(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第2の重希土類元素をさらに含み、前記第2の重希土類元素は、前記R−T−B系焼結磁石の粒界相全体にわたって略均一に含有されており、かつ第1の重希土類元素と異種の元素である、請求項3〜5のいずれか一項に記載のR−T−B系焼結磁石。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<拡散前焼結磁石>
本実施形態のR−T−B系焼結磁石は、希土類元素RとしてNdを含み、遷移金属元素TとしてFe及びCoを含む。なお、後述の、重希土類元素を拡散したR−T−B系焼結磁石(拡散後焼結磁石)と区別するために、重希土類元素を拡散する前のR−T−B系焼結磁石を拡散前焼結磁石とも呼ぶ。
【0015】
希土類元素Rは、Nd以外にもSc、Y、La、Ce、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を含んでいてもよい。Nd以外の希土類元素としては、Pr又はDy、Tbが好ましい。
【0016】
本実施形態の拡散前焼結磁石において、Rの含有量は、拡散前焼結磁石の全質量に対して好ましくは29〜33質量%であり、より好ましくは29.5〜31.5質量%である。Rの含有量が29質量%以上であると、当該拡散前焼結磁石から拡散後焼結磁石を製造した際に、高い保磁力を有する焼結磁石が得られやすい。一方Rの含有量が33質量%以下であると、当該拡散前焼結磁石から製造された拡散後焼結磁石において、Rリッチな非磁性相が多くなり過ぎず、焼結磁石の残留磁束密度が向上する傾向にある。
【0017】
本実施形態の拡散前焼結磁石において、Ndの含有量は、拡散前焼結磁石の全質量に対して15〜33質量%であると好ましく、20〜31.5質量%であるとさらに好ましい。拡散前焼結磁石中のNdの含有量が、15〜33質量%であると、保磁力及び残留磁束密度が向上する傾向にある。また、コストの観点から、本実施形態の拡散前焼結磁石におけるPr元素の含有量は、拡散前焼結磁石の全質量に対して5〜10質量%であると好ましい。必要な保磁力に応じてDyあるいはTbを添加してもよく、その含有量は、拡散前焼結磁石の全質量に対して0〜10質量%であると好ましい。
【0018】
拡散前焼結磁石は、Nd、Fe、Co及びCu以外の元素を含んでいてもよく、Al、Si、Mn、Ni、Ga、Sn、Bi、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wを含んでもよい。特にAl、Zr又はGaを含むことが好ましい。本実施形態の拡散前焼結磁石におけるAlの含有量は、拡散前焼結磁石の全質量に対して0.05〜0.3質量%であると好ましく、0.15〜0.25質量%であるとさらに好ましい。拡散前焼結磁石中のAlの含有量が、0.05〜0.3質量%であると、当該拡散前焼結磁石から製造された拡散後焼結磁石の保磁力及び残留磁束密度が向上する傾向にある。
また、拡散前焼結磁石中のボイドをさらに減らす観点からは、拡散前焼結磁石におけるZr又はGaの含有量が0.05〜0.3質量%であることが好ましく、0.1〜0.2質量%であることがより好ましい。
【0019】
拡散前焼結磁石中のボイドをさらに減らす観点から、Coの含有量は、0.5〜3質量%であると好ましく、1.0〜2.5質量%であるとより好ましい。またCuの含有量は、0.05〜0.3質量%であると好ましく、0.15〜0.25質量%であるとより好ましい。Feは、本実施形態の拡散前焼結磁石における必須元素及び任意元素以外の残部であり、Feの含有量としては、50〜73質量%であると好ましい。
【0020】
拡散前焼結磁石における、Bの含有量は、0.5〜5質量%であると好ましく、0.8〜1.1質量%であるとより好ましく、0.85〜1.0質量%であるとさらに好ましい。Bの含有量が0.5質量%以上であると、拡散前焼結磁石の保磁力が向上する傾向にあり、5質量%以下であると、拡散前焼結磁石においてBリッチな非磁性相の形成が抑制され、拡散前焼結磁石の残留磁束密度が向上する傾向にある。
