(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記嵩上げ部は、プレキャストコンクリートパネルと、前記本壁部の天端に固定された支柱と、を有してなり、前記プレキャストコンクリートパネルは、前記支柱に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の既設壁状構造体の補強構造。
前記鉛直部は、前記既設壁状構造体の法線方向と直交する水平方向に前記既設壁状構造体から所定の距離だけ離れた位置において、前記法直部に連結していることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の既設壁状構造体の補強構造。
前記鉛直部の前記法線方向の前記所定幅の長さは、前記既設壁状構造体の前記法線方向の長さと略同一であり、かつ、前記鉛直部の前記法線方向両端部の前記法線方向座標位置は、前記既設壁状構造体の前記法線方向両端部の前記法線方向座標位置と略一致していることを特徴とする請求項11に記載の既設壁状構造体の補強構造。
前記本壁部の天端に、壁高を高くする嵩上げ部を付加する嵩上げ工程を備え、前記算出工程は、前記嵩上げ部を含む前記既設壁状構造体の設計水平荷重を算出する工程であることを特徴とする、請求項15に記載の既設壁状構造体の補強構造の構築方法。
前記補強部は鉛直部を有し、該鉛直部は、前記算出工程により算出された設計水平荷重によって前記既設壁状構造体を水平方向に滑動させようとする力に対して抵抗できる長さを鉛直方向に有し、下端が、前記既設壁状構造体の下端よりも下方に位置するように設けられていることを特徴とする、請求項15または16に記載の既設壁状構造体の補強構造の構築方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このように既設堤体の壁高さを高くすると、竣工時の設計水平荷重より大きな水平力が作用するため、竣工当時に想定していた水平力に対する既設堤体の形状寸法では、抵抗力が不十分になる可能性があると本発明者は考えた。
【0009】
また、擁壁等において、背面側の盛土高を高くした場合、土圧の増加に対する抵抗力が不十分になる可能性があると本発明者は考えた。
【0010】
水平力に対する抵抗力を上げるための方法としては、既設堤体の陸側(背面側)の壁面をコンクリートで打ち増して強化する方法が考えられるが、その場合、居住地を有する可能性のある背面側にコンクリート打ち増しのための地上スペースを確保する必要がある。コンクリート打ち増しのための背面側の地上スペースを確保できない場合、結果として十分な抵抗力が備わっていない堤体が構築されてしまう可能性もある。
【0011】
このことは、土圧の増加に対応するために擁壁を補強して抵抗力を向上させる場合においても同様である。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、背面側の地上スペース確保の制約を受けにくい態様で、壁状構造体の竣工当時の想定を超える水平外力に対しても抵抗できるように、既設壁状構造体を補強する補強構造およびその構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の既設壁状構造体の補強構造およびその構築方法により、前記課題を解決したものである。
【0014】
即ち、本発明に係る既設壁状構造体の補強構造は、本壁部を有する既設壁状構造体と、補強部とを有し、前記既設壁状構造体が前記補強部によって補強されてなる既設壁状構造体の補強構造であって、前記補強部は、前記本壁部の壁面のうち、水平方向の外力が作用する壁面とは反対側の壁面である背面に取り付けられていて、かつ、前記補強部の全体が地面以下の領域に設けられていることを特徴とする既設壁状構造体の補強構造である。
【0015】
なお、本願において「既設壁状構造体」には、竣工時の堤体の壁高さを更に高くするために、例えば本壁部の天端に嵩上げ部が付加された構造体を含み、また、そのような嵩上げ部が付加されていない構造体も含む。従って、既設壁状構造体の「本壁部」とは、嵩上げ部が付加されている既設壁状構造体の場合、当該嵩上げ部を除いた部位のことを意味し、嵩上げ部を有しない既設壁状構造体の場合、「本壁部」が既設壁状構造体の全体を意味する。
【0016】
また、前記補強部が「背面に取り付けられ」とは、前記補強部が背面に直接取り付けられている場合だけでなく、他の部材を介して背面に取り付けられている場合も含む。
【0017】
また、「地面以下の領域」とは、地面と同じ高さ位置の領域および地面よりも低い高さ位置の領域のことを意味する。
【0018】
また、本願において地面とは、土地の表面のことを意味し、盛土されている場合にはその盛土の表面のことを意味し、コンクリート等で被覆されている場合には、その被覆されたコンクリート等の表面のことを意味する。
【0019】
前記嵩上げ部は、プレキャストコンクリートパネルと、前記本壁部の天端に固定された支柱と、を有してなり、前記プレキャストコンクリートパネルは、前記支柱に固定されている、ように構成してもよい。
【0020】
前記補強部は、前記本壁部の前記背面に一端が固定されていて前記既設壁状構造体の法線方向と直交する水平方向に所定長さを有する法直部を有しており、前記所定長さは、設計水平荷重によって前記既設壁状構造体を転倒させようとす
るモーメントに対して抵抗できる長さである、ように構成してもよい。
