なくとも0.3mのフィルタ表面積および少なくとも50kDaのMWCOサイズを有する、工程;b)約1.1×10細胞/mLの密度を有する濃縮された細胞集団を製造するために、交互接線流ろ過システムを使用して当該細胞を非遠心分離濃縮する工程;c)高密度凍結細胞バンクを製造するために当該濃縮された細胞集団を凍結保存する工程であって、当該濃縮された細胞集団に約5v/v%から約10v/v%の最終濃度までDMSOを加える工程を含む、工程、を含み、当該高密度凍結細胞バンクが、約10細胞/mLの細胞密度を有する、高密度凍結細胞バンクを製造するための非遠心分離方法を提供する。
【0041】
一実施形態において、培養物のpHおよびDOは、自動化された方法によって制御される。
【0042】
一実施形態において、培養物のpHおよびDOは、自動化されていない方法によって制御される。別の実施形態において、当該pHおよびDOは、以下:培養物に導入されるガスの混合物の調節、バイオリアクタの揺動速度の調節、またはバイオリアクタの揺動角度の調節、のうちの任意の1つまたはそれ以上により制御される。
【0043】
一実施形態において、当該バイオリアクタは、8°の揺動角度により15rpmにおいて揺動される。
【0044】
一態様において、本発明は、以下の工程:a)灌流バイオリアクタにおいて細胞を培養する工程であって、当該バイオリアクタが、効率的な混合およびガス交換のために撹拌され、かつ当該バイオリアクタが、細胞保持システムに連結されている、工程;b)当該細胞を非遠心分離濃縮することにより、濃縮された細胞集団を製造する工程;およびc)当該濃縮された細胞集団を凍結保存することにより、高密度凍結細胞バンクを製造する工程、を含む、高密度凍結細胞バンクを製造するための非遠心分離方法を提供する。
【0045】
一実施形態において、当該細胞保持システムは、フィルタを含む交互接線流ろ過システムを含む。別の実施形態において、当該フィルタは、少なくとも0.3mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約0.5から約1.0mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約0.7から約0.8mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約2.0から約3.0mの表面積を有する。別の実施形態において、当該フィルタは、約4から約5mの表面積を有する。
【0046】
一実施形態において、当該フィルタは、0.2μm、0.4μm、および0.65μmからなる群より選択される孔径を有する。
【0047】
一実施形態において、当該濃縮された細胞集団は、1.0×10細胞/mL、1.1×10細胞/mL、1.2×10細胞/mL、1.3×10細胞/mL、1.5×10細胞/mL、1.7×10細胞/mL、および2.0×10細胞/mLからなる群より選択される細胞密度を有する。
【0048】
一実施形態において、凍結保存工程は、濃縮された細胞集団に約5v/v%から約10v/v%の最終濃度までDMSOを加える工程を含む。別の実施形態において、凍結保存工程は、凍結保存条件下において、貯蔵にとって適切なコンテナにおいて、濃縮された細胞集団の少なくとも一部を凍結する工程を含む。
【0049】
一実施形態において、当該コンテナはバイアル瓶である。一実施形態において、当該コンテナは、少なくとも2mLの容積を有する。一実施形態において、当該コンテナは、約5mLの容積を有する。
【0050】
一実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、約4.5×10の細胞を含む。
【0051】
一実施形態において、当該コンテナはクライオバッグである。別の実施形態において、クライオバッグは、約5から約150mLの容積を有する。
【0052】
一実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、約1×10細胞/mLの細胞密度を有する。
【0053】
一実施形態において、灌流バイオリアクタでの灌流速度は、約0.02nL/細胞/日から約0.5nL/細胞/日の間である。
【0054】
一実施形態において、灌流バイオリアクタの細胞培養物は、約6.8から約7.2の間のpHを有する。
【0055】
一実施形態において、灌流バイオリアクタの細胞培養物は、少なくとも約30%の溶存酸素濃度を有する。
【0056】
一実施形態において、当該バイオリアクタは、フレキシブルバッグバイオリアクタである。別の実施形態において、当該フレキシブルバッグバイオリアクタは、10Lの容積を有する。別の実施形態において、当該フレキシブルバッグバイオリアクタは、少なくとも20Lの容積を有する。別の実施形態において、当該フレキシブルバッグバイオリアクタはさらに、少なくとも1つの浸漬管を含む。
【0057】
一実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、少なくとも60%の解凍後生存率を有する。別の実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、少なくとも90%の解凍後生存率を有する。別の実施形態において、当該高密度凍結細胞バンクは、少なくとも95%の解凍後生存率を有する。
【0058】
一実施形態において、細胞は哺乳動物細胞である。別の実施形態において、当該哺乳動物細胞は、CHO、CHO−DBX11、CHO−DG44、CHO−S、CHO−K1、Vero、BHK、HeLa、COS、MDCK、HEK−293、NIH−3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT20、T47D、NS0、CRL7030、HsS78Bst細胞、PER.C6、SP2/0−Ag14、およびハイブリドーマ細胞からなる群より選択される。
【0059】
一実施形態において、細胞はトランスフェクトされた細胞である。
【0060】
一態様において、本発明は、以下の工程:a)交互接線流ろ過システムに連結された灌流バイオリアクタにおいて細胞を培養する工程であって、当該バイオリアクタが、フレキシブルバッグバイオリアクタを含み、当該フィルタが、少なくとも0.3mのフィルタ表面積および少なくとも50kDaのMWCOサイズを有する、工程;b)約1.0×10細胞/mLを超える密度を有する濃縮された細胞集団を製造するために、交互接線流ろ過システムを使用して当該細胞を非遠心分離濃縮する工程;c)高密度凍結細胞バンクを製造するために当該濃縮された細胞集団を凍結保存する工程であって、当該濃縮された細胞集団に約5v/v%から約10v/v%の最終濃度までDMSOを加える工程を含む、工程、を含み、当該高密度凍結細胞バンクが、約10細胞/mLの細胞密度を有する、高密度凍結細胞バンクを製造するための非遠心分離方法を提供する。
【0061】
一実施形態において、培養物のpHおよびDOは、自動化された方法によって制御される。
【0062】
一実施形態において、培養物のpHおよびDOは、自動化されていない方法によって制御される。別の実施形態において、当該pHおよびDOは、以下:培養物に導入されるガスの混合物の調節、バイオリアクタの揺動速度の調節、またはバイオリアクタの揺動角度の調節、のうちの任意の1つまたはそれ以上により制御される。