【0021】
本実施形態の拡散前焼結磁石は、主に、R
2T
14Bで構成される主相粒子と、主相粒子間の粒界相に存在して主相粒子よりもR濃度の高いRリッチ相とを含む。Rリッチ相におけるRの濃度は、例えば、20at%以上である。
【0022】
ここで、拡散前焼結磁石の上記断面におけるNd、Cu及びCoの元素濃度は、例えば、3Dアトムプローブ(3DAP)で測定することができる。
【0023】
拡散前焼結磁石に含まれる主相粒子の平均粒径は1〜5μmであることが好ましく、2.5〜4μmであることがより好ましい。主相粒子の粒径が5μm以下であると、当該拡散前焼結磁石に重希土類元素を拡散させる際に、重希土類元素の粒子を拡散前焼結磁石の表面に均一に付着させやすくなる。主相粒子の粒径は、粉砕後の磁石用合金の粒径、焼結温度、及び焼結時間等によって制御できる。
拡散前焼結磁石中のボイドは多粒子粒界(3つ以上の主相粒子に囲まれた粒界)に存在する空隙であり、拡散前焼結磁石に重希土類元素を拡散させる際に重希土類元素をトラップする。トラップされる重希土類元素の量はボイドの体積に比例するため、ボイド1個当たりの体積は小さいほど好ましく、ボイドの総数は少ないほど好ましい。
【0024】
本実施形態の拡散前焼結磁石において、当該拡散前焼結磁石の一つの断面におけるボイドの総面積が当該断面の面積の0.2%以下である。なお、以下では、上記断面の面積に対するボイドの総面積の比率を単にボイド占有率とも呼ぶ。本実施形態の拡散前焼結磁石は、一定断面積あたりのボイドの総面積が小さい。そのため、拡散前焼結磁石にTb又はDy等の重希土類元素を拡散させた際にボイドにトラップされる重希土類元素が少なく、重希土類元素の使用量に対する保磁力に優れたR−T−B系焼結磁石を得ることができる。ボイド占有率は0.19%以下、0.18%以下、0.17%以下、0.16%以下、0.15%以下、0.14%以下、0.13%以下、0.12%以下、0.11%以下、0.10%以下、0.09%以下、0.08%以下、0.07%以下、0.06%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.03%以下、0.02%以下又は0.01%以下であってよい。なお、ボイド占有率の下限値としては特に制限はないが、例えば、1ppmであってよく、10ppmであってもよい。
ここで、一つの断面におけるボイドの総面積の算出の仕方としては、以下のものが挙げられる。まず、拡散前焼結磁石の一つの断面の写真を取得する。その断面におけるボイドを画像認識させ、ボイドの面積の総和を算出する。なお、本実施形態の拡散前焼結磁石は、ボイド占有率が0.2%以下である断面を一つ以上含むが、任意の断面において0.2%以下であってもよく、例えば9枚の断面写真におけるボイド占有率の平均値が0.2%以下であってもよい。
【0025】
本実施形態の拡散前焼結磁石において、当該拡散前焼結磁石の一つの断面若しくは断面のうち短辺が500μm以上の長方形の領域におけるボイドの個数は、断面10000μm
2あたり、30個以下であると好ましく、12個以下であるとより好ましい。さらに好ましくは5個以下である。また、ボイドの平均面積としては、0.7μm
2以下であると好ましく、0.6μm
2以下であるとより好ましい。なお、ボイドの平均面積は、断面におけるボイド1個当たりの平均の面積を指す。
【0026】
<拡散後焼結磁石>
本実施形態のR−T−B系焼結磁石は、希土類元素RとしてNdを含み、遷移金属元素TとしてFe及びCoを含む。また、本実施形態のR−T−B系焼結磁石は、上記拡散前焼結磁石にTb又はDyを含む第1の重希土類元素を拡散したものである。そのため、拡散により導入された重希土類元素以外の組成は、上記拡散前焼結磁石と同じものとすることができる。なお、以下では、本実施形態のR−T−B系焼結磁石を拡散後焼結磁石とも呼ぶ。上記第1の重希土類元素は、後述の拡散工程によりR−T−B系焼結磁石内に拡散されたものであるため、拡散後焼結磁石は、表面から内部に向かって前記第1の重希土類元素の濃度が減少する領域を有する。