【0021】
ここで、「既設壁状構造体の法線方向」とは、既設壁状構造体の壁面の延長方向のことであり、当該既設壁状構造体の延びる方向のことである。例えば、当該既設壁状構造体が防潮堤である場合、その法線方向は、海岸線にほぼ沿う方向となることが多い。
【0022】
また、「法直部」は、前記既設壁状構造体の法線方向と直交する水平方向に所定長さを有していればよく、「法直部」の長手方向や全体の向きが、前記既設壁状構造体の法線方向と直交する水平方向でなくてもよい。
【0023】
前記法直部は、長手方向が前記既設壁状構造体の法線方向と直交する水平方向である棒状の鋼材であってもよい。
【0024】
一方の面が前記背面に接している接続鋼板を介して、前記棒状の鋼材は、前記既設壁状構造体に連結されているように構成してもよい。
【0025】
前記棒状の鋼材は、断面がH形の鋼材であってもよい。
【0026】
前記棒状の鋼材は複数あり、複数の前記棒状の鋼材のうち、前記法線方向に隣り合う前記棒状の鋼材の間に平板状のコンクリート部材が設けられていて、前記平板状のコンクリート部材は、前記平板状のコンクリート部材を前記法線方向に挟み込む前記棒状の鋼材に連結されている、ように構成してもよい。
【0027】
前記補強部は、鉛直方向に所定長さを有し、下端が、前記既設壁状構造体の下端よりも下方に位置するように設けられた鉛直部を有してなり、前記鉛直部の前記所定長さは、設計水平荷重によって前記既設壁状構造体を水平方向に滑動させようとする力に対して抵抗できる長さである、ように構成してもよい。
【0028】
ここで、「鉛直部」は、鉛直方向に所定長さを有し、下端が、前記既設壁状構造体の下端よりも下方に位置していればよく、「鉛直部」の長手方向や全体の向きが鉛直方向でなくてもよい。
【0029】
前記鉛直部は、前記既設壁状構造体の法線方向と直交する水平方向に前記既設壁状構造体から所定の距離だけ離れた位置において、前記法直部に連結している、ように構成してもよい。
【0030】
前記鉛直部は、前記既設壁状構造体の法線方向に所定幅を有しているように構成してもよい。
【0031】
前記鉛直部の前記法線方向の前記所定幅の長さは、前記既設壁状構造体の前記法線方向の長さと略同一であり、かつ、前記鉛直部の前記法線方向両端部の前記法線方向座標位置は、前記既設壁状構造体の前記法線方向両端部の前記法線方向座標位置と略一致している、ように構成してもよい。
【0032】
前記鉛直部は、コンクリート部材であるように構成してもよい。
【0033】
前記コンクリート部材中には、前記法直部に連結された鋼材が含まれているように構成してもよい。
【0034】
前記コンクリート部材は、プレキャストコンクリート部材であるように構成してもよい。
【0035】
前記鉛直部は、鋼材であるように構成してもよい。
【0036】
前記鉛直部と前記法直部とは、現場搬入前に一体的に連結されているように構成してもよい。
【0037】
前記既設壁状構造体は、既設堤体であってもよい。
【0038】
本発明に係る既設壁状構造体の補強構造を構築する構築方法は、本壁部を有する既設壁
状構造体が補強部によって補強されてなる既設壁状構造体の補強構造を構築する構築方法であって、前記既設壁状構造体の設計水平荷重を算出する算出工程と、前記補強部の全体を地面以下の領域に配置できるように、前記本壁部の壁面のうち、水平方向の外力が作用する壁面とは反対側の壁面である背面の側の所定の範囲の土壌を掘削して穴を設ける掘削工程と、前記背面の部位のうち前記掘削工程で設けた前記穴の中の部位に、前記算出工程により算出された前記設計水平荷重によって前記既設壁状構造体を転倒させようとす
るモーメントに対して抵抗できる所定長さを持った前記補強部の法直部の一端を、前記所定長さが前記既設壁状構造体の法線方向と直交する水平方向に向くように取り付ける補強部取付工程と、前記補強部取付工程で取り付けた前記補強部の全体が、埋め戻し後の地面以下の領域に位置するように、前記掘削工程で設けた前記穴を埋め戻す埋め戻し工程と、を有することを特徴とする既設壁状構造体の補強構造の構築方法である。
【0039】
なお、前記埋め戻し工程において前記穴を埋め戻す際には、土壌のみで埋め戻してもよく、あるいは全部又は一部を土壌以外のもの(例えばコンクリート等)により埋め戻してもよい。
【0040】
前記既設壁状構造体の補強構造の構築方法において、前記本壁部の天端に、壁高を高くする嵩上げ部を付加する嵩上げ工程を備えさせ、前記算出工程は、前記嵩上げ部を含む前記既設壁状構造体の設計水平荷重を算出する工程である、ように構成してもよい。
【0041】
前記既設壁状構造体の補強構造の構築方法において、前記補強部は鉛直部を有し、該鉛直部は、前記算出工程により算出された設計水平荷重によって前記既設壁状構造体を水平方向に滑動させようとする力に対して抵抗できる長さを鉛直方向に有し、下端が、前記既設壁状構造体の下端よりも下方に位置するように設けられている、ように構成してもよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、背面側の地上スペース確保の制約を受けにくい態様で、壁状構造体の竣工当時の想定を超える水平外力に対しても抵抗できるように、既設壁状構造体を補強する補強構造およびその構築方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下説明する実施形態では、補強の対象とする既設壁状構造体を、第1、3〜6実施形態では既設堤体12にしており、第2実施形態では既設堤体32にしているが、本発明が対象とする既設壁状構造体が防潮堤等の既設堤体に限定されるわけではない。
