特許第6743361号(P6743361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6743361
(24)【登録日】2020年8月3日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】ワイヤレスセンサ付き軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20200806BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20200806BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20200806BHJP
   G01K 1/14 20060101ALI20200806BHJP
   G01K 1/02 20060101ALI20200806BHJP
   G08C 17/00 20060101ALI20200806BHJP
   G08C 17/02 20060101ALI20200806BHJP
   G08C 19/00 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   F16C41/00
   F16C19/06
   F16C33/80
   G01K1/14 M
   G01K1/02 E
   G08C17/00 B
   G08C17/02
   G08C19/00 S
   G08C19/00 T
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-198411(P2015-198411)
(22)【出願日】2015年10月6日
(65)【公開番号】特開2017-72170(P2017-72170A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】岡村 俊彦
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−097582(JP,A)
【文献】 特開2003−013983(JP,A)
【文献】 特開2012−149716(JP,A)
【文献】 特開2003−022492(JP,A)
【文献】 特開2003−016566(JP,A)
【文献】 特開2004−355164(JP,A)
【文献】 特開2006−189101(JP,A)
【文献】 特開2007−192293(JP,A)
【文献】 特開2005−180985(JP,A)
【文献】 特開2014−092225(JP,A)
【文献】 特開2005−331430(JP,A)
【文献】 特開2005−301645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00−41/04
F16C 33/72−33/82
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
G08C 13/00−25/04
G01K 1/02
G01K 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軌道輪と、
前記第1の軌道輪の外側に該第1の軌道輪と同心に配置された第2の軌道輪と、
前記第1の軌道輪と前記第2の軌道輪との間に設けられた複数の転動体と、
前記第1の軌道輪と前記第2の軌道輪との間に設けられ、前記複数の転動体を転動自在に周方向に間隔を空けて保持する環状の保持器と、
前記保持器の前記転動体を挟んで対向する端面のうち少なくとも一方の端面に設けられた、N極及びS極が周方向に交互に連続して配置された環状の多極リング磁石と、
前記第1の軌道輪及び前記第2の軌道輪のうち固定支持される方の軌道輪に支持され、前記第1の軌道輪と前記第2の軌道輪との間の隙間を塞ぐ環状のシールと、
前記固定支持される方の軌道輪の外表面より内側に設けられた、該軌道輪を含む構成部品に生じる物理現象に係る物理量を検出するセンサと、
前記シールの前記多極リング磁石と対向する側の面に設けられたコイルと、
前記シールの前記多極リング磁石と対向する側の面又は該面とは反対側の面に設けられた送信用アンテナと、
前記シールの前記多極リング磁石と対向する側の面に設けられた、前記センサの検出結果に基づく情報を、前記送信用アンテナを介して無線送信する処理を行う無線処理回路と、
