特許第6743263号(P6743263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6743263滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6743263
(24)【登録日】2020年7月31日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20200806BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   F16F15/02 L
   E04H9/02 331E
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-212976(P2019-212976)
(22)【出願日】2019年11月26日
【審査請求日】2019年11月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 伸介
(72)【発明者】
【氏名】小西 克尚
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 厚
(72)【発明者】
【氏名】野呂 直以
(72)【発明者】
【氏名】田村 康行
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 中国実用新案第206408516(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
E04H 9/00− 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り免震装置を構成する沓の凹球状の第一摺動面において、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材を設置する、滑り免震装置を構成する沓の製作方法であって、
平面視円形の前記第一摺動面には、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングが設けられており、
前記ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の前記相手材を用意し、該相手材を前記ストッパーリングに対して同心に位置合わせし、押し付け治具にて該相手材を前記第一摺動面に押し付けることにより、該相手材を湾曲に変形させて該ストッパーリング内に嵌め込むことを特徴とする、滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項2】
前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする、請求項1に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項3】
前記押し付け治具は、前記第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体、もしくは、前記第一摺動面と同じ曲率の押し付け面を有する複数の押し付け片を放射状に備えている線状体、のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項4】
前記ストッパーリングの内周面が、前記第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であり、該テーパー面に沿って前記相手材を前記第一摺動面に嵌め込むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項5】
前記相手材はステンレス製の相手材であり、該相手材の厚みが1mm以上であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項6】
滑り免震装置を構成する沓であって、
前記沓は、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有する、滑り免震装置を構成する沓において、
平面視円形の前記第一摺動面には、前記摺動体の摺動範囲を規定するストッパーリングが設けられており、
平面視円形の前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していて、前記ストッパーリング内に嵌め込まれていることにより、該ストッパーリング内において該相手材はその径方向に圧縮力を有する状態となっていることを特徴とする、滑り免震装置を構成する沓。
【請求項7】
滑り免震装置を構成する沓の前駆体であって、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有し、
平面視円形の前記第一摺動面には、前記摺動体の摺動範囲を規定するストッパーリングが設けられており、
平面視円形の前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする、滑り免震装置を構成する沓の前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震国であるわが国においては、ビルや橋梁、高架道路、戸建の住宅といった様々な構造物に対して、地震力に抗する技術、構造物に入る地震力を低減する技術など、様々な耐震技術や免震技術、制震技術が開発され、各種構造物に適用されている。中でも免震技術は、構造物に入る地震力そのものを低減する技術であることから、地震時の構造物の振動は効果的に低減される。この免震技術を概説すると、下部構造物である基礎と上部構造物との間に免震装置を介在させ、地震による基礎の振動の上部構造物への伝達を低減し、上部構造物の振動を低減して構造安定性を保証するものである。尚、この免震装置は、地震時のみならず、構造物に対して常時作用する交通振動の上部構造物への影響低減にも効果を発揮する。