【0063】
一実施形態において、当該バイオリアクタは、少なくとも8°の揺動角度により少なくとも15rpmの速度において揺動される。
【0064】
一実施形態において、当該バイオリアクタは、8°の揺動角度により15rpmの速度において揺動される。
【0065】
一実施形態において、当該バイオリアクタは、10°の揺動角度により22rpmにおいて揺動される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】高密度細胞精子バンキングプロセスの図。
図2】異なる細胞保持方法を使用するWAVE(登録商標)灌流培養の細胞増殖プロファイルを表すチャート。
図3】増殖の間に複数の時点において収穫した培養物を使用して作製したミニバンクのバンキング後性能(生存細胞密度(Xv)、生存率)のグラフ。
図4】増殖の間に複数の時点において収穫した培養物を使用して作成したミニバンクのバンキング後性能(後期アポトーシス)のグラフ。
図5】自動化されたpHおよびDOフィードバック制御の有無における細胞増殖を示すチャート。
図6】自動化されたpHおよびDOフィードバック制御の有無におけるpHおよびDOプロファイルを示すチャート。
図7A】濃縮前、濃縮後、DMSOへの0秒から120秒の暴露後での、異なるステージにおける細胞の生存細胞密度のチャート。
図7B】濃縮前、濃縮後、DMSOへの0秒から120秒の暴露後での、異なるステージにおける細胞の後期アポトーシスのチャート。
図8A】標準的な密度のバンクと比較した、rCHO細胞株1の高密度バンクのバンキング後性能のチャート。
図8B】標準的な密度のバンクと比較した、rCHO細胞株1の高密度バンクの後期アポトーシスのチャート。
図9A】標準的な密度のバンクと比較した、rCHO細胞株2の高密度バンクのバンキング後性能のチャート。
図9B】標準的な密度のバンクと比較した、rCHO細胞株2の高密度バンクの後期アポトーシスのチャート。
図10A】標準的な密度のバンクと比較した、rCHO細胞株3の高密度バンクのバンキング後性能のチャート。
図10B】標準的な密度のバンクと比較した、rCHO細胞株3の高密度バンクの後期アポトーシスのチャート。
図11】異なる細胞保持システムを使用した、経時での培養物の濃度を示すチャート。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本開示は、非遠心分離細胞保持装置に連結された灌流培養システムの使用を含む高密度細胞精子バンキングの方法を提供する。
【0068】
I.定義
本明細書において使用される場合、用語「回分培養」は、ある量の新鮮な培養培地に、すぐに対数増殖期に入る細胞が播種され、当該培養物の増殖培地が、連続的に除去され新鮮な培地と取り替えられるわけではない、細胞培養技術を意味する。
【0069】
本明細書において使用される場合、用語「流加培養」は、初めにある量の新鮮な培養培地に細胞が播種され、培養の終了前の周期的な細胞および/または産生物の収穫の有無において、培養プロセスの間に、当該培養物に追加の培養栄養物が(連続的にもしくは離散的増分において)供給される、細胞培養技術を意味する。
【0070】
本明細書において使用される場合、用語「灌流培養」は、ある量の新鮮な培地に、(上記のように)すぐに対数増殖期に入る細胞が播種され、当該増殖培地が、連続的に培養物から除去されて新鮮な培地と取り替えられる、細胞培養技術を意味する。
【0071】
本明細書において使用される場合、用語「バイオリアクタ」は、細胞を培養するための容器を意味する。
【0072】
一実施形態において、バイオリアクタは、「フレキシブルバッグバイオリアクタ」である。「フレキシブルバッグバイオリアクタ」は、液体培地を受け入れることができ、さらに、コネクタ、ポート、アダプタ、および柔軟な配管を備える無菌チャンバである。一実施形態において、当該チャンバは、プラスチックで作られている。特定の実施形態において、当該チャンバは、多層状に積層化された透明プラスチックで作られている。さらなる特定の実施形態において、当該チャンバは、多層状に積層化された透明なプラスチックで作られており、外側の層が低密度ポリエチレンで作られている、USPクラスVIのエチレン酢酸ビニル/低密度ポリエチレンコポリマーで作られた流体接触層を有する。
【0073】
さらに、当該コネクタ、ポート、およびアダプタは、これらに限定されるわけではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリカーボネートを含む、任意の種類のプラスチックから作られていてもよく、その一方で、配管は、これらに限定されるわけではないが、熱可塑性エラストマまたはシリコーン(例えば、白金−硬化シリコーンなど)を含む、任意の種類のプラスチックから構築されていてもよい。
【0074】
適切な「フレキシブルバッグバイオリアクタ」チャンバは、当技術分野において一般的に見出すことができ、そのようなチャンバとしては、これらに限定されるわけではないが、米国特許第6,544,788号に記載されているものが挙げられ、なお、当該特許は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。
【0075】
当該「フレキシブルバッグバイオリアクタ」チャンバは、培養培地で部分的に満たすことができ、次いで硬くなるまで膨らませることができる。次いで、当該チャンバは、事前設定された揺動角度および事前設定された揺動速度において前後に移動する揺動プラットホーム(例えば、GE Healthcare Life Sciences製のBASE20/50EHT揺動装置など)に位置され得る。この揺動運動は、培養培地に波状の動きを誘起し、撹拌および酸素移動を促進して細胞培養の性能を向上させる。当該事前設定された揺動角度は、少なくとも約4度、例えば、約4度、5度、6度、7度、8度、9度、10度、11度、または12度など、であり得る。さらに、当該事前設定された揺動速度は、少なくとも約6rpm、例えば、約7rpm、8rpm、9rpm、10rpm、11rpm、12rpm、13rpm、14rpm、15rpm、16rpm、17rpm、18rpm、19rpm、20rpm、21rpm、22rpm、23rpm、24rpm、25rpm、26rpm、27rpm、28rpm、29rpm、30rpm、31rpm、32rpm、33rpm、34rpm、35rpm、36rpm、37rpm、38rpm、39rpm、または40rpmなど、の毎分揺動速度(rpm)に設定され得る。特定の実施形態において、毎分揺動速度は、約8rpmである。特定の実施形態において、毎分揺動速度は、約15rpmである。別の特定の実施形態において、毎分揺動速度は、約22rpmである。
【0076】
