特許第6743810号(P6743810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6743810中空糸型半透膜、中空糸膜モジュールおよび正浸透水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6743810
(24)【登録日】2020年8月3日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】中空糸型半透膜、中空糸膜モジュールおよび正浸透水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20200806BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20200806BHJP
   B01D 71/16 20060101ALI20200806BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20200806BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20200806BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20200806BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20200806BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20200806BHJP
   D01F 2/28 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   B01D69/08
   B01D69/00
   B01D71/16
   B01D71/68
   B01D71/56
   B01D63/02
   B01D61/00 500
   C02F1/44 D
   D01F2/28 Z
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-512548(P2017-512548)
(86)(22)【出願日】2016年4月13日
(86)【国際出願番号】JP2016061873
(87)【国際公開番号】WO2016167267
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2019年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-83201(P2015-83201)
(32)【優先日】2015年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】合田 昌平
(72)【発明者】
【氏名】時見 忍
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 秀彦
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−018920(JP,A)
【文献】 特開平01−307409(JP,A)
【文献】 特開2001−286743(JP,A)
【文献】 特開2013−212456(JP,A)
【文献】 特開2015−054293(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/118859(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
D01F 2/28
D01F 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸型半透膜の外周面に水と水以外の成分とを含む処理対象水を接触させると共に、前記中空糸型半透膜の中空部内にドロー溶質を含むドロー溶液を流すことで、前記処理対象水中に含まれる水を前記中空糸型半透膜を通して前記外周面側から前記中空部内に移動させる浸透工程を含み、前記中空糸型半透膜は、内径が250μm超700μm以下であり、前記ドロー溶液の粘度が0.15Pa・s以上である、正浸透水処理方法。
【請求項2】
前記浸透工程において、前記ドロー溶液を流す圧力が0.2MPa以下である、請求項に記載の正浸透水処理方法。
【請求項3】
前記浸透工程の後に、前記ドロー溶液に含まれる前記ドロー溶質を水と分離させる分離工程をさらに含む、請求項1または2に記載の正浸透水処理方法。
【請求項4】
前記中空糸型半透膜は、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂およびポリアミド系樹脂の少なくともいずれかを含む材料から構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の正浸透水処理方法。
【請求項5】
前記セルロース系樹脂は、酢酸セルロース系樹脂である、請求項4に記載の正浸透水処理方法。