前記シールの前記多極リング磁石と対向する側の面に設けられた、前記多極リング磁石と前記コイルとの相対回転によって前記コイルに生じる誘導起電力を用いて前記センサ及び前記無線処理回路に駆動電力を供給する電源回路と、を備え、
前記多極リング磁石は、強磁性体材料から形成された環状かつ薄板状のヨークに、N極及びS極が周方向に交互に連続して配置された環状かつ薄板状の磁石を重ね合わせて構成され、前記保持器の前記一方の端面に前記ヨーク側の面を接合して設けられており、
前記保持器、前記ヨーク及び前記磁石は一体成型されているワイヤレスセンサ付き軸受。
【請求項2】
前記センサは、加速度センサ、温度センサ及び荷重センサのうちの少なくとも1つである請求項1に記載のワイヤレスセンサ付き軸受。
【請求項3】
前記センサは、前記固定支持される方の軌道輪の内周面と、前記固定支持される方の軌道輪の外表面に形成した溝部の内側と、前記シールの前記多極リング磁石と対向する側の面とのうち少なくとも1つに設けられている請求項1又は2に記載のワイヤレスセンサ付き軸受。
【請求項4】
前記シールの前記多極リング磁石と対向する側の面に、前記無線処理回路及び前記電源回路を覆う保護カバーを設けた請求項1から3のいずれか1項に記載のワイヤレスセンサ付き軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤレスセンサ付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型発電機構を有したワイヤレスセンサ付き軸受として、例えば、特許文献1に記載の技術がある。この技術は、シールに形成したコイルと、ロータもしくは保持器にN極とS極とが交互に繰り返すように配置した永久磁石とを用いて発電を行い、この発電による電力を利用して外輪に固定したケースに設けた温度センサ、送信制御部を駆動し、センサ情報を無線送信するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−13983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の従来技術は、センサ、送信制御部、発電回路、送信用アンテナが軸受外部に形成されており、例えば、既存のセンサレス軸受との置き換えを行う場合に、軸受外部に設けられた構成部品に合わせて、軸受ハウジングの変更を行う必要があるなど置き換えが容易ではなかった。
そこで、本発明は、このような従来の技術の有する未解決の課題に着目してなされたものであって、既存のワイヤレス軸受との置き換えが容易なワイヤレスセンサ付き軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係るワイヤレスセンサ付き軸受は、第1の軌道輪と、第1の軌道輪の外側に第1の軌道輪と同心に配置された第2の軌道輪と、第1の軌道輪と第2の軌道輪との間に設けられた複数の転動体と、第1の軌道輪と第2の軌道輪との間に設けられ、複数の転動体を転動自在に周方向に間隔を空けて保持する環状の保持器と、保持器の転動体を挟んで対向する端面のうち少なくとも一方の端面に設けられた、N極及びS極が周方向に交互に連続して配置された環状の多極リング磁石と、第1の軌道輪及び第2の軌道輪のうち固定支持される方の軌道輪に支持され、第1の軌道輪と第2の軌道輪との間の隙間を塞ぐ環状のシールと、固定支持される方の軌道輪の外表面より内側に設けられた、軌道輪を含む構成部品に生じる物理現象に係る物理量を検出するセンサと、シールの多極リング磁石と対向する側の面に設けられたコイルと、シールの多極リング磁石と対向する側の面又は面とは反対側の面に設けられた送信用アンテナと、シールの多極リング磁石と対向する側の面に設けられた、センサの検出結果に基づく情報を、送信用アンテナを介して無線送信する処理を行う無線処理回路と、シールの多極リング磁石と対向する側の面に設けられた、多極リング磁石とコイルとの相対回転によってコイルに生じる誘導起電力を用いてセンサ及び無線処理回路に駆動電力を供給する電源回路と、を備え、多極リング磁石は、強磁性体材料から形成された環状かつ薄板状のヨークに、N極及びS極が周方向に交互に連続して配置された環状かつ薄板状の磁石を重ね合わせて構成され、保持器の一方の端面にヨーク側の面を接合して設けられており、保持器、ヨーク及び磁石は一体成型されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、保持器の転動体を挟んだ少なくとも一方の端面に多極リング磁石を設け、シールの多極リング磁石と対向する側の面又はこの面とは反対側の面に送信用アンテナを設け、シールの多極リング磁石と対向する側の面に、コイル、無線処理回路及び電源回路を設け、固定支持される軌道輪の外表面よりも内側にセンサを設ける構成とした。