本明細書において使用される場合、用語「細胞保持システム」は、フィルタの使用によって培地および培地の老廃物から細胞を分離する能力を有する全ての装置を意味する。フィルタは、渦巻形、管形、またはシート状を含む任意の形状の、膜、セラミック、または金属フィルタを含み得る。フィルタは、様々な表面積であってもよい。例えば、フィルタの表面積は、約0.3mから約5m、例えば、約0.3m、0.4m、0.5m、0.6m、0.7m、0.77m、0.8m、0.9m、1.0m、1.1m、1.2m、1.3m、1.4m、1.5m、1.6m、1.7m、1.8m、1.9m、2.0m、2.1m、2.2m、2.3m、2.4m、2.5m、2.6m、2.7m、2.8m、2.9m、3.0m、3.1m、3.2m、3.3m、3.4m、3.5m、3.6m、3.7m、3.8m、3.9m、4.0m、4.1m、4.2m、4.3m、4.4m、4.5m、4.6m、4.7m、4.8m、4.9m、または約5mであり得る。ある特定の実施形態において、フィルタモジュールは、約10キロドルトン(kDa)から約100kDaの分画分子量(MWCO)サイズを有し、例えば、それは、約10kDa、20kDa、30kDa、40kDa、50kDa、60kDa、70kDa、80kDa、90kDa、または100kDaである。他の実施形態において、当該フィルタモジュールは、約0.1μmから約3μm、例えば、約0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、0.65μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、1.0μm、1.1μm、1.2μm、1.3μm、1.4μm、1.5μm、1.6μm、1.7μm、1.8μm、1.9μm、2.0μm、2.1μm、2.2μm、2.3μm、2.4μm、2.5μm、2.6μm、2.7μm、2.8μm、2.9μm、または約3.0μmのメッシュサイズもしくは孔径を有する。
【0077】
本明細書において使用される場合、用語「凍結保存」は、時間または酵素的活性もしくは化学的活性に起因するダメージを受けやすい細胞、組織、または任意の他の物質を、氷点下温度に冷却して貯蔵することによって保存する、プロセスを意味する。
【0078】
本明細書において使用される場合、用語「精子バンキング」は、細胞を凍結防止剤(例えば、ヒドロキシエチルデンプン(HES)の有無におけるDMSOなど)と混合して、凍結保存条件化での貯蔵に適切なコンテナ内に装入する技術を意味する。次いで、これらのコンテナは、当技術分野において周知の技術を用いて凍結され、典型的には約−130℃から約−195℃の間の低温で貯蔵される。当該プロセスによって得られる細胞の収集物が、細胞バンクである。
【0079】
一実施形態において、当該細胞バンクは、高密度細胞バンクである。本明細書において使用される場合、用語「高密度細胞バンク」は、高密度で凍結されている細胞の精子バンク化されたアリコートを意味し、この場合、当該密度は、少なくとも約7×10生存細胞/mLであり、例えば、当該密度は、約7×10生存細胞/mL、8×10生存細胞/mL、9×10生存細胞/mL、1×10生存細胞/mL、2×10生存細胞/mL、または3×10生存細胞/mLである。当該細胞は、当技術分野において利用可能な任意の方法により、凍結保存条件下での貯蔵に適切な任意のコンテナ中において凍結され得る。
【0080】
別の実施形態において、当該細胞バンクは、マスターセルバンクである。本明細書において使用される場合、用語「マスターセルバンク」は、単一クローンから増殖させ、貯蔵コンテナに分配され(例えば、単一操作でコンテナに分配され)、上記において説明したような凍結保存条件下において貯蔵されている細胞(例えば、完全に特性解析された細胞)の培養物を意味する。ある特定の実施形態において、当該細胞は、その後の、生産細胞培養およびそれによって産生される治療関連タンパク質のさらなる収穫での使用にとって好適である。
【0081】
別の実施形態において、細胞バンクは、ミニ細胞バンクである。本明細書において使用される場合、用語「ミニバンク」は、(上記において説明したような)「精子バンキング」手順に従って凍結保存されるが細胞バンクを作製するために通常使用されるよりも少ない試料で構成される細胞のアリコートを意味する。このタイプのバンクは、概して、「マスターセルバンク」などの細胞バンクを作製する前に、細胞株の凍結保存のために考えられる条件を最適化するために使用され得る。一例として、「ミニバンク」は、本開示において説明される高密度細胞バンキング手順にとって最適な細胞密度を特定するために使用される。
【0082】
本明細書において使用される場合、用語「凍結保存条件下での貯蔵にとって適切なコンテナ」は、約−130℃から約−195℃の間での細胞貯蔵にとって適切な条件下において使用することができる任意のコンテナを包含する。これらのコンテナとしては、これらに限定されるわけではないが、凍結保存に好適な材料で作製されているバイアル瓶が挙げられる。これらの材料は、ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリエチレン、またはポリプロピレン)を含む。さらに、凍結保存条件を向上させるために、凍結保存バイアル瓶の表面に表面処理を適用してもよい(例えば、吸着および変性を低減する親水性コーティングなど)。例示的実施形態において、当該バイアル瓶は、約0.1mLを超える容積を有し得、例えば、当該バイアル瓶は、約0.1mL、約0.5mL、約0.75mL、約1mL、約2mL、約2.5mL、約5mL、約10mL、約15mL、約20mL、約25mL、または約50mLの容積を有し得る。当該コンテナはクライオバッグであってもよい。
【0083】
本明細書において使用される場合、用語「クライオバッグ」は、液体培地を受け入れることができ、約−130℃から約−195℃の間での細胞貯蔵に対して適切であり、追加的にコネクタ、ポート、アダプタ、および柔軟な配管を備え得る、無菌チャンバである。当該クライオバッグは、これらに限定されるわけではないが、ポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、およびエチレン酢酸ビニル(EVA)など、を含む、任意の適切な材料で構成され得る。例示的なクライオバッグとしては、これらに限定されるわけではないが、KryoSure(登録商標)凍結保存バッグ、PermaLife(商標)バッグ(OriGen Biomedical)、CryoStore凍結バッグ、Freeze−Pak(商標)バイオコンテナが挙げられる。
【0084】
本明細書において使用される場合、用語「振とうフラスコ」は、インキュベートの間、中の培地が絶えず撹拌される培養フラスコとして使用される容器を意味する。
【0085】
本明細書において使用される場合、用語「振とうフラスコシードトレイン」は、最初に細胞のアリコートが振とうフラスコにおいて培養され(播種され)、そこで増殖される細胞増殖の方法を意味する。当該細胞は、それらの増殖速度に従って培養され、通常、バイオリアクタに播種するのに十分なレベルにバイオマスが達するまで、それらの増殖の間、より大きなおよび/または複数の容器へと分割される。
【0086】
本明細書において使用される場合、用語「シード密度」は、フラスコもしくはバイオリアクタが播種される初期細胞密度を意味する。
【0087】
