(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の空気入りタイヤを詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の空気入りタイヤの断面形状を示す断面図である。
【0013】
図1に示す空気入りタイヤ(以下、単にタイヤという)10は、トレッド部12と、ショルダー部14と、サイドウォール部16と、ビード部18とを主な構成部分として有する。
なお、以下の説明において、
図1中に矢印で示すように、タイヤ幅方向とは、タイヤの回転軸(図示せず)と平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、回転軸と直交する方向をいう。また、タイヤ周方向とは、回転軸を回転の中心となる軸として回転する方向をいう。更に、タイヤ内側とは、タイヤ径方向において
図1中タイヤの下側、すなわちタイヤに所定の内圧を与える空洞領域Rに面するタイヤ内面側をいい、タイヤ外側とは、
図1中タイヤの上側、すなわち、タイヤ内周面と反対側の、ユーザが視認できるタイヤ外面側をいう。
【0014】
タイヤ10は、カーカス層20と、ベルト層22と、ベルト補助補強層24と、サイド補強層26と、ビードコア28と、ビードフィラー30と、トレッドゴム層32と、サイドウォールゴム層34と、リムクッションゴム層36と、インナーライナゴム38層とを主に有する。
【0015】
トレッド部12には、タイヤ外側のトレッド面12aを構成する陸部12bと、トレッド面12aに形成されるトレッド溝12cとが設けられ、陸部12bは、トレッド溝12cによって区画される。トレッド溝12cは、タイヤ周方向に連続して形成される主溝とタイヤ幅方向に延在する複数のラグ溝(図示せず)を有する。トレッド面12aには、トレッド溝12cと陸部12bとによりトレッドパターンが形成される。
【0016】
カーカス層20は、タイヤ幅方向に、トレッド部12に対応する部分から、ショルダー部14及びサイドウォール部16に対応する部分を経てビード部18まで延在してタイヤの骨格をなすものである。
カーカス層20は、後に詳細に説明するが、複数本の配列された補強コードが、コードコーティングゴムで被覆された構成である。コードコーティングゴムが後に説明するゴム層42を構成する。
カーカス層20は、後述する左右一対のビードコア28にタイヤ内側からタイヤ外側に折り返され、サイドウォール部16の領域で端部Aを成しており、ビードコア28を境とする本体部20aと折り返し部20bとから構成されている。すなわち、本実施形態においては、カーカス層20が1層、左右一対のビード部18間に装架されている。カーカス層20の数は1層に限定されるものではなく、構造及び用途に応じて複数層あってもよい。本実施形態のタイヤ10においては、軽量化の観点から、カーカス層20は1層構造(1プライ)であることが好ましいが、2層以上の構成でもよい。
また、カーカス層20は、1つのシート材で構成されても、複数のシート材で構成されてもよい。複数のシート材で構成する場合、カーカス層20は継部(スプライス部)を有することになる。
【0017】
カーカス層20のコードコーティングゴムとしては、天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)から選ばれた1種類又は複数種類のゴムが好ましく用いられる。また、これらのゴムを窒素、酸素、フッ素、塩素、ケイ素、リン、又は硫黄等の元素を含む官能基、例えば、アミン、アミド、ヒドロキシル、エステル、ケトン、シロキシ、若しくはアルキルシリル等により末端変性したもの、又はエポキシにより末端変性したものを用いることができる。
これらゴムに配合するカーボンブラックとしては、例えば、ヨウ素吸着量が20〜100(g/kg)、好ましくは20〜50(g/kg)であり、DBP吸収量が50〜135(cm
3/100g)、好ましくは50〜100(cm
3/100g)であり、かつCTAB吸着比表面積が30〜90(m
2/g)、好ましくは30〜45(m
2/g)であるものが用いられる。