【請求項6】
前記中空糸型半透膜は、セルロース系樹脂からなる材料から構成される、請求項4または5に記載の正浸透水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸型半透膜、該中空糸型半透膜を備える中空糸膜モジュール、および、該中空糸型半透膜を用いる正浸透水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正浸透(FO:forward osmosis)とは、半透膜を介して、低濃度(低浸透圧)の処理対象水(フィード溶液)側の水が高濃度(高浸透圧)の溶液(ドロー溶液)に向かって移動する現象のことである。一方、水処理分野においては、逆浸透(RO:reverse osmosis)工程を用いる水処理方法が従来から知られている。逆浸透工程は、人為的に強い圧力を加えることにより、正浸透とは逆に、高濃度の処理対象水から低濃度の溶液側に水を移動させる工程である。
【0003】
しかし、逆浸透工程は強い圧力を必要とするため、エネルギー消費量が極めて多く、エネルギー効率が低い。そこで、近年、水処理のエネルギー効率を高めるために、人為的に圧力を加える必要のない正浸透現象を利用した正浸透水処理システムが提案されている。例えば、国際公開第2013/118859号(特許文献1)には、中空糸型半透膜を用いた正浸透水処理システムが開示されている。
【0004】
また、正浸透水処理システムに用いられるドロー溶液としては種々のものが知られているが、例えば、特表2014−512951号公報(特許文献2)には、ドロー溶液としてポリグリコール共重合体などの高粘度溶液を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/118859号
【特許文献2】特表2014−512951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるような既存の正浸透用の中空糸型半透膜(内径50〜250μm)に、高粘度のドロー溶液を流す場合、圧力損失が大きいため、中空糸型半透膜の内外での十分な有効浸透圧差を維持するために必要な流量を確保できず、正浸透水処理の効率が低下してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、中空糸型半透膜の中空部内に高粘度のドロー溶液を流す場合でも、正浸透水処理の効率が低下することを抑制できる中空糸型半透膜、中空糸膜モジュールおよび正浸透水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 中空糸型半透膜の外周面に水と水以外の成分とを含む処理対象水を接触させると共に、前記中空糸型半透膜の中空部内にドロー溶質を含むドロー溶液を流すことで、前記処理対象水中に含まれる水を前記中空糸型半透膜を通して前記外周面側から前記中空部内に移動させる浸透工程を含み、前記中空糸型半透膜は、内径が250μm超700μm以下であり、前記ドロー溶液の粘度が0.15Pa・s以上である、正浸透水処理方法。
[2] 前記浸透工程において、前記ドロー溶液を流す圧力が0.2MPa以下である、[1]に記載の正浸透水処理方法。
[3] 前記浸透工程の後に、前記ドロー溶液に含まれる前記ドロー溶質を水と分離させる分離工程をさらに含む、[1]または[2]に記載の正浸透水処理方法。
[4] 前記中空糸型半透膜は、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂およびポリアミド系樹脂の少なくともいずれかを含む材料から構成される、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の正浸透水処理方法。
[5] 前記セルロース系樹脂は、酢酸セルロース系樹脂である、[4]に記載の正浸透水処理方法。
[6] 前記中空糸型半透膜は、セルロース系樹脂からなる材料から構成される、[4]または[5]に記載の正浸透水処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中空糸型半透膜の中空部内に高粘度のドロー溶液を流す場合でも、正浸透水処理の効率が低下することを抑制できる中空糸型半透膜、中空糸膜モジュールおよび正浸透水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ドロー溶液の粘度ηが0.3Pa・s(表5に対応)について、造水量と中空糸型半透膜の内径との関係を示すグラフである。
図2】ドロー溶液の粘度ηが0.126、0.239、0.330、0.600Pa・sの場合(表3,4,6,7に対応)について、造水量と中空糸型半透膜の内径との関係を示すグラフである。
図3】ドロー溶液の粘度ηが0.600Pa・sの場合(表7に対応)について、造水量と中空糸型半透膜の内径との関係を示すグラフである。
図4】ドロー溶液が塩水である場合について、造水量と中空糸型半透膜の内径との関係を示すグラフである。