本明細書において使用される場合、用語「治療関連タンパク質」は、マウス、ラット、サル、類人猿、およびヒトなどの哺乳動物を含む動物において、疾患もしくは障害に対する処置を作り出すため、または疾患もしくは障害を処置するために使用することができる、任意のタンパク質を意味する。これらのタンパク質は、これらに限定されるわけではないが、結合ポリペプチド、例えば、モノクローナル抗体、Fc融合タンパク質、抗凝血剤、血液因子、骨形成タンパク質、遺伝子組み換えタンパク質の骨組、酵素、成長因子、ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、および血栓溶解剤など、を含み得る。
【0088】
本明細書において使用される場合、「結合ポリペプチド」は、関心対象の標的抗原(例えば、ヒト抗原)への選択的結合を担う少なくとも1つの結合部位を含有するポリペプチド(例えば、抗体)を意味する。例示的結合部位としては、抗体可変領域、レセプターのリガンド結合部位、またはリガンドのレセプター結合部位が挙げられる。ある特定の態様において、本発明の結合ポリペプチドは、複数の(例えば、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の)結合部位を含む。
【0089】
本明細書において使用される場合、用語「抗体」は、関心対象の抗原(例えば、腫瘍関連抗原)に対する重要な既知の特異的免疫反応活性を有するようなアセンブリ(例えば、完全な抗体分子、抗体断片、またはそれらの変異体)を意味する。抗体および免疫グロブリンは、間に鎖間共有結合の有無における軽鎖および重鎖を含む。脊椎動物系における基本的免疫グロブリンの構造は、比較的よく理解されている。
【0090】
総称「抗体」は、生化学的に区別することができる5つの異なるクラスの抗体を含む。5つ全てのクラスの抗体は、明確に本開示の範囲内であり、以下の説明は、概して、IgGクラスの免疫グロブリン分子を対象としている。IgGに関して、免疫グロブリンは、分子量約23,000ドルトンの2つの同一の軽鎖および分子量53,000〜70,000の2つの同一の重鎖を含む。当該4つの鎖は、ジスルフィド結合によって「Y」字構造に連結されており、この場合、軽鎖は、重鎖を挟み、「Y」字の口部分で始まり可変領域を通って延びる。
【0091】
II.灌流細胞培養
従来の細胞培養は、「回分」培養プロセスを伴う。このタイプの培養では、ある量の新鮮な培地に、すぐに対数増殖期に入る細胞が播種される。これらの細胞が増殖し分裂すると、それらは、培地から利用できる栄養素を消費し、有害な老廃物を排出する。時間と共に、当該培養は、定常期に入り、最終的に減衰期に入るであろう。「回分」培養プロセスに対する修正は、時間をかけてそれをより効率的にしたが、結果として得られる修正回分培養プロトコルは、依然として、結果として急速な増殖および減衰サイクルを生じる。さらに、「回分」培養プロセスは、高密度細胞バンキングを可能にするために必要なレベルの細胞密度に達するための能力が限られている。
【0092】
「流加」培養プロセスは、従来の「回分」培養技術に勝る、細胞培養技術のさらなる改良を意味する。このプロセスは、より高い細胞密度増殖を可能にする一方で、高密度細胞培養の効率的な増殖を可能にするその能力、したがって、高密度細胞バンキングのために効率的に細胞を発生させるその能力は、依然として限られている。
【0093】
好ましい実施形態において、本発明は、灌流培養プロセスを採用する。灌流培養は、ある量の新鮮な培地が、(上記のように)すぐに対数増殖期に入る細胞を播種され、増殖培地が培養物から連続的に除去されて新鮮な培地と取り替えらる、細胞の培養方法である。この方法では、培養物は、絶えず、高濃度の栄養物素を有する新鮮な培地を受け入れ、その一方で、老廃物を含有し、栄養物の濃度が低い培地が除去される。このタイプの培養は、1日あたり少なくとも1つの培養体積が交換され、細胞濃度が従来の回分培養もしくは修正された回分培養において達成されるものよりはるかに高くなり得る(2から10倍以上の増加)、細胞の対数増殖の維持を可能にする。本発明の一実施形態において、細胞特異的灌流速度(CSPR)は、約0.02nL細胞−1−1から約0.5nL細胞−1−1の間であり得、例えば、それは、約0.02nL細胞−1−1、0.05nL細胞−1−1、0.1nL細胞−1−1、0.2nL細胞−1−1、0.3nL細胞−1−1、0.4nL細胞−1−1、または0.5nL細胞−1−1であり得る。特定の実施形態において、灌流培養は、最低1つの浸漬管を伴うバイオリアクタにおいて実施することができる。
【0094】
ある特定の実施形態において、pH、温度、溶存酸素濃度(DO)、および培養物のモル浸透圧濃度は、培養物の健康および生産能を最大化するように調節され得る。培養物のDOおよびpHを制御する方法の1つは、自動化されたフィードバック制御装置によるものである。このタイプの自動化された制御装置は、培養物のpHおよびDOをモニターし調節するためにマイクロプロセッサベースのコンピュータを使用して作動し、それにより細胞増殖のための最適な条件を維持する。しかしながら、これらの自動化されたフィードバック制御システムはコスト高である。したがって、ある特定の実施形態では、これらのパラメータを制御する、自動化されていない方法が採用され得る。一例示的実施形態において、培養物上を流れるガス混合物の調節、WAVE(登録商標)揺動速度の調節、または培養物の揺動角度の調節のうちのいずれかを使用して、選択されたパラメータ(例えば、pHまたはDO)を制御することができる。
【0095】
一実施形態において、1分間あたり約0.2リットル(1pm)の空気流量において、二酸化炭素ガスの開始レベルは、約10%であり、ならびに酸素ガスの開始レベルは、約20%である。pHが約6.9以下の場合、COの設定値は、10%から5%に減らすことができる。それでも、pHが依然として約6.9以下である場合には、COの設定値をさらに、5%から0%に減らすことができる。pHが依然として6.9以下の場合には、灌流速度を上げることができる。DOが約45%以下の場合、Oの設定値を20%から30%に上げるべきである。それでも、DOが約45%以下の場合には、Oレベルを30%から40%に上げるべきであり、揺動速度は、約25rpmに上げるべきであり、ならびに揺動角度は、約12°に変更すべきである。
【0096】
一実施形態において、培養物の揺動速度は、細胞保持システムへの空気の混入を避けるために、最終濃縮工程の間に調節することもできる。
【0097】
i.細胞培養培地
