(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記デュアルクラッチ式変速機は、前記第1クラッチに接続される第1入力軸と、前記第2クラッチに接続される第2入力軸と、前記第1入力軸及び第2入力軸に常時結合されている副軸とを有し、前記第1入力軸と前記副軸とを結合する第1スプリッタギヤ対と、前記第2入力軸と前記副軸とを結合する第2スプリッタギヤ対とは、異なるギヤ比となっている
請求項3に記載のデュアルクラッチ式変速機の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係るデュアルクラッチ式変速機の制御装置の一例である変速制御装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るデュアルクラッチ装置を備えるデュアルクラッチ式変速機を示す模式的な構成図である。
【0018】
デュアルクラッチ式変速機1は、駆動源の一例であるエンジン10の出力軸11に接続されている。
【0019】
デュアルクラッチ式変速機1は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22を有するデュアルクラッチ装置20と、変速機構30と、制御装置の一例としての変速制御装置80と、エンジン回転数センサ91と、第1入力軸回転数センサ92、第2入力軸回転数センサ93と、車速センサ94(出力回転数センサともいう)と、アクセル開度センサ95とを備えている。
【0020】
第1クラッチ21は、例えば、湿式多板クラッチであって、エンジン10の出力軸11と一体回転するクラッチハブ23と、変速機構30の第1入力軸31と一体回転する第1クラッチドラム24と、複数枚の第1クラッチプレート25と、複数枚の第1クラッチプレート25の周囲の第1空間21Aと、第1クラッチプレート25を圧接する第1ピストン26と、第1油圧室26Aとを備えている。
【0021】
第1クラッチ21は、第1油圧室26Aに供給される作動油の圧力(作動油圧)によって第1ピストン26が出力側(
図1の右方向)にストローク移動すると、第1クラッチプレート25が圧接されて、トルクを伝達する接続状態(締結状態)となる。一方、第1油圧室26Aの作動油圧が解放されると、第1ピストン26が図示しないスプリングの付勢力によって入力側(
図1の左方向)にストローク移動されて、第1クラッチ21は動力伝達を遮断する切断状態となる。なお、以下の説明では、クラッチハブ23と第1クラッチドラム24とが異なる回転数で回転しつつ、第1クラッチプレート25を介してトルクが伝達される状態を第1クラッチ21の半クラッチ状態と称する。半クラッチ状態は、締結状態の一態様である。ここで、第1ピストン26を、複数の第1クラッチプレート25が接する直前の状態とする位置に維持するために必要な作動油の圧力を待機圧という。なお、待機圧は、第1ピストン26を入力側に付勢する図示しないリターンスプリングの反力と釣り合う圧力に相当する。第1空間21Aには、第1クラッチプレート25に発生する摩擦熱等を排出するために作動油が供給される。
【0022】
第2クラッチ22は、例えば、湿式多板クラッチであって、クラッチハブ23と、変速機構30の第2入力軸32と一体回転する第2クラッチドラム27と、複数枚の第2クラッチプレート28と、複数枚の第2クラッチプレート28の周囲の第2空間22Aと、第2クラッチプレート28を圧接する第2ピストン29と、第2油圧室29Aとを備えている。
【0023】
第2クラッチ22は、第2油圧室29Aに供給される作動油圧によって第2ピストン29が出力側(
図1の右方向)にストローク移動すると、第2クラッチプレート28が圧接されて、トルクを伝達する接続状態(締結状態)となる。一方、作動油圧が解放されると、第2ピストン29が図示しないスプリングの付勢力によって入力側(
図1の左方向)にストローク移動されて、第2クラッチ22はトルク伝達を遮断する切断状態となる。なお、以下の説明では、クラッチハブ23と第2クラッチドラム27とが異なる回転数で回転しつつ、第2クラッチプレート28を介してトルクが伝達される状態を第2クラッチ22の半クラッチ状態と称する。半クラッチ状態は、締結状態の一態様である。ここで、第2ピストン29を、複数の第2クラッチプレート28が接する直前の状態とする位置に維持するために必要な作動油の圧力を待機圧という。なお、待機圧は、第2ピストン29を入力側に付勢する図示しないリターンスプリングの反力と釣り合う圧力に相当する。なお、第1クラッチ21における待機圧と、第2クラッチ22における待機圧とは、それぞれの構成に依存するものであり、同じ圧力となるようにしてもよい。第2空間22Aには、第2クラッチプレート28に発生する摩擦熱等を排出するために作動油が供給される。