【0045】
(1)第1実施形態
(1−1)第1実施形態の構成および作用効果
図1は、本発明の第1実施形態に係る既設壁状構造体の補強構造10(以下、単に「補強構造10」と記すことがある。)を示す斜視図である。本第1実施形態において補強の対象とする既設壁状構造体は既設堤体12である。なお、補強構造10および既設堤体12は、既設堤体12の法線方向(以下、単に「法線方向」と記すことがある。)に連なって延びているが、
図1においては、法線方向に所定の長さ範囲(既設堤体12の1ブロック分)だけ記載している。また、補強構造10の補強部14は、その全体が地面92(
図2参照)以下の領域に設けられているが、図示をわかりやすくする都合上、
図1においては、補強部14(法直部16および鉛直部18)を、土壌90で覆われていないむき出しの状態で描いている。
【0046】
図2は、本発明の第1実施形態に係る既設壁状構造体の補強構造10を示す鉛直断面図(法線方向と直交する鉛直面で切断した断面図(
図1のII−II線断面図))である。本第1実施形態に係る補強構造10の作用効果を説明するために、
図2には、水平外力Fや受働土圧P等も模式的に記載している。
【0047】
本第1実施形態に係る補強構造10は、
図1および
図2に示すように、既設堤体12と、補強部14と、を備えてなる。
【0048】
既設堤体12は、水平方向の外力に対して抵抗することができる壁状の構造物であり、具体的には例えば、水域に沿って設けられる防潮堤を挙げることができる。既設堤体12が防潮堤である場合、水平方向の外力としては、津波による外力や高潮による外力等を挙げることができる。ただし、前述したように、本発明が対象とする既設壁状構造体が防潮堤等の既設堤体に限定されるわけではなく、本発明が対象とする既設壁状構造体には、土壌の横圧を受け止める擁壁等も含まれる。
【0049】
既設堤体12は、嵩上げ部を有しておらず、既設堤体12はその全体で堤体本壁部12Xとなっている。
【0050】
既設堤体12としては、鉄筋コンクリート等のコンクリート系の材質で構成されている堤体を想定しており、以下では、既設堤体12の材質がコンクリート系の材質であることを前提として説明するが、本発明の適用対象となる既設壁状構造体の材質は特には限定されず、鋼製等の材質のものであっても適用可能である。
【0051】
1ブロックの既設堤体12の法線方向の長さは通常5〜10m程度であり、既設堤体12のブロック同士の間には目地材が通常設けられている。ただし、本発明の適用対象となる既設堤体12の1ブロックの法線方向の長さはこれに限定されるわけではない。
【0052】
適用対象となる既設堤体12は、施工性や経済性等を勘案すると、3〜5m程度の高さのものが好適な適用対象であるが、既設堤体12の高さが3m未満であっても適用可能であり、また既設堤体12の高さが5mより高くても適用可能であり、適用対象となる既設堤体12の高さは特には限定されない。
【0053】
なお、以下では、既設堤体12(即ち、堤体本壁部12X)の壁面のうち、想定される津波や高潮による外力が作用する壁面を外面12Aと記載することがあり、また、外力が作用する外面12Aとは反対側の壁面を背面12Bと記載することがある。後述するように、背面12Bには、法直部16の一端が取り付けられて固定されているので、背面12Bは、法直部16の一端が取り付け固定される「取り付け壁面」であるということもできる。
【0054】
補強部14は、水平外力に対する既設堤体12の抵抗力を向上させる部位であり、2つの法直部16と、鉛直部18と、を備えている。
【0055】
法直部16は、既設堤体12の法線方向と直交する水平方向(以下、法直水平方向と記すことがある。)に、予め算出した既設堤体12の設計水平荷重を考慮した所定長さを有しており、具体的には、算出された設計水平荷重によって既設堤体12を転倒させようとす
るモーメントに対して抵抗できる所定長さを法直水平方向に有している。法直部16の一端は、接続鋼板20を介して既設堤体12の背面12Bに取り付けられて固定されている。具体的には、本第1実施形態に係る補強構造10においては、法直部16には、断面がH形の棒状の鋼材を用いており、また、法直部16の長手方向は法直水平方向になっている。また、法直部16(断面がH形の棒状の鋼材)の一端に接続鋼板20の一方の面が溶接され、接続鋼板20の他方の面が既設堤体12の背面12Bに接するように配置された状態で、接続鋼板20は、ボルト及びナット22によって、既設堤体12の背面12Bの下端部に取り付けられている。
【0056】
また、本第1実施形態に係る補強構造10においては、1ブロックの既設堤体12の背面12B下端部の法線方向両端部付近にそれぞれ法直部16を取り付けており、1ブロックの既設堤体12について2つの法直部16を設けているが、1ブロックの既設堤体12に取り付ける法直部16の数は、設計水平荷重、既設堤体12の形状および大きさ(高さ、法線方向の幅等)や現場の状況等に応じて適宜に設定してよい。
【0057】
図1では、前述したように、補強部14(法直部16および鉛直部18)を、土壌90で覆われていないむき出しの状態で描いているが、実際には、既設堤体12の背面12B下端部への補強部14の取り付け固定が完了した後に、補強部14の全体を上方から覆うように土壌90等による埋め戻しを行って、
