【実施例】
【0045】
〔試験例1〕本発明に使用するモノクローナル抗体の製造方法
1.免疫用抗原の調製
グルコース7個が直鎖状に重合した構造を有するBGであるラミナリヘプタオース(生化学バイオビジネス社製)を免疫用抗原として使用した。ラミナリヘプタオース−トランスフェリンコンジュゲートを非特許文献1に記載の調製方法と同じ方法で調製し、免疫用抗原として使用した。
【0046】
2.ハイブリドーマの作製及び抗体の採取
調製したラミナリヘプタオース−トランスフェリンコンジュゲートの溶液(1mg/mL)100μl、0.1MPBS(pH7.2)0.25mL及びフロイントのアジュバント(完全アジュバントまたは完全アジュバント)0.25mLからなる懸濁液の全量をBALB/cマウス(雌)及びF344/Jc1ラット(雌)の背部皮下又は腹腔にそれぞれ計3−6回投与した。投与間隔は2週間で、最初の投与はフロイントの完全アジュバントを、後の4回はフロイントの不完全アジュバントを用いた。5回目の投与の1週間後にマウス及びラットを開腹してそれらの脾臓をとり、ピペッティングにより単細胞を得た。
【0047】
これらの脾細胞を血清無添加のPRMI1640培地で2回洗浄し、脾細胞5×10
7個に対し、別に培養を行ない洗浄したマウスミエローマ細胞(X−63−Ag8−6.5.3)1×10
7個の割合で混合して遠心分離を行ない、上清を除去した。沈渣をよく溶かし、融合促進剤であるポリエチレングリコール1540(1mL)を37℃で1分間かけてゆっくりと添加し、さらに1分間撹拌して融合を行なった。これらの融合細胞(ハイブリドーマ)を牛胎児血清添加RPMI1640培地10mLで懸濁して遠心分離した後、その残渣を96穴培養用プレート一枚にまき、37℃、5%CO
2インキュベーターで1週間培養した。HAT培地で1週間、37℃で培養した後、ハイブリドーマだけを選択的に採取した。それらの培養上清液を採取し、抗原としてBGの一種であるラミナリンを用いたELISAを行い、反応性が高いハイブリドーマ3種(ラット由来:86202R、マウス由来:86207及び86208)を選択し、クローニングを行った。各ハイブリドーマ細胞を腹腔注射したマウスから腹水を採取し、−80℃で凍結保存した。プロテインA又はプロテインGカラムを用いて、凍結保存した腹水から各抗体を精製した。
【0048】
〔実施例1:前処理の相違(アルカリ、酸、又は熱)が検体中のBG測定感度に及ぼす影響の確認〕
実施例1では、ヒト血漿検体を用いてサンドイッチELISAを行い、アルカリによる前処理、酸による前処理、又は熱による前処理がBG測定感度に与える影響を検討した。
固相用抗体として86207抗体を使用し、液相抗体として、ビオチン標識86202R抗体を使用した。
【0049】
1−1.アルカリによる前処理
ヒト血漿検体44μLにアルカリ前処理液77.4μL(150mM KOH:水酸化カリウム)を添加し、37℃で15分間インキュベートした。その後、アルカリ前処理液に1M Tris/HCl(pH7.5)を98.6μL添加し、アルカリ前処理液を中和した(合計220μL, 検体5倍希釈, 中和後のpHは7.9未満)。これをアルカリ前処理検体とした。
また、アルカリ前処理液77.4μLにあらかじめ1M Tris/HCl(pH7.5)を98.6μL添加して中和した。その後にヒト血漿検体44μLを加え、同じ溶液組成でアルカリ前処理をしていない検体を得た。
【0050】
1−2.酸による前処理(過塩素酸)
ヒト血漿検体80μLに2.5%過塩素酸80μLを添加し、37℃で15分間インキュベートした(白色の沈殿物が生じた)。その後、インキュベートした検体を遠心し(14000rpm, 15分, 4℃)、上清88μLを回収し、1M Tris/Cl(pH7.5)を138μL添加して過塩素酸を中和した(合計220μL, 検体5倍希釈,中和後のpHは7.4未満)。検体を室温に戻したのち、酸前処理検体として使用した。
2.5%過塩素酸44μLに1M Tris/Cl(pH7.5)を138μL加えてあらかじめ中和した。その後にヒト血漿検体44μLを添加し、同じ溶液組成で過塩素酸前処理をしていない検体を得た。
【0051】
1−3.熱による前処理
ヒト血漿検体44μLにPBS176μLを添加し(合計220μL, 検体5倍希釈)、75℃で15分間インキュベートした。インキュベートした検体を室温に戻したのち、熱前処理検体として使用した。
希釈したヒト血漿検体を室温(20〜25℃)で15分間インキュベートし、同じ溶液組成で熱処理をしていない検体を得た。
【0052】
1−4.検体量
いずれの検体に関しても2測定分(220μL分, 1測定は100μL使用)の検体量を作製し、サンドイッチELISAに用いた。
【0053】
1−5.抗体のビオチン標識
86202R抗体を2mg/mL(13.7μM, PBSで希釈)に調整し、20倍量(274μM)のEZ−Link Sulfo−NHS−LC−Biotin(Thermo Fisher Scientific社製)と反応させた。反応は氷上で2時間行った。