これにより、各種回路やセンサ等が軌道輪の外表面から外側に突出することがないため、例えば、軸受ハウジングの形状変更等なしに既存の軸受との置き換えを容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係るワイヤレスセンサ付き軸受の構成例を示す斜視図であり、(a)は、軸受の外観を示す斜視図、(b)は、(a)から第1のシールを取り外しかつ第2の軌道輪の一部を切り取った状態の斜視図、(c)は、第1のシールをコイル及び回路の形成面側から見た斜視図である。
図2】第1のシールの回路形成部に保護カバーを装着した一例を示す斜視図である。
図3】多極リング磁石の構成例を示す図である。
図4】ワイヤレスセンサ付き軸受の部分断面図であり、多極リング磁石とコイルとの対向状態の一例を模式的に示した図である。
図5】ワイヤレスセンサ付き軸受の部分断面図であり、電源回路と検出センサとの接続関係の一例を模式的に示した図である。
図6】多極リング磁石及びコイルによる発電の原理を説明するための斜視図である。
図7】コイルと、各回路と、検出センサとの接続関係を示すブロック図である。
図8】電源回路の構成例を示すブロック図である。
図9】軸受稼働時の回転数と温度変化との関係を示す図である。
図10】(a)〜(d)は、検出センサの配設位置の変形例を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、部材ないし部分の縦横の寸法や縮尺は実際のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法や縮尺は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(実施形態)
(構成)
本実施形態に係るワイヤレスセンサ付き軸受1は、図1(a)に示すように、第1の軌道輪である内輪2と、内輪2の外側に該内輪2と同心に配置された第2の軌道輪である外輪3と、内輪2及び外輪3の間の隙間を塞ぐ第1のシール4及び第2のシール8(後述)とを備える。本実施形態では、内輪2が回転軸(不図示)と共に回転する回転輪となり、外輪3が軸受ハウジング(不図示)等に固定されて回転しない静止輪となる。
【0010】
以下、ワイヤレスセンサ付き軸受1を、単に「軸受1」と記載する場合がある。
この軸受1は、更に、図1(b)に示すように、内輪2の外周面及び外輪3の内周面との間に設けられた、球状の複数の転動体5、及びこれら複数の転動体5を転動自在に周方向に等間隔を空けて保持する環状の保持器6を備える。加えて、軸受1は、保持器6の転動体5を挟んで対向する2つの端面のうち一方の端面に設けられた多極リング磁石7を備える。
なお、本実施形態では、軸受1を転動体5の形状が球状の玉軸受から構成しているが、この構成に限らず、転動体5の形状が、円錐形状、円筒形状、針状、たる状などのころ軸受から構成してもよい。
【0011】
更に、軸受1は、図1(c)及び図2に示すように、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の面に設けられた、コイル40、電源回路43、制御回路44、無線回路45及びアンテナ46を備える。
コイル40は、例えば、銅等の導体を材料としてエッチング法等の薄膜パターン形成方法を用いて第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の面に設けられており、磁束密度(起電力)を大きくするための第1パターン40a及び第2パターン40bと、巻線部分である第3パターン40cとから構成される。
【0012】
第1パターン40aは、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の端面の外周側端部から内周側に向かって伸びる直線状のパターンが周方向に円弧状に等間隔に形成された櫛状のパターンである。
第2パターン40bは、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の端面の内周側端部から外周側に向かって伸びる直線状のパターンが第1パターン40aの直線状のパターンと互い違いとなるように周方向に円弧状に等間隔に形成された櫛状のパターンである。