また、使用する硫黄の量は、例えば、ゴム100質量部に対して1.5〜4.0質量部であり、好ましくは2.0〜3.0質量部である。
なお、カーカス層20については、後に更に詳細に説明する。
【0018】
ベルト層22は、タイヤ周方向に貼り付けられ、カーカス層20を補強するための補強層である。このベルト層22は、トレッド部12に対応する部分に設けられ、内側ベルト層22a及び外側ベルト層22bを有する。
本実施形態においては、内側ベルト層22a及び外側ベルト層22bは、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、その補強コードが層間で互いに交差するように配置されている。内側ベルト層22a及び外側ベルト層22bは、補強コードが、例えば、スチールコードであり、上述のコードコーティングゴム等で被覆して構成されている。
内側ベルト層22a及び外側ベルト層22bは、補強コードのタイヤ周方向に対するコード角度が、例えば、24°〜35°であり、好ましくは27°〜33°である。これにより、高速耐久性を向上させることができる。
【0019】
ベルト層22の内側ベルト層22a及び外側ベルト層22bは、いずれも補強コードがスチールコードであることに限定されるものではなく、いずれか一方のみにスチールベルトを適用しても良いし、少なくとも一方を、ポリエステル、ナイロン、芳香族ポリアミド等からなる有機繊維コード等からなる従来公知の補強コードとしても良い。
【0020】
タイヤ10には、ベルト層22の最上層である外側ベルト層22b上に、ベルト層22の補強を行うベルト補助補強層24がタイヤ周方向に配置されている。
このベルト補助補強層24は、補強コードとして、例えば、有機繊維コードが、タイヤ周方向に螺旋状に配置されており、これらの有機繊維コードが上述のコードコーティングゴム等で被覆して構成されている。
【0021】
ベルト補助補強層24は、
図1に示すように、例えば、ベルト層22の端部βだけを覆うように設けられている。図示例のベルト補助補強層24は、いわゆるエッジカバーと呼ばれるものである。
【0022】
なお、ベルト補助補強層24は、
図1に示すものに限定されるものではない。例えば、ベルト層22をタイヤ幅方向に端から端まで覆う構成、いわゆるフルカバーと呼ばれるものでもよい。更には、ベルト補助補強層24は、フルカバーを複数積層した構成でもよく、エッジショルダーと、フルカバーとを組み合わせた構成でもよい。
【0023】
ベルト補助補強層24において、有機繊維コードとして、例えば、ナイロン66(ポリヘキサメチレンアジパミド)繊維、アラミド繊維、アラミド繊維とナイロン66繊維とからなる複合繊維(アラミド/ナイロン66ハイブリッドコード)、PEN繊維、POK(脂肪族ポリケトン)繊維、耐熱PET繊維、及びレーヨン繊維等が用いられる。
【0024】
ビード部18には、カーカス層20を折り返し、タイヤ10をホイールに固定するために機能するビードコア28と、ビードコア28に接するようにビードフィラー30が設けられている。そのため、ビードコア28及びにビードフィラー30は、カーカス層20の本体部20aと折り返し部20bとで挟み込まれている。
また、ビード部18には、タイヤ周方向に対して傾斜する補強コードを含むサイド補強層26が埋設されている。
【0025】
本実施形態においては、サイド補強層26は、ビード部18では、カーカス層20の本体部20aとビードフィラー30との間に、サイドウォール部16では、カーカス層20の本体部20aと折り返し部20bとの間に配置され、ビードコア28から折り返し部20bの端部Aよりもタイヤ径方向に沿って,ショルダー部14側の端部Bまで延在している。
なお、サイド補強層26の他端部Cは、カーカス層20の本体部20aとビードフィラー6との間の、ビードコア28近傍に存在する。なお、サイド補強層26は、ビード部18では、カーカス層20の折り返し部20bとビードコア28及び/又はビードフィラー30との間に、サイドウォール部16では、本体部20aと折り返し部20bとの間に配置されていても良いし、ビード部18では、折り返し部20bのタイヤ幅方向外側に、サイドウォール部16では、本体部20aの外側に配置されていても良い。更に、これらを組み合わせて配置しても良い。
