(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記規制部は、前記流路部材が積層方向に圧縮されたときの圧力をσとして、当該σが、前記流路内の液体試料の圧力である下限値σ1よりも大きく、前記流路内の液体試料からの圧力が作用しないときに、前記規制部を所定の縮み量だけ縮めるのに必要な圧力である上限値σ2よりも小さい値となるような材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の遠心式流動場分画装置。
【背景技術】
【0002】
液体試料に含まれる粒子をサイズ及び比重に応じて分級する方法として、流動場分画法(Field Flow Fractionation)が知られている。例えば下記特許文献1には、流路内に液体試料を流入させて当該流路を回転させることにより、液体試料中の粒子を遠心力によって分級する遠心式流動場分画装置の一例が開示されている。
【0003】
遠心式流動場分画装置は、例えばロータ、流路部材及び固定部材などを備えている。ロータは、円環状に形成され、回転軸線を中心に回転可能に保持されている。流路部材は、例えば3層構造となっており、各層が前記ロータの内周面に沿って円弧状に湾曲された状態で順次積層されている。固定部材は、流路部材の内周面(最も回転軸線側の層)に沿って円弧状に延びるC字状の部材である。
【0004】
流路部材を構成する各層は、それぞれ長尺形状を有しており、長手方向に延びる開口部が形成された中間層(特許文献1の
図5参照)と、当該中間層を挟み込んで開口部の外側及び内側を塞ぐことにより間に流路を形成する外面層及び内面層(特許文献1の
図4(a)及び(b)参照)とからなる。内面層には、それぞれ流路に連通する貫通孔からなる流入口及び流出口が形成されており、流入口を介して流路内に液体試料を流入させることができるとともに、流出口を介して流路内から液体試料を流出させることができる。
【0005】
上記のような流路部材の各層は、固定部材の外周面に沿って湾曲された状態で積層され、ボルト又はピンなどを用いて固定部材に取り付けられる。流路部材が取り付けられた固定部材は、ロータの内側の空間に挿入され、ロータとの間に流路部材を挟み込むようにしてロータの内周面に沿って固定される。このとき、C字状の固定部材の両端部間に楔状部材が取り付けられることにより、当該両端部を拡げる方向に力が加えられる(特許文献1の
図6参照)。これにより、C字状の固定部材がロータの内周面側に強く押し当てられるようにして固定され、固定部材とロータとの間に流路部材が挟持される。
【0006】
上記のようにして組み立てられた遠心式流動場分画装置においては、ロータを回転させることにより、当該ロータに取り付けられている流路部材を回転させ、流路内の液体試料に遠心力を付与することができる。その結果、流入口から流路内に流入する液体試料に含まれる粒子が、サイズ及び比重に応じて異なるタイミングで流出口から流出することにより、液体試料中の粒子がサイズ及び比重ごとに分級される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような従来の構成では、積層された外面層、中間層及び内面層が、積層方向に圧縮されて取り付けられるため、外面層と内面層との間に挟まれた中間層が変形し、流路の高さが変化するおそれがあった。遠心式流動場分画装置において、流路の高さは極めて重要なパラメータであり、流路の高さが変わると、意図した分析性能を発揮できない場合がある。特に、樹脂などの柔らかい材料で中間層を形成した場合には、中間層が変形しやすいため、流路の高さにばらつきが生じやすい。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、流路の高さを一定に保つことができる遠心式流動場分画装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る遠心式流動場分画装置は、円環状のロータと、円弧状の流路部材と、回転駆動部と、規制部とを備える。前記ロータは、回転軸線を中心に回転する。前記流路部材は、前記ロータの内周面に沿って設けられ、複数層が積層されることにより内部に液体試料の流路が形成されるとともに、前記流路への液体試料の流入口及び前記流路からの液体試料の流出口が形成されている。前記回転駆動部は、前記ロータを回転させることにより、前記流路内における液体試料中の粒子を遠心力によって分級させる。前記規制部は、前記流路部材が積層方向に圧縮されて変形したときに、前記流路が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制する。
【0011】
このような構成によれば、流路部材が積層方向に圧縮されて変形した場合であっても、流路が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制部により規制することができるため、流路の高さを一定の高さに保つことができる。流路内を流れる液体試料の種類によっては、流路を形成する部材を樹脂などの柔らかい材料で形成しなければならない場合があるが、そのような場合であっても、規制部により流路の高さを一定の高さに確実に保つことができる。