図2に示すように、補強部14(法直部16および鉛直部18)の全体が地面92以下の領域に位置するようにする。埋め戻す際には、土壌90のみで埋め戻してもよく、あるいは全部又は一部を土壌90以外のもの(例えばコンクリート等)により埋め戻してもよい。
【0058】
法直部16は、法直水平方向に所定長さを有しているので、法直部16を設けることにより、
図2に示すように、既設堤体12の外面12Aに水平外力Fが作用したときに生じる転倒モーメントに対する、自重Dによる抵抗モーメントの腕の長さLを、補強前の腕の長さL0と比べて大幅に長くすることができる。このため、本第1実施形態に係る補強構造10では、自重Dによる抵抗モーメントが効率的に大きくなっており、既設堤体12の外面12Aに加わる水平外力Fに対する抵抗力が効率的に向上している。
【0059】
このように、法直部16は、自重Dによる抵抗モーメントの腕の長さLを長くする役割を有しているので、法直部16は、その役割を果たせるような強度および剛性を備えるように構成する。
【0060】
本第1実施形態に係る補強構造10においては、法直部16には、断面がH形の棒状の鋼材を用いているが、必要な強度および剛性を備えていれば、異なる形状の鋼材でもよい。また、必要な強度および剛性を備えていれば、法直部16の材質は鋼に限定されるわけではなく、例えば、鉄筋コンクリート等のコンクリート系の材質にしてもよい。
【0061】
鉛直部18は、
図1および
図2に示すように、予め算出した既設堤体12の設計水平荷重を少なくとも考慮した所定長さを鉛直方向に有しており、具体的には、算出された設計水平荷重によって既設堤体12を水平方向に滑動させようとする力に対して抵抗できる所定長さを鉛直方向に有している。また、その下端が既設堤体12の下端よりも下方に位置している。そのため、既設堤体12の外面12Aに水平外力Fが作用して、既設堤体12を水平方向に滑動させようとすると、
図2に示すように、大きな受働土圧Pが発生してこれに抵抗する。このため、本第1実施形態に係る補強構造10は、転倒モーメントに対する抵抗という観点だけでなく、滑動に対する抵抗という観点からも、水平外力Fに対する抵抗力が効率的に向上している。
【0062】
また、鉛直部18は、
図1および
図2に示すように、法直水平方向に既設堤体12から所定の距離だけ離れた位置において、法直部16に連結している。
【0063】
鉛直部18は、鉄筋コンクリートからなるコンクリート部材18Aと、連結鋼材18Bとを有してなる。鉛直部18の法直部16への連結は、主に連結鋼材18Bによってなされており、
図2に示すように、連結鋼材18Bは、その一端が、法直部16を構成する断面H形の鋼材の下面に、法直水平方向に既設堤体12から所定の距離だけ離れた位置において、溶接で取り付けられている。ただし、溶接に替えて、ボルト及びナット等による機械的な連結としてもよい。連結鋼材18Bに使用可能な鋼材の形状は特には限定されないが、本第1実施形態では、断面H形の鋼材を用いている。
【0064】
鉛直部18は、
図1に示すように、その長手方向が既設堤体12の法線方向に沿う方向になっていて、その長手方向の長さは既設堤体12の法線方向の長さと略同一であり、また、鉛直部18の法線方向両端部の法線方向座標位置は、既設堤体12の法線方向両端部の法線方向座標位置に略一致する位置になっており、鉛直部18は細長い直方体形状になっている。このため、鉛直部18は、受働土圧を受ける部位の面積が大きくなっており、滑動に対する抵抗力が大きくなっている。
【0065】
また、本第1実施形態では、鉛直部18をコンクリート部材で構成しており、鉛直部18の剛性は大きくなっており、既設堤体12の外面12Aに水平外力Fが作用した際に、補強構造10の全体が、一体的に挙動しやすくなっており、特定の部位の変形が特に大きくなるということが起こりにくくなっている。この点からも、本第1実施形態に係る補強構造10は、水平外力Fに対する抵抗力が大きくなっている。
【0066】
なお、鉛直部18をコンクリート部材で構成する場合、現場打ちコンクリートで構成してもよく、あるいは、プレキャスト部材で構成してもよい。鉛直部18をプレキャスト部材で構成する場合、法直部16と鉛直部18とを現場搬入前に予め一体的に作製しておき、法直部16と鉛直部18とが一体的に連結された状態で現場に搬入して設置してもよい。
【0067】
(1−2)第1実施形態に係る補強構造10を構築する施工手順
第1実施形態に係る補強構造10を構築する施工手順を、図面を参照しつつ、ステップに分けて説明する。
【0068】
図3は、補強構造10を構築する前の既設堤体12の状態を模式的に示す斜視図であり、
図4〜
図7は、第1実施形態に係る補強構造10を構築する際の代表的な工程を模式的に示す斜視図である。
図3に示すような既設堤体12に対して施工を行って、補強構造10を構築する場合について、以下説明する。
【0069】
<ステップS0>
後述する第2〜第6実施形態においても同様であるが、まず構築されている既設堤体の設計水平荷重の算出を行う(設計水平荷重算出工程)。かかる設計水平荷重の算出は、津波等を考慮する場合には堤体高さ分の静水圧を考慮するなどの公知の種々の算出方法を適用して行うことができる。
【0070】