【0003】
免震装置には、鉛プラグ入り積層ゴム支承装置や高減衰積層ゴム支承装置、積層ゴム支承とダンパーを組み合わせた装置、滑り免震装置など、様々な形態の装置が存在している。その中で、滑り免震装置には平面滑り免震装置と球面滑り免震装置があり、平面滑り免震装置は復元力を有しないが、球面滑り免震装置は復元力を有し、地震時のセルフセンタリング機能を有する。
【0004】
球面滑り免震装置には、摺動体の上下いずれか一方に沓が配設されている片面滑り免震装置と、摺動体の上下に沓(上沓及び下沓)が配設され、上下の沓の間で摺動体が摺動する両面滑り免震装置があるが、いずれの免震装置においても、例えば、摺動体の有する凸球状の摺動面に摩擦材が取り付けられ、沓の有する凹球状の摺動面に摩擦材の相手材(滑り板)が取り付けられている。例えば、特許文献1に記載の免震構造においては、球面滑り支承のうち、両面滑り免震支承が開示されており、上下の沓に相当する上部プレートと下部プレートの凹球面においてそれぞれ、相手材に相当する滑り板が取り付けられている構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019−039200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の沓の製作方法の一例を概説すると以下の通りとなる。まず、所定の曲率を有する成形型のキャビティに相手材形成用の金属板を収容し、金属板をプレス冷間加工等して塑性変形させることにより、所定の曲率を有する相手材を製作する。次に、製作された曲率を有する相手材を、沓本体の有する同様の曲率を備えた凹球状の摺動面に取り付けることにより、沓本体に相手材が取り付けられた沓が製作される。
【0007】
しかしながら、この製作方法では、製作される相手材の有する曲率面に応じたキャビティを有する成形型を都度用意する必要があり、結果として沓の製作コストの増加に繋がる。さらに、沓本体に相手材を取り付けるに当たり、相手材を冷間プレスする工程と、冷間プレスされた相手材を沓本体に取り付ける工程といった複数の工程を要することから、自ずと製作手間がかかる。
【0008】
本発明は、製作コストが増加することなく、製作手間のかからない滑り免震装置を構成する沓の製作方法と、この製作方法により製作された沓、さらには、この沓の前駆体を提供することを目的としている。
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一態様は、
滑り免震装置を構成する沓の凹球状の第一摺動面において、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材を設置する、滑り免震装置を構成する沓の製作方法であって、
平面視円形の前記第一摺動面には、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングが設けられており、
前記ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の前記相手材を用意し、該相手材を前記ストッパーリングに対して同心に位置合わせし、押し付け治具にて該相手材を前記第一摺動面に押し付けることにより、該相手材を湾曲に変形させて該ストッパーリング内に嵌め込むことを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の相手材(もしくは滑り板)を、押し付け治具にて第一摺動面に押し付け、湾曲に変形させてストッパーリング内に嵌め込むことにより、手間のかからない製作方法にて沓を製作することができる。ここで、「ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の相手材」とは、例えば、相手材の直径がストッパーリングの内周の直径よりも僅かに大きいことを意味している。すなわち、相手材の直径がストッパーリングの内周の直径よりも大き過ぎては相手材を変形させてストッパーリング内に嵌め込むことができなくなることから、嵌め込みが可能な程度に大きいことを意味するものである。
【0011】
設計例を挙げると、第一摺動面の直径を2000mm、曲率半径を2500mmとした場合、相手材の直径は2057mmとなり、従って、直径2000mmのストッパーリングの内周の直径よりも相手材の直径が57mm大きく設定される。また、第一摺動面の直径を500mm、曲率半径を4500mmとした場合、相手材の直径は500.25mmとなり、直径500mmのストッパーリングの内周の直径よりも相手材の直径が0.25mm大きく設定される。
【0012】
このように湾曲に変形してストッパーリング内に嵌め込まれた平面視円形の相手材には、その周方向に圧縮力が作用しており、その反力がストッパーリングの内周面に作用することから、ストッパーリング内に相手材を湾曲に変形させて嵌め込むことにより、ストッパーリングに対して相手材を強固に取り付けることができる。
【0013】
ここで、ストッパーリングは、平面視形状が無端状のリングの形態の他にも、平面視形状がリング状であるものの、その途中に一つもしくは複数のスリット(隙間)を有する形態も含まれる。また、ストッパーリングの内壁面は、垂直に立ち上がる形態であってもよいし、テーパー状に立ち上がる形態であってもよいし、垂直に立ち上がった後にテーパー状に立ち上がる形態であってもよい。
【0014】
ここで、滑り免震装置が片面滑り免震装置の場合は、製作対象の沓は上沓もしくは下沓であり、滑り免震装置が両面滑り免震装置の場合は、製作対象の沓は上沓及び下沓となる。
【0015】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、相手材が、ストッパーリング内の第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることにより、相手材を、その周方向に圧縮力を有する状態で第一摺動面に嵌め込むことができる。