【0012】
また、規制部の厚みを任意に設定することにより、流路の高さを容易に調整することができる。さらに、流路部材の組立時に流路の高さにばらつきが生じにくく、組立再現性が向上する。また、流路部材を構成する複数層として使用可能な材料の幅が広がるため、液体試料の種類に応じた流路を構成することが可能である。
【0013】
前記複数層には、前記ロータ側に設けられた外面層と、前記回転軸線側に設けられた内面層と、前記外面層及び前記内面層の間に設けられ、前記流路が形成された中間層とが含まれていてもよい。この場合、前記規制部は、前記外面層及び前記内面層の間に設けられていてもよい。
【0014】
このような構成によれば、外面層と内面層との間に規制部を設けるだけの簡単な構成で、中間層に形成されている流路が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制することができる。
【0015】
前記規制部は、前記中間層の外周を取り囲んだ状態で前記外面層及び前記内面層の間に設けられていてもよい。
【0016】
このような構成によれば、規制部が中間層の外周を取り囲んだ状態で固定されるため、規制部を接着などにより固定しなくても、規制部が脱落するのを防止することができる。この場合、接着剤の厚みに応じて流路の高さにばらつきが生じることを防止できるため、より精度よく流路の高さを一定の高さに保つことができる。
【0017】
前記遠心式流動場分画装置は、前記規制部を前記中間層に対して位置決めする位置決め部をさらに備えていてもよい。
【0018】
このような構成によれば、位置決め部により規制部が中間層に対して位置決めされるため、規制部を接着などにより固定しなくても、規制部が脱落するのを防止することができる。この場合、接着剤の厚みに応じて流路の高さにばらつきが生じることを防止できるため、より精度よく流路の高さを一定の高さに保つことができる。
【0019】
前記複数層には、前記ロータ側に設けられた外面層と、前記回転軸線側に設けられた内面層とが含まれていてもよい。この場合、前記規制部は、前記外面層又は前記内面層の少なくとも一方に設けられていてもよい。
【0020】
このような構成によれば、外面層又は内面層の少なくとも一方に規制部を設けるだけの簡単な構成で、流路が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制することができる。
【0021】
前記遠心式流動場分画装置は、前記流路部材を積層方向に圧縮する圧縮部をさらに備えていてもよい。この場合、前記規制部は、前記圧縮部に設けられていてもよい。
【0022】
このような構成によれば、流路部材を圧縮部により積層方向に圧縮する際に、圧縮部に設けられた規制部により、流路が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制することができる。
【0023】
前記規制部は、前記流路部材が積層方向に圧縮されたときの圧力をσとして、当該σが下限値σ1よりも大きく、上限値σ2よりも小さい値となるような材料で形成されていてもよい。前記下限値σ1は、前記流路内の液体試料の圧力である。前記上限値σ2は、前記流路内の液体試料からの圧力が作用しないときに、前記規制部を所定の縮み量だけ縮めるのに必要な圧力である。
【0024】
このような構成によれば、規制部を適切な材料で形成することができるため、流路内の液体試料が漏れたり、規制部が所定の縮み量(最大許容変化量)を超えて縮んだりするのを防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、流路部材を構成する複数層が積層方向に圧縮されて変形した場合であっても、規制部により流路の高さを一定の高さに保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る遠心式流動場分画装置1を備えた分析システムの構成例を示す概略図である。遠心式流動場分画装置1は、流動場分画法(Field Flow Fractionation)を用いて液体試料に含まれる粒子をサイズ及び比重に応じて分級する装置である。
図1の分析システムには、遠心式流動場分画装置1の他に、キャリア貯留部2、送液ポンプ3、ロータリーバルブ4、試料注入装置5、検出器6及びキャリア回収部7などが備えられている。
【0028】
キャリア貯留部2には、例えば水又は有機系溶媒などからなるキャリア流体が貯留されている。キャリア流体は、送液ポンプ3によりキャリア貯留部2内から送り出され、ロータリーバルブ4を介して遠心式流動場分画装置1に供給される。試料注入装置5は、ロータリーバルブ4と遠心式流動場分画装置1との間に設けられており、試料注入装置5から試料が注入されたキャリア流体が、液体試料として遠心式流動場分画装置1に供給されるようになっている。
【0029】