【0024】
変速機構30は、入力側に配置された副変速部40と、出力側に配置された主変速部50とを備えている。また、変速機構30は、副変速部40に設けられた第1入力軸31及び第2入力軸32と、主変速部50に設けられた出力軸33と、これらの軸31〜33と平行に配置された副軸34とを備えている。第1入力軸31は、第2入力軸32を軸方向に貫通する中空軸内に相対回転自在に挿入されている。出力軸33の出力端には、何れも図示しない車両駆動輪に差動装置等を介して連結されたプロペラシャフト(車両駆動系)が接続されている。
【0025】
副変速部40には、第1スプリッタギヤ対41と、第2スプリッタギヤ対42とが設けられている。第1スプリッタギヤ対41は、第1入力軸31に固定された第1入力主ギヤ43と、副軸34に固定されて第1入力主ギヤ43と常時歯噛する第1入力副ギヤ44とを備えている。第2スプリッタギヤ対42は、第2入力軸32に固定された第2入力主ギヤ45と、副軸34に固定されて第2入力主ギヤ45と常時歯噛する第2入力副ギヤ46とを備えている。したがって、副軸34と、第1入力軸31及び第2入力軸32とは、常時結合された状態となっている。本実施形態では、第1スプリッタギヤ対41のギヤ比が第2スプリッタギヤ対42よりも小さくなっている、すなわち、第1スプリッタギヤ対41側が高速側の変速段となっている。このため、副変速部40においては、第1スプリッタギヤ対41を介して駆動力を伝達する場合(第1クラッチ21を締結した場合)には、高速側とすることができ、第2スプリッタギヤ対42を介して駆動力を伝達する場合(第2クラッチ22を締結した場合)には、低速側とすることができる。ここで、第1スプリッタギヤ対41を介した場合をH(高速側)段と称し、第2スプリッタギヤ対42を介した場合をL(低速側)段と称する。
【0026】
主変速部50には、第1出力ギヤ対51と、第2出力ギヤ対61と、第3出力ギヤ対71と、第1シンクロ機構55と、第2シンクロ機構56とが設けられている。第1出力ギヤ対51は、副軸34に固定された3速副ギヤ52と、出力軸33に相対回転自在に設けられると共に3速副ギヤ52と常時歯噛する3速主ギヤ53とを備えている。第2出力ギヤ対61は、副軸34に固定された2速副ギヤ62と、出力軸33に相対回転自在に設けられると共に2速副ギヤ62と常時歯噛する2速主ギヤ63とを備えている。第3出力ギヤ対71は、副軸34に固定された1速副ギヤ72と、出力軸33に相対回転自在に設けられると共に1速副ギヤ72と常時歯噛する1速主ギヤ73とを備えている。
【0027】
第1シンクロ機構55、第2シンクロ機構56は、公知の構造であって、何れも図示しないスリーブ、ドグクラッチ等を備えて構成されている。第1シンクロ機構55は、出力軸33と3速主ギヤ53とを係合状態(ギヤイン)にすることができる。出力軸33と3速主ギヤ53とを係合状態にすると、副変速部40がH段であれば、出力軸33は、H段の3速(3H速)相当で回転し、副変速部40がL段であれば、出力軸33は、L段の3速(3L速)相当で回転する。
【0028】
第2シンクロ機構56は、出力軸33と2速主ギヤ63とを係合状態にすることができ、また、出力軸33と1速主ギヤ73とを係合状態にすることができる。出力軸33と2速主ギヤ63とを係合状態にすると、副変速部40がH段であれば、出力軸33は、H段の2速(2H速)相当で回転し、副変速部40がL段であれば、出力軸33は、L段の2速(2L速)相当で回転する。また、出力軸33と1速主ギヤ73とを係合状態にすると、副変速部40がH段であれば、出力軸33は、H段の1速(1H速)相当で回転し、副変速部40がL段であれば、出力軸33は、L段の1速(1L速)相当で回転する。
【0029】
変速機構30では、副変速部40と、主変速部50とにより、1L速、1H速、2L速、2H速、3L速、3H速に切替ることができる。変速機構30では、低速段から順に、1L速、1H速、2L速、2H速、3L速、3H速となっている。第1シンクロ機構55及び第2シンクロ機構56の作動は、後述する変速制御部83によって制御されており、アクセル開度センサ95により検出されるアクセル開度、速度センサ94により検出される速度等に応じて、出力軸33と出力主ギヤ(53,63,73)とを選択的に係合状態(ギヤイン)又は非係合状態(ニュートラル状態)に切替るようになっている。なお、出力ギヤ対(51,61,71)やシンクロ機構(55,56)の個数、配列パターン等は図示例に限定されものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0030】
