特許第6743969号(P6743969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6743969放射線画像処理装置および放射線画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6743969
(24)【登録日】2020年8月3日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】放射線画像処理装置および放射線画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20200806BHJP
【FI】
   A61B6/00 350M
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-513158(P2019-513158)
(86)(22)【出願日】2017年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2017015882
(87)【国際公開番号】WO2018193576
(87)【国際公開日】20181025
【審査請求日】2019年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】大野 義典
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−89429(JP,A)
【文献】 特開2014−207958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線が被検体を透過する際に生じる散乱成分を取り除くことによる信号低下率、および、前記被検体の厚みと散乱線量との対応関係を予め保持するデータベース部と、
放射線画像の撮影時に、前記被検体を透過した前記放射線に含まれる散乱線を除去するための部材を含むグリッドが配置されていない状態において前記被検体に照射された前記放射線により撮像される、前記散乱線の信号が含まれる前記放射線画像の輝度値に基づいて、前記データベース部に記憶された前記放射線の信号低下率に関する特性を調整する調整係数を算出するとともに、算出された前記調整係数に基づいて、前記グリッドが配置されていない状態において撮像された前記放射線画像に重畳した前記散乱線の信号成分を除去する画像処理演算部とを備え
前記調整係数は、特定の撮影条件下における理想的な輝度値と実際に撮像された前記放射線画像に基づく輝度値との比であり、
前記理想的な輝度値は、前記被検体の厚みと散乱線量との対応関係とに基づいて決定され、
前記放射線画像に基づく輝度値は、前記信号低下率に基づいて決定される、放射線画像処理装置。
【請求項2】
前記画像処理演算部は、下記の式(1)に基づいて、前記グリッドが配置されていない状態において撮像された前記放射線画像に重畳した前記散乱線の信号成分を除去して、前記グリッドが配置されていたと仮定した場合を推定した輝度値Iest(x,y)を算出するように構成されている、請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【数10】
ここで、Inogrid(x,y)は、前記グリッドが配置されていない状態において撮像される、前記散乱線の信号が含まれる前記放射線画像の座標(x,y)における輝度値であり、Dprimは前記グリッドの通過に起因する信号低下率あり、Dscatは、前記データベース部に記憶された前記放射線の信号低下率であり、Iidealは、特定の撮影条件下における理想的な輝度値であり、Irealは、実際に撮像された前記放射線画像に基づく輝度値であり、Iideal/Irealは、前記調整係数である。
【請求項3】
前記データベース部は、前記グリッドが配置されていない状態において撮像された前記放射線画像における、前記放射線が前記被検体を透過しない非被検体領域に対応する画素の輝度値に対する、前記放射線が前記被検体を透過した被検体領域に対応する画素の輝度値の低下率に相当する前記被検体の厚みと、前記散乱成分を取り除くことによる信号低下率との間の関係の特性を保持するように構成されており、
前記画像処理演算部は、前記データベース部に保持される前記被検体の厚みと前記放射線の信号低下率との間の関係の特性と、実際に撮像された前記放射線画像の輝度値とに基づいて、Irealを算出するように構成されている、請求項2に記載の放射線画像処理装置。
【請求項4】
前記画像処理演算部は、Dprimを、前記グリッドが配置されていない状態において撮像された前記放射線画像における前記非被検体領域の輝度値に対する、前記グリッドが配置されている状態において予め撮像された前記放射線画像における前記非被検体領域の輝度値の比に基づいて算出するように構成されている、請求項3に記載の放射線画像処理装置。
【請求項5】
前記画像処理演算部は、Dscatを、前記グリッドが配置されていない状態において撮像された前記放射線画像における前記非被検体領域の輝度値と各画素の輝度値との比に基づいて算出するように構成されている、請求項4に記載の放射線画像処理装置。