【0013】
第3パターン40cは、始端40sから終端40eに向かって、第1パターン40a及び第2パターン40bの直線状のパターン間の隙間を縫うように矩形に折り返しながら周方向に向かって蛇行する形状のパターンである。
なお、本実施形態では、コイル40を一層の構成としたが、発電力向上のために多層構造としてもよい。
電源回路43、制御回路44、無線回路45及びアンテナ46は、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の面における、コイル40の形成部分以外の残りの部分に形成されている。そして、本実施形態では、電源回路43、制御回路44、無線回路45及びアンテナ46は、図2に示すように、これらをグリースや摩耗粉から保護するための保護カバー47で覆われている。なお、各回路の詳細については後述する。
【0014】
また、本実施形態において、多極リング磁石7は、図3に示すように、例えば電磁鋼板等の強磁性体材料から形成された環状かつ薄板状のヨーク70と、S極とN極とが周方向に交互に連続して配置された環状かつ薄板状のマグネットゴムシート71とを重ね合わせた構成となっている。このようにヨーク70とマグネットゴムシート71とを重ね合わせることによって、多極リング磁石7の磁束密度を高めている。
そして、このような構成の多極リング磁石7を、例えば6,6−ナイロン(登録商標)等の非磁性材料で形成された保持器6の転動体5を挟んだ一方の端面に、ヨーク70側の面を接合して取り付けている。
【0015】
本実施形態では、高速回転中のマグネットゴムシート71等の離脱による破損を防止するために、保持器6、ヨーク70及びマグネットゴムシート71を、射出成型によって一体成型している。
なお、強度の観点からは、射出成型によって一体成型することが望ましいが、ヨーク70及びマグネットゴムシート71を一体成型してなる多極リング磁石7を、保持器6の端面に接着や嵌合等の取付手段で取り付ける構成としてもよい。この構成とすることで、既存のセンサレス軸受の保持器をそのまま用いることが可能となる。
【0016】
また、マグネットゴムシート71に代えて、これと同じ構成のプラスチックマグネットを用いる構成としてもよい。
また、多極リング磁石7の劣化を防ぐために、マグネットゴムシート71又はプラスチックマグネットと、ヨーク70との表面をフッ素ゴム等で被覆する構成としてもよい。
また、マグネットゴムシート71又はプラスチックマグネットは、磁束密度を向上させるために、ネオジム磁石又はサマリウムコバルト磁石を含有していることが望ましい。
一方、第1のシール4は、図4及び図5に示すように、例えば電磁鋼板等の強磁性体材料から形成された環状の芯金41と、芯金41の表面を被覆するゴム等の絶縁材料から形成された絶縁膜42とから構成されている。そして、第1のシール4の絶縁膜42上に、コイル40、電源回路43、制御回路44、無線回路45及びアンテナ46が形成されている。
【0017】
なお、アンテナ46については、第1のシール4のコイル40の形成面とは反対側の面に設ける構成としてもよい。この場合、アンテナ46が第1のシール4の表面から突出しないように、第1のシール4の表面に収容部を設け、アンテナ46を収容部内に収容する構成としてもよい。
また、コイル40、電源回路43、制御回路44、無線回路45及びアンテナ46は、絶縁膜42上に直接設ける構成に限らず、別基板に形成して、絶縁膜42上に接着又は嵌合等の取付手段によって取り付ける構成としてもよい。
【0018】
また、第2のシール8は、内輪2及び外輪3の保持器6及び転動体5を挟んで第1のシール4とは反対側に配置されており、鋼板等から形成された環状の芯金81と、芯金81の表面を被覆するゴム等の絶縁材料から形成された絶縁膜82とから構成されている。
本実施形態において、第1のシール4は、外周側端部を外輪3の内周面の軸方向の一端側に設けられた第1の溝31の内側に嵌め込んで固定支持し、内周側端部を内輪2の外周面の軸方向の一端側に設けられた第2の溝21の内側の面に押し当てた状態で配置されている。
【0019】
また、第2のシール8は、外周側端部を外輪3の内周面の軸方向の他端側に設けられた第3の溝32の内側に嵌め込んで固定支持し、内周側端部を内輪2の外周面の軸方向の他端側に設けられた第4の溝22の内側の面に押し当てた状態で配置されている。なお、図4及び図5中の一点鎖線は軸受1の支持する回転軸の軸方向を示す。