細胞の培養に好適な任意のタイプの細胞培養培地を、本発明の方法において使用することができる。適切な細胞培地を選択するためのガイドラインは当技術分野において周知であり、例えば、Freshney,R.I. Culture of Animal Cells(基本技術のマニュアル)、第4版 2000、Wiley−Lisslの8章および9章、およびDoyle,A.、Griffiths,J.B.、Newell,D.G. Cell & Tissue Culture:Laboratory Procedures 1993、John Wiley & Sonsにおいて提供されている。これらの参考文献のそれぞれは、その全体が本明細書に組み入れられる。例えば、国際特許出願第97/05240号、同第96/26266号、および同第00/11102号、米国特許第6,100,061号、同第6,475,725号、および同第8,084,252号に見られるものなど、動物由来成分不含およびタンパク質不含の条件下での細胞培養物の調製および維持のための、当技術分野のさらなる方法(CHO細胞に関する方法を含む)が存在する。各先行文献は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。本発明の一実施形態において、動物由来成分(ADC)不含の培地を使用することができる。従来の合成の最少培地は、無機塩、アミノ酸、ビタミン、炭水化物源、および水を含み得る。本発明の特定の実施形態において、使用され得る培地は、CD−CHO(GIBCO、Invitrogen Corp.;化学的に定義され、タンパク質、加水分解物質、または由来不明の成分を含まない、動物由来不含培地)である。さらに、当該培地は、グルタミンおよび/またはメトトレキサートあるいは増殖もしくは粘着の役に立ち得る他の因子を含む、追加の成分を含んでいてもよい。特定の実施形態において、当該追加の成分は、約2mMから約8mMの間、例えば、約2mM、約3mM、約4mM、約5mM、約6mM、約7mM、または約8mMにおいて加えられたGLUTAMAX−1またはL−グルタミンであり得る。
【0098】
ii.宿主細胞および発現ベクタ
ある特定の実施形態において、本発明の細胞バンキングプロセスにおいて採用される細胞は、関心対象の治療関連タンパク質もしくは他のポリペプチドの発現のための発現構成体を有する宿主細胞である。関心対象のポリペプチド(例えば、結合ポリペプチド)を発現させるために使用することができる任意の細胞は、本明細書において説明される方法により使用することができる。当該細胞は、場合により、天然由来の核酸配列もしくは組み換え核酸配列、例えば、関心対象のポリペプチドを含有する発現ベクタなど、を含有していてもよい。当該発現ベクタは、場合により、適切な転写制御および翻訳制御を含有していてもよく、ならびに当技術分野において公知の組み換えDNA技術を使用して構成することができる。発現ベクタは、当技術分野において公知の技術によって任意の宿主細胞に移すことができ、次いで、当該形質転換された細胞は、高密度細胞バンクを作製するために本発明の方法により培養することができる。さらに、当該高密度細胞バンクは、関心対象のコードされたタンパク質を産生するために、当技術分野において公知の技術により、解凍および培養することができ、所望であれば、このタンパク質は、その後に精製してもよい。
【0099】
特定の実施形態において、治療関連タンパク質を産生するために、様々なホスト発現系を使用することができる。さらに、当該宿主発現系は、哺乳動物細胞のゲノム由来のプロモータを含有する組み換え発現構成体を有する哺乳動物細胞系(例えば、CHO、CHO−DBX11、CHO−DG44、CHO−S、CHO−K1、Vero、BHK、HeLa、COS、MDCK、HEK−293、NIH−3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT20、T47D、NSO、CRL7030、HsS78Bst細胞、PER.C6、SP2/0−Ag14、およびハイブリドーマ細胞など)であり得る。哺乳動物細胞と併せて、ウイルスベースの発現系も用いることができる(例えば、Loganら,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 8:355−359を参照されたく、なお、当該参考文献は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる)。発現の効率は、(これらに限定されるわけではないが)適切な転写エンハンサ要素および転写ターミネータなどの要素を含ませることによって高めることができる(例えば、Bittnerら、1987、Methods in Enzymol.153:516−544を参照されたく、なお、当該参考文献は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる)。
【0100】
他の実施形態において、挿入された配列の発現を調節するかまたは所望の特定の様式において遺伝子産生物を修飾もしくはプロセッシングする宿主細胞株を選択することができる。異なる宿主細胞は、タンパク質および遺伝子産生物の翻訳後プロセッシングおよび修飾のための特徴的かつ特異的なメカニズムを有する。適切な細胞株もしくは宿主系を選択することにより、発現したポリペプチド(例えば、結合ポリペプチドなど)の的確な修飾およびプロセッシングを確保することができる。そのような細胞としては、例えば、確立された哺乳動物細胞株および動物細胞、ならびに昆虫細胞株、真菌細胞、および酵母細胞が挙げられる。
【0101】
iii.バイオリアクタ
灌流培養条件下での細胞の培養に好適な任意のバイオリアクタを、本発明の方法において採用することができる。当該バイオリアクタは、適切なシード密度における細胞のアリコート(例えば、スタータ培養物からのバイアル瓶の細胞または細胞など、例えば、振とうフラスコまたはその密度まで培養されている振とうフラスコシードトレイン)を使用して播種される。培養物にとって適切なシード密度は、使用される細胞のタイプおよび播種されるバイオリアクタを含むいくつかの因子に依存する。適切なシード密度は、当技術分野において利用可能な方法を使用して特定することができる。
【0102】
ある特定の実施形態において、バイオリアクタは、使い捨てタイプであってもよく、例えば、当該バイオリアクタは、柔軟な配管によって細胞保持装置に接続されているフレキシブルバッグもしくはプラスチックフラスコであり得る。それは、約1L、2L、5L、10L、約20L、50L、75L、85L、100L、150L、または約400Lの容積を有し得る。本発明の特定の実施形態において、バイオリアクタは、2つの浸漬管、すなわち、培地もしくは産生物を除去するために使用することができる管、を備えるようにカスタマイズされている10Lのフレキシブルバッグである。例示的な使い捨てバイオリアクタは、WAVE(登録商標)セルバッグバイオリアクタ(GE Healthcare、Pittsburgh、PA)、例えば、20LのWAVE(登録商標)バイオリアクタなど、である。これらは、いくつかある文献の中でも、Singh、1999、 Disposable bioreactor for cell culture using wave−induced agitation、Cytotechnology、p.149−158に記載されている灌流バイオリアクタシステムであり、なお、当該文献は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。
【0103】
リアクタの作業容積は、培養物によって占められる容積である。当該作業容積は、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、またはそれ以上の培養物であり得るが、好ましくは75%以下であり得る。
【0104】
あるいは、バイオリアクタは、非使い捨てタイプであってもよい。例えば、バイオリアクタは、ステンレス鋼またはガラスで作製することができる。本発明での使用に好適な代替のバイオリアクタとしては、これらに限定されるわけではないが、振とうフラスコ、撹拌タンク容器、エアリフト容器、および揺動、振とう、もしくは撹拌によって混合することができる使い捨てバッグが挙げられる。