なお、設計水平荷重を算出するタイミングは、必ずしも既設堤体を構築した後でなくてもよく、構築前であっても既設堤体の設計時に算出したものを利用して算出してもよい。
【0071】
<ステップS1>
第1実施形態に係る補強構造10においては、その補強部14(法直部16および鉛直部18)の全体が地面92以下の領域に位置するように補強部14を設けるので、そのように補強部14を設けることができるように、
図4に示すように、既設堤体12の背面12B側の所定の範囲の土壌90を所定の深さまで掘削する。
図4では、掘削前の土壌90の領域を破線で示している。
【0072】
補強部14の法直部16は、既設堤体12の背面12Bの下端部から法直水平方向に向かうように配置し、鉛直部18は、法直部16の一端部(既設堤体12とは反対側の端部)の下方に、その下端が既設堤体12の下端よりも下方に位置するように設けるので、本ステップS1で設ける穴70は、
図4に示すように、浅い穴70Aと深い穴70Bとからなる段付きの穴になる。
【0073】
<ステップS2>
法直部16を構成する部材を現場に搬入して、
図5に示すように、その一端を既設堤体12の背面12Bの下端部に接続鋼板20を介して取り付ける。ここでは、法直部16を構成する部材として断面H形の鋼材を用いており、その一端には接続鋼板20が現場搬入前に溶接で取り付けられており、また、他端近傍の下面には断面H形の鋼材である連結鋼材18Bの一端が現場搬入前に溶接で取り付けられている。このため、法直部16を構成する断面H形の鋼材に、接続鋼板20および連結鋼材18Bを現場において取り付ける作業は不要である。
【0074】
接続鋼板20を、既設堤体12の背面12Bの下端部に、ボルト及びナット22等により取り付けることにより、法直部16の一端は、接続鋼板20を介して既設堤体12の背面12Bの下端部に取り付けられる。
【0075】
なお、接続鋼板20および連結鋼材18Bのどちらか一方または両方を、現場において、法直部16を構成する断面H形の鋼材に取り付けるようにしてもよい。
【0076】
<ステップS3>
土壌90を掘削した深い穴70Bの掘削面(深い穴70Bの側面)に必要に応じて型枠(図示せず)を配置する(掘削面(深い穴70Bの側面)が自立可能であれば型枠は不要)とともに、必要に応じて所定の鉄筋(図示せず)を配置して、コンクリートを打設し、
図6に示すように、鉛直部18を構築する。
図6に示すように、1つの鉛直部18の法線方向の長さは、既設堤体12の1ブロックの長さと略同一となるようにし、法線方向に隣り合う鉛直部18同士の間の目地の法線方向座標位置は、法線方向に隣り合う既設堤体12同士の間の目地の法線方向座標位置に略一致するようにする。法線方向に隣り合う鉛直部18同士の間の目地の位置には、必要に応じて止水目地材(図示せず)を設けてもよい。
【0077】
なお、法直部16と鉛直部18とが一体的に連結された状態で現場に搬入された部材を用いてもよく、この場合、接続鋼板20を、既設堤体12の背面12Bの下端部に、ボルト及びナット22等により取り付けることにより、法直部16と鉛直部18の設置が同時に行われることになる。
【0078】
<ステップS4>
ステップS2およびステップS3によって、法直部16および鉛直部18の設置が完了したら、
図7に示すように、工事前の高さまで土壌90を埋め戻す。
図7に示すように、補強構造10の補強部14(法直部16および鉛直部18)は、その全体が、埋め戻し後の地面92よりも下方に位置していて外部から見えない状態になっており、工事後の既設堤体12の背面12B側の領域は、地上スペースが減少していない。なお、埋め戻す際には、土壌90のみで埋め戻してもよく、あるいは全部又は一部を土壌90以外のもの(例えばコンクリート等)により埋め戻してもよい。
【0079】
(2)第2実施形態
図8は、本発明の第2実施形態に係る既設壁状構造体の補強構造30(以下、単に「補強構造30」と記すことがある。)を示す斜視図である。本第2実施形態において補強の対象とする既設壁状構造体は既設堤体32である。なお、補強構造30および既設堤体32は法線方向に連なって延びているが、
図8においては、法線方向に所定の長さ範囲(既設堤体32の3ブロックの範囲)だけ記載している。また、補強部14を明示するために、一番左側のブロックでは、先に説明した第1実施形態の施工手順のステップS2が完了した状態を描いており、真ん中のブロックでは、同じくステップS3が完了した状態を描いている。
【0080】
図8においては、補強部14を設置する前にすでに嵩上げ部80が設けられていることを前提に図示したが、嵩上げ部80を設置するよりも前に補強部14を設置し、補強部14の設置後に嵩上げ部80を設置してもよく、あるいは、補強部14の設置と同時期に嵩上げ部80を設置してもよい。
【0081】
図9は、本発明の第2実施形態に係る既設壁状構造体の補強構造30を示す鉛直断面図(法線方向と直交する鉛直面で切断した断面図(
図8のIX−IX線断面図))である。
図9には、水平外力Fや受働土圧P1等も模式的に記載している。
【0082】
第1実施形態に係る補強構造10における既設堤体12は、嵩上げがなされていない堤体であったが、第2実施形態に係る補強構造30で用いている既設堤体32は、壁高を高くする嵩上げ部80を備えており、嵩上げがなされている既設堤体である。このため、外面12A側から加わる設計水平荷重が、嵩上げ前よりも大きくなっており、補強が必要となる可能性が高い既設堤体である。