即ち、本実施形態において、第1のシール4及び第2のシール8は、接触形のシールから構成されている。なお、第1のシール4及び第2のシール8は、接触形のシールに限らず非接触形のシールから構成してもよい。
【0020】
上記構成によって、軸受1は、図4に示すように、軸受内部において、保持器6に設けられた多極リング磁石7の磁極面と、第1のシール4に設けられたコイル40のパターン面とが軸方向に対向して配置される。この対向間隔は、一般に磁石とコイルとの距離が離れるほど磁力が小さくなることから可能な限り小さくすることが望ましい。
そして、回転軸が回転し内輪2が回転すると転動体5が転動し、転動体5から駆動力を受けて保持器6が回転する。これにより、保持器6と共に多極リング磁石7が回転して、多極リング磁石7と静止状態にあるコイル40とが相対回転する。
【0021】
多極リング磁石7とコイル40とが相対回転すると、図6に示すように、マグネットゴムシート71の各磁極対(磁極71s及び71nの組)の周りに形成されている磁場Hが多極リング磁石7と共に移動し、コイル40の第3パターン40cの蛇行する面を横切る磁場Hの向きが第3パターン40cに対して交番的に変化する。そのため、第3パターン40cの内部には、それぞれの矩形状に折返した部分11csが囲う内側を通過する磁場Hを打ち消す方向、具体的には、図6に示す瞬間では矢印W方向に電流が流れるように起電力が発生する。磁場Hは、第3パターン40cに対して交番的に変化するので、第3パターン40cに発生する起電力も交番的に変化する。従って、第3パターン40cの始端40s及び終端40eの間には交流の起電力が発生する。
【0022】
このとき、多極リング磁石7と第3パターン40cとは、相対的に回転するので、それぞれの真円度、相対的距離、磁極の間隔及び蛇行の間隔などに多少寸法的なばらつきがあっても、始端40s及び終端40eの間に生じる起電力の変動が少なく、安定した電力を発生することが可能である。
一方、本実施形態に係る軸受1は、図5に示すように、外輪3の内周面における転動体5を挟んで第1のシール4側に検出センサ9が設けられている。検出センサ9は、軸受1の構成部品に生じる物理現象(例えば、発熱、振動、変形等)に係る物理量を検出する1つ以上のセンサから構成されている。
【0023】
具体的に、本実施形態の検出センサ9は、図7に示すように、温度を検出する温度センサ90、加速度(振動)を検出する加速度センサ91及び荷重を検出する荷重センサ92から構成されている。
本実施形態では、図7に示すように、コイル40で発電された電力が、電源回路43を介して駆動電力として、検出センサ9、制御回路44及び無線回路45に供給されるように電気的な配線等が構成されている。また、検出センサ9の検出結果は、制御回路44へと入力されるように電気的な配線等が構成されている。
【0024】
制御回路44は、検出センサ9の検出結果を演算処理し、この演算結果と制御信号とを無線回路45に送信する。この制御信号は、無線回路45の無線送信動作を制御する信号である。本実施形態では、予め設定した周期で検出結果を無線送信し、送信時以外はスリープ状態となるように無線回路45の動作を制御する。
無線回路45は、制御回路44からの制御信号に従って、予め設定した周期で演算結果を、アンテナ46を介して外部に無線送信し、送信タイミング以外ではスリープ状態となるように動作する。この無線送信された演算結果は、上位装置等の備える無線受信部100によって受信される。
【0025】
アンテナ46は、本実施形態において、例えばアルミニウム等の抵抗率の小さい金属材料から形成されたマイクロストリップアンテナから構成されている。なお、マイクロストリップアンテナに限らず、ダイポールアンテナ等の他の薄型のアンテナから構成してもよい。
また、電源回路43は、図8に示すように、整流回路430と、平滑回路431と、蓄電回路432と、蓄電用二次電池433と、定電圧出力回路434とを備える。
整流回路430は、コイル40から入力される起電力(交流電力)を整流して直流電力へと変換し、この直流電力を平滑回路431へと出力する。
【0026】
平滑回路431は、整流回路430からの直流電力を平滑化して該直流電力から交流成分を低減し、この低減後の直流電力を蓄電回路432に出力する。