【0026】
サイド補強層26は、スチールコードからなる補強コードを一定間隔でタイヤ周方向に対して傾斜した方向に向かって配列し、上述のコードコーティングゴム等で被覆して構成されている。このサイド補強層26の補強コードは、スチールコード以外にも、例えば、ポリエステル、ナイロンもしくは芳香族ポリアミド等からなる有機繊維コード等が用いられる。
【0027】
サイド補強層26は、タイヤ10のサイド(側面)、すなわち、ビード部18及び/又はサイドウォール部16の補強を行うことができれば、ビード部18及び/又はサイドウォール部16の全部又は一部のみに設けられるものであってもよく、端部の位置も、限定されるものではない。例えば、サイド補強層26の端部をショルダー部14のベルト層22と接する領域まで延在させて、ビード部18及びサイドウォール部16の全部に対して設けられても良いし、ビード部18のみ、又はサイドウォール部16のみに対して設けられても良いし、例えば、ビード部18とサイドウォール部16とに分割する等、複数に分割して設けられていても良い。
更に、サイド補強層26を設ける領域を補強コードの種類に応じて変えても良い。例えば、サイド補強層26の補強コードとして、従来公知のスチールコードを用いる場合には、ビードフィラー30とカーカス層20の折り返し部20bとの間にサイド補強層26を配置するのが好ましく、有機繊維コードを用いる場合には、ビードコア28及びビードフィラー30を包み込むようにサイド補強層26を配置するのが好ましい。
【0028】
タイヤ10は、この他にゴム材として、トレッド部12を構成するトレッドゴム層32と、サイドウォール部16を構成するサイドウォールゴム層34、リムクッションゴム層36、及びタイヤ内周面に設けられるインナーライナゴム層38を有する。
【0029】
次に、カーカス層20について詳細に説明する。
図2は本発明の実施形態の空気入りタイヤのカーカス層の構成の一例を示す模式的断面図である。
カーカス層20は、補強コードとしてポリエチレンテレフタレートコードが用いられる。カーカス層20は、
図2に示すように、複数本のポリエチレンテレフタレートコード40(以下、PETコード40ともいう)が配列方向xに配列されている。図示はしないが、PETコード40は緯糸ですだれ状に編まれている。複数本のPETコード40が緯糸で編まれた状態でゴム層42に被覆されている。ゴム層42は上述のコードコーティングゴムで構成される。PETコード40の構成は、特に限定されるものではなく、例えば、1本(単糸)でも複数本を撚ったものでもよい。
【0030】
次に、PETコード40について詳細に説明する。PETコード40は、高温時でも剛性変化が少なく、かつ破壊エネルギーが高いポリエチレンテレフタレート(PET)で形成されており、以下に示す特性値を有する。PETコード40の構成を、以下に示す物性値とすることで、有害物質の抑制及び省資源化等の環境負荷軽減を実現しつつ、高速操縦安定性及び耐外傷性に優れたタイヤを得ることができる。なお、以下に示す特性値を有するPETコード40は、ディップ処理後の状態である。
【0031】
PETコード40は、中間伸度(2.0cN/dtex)が3.0%〜4.0%である。中間伸度(2.0cN/dtex)が3.0%〜4.0%であると、カーカス層20について、補強コードにレーヨン繊維を用いた場合と同等の高い剛性を確保でき、かつ操縦安定性を改善することができる。
中間伸度(2.0cN/dtex)が4.0%を超えると、タイヤの剛性が低下し、操縦安定性が悪化する。一方、中間伸度(2.0cN/dtex)が3.0%未満では、PETコード40の製造が困難である。
【0032】
中間伸度(2.0cN/dtex)は、以下のようにして測定することができる。
まず、10cm長さの試験長(チャック間距離)での引張試験に供し得る長さのPETコードの試料コード片を用意する。試料コード片については、試験長(チャック間距離)に対応した位置2箇所を着色して、試験前の元長及び試験後の長さがわかるようにする。