【0017】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記押し付け治具は、前記第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体、もしくは、前記第一摺動面と同じ曲率の押し付け面を有する複数の押し付け片を放射状に備えている線状体、のいずれかであることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体、もしくは、第一摺動面と同じ曲率の押し付け面を有する複数の押し付け片を放射状に備えている線状体、のいずれかの形態の押し付け治具を適用することにより、簡易な構成の押し付け治具にて、平面視円形の相手材の全面を可及的均一で、かつ効率的に沓本体の第一摺動面に押し付けることができる。尚、線状体を構成する複数の押し付け片の表面に、第一摺動面と同じ曲率を有する面材が取り付けられている形態であってもよい。
【0019】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記ストッパーリングの内周面が、前記第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であり、該テーパー面に沿って前記相手材を前記第一摺動面に嵌め込むことを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、ストッパーリングの内周面が第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であることにより、相手材を湾曲に変形させて第一摺動面に嵌め込む際に、相手材の端部をテーパー面に沿って湾曲に変形させ易くなり、相手材の全体をスムーズに湾曲に変形させてストッパーリング内に嵌め込むことができる。ここで、「第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面である」とは、ストッパーリングの内周面が全てテーパー面である形態の他に、第一摺動面側から鉛直に立ち上がり、その後、外側に向かって末広がりのテーパー面を有している形態も含んでいる。
【0021】
また、このテーパー面に関しては、垂直に立ち上がるストッパーリングの内壁面に対して、ストッパーリングの内周面に沿って連続的に、もしくは間欠的に溶接を行い、溶接部の内側面をテーパー状に加工するものであってもよい。
【0022】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記相手材はステンレス製の相手材であり、該相手材の厚みが1mm以上であることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、ステンレス製の相手材の厚みが1mm以上であることにより、相手材を湾曲に弾性変形させて第一摺動面に嵌め込む際に、当該相手材に皺が発生するのを抑制することができる。また、滑り免震装置の供用後、第一摺動面に嵌め込まれた相手材に沿って摺動体が繰り返し摺動する過程においても、相手材に皺が発生するのを抑制することができる。
【0024】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の一態様において、
前記沓は、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有する、滑り免震装置を構成する沓において、
平面視円形の前記第一摺動面には、前記摺動体の摺動範囲を規定するストッパーリングが設けられており、
平面視円形の前記相手材が、その周方向に圧縮力を有する状態で前記ストッパーリング内に嵌め込まれていることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、本発明の製作方法によって製作されていることにより、相手材が湾曲に変形してストッパーリング内に嵌め込まれている状態において、相手材は弾性変形して収縮し、その周方向に圧縮力を有する状態となっている。尚、この「弾性変形」は、原則的には相手材が完全に弾性変形していることを意味しているが、その他、弾性変形に加えて塑性変形が多少進んでいる状態も含むものとする。相手材がその周方向に圧縮力が作用した状態でストッパーリング内に嵌め込まれていることにより、周方向の圧縮力の反力がストッパーリングの内周面に作用することになり、ストッパーリングに対して相手材が強固に取り付けられる。また、第一摺動面に対する相手材の取り付けに際して、接着剤等は一切不要になる。
【0026】
また、ストッパーリングの内周面は、既述するように、第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であるのがよく、さらに、当該内周面の根元(第一摺動面との界面)には、周方向に連続した溝条が設けられていてもよい。湾曲に変形した相手材は外側に膨らんで元に戻ろうとするため、ストッパーリングの内周面の根元に連続した溝条が設けられていることにより、この溝条に相手材の端部が入り込んで係合し、ストッパーリングから相手材が係脱するのを防止することができる。また、溝条の代わりに、ストッパーリングの内周面の下方位置(第一摺動面よりも僅かに上方の位置)に、ストッパーリングの周方向に間隔を置いて複数のボルトを径方向内側に突出する態様で固定しておき、複数のボルトに相手材を係止することにより、ストッパーリングから相手材が係脱するのを防止してもよい。
【0027】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一態様は、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有し、