図5】本発明の中空糸膜モジュールの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(中空糸型半透膜)
本発明の中空糸型半透膜は、内径が250μm超700μm以下であることを特徴とする。内径は、好ましくは250μm超650μm以下であり、より好ましくは250μm超600μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。
【0012】
一般に、中空糸型半透膜の中空部内を流れるドロー溶液の流量が少なくなると、ドロー溶液が中空部内を流れる間にドロー溶液側へ透過する水の量が多くなる。これにより、中空部内を流れるドロー溶液の全体的な浸透圧が低下し、ドロー溶液と処理対象水(フィード溶液)との間の浸透圧差が小さくなるため、水の回収効率が低下してしまう。
【0013】
しかしながら、本発明によれば、中空糸型半透膜の内径を250μm超700μm以下の範囲にすることで、中空糸型半透膜による圧力損失が低下するため、中空部内を流れるドロー溶液の流量を多くすることができる。これにより、中空糸型半透膜の内外での十分な有効浸透圧差を維持するために必要な流量を確保でき、中空糸型半透膜の中空部内に高粘度のドロー溶液を流す場合でも、正浸透水処理の効率が低下することを抑制できる。
【0014】
中空糸型半透膜を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。中空糸型半透膜は、セルロース系樹脂およびポリスルホン系樹脂の少なくともいずれかを含む材料から構成されることが好ましい。
【0015】
セルロース系樹脂は、好ましくは酢酸セルロース系樹脂である。酢酸セルロース系樹脂は、殺菌剤である塩素に対する耐性があり、微生物の増殖を抑制できる特徴を有している。酢酸セルロース系樹脂は、好ましくは酢酸セルロースであり、耐久性の点から、より好ましくは三酢酸セルロースである。
【0016】
ポリスルホン系樹脂は、好ましくはポリエーテルスルホン系樹脂である。ポリエーテルスルホン系樹脂は、好ましくはスルホン化ポリエーテルスルホンである。
【0017】
具体的な中空糸型半透膜の一例としては、全体がセルロース系樹脂から構成されている単層構造の膜が挙げられる。ただし、ここでいう単層構造とは、層全体が均一な膜である必要はなく、例えば、特許文献1に開示されるように、外周表面近傍に緻密層を有し、この緻密層が実質的に中空糸型半透膜の孔径を規定する分離活性層となっていることが好ましい。
【0018】
具体的な中空糸型半透膜の別の例としては、支持層(例えば、ポリフェニレンオキサイドからなる層)の外周表面にポリフェニレン系樹脂(例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン)からなる緻密層を有する2層構造の膜が挙げられる。また、他の例として、支持層(例えば、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンからなる層)の外周表面にポリアミド系樹脂からなる緻密層を有する2層構造の膜が挙げられる。
【0019】
上記の緻密層(分離活性層)の厚みは、好ましくは0.1〜7μmである。緻密層の厚みは薄い方が、透水抵抗が小さくなるため好ましい。このため、緻密層の厚みは、6μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。ただし、緻密層が薄すぎると、潜在的な膜構造の欠陥が顕在化しやすくなり、例えば、1価イオンの漏出を抑えることが困難になったり、膜の耐久性が低下になったりするなどの問題が発生し易くなる。このため、緻密層の厚みは、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
【0020】
なお、中空糸型半透膜の外径は、好ましくは300〜1000μmであり、より好ましくは400〜950μmである。また、中空糸型半透膜の膜全体の厚みは、好ましくは50〜200μmであり、より好ましくは60〜170μmである。なお、膜厚は(外径−内径)/2で算出できる。また、中空糸型半透膜の中空率〔(内径/外径)×100(%)〕は、好ましくは30〜60%であり、より好ましくは35〜55%である。なお、中空率は、中空糸型半透膜の横断面における中空部の面積の割合である。
【0021】
中空糸型半透膜の長さは、特に限定されないが、好ましくは15〜400cm、より好ましくは20〜350cmである。
【0022】
中空糸型半透膜は、孔径が100nm以下であることが好ましい。このような中空糸型半透膜としては、例えば、逆浸透膜(RO膜:Reverse Osmosis Membrane)、正浸透膜(FO膜:Forward Osmosis Membrane)、ナノろ過膜(NF膜:Nanofiltration Membrane)、限外ろ過膜(UF膜:Ultrafiltration Membrane)と呼ばれているものが挙げられる。
【0023】
通常、RO膜およびFO膜の孔径は約2nm以下であり、UF膜の孔径は約2〜100nmである。NF膜は、RO膜のうちイオンや塩類の阻止率が比較的低いものであり、通常、NF膜の孔径は約1〜2nmである。