試料コード片を、チャック間距離10cmで着色位置を合わせて引張試験機に取り付け、試料コードの繊度(dtex)に応じて定まる2.0cN/dtex相当の引張力を速度300±20mm/分で加えて引張試験を行う。引張試験は、温度20℃±2℃、相対湿度65±2%の一定雰囲気内で行う。引張力を解除した後、試料コード片を取り外し、着色位置間の距離を求める。その測定値と以下の計算式を用いて中間伸度(%)を求める。中間伸度(%)は、以下の計算式から小数点1桁まで求める。
伸度(%)=(引張り試験後のコード長さ/元のコード長)×100
n数は5として試験を行い、その平均値を求めて、更にその値を四捨五入して、小数点1桁までの値にしてその試料の伸度(%)とする。
【0033】
PETコード40は、寸法安定性指数が5.0%〜6.5%である。寸法安定性指数は150℃における乾熱収縮率(%)と中間伸度(2.0cN/dtex)(%)の和で表される。PETコード40について、寸法安定性指数を5.0%〜6.5%とすることで、操縦安定性を確保し、かつ安定したタイヤ製造が可能である。
寸法安定性指数が6.5%を超えるとタイヤ幅寸法が大きくなる。一方、寸法安定性指数が5.0%未満では、PETコード40の製造が困難である。
寸法安定性指数の中間伸度(2.0cN/dtex)(%)の求め方は上述の通りであるため、詳細な説明は省略する。乾熱収縮率(%)は、以下のようにして測定することができる。
一定長さ(L
0)のPETコードをオーブン中に150℃、30分無荷重の状態で放置し、その後、PETコードの長さを測定し、測定したPETコードの長さ(L)から、以下の式を用いて乾熱収縮率(%)を求める。
(乾熱収縮率)=(L
0−L)/L
0×100(%)
【0034】
PETコード40は、
図3に示す、強度(cN/dtex)と伸び(%)で表される強伸度曲線において、温度100℃での破断強度S
r100と、室温での破断強度S
rrとの比で表される破断強度比S
r100/S
rrが90%以上である。すなわち、温度100℃での破断強度S
r100が、室温での破断強度S
rrに対して90%以上ある。破断強度比S
r100/S
rrが90%以上であれば、車両の走行時にタイヤが発熱した際の熱ダレが低減し、アウトバーン等での高速走行時も操縦安定性を確保することができる。
破断強度比S
r100/S
rrが90%未満では、カーカス層20の補強コードにレーヨン繊維を用いた場合と同等の操縦安定性を得ることができない。
なお、破断強度比が大きいとは、温度100℃での破断強度S
r100が高いことをいう。
【0035】
PETコード40は、
図4に示す、強度(cN/dtex)と伸び(%)で表される強伸度曲線において、高温時での、すなわち、温度100℃での破断強度S
r100(cN/dtex)の70%の強度S
70(cN/dtex)における伸び率ε
70(%)と、温度100℃での破断時の伸び率ε
r100(%)の差異δが11%〜22%である。すなわち、ε
r100−ε
70=δであり、11%≦δ≦22%である。
PETコード40について引張試験を行い、強伸度曲線を得る。得られた強伸度曲線から上述の差異δを求めることができる。
上述の差異δを11%〜22%とすることで、高いタフネスを確保し、タイヤサイド部の耐外傷性が改善される。上述の差異δが11%未満の場合、十分なタフネスが得られず、タイヤサイド部の耐外傷性の改善効果が得られない。一方、上述の差異δが22%を越えるPETコード40は製造が困難である。
【0036】
上述の強伸度曲線は、以下に説明する引張試験により得られるものである。以下、引張試験について説明する。
引張試験では、まず、10cm長さの試験長(チャック間距離)での引張試験に供し得る長さのPETコード40の試料コード片を用意する。試料コード片については、試験長(チャック間距離)に対応した位置2箇所を着色して、試験前の元長及び試験後の長さがわかるようにする。試料コード片を、チャック間距離10cmで着色位置を合わせて引張試験機に取り付け、温度20℃±2℃、相対湿度65±2%の一定雰囲気内で、速度300±20mm/分の条件で引張試験を行う。試料コード片では、上述のように試験前の元長及び試験後の長さがわかるようにしているため、試料コード片の伸びを求めることもできる。
