(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0012】
図1に示すように、実施形態に係る酸化物超電導線材10は、超電導積層体15と、超電導積層体15の外周を覆う安定化層16と、を備えている。超電導積層体15は、基板11上に酸化物超電導層13を有すればよい。超電導積層体15が、例えば、基板11、中間層12、酸化物超電導層13、及び保護層14を有する構成であってもよい。
【0013】
基板11は、例えば、厚さ方向の両側に、それぞれ第1主面11a及び第2主面11bを有するテープ状の金属基板である。金属基板を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金などが挙げられる。金属の結晶の並びを揃えて配向させた配向基板を基板11として用いる場合、中間層12を形成せずに、基板11上に直接、酸化物超電導層13を形成することができる。基板11上に酸化物超電導層13が形成される側を第1主面11aといい、第1主面11aと反対側である裏面を第2主面11bという。基板11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、例えば10〜1000μmの範囲である。
【0014】
中間層12は、多層構成でもよく、例えば基板11側から酸化物超電導層13側に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。中間層12は、金属酸化物であってもよい。配向性に優れた中間層12の上に酸化物超電導層13を成膜することにより、配向性に優れた酸化物超電導層13を得ることが容易になる。
【0015】
酸化物超電導層13は、例えば酸化物超電導体から構成される。酸化物超電導体としては、例えば一般式REBa
2Cu
3O
y(RE123)等で表されるRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。RE123の一般式において、yは7−x(酸素欠損量)である。また、RE:Ba:Cuの比率は1:2:3に限らず、不定比もあり得る。酸化物超電導層13の厚さは、例えば0.5〜5μm程度である。
【0016】
酸化物超電導層13には、人工的な結晶欠陥として、異種材料による人工ピンなどが導入されてもよい。酸化物超電導層13に人工ピンを導入するために用いられる異種材料としては、例えば、BaSnO
3(BSO)、BaZrO
3(BZO)、BaHfO
3(BHO)、BaTiO
3(BTO)、SnO
2、TiO
2、ZrO
2、LaMnO
3、ZnO等の少なくとも1種以上が挙げられる。
【0017】
保護層14は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層13と保護層14の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。保護層14を構成する材料としては、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)又はこれらの1種以上を含む合金(例えばAg合金、Cu合金、Au合金)が挙げられる。保護層14の厚さは、例えば1〜30μm程度が好ましく、保護層14を薄くする場合は、10μm以下、5μm以下、2μm以下等でもよい。保護層14は、超電導積層体15の側面15s又は基板11の第2主面11bにも形成されてもよい。超電導積層体15の異なる面に形成される保護層14の厚さは、略同等でも異なってもよい。保護層14は、2種以上の金属又は2層以上の金属層から構成されてもよい。保護層14は、蒸着法、スパッタ法等により形成することができる。
【0018】
安定化層16は、超電導積層体15の第1主面15a、第2主面15b、側面15sを含む全周にわたって形成することができる。超電導積層体15の第1主面15aは、例えば保護層14の表面であるが、これに限定されない。超電導積層体15の第2主面15bは、例えば基板11の第2主面11bであるが、これに限定されず、例えば保護層14が基板11の第2主面11b上にも形成された場合の保護層14上の面でもよい。超電導積層体15の側面15sは、厚さ方向の両側のそれぞれの面である。
【0019】
安定化層16は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層13及び保護層14を機械的に補強したりする等の機能を有する。安定化層16は、銅(Cu)めっき層からなる。安定化層16の厚さは特に限定されないが、例えば2〜300μm程度が好ましく、例えば200μm以下、100μm以下、50μm以下、20μm程度、10μm程度、5μm程度等でもよい。超電導積層体15の異なる面に形成される安定化層16の厚さは、略同等でも異なってもよい。
【0020】
安定化層16の低温における電気抵抗又は導電性を評価する指標としては、残留抵抗比(RRR:Residual Resistance Ratio)が挙げられる。残留抵抗比は、所定の2つの温度における比抵抗(抵抗率)の比率であって、高温における比抵抗ρ
highと低温における比抵抗ρ
lowとの比率として、RRR=ρ
high/ρ
lowにより求められる。一例として、293Kにおける比抵抗ρ
293Kと15Kにおける比抵抗ρ
15Kとの比率で、ρ
293K/ρ
15Kが挙げられる。RRRが大きいほど、高温(常温)に比べて低温における導電性が高いことが示される。Cuめっき層のρ
293K/ρ
15Kは、例えば100以上が好ましい。
【0021】