変速機構30では、1L速と1H速との間、2L速と2H速との間、3L速と3H速との間の変速時(シフトアップ及びシフトダウン)には、クラッチの切替だけで変速を行うことができ、1H速と2L速との間、2H速と3L速との間の変速時(シフトアップ及びシフトダウン)には、クラッチ切替及びギヤ変更を行う必要がある。
【0031】
また、変速機構30では、クラッチ切替及びギヤ変更を伴うシフトアップ時(1H速から隣(変速比の並びでの隣)の2L速へのシフトアップ、2H速から隣の3L速へのシフトアップ等)においては、変速機構30の構成により、シフトアップ前の状態において、締結側クラッチ(第2クラッチ22)に接続された第2入力軸32の回転数がエンジン10の回転数よりも高くなっている。したがって、変速機構30においては、クラッチ切替とギヤ変更とを伴うシフトアップ時には、締結側クラッチ(第2クラッチ22)に接続された第2入力軸32の回転数がエンジン10の回転数よりも高くなることが保証されている。また、本実施形態の変速機構30では、クラッチ切替及びギヤ変更を伴うシフトダウン時(2L速から隣の1H速へのシフトダウン、3L速から隣の2H速へのシフトダウン等)においては、変速機構30の構成により、シフトダウン前の状態において、締結側クラッチ(第1クラッチ21)に接続された第1入力軸31の回転数がエンジン10の回転数よりも低くなっている。したがって、変速機構30においては、クラッチ切替とギヤ変更とを伴うシフトダウン時には、締結側クラッチ(第1クラッチ21)に接続された第1入力軸31の回転数がエンジン10の回転数よりも低くなることが保証されている。
【0032】
エンジン回転数センサ91は、エンジン10の回転数を検出し、変速制御装置80に出力する。第1入力軸回転数センサ92は、第1入力軸31の回転数を検出し、変速制御装置80に出力する。第2入力軸回転数センサ93は、第2入力軸32の回転数を検出し、変速制御装置80に出力する。車速センサ94は、出力軸33の回転数を検出し、変速制御装置80に出力する。出力軸33の回転数からは、車速を特定することができる。アクセル開度センサ95は、アクセル開度を検出し、変速制御装置80に出力する。
【0033】
変速制御装置80は、コントロールユニット81と、変速シフタ84と、第1クラッチ作動油調整部85と、第2クラッチ作動油調整部86とを有する。
【0034】
コントロールユニット81は、エンジン10、第1クラッチ作動油調整部85、第2クラッチ作動油調整部86、変速シフタ84等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。これら各種制御を行うために、コントロールユニット81には、各種センサ類(91〜95)のセンサ値が入力される。
【0035】
また、コントロールユニット81は、油圧制御部82と、作動油充填手段及び締結実行手段の一例としての変速制御部83とを一部の機能要素として有する。これら機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアであるコントロールユニット81に含まれるものとして説明するが、これらの何れか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0036】
油圧制御部82は、変速制御部83の指示に従って、第1クラッチ作動油調整部85及び第2クラッチ作動油調整部86に対して制御用信号(制御用電流)を出力する。
【0037】
変速制御部83は、アクセル開度センサ95からアクセル開度や、車速センサ94からの車速等の情報に基づいて、変速が必要であるか否かを判定し、変速が必要であれば必要な変速(変速先)を特定する。また、変速制御部83は、必要な変速が、クラッチ切替のみの変速であるか、又はクラッチの切替にギヤ変更(ギヤシフト)を伴う変速であるかを判定する。
【0038】
変速制御部83は、クラッチ切替のみの変速の場合には、油圧制御部82に締結状態とするクラッチを切り替えるように指示する。
【0039】