【0027】
第1の重希土類元素として、Tb又はDy以外の重希土類元素としては、Gd、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuが挙げられる。拡散により導入された重希土類元素の含有量は、拡散後焼結磁石全体に対して0.1〜2.0質量%であると好ましく、0.2〜1.0質量%であるとより好ましい。
本実施形態の拡散後焼結磁石は、拡散面から焼結磁石の内部に向かって第1の重希土類元素の濃度が減少する領域(以下、拡散部分とも呼ぶ。)を有する。拡散面から見て、拡散部分の厚みは、0.01〜100mmであってよく、0.1〜5.0mmであってもよい。また磁石厚みの1〜50%であってもよく、5〜20%であってもよい。
本実施形態の拡散後焼結磁石において、拡散面は、拡散後焼結磁石の表面全体であってもよく、表面の一部分であってもよい。より具体的には、直方体の拡散後焼結磁石の場合、6面全てが拡散面であってもよく、対向する2面のみが拡散面であってもよく、一つの面のみでもよい。拡散面が形成された面において、拡散面は、面の全体であってもよく、面の1箇所又は複数個所に離散的に設けられていてもよい。直方体の6面全てが拡散面である拡散後焼結磁石は、角部で保磁力の向上幅が大きくできるため好ましい。また、面の一部に拡散面を形成したものは、重希土類量の使用量が少なくて済む。
【0028】
本実施形態の拡散後焼結磁石の拡散部分において、拡散面に垂直な一つの断面には、第1の粒界相が存在する。第1の粒界相は、Ndと第1の重希土類元素を含み、Coを含まない。上記断面の面積に対する第1の粒界相の総面積の比率(第1の粒界相の占有率とも言う)は、1.8%以下であり、1.7%以下、1.6%以下、1.5%以下、1.4%以下、1.3%以下、1.2%以下、1.1%以下、1.0%以下、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、又は0.3%以下であってもよい。第1の粒界相の占有率の下限値は特に制限されないが、例えば、25ppmとすることができる。第1の粒界相は、拡散前焼結磁石において粒界相に存在するCoを含まないことから、拡散前焼結磁石のボイドに重希土類元素がトラップされて形成されたものと考えられる。そのため、拡散前焼結磁石においてボイドが少なければ、拡散後焼結磁石における第1の粒界相も少なくなる。第1の粒界相に含まれる第1の重希土類元素は、保磁力の向上に寄与しない。本実施形態の拡散後焼結磁石は、拡散後焼結磁石の拡散面に垂直な一つの断面における第1の粒界相の総面積の比率が小さいため、保磁力の向上に寄与しない(すなわちボイドにトラップされた)重希土類元素の量も少ない。したがって、本実施形態の拡散後焼結磁石は、重希土類元素の使用量に対する保磁力が向上する。なお、第1の粒界相は、ボイドに重希土類元素がトラップされる際にボイドの周辺の元素と混合されて形成される。そのため、第1の粒界相の断面積は、対応するボイドの断面積よりも大きくなる。
【0029】
第1の粒界相の総面積の算出の仕方としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、焼結磁石の拡散面に対して垂直な一つの断面のEPMA(Electron Probe Micro Analysis)画像を取得する。得られたEPMA画像から第1の重希土類元素とNdとを含み、Coを含まない領域を特定し、その領域を第1の粒界相とする。EPMA画像の面積は、2500〜40000μm
2であってよく、複数のEPMA画像の合計面積は、10000〜400000μm