液体試料には、分析対象となる多数の粒子が含まれている。液体試料に含まれる粒子は、遠心式流動場分画装置1において遠心力が付与されることにより分級され、サイズ及び比重に応じて異なるタイミングで遠心式流動場分画装置1から流出する。遠心式流動場分画装置1から順次流出する粒子は、ロータリーバルブ4を介してキャリア流体とともに検出器6へと送られ、当該検出器6において検出された後、キャリア回収部7に回収される。遠心式流動場分画装置1に対する液体試料の供給の開始又は停止は、ロータリーバルブ4を回転させることにより切り替えることができる。
【0030】
図2は、遠心式流動場分画装置1の構成例を示す概略正面図である。遠心式流動場分画装置1は、回転軸11を中心に回転する回転部10と、回転軸11を回転可能に保持する保持台20と、回転する回転部10に作業者が接触するのを防止するための保護壁30とが組み立てられることにより構成されている。
【0031】
回転部10は、例えば円筒形状に形成されており、その中心部に取り付けられた回転軸11が水平方向に延びるように保持台20により保持されている。保護壁30は、例えば回転部10の外周面に対応する形状に湾曲したU字状の部材であり、回転部10の外周面を覆うように、当該外周面に対して微小な間隔を隔てて対向した状態で保持台20に取り付けられている。
【0032】
回転軸11は中空状に形成されており、液体試料は、例えば回転軸11の一端部から回転軸11内に供給される。回転部10には、分級前の液体試料が導入される導入部12と、分級後の液体試料が導出される導出部13とが設けられている。導入部12及び導出部13は、それぞれ配管(図示せず)を介して回転軸11内に連通している。これにより、回転軸11内に供給された液体試料は、配管を介して導入部12から回転部10に導入され、当該回転部10において試料液体中の粒子が分級された後、導出部13から配管を介して回転軸11に導かれ、検出器6へと送られるようになっている。
【0033】
回転軸11には、回転駆動部の一例であるモータ40が連結されている。このモータ40の駆動により回転部10を回転させて、回転部10内の液体試料に遠心力を付与することができる。モータ40の駆動は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む制御部50によって制御される。ただし、回転部10は、モータ40以外の回転駆動部を用いて回転させることも可能である。
【0034】
図3は、回転部10の構成例を示す分解斜視図である。回転部10は、例えばロータ14、スペーサ15、流路部材16、固定部材17及び楔状部材18などが組み立てられることにより、全体として円筒状の部材として構成されている。
【0035】
ロータ14は、円環状の部材であり、一方の端面が端面壁141により塞がれている。端面壁141は円板状に形成され、その中央部に回転軸11を挿通させるための挿通孔142が形成されている。回転軸11を挿通孔142に挿通させて端面壁141に固定することにより、回転軸11の回転に伴って、当該回転軸11と同軸上の回転軸線Lを中心にロータ14を回転させることができる。
【0036】
ロータ14の内側(回転軸線L側)の空間には、スペーサ15、流路部材16、固定部材17及び楔状部材18が収容される。スペーサ15、流路部材16及び固定部材17は、それぞれ長尺形状の部材が円弧状に湾曲された形状を有しており、ロータ14の内周面に沿って、この順序で積層された状態で固定される。スペーサ15、流路部材16及び固定部材17の曲率半径は、例えば50〜200mm程度である。
【0037】
流路部材16は、例えば厚みが1mm以下の薄板状であり、周方向の両端部が間隔を隔てて対向することによりC字状に形成されている。流路部材16の内部には、周方向に延びる流路161が形成されている。すなわち、流路部材16は、ロータ14側に形成された円弧状の外周面162と、回転軸線L側に形成された円弧状の内周面163とを有しており、外周面162と内周面163との間に流路161が形成されている。
【0038】
流路部材16の内周面163における周方向の一端部には、流路161への液体試料の流入口164が形成されている。一方、流路部材16の内周面163における周方向の他端部には、流路161からの液体試料の流出口165が形成されている。これにより、流入口164から流路161内に流入した液体試料は、流路161内を一端部から他端部まで周方向に沿って流通し、流出口165から流出するようになっている。
【0039】
液体試料中の粒子を分級する際には、まず、モータ40の駆動によって回転部10が回転し、回転部10の回転数が徐々に上昇する。そして、回転部10の回転数が一定の値(例えば5000rpm)に到達すれば、その回転数が維持された状態で流入口164から液体試料が注入される。
【0040】
流路161内に液体試料が一定時間だけ注入された後、ロータリーバルブ4の切替によって液体試料の供給が停止され、そのまま回転部10が回転されることにより、流路161内の液体試料中の粒子が遠心沈降する。その後、ロータリーバルブ4の切替によって液体試料の供給が再開され、一定時間後に回転部10の回転数が徐々に下降される。
【0041】
これにより、液体試料中のサイズ及び比重が小さい粒子から順に、流路161内の液体試料の流れに乗って下流側へと送られ、流出口165から順次流出する。このように、流路161内における液体試料中の粒子が遠心力によって分級され、サイズ及び比重に応じて異なるタイミングで流出口165から流出して検出器6へと送られるようになっている。