また、変速制御部83は、ギヤ変更(ギヤシフト)を伴う変速の場合には、変速シフタ84に、ギヤ変更(現在(変速元)のギヤからのギヤアウト及び変更先のギヤへのギヤイン)を指示する。更に、変速制御部83は、ギヤアウトが完了した後には、シフトアップ時において締結側クラッチに接続された入力軸の回転数がエンジン10の回転数よりも高くなっている場合、又は、シフトダウン時において締結側クラッチに接続された入力軸の回転数がエンジン10の回転数よりも低くなっている場合の何れかに該当する場合には、締結側クラッチに供給する作動油の圧力が、待機圧よりも高い圧力となるように、油圧制御部82に作動油を供給させる指示を出す。ここで、待機圧よりも高い圧力を締結側クラッチに供給するので、締結側クラッチのピストンを、ピストン周囲との摩擦力に抗して、締結する側に適切に移動させることができる。
【0040】
なお、変速機構30では、ギヤ変更を伴うシフトダウン又はシフトアップ時には、シフトアップ時において締結側クラッチに接続された入力軸の回転数がエンジン10の回転数よりも高くなっている場合、又は、シフトダウン時において締結側クラッチに接続された入力軸の回転数がエンジン10の回転数よりも低くなっている場合の何れかに該当しているので、ギヤ変更を伴う変速においては、変速制御部83は、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数と、エンジン10の回転数とのセンサ値を直接比較等する必要がない。
【0041】
変速制御部83は、締結側クラッチに供給する作動油の圧力が、待機圧よりも高い圧力となるように、油圧制御部82に作動油を供給させる指示を出した後には、第1入力軸回転数センサ92又は第2入力軸回転数センサ93による締結側クラッチに接続された入力軸の回転数と、エンジン回転数センサ91によるエンジン10の回転数とが一致した場合には、締結側クラッチに供給する作動油の圧力が待機圧となるように、油圧制御部82に作動油を供給させる指示を出す。
【0042】
その後、変速制御部83は、ギヤインが完了した場合には、締結側クラッチが完全に締結状態となるように、油圧制御部82に待機圧より高い圧力の作動油を供給させる指示を出す。
【0043】
変速シフタ84は、変速制御部83の指示に従って、第1シンクロ機構55及び第2シンクロ機構56を作動させて、出力軸33と出力主ギヤ(53,63,73)との係合状態を解放(ギヤアウト)したり、出力軸33と出力主ギヤ(53,63,73)とを係合(ギヤイン)したりする。
【0044】
第1クラッチ作動油調整部85は、例えば、リニアソレノイドバルブを有し、油圧制御部82から供給される制御用信号(制御用電流)に従って、図示しない油圧供給源からの作動油を調整することにより、第1油圧室26Aに供給する作動油の量及び圧力を調整する。
【0045】
第2クラッチ作動油調整部86、例えば、リニアソレノイドバルブを有し、油圧制御部82から供給される制御用信号(制御用電流)に従って、図示しない油圧供給源からの作動油を調整することにより、第2油圧室29Aに供給する作動油の量及び圧力を調整する。
【0046】
次に、変速制御装置80による変速制御処理について説明する。
【0047】
図2は、本発明の一実施形態に係る変速制御処理のフローチャートである。
【0048】
変速制御処理は、変速制御部83が、変速が必要であると判定した場合に実行される。
【0049】
変速制御部83は、ギヤ変更を伴う変速であるか否かを判定する(S11)。この結果、ギヤ変更を伴わない変速である場合(S11:NO)には、変速制御部83は、油圧制御部82により、第1クラッチ作動油調整部85又は第2クラッチ作動油調整部86の一方を制御して、現在締結状態にあり、解放される側のクラッチ(解放側クラッチ)を断にし(ステップS21)、第1クラッチ作動油調整部85又は第2クラッチ作動油調整部86の他方を制御して、締結側クラッチを接にし(ステップS22)、処理を終了する。
【0050】
一方、ギヤ変更を伴う変速である場合(S11:YES)には、変速制御部83は、油圧制御部82により、第1クラッチ作動油調整部85又は第2クラッチ作動油調整部86の一方を制御して、解放側クラッチを断にし(ステップS12)、変速シフタ84を制御して、出力軸33に係合している現在のギヤ(変速元ギヤ)のギヤアウトを開始させる(S13)。
【0051】
次いで、変速制御部83は、変速元ギヤのギヤアウトが完了したか否かを判定し(S14)、ギヤアウトが完了していない場合(S14:NO)には、ステップS14を再び実行する。
