【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(中空糸型半透膜の製造例1: −FO膜−)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9質量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8質量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3質量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.3秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を75℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。その後、35,000mg/L食塩水に約25℃で5分間の浸漬処理を実施した。
【0045】
(中空糸型半透膜の製造例2 −RO膜−)
テレフタル酸ジクロリド及び70mol%の4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、30mol%のピペラジンより低温溶液重合法で得た共重合ポリアミドを精製した後、このもの36重量部をCaCl
2 4重量部(ポリマーに対して)及びジグリセリン3.6重量部(ポリマーに対して)を含むジメチルアセトアミド溶液に80℃で溶解し、製膜溶液とした。この溶液を脱泡した後、3分割ノズルより吐出し、空中走行部を経て4〜6℃に冷却した凝固液中に浸漬し中空糸型半透膜を得た。次いで得られた中空糸型半透膜を水洗した後、75〜85℃で30分間熱処理した。
【0046】
(中空糸型半透膜の製造例3 −NF膜−)
(多孔性支持膜の作製)
多孔性支持膜のポリマーとして、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のポリフェニレンエーテルPX100L(以下、PPEと略す。)を準備した。PPEが30質量%となるように、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す。)を加えて混練しながら、140℃で溶解させて、均一な製膜原液を得た。続いて、製膜原液を75℃の温度に保ちながら、二重円筒管ノズルより、中空状に押出しながら、内液として70質量%NMP水溶液を同時に押出して成形させ、常温の空気中を空走させて、乾燥処理を行ったあと、35質量%NMP水溶液を満たした40℃の凝固浴に浸漬させ、PPE多孔性支持膜を作製した後、水洗処理を行った。前記水洗処理を終えた多孔性支持膜を50質量%のグリセリン水溶液に浸漬した後、40℃で乾燥してワインダーに巻き取った。
【0047】
(複合膜の作製)
3,3′−ジスルホ−4,4′−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩15.00g、2,6−ジクロロベンゾニトリル、29.76g、4,4′−ビフェノール37.91g、炭酸カリウム30.95gを冷却還流管を取り付けた1000mL四つ口フラスコに計量し、0.5L/minで窒素を流した。NMP263mLを入れて、オイルバスに入れ、150℃にして30分攪拌した後、210℃に昇温して12時間反応させた。放冷の後、重合反応溶液を水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、常温の水で6回洗浄し、110℃で真空乾燥して、スルホン化ポリアリーレンエーテル(以下、SPAEと略す)を得た。このSPAEのスルホン化度を測定した結果、スルホン化度は15.0%であった。得られたSPAEにジメチルスルホキシド溶媒を加えて、常温で撹拌させながら溶解させ、3質量%濃度のコーティング溶液を得た。上記コーティング溶液に前記PPE多孔性支持膜を通糸させた後、115℃で乾燥し、ワインダーに巻き取った。
【0048】
(実施例1〜4および比較例1,2)
実施例1〜4および比較例1,2として、製造例1に記載の中空糸型半透膜が充填された内径等が異なる6種類の中空糸膜モジュール(仮想モジュール)を想定した。中空糸型半透膜としては、緻密層厚みがおよそ2μm、圧力差透水量が150(L/m