【0024】
(中空糸膜モジュール)
また、本発明は、上記の中空糸型半透膜を備える中空糸膜モジュールにも関する。中空糸型半透膜を中空糸型半透膜モジュールに組み込む方法としては、従来公知の方法があり、例えば、特許4412486号公報、特許4277147号公報、特許3591618号公報、特許3008886号公報などに記載されている。具体的には、例えば、中空糸型半透膜を45〜90本集めて1つの中空糸型半透膜集合体とし、さらにこの中空糸型半透膜集合体を複数横に並べて偏平な中空糸型半透膜束として、多数の孔を有する芯管にトラバースさせながら巻き付ける。このときの巻き付け角度は5〜60度とし、巻き上げ体の特定位置の周面上に交差部が形成するように巻き上げる。次に、この巻き上げ体の両端部を接着した後、片側のみ/または両側を切削して中空糸開口部を形成させ中空糸型分離膜素子を作成する。得られた中空糸型分離膜素子1を圧力容器2に挿入して中空糸型半透膜モジュール3を組立てる(図5)。
【0025】
(正浸透水処理方法)
また、本発明は、上記の中空糸型半透膜を用いる正浸透水処理方法にも関する。本発明の正浸透水処理方法は、処理対象水から上記の中空糸型半透膜を用いた正浸透により水を分離および回収する方法である。
【0026】
なお、処理対象水とは、水と水以外の成分を含む液体である。処理対象水としては、例えば、海水、河川水、湖沼水、工業廃水などが挙げられる。なお、処理対象水が海水等の塩分濃度が高い溶液である場合、処理対象水の蒸発残留物濃度(TDS)は、好ましくは0.7〜14質量%であり、より好ましくは1.5〜10質量%であり、さらに好ましくは3〜8質量%である。
【0027】
本発明の正浸透水処理方法は、中空糸型半透膜の外周面に処理対象水(水と水以外の成分とを含む液)を接触させると共に、中空糸型半透膜の中空部内にドロー溶質を含むドロー溶液(DS)を流すことで、処理対象水中に含まれる水を中空糸型半透膜を通して外周面側から中空部内に移動(浸透、透過)させる浸透(正浸透)工程を含む。
【0028】
なお、上記の中空糸型半透膜モジュールは、本発明の正浸透水処理方法に好適に用いることができる。ここで、例えば、上述のような中空糸膜モジュール内の中空糸型半透膜の外部に処理対象水を流すことで、中空糸型半透膜の外周面に処理対象水を接触させることができる。
【0029】
ドロー溶液の粘度は、好ましくは0.15Pa・s以上であり、より好ましくは0.20Pa・s以上である。ドロー溶液として、このような高粘度の溶液を用いる場合において、特に正浸透処理の効率が低下しやすいため、本発明の中空糸型半透膜が有用である。
【0030】
ドロー溶液の浸透圧は、溶質の分子量等にもよるが、好ましくは0.5〜10MPaであり、より好ましくは1〜7MPaであり、さらに好ましくは2〜6MPaである。
【0031】
ドロー溶質としては、例えば、糖類、タンパク質、合成高分子などが挙げられるが、回収および再生のしやすさといった点から、刺激応答性高分子が好ましい。刺激応答性高分子としては、温度応答性高分子、pH応答性高分子、光応答性高分子、磁気応答性高分子などが挙げられる。
【0032】
温度応答性高分子とは、所定の温度を臨界点として親水性が変化する特性(温度応答性)を有する高分子である。温度応答性とは、言い換えれば、温度に応じて親水性になったり疎水性になったりする特性である。ここで、親水性の変化は可逆的であることが好ましい。この場合、温度応答性高分子は、温度を調整することで、水に溶解させたり、水と相分離させたりすることができる。
【0033】
温度応答性高分子は、モノマーに由来する複数の構造単位からなるポリマーであり、側鎖に親水性基を有していることが好ましい。
【0034】
温度応答性高分子には、下限臨界共溶温度(LCST)タイプと上限臨界共溶温度(UCST)タイプがある。LCSTタイプでは、低温の水に溶解している高分子が、高分子に固有の温度(LCST)以上の温度になると、水と相分離する。逆に、UCSTタイプでは、高温の水に溶解している高分子が、高分子に固有の温度(UCST)以下になると、水と相分離する(杉原ら、「環境応答性高分子の組織体への展開」、SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業)、Vol.62,No.8,2006参照)。半透過膜は、高温で劣化し易い素材を用いる場合においては、低温の水に溶解している温度応答性高分子が半透膜に接触している方が望ましいため、本発明に用いる温度応答性高分子はLCSTタイプであることが好ましい。また、高温で劣化しにくい素材で構成された半透過膜を用いる場合は、LCSTタイプの他,UCSTタイプも用いることができる。
【0035】
親水性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アセチル基、アルデヒド基、エーテル結合、エステル結合が挙げられる。親水性基は、これらから選択される少なくとも1種類であることが好ましい。
【0036】