PBSで透析することにより、未反応のEZ−Link Sulfo−NHS−LC−Biotinを除いた。透析は4℃, 100倍量で2回行った(Slide−A−Lyzer Dialysis cas・BR>唐・狽狽・10k(Thermo Fisher Scientific社製)を使用)。
透析後、分光光度計を用いて吸光度より抗体濃度を決定し、ビオチン標識86202R抗体を得た。
【0054】
1−6.サンドイッチELISA
96穴プレート(nuncイムノプレート, 品番442404, Thermo Fisher Scientific社製)の各ウェルに固相用の86207抗体(5μg/mL, 100μL, PBSで希釈)を分注し、4℃で一晩静置した。
各ウェルの液を除いた後、8連ピペットマンを用いて、各プレートウェルにPBST 200μLを2回分注した(合計400μL)。添加したPBSTを除き、これらの操作を洗浄操作1回分とした。上記操作を3回行った(PBST 400μLで3回洗浄, 以下の操作においても洗浄は同様の手順で行った)。
洗浄後、各ウェルにブロッキング液200μLを分注し、室温で1時間以上静置した。ブロッキング液を捨てた後、各前処理を行った検体100μLを各ウェルに添加し、2時間反応させた。
反応後、各ウェルの液を除き、PBST 400μLで3回洗浄した。
1−5で作製したビオチン標識86202R抗体(1μg/mL, 100μL, ブロッキング液で希釈)を各ウェルに分注し、2時間反応させた。
反応後、各ウェルの液を除き、PBST400μLで3回洗浄した。
ブロッキング液で0.5μg/mLに希釈したStreptavidin Protein HRP conjugate 100μL (品番21126, Thermo Fisher Scientific社製)を各ウェルに分注し、1時間静置した。
発色液100μLを各ウェルに分注し、室温で10分間反応させた。
反応停止液100μLを各ウェルに添加した。
マイクロプレートリーダー(iMark, Bio−Rad社製を使用)で490nmの吸光度を測定した。
【0055】
1−7.結果
BGを35.0pg/mL含む検体(β-グルカン テストワコー:和光純薬工業株式会社製のリムルス試薬により測定)の測定結果を
図1に示す。BGを178.4pg/mL含む検体(β-グルカン テストワコーにより測定)の測定結果を
図2に示す。
BGを35.0pg/mL又は178.4pg/mL含むいずれの検体においても、アルカリの前処理を行った検体では、他の2種類の前処理(酸及び熱)を行った検体と比較して測定感度が著しく向上した。
【0056】
〔実施例2:前処理液のpHの相違が検体中のBG測定感度に及ぼす影響の確認〕
実施例2では、種々のpHを有するアルカリ溶液を用いてヒト血清検体の前処理を行った。真菌由来のBGを含まない陰性血清にCMパキマン(カルボキシメチルパキマン:BGの一種、Megazyme社製)を添加した検体を用いて、ヒト血清検体中のBG測定の感度に対して、pHの値が与える影響を検討した。リムルス試薬(β-グルカン テストワコー:和光純薬工業株式会社製)を用いた場合に、CMパキマンを添加した検体は、真菌由来のBGを含む実検体に近い反応性を示す。CMパキマンを6ng/mL添加した検体の吸光度は、真菌由来のBGを174pg/mL含む実検体の吸光度に相当する。アルカリ溶液による前処理操作、使用した固相用及び液相抗体、抗体へのビオチン標識並びにサンドイッチELISAの手順は実施例1と同じである。使用した前処理用KOH溶液濃度、前処理時のpH、中和後のpH、及び測定した吸光度の値(ブランク値を引いた後の吸光度)は、以下の表1のとおりである。また、処理時のpHと吸光度の関係を
図3に示す。
【0057】
【表1】
pHが10を超えると感度が向上し、12.2以上では、感度上昇は頭打ちとなった。
【0058】
〔実施例3:アルカリ前処理時間が検体中のBG測定感度に及ぼす影響の確認〕
実施例3では、アルカリ溶液による検体の前処理時間がBG測定の感度に与える影響を検討した。前処理時間を種々の時間に変更したこと及びCMパキマンを添加したヒト血清検体を用いたこと以外の前処理手順は、実施例1のアルカリによる前処理と同じである。抗体へのビオチン標識並びにサンドイッチELISAの手順は、実施例1と同じである。表2及び
図4に結果を示す。測定した吸光度の値は、ブランク値を引いた後の吸光度を表す。
【0059】
【表2】
処理時間を5分、10分、15分、30分、及び60分と変化させた場合でも、検体中のBGの測定感度は影響をほとんど受けないことが分かった。
【0060】
〔実施例4:アルカリ前処理温度が検体中のBG測定感度に及ぼす影響の確認〕
実施例4では、アルカリ前処理時の温度がBG測定の感度に与える影響を検討した。前処理時の温度を種々の温度に変更したこと及びCMパキマンを添加したヒト血清検体を用いたこと以外の前処理手順は、実施例1のアルカリ前処理と同じである。抗体へのビオチン標識並びにサンドイッチELISAの手順は、実施例1と同じである。表3及び