2/日)、圧力差塩除去率が99.6%のFO膜に分類されるものを使用した。
【0049】
なお、圧力差透水量および圧力差塩除去率は、例えば、下記のようにして測定される中空糸型半透膜のパラメータである。
【0050】
(圧力差透水量)
中空糸型半透膜を束ねて、プラスチック製スリーブに挿入した後、熱硬化性樹脂をスリーブに注入し、硬化させ封止した。熱硬化性樹脂で硬化させた中空糸型半透膜の端部を切断することで中空糸型半透膜の開口面を得て、外径基準の膜面積がおよそ0.1m
2の評価用モジュールを作製した。この評価用モジュールを供給水タンク、ポンプからなる膜性能試験装置に接続し、性能評価した。具体的には、塩化ナトリウム濃度1500mg/Lの供給水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型半透膜の外側から内側へ向かって濾過して1時間運転する。その後、中空糸型半透膜の開口面より膜透過水を採取して、電子天秤(島津製作所 LIBROR EB−3200D)で透過水重量を測定した。圧力差透水量(FR)は下記式:
FR[L/m
2/日]=透過水重量[L]/外径基準膜面積[m
2]/採取時間[分]×(60[分]×24[時間])
より算出される。
【0051】
(圧力差塩除去率)
前記透水量測定で採取した膜透過水と、同じく透水量の測定で使用した塩化ナトリウム濃度1500mg/L供給水溶液について電気伝導率計(東亜ディーケーケー社CM−25R)を用いて塩化ナトリウム濃度を測定する。圧力差塩除去率は下記式:
圧力差塩除去率[%]=(1−膜透過水塩濃度[mg/L]/供給水溶液塩濃度[mg/L])×100
より算出される。
【0052】
中空糸型半透膜の内径、外径、中空率、膜面積および膜体積は、表1に示すとおりとした。なお、中空糸型半透膜の中空率および膜体積が略一定になるように各パラメータを設定した。
【0053】
また、仮想モジュールに充填される中空糸型半透膜の有効長は56cm、接着長は7cmとし、仮想モジュールの内径は75mmとした。また、仮想モジュールの充填率が50%となるように、仮想モジュールに充填される中空糸型半透膜の本数(充填本数)を表1に示すように設定した。
【0054】
なお、上記において、中空率は(内径/外径)
2×100である。膜面積(外径基準)は、外径×π×(有効長)×充填本数である。膜体積は、π(外径/2)
2×(有効長)×充填本数−π(内径/2)
2×(有効長)×充填本数である。充填率は、〔π(外径/2)
2×(充填本数)〕/〔π(モジュール内径/2)
2〕である。
【0055】
【表1】
【0056】
(ドロー溶液の粘度測定)
0、20、40、60および80重量%のプルロニック(プルロニック25R2:ADEKA製)の水溶液を、恒温槽にて25℃に安定させた。その後、B型粘度計(製品名:TVB−10粘度計、東機産業製、使用ロータ:H1、測定回転数:100rpm)を用いて、各水溶液について粘度を測定した。なお、粘度計の作動開始から1分後の測定値を読み取った。
【0057】
(透水量等のシミュレーション計算)
上記実施例および比較例の仮想モジュールについて、透水量等の特性値を計算により求めた。なお、上記実施例および比較例の想定モジュールについて、温度25℃で、モジュールの中空糸型半透膜の外側にフィード溶液(処理対象水)としてRO水(水道水を前処理および逆浸透処理したもの)を圧力0Paで流し、中空糸型半透膜の中空部内にドロー溶液(DS)を圧力0.1MPaで流して、定常状態に達した場合を想定してシミュレーション計算を行った。
【0058】
なお、ドロー溶液のドロー溶質(プルロニック25R2(ADEKA製)を想定)の濃度を61、77、83、85または100(溶質のみ)質量%とした計算結果をそれぞれ表3〜表7に示した。なお、各ドロー溶液の粘度は、上記と同じ順で、126、239、300、330、600cP(センチポアズ)〔0.126、0.239、0.300、0.330、0.600Pa・s〕であった。
【0059】
その後、DSについて、中空糸型半透膜の中空部の入口での濃度(DS入口濃度)および出口での濃度(DS出口濃度)、仮想モジュール(の中空糸型半透膜の中空部の入口側)に流入するドロー溶液の総流量(DS入口流量)、並びに、仮想モジュール(の中空糸型半透膜の中空部の出口側)から流出するドロー溶液の総流量(DS出口流量)を下記の計算方法により求めた。なお、各表中、DS入口流量について比較例2の値を基準とした比を併せて示す。