温度応答性高分子は、少なくとも一部または全部の構造単位において少なくとも1つの親水性基を有することが好ましい。また、温度応答性高分子は、親水性基を有しつつ、一部の構造単位において疎水性基を有していてもよい。なお、温度応答性高分子が、温度応答性を有するためには、分子中に含まれる親水性基と疎水性基のバランスが重要であると考えられている。
【0037】
具体的な温度応答性高分子としては、例えば、ポリビニルエーテル系ポリマー、ポリ酢酸ビニル系ポリマー、(メタ)アクリル酸系ポリマーなどが挙げられる。
【0038】
本発明の正浸透水処理方法のように、中空糸型半透膜を正浸透膜として用いる場合、中空糸型半透膜の耐圧性や、高圧ポンプを必要としないといった観点から、中空糸型半透膜の中空部内に流す流体の圧力は0.2MPa以下にすることが望ましい。したがって、浸透工程において、ドロー溶液を流す圧力は、好ましくは0.2MPa以下であり、より好ましくは0.15MPa以下である。一方、中空糸型半透膜の内外での十分な有効浸透圧差を維持するために必要な流量を確保する観点からは、ドロー溶液を流す圧力は、好ましくは0.01MPa以上であり、より好ましくは0.05MPa以上である。
【0039】
本発明の正浸透水処理方法は、浸透工程の後に、ドロー溶液に含まれるドロー溶質を水と分離させる分離工程をさらに含むことが好ましい。
【0040】
例えば、ドロー溶質が温度応答性高分子である場合、ドロー溶液を中空糸膜モジュールとは別のチャンバー内に流入させ、該チャンバー内のドロー溶液の温度を変化させることで、ドロー溶液に含まれるドロー溶質を水と分離させることができる。この場合、ドロー溶液の温度を変化させるだけで、ドロー溶質(温度応答性高分子)を容易に水から分離させ、回収することができる。また、回収後のドロー溶質は、容易に再利用(ドロー溶液等に再溶解)することができる。
【0041】
本発明の正浸透水処理方法は、水と分離したドロー溶質を回収する回収工程をさらに含むことが好ましい。ドロー溶質の回収は、例えば、膜分離装置、遠心分離装置、沈降分離装置などを用いて実施することができる。このドロー溶質の回収工程後に残存する水を回収することで、水処理方法の目的物である水を得ることができる。純粋な水が得られるようにドロー溶質の回収工程は多段階に分けて繰り返されてもよく、ドロー溶質の回収工程の後に、さらに得られる水の品質を高めるための処理を行ってもよい。
【0042】
なお、本発明の正浸透水処理方法は、回収工程で回収されたドロー溶質をドロー溶液中に再溶解させる再利用工程をさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(中空糸型半透膜の製造例1: −FO膜−)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9質量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8質量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3質量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.3秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を75℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。その後、35,000mg/L食塩水に約25℃で5分間の浸漬処理を実施した。
【0045】
(中空糸型半透膜の製造例2 −RO膜−)
テレフタル酸ジクロリド及び70mol%の4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、30mol%のピペラジンより低温溶液重合法で得た共重合ポリアミドを精製した後、このもの36重量部をCaCl 4重量部(ポリマーに対して)及びジグリセリン3.6重量部(ポリマーに対して)を含むジメチルアセトアミド溶液に80℃で溶解し、製膜溶液とした。この溶液を脱泡した後、3分割ノズルより吐出し、空中走行部を経て4〜6℃に冷却した凝固液中に浸漬し中空糸型半透膜を得た。次いで得られた中空糸型半透膜を水洗した後、75〜85℃で30分間熱処理した。
【0046】
(中空糸型半透膜の製造例3 −NF膜−)
(多孔性支持膜の作製)
多孔性支持膜のポリマーとして、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のポリフェニレンエーテルPX100L(以下、PPEと略す。)を準備した。PPEが30質量%となるように、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す。)を加えて混練しながら、140℃で溶解させて、均一な製膜原液を得た。続いて、製膜原液を75℃の温度に保ちながら、二重円筒管ノズルより、中空状に押出しながら、内液として70質量%NMP水溶液を同時に押出して成形させ、常温の空気中を空走させて、乾燥処理を行ったあと、35質量%NMP水溶液を満たした40℃の凝固浴に浸漬させ、PPE多孔性支持膜を作製した後、水洗処理を行った。前記水洗処理を終えた多孔性支持膜を50質量%のグリセリン水溶液に浸漬した後、40℃で乾燥してワインダーに巻き取った。