【0105】
一実施形態において、バイオリアクタは、これらに限定されるわけではないが、ビルトインフィルタ、スピンバスケットTFFシステム、およびATFシステムを含む、細胞保持システムに連結され得る。
【0106】
II.非遠心分離濃縮
灌流培養は、細胞への損傷を最小限に抑えつつ培養物から栄養枯渇および老廃物含有培地を除去する能力に依存している。培養された細胞から枯渇培地が分離される細胞保持の初期の方法は、しばしば、剪断力の発生などの固有問題により、細胞を損傷した。これは、最終的に、フィルタの詰まりと灌流装置の故障を引き起こし、それらの多くが、培養システムに内在するものであった。したがって、一態様において、本開示は、培地の交換を可能にしかつ精子バンキングのために細胞培養物をさらに濃縮するために使用される「細胞保持システム」を使用する方法を提供する。
【0107】
一実施形態において、使用される細胞保持システムのタイプは、「ビルトイン」タイプのフィルタであり、ここで、当該フィルタは、バイオリアクタのチャンバに配設され、チャンバ内において自由に動くことができる。当該フィルタは、チャンバから出ている管の1つに連結され得て、それにより、ろ過された培地が培養物から引き抜かれることを可能にしている。「ビルトイン」タイプのフィルタの一例は、米国特許第6,544,788号において見出すことができ、なお、当該特許は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。
【0108】
別の実施形態において、使用される細胞保持システムは、接線流ろ過システム(TFF)である。TFFシステムにおいて、培養培地は、ろ過モジュールと培養容器との間の配管に取り付けられたポンプによって、培養容器からろ過モジュールを通って循環されて培養容器へと戻され、ろ過モジュールを横断して接線流を生じる。フィルタモジュールのろ液側に第2のポンプが設置されており、当該ポンプは、ろ液が除去される速度を制御するために使用される。中空糸膜フィルタは、無菌化するのがより容易であり、フィルタモジュールを横断する一様な流れの維持を可能にするため、中空糸膜フィルタの使用はこのシステムにおいて好ましい。しかしながら、中空糸フィルタがこのシステムに採用される場合、一方向の流れがルーメン導入口において粒状物質の凝集を引き起こすので、それらは詰まりやすい。
【0109】
特定の実施形態において、使用される細胞保持システムのタイプは、交互接線流(ATF)システムである。ATFタイプの細胞保持システムにおいて、ろ過コンパートメントは、一方の端部において貯蔵容器に接続されており、他方の端部においてダイヤフラムポンプに接続されている。ポンプは、最初に、培地を容器からフィルタ素子を通ってポンプへと送り、次いで、逆に当該培地をポンプからフィルタを通って容器へと戻し、それにより二方向もしくは交互の流れを生み出す。これは、交互接線流がフィルタモジュールに存在するため、すなわち、フィルタモジュールの膜表面に対して同じ方向(その表面に対して接線方向)に1つの流れが存在し、ならびにそれらの表面に対して実質的に垂直な別の流れが存在するため、交互接線流(ATF)と呼ばれる。このタイプのろ過は、2000年以来文献に存在しており、結果として、速く低剪断の一様な流れを生じる。ATFろ過は、例えば、米国特許第6,544,424号に記載されているような、当技術分野において公知の方法によって得ることができ、なお、当該特許は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。さらに、交互接線流ろ過システムは、Refine Technologyなどの製造元から市販されており、ATF2、ATF4、ATF6、ATF8、およびATF10システムなどの様々なモジュールを含む。
【0110】
本発明の別の特定の実施形態において、当該フィルタは、管状膜フィルタであり、さらには、中空糸フィルタであってもよい。
【0111】
上記に示されるように、本発明の方法は、高密度での細胞の非遠心分離濃縮を可能にする。本発明の特定の実施形態において、培養物は、少なくとも1×10細胞/mLの密度、例えば、約1×10細胞/ml、約2×10細胞/ml、約3×10細胞/ml、約4×10細胞/ml、約5×10細胞/ml、約6×10細胞/ml、約7×10細胞/ml、または約8×10細胞/mlの密度まで増殖され、増殖期間の後に、非遠心分離法を用いてさらなる濃縮工程が実施される。この濃縮工程は、培養物を少なくとも5×10細胞/mLの密度、例えば、約5×10細胞/mL、6×10細胞/mL、7×10細胞/mL、8×10細胞/mL、9×10細胞/mL、10×10細胞/mL、11×10細胞/mL、12×10細胞/ml、13×10細胞/mL、14×10細胞/mL、15×10細胞/mL、16×10細胞/mL、または17×10細胞/mLの密度まで濃縮し得る。培養物をさらに濃縮するために使用される当該非遠心分離法は、当技術分野において公知の任意の細胞保持システム(例えば、「ビルトイン」タイプのフィルタ、TFFシステム、または上記において説明されるものを含むATFシステムなど)を使用し得る。
【0112】
III.凍結保存および細胞バンキング
凍結保存は、時間または酵素的活性もしくは化学的活性によって生じるダメージに影響を受けやすい細胞、組織、または任意の他の物質を、氷点下温度に冷却して貯蔵することによって保存するプロセスを意味する。重要な細胞株の凍結保存の重要性は、(他の重要な利点の中でも)、継続的な培養においてそれらを継代することなくこれらの株の維持を可能にし、汚染のリスクを減少させ、ならびに遺伝的浮動のリスクを減少するので、その重要性を過小評価することはできない。
【0113】
凍結保存法を使用する場合、凍結プロセスの際の氷の形成によってさらなるダメージを生じることなく、これらの低温に達し、維持することが不可欠である。当技術分野における方法は、従来的に、凍結防止剤と呼ばれる、凍結による細胞へのダメージを減らす物質を使用する。凍結防止剤は、凍結プロセスの前に細胞培養物の培地に加えられ得る。特定の実施形態において、使用される凍結防止剤は、グリセロールまたはジメチルスルホキシド(DMSO)のうちの1つまたはそれ以上であり得る。さらに、凍結防止剤は、ヒドロキシエチルデンプン(HES)の有無において加えることができる。さらなる特定の実施形態において、DMSOは、少なくとも5%の濃度において加えられ得、例えば、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、または約20%において加えられ得る。
【0114】