【0052】
一方、ギヤアウトが完了している場合(S14:YES)には、変速制御部83は、変速シフタ84を制御して、変速先ギヤのギヤインを開始させる(S15)。
【0053】
次いで、変速制御部83は、油圧制御部82により、第1クラッチ作動油調整部85又は第2クラッチ作動油調整部86の一方を制御して、締結側クラッチに待機圧よりも高い圧力が供給されるようにして作動油の供給を開始する(S16)。これにより、締結側クラッチの油圧室に作動油が充填されていくこととなる。
【0054】
次いで、変速制御部83は、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数と、エンジン回転数センサ91によるエンジン10の回転数とが一致したか否かを判定する(S17)。この結果、入力軸の回転数と、エンジン10の回転数とが一致していない場合(S17:NO)には、変速制御部83は、ステップS17を再び実行する。
【0055】
一方、入力軸の回転数と、エンジン10の回転数とが一致した場合(S17:YES)には、これ以降は、ギヤインが完了するまでに締結側クラッチが半クラッチ状態となると、エンジン10の駆動力がシンクロ機構の同期動作を邪魔する方向、すなわち、同期対象となる出力軸33と変速先のギヤとの回転数差を拡大する方向に作用することとなるので、このような状況とならないようにするために、変速制御部83は、油圧制御部82により、締結側クラッチに供給する作動油の圧力が待機圧を維持するように制御する(S18)。
【0056】
次いで、変速制御部83は、変速先ギヤのギヤインが完了したか否かを判定し(S19)、ギヤインが完了していない場合(S19:NO)には、変速制御部83は、ステップS19を再び実行する。
【0057】
一方、ギヤインが完了した場合(S19:YES)には、変速制御部83は、油圧制御部82により、第1クラッチ作動油調整部85又は第2クラッチ作動油調整部86の一方を制御して、待機圧よりも高い圧力の作動油を締結側クラッチに供給して、締結側クラッチを完全な締結状態とする(S20)。ここで、ギヤインが完了した状態においては、締結側クラッチは、既に作動油が充填されて待機圧に維持されているので、待機圧よりも高い圧力の作動油の供給を開始すると、締結側クラッチは、早期に完全な締結状態となる。
【0058】
次に、本実施形態に係るデュアルクラッチ式変速機1の変速時における各種状態の変化について説明する。
【0059】
図3(a)は、シフトアップ時における入力軸の回転数及びエンジン回転数の変化を示す図であり、(b)は、シフトストロークの変化を示す図であり、(c)は、クラッチへの作動油を調整するリニアソレノイドバルブへの制御用電流の変化を示す図であり、(d)は、シフトダウン時における入力軸の回転数及びエンジン回転数の変化を示す図である。
【0060】
ギヤの変更を伴うシフトアップの場合として、例えば、2H速から3L速に変速する場合を例に
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)を用いて説明する。
【0061】
シフトアップを開始する前の時点T0においては、解放側クラッチである第1クラッチ21は完全な締結状態であるので、エンジン回転数と、第1クラッチ21に接続された第1入力軸31の回転数(解放側回転数)とは同じ回転数である。一方、締結側クラッチである第2クラッチ22に接続された第2入力軸32の回転数(締結側回転数)は、第1クラッチ21と第2クラッチ22とが副軸34等を介して所定のギヤ比をもって結合されているので、解放側回転数よりも高い回転数となっている。
【0062】
時点T0においては、
図3(b)に示すように変換元のギヤ(2速主ギヤ63)は、ギヤイン状態となっている。また、油圧制御部82が第2クラッチ作動油調整部86に出力する制御用電流は、
図3(c)に示すように最低値となっている。制御用電流が最低値であるので、第2クラッチ22の第2油圧室29Aには、作動油が供給されていない状態となっている。
【0063】
次いで、時点T1において、変速制御部83が、ギヤの変更を伴う2H速から3L速へのシフトアップが必要であると判定すると、変速制御部83は、油圧制御部82により、第1クラッチ21を断状態とするように制御する。
【0064】
次いで、時点T2において、変速制御部83は、変速シフタ84により、第2シンクロ機構56の図示しないスリーブの移動を開始させて、2速主ギヤ63のギヤアウトを開始させる。