蓄電回路432は、制御回路44の演算処理及び無線回路45の無線送信処理の実行期間は、平滑回路431から入力された直流電力を定電圧出力回路434に出力する。一方、制御回路44の演算処理及び無線回路45の無線送信処理が実行されない期間は、平滑回路431から入力された直流電力によって蓄電用二次電池433を充電する。
定電圧出力回路434は、蓄電回路432からの直流電力、又は蓄電用二次電池433からの直流電力を一定電圧Vbの駆動電力として制御回路44、無線回路45及び検出センサ9に供給する。なお、本実施形態では、蓄電用二次電池433に蓄電された電力は、検出センサ9、制御回路44及び無線回路45の起動後のサポート用の駆動電力として用いられる。
【0027】
以上の構成によって、本実施形態に係る軸受1は、ワイヤレスセンサ部を構成する検出センサ9、制御回路44、無線回路45及びアンテナ46と、電源部を構成する多極リング磁石7、コイル40及び電源回路43とが全て軸受1の内部に収容される構成となる。即ち、本実施形態に係る軸受1は、既存のセンサレス軸受と同様に軸受外部に突出して形成されたワイヤレスセンサ部や電源部等のない外観構成(寸法も同等)となる。
【0028】
(動作)
次に、本実施形態に係る軸受1の動作を説明する。
軸受1の支持する回転軸(不図示)が回転することで内輪2が回転し、この回転に伴って転動体5が転動し、転動体5からの駆動力によって保持器6が回転する。これにより、保持器6の端面に設けられた多極リング磁石7の磁極面と第1のシール4の内側の面に設けられたコイル40のパターン面とが対面しつつ回転軸回りに相対的に回転運動を行う。
この相対的な回転運動によって、コイル40を構成する第3パターン40cの始端40s及び終端40eとの間に交流の起電力が発生する。この起電力は、電源回路43に入力され、電源回路43において、整流及び平滑化されて直流電力に変換され、この直流電力が蓄電回路432を経て定電圧出力回路434から一定電圧Vbの駆動電力として、制御回路44、無線回路45及び検出センサ9へと供給される。
【0029】
これにより、所定電力以上の駆動電力が供給されることで、検出センサ9、制御回路44及び無線回路45が起動する。ここでは、検出センサ9、制御回路44及び無線回路45がいずれも起動したとする。
検出センサ9は、温度センサ90が外輪3の温度検出を開始し、加速度センサ91が外輪3に生じる振動に応じた加速度の検出を開始し、荷重センサ92が外輪3にかかる荷重の検出を開始する。
これらセンサ90〜92で検出した温度、加速度及び荷重の検出結果は、制御回路44に入力される。
【0030】
制御回路44は、検出センサ9から入力された、温度、加速度及び荷重の検出結果を演算処理する。そして、この演算結果を含む制御信号を予め設定した周期で無線回路45に出力する。
無線回路45は、制御回路44からの制御信号に従って、演算結果を、アンテナ46を介して無線送信する。なお、無線回路45は、制御信号が入力されていない期間はスリープ状態となって消費電力を抑える。
アンテナ46を介して無線送信された演算結果は、上位装置等の備える無線受信部100において受信される。
【0031】
一方、制御回路44による演算処理及び無線回路45による無線送信処理が実行されない期間は、蓄電回路432によって蓄電用二次電池433の充電が行われる。即ち、余剰分の電力を蓄電する。蓄電用二次電池433に蓄電された電力は、検出センサ9、制御回路44及び無線回路45の起動後の駆動サポートに用いられる。
ここで、回転軸(内輪2)の回転数と、検出センサ9(ここでは温度センサ90に着目)、制御回路44及び無線回路45の動作との関係を見ると、図9中の太線に示すように、回転軸の回転数が低い初期の期間はコイル40の発電電力不足によって検出センサ9、制御回路44及び無線回路45が起動できない状態となる。そのため、温度センサ90による温度検出が行われないと共に、制御回路44の演算処理及び無線回路45の無線送信処理も行われない(図9中の無線OFF)。なお、図9において、横軸は時間、縦軸は回転軸の回転数及び温度センサ90で検出した温度を示す。
【0032】
その後、図9中の太線に示すように、回転軸の回転数が高くなって回転数Aを超えると、検出センサ9、制御回路44及び無線回路45が起動して、図9中の細線に示すように、温度センサ90による温度検出が行われ、予め設定した周期で制御回路44の演算処理及び無線回路45の無線送信処理が実行される(図9中の無線ON)。