【0042】
固定部材17は、流路部材16よりも厚みが大きい部材であり、例えば厚みが10mm程度に形成されている。固定部材17は、流路部材16と同様に、周方向の両端部が間隔を隔てて対向することによりC字状に形成されている。固定部材17の周方向の長さは、流路部材16の周方向の長さとほぼ一致している。固定部材17は、流路部材16の内側(回転軸線L側)に、流路部材16の内周面163に沿って設けられる。
【0043】
固定部材17における周方向の両端部には、係止具の一例であるボルト19をねじ込むための複数のねじ孔171が形成されている。流路部材16における周方向の両端部には、固定部材17の各ねじ孔171に対向する位置に複数の挿通孔166が形成されている。これにより、各挿通孔166に外側からボルト19を挿通させ、各ねじ孔171にねじ込むことによって、流路部材16を固定部材17に取り付けることができる。ただし、係止具は、ボルト19に限らず、ピンなどの他の部材により構成されていてもよい。
【0044】
また、固定部材17における周方向の両端部には、流路部材16の内周面163に形成された流入口164及び流出口165に対向する位置に、それぞれ貫通孔172が形成されている。固定部材17の内周面には、各貫通孔172に連通するように導入部12及び導出部13が取り付けられている。これにより、導入部12から導入された液体試料は、一方の貫通孔172を介して流入口164から流路161内に流入し、流路161内を周方向に流通した後、流出口165から他方の貫通孔172及び導出部13を介して導出される。
【0045】
流路部材16内の流路161は、キャリア流体の種類や分析の条件などに応じて異なる高さに設定される。そのため、流路部材16は、流路161の高さに応じて異なる厚みに形成され、複数種類の流路部材16の中から最適な流路部材16が選択されて固定部材17に取り付けられることとなる。
【0046】
上記のようにして流路部材16が取り付けられた固定部材17は、ロータ14の内側の空間に挿入され、ロータ14との間に流路部材16を挟み込むようにしてロータ14の内周面に沿って固定される。このとき、C字状の固定部材17の両端部間に楔状部材18が取り付けられることにより、当該両端部を拡げる方向に力が加えられる。
【0047】
これにより、C字状の固定部材17がロータ14の内周面側に強く押し当てられ、流路部材16がロータ14側に押圧されて固定される。液体試料中の粒子を分級させる際には、ロータ14が高速で回転されることにより、流路161内が高圧(例えば1MPa程度)となり、流路161の内外の圧力差が大きくなるが、固定部材17とロータ14との間に流路部材16を挟持することにより、流路部材16の外周面162及び内周面163が上記圧力差で流路161側とは反対側に変形するのを防止することができる。
【0048】
本実施形態では、流路部材16とロータ14との間にスペーサ15が挟持されるようになっている。スペーサ15の材質は、特に限定されるものではないが、例えばPET(Polyethylene Terephthalate)又はPEEK(Polyetherketoneketone)などの樹脂又は金属により形成されている。スペーサ15は、流路部材16よりも若干長く形成されており、その周方向の両端部には、流路部材16の各挿通孔166に対向する位置に長孔151が形成されている。
【0049】
流路部材16の各挿通孔166に挿通されたボルト19の頭部は、スペーサ15の各長孔151内に収容される。各長孔151は、周方向に延びるように形成されている。これにより、各長孔151内に各ボルト19の頭部を収容させた状態で、楔状部材18により固定部材17の両端部が拡げられて、固定部材17がロータ14の内周面側に強く押し当てられた場合には、各長孔151内で各ボルト19の頭部が周方向にスライドしながら、固定部材17とロータ14との間にスペーサ15及び流路部材16が挟持されることとなる。
【0050】
スペーサ15は、例えば厚みが1mm以下の薄板状であり、流路部材16の厚みに応じて異なる厚みのものが選択される。すなわち、スペーサ15の厚みと流路部材16の厚みとの合計値がほぼ一定となるように、最適な厚みを有するスペーサ15が選択される。また、スペーサ15は、ロータ14の内周面の損傷を防止する機能も有している。ただし、スペーサ15は省略することも可能である。
【0051】
図4は、楔状部材18の構成例を示す斜視図である。楔状部材18は、例えば2つのナット部181と、1つのボルト部182とを備えている。ボルト部182は、軸線方向に沿って互いに逆方向に延びる2つの軸部183を有しており、一方の軸部183には右ねじが形成され、他方の軸部183には左ねじが形成されている。
【0052】
2つのナット部181は、ボルト部182を挟んで互いに対向しており、一方のナット部181にボルト部182の一方の軸部183がねじ込まれるとともに、他方のナット部181にボルト部182の他方の軸部183がねじ込まれている。したがって、ボルト部182を一方向に回転させれば、2つのナット部181を互いに接近させることができ、ボルト部182を逆方向に回転させれば、2つのナット部181を互いに離間させることができる。