【0065】
これにより、
図3(b)に示すように、第2シンクロ機構56の図示しないスリーブのストローク(シフトストローク)は、時点T2に示すギヤインの位置からニュートラル位置方向に移動し、ギヤアウトが完了してニュートラル位置となる(時点T3)。
【0066】
時点T3においては、変速制御部83は、ギヤアウトが完了しているので、変速シフタ84を制御して、第1シンクロ機構55の図示しないスリーブの移動を開始させて、変速先ギヤ(3速主ギヤ53)のギヤインを開始させる。
【0067】
時点T3にギヤインが開始されると、第1シンクロ機構55により出力軸33(第1シンクロ機構55のスリーブ)と、3速主ギヤ53との同期が開始される。これにより、時点T3以降において、
図3(a)に示すように、第2入力軸22の回転数(締結側回転数)が徐々に出力軸33の回転数と同期するように低下していくことになる。なお、エンジン回転数は、
図3(a)に示すように、無負荷の状態でほぼ一定の回転数を維持している。
【0068】
また、変速制御部83は、時点T3にギヤインが開始されると、油圧制御部82により、第2クラッチ作動油調整部86を制御して、第2クラッチ22に待機圧よりも高い圧力が供給されるように、制御用電流を出力させる。これにより、第2クラッチ22の第2油圧室29Aに作動油が充填されていくこととなる。この時点において、第2クラッチ22が半クラッチ状態になった場合には、第2出力軸32の回転数が減少する方向、すなわち、第1シンクロ機構55による同期を補助する方向に作用するので、同期に有利に働くこととなる。
【0069】
変速制御部83は、
図3(a)に示すように、締結側回転数とエンジン回転数が一致すると(時点T4)、第2クラッチ作動油調整部86を制御して、第2クラッチ22に待機圧が供給されるように、制御用電流を出力させる。これにより、第2クラッチ22の第2油圧室29Aは、待機圧となるように調整される。
【0070】
出力軸33(第1シンクロ機構55のスリーブ)と、3速主ギヤ53との同期が完了すると(時点T5)、第1シンクロ機構55は、
図3(b)に示すように、スリーブを3速主ギヤ53のドグギヤと結合される位置まで移動してギヤインが完了する(時点T6)。
【0071】
3速主ギヤ53のギヤインが完了すると、変速制御部83は、油圧制御部82により、第2クラッチ22に供給する作動油の圧力を徐々に高くしていき、所定の最大圧力とし(時点T7)、それ以降は、第2クラッチ22を断にする指示があるまではこの状態を維持する。
【0072】
時点T6においてギヤインが完了して、第2クラッチ22に供給する作動油の圧力が徐々に高くされると、第2クラッチ22は、まず、半クラッチ状態となり、半クラッチ状態での滑りが徐々に減少していく。このため、時点T6以降においては、
図3(a)に示すように、締結側回転数と、エンジン回転数との差が徐々に減少していき、時点T7において、締結側回転数と、エンジン回転数とが一致して、第2クラッチ22が完全に締結状態となる。
【0073】
ここで、本実施形態に係る変速制御装置80の作用効果を明確にするために、比較例と比較する。
【0074】
比較例においては、
図3(c)の破線に示すように、変速先ギヤのギヤインが完了した時点T6以降において、第2クラッチ22の第2油圧室29Aへの作動油の供給を開始している。このため、第2油圧室29Aに作動油が充填され、第2油圧室29Aが待機圧になるまでに長時間を要していた。このため、第2クラッチ22を、半クラッチ状態を経て完全に締結状態とするまでに長時間を要してしまい、締結側回転数とエンジン回転数とが一致する完全締結状態になるのは、
図3(a)に示すように、本実施形態で実現できる時点T7よりも遅い時点T8となってしまっていた。以上から、本実施形態では、比較例に比して、早期に変速を完了することができる。
【0075】
次に、ギヤ変更を伴うシフトダウンの場合として、例えば、3L速から2H速に変速する場合を例に
図3(b)、
図3(c)、
図3(d)を用いて説明する。なお、上記説明したシフトアップの場合とシフトダウンの場合とで、便宜的に、
図3(b)及び
図3(c)を共用して説明するが、図中の時点T0〜T8の時間は、シフトアップの場合とシフトダウンの場合とでは、必ずしも同じ時間ではない。
【0076】
シフトダウンを開始する前の時点T0においては、解放側クラッチである第2クラッチ22は締結状態であるので、