【請求項6】
前記画像処理演算部は、下記の式(2)に基づいて、前記被検体の厚みに相当する被検体厚み指標を算出するように構成されている、請求項5に記載の放射線画像処理装置。
【数11】
ここで、Inogrid(air)は、前記グリッドが配置されていない状態において撮像された前記放射線画像における前記非被検体領域の輝度値である。
【請求項7】
放射線が被検体を透過する際に生じる散乱線に起因する前記放射線の信号低下率、および、前記被検体の厚みと散乱線量との対応関係を予め保持するステップと、
放射線画像の撮影時に、前記被検体を透過した前記放射線に含まれる前記散乱線を除去するための部材を含むグリッドが配置されていない状態において前記被検体に照射された前記放射線により撮像される、前記散乱線の信号が含まれる前記放射線画像の輝度値に基づいて、前記放射線の信号低下率に関する特性を調整する調整係数を算出するステップと、
算出された前記調整係数に基づいて、前記グリッドが配置されていない状態において撮像された前記放射線画像に重畳した前記散乱線の信号成分を除去するステップとを備え
前記調整係数は、特定の撮影条件下における理想的な輝度値と実際に撮像された前記放射線画像に基づく輝度値との比であり、
前記理想的な輝度値は、前記被検体の厚みと散乱線量との対応関係とに基づいて決定され、
前記放射線画像に基づく輝度値は、前記信号低下率に基づいて決定される、放射線画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像処理装置および放射線画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線画像における散乱線に応じた信号成分を除去する画像処理部(画像処理演算部)を備える放射線画像処理装置が開示されている。このような放射線画像処理装置は、たとえば、特開2014−207958号公報に開示されている。
【0003】
従来、放射線画像処理装置では、撮影時に被検体に入射した放射線が被検体内で散乱(散乱線)し、撮影された放射線画像においてボケが生じたり、コントラストが低下する(放射線画像の画質が低下する)という不都合があった。そこで、従来では、放射線画像の画質を向上させるために、放射線を透過しにくい鉛等が格子状に配置されたグリッドを、被検体と放射線を検出する検出器との間に配置することにより、放射線画像の画質の低下の原因となる散乱線の影響を低減することが行われていた。
【0004】
しかしながら、グリッドを適切に使用するためには、グリッドと放射線源との間の距離や、放射線源に対するグリッドの向き等を正確に合わせる必要があった。特に、可搬型の放射線撮像装置では、比較的重量の大きいグリッドを、被検体(患者等)と検出器との間に配置した状態で撮影するため、撮影者および被検体(患者等)の負担が大きいという不都合があった。
【0005】
そこで、特開2014−207958号公報の放射線撮像装置では、グリッドを使用せずに、実際にグリッドを使用して撮影を行った場合と同様の散乱線の影響を除去することが可能な構成が提案されている。この放射線撮像装置では、グリッドの仮想的な特性である仮想グリッド特性を取得する特性取得手段と、仮想グリッド特性に基づいて、グリッドを使用しない状態で実際に撮影された放射線画像から被検体における散乱に起因する信号を除去する処理を行う散乱線除去手段とを備えている。具体的には、仮想グリッド特性は、グリッドの情報(グリッド比、グリッド密度、グリッドの素材等)、被検体についての情報(被写体の撮影部位(腹部、頭部等)等)、放射線画像の取得時の撮影条件(撮影の線量、撮影距離、放射線検出部の種類等)等に基づいて定められる、散乱線透過率などである。なお、グリッドの情報、被検体についての情報、放射線画像の取得時の撮影条件等は、ユーザにより放射線撮像装置に入力される。すなわち、ユーザにより入力されるグリッドの情報、被検体についての情報、放射線画像の取得時の撮影条件等に応じた、仮想グリッド特性である散乱線透過率が取得される。そして、仮想グリッド特性に基づいて、放射線画像の特定の周波数成分に対して処理を行うことにより、被検体における散乱に起因する信号が除去されている。これにより、グリッドを使用することなく、散乱に起因する信号が除去された放射線画像を得ることが可能になる。
【0006】