2であってよい。特定された第1の粒界相を画像認識し、面積を求め、上記断面における第1の粒界相の面積の総和を算出する。なお、第1の粒界相において、NdとPrの含有量は合計で、例えば、18at%以上であればよく、20at%以上であるとよりよく、さらに好ましくは22at%以上である。また、第1の粒界相において、第1の重希土類元素の含有量は、例えば、1.2at%以上であればよく、1.4at%以上であるとよりよく、さらに好ましくは1.6at%以上である。また、Coを含まないとは、Coの含有量が主相より少ないことをいい、例えば、0.6at%以下であればよく、0.5at%以下であるとよりよく、さらに好ましくは0.4at%以下である。Ndの含有量は、9at%以上であると好ましく、10at%以上であるとより好ましく、さらに好ましくは11at%以上である。
本実施形態の拡散後焼結磁石は、第1の粒界相の占有率が1.8以下である、拡散面に垂直な断面を一つ以上含むが、拡散面に垂直な任意の断面において第1の粒界相の占有率が1.8以下であってもよい。
【0030】
本実施形態の拡散後焼結磁石において、当該拡散後焼結磁石の一つの断面における第1の粒界相の個数は、断面10000μm
2あたり、34個以下であると好ましく、22個以下であるとより好ましい。さらに好ましくは11個以下である。また、第1の粒界相の平均面積としては、例えば2〜10μm
2である。なお、第1の粒界相の平均面積は、断面における第1の粒界相1個当たりの平均の面積を指す。
【0031】
本実施形態の拡散後焼結磁石の上記垂直な一つの断面には、Nd及びCoを含み第1の重希土類元素を含まない第2の粒界相が存在していてもよい。第2の粒界相は、重希土類元素拡散前と類似の組成であることから、拡散前焼結磁石の多粒子粒界相(3つ以上の主相粒子に囲まれた粒界相)由来であると考えられる。なお、本明細書では、2つの主相粒子間の粒界相のうち、一方の主相粒子の表面から他方の主相粒子の表面への最短距離が30nm以上となる領域を多粒子粒界相と言う。多粒子粒界相について、上記最短距離は、50nm以上の領域であってもよく、100nm以上の領域であってもよい。上記垂直な断面の面積に対する第2の粒界相の総面積の比率(第2の粒界相の占有率とも言う)は、保磁力及び残留磁束密度の観点から、1〜10%であると好ましく、1〜3%であるとより好ましい。また、第2の粒界相の面積に対する第1の粒界相の面積の比(第2の粒界相の面積/第1の粒界相の面積)は、2.0以下、1.9以下、1.8以下、1.7以下、1.6以下、1.5以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下又は0.15以下であってよい。かかる比が2.0以下であると、ボイドにトラップされた(すなわち、第1の粒界相に含まれる)重希土類元素の量が少ないことを意味するため、重希土類元素の使用量に対する保磁力がさらに向上する。
【0032】
本実施形態の拡散後焼結磁石は、拡散前焼結磁石に元々含まれている重希土類元素(以下、第2の重希土類元素と呼ぶ。)を含んでいてもよい。第2の重希土類元素は、拡散前焼結磁石を製造する際の原料合金に由来するため、第1の重希土類元素とは異なり、拡散後焼結磁石の粒界相に略均一な濃度で含有される。第2の重希土類元素としては、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuが挙げられる。第2の重希土類元素は、第1の重希土類元素と異種又は同種であってよい。粒界相における第2の重希土類の濃度を測定する方法としては、例えば、3Dアトムプローブ(3DAP)が挙げられる。ここで、第2の重希土類元素の濃度について、粒界相全体にわたって略均一であるとは、拡散後焼結磁石全体を拡散方向に3等分した時に、最も高濃度の領域と、最も低濃度の領域の差が2倍以内であることを言う。