【0037】
なお、上述の中間伸度(2.0cN/dtex)、寸法安定性指数、破断強度比(温度100℃での破断強度と室温での破壊強度の比)及び温度100℃での破断強度の70%の強度における伸び率と破断時の伸び率の差異の特性値を備えるPETコード40は、PET繊維の紡糸速度を速くする等して調整することで得ることができる。
【0038】
PETコード40は、撚り係数Kが1700〜2200であることが好ましい。撚り係数Kを1700〜2200とすることで、高い剛性とすることができ、かつ操縦安定性を確保することができる。
本発明において撚り係数Kは下記式で表されるものである。下記式においてNは撚り数(回/10cm)、Dは総繊度(dtex)である。
K=N×D
1/2
また、PETコード40は総繊度が、例えば、2000〜4500dtexである。
【0039】
カーカス層20のゴム層42は、貯蔵弾性率が7.0MPa〜9.0MPaであることが好ましい。上述の剛性が高いPETコード40に貯蔵弾性率が7.0MPa〜9.0MPaのゴム層42を組み合わせることで、カーカス層20として、より高い剛性が得られ、操縦安定性を更に改善することができる。
なお、ゴム層42の貯蔵弾性率が7.0Mpa未満では、カーカス層20として高い剛性が得られにくく、改善効果が小さい。一方、ゴム層42の貯蔵弾性率が9.0Mpaを超える場合、カーカス層20の剛性が高くなり過ぎ、タイヤの荷重耐久性等の耐久性を低下させる虞がある。
【0040】
図1に示すタイヤ10において、タイヤサイド39の最大幅位置39aにおけるサイドトレッドのゴム厚さtsが1.0mm〜2.5mmであることが好ましい。
上述のタイヤサイド39の最大幅位置39a(
図1参照)とは、タイヤ幅方向における最大長さを示す位置のことである。
図1では、タイヤ幅方向における最大幅は符号Wmで示される。タイヤの最大幅位置39aを中心としてタイヤ径方向にタイヤ断面高さSHの±30(%)の範囲内にある領域をサイドトレッドという。
上述のサイドトレッドのゴム厚さtsとは、最大幅位置39aとタイヤ幅方向におけるカーカス層20の表面20c迄の距離のことである。
上述のゴム厚さtsが2.5mmを超えるとタイヤ質量低減の利点が低下する。一方、上述のゴム厚さtsが1mm未満の場合、タイヤ側面の擦れによる摩耗で、カーカス層20が露出する可能性がある。
【0041】
本実施形態のタイヤ10では、上述のPETコード40を有するカーカス層20を用いることにより、補強コードにレーヨンコードを用いた場合に比してタイヤサイド部を薄くしても、耐外傷性を確保することができるため、タイヤサイド部の厚さを低減でき、ひいてはタイヤを軽量化できる。しかも、PETコード40では製造に二硫化炭素を用いることがなく、有害物質を抑制することができ、補強コードにレーヨンコードを用いた場合に比して、製造プロセスにおける環境負荷を低減することができる。
以上のことから、本実施形態のタイヤ10では、上述のPETコード40を用いることで環境負荷軽減を実現しつつ、高速操縦安定性を確保し、かつタイヤサイド部の耐外傷性を確保することができ、更にはタイヤを軽量化することができる。
なお、タイヤ10は、JATMA(日本自動車タイヤ協会)規定の速度記号が「W」以上のハイパフォーマンスタイヤに好適である。すなわち、タイヤ10は、速度記号W、Y、(Y)のハイパフォーマンスタイヤに好適である。
【0042】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良又は変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の空気入りタイヤの実施例について、具体的に説明する。
本実施例においては、下記表1、2に示す構成の補強コードを備えたカーカス層を有する実施例1〜実施例4及び基準例並びに比較例1〜比較例5の空気入りタイヤ(以下、単にタイヤという)を作製し、各タイヤについて、タイヤ質量を測定し、高速操縦安定性、タイヤの室温及び高温での耐外傷性(タイヤサイド部の室温及び高温での耐外傷性)並びにタイヤの荷重耐久性を評価した。タイヤ質量、高速操縦安定性、タイヤの室温及び高温での耐外傷性(タイヤサイド部の耐外傷性)並びにタイヤの荷重耐久性の結果を下記表1、2に示す。なお、各タイヤのタイヤサイズは255/40ZR20である。
