(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、コンベヤベルト等の対象物の実使用に合致した耐衝撃性を把握できる衝撃試験方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の衝撃試験方法は、試験サンプルに衝撃付与体を自由落下させて衝突させる衝撃試験方法において、自由落下させた前記衝撃付与体が前記試験サンプルに衝突した際の前記試験サンプルに作用する衝撃力と、前記試験サンプルに対する前記衝撃付与体の陥入量とを測定し、この測定した衝撃力と陥入量とに基づいて、前記衝撃付与体と前記試験サンプルとが衝突した際に前記試験サンプルにより吸収された損失エネルギを算出
し、前記衝撃付与体が衝突した前記試験サンプルの表面温度を測定し、この測定した表面温度と前記陥入量とに基づいて、前記衝撃付与体と前記試験サンプルとが衝突した際に前記試験サンプルに発生した熱エネルギを算出することを特徴とする。
【0007】
本発明の衝撃試験装置は、試験サンプルが設置される設置台と、この設置台に設置された前記試験サンプルに対して自由落下させる衝撃付与体とを備えた衝撃試験装置において、前記試験サンプルに作用する衝撃力を測定する荷重計と、前記試験サンプルに対する前記衝撃付与体の陥入量を測定する変位計と、
前記試験サンプルの表面温度を測定する温度センサと、前記荷重計および前記変位計の測定データ
と前記温度センサにより測定された表面温度とが入力される演算部とを備えて、自由落下させた前記衝撃付与体が前記試験サンプルに衝突した際に前記荷重計と前記変位計のそれぞれにより測定した衝撃力と陥入量とに基づいて、前記演算部により、前記衝撃付与体と前記試験サンプルとが衝突した際に前記試験サンプルにより吸収された損失エネルギが算出され
、前記温度センサにより測定された前記衝撃付与体が衝突した前記試験サンプルの表面温度と前記陥入量とに基づいて、前記演算部により、前記衝撃付与体と前記試験サンプルとが衝突した際に前記試験サンプルに発生した熱エネルギが算出される構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自由落下させた前記衝撃付与体が前記試験サンプルに衝突している過程での前記試験サンプルに作用する衝撃力と、前記試験サンプルに対する前記衝撃付与体の陥入量とに基づいて、前記試験サンプルにより吸収された損失エネルギを算出するので、コンベヤベルト等の対象物の実使用に対応した損失エネルギを把握できる。そして、この損失エネルギは対象物の耐衝撃性と密接に関連しているので、算出した損失エネルギに基づいて対象物の実使用に合致した耐衝撃性を精度よく把握することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の衝撃試験方法および装置を、図に示した実施形態に基づいて説明する。実施形態では、耐衝撃性を評価する対象物を、コンベヤベルトの上カバーゴムにした場合を例にして説明する。
【0011】
図6に例示するコンベヤベルトラインでは、別のコンベヤベルト17によって搬送された搬送物Cがコンベヤベルト11に投入されて、このコンベヤベルト11によって搬送先に搬送される。コンベヤベルト11にはホッパ等を通じて搬送物Cが投入されることもある。コンベヤベルト11は、プーリ15a、15b間に架け渡されていて所定のテンションで張設されている。
【0012】
図7に例示するようにコンベヤベルト11は、帆布やスチールコード等の心体で構成される心体層12と、心体層12を挟む上カバーゴム13と下カバーゴム14とにより構成されている。心体層12は、コンベヤベルト11を張設するためのテンションを負担する部材である。コンベヤベルト11のキャリア側では下カバーゴム14が支持ローラ16により支持され、リターン側では上カバーゴム13が支持ローラ16により支持されている。コンベヤベルト11のキャリア側ではベルト幅方向に3つの支持ローラ16が配置されていて、これらの支持ローラ16によってコンベヤベルト11は所定のトラフ角度aで凹状に支持されている。駆動側のプーリ15aが回転駆動することにより、コンベヤベルト11は一方向に所定の走行速度V1で稼働する。搬送物Sは上カバーゴム13の上に投入され、上カバーゴム13に積載されて搬送される。
【0013】
このコンベヤベルトラインでは
図8に例示するように、このコンベヤベルト11と別のコンベヤベルト17とが上下差hで配置されている。別のコンベヤベルト17では搬送物Cが水平方向速度V0(V0<V1)で搬送されている。投入された搬送物Cが別のコンベヤベルト17からコンベヤベルト11に衝突した瞬間、搬送物Cは水平方向速度V0である。一方、搬送物Cの垂直方向速度はゼロからV2に加速される。この垂直方向速度V2は、(2gh)