図5に結果を示す。
【0061】
【表3】
温度が4〜37℃の場合が最も感度がよいことが分かった。
【0062】
〔実施例5:実検体中のBGの検出下限の検討〕
実施例5では、実検体を用いて、サンドイッチELISAの検出下限を検討した。固相用抗体として86207抗体を使用し、液相抗体として、ビオチン標識86202R抗体を使用した。
【0063】
5−1.アルカリによる前処理
実検体(真菌由来のBGを421.2pg/mL含むヒト血漿、β-グルカン テストワコーにより測定)を、BG陰性検体12種を混合した希釈用プール血漿を用いて段階的に希釈し、希釈系列を調製した。当該検体1020μLにアルカリ処理液168μL(800mM KOH:水酸化カリウム)を添加し、37℃で15分間インキュベートした。その後、800mM HCl、100mM MOPS(pH7.5)を168μLずつ添加し、アルカリ処理液を中和した(合計1356μL, 検体3/4倍希釈,12測定分)。これらをアルカリ前処理検体とした。
【0064】
5−2.抗体のビオチン標識
実施例1と同様の手順で抗体のビオチン標識を行った。
【0065】
5−3.サンドイッチELISA
実施例1と同様の手順でサンドイッチELISAを行った。ただし、ビオチン標識抗体の濃度は4μg/mLとした。各試料はn=12測定を行った。
【0066】
5−4.結果
結果を下記の表4及び
図6に示す。表4の吸光度はn=12測定の平均値を表し、SDは標準偏差を示す。
【0067】
【表4】
実濃度0.0pg/mLの試料の吸光度の平均値に該試料の2.6SDを加算した値(0.214)は、5.5pg/mLの試料の吸光度平均に該試料の2.6SDを減算した値(0.254)よりも小さく、実検体中に含まれる真菌由来のBGが5.5pg/mL(リムルス試薬による測定値)である場合であっても、本発明の免疫学的分析方法の一実施形態であるELISAにおいてBGを検出できることが分かった。和光純薬工業株式会社製のリムルス試薬のカットオフ値は11pg/mLであり、本発明の免疫学的分析方法の一実施形態であるELISAがリムルス試薬と同等の感度を有することが、この結果により示された。
【0068】
〔実施例6:市販のリムルス試薬との相関の検討〕
実施例6では、サンドイッチELISAによる測定値とリムルス試薬による測定値との相関を、ヒト血漿試料(n=39)を用いて検討した。固相用抗体として86207抗体を使用し、液相抗体として、HRP標識86202R抗体を使用した。
【0069】
6−1.アルカリによる前処理
ヒト血漿を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で行った。
【0070】
6−2.抗体のHRP標識
HRP標識キット(同人化学社製, Peroxidase Labeling Kit−SH, LK09)を使用して86202R抗体のHRP標識を行った。
標識後のタンパク質定量は、BCA法により行った(キット名:Micro BCA protein assay kit, Thermo Scientific社製, 品番:23235)。
【0071】
6−3.サンドイッチELISA
96穴プレート(nuncイムノプレート, 品番442404, Thermo Fisher Scientific社製)の各ウェルに固相用の86207抗体(5μg/mL, 100μL, PBSで希釈)を分注し、4℃で一晩静置した。
各ウェルの液を除いた後、8連ピペットマンを用いて、各プレートウェルにPBST 200μLを2回分注した(合計400μL)。添加したPBSTを除き、これらの操作を洗浄操作1回分とした。上記操作を3回行った(PBST400μLで3回洗浄, 以下の操作においても洗浄は同様の手順で行った)。
洗浄後、各ウェルにブロッキング液200μLを分注し、室温で1時間以上静置した。
ブロッキング液を捨てた後、各前処理を行った検体100μLを各ウェルに添加し、90分反応させた。
反応後、各ウェルの液を除き、PBST400μLで3回洗浄した。
6−2で作製したHRP標識86202R抗体(0.5μg/mL, 100μL, ブロッキング液で希釈)を各ウェルに分注し、30分間反応させた。
反応後、各ウェルの液を除き、PBST400μLで3回洗浄した。
発色液100μLを各ウェルに分注し、室温で10分間反応させた。
反応停止液100μLを各ウェルに添加した。
マイクロプレートリーダー(Multiskan FC, thermo scientific社製を使用)で492nmの吸光度を測定した。
【0072】
6−4.リムルス試薬
リムルス試薬(商品名:β−グルカンテストワコー、和光純薬工業株式会社製)の添付文書に記載のプロトコルに従ってBGの測定を行った。
【0073】
6−5.結果
リムルス試薬の測定値とELISAによる吸光度との相関を
図7に示す。
本発明の免疫学的分析方法の一実施形態のサンドイッチELISAによる吸光度測定値は、リムルス試薬による測定値と相関を示した。