【0044】
実施例1〜実施例4及び基準例並びに比較例1〜比較例5のカーカス層では、補強コード(PETコード、レーヨンコード)の配置は全て同じにし、緯糸に20番手の綿糸を用いた。
PETコードにおいて、中間伸度、寸法安定性指数、破断強度比(温度100℃での破断強度と室温での破壊強度の比S
r100/S
rr)及び温度100℃での破断強度の70%の強度における伸び率と破断時の伸び率の差異の特性値については、PET繊維の紡糸速度を速くする等して調整した。
【0045】
下記表1、2の「コード材質」の欄には、カーカス層の補強コードの素材を示す。基準例にはレーヨンコードを用いた。
下記表1、2の「コード構造」の欄において、「1670dtex/2」は、繊度が1670dtexの糸を2本撚ったものであることを示す。「1840dtex/2」は、繊度が1840dtexの糸を2本撚ったものであることを示す。
【0046】
タイヤの質量は、以下のようにして測定して評価した。
タイヤの質量は、実施例1〜実施例4及び基準例並びに比較例1〜比較例5の各タイヤをはかりで測定した。タイヤの質量は基準例のタイヤの質量を100として指数表示した。なお、下記表1、2に示す「タイヤ質量指数」の欄の数値は、数値が小さい方が軽いことを示す。
【0047】
高速操縦安定性は、以下のようにして測定して評価した。
実施例1〜実施例4及び基準例並びに比較例1〜比較例5の各タイヤを標準リムに組み付けて車両に装着し、平坦な周回路を有するテストコースを200km/hで実車走行させ、レーンチェンジ時及びコーナリング時の操舵性と直進時の安定性について、専門パネラー3名による感応評価を行った。高速操縦安定性は、基準例を100とする指数値にて評価した。なお、下記表1、2に示す「高速操縦安定性」の欄の数値は、数値が大きい程、高速操縦安定性が優れていることを意味する。
【0048】
室温でのタイヤの耐外傷性は、以下のようにして測定して評価した。
実施例1〜実施例4及び基準例並びに比較例1〜比較例5の各タイヤを標準リムに組み付けて車両に装着し、空気圧200kPaとして、速度10km/hにて高さ15cmの縁石に30°の角度で乗り上げ、これを5回繰り返した。そして、実施例1〜実施例4及び基準例並びに比較例1〜比較例5の各タイヤについて、サイドウォール部で損傷を受けたカーカス層の補強コードの本数を数えた。損傷を受けたカーカス層の補強コードの本数が少ない方が室温でのタイヤの耐外傷性が優れている。
室温でのタイヤの耐外傷性では、損傷を受けたカーカス層の補強コードの本数を、基準例を100とする指数にて示した。なお、下記表1、2に示す「室温での耐外傷性」の欄の数値は、数値が大きい程、タイヤの耐外傷性が優れていることを意味する。
【0049】
高温でのタイヤの耐外傷性は、以下のようにして測定して評価した。
実施例1〜実施例4及び基準例並びに比較例1〜比較例5の各タイヤを標準リムに組み付けて車両に装着し、空気圧200kPaとして、各タイヤを温度100℃に暖めた後、速度10km/hにて高さ15cmの縁石に30°の角度で乗り上げ、これを5回繰り返した。そして、実施例1〜実施例4及び基準例並びに比較例1〜比較例5の各タイヤについて、サイドウォール部で損傷を受けたカーカス層の補強コードの本数を数えた。損傷を受けたカーカス層の補強コードの本数が少ない方が高温でのタイヤの耐外傷性が優れている。
高温でのタイヤの耐外傷性では、損傷を受けたカーカス層の補強コードの本数を、基準例を100とする指数にて示した。なお、下記表1、2に示す「高温での耐外傷性」の欄の数値は、数値が大きい程、タイヤの耐外傷性が優れていることを意味する。
【0050】
荷重耐久性は、以下のようにして測定して評価した。
荷重耐久性には、JIS D4230耐久性能試験に準拠し、ドラム表面が平滑な鋼製でかつ直径1700mmのドラム試験機を用いた。