図3(d)に示すように、エンジン回転数と、第2クラッチ22に接続された第2入力軸32の回転数(解放側回転数)とは同じ回転数である。一方、締結側クラッチである第1クラッチ21に接続された第1入力軸31の回転数(締結側回転数)は、第1クラッチ21と第2クラッチ22とが副軸34等を介して所定のギヤ比をもって結合されているので、解放側回転数よりも低い回転数となっている。
【0077】
時点T0においては、
図3(b)に示すように変換元のギヤ(3速主ギヤ53)は、ギヤイン状態となっている。また、油圧制御部82が第1クラッチ作動油調整部85に出力する制御用電流は、
図3(c)に示すように最低値となっている。制御用電流が最低値であるので、第1クラッチ21の第1油圧室26Aには、作動油が供給されていない状態となっている。
【0078】
次いで、時点T2において、変速制御部83が、ギヤの変更を伴う3L速から2H速へのシフトダウンが必要であると判定すると、変速制御部83は、油圧制御部82により、第2クラッチ22を断状態とするように制御する。
【0079】
次いで、時点T2において、変速制御部83は、変速シフタ84により、第1シンクロ機構55の図示しないスリーブの移動を開始させて、3速主ギヤ53のギヤアウトを開始させる。
【0080】
これにより、
図3(b)に示すように、第1シンクロ機構55の図示しないスリーブのストローク(シフトストローク)は、時点T2に示すギヤインの位置からニュートラル位置方向に移動し、ギヤアウトが完了してニュートラル位置となる(時点T3)。
【0081】
時点T3においては、変速制御部83は、ギヤアウトが完了しているので、変速シフタ84を制御して、第2シンクロ機構56の図示しないスリーブの移動を開始させて、変速先ギヤ(2速主ギヤ63)のギヤインを開始させる。
【0082】
時点T3にギヤインが開始されると、第2シンクロ機構56により出力軸33(第2シンクロ機構56のスリーブ)と、2速主ギヤ63との同期が開始される。
これにより、時点T3以降において、
図3(d)に示すように、第1入力軸21の回転数(締結側回転数)が徐々に出力軸33の回転数と同期するように上昇していくことになる。なお、エンジン回転数は、
図3(d)に示すように、無負荷の状態でほぼ一定の回転数を維持している。
【0083】
また、変速制御部83は、時点T3にギヤインが開始されると、油圧制御部82により、第1クラッチ作動油調整部85を制御して、第1クラッチ21に待機圧よりも高い圧力が供給されるように、制御用電流を出力させる。これにより、第1クラッチ21の第1油圧室26Aに作動油が充填されていくこととなる。この時点において、第1クラッチ21が半クラッチ状態になった場合には、第1出力軸31の回転数が増加する方向、すなわち、第2シンクロ機構56による同期を補助する方向に作用するので、同期に有利に働くこととなる。
【0084】
変速制御部83は、
図3(d)に示すように、締結側回転数とエンジン回転数が一致すると(時点T4)、油圧制御部82により、第1クラッチ作動油調整部85を制御して、第1クラッチ21に待機圧が供給されるように、制御用電流を出力させる。これにより、第1クラッチ21の第1油圧室26Aは、待機圧となるように調整される。
【0085】
出力軸33(第2シンクロ機構56のスリーブ)と、2速主ギヤ63との同期が完了すると(時点T5)、第2シンクロ機構56は、
図3(b)に示すように、スリーブを2速主ギヤ63のドグギヤと結合される位置まで移動して2速主ギヤ63のギヤインが完了する(時点T6)。
【0086】
2速主ギヤ63のギヤインが完了すると、変速制御部83は、油圧制御部82により、第1クラッチ21に供給する作動油の圧力を徐々に高くしていき、所定の最大圧力とし(時点T7)、それ以降は、第1クラッチ21を断にする指示があるまではこの状態を維持する。
【0087】
時点T6においてギヤインが完了して、第1クラッチ21に供給する作動油の圧力が徐々に高くされると、第1クラッチ21は、まず、半クラッチ状態となり、半クラッチ状態での滑りが徐々に減少していく。このため、時点T6以降においては、
図3(d)に示すように、締結側回転数と、エンジン回転数との差が徐々に減少していき、時点T7において、締結側回転数と、エンジン回転数とが一致して、第1クラッチ21が完全に締結状態となる。
【0088】
ここで、本実施形態に係る変速制御装置80の作用効果を明確にするために、比較例と比較する。
【0089】
比較例においては、