【0047】
(複合膜の作製)
3,3′−ジスルホ−4,4′−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩15.00g、2,6−ジクロロベンゾニトリル、29.76g、4,4′−ビフェノール37.91g、炭酸カリウム30.95gを冷却還流管を取り付けた1000mL四つ口フラスコに計量し、0.5L/minで窒素を流した。NMP263mLを入れて、オイルバスに入れ、150℃にして30分攪拌した後、210℃に昇温して12時間反応させた。放冷の後、重合反応溶液を水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、常温の水で6回洗浄し、110℃で真空乾燥して、スルホン化ポリアリーレンエーテル(以下、SPAEと略す)を得た。このSPAEのスルホン化度を測定した結果、スルホン化度は15.0%であった。得られたSPAEにジメチルスルホキシド溶媒を加えて、常温で撹拌させながら溶解させ、3質量%濃度のコーティング溶液を得た。上記コーティング溶液に前記PPE多孔性支持膜を通糸させた後、115℃で乾燥し、ワインダーに巻き取った。
【0048】
(実施例1〜4および比較例1,2)
実施例1〜4および比較例1,2として、製造例1に記載の中空糸型半透膜が充填された内径等が異なる6種類の中空糸膜モジュール(仮想モジュール)を想定した。中空糸型半透膜としては、緻密層厚みがおよそ2μm、圧力差透水量が150(L/m/日)、圧力差塩除去率が99.6%のFO膜に分類されるものを使用した。
【0049】
なお、圧力差透水量および圧力差塩除去率は、例えば、下記のようにして測定される中空糸型半透膜のパラメータである。
【0050】
(圧力差透水量)
中空糸型半透膜を束ねて、プラスチック製スリーブに挿入した後、熱硬化性樹脂をスリーブに注入し、硬化させ封止した。熱硬化性樹脂で硬化させた中空糸型半透膜の端部を切断することで中空糸型半透膜の開口面を得て、外径基準の膜面積がおよそ0.1mの評価用モジュールを作製した。この評価用モジュールを供給水タンク、ポンプからなる膜性能試験装置に接続し、性能評価した。具体的には、塩化ナトリウム濃度1500mg/Lの供給水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型半透膜の外側から内側へ向かって濾過して1時間運転する。その後、中空糸型半透膜の開口面より膜透過水を採取して、電子天秤(島津製作所 LIBROR EB−3200D)で透過水重量を測定した。圧力差透水量(FR)は下記式:
FR[L/m/日]=透過水重量[L]/外径基準膜面積[m]/採取時間[分]×(60[分]×24[時間])
より算出される。
【0051】
(圧力差塩除去率)
前記透水量測定で採取した膜透過水と、同じく透水量の測定で使用した塩化ナトリウム濃度1500mg/L供給水溶液について電気伝導率計(東亜ディーケーケー社CM−25R)を用いて塩化ナトリウム濃度を測定する。圧力差塩除去率は下記式:
圧力差塩除去率[%]=(1−膜透過水塩濃度[mg/L]/供給水溶液塩濃度[mg/L])×100
より算出される。
【0052】
中空糸型半透膜の内径、外径、中空率、膜面積および膜体積は、表1に示すとおりとした。なお、中空糸型半透膜の中空率および膜体積が略一定になるように各パラメータを設定した。
【0053】
また、仮想モジュールに充填される中空糸型半透膜の有効長は56cm、接着長は7cmとし、仮想モジュールの内径は75mmとした。また、仮想モジュールの充填率が50%となるように、仮想モジュールに充填される中空糸型半透膜の本数(充填本数)を表1に示すように設定した。
【0054】
なお、上記において、中空率は(内径/外径)×100である。膜面積(外径基準)は、外径×π×(有効長)×充填本数である。膜体積は、π(外径/2)×(有効長)×充填本数−π(内径/2)×(有効長)×充填本数である。充填率は、〔π(外径/2)×(充填本数)〕/〔π(モジュール内径/2)〕である。
【0055】
【表1】
【0056】
(ドロー溶液の粘度測定)
0、20、40、60および80重量%のプルロニック(プルロニック25R2:ADEKA製)の水溶液を、恒温槽にて25℃に安定させた。その後、B型粘度計(製品名:TVB−10粘度計、東機産業製、使用ロータ:H1、測定回転数:100rpm)を用いて、各水溶液について粘度を測定した。なお、粘度計の作動開始から1分後の測定値を読み取った。
【0057】
(透水量等のシミュレーション計算)
上記実施例および比較例の仮想モジュールについて、透水量等の特性値を計算により求めた。なお、上記実施例および比較例の想定モジュールについて、温度25℃で、モジュールの中空糸型半透膜の外側にフィード溶液(処理対象水)としてRO水(水道水を前処理および逆浸透処理したもの)を圧力0Paで流し、中空糸型半透膜の中空部内にドロー溶液(DS)を圧力0.1MPaで流して、定常状態に達した場合を想定してシミュレーション計算を行った。