実施例1〜実施例4及び基準例並びに比較例1〜比較例5の各タイヤを、リムサイズが18×8Jのリムに組み込み、試験内圧250kPaでインフレートさせた。その後、各タイヤについて、周辺温度を36±3℃に制御し、走行速度を90km/h、負荷荷重をJATMA規定の最大荷重80%から5時間毎に10%ずつ荷重を増加させながらタイヤが破壊する迄走行した(最終荷重は280%として故障まで走行)。走行後のタイヤサイド部のカーカスターンアップ部の破断長さを測定した。タイヤの荷重耐久性は、カーカスターンアップ部の破断長さを基準例を100とする指数値で評価した。なお、下記表1、2に示す「荷重耐久性」の欄の数値は、数値が大きい程、破壊レベルが少なく、タイヤの荷重耐久性が優れていることを示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
上記表1に示す実施例1〜4は、レーヨンコードを用いた基準例、および比較例1〜5に比して、タイヤを軽量化でき、高速操縦安定性、高温及び室温での耐外傷性並びに荷重耐久性が優れていた。
以下、実施例1〜4、基準例および比較例1〜5について説明する。
上記表1に示す実施例1は、補強コードにPETコードを用いたものであり、破断強度比を基準例と同等とし、温度100℃での破断強度の70%の強度における伸び率と破断時の伸び率の差異の特性値が基準例及び比較例1〜5よりも大きくすることで、高速操縦安定性、並びに室温及び高温でのタイヤの耐外傷性を改善することができた。しかも、実施例1では、タイヤサイドゲージ(タイヤサイド部の厚さ)を基準例よりも薄くしてもタイヤの耐外傷性を確保することができた。これにより、タイヤサイドゲージを薄くでき、タイヤを軽量化できた。
【0054】
実施例2は、実施例1のPETコード(補強コード)と同じ特性値で、ゴム層の貯蔵弾性率を更に高くしたものである。これにより、カーカス層の剛性が更に高くなり、高速操縦安定性が更に向上した。また、タイヤサイドゲージを基準例よりも薄くしても、室温及び高温での耐外傷性を確保できたため、タイヤサイドゲージを薄くでき、タイヤを軽量化できた。
実施例3は、実施例1のPETコード(補強コード)と同じ特性値で、ゴム層の貯蔵弾性率を実施例2よりも更に高くしたものであり、高速操縦安定性が更に向上した。実施例3はカーカス層の剛性が高くなりすぎ、カーカスターンアップ部の圧縮疲労により、荷重耐久性が基準例程度であった。
実施例4は、実施例1のPETコード(補強コード)と同じ特性値で、撚り係数を小さくしたものである。実施例4は、高速操縦安定性が基準例程度であったが、それ以外の高温及び室温での耐外傷性並びに荷重耐久性は実施例1と同程度であった。
【0055】
比較例1は、補強コードにレーヨンコードを用いたものであり、タイヤサイドゲージは実施例1と同じ厚さである。比較例1は、タイヤの耐外傷性が室温及び高温のいずれでも悪化した。
比較例2は、補強コードにPETコードを用いたものであるが、中間伸度が高く、破断強度比が小さいため、高速操縦安定性が低下した。また、比較例2は、温度100℃での破断強度の70%の強度における伸び率と破断時の伸び率の差異が小さく、室温及び高温でのタイヤの耐外傷性が低下した。
比較例3は、補強コードにPETコードを用いたものであり、中間伸度は適正であるが、温度100℃での破断強度の70%の強度における伸び率と破断時の伸び率の差異が小さく、破断強度比が小さいため、タイヤの剛性が低下し、高速操縦安定性が低下した。比較例3は、破断強度比が小さいため、荷重耐久性も低下した。
また、比較例3は、温度100℃での破断強度の70%の強度における伸び率と破断時の伸び率の差異が小さく、室温及び高温でのタイヤの耐外傷性が低下した。
【0056】
比較例4は、補強コードにPETコードを用いたものであり、中間伸度が高く、破断強度比が小さく、高速操縦安定性が悪い。また、比較例4は、室温でのタイヤの耐外傷性は良好であったが、破断強度比が小さいため、高温でのタイヤの耐外傷性が低下した。
比較例5は、補強コードにPETコードを用いたものであり、高速操縦安定性は良好であったが、温度100℃での破断強度の70%の強度における伸び率と破断時の伸び率の差異が小さいため、タイヤの耐外傷性が室温及び高温のいずれでも悪化し、特に高温でのタイヤの耐外傷性が悪い。