第2の重希土類元素と第1の重希土類元素が同種である場合、上記第2の粒界相には、第1の重希土類元素と同種の元素が含まれることになる。そのため、上述のとおり、第2の粒界相は、重希土類元素拡散前と類似の組成であることから、Nd及びCoを含み、第1の重希土類元素の濃度が略均一な多粒子粒界相として認識される。ここで、第1の重希土類元素の濃度について、第2の粒界相において略均一であるとは、磁石断面の100μm四方に含まれる粒界相において、平均濃度の2倍以下であることを言う。
なお、上記断面には、第1の重希土類元素が拡散されていない領域(以下、領域Bと呼ぶ。)が含まれることがある。領域Bに含まれる多粒子粒界相と第2の粒界相は、略同一の組成となる。
【0033】
第2の粒界相の総面積の算出の仕方としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、拡散後焼結磁石の一つの断面のEPMA画像を取得する。得られたEPMA画像からNdとCoとを含み、第1の重希土類元素を含まない又は第1の重希土類元素の濃度が略均一である領域を特定し、その領域を第2の粒界相とする。EPMA画像の面積は、2500〜40000μm
2であってよく、複数のEPMA画像の合計面積は、10000〜400000μm
2であってよい。特定された第2の粒界相を画像認識し、面積を求め、上記断面における第2の粒界相の面積の総和を算出する。なお、第2の粒界相において、NdとPrとの含有量は合計で、18at%以上であればよく、20at%以上であるとよりよく、さらに好ましくは22at%以上である。また、第2の粒界相において、Coの含有量は主相より多く、例えば、0.7at%以上であればよく、0.8at%以上であるとよりよく、さらに好ましくは0.9at%以上である。また、第1の重希土類元素を含まないとは、第1の重希土類元素の含有量が、例えば、1.2at%未満であるとよく、1.0at%未満であるとよりよく、さらに好ましくは0.8at%未満である。また、第1の重希土類元素の濃度が略均一であるとは、EPMA画像の100μm四方に含まれる粒界相において、平均濃度の2倍以下である。Ndの含有量は、9at%以上であると好ましく、10at%以上であるとより好ましく、さらに好ましくは11at%以上である。
【0034】
本実施形態の拡散後焼結磁石において、当該拡散後焼結磁石の一つの断面における第2の粒界相の個数は、断面10000μm
2あたり、31個以上であると好ましく、54個以上であるとより好ましい。さらに好ましくは69個以上である。また、第2の粒界相の平均面積としては、例えば2〜4μm
2である。なお、第2の粒界相の平均面積は、断面における第2の粒界相1個当たりの平均の面積を指す。
【0035】
<拡散前焼結磁石の製造方法>
まず、原料合金として、Nd、Co及びBを含有するR−T−B系合金を用意する。原料合金の化学組成は、最終的に得たい焼結磁石の化学組成に応じて適宜調整すればよい。用意する合金は一種類でもよいし、複数種類を用いてもよい。なお、原料合金としては、コスト削減の観点から、R−T−B系合金のみを使用することもできるが、R−T−B系合金以外の合金を併用してもよい。R−T−B系合金以外の合金としては、希土類元素と遷移金属元素からなるR−T合金が挙げられる。R−T合金の具体例としては、R−Fe−Al合金、R−Fe−Al−Cu合金、R−Fe−Al−Cu−Co−Zr合金などが挙げられる。原料として複数の合金を使用する場合、R−T−B系合金の使用量を、使用する合金の全質量を基準として80質量%以上とすることが好ましく、90質量%以上とすることがより好ましい。
【0036】
原料合金を粗粉砕して、数百μm程度の粒径を有する粒子にする。原料合金の粗粉砕には、例えば、ジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いてもよい。また、原料合金の粗粉砕は、不活性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。原料合金に対して水素吸蔵粉砕を行ってもよい。水素吸蔵粉砕では、原料合金に水素を吸蔵させた後、原料合金を不活性ガス雰囲気下で加熱し、異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づく自己崩壊によって原料合金を粗粉砕することができる。