1/2である。したがって、搬送物Cがコンベヤベルト11の上カバーゴム13に衝突する時の実際の衝突速度Vrは、(V0
2+V2
2)
1/2=(V0
2+2gh)
1/2となる。gは重力加速度である。このように自由落下した搬送物Cが上カバーゴム13に衝突した際に、上カバーゴム13に付与される衝撃エネルギEは、Mghとなる。Mは搬送物Cの質量である。
【0014】
上カバーゴム13では、衝撃エネルギEの所定割合が吸収される。上カバーゴム13により吸収されるエネルギ(損失エネルギE1)の量は、ゴム種によって異なる。そのゴム種により吸収される損失エネルギE1の量と、そのゴム種の耐衝撃性とは相関関係があるので、損失エネルギE1を算出することで、そのゴム種の耐衝撃性を把握することができる。
【0015】
本発明の衝撃試験装置1は
図1に例示するように、試験サンプルSが設置される設置台2と、試験サンプルSに対して自由落下させる衝撃付与体10と、荷重計5と、変位計6と、演算部8とを備えている。この実施形態では、さらに、温度センサ7および温度調節器9を有している。試験サンプルSは、耐衝撃性を評価する対象物(上カバーゴム13)として実際に使用される部材の相当品である。
【0016】
衝撃付与体10としては、下端形状や重さ等など仕様が異なる複数種類の衝撃付与体10a、10b、10c、10dを備えることが望ましい。これら複数種類の仕様の中から、実使用において上カバーゴム13に衝撃を与える搬送物Cと近似する仕様の衝撃付与体10を選択する。
【0017】
衝撃試験装置1では、立設された状態のフレーム3の間に梁部3aが延在し、この梁部3aに保持機構4が設けられている。梁部3aは任意に高さ位置に移動して固定可能になっている。保持機構4によって着脱自在に保持された衝撃付与体10aが、保持解除されることにより、平板状の設置台2に設置されている試験サンプルSに向かって自由落下する構成になっている。
【0018】
荷重計5は、設置台2の下方に設置されていて、試験サンプルSに作用する衝撃力を測定する。変位計6は
図2に例示するように、試験サンプルSに対して自由落下して衝突した衝撃付与体10aの陥入量Hを測定する。衝撃付与体10aの下端形状が鋭利な場合は、この陥入量Hは傷深さになる。演算部8には、荷重計5および変位計6の測定データが入力される。演算部8としては、各種のコンピュータ等を用いることができる。
【0019】
温度センサ7は、試験サンプルSの表面温度を測定する。温度センサ7により測定された表面温度は演算部8に入力される。温度センサ7としては、サーモグラフィ等を用いることができる。
【0020】
温度調節器9は、試験サンプルSを加温または冷却して、試験サンプルSの温度を任意の温度に設定する。この実施形態では、設置台2の下面に設置された温度調節器9が設置台2を加温または冷却することにより、間接的に試験サンプルSを加温または冷却して任意の温度に設定する。温度調節器9としては、その他に、試験装置全体をカバーで覆い、そのカバー内部を任意の雰囲気温度に設定できる恒温ケース等を用いることもできる。
【0021】
次に、この衝撃試験装置1を用いた試験方法の手順を説明する。
【0022】
図1に例示する設置台2に試験サンプルSを設置する。保持機構4には、複数種類の衝撃付与体10の中からコンベヤベルト11の実使用条件に近似する適切な衝撃付与体10aを選択して取付ける。また、梁部3aを移動させて衝撃付与体10を適切な高さ位置(例えば、試験サンプルSの表面から高さhの位置)に設定する。温度調節器9によって試験サンプルSを所定温度に設定する。
【0023】
次いで、衝撃付与体10に対する保持機構4による保持を解除して、衝撃付与体10を自由落下させて試験サンプルSに衝突させる。このとき、試験サンプルSの表面から高さhの位置から自由落下させた衝撃付与体10により付与される衝撃エネルギEは、Mghである(E=Mgh)。ここで、Mは衝撃付与体10の既知の質量である。
【0024】
自由落下させた衝撃付与体が試験サンプルに接触してから跳ね返って試験サンプルから離れるまでの間の衝突過程では、荷重計5により、試験サンプルSに作用する衝撃力を逐次測定する。また、
図2に例示する試験サンプルSに対する衝撃付与体10の陥入量Hを、変位計6により逐次測定する。荷重計5により測定された衝撃力および変位計6により測定された陥入量Hは演算部8に入力される。
【0025】
この衝撃試験によって、
図3、
図4に例示するように衝撃力および陥入量Hが測定される。
図3は、同じ試験条件で、4種類の試験サンプルS(S1〜S4)を室温で試験をした場合(試験サンプルSが20℃程度の場合)の測定データを示している。
図4は、4種類の試験サンプルS(S1〜S4)の温度のみを変えて、70℃にして試験した場合の測定データを示している。
【0026】
演算部8では、入力された測定データに基づいて、衝撃付与体10と試験サンプルSとが衝突した際に試験サンプルSにより吸収された損失エネルギE1を算出する。