平面視円形の前記第一摺動面には、前記摺動体の摺動範囲を規定するストッパーリングが設けられており、
平面視円形の前記相手材は、前記ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有していることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、沓本体と、ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有している相手材とを備えることにより、相手材をその周方向に圧縮力を有する状態で第一摺動面に嵌め込んで沓を製作することができる。
【0029】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の前駆体の他の態様において、前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする。
【0030】
本態様によれば、相手材が、ストッパーリング内の第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることにより、相手材がその周方向に圧縮力を有する状態で第一摺動面に嵌め込まれるとともに、相手材を第一摺動面に密着させて取り付けることができる。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から理解できるように、本発明の滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法によれば、製作コストを増加させることなく、製作手間のかからない方法で滑り免震装置を構成する沓を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一例を示すとともに、実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。
図2】実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する縦断面図である。
図3図1に続いて、滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。
図4図3に続いて、滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する縦断面図であって、ストッパーリングのテーパー面に沿って相手材が徐々に押し込まれている状態をともに示す図である。
図5】実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の一例の斜視図であって、相手材においてその周方向に圧縮力が作用している状態をともに示す図である。
図6】実施形態に係る沓を含む滑り免震装置(片面滑り免震装置)の一例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0034】
[実施形態]
図1乃至図5を参照して、実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一例を示すとともに、実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。そして、図1,3,4は順に、実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法を説明する図であり、図2は、図1の第一摺動面の中心及び相手材の中心で切断して示した縦断面図である。さらに、図5は、実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の一例の斜視図であって、相手材においてその周方向に圧縮力が作用している状態をともに示す図である。
【0035】
図1に示すように、滑り免震装置40(図6参照)を構成する沓10(図6参照)の前駆体10Aは、凹球状の第一摺動面12を備える沓本体11と、第一摺動面12に設置される相手材16(滑り板)とを有する。この相手材16は、摺動体30(図6参照)の凸球状の第二摺動面32に取り付けられている、摩擦材34(図6参照)の相手材である。
【0036】
沓10において、平面視円形の第一摺動面12には、摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリング13が設けられている。尚、図示例のストッパーリング13は、無端状のリングの形態であるが、この形態以外にも、例えば、平面視形状がリング状であるものの、その途中に一つもしくは複数のスリット(隙間)を有する形態であってもよい。
【0037】
ストッパーリング13を含め、沓本体11は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)、あるいは鋳鋼材、鋳鉄等から形成されている。また、相手材16は、ステンレス材(SUS材)により形成されており、その厚みは1mm以上である。ステンレス製の相手材16の厚みが1mm以上であることにより、以下で説明するように、相手材16を湾曲に弾性変形させて第一摺動面12に嵌め込む際に、相手材16に皺が発生するのを抑制できる。また、滑り免震装置40の供用後、第一摺動面12に嵌め込まれた相手材16に沿って摺動体30が繰り返し摺動する過程においても、相手材16に皺が発生するのを抑制できる。
【0038】
図2に明りょうに示すように、ストッパーリング13の内周面14は、第一摺動面12側から外側(図2では上側)に向かって末広がりのテーパー面となっており、内周面14の根元(第一摺動面12との界面)には、周方向に連続した溝条15が設けられている。尚、図示を省略するが、ストッパーリングの内周面は垂直に立ち上がる形態であってもよいし、垂直に立ち上がった後にテーパー状に立ち上がる形態であってもよい。また、図示例は、ストッパーリング13の内周面14にテーパー面14が加工されている形態であるが、例えば、垂直に立ち上がるストッパーリングの内周面に沿って連続的に、もしくは間欠的に溶接が行われ、溶接部の内側面がテーパー状に加工されている形態であってもよい。