【0037】
粗粉砕後の原料合金を、その粒径が1〜10μmになるまで微粉砕してもよい。微粉砕には、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等を用いてもよい。微粉砕では、ステアリン酸亜鉛やオレイン酸アミド等の添加剤を原料合金に添加してもよい。これにより、成形時の原料合金の配向性を向上することができる。
【0038】
粉砕後の原料合金を磁場中で加圧成形して、成形体を形成する。加圧成形時の磁場は、950〜1600kA/m程度であってもよい。加圧成形時の圧力は、10〜125MPa程度であるとよく、20〜50MPa程度であるとなおよい。成形体の形状は特に制限されず、柱状、平板状、リング状等とすればよい。
【0039】
成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結させて、拡散前焼結磁石を得る。焼結温度は、原料合金の組成、粉砕方法、粒度、粒度分布等の諸条件に応じて調節すればよい。焼結温度は、950〜1150℃であってもよく、1000〜1130℃であればよく、焼結時間は、1〜10時間程度であればよい。焼結時の圧力としては、5kPa以下であればよく、200Pa以下であるとなおよく、5Pa以下であるとさらに良い。焼結後に時効処理を行っても良い。拡散前焼結磁石としての保磁力は時効処理により大幅に向上する。拡散処理を行う場合、時効処理温度よりも拡散熱処理温度は高温であるため、時効処理の影響は受けない。
本実施形態の拡散前焼結磁石は、例えば、加圧成形時の圧力を高める、又は高真空雰囲気かつ高温での焼成を行うこと等により、上記ボイドの占有率を0.2%以下とすることができる。また、原料合金におけるZr又はGaの含有量を増加することによってもボイドの占有率を0.2%以下とすることができる。原料合金におけるZr又はGaの含有量としては、0.05〜0.3質量%であると好ましく、0.1〜0.2質量%であるとより好ましい。原料合金におけるZr又はGaの含有量を増加すると粒界相に異相を形成し、焼結時にボイドを埋めると考えられることから、ボイドの量を減らすことができる。
【0040】
拡散前焼結磁石における酸素の含有量は3000質量ppm以下であることが好ましく、2500質量ppm以下であることがより好ましく、1000質量ppm以下であることがさらに好ましい。酸素量が少ないほど、得られる拡散前焼結磁石中の不純物が少なくなり、焼結磁石の磁気特性が向上する。拡散前焼結磁石における酸素の含有量を低減する方法としては、水素吸蔵粉砕から焼結までの間、原料合金を酸素濃度が低い雰囲気下に維持することが挙げられる。
【0041】
拡散前焼結磁石を所望の形状に加工した後、拡散前焼結磁石の表面を酸溶液によって処理してもよい。表面処理に用いる酸溶液としては、硝酸、塩酸等の水溶液と、アルコールとの混合溶液が好適である。表面処理の方法としては、例えば、拡散前焼結磁石を酸溶液に浸漬すること、拡散前焼結磁石に酸溶液を噴霧すること等があげられる。表面処理によって、拡散前焼結磁石に付着していた汚れ、酸化層等を除去して清浄な表面を得ることができ、後述する重希土類化合物粒子の付着及び拡散を確実に実施できる。汚れや酸化層等の除去をさらに良好に行う観点からは、酸溶液に超音波を印加しながら表面処理を行ってもよい。
【0042】
<拡散後焼結磁石の製造方法>