【0053】
楔状部材18は、C字状の固定部材17の両端部間に設けられ、各ナット部181におけるボルト部182側とは反対側の面が、固定部材17の両端面にそれぞれ当接する当接面184を構成している。したがって、各当接面184を固定部材17の両端面に当接させた状態でボルト部182を回転させ、固定部材17の両端部の間隔を拡げたり縮めたりすることにより、ロータ14側への固定部材17の押圧力を調整したり、固定部材17を着脱したりすることができる。
【0054】
各ナット部181の当接面184は、外側(ロータ14側)に向かって徐々に先細りするテーパ面により形成されている。これらの当接面184に当接する固定部材17の両端面も、外側(ロータ14側)に向かって端面同士が徐々に接近するようなテーパ面により形成されている。
【0055】
したがって、楔状部材18を固定部材17の両端部間に設けた状態で、ボルト部182を回転させて2つのナット部181を互いに離間させることにより、固定部材17の両端部の間隔を拡げたときには、各ナット部181の当接面184によって、固定部材17の両端面が外側(ロータ14側)に向かって押し上げられる。これにより、固定部材17をより高い押圧力でロータ14側に押し当てることができる。
【0056】
各ナット部181の当接面184には、1つ又は複数の凸部185が形成されており、当該凸部185が固定部材17の両端面に形成された凹部(図示せず)に係止されることにより、楔状部材18が固定部材17の両端部間に位置決めされる。ただし、楔状部材18側に凹部が形成され、固定部材17側に凸部が形成された構成であってもよい。また、楔状部材18は、上記のような構成に限らず、固定部材17をロータ14側に押圧するように固定できるような構成であれば、他の任意の構成を採用することができる。
【0057】
図5は、流路部材16の構成例を示す分解斜視図であり、流路部材16が円弧状に湾曲される前の状態を内周面163側から見た図を示している。流路部材16は、例えば外面層61、内面層62、中間層63及び規制スペーサ64を備えた積層体からなる。
【0058】
液体試料の流路161は、外面層61、内面層62及び中間層63の3層構造により形成されている。中間層63は、外面層61と内面層62との間に設けられている。外面層61及び内面層62は、それぞれ0.2mm程度の厚みを有している。中間層63は、外面層61及び内面層62とは異なる材料により形成されており、例えば0.3mm程度の厚みを有している。
【0059】
図6は、流路部材16が組み立てられた状態における中間層63及び規制スペーサ64を示す平面図である。
図7は、組み立てられた流路部材16の断面図である。
図6及び
図7に示すように、流路部材16が組み立てられた状態では、規制スペーサ64が、中間層63を取り囲んだ状態で外面層61及び内面層62の間に設けられる。
【0060】
具体的には、中間層63は、規制スペーサ64よりも小さい矩形状に形成されており、規制スペーサ64に形成された矩形状の開口部641内に配置される。開口部641は、中間層63の平面形状と同一又は若干大きい形状で形成されている。規制スペーサ64は、平面視において外面層61及び内面層62と同一の外形を有しており、流路部材16が組み立てられた状態では、積層された外面層61、内面層62及び規制スペーサ64の内部に、中間層63が収容された状態となる。
【0061】
外面層61における中間層63側とは反対側の面は、流路部材16が円弧状に湾曲されたときに、当該流路部材16の外周面162を構成する。また、内面層62における中間層63側とは反対側の面は、流路部材16が円弧状に湾曲されたときに、当該流路部材16の内周面163を構成する。
【0062】
中間層63には、当該中間層63を貫通し、長手方向に真っ直ぐ延びる開口部631が形成されている。開口部631の長手方向の両端部は、それぞれ徐々に先細りした三角形状に形成されており、各先端が長手方向に張り出した細長いポート部632となっている。外面層61及び内面層62で中間層63が積層方向に挟み込まれ、開口部631(ポート部632を含む。)の外側及び内側が塞がれることにより、外面層61と内面層62との間に流路161が形成される。
【0063】
図5に示すように、内面層62における各ポート部632に対向する位置には、流入口164及び流出口165がそれぞれ形成されている。これにより、外面層61、内面層62、中間層63及び規制スペーサ64が積層された状態では、流入口164及び流出口165が、それぞれポート部632から流路161に連通するようになっている。外面層61、内面層62及び規制スペーサ64の長手方向の両端部には、互いに対向する位置に貫通孔が形成されており、これらの貫通孔がボルト19を挿通させるための挿通孔166を構成している。
【0064】
図7に示すように、中間層63の厚みT1は、規制スペーサ64の厚みT2よりも大きい。また、中間層63は、外面層61、内面層62及び規制スペーサ64よりも圧縮弾性率(ヤング率)が低い材料、すなわち柔らかい材料により形成されていることが好ましい。例えば、外面層61、内面層62及び規制スペーサ64はステンレス鋼(SUS)により形成されており、中間層63はシリコンゴムにより形成されている。ただし、中間層63と規制スペーサ64は同じ材料でもよいし、中間層63の方が規制スペーサ64よりも圧縮弾性率が高くてもよい。