安定化層16を構成するCuめっき層において、Cuめっき層の平均結晶粒径が2μm以上であることが好ましい。Cuめっき層の平均結晶粒径が大きいことにより、低温での電気抵抗を低くすることができる。Cuめっき層の平均結晶粒径は、2.5μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましい。Cuめっき層の平均結晶粒径の上限は特に限定されないが、例えば、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm等が挙げられる。Cuめっき層の平均結晶粒径は、通常はCuめっき層の厚さ以下である。
【0022】
また、安定化層16を構成するCuめっき層において、Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数が50個以下であることが好ましい。Cuめっき層の単位長さ当たりの平均の粒界の数が少ないことにより、低温での電気抵抗を低くすることができる。単位長さとしては、例えば酸化物超電導線材10の長手方向の長さ100μmが挙げられる。Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数は、40個以下がより好ましく、35個以下がさらに好ましい。Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数の下限は特に限定されないが、例えば、10個、15個、20個、25個、30個等が挙げられる。
【0023】
Cuめっき層の平均結晶粒径、及びCuめっき層の単位長さ当たりの平均の粒界の数は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いたCuめっき層の断面写真を用いて測定することができる。
【0024】
安定化層16を構成する銅めっき層は、例えば電気めっきにより形成することができる。電気めっきにより銅めっき層を形成する場合、事前に下地層として、銀(Ag)、銅(Cu)、スズ(Sn)等の金属層を、蒸着法、スパッタ法等により形成してもよい。Cuめっき層の電気めっきに用いるめっき浴としては、硫酸銅めっき浴、シアン化銅めっき浴、ピロリン酸銅めっき浴などが挙げられる。硫酸銅めっき液としては、一般的には、硫酸銅五水和物、硫酸、添加剤、塩素イオンを含む水溶液などが用いられる。
【0025】
Cuめっき層の少なくとも一部を無電解めっきにより形成することもできる。この場合は、ホルムアルデヒド浴、グリオキシル酸浴、次亜リン酸塩浴、コバルト塩浴などが用いられる。一般的なホルムアルデヒド浴は第二銅塩と還元剤(ホルムアルデヒド等)と錯化剤(ロッセル塩等)、pH調整剤(水酸化ナトリウム)、添加剤(シアン化合物)を含むめっき液が用いられる。
【0026】
Cuめっき層の平均結晶粒径、又はCuめっき層の単位長さ当たりの平均の粒界の数を調整する方法としては、Cuの電気めっきにおける条件を、少なくとも1以上変更することが挙げられる。具体的な電気めっきの条件としては、例えばめっき液の濃度、めっき浴の種類、電流密度、過電圧の程度、温度、添加剤の有無、電気めっき後の熱処理の有無等が挙げられる。めっき浴の添加剤としては、特に限定されないが、錯化材、pH調整剤、レベラー等が挙げられる。
【0027】
本実施形態の酸化物超電導線材10によれば、安定化層16を構成するCuめっき層において、結晶粒径が大きく、又は単位長さ当たりの平均の粒界の数が少ないため、粒界による電気抵抗を抑制することができる。金属の電気抵抗は、金属原子の熱振動等に起因して、温度依存性が大きい部分と、金属結晶の不完全性に起因して、温度依存性が小さい部分(残留抵抗)に分けられる。温度依存性が大きい部分の電気抵抗は低温では減少するが、残留抵抗は、低温でも有限の値として残留する。そこで、残留抵抗を低減することにより、RRRが減少し、低温での導電性を高めることができる。
【0028】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。改変としては、各実施形態における構成要素の追加、置換、省略、その他の変更が挙げられる。
【0029】
中間層12及び酸化物超電導層13の成膜法は、金属酸化物の組成に応じて適宜の成膜が可能であれば特に限定されない。成膜法としては、例えばスパッタ法、蒸着法等の乾式成膜法、ゾルゲル法等の湿式成膜法が挙げられる。蒸着法としては、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着(IBAD:Ion-Beam-Assisted Deposition)法、パルスレーザー蒸着(PLD:Pulsed Laser Deposition)法、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法等が挙げられる。
【0030】
中間層12の拡散防止層は、基板11の成分の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層13側に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層は、例えば、Si
3N
4、Al
2O
3、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される。拡散防止層の厚さは、例えば10〜400nmが挙げられる。
【0031】
中間層12のベッド層は、基板11と酸化物超電導層13との界面における反応を低減し、その上に形成される層の配向性を向上する等の機能を有する。ベッド層の材質としては、例えばY
2O