しかしながら、特開2014−207958号公報の放射線撮像装置では、グリッドの情報、被検体についての情報、放射線画像の取得時の撮影条件等を、ユーザが入力する必要があるため、ユーザの負担が大きくなるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−207958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ユーザの負担を軽減しながら、実際にグリッドを使用して撮影を行った場合と同様の散乱線が除去された放射線画像を取得可能な放射線画像処理装置および放射線画像処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面における放射線画像処理装置は、放射線が被検体を透過する際に生じる散乱成分を取り除くことによる信号低下率、および、被検体の厚みと散乱線量との対応関係を予め保持するデータベース部と、放射線画像の撮影時に、被検体を透過した放射線に含まれる散乱線を除去するための部材を含むグリッドが配置されていない状態において被検体に照射された放射線により撮像される、散乱線の信号が含まれる放射線画像の輝度値に基づいて、データベース部に記憶された放射線の信号低下率に関する特性を調整する調整係数を算出するとともに、算出された調整係数に基づいて、グリッドが配置されていない状態において撮像された放射線画像に重畳した散乱線の信号成分を除去する画像処理演算部とを備え、調整係数は、特定の撮影条件下における理想的な輝度値と実際に撮像された放射線画像に基づく輝度値との比であり、理想的な輝度値は、被検体の厚みと散乱線量との対応関係とに基づいて決定され、放射線画像に基づく輝度値は、信号低下率に基づいて決定されるように構成する。
【0010】
この発明の第1の局面による放射線画像処理装置では、画像処理演算部を、放射線画像の撮影時に、被検体を透過した放射線に含まれる散乱線を除去するための部材を含むグリッドが配置されていない状態において被検体に照射された放射線により撮像される、散乱線の信号が含まれる放射線画像の輝度値に基づいて、予めデータベース部に記憶された放射線の信号低下率に関する特性を調整する調整係数を算出するともに、算出された調整係数に基づいて、グリッドが配置されていない状態において撮像された放射線画像に重畳した散乱線の信号成分を除去するように構成する。これにより、ユーザが、グリッド、被検体、放射線画像の取得時の撮影条件等を入力することなく、実際に撮像された放射線画像の輝度値に基づいて算出される調整係数を算出することができる。また、算出された調整係数を用いることにより放射線の散乱成分を取り除くことによる信号低下率に関する特性が調整されるので、撮像された放射線画像の各画素の散乱線の信号成分が除去された輝度値をさらに調整し、理論的に得られる値と実際に撮像される放射線画像から得られる値とのずれに基づいて調整された正確な輝度値を取得することができる。したがって、ユーザ(撮像者および被検体である患者)の負担を軽減しながら、グリッドを使用せずに実際にグリッドを使用して撮影を行った場合と同様の散乱線が除去された放射線画像を取得することができる。
【0011】
上記第1の局面による放射線画像処理装置において、好ましくは、画像処理演算部は、下記の式(1)に基づいて、グリッドが配置されていない状態において撮像された放射線画像に重畳した散乱線の信号成分を除去して、グリッドが配置されていたと仮定した場合を推定した輝度値Iest(x,y)を算出するように構成されている。
【数1】
ここで、Inogrid(x,y)は、グリッドが配置されていない状態において撮像される、散乱線の信号が含まれる放射線画像の座標(x,y)における輝度値であり、Dprimはグリッドの通過に起因する信号低下率であり、Dscatは、データベース部に記憶された放射線の信号低下率であり、Iidealは、特定の撮影条件下における理想的な輝度値であり、Irealは、実際に撮像された放射線画像に基づく輝度値であり、Iideal/Irealは、調整係数である。このように構成すれば、上記の式(1)に基づいて、容易に、輝度値Iest(x,y)を算出することができる。
【0012】
上記第1の局面による放射線画像処理装置において、好ましくは、データベース部は、グリッドが配置されていない状態において撮像された放射線画像における、放射線が被検体を透過しない非被検体領域に対応する画素の輝度値に対する、放射線が被検体を透過した被検体領域に対応する画素の輝度値の低下率に相当する被検体の厚みと、散乱成分を取り除くことによる信号低下率との間の関係の特性を保持するように構成されており、画像処理演算部は、データベース部に保持される被検体の厚みと放射線の信号低下率との間の関係の特性と、実際に撮像された放射線画像の輝度値とに基づいて、Irealを算出するように構成されている。このように構成すれば、放射線が被検体を透過せずに直接入射する画素の輝度値および放射線が被検体を透過して入射する画素の輝度値に基づいて、被検体のおよその厚みを実際に撮像された放射線画像から取得することができる。そして、取得された被検体のおよその厚みに対して、被検体の厚みと放射線の信号低下率との間の関係の特性を用いることにより、放射線の信号低下率Dscatを取得することができるので、実際に撮像された被検体のおよその厚みに対する放射線の信号低下率Dscatを用いて輝度値Irealを算出することができる。すなわち、実際に撮像された放射線画像に基づく輝度値Irealを算出することができる。そして、実際に撮像された放射線画像に基づく輝度値Irealと、特定の撮影条件下における一意に定まる理想的な輝度値Iidealとのズレを調整する調整係数Iideal/Irealを取得することができる。