【0065】
ただし、規制スペーサ64は、例えばアルミなどのSUS以外の金属により形成されていてもよい。また、規制スペーサ64は、金属に限らず、例えばPET又はPEEKのような、金属以外の材料により形成されていてもよい。
【0066】
以下では、流路部材16を固定部材17によりロータ14側に押し付けて固定したときの圧力をσとして、中間層63及び規制スペーサ64のヤング率の選定方法の一例について説明する。流路部材16内の流路161に液体試料からの圧力が作用したときに、流路161内の液体試料が漏れないようにするために、σの下限値σ1は、想定される最大圧力よりも大きい値とする。このσ1は、流路161内の液体試料の圧力であり、具体的には、静圧(ローターが静止している時に流路161内の液体試料にかかる圧力)と遠心力によって上昇する液体試料の圧力の和である。このように、流路161内の液体試料の圧力としては、静止状態で配管抵抗などから生じる圧力(静圧)と、ロータ14を回転させることにより生じる圧力の2種類が考えられる。
【0067】
また、規制スペーサ64の厚みT2の変化量(縮み量)をδとする。流路部材16内の流路161に液体試料からの圧力が作用しない状態において、規制スペーサ64の厚みT2の最大許容変化量(縮み量)をδmaxとする。中間層63を圧縮した上で、さらに規制スペーサ64を縮み量δmaxだけ縮めるのに必要な圧力をσ2とすると、このσ2はσの上限値となる。
【0068】
そして、σ1<σ2となるように、中間層63のヤング率E1及び規制スペーサ64のヤング率E2を選定する。このとき、σ2は次式で表すことができる。
σ2=E1×(T1−T2+δmax)/T1+E2×δmax/T2
【0069】
例えば、中間層63がシリコンゴムなどの極めて柔らかい材料である場合、E1=10MPaとなる。規制スペーサ64がアルミニウム合金であるとすると、E2=70GPaとなる。T1=0.3mm、T2=0.25mmとし、δmax=0.25×1(%)=0.0025mmとすると、σ2=701.75MPaとなる。また、静圧が3MPa、遠心力による水圧が8MPaとすると、σ1=11MPaとなる。この結果、σ1<σ2であるため、中間層63のヤング率E1及び規制スペーサ64のヤング率E2は、適切な値と判断できる。この場合、σは、σ1<σ<σ2の範囲内の値(例えば20MPa程度)とすればよい。なお、δ≧0となる(規制スペーサ64が縮む)ようにσの値を設定することが望ましい。
【0070】
これに対して、規制スペーサ64がPTFEなどの柔らかい材料であったとする。この場合、E2=500MPaであり、σ2=5MPaとなる。この結果、σ1>σ2であるため、中間層63のヤング率E1及び規制スペーサ64のヤング率E2は、適切な値ではないと判断できる。ただし、中間層63がシリコンゴムでない場合のように、σ1の値によっては、規制スペーサ64がPTFEであってもσ1<σ2となる場合がある。
【0071】
本実施形態では、上記のように中間層63が柔らかい材料で形成されているため、
図3に示す回転部10の組立時に、流路部材16が固定部材17によりロータ14側に押圧されると、外面層61及び内面層62によって中間層63が積層方向に圧縮されて変形する。このとき、規制スペーサ64が中間層63よりも硬い材料で形成されているため、中間層63は規制スペーサ64の厚みT2を超えて圧縮されることがない。これにより、規制スペーサ64は、流路161が規制スペーサ64の厚みT2と同じ高さ未満に圧縮されるのを規制する規制部として機能することとなる。
【0072】
このように、流路部材16が積層方向に圧縮されて変形した場合であっても、流路161が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制スペーサ64により規制することができるため、流路161の高さを一定の高さに保つことができる。流路161内を流れる液体試料の種類によっては、流路161を形成する部材を樹脂などの柔らかい材料で形成しなければならない場合があるが、そのような場合であっても、規制スペーサ64により流路161の高さを一定の高さに確実に保つことができる。
【0073】
また、規制スペーサ64の厚みを任意に設定することにより、流路161の高さを容易に調整することができる。さらに、流路部材16の組立時に流路161の高さにばらつきが生じにくく、組立再現性が向上する。
【0074】
特に、本実施形態では、外面層61と内面層62との間に規制スペーサ64を設けるだけの簡単な構成で、中間層63に形成されている流路161が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制することができる。また、規制スペーサ64が中間層63の外周を取り囲んだ状態で固定されるため、規制スペーサ64を接着などにより固定しなくても、規制スペーサ64が脱落するのを防止することができる。この場合、接着剤の厚みに応じて流路161の高さにばらつきが生じることを防止できるため、より精度よく流路161の高さを一定の高さに保つことができる。