図3、
図4では、それぞれの試験サンプルSのデータ曲線の右上がりの範囲は、衝撃付与体10が試験サンプルSに接触してから最も深くまで陥入するまでの衝撃力と陥入量Hとの関係を示している。それ故、この範囲でこのデータ曲線を積分することで、陥入エネルギE2を算出できる。
【0027】
一方、これらデータ曲線の左下がりの範囲は、衝撃付与体10が試験サンプルSに最も深くまで陥入してから跳ね返って試験サンプル10から離れるまでの衝撃力と陥入量Hとの関係を示している。それ故、この範囲でこのデータ曲線を積分することで、反発エネルギE3を算出できる。
【0028】
したがって、陥入エネルギE2から反発エネルギE3を差し引くことにより、試験サンプルSにより吸収された損失エネルギE1を算出することができる(E1=E2−E3)。即ち、
図3、
図4では、それぞれのデータ曲線S1、S2、S3、S4により囲まれた面積がそれぞれの試験サンプルSの損失エネルギE1になる。
【0029】
本発明では、衝撃付与体10により付与された衝撃エネルギEのうち、試験サンプルSによって損失エネルギE1として吸収された割合(E1/E)を把握することができる。この割合(E1/E)は、ゴム種(特に粘弾性特性)によって異なっていて、ゴムの耐衝撃性と密接に関連している。そこで、この割合(E1/E)とゴムの耐衝撃性との相関関係のデータを収集したデータベースを作成しておくと、このデータベースと算出した損失エネルギE1とに基づいて、対象物(コンベヤベルト11)の実使用に合致した耐衝撃性を精度よく把握することができる。
【0030】
また、
図3と
図4のデータを比較すると、損失エネルギE1は試験サンプルSの温度に依存することが分かる。それ故、試験サンプルSの温度を複数水準に異ならせて衝撃試験を行うことにより既述した各測定データを取得して、損失エネルギEの温度依存性を把握するとよい。即ち、試験サンプルSの温度毎にデータベースを作成するとよい。これにより、コンベヤベルト11の使用環境温度に合致した温度条件でのデータベースを用いることで、対象物(コンベヤベルト11)の実使用に合致した耐衝撃性を一段と精度よく把握することができる。
【0031】
この実施形態では、衝撃付与体10が跳ね返った直後の試験サンプルSの表面温度を温度センサ7により逐次測定することができる。温度センサ7により測定された表面温度は、演算部8に入力される。
図5に例示するように室温の試験サンプルの表面温度が測定されて、その経時変化が把握できる。
【0032】
演算部8では、測定した表面温度と陥入量Hとに基づいて、衝撃付与体10と試験サンプルSとが衝突した際に試験サンプルSに発生した熱エネルギE4を算出する。熱エネルギE4はE4=mcΔTにより算出できる。mは温度上昇した試験サンプルSの質量、cは比熱、ΔTは上昇温度である。
【0033】
図5の測定データからは、衝撃付与体10との衝突による試験サンプルSの上昇温度ΔT(最大上昇温度ΔT)が判明する。試験サンプルSの比熱cは予め判明している。
【0034】
温度上昇した試験サンプルSの質量mは例えば、下記のとおり算出する。衝撃付与体10の陥入量Hは変位計6により測定される。そして、衝撃付与体10の形状は予め判明しているので、例えば、最も深く陥入した際に衝撃付与体10の試験サンプルSに陥入している部分の最大横断面積と、最大陥入量とを乗じて算出した体積Vを、温度上昇した試験サンプルSの体積Vとする。試験サンプルSの比重ρは予め判明しているので、体積Vと比重ρとを乗じることにより、温度上昇した試験サンプルSの質量mが算出できる。そして、これら質量m、比熱cおよび上昇温度ΔTを乗じ
ることにより、熱エネルギE4を算出することができる。
【0035】
これにより、自由落下させた衝撃付与体10により付与された衝撃エネルギEのうち、試験サンプルSによって熱エネルギE4に変換された割合(E4/E)を把握することができる。この割合(E4/E)は、ゴム種(ゴム特性のうち特に粘弾性特性)によって異なっていて、ゴムの耐衝撃性と密接に関連している。そこで、この割合(E4/E)とゴムの耐衝撃性との相関関係のデータを収集したデータベースを作成しておくと、このデータベースと算出した熱エネルギE4とに基づいて、対象物(コンベヤベルト11)の実使用に合致した耐衝撃性を精度よく把握することができる。
【0036】
実施形態では、耐衝撃性を評価する対象物をコンベヤベルト11の上カバーゴム13を例にしたが、対象物はこれに限定されない。対象物は、石や土砂など各種の衝突体が衝突して跳ね返る条件下で使用され、かつ、衝突体が容易に貫通しない条件下で使用される物であればよい。具体的には、上カバーゴム13の他に、コンベヤベルト11の下カバーゴム14、タイヤのトレッドゴム等のゴム部材や、コンベヤベルト11の心体層12等を対象物として例示できる。