【0058】
なお、ドロー溶液のドロー溶質(プルロニック25R2(ADEKA製)を想定)の濃度を61、77、83、85または100(溶質のみ)質量%とした計算結果をそれぞれ表3〜表7に示した。なお、各ドロー溶液の粘度は、上記と同じ順で、126、239、300、330、600cP(センチポアズ)〔0.126、0.239、0.300、0.330、0.600Pa・s〕であった。
【0059】
その後、DSについて、中空糸型半透膜の中空部の入口での濃度(DS入口濃度)および出口での濃度(DS出口濃度)、仮想モジュール(の中空糸型半透膜の中空部の入口側)に流入するドロー溶液の総流量(DS入口流量)、並びに、仮想モジュール(の中空糸型半透膜の中空部の出口側)から流出するドロー溶液の総流量(DS出口流量)を下記の計算方法により求めた。なお、各表中、DS入口流量について比較例2の値を基準とした比を併せて示す。
【0060】
[計算方法]
上記のパラメータ(ドロー溶液の圧力:0.1MPa、フィード溶液の圧力:0Pa、温度:25℃、および、表1のパラメータ)を前提として、DS入口濃度をインプットすると、DS入口流量、DS出口流量、DS出口濃度、中空糸型半透膜を透過した水の総量(ΔV)が算出される計算プログラムを用いて、表3〜表7記載の計算を実施した。なお、これらの計算では、仮想モジュール(中空糸型半透膜)を流れ方向において均等な微小区間に分割して、各区間での物質収支を計算した。
【0061】
具体的には、DS入口濃度、DS入口流量を用いて、仮想モジュールの最初の区間(最も入口側の区間)で中空糸型半透膜を透過する水の量を、A’値(cm/cm/s/(kgf/cm))(一定値と仮定)×膜面積(cm)×60×[有効圧力(静水圧)−有効浸透圧](kgf/cm)により算出し、最初の区間でのDSの出口側濃度および出口側流量を計算する。この最初の区間の出口側濃度および出口側流量を次の区間のDSの入口側濃度、入口側流量として、仮想モジュールの入口側から出口側へ順次、同様の計算を繰り返していくことで、最終的な仮想モジュール(中空糸型半透過膜)のDS出口濃度およびDS出口流量を算出する。なお、各区間において中空糸型半透過膜を透過した水の量の合計が、仮想モジュールで中空糸型半透膜を透過した水の総量(ΔV)であり、[DS出口流量−DS入口流量]で算出できる。
【0062】
また、A’値(透水性能)は、表2に示す粘度および濃度のドロー溶液を用いた膜評価結果(表2)を用いて、下記式より算出した。ただし、表3〜表7記載の計算の際は、表2に示す3つのA’値のうち、表2に示す粘度が表3〜表7の粘度に近いA’値を代用した。ただし、粘度が0.300以上の場合は、2.6×10−7を代用した。
【0063】

A’値(cm/cm/s/(kgf/cm))=膜を透過した水量:ΔV(cm)/膜面積(cm)/時間(s)/[有効圧力(静水圧)−有効浸透圧](kgf/cm
【0064】
【表2】
【0065】
なお、各表中、透水量(ΔV)について比較例2の値を基準とした比を併せて示す。また、この比を縦軸とし、各実施例および比較例の内径を横軸としたグラフを図1図3に示す。なお、図1はドロー溶液の粘度ηが0.3Pa・sの場合(表5に対応)、図2はドロー溶液の粘度ηが0.126、0.239、0.330、0.600Pa・sの場合(表3,4,6,7に対応)、図3はドロー溶液の粘度ηが0.600Pa・sの場合(表7に対応)を示している。また、比較として、ドロー溶液を7質量%の塩水(粘度:約0.1Pa・s)とした計算結果を図4に示した。なお、図1および図3に、ドロー溶液の流量増加を参照するために、DS入口流量の比較例2基準の比(縦軸右側)のグラフを点線で示す。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
【表7】
【0071】
表3〜表7および図1図3に示される結果から、中空糸型半透膜の中空部内に高粘度のドロー溶液を流す場合でも、中空糸型半透膜の内径を250μm超700μm以下の範囲にすることで、正浸透水処理の効率(透水量)を向上させることが可能であると考えられる。
【0072】
ただし、特に、ドロー溶液の粘度が0.150Pa・s未満である表3(図2のη=0.126Pa・s)の結果は、ドロー溶液の粘度が0.150Pa・s以上である他の結果と異なり、図3に示すドロー溶液が低粘度の塩水である場合の結果と同様の傾向を示している。すなわち、ドロー溶液の粘度が0.150Pa・s未満である場合は、中空糸型半透膜の内径を250μm超700μm以下の範囲にすることで、正浸透水処理の効率(透水量)を向上させる効果が得られ難いと推測される。したがって、本発明の中空糸型半透膜は、0.150Pa・s以上の高粘度の溶液をドロー溶液として用いる場合において、特に有用であると考えられる。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 中空糸型分離膜素子、2 圧力容器、3 中空糸型半透膜モジュール。
図1
図2
図3
図4
図5