【0075】
一方で、外面層61、内面層62及び中間層63は、互いに接着されてもよい。この場合、外面層61、内面層62及び中間層63を予め円弧状に湾曲させた後、それらを接着させれば、接着後に湾曲させる場合よりも各層が剥離しにくい。このように、外面層61、内面層62及び中間層63を互いに接着させた場合であっても、流路161の高さは規制スペーサ64の厚みにより規定されるため、接着剤の厚みが流路161の高さに影響することを防止できる。
【0076】
また、外面層61、内面層62及び中間層63を互いに接着させることができるため、各層を金属で形成して互いに拡散接合するなどの接合方法に限定されることがない。その結果、流路部材16を構成する外面層61、内面層62及び中間層63として使用可能な材料の幅が広がるため、液体試料の種類に応じた流路161を構成することが可能である。この場合、外面層61、内面層62及び中間層63の接着方法としては、分子接着やプラズマ処理などを用いた方法を例示することができる。ただし、上記のような構成に限らず、規制スペーサ64が外面層61又は内面層62に対して接着された構成とすることも可能である。
【0077】
図8は、流路部材16の第1変形例を示す中間層63及び規制スペーサ64の平面図である。上記実施形態では、流路部材16が組み立てられた状態において、規制スペーサ64が、中間層63を取り囲んだ状態で外面層61及び内面層62の間に設けられるような構成について説明した。これに対して、
図8の例では、規制スペーサ64を中間層63に対して位置決めする位置決め部65が設けられている点が上記実施形態とは異なっており、他の構成については上記実施形態と同様であるため、同様の構成については図に同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0078】
位置決め部65は、中間層63が延びる方向(長手方向)に沿って設けられた突部により構成されており、位置決め部65と中間層63との間に規制スペーサ64が挟まれて位置決めされることにより、規制スペーサ64を接着などにより固定しなくても、規制スペーサ64が脱落するのを防止することができる。この場合、接着剤の厚みに応じて流路161の高さにばらつきが生じることを防止できるため、より精度よく流路161の高さを一定の高さに保つことができる。
【0079】
図8の例では、中間層63に対して両側縁に対向するように1対の位置決め部65が設けられており、各位置決め部65と中間層63との間に、中間層63が延びる方向(長手方向)に沿って細長い規制スペーサ64が位置決めされている。位置決め部65は、外面層61及び内面層62とは別部材により構成され、外面層61又は内面層62に固定されていてもよいし、外面層61又は内面層62と一体的に構成されていてもよい。ただし、上記のような構成に限らず、例えば規制スペーサ64及び位置決め部65の少なくとも一方が、中間層63が延びる方向(長手方向)に沿って複数に分割されていてもよい。
【0080】
図9は、流路部材16の第2変形例を示す分解斜視図であり、流路部材16が円弧状に湾曲される前の状態を外周面162側から斜めに見た図を示している。また、
図10は、第2変形例において組み立てられた流路部材16の断面図である。この例における流路部材16は、上記実施形態のように内面層62と規制スペーサ64が別部材で構成されているのではなく、内面層62と規制スペーサ64が一体的に構成されている。
【0081】
具体的には、内面層62における外面層61側の面に、平面視において中間層63の外形と同一又は若干大きい形状からなる矩形状の凹部642が形成されており、この凹部642内に中間層63が配置される。これにより、内面層62における凹部642の周縁部が、規制スペーサ64として機能するようになっている。この点を除けば、他の構成については上記実施形態と同様であるため、同様の構成については図に同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0082】
中間層63の厚みT1は、内面層62における規制スペーサ64の厚みT3(凹部642の深さ)よりも大きい。また、中間層63は、外面層61及び内面層62よりも圧縮弾性率(ヤング率)が低い材料、すなわち柔らかい材料により形成されている。例えば、外面層61及び内面層62はステンレス鋼(SUS)により形成されており、中間層63はシリコンゴムにより形成されている。
【0083】
ただし、内面層62は、少なくとも中間層63よりも圧縮弾性率が高い材料で形成されていればよく、例えばアルミなどのSUS以外の金属により形成されていてもよい。また、内面層62は、金属に限らず、例えばPET又はPEEKのような圧縮弾性率が高い樹脂など、金属以外の材料により形成されていてもよい。
【0084】
図9及び
図10の例では、内面層62に規制スペーサ64を設けるだけの簡単な構成で、流路161が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制することができる。ただし、規制スペーサ64は、内面層62に設けられた構成に限らず、外面層61に設けられた構成であってもよいし、外面層61及び内面層62の両方に設けられた構成であってもよい。