【0039】
図1及び図2に示すように、平面視円形の相手材16は、ストッパーリング13の内周の直径よりも大きな直径を有しており、より詳細には、ストッパーリング13内の第一摺動面12における中心O1を通る弧の長さL1以上の長さL2の直径(相手材16の中心O2を通る直径)を有している。ここで、長さL2は長さL1と同じか、長さL1に比べて僅かに長く設定されている。より詳細には、相手材16が湾曲に弾性変形してストッパーリング13内に嵌め込まれた際に、相手材16は弾性変形して収縮した状態となるが、この弾性変形範囲内にある長さ分だけ長さL1よりも直径の長さL2が長く設定されている。
【0040】
沓の製作方法においては、上記するようにストッパーリング13内の第一摺動面12における中心O1を通る弧の長さL1以上の長さL2の直径を有する相手材16を用意し、相手材16をストッパーリング13に対してX1方向に載置して双方を同心に位置合わせする。
【0041】
次に、図3に示すように、押し付け治具80により、ストッパーリング13上に載置されている相手材16を第一摺動面12側へX2方向に押し付けていく。
【0042】
ここで、図3及び図4に示すように、押し付け治具80は、第一摺動面12と同じ曲率の押し付け面83を有する複数の押し付け片82を、中心軸81を中心に放射状に備えている線状体である。尚、図示を省略するが、複数の押し付け片82の表面に、第一摺動面12と同じ曲率を有する面材が取り付けられている形態であってもよい。また、押し付け治具の他の形態として、第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体であってもよい。
【0043】
図4に示すように、押し付け治具80により相手材16をX2方向に押し付けていくと、ストッパーリング13のテーパー面14に沿って相手材16が湾曲状に弾性変形していき、テーパー面14の根元の溝条15に嵌り込む。押し付け治具80を、例えば5t(≒50kN)乃至10t(≒100kN)程度の押圧力にて押し付けることにより、相手材16を湾曲状に弾性変形させてストッパーリング13内に嵌め込むことができる。
【0044】
図1及び図2に示すように、平面視円形の相手材16が、ストッパーリング13内の第一摺動面12における中心O1を通る弧の長さL1以上の長さL2の直径を有していることにより、図5に示すように、相手材16が湾曲に弾性変形してストッパーリング13内に嵌め込まれて沓10が形成された状態において、相手材16は、ストッパーリング13から径方向内側に圧縮力を受ける。そして、相手材16は、ストッパーリング13から受ける径方向内側の圧縮力に対する径方向外側の反力Q2をストッパーリング13の内周面14に作用させ、この反力Q2にてストッパーリング13に対して強固に取り付けられる。この際、ストッパーリング13の内周面14の根元に設けられている周方向に連続した溝条15に相手材16の端部が嵌まり込んでいることにより、湾曲に変形した相手材16が外側に膨らんで元に戻ろうとして、ストッパーリング13から係脱するのを防止することができる。尚、図示例のように溝条15が設けられている形態以外にも、ストッパーリングの内周面の下方位置(第一摺動面よりも僅かに上方の位置)に、ストッパーリングの周方向に間隔を置いて複数のボルトが径方向内側に突出する態様で取り付けられている形態であってもよい。この形態では、複数のボルトに相手材が係止されることにより、ストッパーリングから相手材が係脱するのを防止することができる。

【0045】
このように、押し付け治具80にて相手材16を第一摺動面12側に押し付け、相手材16を湾曲に弾性変形させてストッパーリング13内に嵌め込むことにより、手間のかからない製作方法にて沓10を製作することができる。そして、第一摺動面12と同じ曲率の押し付け面83を有する複数の押し付け片82を放射状に備えている押し付け治具80を適用することにより、簡易な構成の押し付け治具80にて、平面視円形の相手材16の全面を可及的均一で、かつ効率的に沓本体11の第一摺動面12に押し付けることができる。
【0046】
図6は、実施形態に係る沓を含む滑り免震装置の一例の縦断面図である。ここで、図示する滑り免震装置40は、片面滑り免震装置である。
【0047】
滑り免震装置40は、受け台20と、受け台20の表面に配設されて第二凹球面22を備えている球座21と、摺動体本体31と摩擦材34とを有する摺動体30と、摺動体30の第二摺動面32(第一凸球面)が摺動する第一摺動面12(第一凹球面)を下面に備えている沓10とを有する。
【0048】
沓10を構成する、摺動体30の有する摩擦材34の相手材16は既述するようにステンレス材により形成されており、相手材16の摺動面には鏡面仕上げ加工が施されている。
【0049】
摺動体本体31は、第二凹球面22に収容されてY1方向に回動する第二凸球面33と、第一摺動面12内を摺動してその表面に摩擦材34が取り付けられている第一凸球面32とを備えている。
【0050】
受け台20は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)、あるいはステンレス材(SUS材)や鋳鋼材、鋳鉄、鉄筋コンクリート、高硬度プラスチック等から形成されている。
【0051】
摺動体本体31は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成され、面圧60N/mm2(60MPa)程度の耐荷強度を有している。
【0052】