【0013】
上記第1の局面による放射線画像処理装置において、好ましくは、画像処理演算部は、Dprimを、グリッドが配置されていない状態において撮像された放射線画像における非被検体領域の輝度値に対する、グリッドが配置されている状態において予め撮像された放射線画像における非被検体領域の輝度値の比に基づいて算出するように構成されている。このように構成すれば、放射線がグリッドを通過することに起因する信号低下率であるDprimの値を、ユーザが入力することなく実際に撮像された画像に基づいて自動的に求めることができる。この結果、入力の手間を省くことができる。
【0014】
上記第1の局面による放射線画像処理装置において、好ましくは、画像処理演算部は、Dscatを、グリッドが配置されていない状態において撮像された放射線画像における非被検体領域の輝度値と各画素の輝度値との比に基づいて算出するように構成されている。このように構成すれば、被検体における散乱成分を取り除くことによる信号低下率であるDscatの値を、ユーザが入力することなく実際に撮像された放射線画像に基づいて自動的に求めることができる。この結果、入力の手間を省くことができる。
【0015】
上記第1の局面による放射線画像処理装置において、好ましくは、画像処理演算部は、下記の式(2)に基づいて、被検体の厚みに相当する被検体厚み指標を算出するように構成されている。
【数2】
ここで、Inogrid(air)は、グリッドが配置されていない状態において撮像された放射線画像における非被検体領域の輝度値である。このように構成すれば、放射線画像(画素の輝度値)から、被検体の実際の厚みを計測することなく、容易に被検体の厚みに相当する被検体厚み指標を取得することができる。
【0016】
この発明の第2の局面における放射線画像処理方法は、放射線画像の撮影時に、被検体を透過した放射線に含まれる散乱線を除去するために散乱線を遮蔽するための部材と散乱線以外の放射線を透過するための部材とが交互に配置された格子状のグリッドが配置されていない状態において被検体に照射された放射線により撮像される、散乱線の信号が含まれる放射線画像の輝度値と、グリッドが配置されている状態で予め取得される、散乱線が除去された放射線画像の輝度値とに基づいて、被検体を透過する際に被検体における散乱に起因する放射線の信号強度の低下を表す係数を算出するステップと、係数を算出するステップにより算出された係数に基づいて、放射線画像における散乱線に応じた信号成分を除去するステップとを備える。
【0017】
上記目的を達成するために、この発明の第2の局面における放射線画像処理方法は、放射線が被検体を透過する際に生じる散乱成分を取り除くことによる信号低下率、および、被検体の厚みと散乱線量との対応関係を予め保持するステップと、放射線画像の撮影時に、被検体を透過した放射線に含まれる散乱線を除去するための部材を含むグリッドが配置されていない状態において被検体に照射された放射線により撮像される、散乱線の信号が含まれる放射線画像の輝度値に基づいて、放射線の信号低下率に関する特性を調整する調整係数を算出するステップと、算出された調整係数に基づいて、グリッドが配置されていない状態において撮像された放射線画像に重畳した散乱線の信号成分を除去するステップとを備え、調整係数は、特定の撮影条件下における理想的な輝度値と実際に撮像された放射線画像に基づく輝度値との比であり、理想的な輝度値は、被検体の厚みと散乱線量との対応関係とに基づいて決定され、放射線画像に基づく輝度値は、信号低下率に基づいて決定される
【0018】
この発明の第2の局面による放射線画像処理方法では、放射線画像の撮影時に、被検体を透過した放射線に含まれる散乱線を除去するための部材を含むグリッドが配置されていない状態において被検体に照射された放射線により撮像される、散乱線の信号が含まれる放射線画像の輝度値に基づいて、予めデータベース部に記憶された放射線の信号低下率に関する特性を調整する調整係数を算出するステップと、算出された調整係数に基づいて、グリッドが配置されていない状態において撮像された放射線画像に重畳した散乱線の信号成分を除去するステップとを備えるように構成する。これにより、調整係数を算出するステップにおいて、ユーザが、グリッド、被検体、放射線画像の取得時の撮影条件等を入力することなく、実際に撮像された放射線画像の輝度値に基づいて算出することができる。また、散乱線の信号成分を除去するステップにおいて、算出された調整係数を用いることにより放射線の散乱成分を取り除くことによる信号低下率に関する特性が調整されるので、撮像された放射線画像の各画素の散乱線の信号成分が除去された輝度値をさらに調整し、理論的に得られる値と実際に撮像される放射線画像から得られる値とのずれに基づいて調整された正確な輝度値を取得することができる。したがって、上記処理を行うことによりユーザの負担を軽減しながら、グリッドを使用せずに実際にグリッドを使用して撮影を行った場合と同様の散乱線が除去された放射線画像を取得することが可能な放射線画像処理方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上記のように、受光面を保護する表面膜における光の干渉を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態による放射線画像処理装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態によるグリッドを説明するための図である。