【0085】
図11は、流路部材16の第3変形例を示す断面図である。この例では、規制スペーサ64が、上記実施形態のように流路部材16に設けられているのではなく、回転部10を構成する流路部材16以外の部材である固定部材17及びスペーサ15に設けられている。
【0086】
具体的には、固定部材17における流路部材16側の面に、平面視において流路部材16の内面層62の外形と同一又は若干大きい形状からなる矩形状の凹部643が形成されており、この凹部643内に内面層62が配置される。また、スペーサ15における流路部材16側の面に、平面視において流路部材16の外面層61の外形と同一又は若干大きい形状からなる矩形状の凹部644が形成されており、この凹部644内に外面層61が配置される。これにより、固定部材17における凹部643の周縁部、及び、スペーサ15における凹部644の周縁部が、規制スペーサ64として機能するようになっている。この点を除けば、他の構成については上記実施形態と同様であるため、同様の構成については図に同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0087】
固定部材17及びスペーサ15は、流路部材16を積層方向に圧縮する圧縮部を構成している。すなわち、この例では、規制スペーサ64が圧縮部に設けられた構成となっている。固定部材17における凹部643の深さは、流路部材16の内面層62の厚みよりも大きく、内面層62と中間層63を足した厚みよりも小さい。また、スペーサ15における凹部644の深さは、流路部材16の外面層61の厚みと同一である。中間層63は、固定部材17及びスペーサ15よりも圧縮弾性率(ヤング率)が低い材料、すなわち柔らかい材料により形成されている。
【0088】
図11の例では、流路部材16を固定部材17及びスペーサ15により積層方向に圧縮する際に、中間層63が圧縮されて変形する過程で、固定部材17及びスペーサ15の各凹部643,644の周縁部が互いに接触し、それ以上圧縮することができない。したがって、流路161が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制することができる。
【0089】
図12は、流路部材16の第4変形例を示す断面図である。この例では、上記第3変形例と同様に、規制スペーサ64が、回転部10を構成する流路部材16以外の部材に設けられているが、固定部材17のみに設けられている点で上記第3変形例とは異なる。
【0090】
具体的には、固定部材17における流路部材16側の面に、平面視において流路部材16の内面層62の外形と同一又は若干大きい形状からなる矩形状の凹部645が形成されており、この凹部645内に内面層62が配置される。また、流路部材16における外面層61の幅が、内面層62の幅よりも大きく形成されている。これにより、固定部材17における凹部645の周縁部が、規制スペーサ64として機能するようになっている。この点を除けば、他の構成については上記実施形態と同様であるため、同様の構成については図に同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0091】
固定部材17は、流路部材16を積層方向に圧縮する圧縮部を構成している。すなわち、この例では、規制スペーサ64が圧縮部に設けられた構成となっている。固定部材17における凹部645の深さは、流路部材16の内面層62の厚みよりも大きく、内面層62と中間層63を足した厚みよりも小さい。中間層63は、固定部材17及び外面層61よりも圧縮弾性率(ヤング率)が低い材料、すなわち柔らかい材料により形成されている。
【0092】
図12の例では、流路部材16を固定部材17及びスペーサ15により積層方向に圧縮する際に、中間層63が圧縮されて変形する過程で、固定部材17の凹部645の周縁部が流路部材16の外面層61に接触し、それ以上圧縮することができない。したがって、流路161が一定の高さ未満に圧縮されるのを規制することができる。
【0093】
ここでは、規制スペーサ64が、圧縮部のうち固定部材17のみに設けられた構成について説明したが、圧縮部のうちスペーサ15のみに設けられた構成であってもよい。また、圧縮部は、固定部材17及びスペーサ15により構成されるものに限らず、他の部材により構成されるものであってもよく、この場合には、圧縮部を構成する他の部材に規制スペーサ64が設けられていてもよい。
【0094】
以上の実施形態では、1つの流路161が真っ直ぐ延びるような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、流路161の一部に屈曲部又は湾曲部が形成された構成であってもよい。あるいは、流路161が1つではなく、2つ以上形成されていてもよい。
【0095】
また、流路部材16を構成する各層は、上記実施形態のような構成に限られるものではない。例えば、中間層63が、外面層61及び内面層62の間に複数積層された構成などであってもよい。