まず、拡散前焼結磁石の表面に、重希土類元素を含む重希土類化合物を付着させる。重希土類化合物が付着した表面が拡散後焼結磁石における拡散面となる。拡散前焼結磁石としては、上述の拡散前焼結磁石を用いることができる。重希土類化合物は、少なくともTb又はDyを含む。重希土類化合物としては、合金、酸化物、フッ化物、水酸化物、水素化物等が挙げられるが、特に水素化物を用いることが好ましい。水素化物を用いた場合、重希土類元素を拡散させる際に、水素化物に含まれる重希土類元素だけが拡散前焼結磁石内へ拡散する。水素化物に含まれる水素は、重希土類元素を拡散させる際に拡散前焼結磁石の外部へ放出される。したがって、重希土類元素の水素化物を用いれば、最終的に得られる焼結磁石中に重希土類化合物に由来する不純物が残留しないため、焼結磁石の残留磁束密度の低下を防止し易くなる。重希土類元素の水素化物としては、DyH
2、TbH
2又はDy−Fe若しくはTb−Feの水素化物が挙げられる。特に、DyH
2又はTbH
2が好ましい。Dy−Feの水素化物を用いた場合、Feも熱処理工程において焼結磁石中に拡散する傾向がある。
【0043】
拡散前焼結磁石に付着させる重希土類化合物は、粒子状であることが好ましく、その平均粒径は0.1μm〜50μmであることが好ましく、1μm〜10μmであることがより好ましい。重希土類化合物の粒径が100nm未満であると、粉砕が技術的に難しく、収率が悪い為、コストが増大する。粒径が50μmを超えると、拡散前焼結磁石中への重希土類化合物が拡散し難くなり、保磁力の向上効果が十分に得られない傾向がある。
【0044】
拡散前焼結磁石に重希土類化合物を付着させる方法としては、例えば、重希土類化合物の粒子をそのまま拡散前焼結磁石に吹き付ける方法、重希土類化合物を溶媒に溶解した溶液を拡散前焼結磁石に塗布する方法、重希土類化合物の粒子を溶媒に分散させたスラリー状の拡散剤を拡散前焼結磁石に塗布する方法、重希土類元素を蒸着する方法等が挙げられる。なかでも、拡散剤を拡散前焼結磁石に塗布する方法が好ましい。拡散剤を用いた場合、重希土類化合物を拡散前焼結磁石に均一に付着させることができ、重希土類元素の拡散を確実に進行させることができる。以下では、拡散剤を用いる場合について説明する。
【0045】
拡散剤に用いる溶媒としては、重希土類化合物を溶解させずに均一に分散させ得るものが好ましい。例えば、アルコール、アルデヒド、ケトン等が挙げられ、なかでもエタノールが好ましい。拡散剤中に拡散前焼結磁石を浸漬させる、又は拡散前焼結磁石に拡散剤を滴下してもよい。
【0046】
拡散剤を用いる場合、拡散剤中の重希土類化合物の含有量は、拡散させたい重希土類元素の質量濃度の目標値に応じて適宜調整すればよい。例えば、拡散剤中の重希土類化合物の含有量は、10〜50質量%であってもよく、40〜50質量%であってもよい。拡散剤中の重希土類化合物の含有量が上記範囲内である場合、拡散前焼結磁石に重希土類化合物を均一に付着させやすくなる。また、拡散剤中の重希土類化合物の含有量が上記範囲内である場合、拡散前焼結磁石の表面が平滑になりやすく、得られる拡散前焼結磁石の耐食性を向上させるためのめっき等の形成がしやすい。
【0047】
拡散剤中には、必要に応じて重希土類化合物以外の成分をさらに含有させてもよい。拡散剤に含有させてもよい他の成分としては、例えば、重希土類化合物の粒子の凝集を防ぐための分散剤等が挙げられる。
【0048】
(拡散工程)
重希土類化合物を表面に付着させた拡散前焼結磁石を熱処理し、拡散前焼結磁石中に重希土類元素を拡散させる。熱処理の温度としては、700〜950℃であることが好ましい。熱処理時間としては、5〜50時間であることが好ましい。
さらに時効処理を施してもよい。時効処理は焼結磁石の磁気特性(特に保磁力)の向上に寄与する。
【0049】
拡散後焼結磁石の表面にめっき層、酸化層又は樹脂層等を形成してもよい。これらの層は、磁石の劣化を防止するための保護層として機能する。
【0050】
本実施形態の拡散後焼結磁石は、例えば、モーター、等に使用することができる。
【実施例】
【0051】
<拡散前焼結磁石>