図3】一実施形態による被検体と輝度値との関係を示すグラフの一例である。
図4】一実施形態による被検体の厚みと散乱線量との関係を示すグラフの一例である。
図5】一実施形態による散乱線除去処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
[実施形態]
図1図5を参照して、本発明の一実施形態による放射線画像処理装置100が用いられる放射線撮像装置101の構成について説明する。
【0023】
(全体構成)
まず、図1に基づいて、放射線撮像装置101の全体構成について説明する。図1に示すように、放射線撮像装置101は、放射線照射部1と、放射線検出部2と、載置台4と、主制御部5と、表示部102と、放射線画像処理装置100を備えている。
【0024】
載置台4は、被検体S(たとえば、患者)を載置可能に構成されている。
【0025】
放射線照射部1は、たとえば、X線管により構成されている。また、放射線照射部1は、管電圧をかけることにより放射線(X線)を発生し、被検体Sに放射線を照射することが可能に構成されている。放射線検出部2は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector:平面型検出器)により構成されている。また、放射線検出部2は、被検体S等を透過して入射する放射線を検出し、各画素に対して入射した放射線の強度に基づいて、信号を出力するように構成されている。
【0026】
主制御部5は、たとえば、PC(Personal Computer)等の情報処理装置により構成されている。また、主制御部5は、放射線照射部1による放射線の照射強度を制御可能に構成されている。
【0027】
表示部102は、撮像された放射線画像等の表示の他、放射線撮像装置101および放射線画像処理装置100の操作に必要となる情報等を表示するように構成されている。
【0028】
放射線画像処理装置100は、画像処理演算部6と、記憶部7とを備えている。なお、記憶部7は、請求の範囲における「データベース部」の一例である。
【0029】
画像処理演算部6は、CPU(中央演算処理装置)等の情報処理装置により画像処理専用の情報処理装置として構成されている。また、画像処理演算部6は、放射線検出部2から出力された信号(画素の輝度値)に対して処理を行うことにより、放射線画像を取得するために用いられる係数を取得するように構成されている。また、画像処理演算部6は、放射線検出部2から出力された信号と画像処理演算部6により取得された係数とに基づいて画像処理を行い、グリッド8(後述)を配置していたと仮定した場合を推定した放射線画像Xestを取得するように構成されている。なお、画像処理演算部6は、主制御部5と別体として設けずに、主制御部5と同一のCPUに画像処理プログラムを実行させることにより画像処理演算部6として機能させてもよい。画像処理演算部6の具体的な処理内容については後述する。
【0030】
記憶部7は、HDD(ハードディスクドライブ)およびメモリ等により構成されており、画像処理演算部6で実行されるプログラム71と、信号の低下率から取得される被検体の厚みと散乱線量との対応関係(後述)や、放射線検出部2から出力される信号、画像処理演算部6から出力される放射線画像等のデータ72等が格納されている。
【0031】
(散乱線除去処理)
次に、図2図5に基づいて、グリッド8(図2参照)を配置しない状態で撮像された散乱線の信号成分を含む放射線画像Xnogridを、散乱線の信号成分が除去された放射線画像Xestとするための散乱線除去処理について説明する。なお、散乱線除去処理は、請求の範囲の「放射線画像処理方法」の一例である。
【0032】
まず、グリッド8について簡単に説明する。グリッド8は、図2に示すように、散乱線を遮蔽するための部材により形成される複数の遮蔽部8aと、散乱線以外の放射線を透過するための部材により形成される複数の透過部8bとを含んでいる。また、グリッド8の有する遮蔽部8aおよび複数の透過部8bは、たとえば、各々が放射線照射部1の方向に向けて延びるように形成されるとともに、交互に配置されている。なお、散乱線を遮蔽するための部材は、たとえば、鉛等により構成されている。また、散乱線以外の放射線を透過するための部材は、たとえば、アルミニウム等により構成されている。
【0033】