【0083】
第2実施形態に係る補強構造30で用いている既設堤体32は、既設堤体12の天端12Cに嵩上げ部80を設置してなる既設堤体であり、既設堤体32から嵩上げ部80を除いた部位が堤体本壁部32Xである。既設堤体32は、既設堤体12の天端12Cに嵩上げ部80を設置してなる既設堤体であるので、堤体本壁部32Xは堤体本壁部12Xと同じである。
【0084】
嵩上げ部80は、プレキャストコンクリートパネル82と、既設堤体12の天端12Cに固定された支柱84と、を有してなり、プレキャストコンクリートパネル82は、支柱84に固定されている。
【0085】
嵩上げ部80が設けられている点以外は、第2実施形態に係る補強構造30は、第1実施形態に係る補強構造10と同様であるので、対応する部材および部位には同一の符号を付して説明は省略し、以下では、新たにコンクリートを追加打設して既設堤体の高さを高くする現状の一般的な工法を用いた場合との比較説明をする。
【0086】
図10は、新たにコンクリートを追加打設して既設堤体の高さを高くする現状の工法(以下、従来工法と記すことがある。)を用いて構築した嵩上げ堤体100を示す斜視図である。なお、嵩上げ堤体100は法線方向に連なって延びているが、
図10においては、法線方向に所定の長さ範囲(既設堤体12の3ブロックの範囲)だけ記載している。
【0087】
図11は、従来工法を用いて構築した嵩上げ堤体100を示す鉛直断面図(法線方向と直交する鉛直面で切断した断面図(
図10のXI−XI線断面図))である。
図11には、水平外力Fや受働土圧P2等も模式的に記載している。
【0088】
通常の場合、追加打設するコンクリート102は一体的に打設されるが、機能的には、既設堤体12の天端12Cの上方に位置する部位が嵩上げの機能を発揮する部位(嵩上げ部位102Aと称することにする。)であり、それ以外の部位は嵩上げ部位102Aを補強する部位(補強部位102Bと称することにする。)である。
【0089】
新たにコンクリートを追加打設する従来工法を用いる場合、
図11から明らかなように、嵩上げ部位102Aを設けるためには、それよりもはるかに大きい補強部位102Bを設けることが必要であり、大量のコンクリートが必要になる。また、補強部位102Bが既設堤体12の背面12B側の地上スペースを阻害してしまう。
【0090】
また、従来工法を用いる場合、
図11から明らかなように、自重D2による抵抗曲げモーメント算出時の腕の長さL2は、補強前の腕の長さL02と比べてあまり大きくなっておらず、従来工法による抵抗モーメントの増加は、大量に打設するコンクリートの重量に主に起因する。このため、従来工法は補強効率がよくない。
【0091】
これに対して、第2実施形態に係る補強構造30における腕の長さL1(
図9参照)は、補強前の腕の長さL01と比べて大幅に長くなっており、補強構造30においては、自重D1の増加に頼らずに抵抗モーメントを効率的に増加させることができる。
【0092】
また、従来工法を用いる場合、
図11から明らかなように、補強部位102Bの下端の高さ位置は、既設堤体12の下端の高さ位置と一致しているため、嵩上げ堤体100が水平方向に滑動しようとするときに発生する受働土圧P2は、コンクリート102を追加打設する前と変わらない。このため、従来工法を用いる場合、滑動に対する補強効果は、大量に打設するコンクリートの重量に主に起因することになり、補強効率がよくない。
【0093】
これに対して、第2実施形態に係る補強構造30においては、鉛直部18の下端が既設堤体12の下端よりも下方に位置している。このため、既設堤体32に外面12A側から水平外力Fが作用して、既設堤体12を水平方向に滑動させようとすると、
図9に示すように、大きな受働土圧P1が発生してこれに抵抗する。このため、本第2実施形態に係る補強構造30は、転倒モーメントに対する抵抗という観点だけでなく、滑動に対する抵抗という観点からも、水平外力Fに対する抵抗力が効率的に向上している。
【0094】
第2実施形態に係る補強構造30を構築する場合の手順としては、嵩上げ部80を設置した後に補強部14を設置してもよく、あるいは、嵩上げ部80を設置する前に補強部14を設置してもよい。また、補強部14の設置と同時期に嵩上げ部80を設置してもよい。具体的には、「(1−2)第1実施形態に係る補強構造10を構築する施工手順」で説明したステップS1〜S4を行う前、または行った後に、嵩上げ部80を設置してもよく、あるいは、ステップS1〜S4を行う間のいずれかの時点において嵩上げ部80を設置してもよい。
【0095】
延長750mにわたって、既設堤体12に対して1mの嵩上げを行うとともに、嵩上げ後の堤体に対して想定水平外力に対する補強を行うものとして、本第2実施形態に係る補強構造30を採用した場合(
図8、9の場合)と従来工法を採用した場合(
図10、11の場合)とについて、本発明者が現地工期とコストを試算したところ、現地工期については、従来工法を採用した場合では5月であったのに対し、本第2実施形態に係る補強構造30を採用した場合には2.5月となり、50%の低減効果が得られるという試算結果が得られ、コストは、従来工法を採用した場合を1とすると、本第2実施形態に係る補強構造30を採用した場合には0.9となり、10%の低減効果が得られるという試算結果が得られた。
【0096】
(3)第3実施形態