まず、表1に示す組成1及び組成2の原料合金を用意した。原料合金を水素吸蔵させた後、600℃まで加熱し、粗粉を得た。得られた粗粉にオレイン酸アミドを0.1質量%添加し、ミキサーで混合した。混合後ジェットミルで粉砕して合金粉末を得た。原料合金の粉末を3Tの磁場中で30MPaの圧力で成形し、成形体を得た。
得られた成形体を、Ar雰囲気下で表2に示す温度及び圧力で焼結し、拡散前焼結磁石を得た。実施例1〜5並びに比較例1〜3の拡散前焼結磁石について、それぞれ断面写真を取得し、その断面におけるボイドの個数、平均面積、合計面積を測定し、ボイドの占有率を算出した。結果を表3に示す。また、
図1(a)及び(b)に、それぞれ実施例1及び比較例1の拡散前焼結磁石のSEM写真を示す。
図1(a)において、実施例1の拡散前焼結磁石2中には、ボイド1がほとんど見られなかったが、
図1(b)において、拡散前焼結磁石4中には、ボイド1が多く見られた。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
<拡散後焼結磁石>
以下の方法により、実施例1〜5並びに比較例1〜3の拡散前焼結磁石に表5に示す重希土類元素を用いて拡散処理を行い実施例1〜5並びに比較例1〜3の拡散後焼結磁石を得た。まず、実施例1〜5並びに比較例1〜3の拡散前焼結磁石の表面に重希土類化合物を塗布した。重希土類化合物としては、TbH
2及びDy−Feを使用した。次いで、重希土類化合物を表面に付着させた拡散前焼結磁石に、900℃、30時間の熱処理を行って、実施例1〜5並びに比較例1〜3の拡散後焼結磁石を得た。得られた拡散後焼結磁石について、拡散面に垂直な断面におけるEPMA画像を取得し、それぞれ第1の粒界相及び第2の粒界相の個数、平均面積、及び占有率を取得し、第1及び第2の粒界相の面積比(第1の粒界相の面積/第2の粒界相の面積)を算出した。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
得られた焼結磁石について直流型BHトレーサーを用いて、残留磁束密度(Br)及び保磁力(Hcj)を測定した。さらに、拡散前焼結磁石からの保磁力の変化(ΔHcj、拡散後焼結磁石の保磁力−拡散前焼結磁石の保磁力)を算出した。結果を表5に示す。
全ての例についてTb及びDyはそれぞれ拡散前焼結磁石全質量に対して1.0質量%を塗布しているが、同一の重希土類を塗布した場合同士では、いずれの場合においても実施例の方が比較例よりΔHcjが大きい。
また実施例同士で比較すると、実施例3(第1の粒界相の占有率が1.0以下)は実施例4(第1の粒界相の占有率が1.8以下)よりΔHcjが大きく、実施例1(第1の粒界相の占有率が0.5以下)は実施例3よりさらにΔHcjが大きい。
さらに、Hk/Hcj(磁化率が残留磁束密度よりも10%減少した時の磁場HkをHcJで除した値)を測定したところ、いずれの実施例もHk/Hcjの値が良好であり、角型性が良好であった。
【0058】
【表5】
【0059】
図2に実施例1の拡散後焼結磁石の拡散面に垂直な断面におけるEPMA画像を示す。なお、
図2(a)は組成像であり、
図2(b)〜(d)は、それぞれNd、Co及びTbについてマッピングした画像であり、図の白い部分はその周囲より該当する元素濃度が高く、白に囲まれた薄灰色の部分はさらに該当する元素濃度が高い。逆に図の暗色の部分はその周囲より該当する元素濃度が低い。
また、
図3に比較例1の拡散後焼結磁石の拡散面に垂直な断面におけるEPMA画像を示す。なお、
図2と同様に、
図3(a)は組成像であり、
図3(b)〜(d)は、それぞれNd、Co及びTbについてマッピングした画像である。
図2及び3の対比から明らかなように、実施例1の拡散後焼結磁石では、ボイドに由来する第1の粒界相(実線で囲んだ部分)の数が少なく、第2の粒界相(破線で囲んだ部分)が多く見られるが、比較例1の拡散後磁石ではボイドに由来する第1の粒界相の数が多く、第2の粒界相が少ない。