引き続き、図9中の太線に示すように、回転軸の回転数が回転数Bに向けて徐々に低下していくが、この期間は、蓄電用二次電池433による駆動サポートが行われるため、起動に必要な回転数Aに応じた電力と比較して低い電力で検出センサ9、制御回路44及び無線回路45が動作を継続する。即ち、図9中の細線に示すように、温度センサ90による温度検出が行われ、予め設定した周期で制御回路44の演算処理及び無線回路45の無線送信処理が実行される。
【0033】
引き続き、図9中の太線に示すように、回転軸の回転数が回転数B以下になると、蓄電用二次電池433による駆動サポートができなくなり、検出センサ9、制御回路44及び無線回路45が停止する(図9中の無線OFF)。
その後、図9中の太線に示すように、回転軸の回転数が高くなって回転数A以上となると、検出センサ9、制御回路44及び無線回路45が再び起動し、温度センサ90による温度検出が再開されると共に、予め設定した周期で実行される制御回路44の演算処理及び無線回路45の無線送信処理が再開される(図9中の無線ON)。
ここで、制御回路44及び無線回路45は、無線処理回路に対応し、アンテナ46は、送信用アンテナに対応する。
【0034】
(実施形態の効果)
(1)上記実施形態に係るワイヤレスセンサ付き軸受1は、第1の軌道輪としての内輪2と、内輪2の外側に該内輪2と同心に配置された第2の軌道輪としての外輪3と、内輪2及び外輪3との間に設けられた複数の転動体5と、内輪2及び外輪3との間に設けられ、複数の転動体5を転動自在に周方向に等間隔を空けて保持する環状の保持器6と、保持器6の転動体5を挟んで対向する端面のうち一方の端面に設けられた、N極及びS極が周方向に交互に連続して配置された環状の多極リング磁石7と、内輪2及び外輪3のうち固定支持される方の軌道輪に支持され、内輪2と外輪3との間の隙間を塞ぐ環状の第1のシール4及び第2のシール8と、固定支持される方の軌道輪の外表面より内側に設けられた、該軌道輪を含む構成部品に生じる物理現象に係る物理量を検出する検出センサ9と、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の面に設けられたコイル40と、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の面に設けられたアンテナ46と、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の面に設けられた、検出センサ9の検出結果に基づく情報を、アンテナ46を介して無線送信する処理を行う制御回路44及び無線回路45と、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の面に設けられた、多極リング磁石7とコイル40との相対回転によってコイル40に生じる誘導起電力を用いて検出センサ9、制御回路44及び無線回路45に駆動電力を供給する電源回路43と、を備える。
【0035】
この構成であれば、ワイヤレスセンサ部を構成する検出センサ9、制御回路44、無線回路45及びアンテナ46と、電源部を構成する多極リング磁石7、コイル40及び電源回路43とを軸受1の内部に収容することが可能となる。即ち、本実施形態に係る軸受1は、軸受外部に突出して形成されたワイヤレスセンサ部や電源部等の突出部のないセンサレス軸受と同等の外観構成とすることが可能である。
これによって、例えば、軸受ハウジングの形状変更等なしに既存の軸受との置き換えを容易に行うことが可能となる。また、既存のセンサレス軸受の構成部品に対して検出センサ9、コイル40、電源回路43、制御回路44、無線回路45及びアンテナ46を付加することで構成することが可能である。即ち、構成部品の少なくとも一部を既存の軸受部品で流用できるため、製造を容易に行うことが可能となる。
【0036】
(2)上記実施形態に係るワイヤレスセンサ付き軸受1は、多極リング磁石7が、強磁性体から形成された環状かつ薄板状のヨーク70に、N極及びS極が周方向に交互に連続して配置された環状かつ薄板状のマグネットゴムシート71を重ね合わせて構成され、保持器6の上記一方の端面にヨーク70側の面を接合して設けられている。
この構成であれば、ヨーク70によって、マグネットゴムシート71の磁束密度を高めることが可能となり、コイル40の発電量を向上することが可能となる。
(3)上記実施形態に係るワイヤレスセンサ付き軸受1は、保持器6、ヨーク70及びマグネットゴムシート71が一体成型されている。
この構成であれば、保持器6が高速回転した場合に、ヨーク70やマグネットゴムシート71が保持器6から離脱することを低減することが可能となる。