3、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等が挙げられる。ベッド層の厚さは、例えば10〜100nmが挙げられる。
【0032】
中間層12の配向層は、その上のキャップ層の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層の材質としては、例えば、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示することができる。配向層はIBAD法で形成することが好ましい。
【0033】
中間層12のキャップ層は、配向層の表面に成膜されて、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料からなる。キャップ層の材質としては、例えば、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、ZrO
2、YSZ、Ho
2O
3、Nd
2O
3、LaMnO
3等が挙げられる。キャップ層の厚さは、例えば50〜5000nmが挙げられる。
【0034】
酸化物超電導線材の外周には、酸化物超電導線材の周囲に対する電気絶縁を確保するため、ポリイミド等の絶縁テープを巻きつけたり、樹脂層を形成したりしてもよい。なお、絶縁テープや樹脂層等の絶縁被覆層は必須ではなく、酸化物超電導線材の用途に応じて絶縁被覆層を適宜設けてもよく、あるいは絶縁被覆層を有しない構成とすることもできる。
【0035】
酸化物超電導線材を使用して超電導コイルを作製するには、例えば酸化物超電導線材を巻き枠の外周面に沿って必要な層数巻き付けてコイル形状の多層巻きコイルを構成した後、巻き付けた酸化物超電導線材を覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて、酸化物超電導線材を固定することができる。
【実施例】
【0036】
以下、具体的な実施例を用いて、酸化物超電導線材10の製造方法について説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0037】
まず、次の手順により、所定幅の超電導積層体15を準備した。
(1)ハステロイ(登録商標)C−276の金属テープからなる基板11の研磨。
(2)アセトンによる基板11の脱脂・洗浄。
(3)イオンビームスパッタ法によるAl
2O
3拡散防止層の成膜。
(4)イオンビームスパッタ法によるY
2O
3ベッド層の成膜。
(5)IBAD法によるMgO配向層の成膜。
(6)PLD法によるCeO
2キャップ層の成膜。
(7)PLD法によるGdBa
2Cu
3O
7−x酸化物超電導層13の成膜。
(8)酸化物超電導層13の表面方向からのスパッタ法によるAg保護層14の成膜。
(9)超電導積層体15の酸素アニール処理。
(10)4mm幅のスリット加工による超電導積層体15の細線化処理。
【0038】
次に、超電導積層体15に対し、第1主面15aの方向及び第2主面15bの方向からのスパッタ法により、Cu下地層を成膜した。
次に、硫酸銅めっきにより、Cuめっき層からなる厚さ20μmの安定化層16を形成した。
実施例では、表1に示す条件により、サンプル番号1〜5の酸化物超電導線材10を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
次に、得られた酸化物超電導線材10について、安定化層16を構成するCuめっき層の残留抵抗比及び平均結晶粒径を測定した。
Cuめっき層の残留抵抗比(RRR)は、293Kにおける比抵抗ρ
293Kと15Kにおける比抵抗ρ
15Kとの比率で、ρ
293K/ρ
15Kとして算出した。
【0041】
Cuめっき層の平均結晶粒径は、1つのサンプルごとに、酸化物超電導線材10の長手方向に平行な断面SEM写真(23μm×23μmの視野範囲)を45枚撮影し、1枚の写真ごとに、酸化物超電導線材10の長手方向に線分を3本引き、JIS H 0501(伸銅品結晶粒度試験方法)の切断法に従って、線分によって完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値として求められるμm単位の結晶粒度をそのまま用いた。
酸化物超電導線材10の長手方向に引いた3本の線分は、厚さ20μmの安定化層16の表面から約3.2μm、約10.0μm、約16.8μmの深さの位置(安定化層16厚さに対して、それぞれ、約16%、約50%、約84%の位置)に引いた。
【0042】
Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数(個)は、長さ100μmを上述の平均結晶粒径(μm)で除して得られる数値として算出した。
以上の測定結果を、表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
安定化層として、酸化物超電導線材の安定化層として実績のあるテープ状のCu箔を用いた場合の残留抵抗比は100程度である。そこで、評価結果としては、残留抵抗比が100以上のサンプルを良品(OK)、残留抵抗比が100未満のサンプルを不良品(NG)と判定した。Cuめっき層の平均結晶粒径が大きいほど、Cuめっき層の残留抵抗比の値が向上する結果が示された。
【解決手段】基板11上に酸化物超電導層13を有する超電導積層体15と、超電導積層体15の外周を覆うCuめっき層からなる安定化層16と、を備える酸化物超電導線材10であって、安定化層16において、Cuめっき層の平均結晶粒径は、2μm以上かつCuめっき層の厚さ以下であること、又は、Cuめっき層の長さ100μm当たりの平均の粒界の数が50個以下であることを特徴とする。