ここで、摩擦材34は、例えば、PTFE繊維と、PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維とからなる二重織物層により形成される。そして、PTFE繊維が沓10の下面側に配設されるようにして、第一凸球面32の表面に摩擦材34が固定される。ここで、「PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維」としては、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミドやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルやパラアラミドなどの繊維を挙げることができる。また、メタアラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラス、カーボン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、LCP、ポリイミド、PEEKなどの繊維を挙げることができる。また、さらに、熱融着繊維や綿、ウールなどの繊維を適用してもよい。その中でも、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、引張強度の極めて高いPPS繊維が望ましい。
【0053】
二重織物の構成は、第一凸球面32側にPPS繊維の緯糸が配設され、これを巻き込むようにしてPPS繊維の経糸が編み込まれる。また、これらの上方(沓10側の位置)にはPTFE繊維の緯糸が配され、PTFE繊維の経糸がPTFE繊維の緯糸を巻き込むようにして編み込まれるとともに、PTFE繊維の経糸はさらに下方のPPS繊維の緯糸も巻き込むようにして編み込まれている。そして、PTFE繊維が沓10側に位置するようにして、二重織物からなる摩擦材34が第一凸球面32に対して配設される。
【0054】
図示を省略するが、鉄筋コンクリート製の立ち上り部と、立ち上り部の上面に配設されている鋼製のベースプレートとを有する下部構造体に対して、受け台20が複数のアンカーボルトを介して固定される。また、鉄筋コンクリート製もしくは鋼製の柱と柱の下面に配設されている鋼製のベースプレートとを有する上部構造体に対して、沓10が複数のアンカーボルトを介して固定されることにより、上部構造体と下部構造体の間に滑り免震装置40が取り付けられる。
【0055】
図示例の滑り免震装置40は片面滑り免震装置であり、建物に地震力が作用した際に、球座21の第二凹球面22内で摺動体30がY1方向に回動し、摺動体30の第一凸球面32上において沓10がY2方向にスライドすることにより、地震力を低減する。
【0056】
尚、図示例の滑り免震装置40は片面滑り免震装置であるが、両面滑り免震装置であってもよく、両面滑り免震装置の場合は、受け台20に代わり、下方にも沓(下沓)が配設され、上下の沓の間に配設された摺動体が上下の沓の間で摺動することになる。
【0057】
[沓の第一摺動面と相手材の設計例]
次に、沓の第一摺動面と、第一摺動面に嵌め込まれる相手材の設計例について説明する。沓の第一摺動面の曲率半径を4500mmとした場合、第一摺動面の投影面の直径(第一摺動面の球面に対する弦の長さ)は669mmとなり、第一摺動面の弧の長さ(平面視円形の第一摺動面の中心を通る弧の長さ)は670.6mmとなる。そして、第一摺動面の中心(弧の中心)と投影面の中心の間の距離(第一摺動面の中心の深さ)は、12.47mmとなる。
【0058】
これに対して、本発明者等は、直径が670.6mmの相手材をコンピュータ内でモデル化し、その直径が669.0mmになるまで、相手材の外周においてその径方向に半径0.8mmの強制変位を付与する解析を行った。
【0059】
解析の結果、相手材モデルは湾曲に弾性変形し、その中心は鉛直方向に14.96mm変位することが分かり、上記する12.47mm以上変位することから、湾曲状に弾性変形した相手材は、第一摺動面に対して圧力を付与しながら密着することが検証されている。
【0060】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0061】
10:沓
10A:沓の前駆体
11:沓本体
12:第一摺動面(第一凹球面)
13:ストッパーリング
14:内周面(テーパー面)
15:溝条
16:相手材
20:受け台
21:球座
22:第二凹球面
30:摺動体
31:摺動体本体
32:第二摺動面(第一凸球面)
33:第二凸球面
34:摩擦材
40:滑り免震装置(片面滑り免震装置)
80:押し付け治具
81:中心軸
82:押し付け片
83:押し付け面
O1:第一摺動面の中心
O2:相手材の中心
L1:第一摺動面の弧長
L2:相手材の直径
Q1:周方向の圧縮力
Q2:反力
【要約】
【課題】製作コストが増加することなく、製作手間のかからない滑り免震装置を構成する沓の製作方法と、この製作方法により製作された沓、さらには、この沓の前駆体を提供すること。
【解決手段】滑り免震装置40を構成する沓10の凹球状の第一摺動面12において、摺動体30の凸球状の第二摺動面32に取り付けられている摩擦材34の相手材16を設置する、滑り免震装置を構成する沓の製作方法であり、平面視円形の第一摺動面12には、摺動体30の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリング13が設けられており、ストッパーリング13の内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の相手材16を用意し、相手材16をストッパーリング13に対して同心に位置合わせし、押し付け治具80にて相手材16を第一摺動面12に押し付けることにより、相手材16を湾曲に変形させてストッパーリング13内に嵌め込む。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6