【0037】
(4)上記実施形態に係るワイヤレスセンサ付き軸受1は、検出センサ9が、温度センサ90、加速度センサ91及び荷重センサ92のうちの少なくとも1つを含んで構成される。
この構成であれば、軸受1の温度、軸受1の振動によって生じる加速度、軸受1にかかる荷重の少なくとも1つを検出し、その検出結果に係る情報を外部に無線送信することが可能となる。
(5)上記実施形態に係るワイヤレスセンサ付き軸受1は、検出センサ9が、軸受ハウジング等に固定支持される外輪3の内周面に設けられている。
この構成であれば、検出センサ9を、軸受の内部に収容することが可能となる。
【0038】
(6)上記実施形態に係るワイヤレスセンサ付き軸受1は、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の面に、制御回路44、無線回路45、アンテナ46及び電源回路43を覆う保護カバー47を設けた。
この構成であれば、グリースや摩耗粉などから制御回路44、無線回路45、アンテナ46及び電源回路43を保護することが可能となり、その結果、これら回路やアンテナのグリースや摩耗粉などによる故障の発生を低減することが可能となる。
【0039】
(変形例)
(1)上記実施形態では、検出センサ9を、静止輪である外輪3の内周面に設ける構成としたが、この構成に限らない。例えば、図10(a)に示すように、外輪3の肩の部分に第5の溝33を形成し、この第5の溝33の内側に検出センサ9を設ける構成としてもよい。また、図10(b)に示すように、外輪3の外周面に第6の溝34を形成し、この第6の溝34の内側に検出センサ9を設ける構成としてもよいし、図10(c)に示すように、外輪3の軸方向端面に第7の溝35を形成し、この第7の溝35の内側に検出センサ9を設ける構成としてもよい。また、例えば、図10(d)に示すように、検出センサ9を、第1のシール4の多極リング磁石7と対向する側の面に設ける構成としてもよい。この構成によって、制御回路44とセンサ9との間の配線を外部に伸ばす必要が無くなると共に、配線長を短くすることが容易となり、簡易にセンサ信号へのノイズ混入等の影響を低減できる配線構成とすることが可能となる。
【0040】
(2)上記実施形態では、多極リング磁石7と、コイル40との組合せによって発電する構成としたが、この構成に限らない。例えば、エレクトレット電極を、保持器6の端面に設け、対向電極を第1のシール4のエレクトレット電極と対向する側の面に設けてエレクトレット電極と対向電極との間の静電誘導によって発電する構成とするなど他の構成としてもよい。
(3)上記実施形態では、温度センサ90、加速度センサ91及び荷重センサ92の3種類のセンサを設ける構成としたが、この構成に限らない。例えば、回転数や湿度を検出するセンサなど他の種類のセンサを設ける構成としてもよい。
【0041】
(4)上記実施形態では、振動を検出するセンサとして、加速度センサを例に挙げて説明したが、この構成に限らない。例えば、AE(acoustic emission)センサ、超音波センサ、ショックパルスセンサ、マイクロホン等や、あるいは、速度、加速度、歪み、応力、変位型等、振動に起因して発生する物理量を電気信号化できるものであれば他のセンサを用いる構成としてもよい。
(5)上記実施形態では、第1の軌道輪(内輪)が回転し、第2の軌道輪(外輪)が固定された構成としたが、この構成に限らない。例えば、内輪が固定され、外輪が回転する構成としてもよい。
【0042】
(6)上記実施形態では、多極リング磁石7を、保持器6の転動体5を挟んで対向する端面のうち一方の端面に設ける構成としたが、この構成に限らない。例えば、発電量を増やすために、多極リング磁石7を保持器6の転動体5を挟んで対向する端面の両方に設ける構成としてもよい。この場合、コイル40も、第1のシール4及び第2のシール8の多極リング磁石7とそれぞれ対向する側の面に設ける。
【符号の説明】
【0043】
1…ワイヤレスセンサ付き軸受、2…第1の軌道輪(内輪)、3…第2の軌道輪(外輪)、4…第1のシール、5…転動体、6…保持器、7…多極リング磁石、9…検出センサ、40…コイル、43…電源回路、44…制御回路、45…無線回路、46…アンテナ、47…保護カバー、70…ヨーク、71…マグネットゴムシート、90…温度センサ、91…加速度センサ、92…荷重センサ
図1
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