図12は、本発明の第3実施形態に係る既設壁状構造体の補強構造34(以下、単に「補強構造34」と記すことがある。)を示す斜視図である。本第3実施形態において補強の対象とする既設壁状構造体は既設堤体12である。なお、補強構造34および既設堤体12は法線方向に連なって延びているが、
図12においては、法線方向に所定の長さ範囲(既設堤体12の1ブロック分)だけ記載している。また、補強構造34の補強部36は、その全体が地面92以下の領域に設けられているが、図示をわかりやすくする都合上、
図12においては、補強部36(法直部16および鉛直部38)を、土壌90で覆われていないむき出しの状態で描いている。
【0097】
第1実施形態に係る補強構造10における鉛直部18は、その長手方向が既設堤体12の法線方向に沿う方向になっていて、かつ、その長手方向の長さは既設堤体12の法線方向の長さと略同一であったが、第3実施形態に係る補強構造34における鉛直部38は、その長手方向が既設堤体12の法線方向に沿う方向になっているものの、その長手方向の長さは第1実施形態に係る補強構造10における鉛直部18の長手方向の長さよりも短くなっていて、1つの法直部16ごとに1つの鉛直部38が設けられており、補強部36は2つの法直部16と2つの鉛直部38で構成されている。この点以外は、第3実施形態に係る補強構造34は、第1実施形態に係る補強構造10と同様であるので、対応する部材および部位には同一の符号を付して説明は原則として省略する。
【0098】
図12に示すように、第3実施形態に係る補強構造34における鉛直部38の長手方向の長さは、第1実施形態に係る補強構造10における鉛直部18の長手方向の長さよりも短くなっていて、かつ、2つの鉛直部38の長手方向の合計長さでも、第1実施形態に係る補強構造10における鉛直部18の長手方向の長さよりも短くなっている。
【0099】
このため、第3実施形態に係る補強構造34が受けることができる受働土圧は、第1実施形態に係る補強構造10が受けることができる受働土圧よりも小さくなっている。
【0100】
ただし、第3実施形態に係る補強構造34においては、2つの鉛直部38の長手方向の合計長さが、第1実施形態に係る補強構造10における鉛直部18の長手方向の長さよりも短くなっていることから、第3実施形態に係る補強構造34は、第1実施形態に係る補強構造10よりも経済的である。
【0101】
したがって、第3実施形態に係る補強構造34は、要求される受働土圧が、第1実施形態に係る補強構造10が受けることができる受働土圧よりも小さい場合に好適な態様である。
【0102】
(4)第4実施形態
図13は、本発明の第4実施形態に係る既設壁状構造体の補強構造40(以下、単に「補強構造40」と記すことがある。)を示す斜視図である。本第4実施形態において補強の対象とする既設壁状構造体は既設堤体12である。なお、補強構造40および既設堤体12は法線方向に連なって延びているが、
図13においては、法線方向に所定の長さ範囲(既設堤体12の1ブロック分)だけ記載している。また、補強構造40の補強部42は、その全体が地面92以下の領域に設けられているが、図示をわかりやすくする都合上、
図13においては、補強部42(法直部16)を、土壌90で覆われていないむき出しの状態で描いている。
【0103】
第3実施形態に係る補強構造34においては、2つの鉛直部38の長手方向の合計長さが、第1実施形態に係る補強構造10における鉛直部18の長手方向の長さよりも短くなっていたが、本第4実施形態に係る補強構造40においては、それをさらに進め、鉛直部自体をなくしてしまった実施形態である。この点以外は、第4実施形態に係る補強構造40は、第1実施形態に係る補強構造10および第3実施形態に係る補強構造34と同様であるので、対応する部材および部位には同一の符号を付して説明は原則として省略する。
【0104】
図13に示すように、本第4実施形態に係る補強構造40は、既設堤体12の下端よりも下方に位置している部位がなく、補強部42は法直部16のみで構成されている。
【0105】
このため、第4実施形態に係る補強構造40が受けることができる受働土圧は、補強部42(法直部16)を設ける前に既設堤体12が受けることができた受働土圧と変わらず、滑動に対する受働土圧による補強効果は期待できない。
【0106】
ただし、第4実施形態に係る補強構造40においては、鉛直部自体がないことから、第4実施形態に係る補強構造40は、第1実施形態に係る補強構造10および第3実施形態に係る補強構造34よりも経済的である。
【0107】
したがって、第4実施形態に係る補強構造40は、抵抗モーメントについての補強効果のみが要求され、受働土圧についての補強効果が要求されない場合に、好適な態様である。
【0108】
(5)第5実施形態
図14は、本発明の第5実施形態に係る既設壁状構造体の補強構造50(以下、単に「補強構造50」と記すことがある。)を示す斜視図である。本第5実施形態において補強の対象とする既設壁状構造体は既設堤体12である。なお、補強構造50および既設堤体12は法線方向に連なって延びているが、
図14においては、法線方向に所定の長さ範囲(既設堤体12の1ブロック分)だけ記載している。また、補強構造50の補強部52は、その全体が地面92以下の領域に設けられているが、図示をわかりやすくする都合上、
図14においては、補強部52(法直部16および法直コンクリート部材54)を、土壌90で覆われていないむき出しの状態で描いている。