【0060】
[計算方法]
上記のパラメータ(ドロー溶液の圧力:0.1MPa、フィード溶液の圧力:0Pa、温度:25℃、および、表1のパラメータ)を前提として、DS入口濃度をインプットすると、DS入口流量、DS出口流量、DS出口濃度、中空糸型半透膜を透過した水の総量(ΔV)が算出される計算プログラムを用いて、表3〜表7記載の計算を実施した。なお、これらの計算では、仮想モジュール(中空糸型半透膜)を流れ方向において均等な微小区間に分割して、各区間での物質収支を計算した。
【0061】
具体的には、DS入口濃度、DS入口流量を用いて、仮想モジュールの最初の区間(最も入口側の区間)で中空糸型半透膜を透過する水の量を、A’値(cm
3/cm
2/s/(kgf/cm
2))(一定値と仮定)×膜面積(cm
2)×60×[有効圧力(静水圧)−有効浸透圧](kgf/cm
2)により算出し、最初の区間でのDSの出口側濃度および出口側流量を計算する。この最初の区間の出口側濃度および出口側流量を次の区間のDSの入口側濃度、入口側流量として、仮想モジュールの入口側から出口側へ順次、同様の計算を繰り返していくことで、最終的な仮想モジュール(中空糸型半透過膜)のDS出口濃度およびDS出口流量を算出する。なお、各区間において中空糸型半透過膜を透過した水の量の合計が、仮想モジュールで中空糸型半透膜を透過した水の総量(ΔV)であり、[DS出口流量−DS入口流量]で算出できる。
【0062】
また、A’値(透水性能)は、表2に示す粘度および濃度のドロー溶液を用いた膜評価結果(表2)を用いて、下記式より算出した。ただし、表3〜表7記載の計算の際は、表2に示す3つのA’値のうち、表2に示す粘度が表3〜表7の粘度に近いA’値を代用した。ただし、粘度が0.300以上の場合は、2.6×10
−7を代用した。
【0063】
A’値(cm
3/cm
2/s/(kgf/cm
2))=膜を透過した水量:ΔV(cm
3)/膜面積(cm
2)/時間(s)/[有効圧力(静水圧)−有効浸透圧](kgf/cm
2)
【0064】
【表2】
【0065】
なお、各表中、透水量(ΔV)について比較例2の値を基準とした比を併せて示す。また、この比を縦軸とし、各実施例および比較例の内径を横軸としたグラフを
図1〜
図3に示す。なお、
図1はドロー溶液の粘度ηが0.3Pa・sの場合(表5に対応)、
図2はドロー溶液の粘度ηが0.126、0.239、0.330、0.600Pa・sの場合(表3,4,6,7に対応)、
図3はドロー溶液の粘度ηが0.600Pa・sの場合(表7に対応)を示している。また、比較として、ドロー溶液を7質量%の塩水(粘度:約0.1Pa・s)とした計算結果を
図4に示した。なお、
図1および
図3に、ドロー溶液の流量増加を参照するために、DS入口流量の比較例2基準の比(縦軸右側)のグラフを点線で示す。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
【表7】
【0071】
表3〜表7および
図1〜
図3に示される結果から、中空糸型半透膜の中空部内に高粘度のドロー溶液を流す場合でも、中空糸型半透膜の内径を250μm超700μm以下の範囲にすることで、正浸透水処理の効率(透水量)を向上させることが可能であると考えられる。
【0072】
ただし、特に、ドロー溶液の粘度が0.150Pa・s未満である表3(
図2のη=0.126Pa・s)の結果は、ドロー溶液の粘度が0.150Pa・s以上である他の結果と異なり、
図3に示すドロー溶液が低粘度の塩水である場合の結果と同様の傾向を示している。すなわち、ドロー溶液の粘度が0.150Pa・s未満である場合は、中空糸型半透膜の内径を250μm超700μm以下の範囲にすることで、正浸透水処理の効率(透水量)を向上させる効果が得られ難いと推測される。したがって、本発明の中空糸型半透膜は、0.150Pa・s以上の高粘度の溶液をドロー溶液として用いる場合において、特に有用であると考えられる。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。