凍結防止剤を加えた培養物は、次いで、凍結保存条件下での貯蔵に適切なコンテナへ分配され得る。一実施形態において、このコンテナは、(これらに限定されるわけではないが)ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリエチレン、またはポリプロピレンなどのポリマーを含み得る材料で作製されたバイアル瓶であり得る。特定の実施形態において、当該バイアル瓶は、凍結保存条件を向上させるために、追加的表面処理を有していてもよい(例えば、吸着および変性を減らす親水性コーティングなど)。例示的実施形態において、当該バイアル瓶は、約0.1mLを超える容積を有し得、例えば、当該バイアル瓶は、約0.1mL、約0.5mL、約0.75mL、約1mL、約2mL、約2.5mL、約5mL、約10mL、約15mL、約20mL、約25mL、または約50mLの容積を有し得る。別の実施形態において、当該コンテナはクライオバッグであってもよい。当該クライオバッグは、これらに限定されるわけではないが、ポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、およびエチレン酢酸ビニル(EVA)など、を含む、任意の適切な材料で構成され得る。例示的な使い捨てバイオリアクタとしては、これらに限定されるわけではないが、KryoSure(登録商標)凍結保存バッグ、PermaLife(商標)バッグ(OriGen Biomedical)、CryoStore凍結バッグ、Freeze−Pak(商標)バイオコンテナが挙げられる。
【0115】
次いで、これらのコンテナは、当技術分野において周知の技術および装置を用いて凍結され、典型的には約−130℃から約−195℃の間の低温において貯蔵される。一実施形態において、使用される凍結技術は、速度制御された緩慢凍結法(緩慢プログラマブル凍結法、またはSPFとも呼ばれる)であり得る。当該プロセスによって得られた細胞の収集物が、細胞バンクである。
【0116】
一実施形態において、細胞バンクは、これらに限定されるわけではないが、高密度細胞バンク、マスターセルバンク、またはミニバンクであり得る。
【0117】
IV.細胞生存率の特定
上記において示したように、本発明の方法は、後の使用のための素晴らしい細胞生存率を維持しつつ、高密度での細胞バンキングを可能にする。本明細書において使用される場合、用語「細胞生存率」は、所定の試料における健康な細胞の数もしくは割合として定義することができる。細胞の生存率は、説明した高密度細胞バンキングプロセスにおける任意の時点において、当技術分野において利用可能な任意の方法を使用して特定することができる。細胞生存率の特定のために一般的に使用される方法は、主に、生きた細胞は、ある特定の染料、例えば、トリパンブルー(ジアゾ染料)、エオシン、またはプロピジウムなど、を排除する無傷の細胞膜を有するが、死んだ細胞は有さない、という原理に基づいている。
【0118】
一実施形態において、トリパンブルーを使用することにより、ある量の細胞を染色し、それにより、無傷の膜(染色されない)を有する細胞の存在および崩壊した膜(青色)を有する細胞の存在を示すことができる。次いで、これらの細胞をカウントすることにより、培養物中の生きた細胞および死んだ細胞の両方の数を特定することができ、培養物の相対的健康を示すためにパーセンテージとして表すことができる。
【0119】
特定の実施形態において、細胞生存率は、濃縮されているがまだ凍結はされていない培養物(すなわち、凍結前培養物)を使用して特定することができる。特定の実施形態において、細胞生存率は、濃縮され、凍結され、さらに解凍された培養物(すなわち、解凍後培養物)を使用して特定することができる。
【0120】
特定の実施形態において、細胞生存率は、約60%を超え得、例えば、約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%であり得る。ある特定の実施形態において、細胞の解凍後生存率は、約80%を超え、例えば、最高100%までを含め、85%、90%、または95%を超える。
【0121】
アポトーシスは、プログラムされた細胞死であり、細胞の成長および増殖の能動的調節経路である。細胞は、結果として特徴的な生理学的変化を生じる特定の誘発シグナルに応答する。これらの中で、初期アポトーシス経路の間の細胞外側表面へのホスファチジルセリン(PS)の外在化が挙げられる。Guava Nexin(登録商標) Assayでは、アポトーシス細胞の外部膜上のPSを検出するために、Annexin V−PE(PSに対する高い親和性を有するカルシウム依存リン脂質結合タンパク質)を用いる。細胞不浸透性染料の7−AADも、細胞膜構造の無欠陥性の指標として使用することができる。7−AADは、生きた健康な細胞ならびに初期アポトーシス細胞から排除される。細胞の3つの集団をこのアッセイにおいて、以下:
1)非アポトーシス細胞(または健康な細胞)
2)アネキシンV(−)および7−AAD(−)
3)初期アポトーシス細胞:アネキシンV(+)および7−AAD(−)
4)後期アポトーシス細胞および死んだ細胞:アネキシンV(+)および7−AAD(+)
のように区別することができる。
【0122】
後期アポトーシス細胞の量は、解凍後培養物の健康の別の指標であり、図4および7Bに示されるようにモニターすることができる。特定の実施形態において、解凍後後期アポトーシス細胞は、生存細胞集団の30%未満であるべきである。別の実施形態において、解凍後後期アポトーシス細胞は、生存細胞集団の20%未満であるべきである。別の実施形態において、解凍後後期アポトーシス細胞は、生存細胞集団の10%未満であるべきである。
【0123】
V.治療関連タンパク質
本発明の高密度細胞精子バンキング方法に由来する細胞は、タンパク質の製造のために後の生産期において用いることができる。例えば、バイオリアクタにおいて繁殖させ、本発明の方法により高密度バンクアリコートにおいて凍結させた細胞は、治療関連タンパク質などの生物学的物質の生産に使用することができる。これらの生物学的物質は、これらに限定されるわけではないが、ウイルス(例えば、WO200138362を参照されたい)、抗体などの結合ポリペプチド、例えば、モノクローナル抗体など、およびその断片、例えば、fab断片など;Fc融合タンパク質、抗凝血剤、血液因子、骨形成タンパク質、遺伝子組み換えタンパク質の骨組、酵素、成長因子、ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、および血栓溶解剤、を含み得る。これらの生物学的物質は、当技術分野において利用可能な任意の方法を用いて収穫することができる。一実施形態において、本発明は、生物学的物質の生産に好適な条件下において生物学的物質を発現することができる細胞を培養する工程を含む、生物学的物質を製造する方法であって、細胞が、灌流培養および非遠心分離濃縮法を用いて製造された高密度凍結細胞バンクから得られる、方法を提供する。当該生物学的物質は、(これらに限定されるわけではないが)タンパク質(例えば、任意の治療関連タンパク質)であり得る。
【0124】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、これらは、さらなる限定として解釈されるべきではない。図ならびに本出願において引用された全ての参考文献、特許、および公開された特許出願の内容は、明確に、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。
【実施例1】
【0125】
高密度細胞バンキングプロトコルの設計および実践