【0109】
第4実施形態に係る補強構造40においては、2つの法直部16(断面H形の鋼材)のみで補強部42が構成されており、補強部42には、法線方向に長さ成分がほとんどないため剛性が小さく、第4実施形態に係る補強構造40は、既設堤体12の外面12Aに水平外力が加わったときの転倒に対する抵抗モーメントについての補強効果を安定的に発揮させにくい補強態様である。
【0110】
そこで、本第5実施形態に係る補強構造50では、2つの法直部16(断面H形の鋼材)の間に平板状の法直コンクリート部材54を追加して、補強部52を2つの法直部16と法直コンクリート部材54とで構成して剛性を大きくしており、本第5実施形態に係る補強構造50は、既設堤体12の外面12Aに水平外力が加わったときの転倒に対する抵抗モーメントについての補強効果を、第4実施形態よりも安定的に発揮させやすくした実施形態である。この点以外は、第5実施形態に係る補強構造50は、第4実施形態に係る補強構造40と同様であるので、対応する部材および部位には同一の符号を付して説明は原則として省略する。
【0111】
法直コンクリート部材54は、平板状の鉄筋コンクリート部材であり、その内部には縦横に鉄筋(図示せず)が配置されている。法直コンクリート部材54は、現場打ちコンクリートで作製してもよく、また、プレキャスト部材としてもよい。また、法直コンクリート部材54は、法線方向の両端部が、それぞれ法直部16(断面H形の鋼材)の上下フランジに挟み込まれているとともに、図示せぬボルト及びナットによって法直部16(断面H形の鋼材)の上下フランジに固定されており、法直コンクリート部材54は、法直部16(断面H形の鋼材)と連結している。
【0112】
このため、本第5実施形態に係る補強構造50は、既設堤体12の外面12Aに水平外力が加わったときの転倒に対する抵抗モーメントについての補強効果が、第4実施形態よりも安定的に発揮しやすくなっている。
【0113】
一方、
図14に示すように、本第5実施形態に係る補強構造50は、既設堤体12の下端よりも下方に位置している部位がない。
【0114】
このため、第5実施形態に係る補強構造50が受けることができる受働土圧は、補強部52を設ける前に既設堤体12が受けることができた受働土圧と変わらず、滑動に対する受働土圧による補強効果は期待できない。
【0115】
したがって、第5実施形態に係る補強構造50は、抵抗モーメントについての補強効果のみが要求され、受働土圧についての補強効果が要求されない場合に、好適な態様である。
【0116】
(6)第6実施形態
図15は、本発明の第6実施形態に係る既設壁状構造体の補強構造60(以下、単に「補強構造60」と記すことがある。)を示す斜視図である。本第6実施形態において補強の対象とする既設壁状構造体は既設堤体12である。なお、補強構造60および既設堤体12は法線方向に連なって延びているが、
図15においては、法線方向に所定の長さ範囲(既設堤体12の1ブロック分)だけ記載している。また、補強構造60の補強部62は、その全体が地面92以下の領域に設けられているが、図示をわかりやすくする都合上、
図15においては、補強部62(法直部16および鉛直部64)を、土壌90で覆われていないむき出しの状態で描いている。
【0117】
第1実施形態に係る補強構造10における鉛直部18は、コンクリート部材で構成されていたが、第6実施形態に係る補強構造60における鉛直部64は、断面H形の鋼材で構成されている。この点以外は、第6実施形態に係る補強構造60は、第1実施形態に係る補強構造10と同様であるので、対応する部材および部位には同一の符号を付して説明は原則として省略する。
【0118】
本第6実施形態に係る補強構造60においては、鉛直部64を構成する断面H形の鋼材の2つのフランジ部の側面が、
図15に示すように、法直部16を構成する断面H形の鋼材の下面に溶接されている。
【0119】
本第6実施形態に係る補強構造60においては、補強部62(法直部16および鉛直部64)が全て鋼材で構成されているので、補強部62の法直部16および鉛直部64を一体的に連結しても軽量であるので、法直部16および鉛直部64を一体的に連結させた状態でも、現場への搬入作業および既設堤体12への取り付け作業が容易であり、本第6実施形態に係る補強構造60は施工性に優れる。
【0120】
したがって、第6実施形態に係る補強構造60は、施工性が重視される場合に好適な態様である。
【0121】
(7)補足
第1、3〜6実施形態に係る補強構造10、34、40、50、60を説明する際に用いた図面に記載した既設堤体12および第2実施形態に係る補強構造30を説明する際に用いた図面に記載した既設堤体32は、どちらも防潮堤の堤体を想定した形状になっているが、本発明の適用対象は既設壁状構造体であり、本発明の適用対象には、防潮堤だけでなく、具体的には例えば、土壌の横圧を受け止める擁壁等も含まれる。
【解決手段】本壁部(堤体本壁部12X)を有する既設壁状構造体(既設堤体12)と、補強部14とを有し、前記既設壁状構造体(既設堤体12)が補強部14によって補強されてなる既設壁状構造体の補強構造であって、補強部14は、本壁部(堤体本壁部12X)の壁面のうち、水平方向の外力が作用する壁面12Aとは反対側の壁面である背面12Bに取り付けられていて、かつ、補強部14の全体が地面92以下の領域に設けられている。