図3(c)の破線に示すように、変速先ギヤのギヤインが完了した時点T6以降において、第1クラッチ21の第1油圧室26Aへの作動油の供給を開始している。このため、第1油圧室26Aに作動油が充填され、第1油圧室26Aが待機圧になるまでに長時間を要していた。このため、第1クラッチ21を、半クラッチ状態を経て完全に締結状態とするまでに長時間を要してしまい、締結側回転数とエンジン回転数とが一致する完全締結状態になるのは、
図3(d)に示すように、本実施形態で実現できる時点T7よりも遅い時点T8となってしまっていた。以上から、本実施形態では、比較例に比して、早期に変速を完了することができる。
【0090】
以上説明したように、本実施形態に係る変速制御装置80によると、クラッチ切替とギヤ変更とを伴うシフトアップ時であって、シフトアップ前の状態において、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数がエンジン回転数よりも高い場合、又は、クラッチ切替とギヤ変更とを伴うシフトダウン時であって、シフトダウン前の状態において、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数がエンジン回転数よりも低い場合のいずれかに該当する場合において、変更前ギヤのギヤアウトが完了した後から、入力軸の回転数がエンジン回転数と一致するまでの間において、締結側クラッチに供給する作動油の圧力が待機圧よりも高い圧力となるようにしているので、変速を迅速に行うことができる。
【0091】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0092】
例えば、上記実施形態では、ギヤアウトが完了した後から、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数と、エンジン10の回転数とが一致するまで、締結側クラッチに供給する作動油の圧力が待機圧よりも高い圧力となるようにしていたが、本発明はこれに限られず、ギヤアウトが完了した後から、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数と、エンジン10の回転数とが一致するまで、クラッチに供給する作動油の圧力が待機圧となるようにしてもよく、また、ギヤアウトが完了した後から、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数と、エンジン10の回転数とが一致するまでの間の少なくとも一部の時間において、締結側クラッチに供給する作動油の圧力が待機圧よりも高い圧力となるようにしてもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、デュアルクラッチ式変速機は、締結状態とするクラッチの切替と、車両駆動系に接続された出力軸に結合するギヤへの変更とを伴うシフトアップ時においては、シフトアップ前の状態において、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数が駆動源の回転数よりも高くなるように構成されるとともに、締結状態とするクラッチの切替と、車両駆動系に接続された出力軸に結合するギヤへの変更とを伴うシフトダウン時においては、シフトダウン前の状態において、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数が駆動源の回転数よりも低くなるように構成されていたが、本発明はこれに限られず、デュアルクラッチ式変速機は、任意の構成とすることができる。この場合には、車両駆動系に接続された出力軸に結合するギヤの変更を伴うシフトアップ時であって、シフトアップ前の状態において、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数がエンジンの回転数よりも高い場合、又は、締結状態とするクラッチの切替と、車両駆動系に接続された出力軸に結合するギヤの変更とを伴うシフトダウン時であって、シフトダウン前の状態において、締結側クラッチに接続された入力軸の回転数がエンジンの回転数よりも低い場合の少なくとも一方の場合に該当するか否かを、変速の内容及び/又はセンサ値等により変速制御部83が判定するようにしてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、副変速部40を有するデュアルクラッチ式変速機1としていたが、本発明はこれに限られず、副変速部40を有さないデュアルクラッチ式変速機に対しても適用することができる。