この高密度細胞精子バンキングプロトコルは、およそ2.0〜2.4×10生存細胞/mL(標準的細胞凍結保存条件)の密度において2mLのマスターセルバンクバイアル瓶の細胞(作業容積は1.5mL)によって開始される。当該細胞は、次いで、灌流培養において増殖され、交互接線流によって濃縮される。濃縮された細胞培養物にDMSOを加えた後、この高密度細胞培養物は、高密度細胞バンク(およそ10×10細胞/mL)として、貯蔵のために、およそ200個の別々の5mLバイアル瓶(およそ4.5mLの作業容積)へと分配される。
【実施例2】
【0126】
速い細胞増殖および濃縮速度を支援する最適な細胞保持方法の特定
高密度細胞培養バンク化システムの作製(図1)での使用に最適な細胞保持方法を特定するために、標準的GE灌流バイオリアクタにおけるビルトイン浮遊式フィルタ、TFF(接線流ろ過)、ATF2、およびATF4を、定義されたパラメータ下(表1)での増加した細胞増殖および生存細胞密度を支援するそれらの能力について評価した。
【0127】
【表1】
【0128】
ATF4交互接線流システムは、フィルタの詰まりを生じることなく、速い(30分)最終的な4倍の培養物濃縮と共に、これらのパラメータを用いて達成されたより速い細胞成長を支援した。実験下の他の方法では、結果として、1mLあたりの生存細胞のより低い濃縮が得られ、より低い濃縮効率が実証され、および/または、結果として、培養および/または濃縮の際に詰まりが生じた。これらの結果は、図2図11、および表2に見ることができる。
【0129】
【表2】
【実施例3】
【0130】
濃縮および高密度バンキングのための、培養した細胞を収穫するための最適なタイミングの特定
後続の最終濃縮および高密度細胞精子バンキングのための最適な細胞収穫のタイミングを特定するために、rCHO細胞株1の培養物を、交互接線流システムを使用した灌流培養条件下において、カスタム10−L WAVE(登録商標)(GE Healthcare Life Sciences)セルバッグバイオリアクタにおいて増殖させた。異なる細胞密度(14×10、33×10、56×10/mL)の細胞を、灌流培養の間の複数の時点において収集し、ミニバンクを作成した(図1)。
【0131】
これらのバンクは、増殖速度、生存率、および細胞死(アポトーシス)に関して細胞の解凍後品質を比較することによって評価した。これらの細胞を増殖させた初期培養の間のパラメータおよびバンキング後評価におけるパラメータを、表3に示した。
【0132】
【表3】
【0133】
これらの培養物から異なる細胞密度において作製されたミニバンクの解凍後細胞性能は、それらの細胞増殖速度、生存率(図3)、およびアポトーシス率(図4)に関して、同程度であった。これらのデータは、細胞が健康であり、およそ60×10細胞/mLまでの収穫の準備ができていることを示している。
【0134】
培養期間を短縮して、当該プロセスをより実用的にするために、およそ(30〜40)×10細胞/mLの収穫密度を選択した。次いで、これらの培養物を、交互接線流システムを使用して、30分間で>11×10細胞/mLまでさらに濃縮した。
【実施例4】
【0135】
高密度細胞培養の間の最適なWAVE(登録商標)パラメータの特定
この高密度細胞培養およびバンキングプロセスをより頑健でGMP実施可能にするため、自動化pHおよびDO制御の不在下においてこの培養を維持することができるシステムを確立するために、WAVE(登録商標)操作パラメータを検討し定義した。
【0136】
これらのWAVE(登録商標)操作パラメータを、表4に見られるパラメータを使用して定義される交互接線流システムと組み合わせた灌流培養システムにおいて試験した。
【0137】
【表4】
【0138】
酸素物質移動(ka)の検討は、WAVE(登録商標)の揺動速度および揺動角度が、酸素移動に影響を及ぼす重要なパラメータであることを示している。さらに、酸素および二酸化炭素の両方のヘッドスペース濃度は、DOおよびpHに著しく影響を及ぼし得る。
【0139】
自動化制御を用いずに目標DOおよびpHレベルを達成するために、高灌流速度と組み合わされたWAVE(登録商標)揺動調節およびガス供給調節(表5)を含む簡易型バイオリアクタ作動条件を適用した。
【0140】
【表5】
【0141】
血液ガス分析装置(BGA)によって測定した場合のオフラインpHが≦6.9の場合、CO設定点を10%から5%に減らした。測定したオフラインpHが再び≦6.9の場合、CO設定点を5%から0%に減らした。オフラインpHが依然として≦6.9の場合、灌流速度を増加させた。DOが≦45%において測定された場合、O設定点を20%から30%に上げた。DOが再び≦45%において測定された場合、揺動速度を25rpmまで上げ、揺動角度を12°に変更した。さらに、Oレベルを30%から40%に上げた。
【0142】
ATF4システムへの空気の混入を避けるために、最終濃縮工程の際の揺動速度(表6)を調節することによってこの方法をさらに改良した。
【0143】
【表6】
【0144】
WAVE(登録商標)揺動調節およびガス供給調節を含むバイオリアクタ作動条件の簡易型設定により、結果として、自動化されたpHおよびDOフィードバック制御に頼ることなしに、匹敵する細胞増殖性能が得られた(図5および6)。揺動調節により、結果として、ATF4濃縮工程の際の空気混入も最小限に抑えられた。
【実施例5】
【0145】
細胞の健康に対するATF濃縮工程およびDMSO暴露の効果の特定
細胞品質に対するATF4濃縮工程および凍結前DMSO暴露の効果を特定するため、増殖評価のために、高密度細胞バンキング手順の異なる段階において採取した生きた細胞を振とうフラスコに播種した。表7に示された条件下において採取および実験された試料は、濃縮前、濃縮後、0から120分のDMSO暴露長さであった。
【0146】
【表7】
【0147】
濃縮前細胞および濃縮後細胞の細胞増殖(図7A)およびアポトーシス率(図7B)は、DMSOへの様々な暴露長さの細胞における細胞増殖およびアポトーシス率に匹敵していた。このことは、凍結前の細胞品質を維持しつつ、90分間での容器内30分ATF4濃縮および200個を超えるバイアル瓶のフルスケール分配が実行可能であることを示唆している。
【実施例6】
【0148】
バンキング後細胞品質および複数の細胞株へのプラットホームの適用性の特定
高密度細胞バンクのバンキング後細胞品質を特定するため、解凍後細胞を培養し、それらの相対細胞増殖速度、生存率、およびアポトーシスのレベルを特定するために実験した。さらに、このプラットホームが他の細胞株に容易に適用可能であることを確保するために、3つの異なる細胞株(rCHO細胞株1、2、および3)を使用した。これらの細胞をバンキング前およびバンキング後に増殖させた実験条件を表8に詳述する。
【0149】
【表8】
【0150】
高密度(10×10細胞/mL)および標準的密度(2.0〜2.4×10生存細胞/mL)バンク化試料の両方において、rCHO細胞株1(図8A〜B)、rCHO細胞株2(図9A〜B)、およびrCHO細胞株3(図10A〜B)について、解凍後細胞増殖、生存率、アポトーシスのレベルを評価した。当該細胞は、低レベルのアポトーシスにおいて良好な増殖速度および生存率を示した。回復率は、実験した細胞株に応じて変わった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11