散乱線を除去するために被検体Sと放射線検出部2との間にグリッド8を配置して放射線画像を撮像する場合、散乱線(被検体Sにおいて散乱された放射線)の方向が遮蔽部8aの延びる方向と交差する方向に変えられるため、散乱線は遮蔽部8aに入射し、遮蔽部8aによりグリッド8を通過することなく吸収され、遮られる(たとえば、放射線P)。したがって、散乱線のほとんどは、グリッド8を透過することなく取り除かれる。一方、被検体Sにおいて散乱されることなく透過した放射線の方向は、透過部8bおよび遮蔽部8aの延びる方向と一致しているため、散乱線以外の放射線は、(遮蔽部8aに向けて照射された一部が取り除かれるものの)透過部8bを透過してグリッド8を通過する。すなわち、グリッド8を配置することにより散乱線を遮蔽することが可能である。
【0034】
放射線画像処理装置100では、グリッド8を配置せずに撮像された放射線画像Xnogridに対して、放射線画像Xnogridの輝度値Inogridに基づいて画像処理を行うことにより、仮にグリッド8を配置した場合と同様の散乱線に応じた信号成分が除去された(補正された)放射線画像Xestを取得することができる。また、過去にグリッド8を配置した状態で撮像した画像と、グリッド8配置していない状態で撮像した画像とをほぼ同一の条件下で比較することが可能に構成されている。
【0035】
ここで、本実施形態では、放射線が被検体Sを透過する際に生じる散乱線に起因する放射線の信号低下率Dscatに関する特性を予め保持する記憶部7と、放射線画像の撮影時に、被検体Sを透過した放射線に含まれる散乱線を除去するための部材を含むグリッド8が配置されていない状態において被検体Sに照射された放射線により撮像される、散乱線の信号が含まれる放射線画像Xnogridの輝度値に基づいて、記憶部7に記憶された放射線の信号低下率Dscatに関する特性を調整する調整係数Ireal/Iidealを算出するとともに、算出された調整係数Ireal/Iidealに基づいて、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridに重畳した散乱線の信号成分を除去する画像処理演算部6とを備える。
【0036】
具体的には、画像処理演算部6は、グリッド8が配置されていない状態で撮像された放射線画像Xnogridの輝度値InogridからDscatを算出するためのいくつかの特性(後述)や、調整係数Ireal/Iidealを算出するための関係性(後述)を記憶部7から取得する。そして、輝度値Inogridを処理することにより、被検体Sにおける散乱に起因する放射線の信号強度の低下を表す信号低下率DscatとDscatを調整する調整係数Ireal/Iidealを取得する。そして、画像処理演算部6は、取得したDscatやIreal/Iidealに基づいて、放射線画像Xnogridから散乱線の信号成分を除去した場合を推定した各画素の輝度値Iestを取得し、グリッド8を配置して撮像した場合と同等の散乱線が除去された放射線画像Xestを取得する。
【0037】
また、本実施形態では、画像処理演算部6は、下記の式(3)に基づいて、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridに重畳した散乱線の信号成分を除去して、グリッドが配置されていたと仮定した場合を推定した輝度値Iest(x,y)を算出するように構成されている。
【数3】
これにより、上記の式(3)に基づいて、容易に、輝度値Iest(x,y)を算出することができる。ここで、Inogrid(x,y)は、グリッドが配置されていない状態において撮像される、散乱線の信号が含まれる放射線画像の座標(x,y)における輝度値であり、Dprimはグリッドの通過に起因する信号低下率であり、Dscatは、記憶部7に記憶された放射線の信号低下率であり、Iidealは、特定の撮影条件下における理想的な輝度値であり、Irealは、実際に撮像された放射線画像に基づく輝度値である。
【0038】
具体的には、Inogrid(x,y)は、グリッドが配置されていない状態で実際に撮像された放射線画像Xnogridの各画素(座標(x,y))における輝度値である。また、Dprimは、散乱線以外の放射線が、グリッド8を配置した場合のグリッド8の透過部8b(放射線を透過させるための部材)を通過する際に、透過部8bにより吸収を受けて信号強度(輝度値)が低下する比率をあらわしている。また、Dscatは、照射された放射線が被検体Sにおいて散乱されることにより信号強度(輝度値)が低下する比率をあらわしている。なお、Iideal、Irealおよび調整係数Iideal/Irealについては後述する。
【0039】
また、第1実施形態では、画像処理演算部6は、Dprimを、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridにおける非被検体領域の輝度値Inogrid(air)に対する、グリッド8が配置されている状態において予め撮像された放射線画像Xgridにおける非被検体領域の輝度値Igrid(air)の比に基づいて算出するように構成されている。
【0040】
具体的には、被検体Sを透過せず(素抜けして)放射線検出部2に入射する放射線の検出強度に対応する非被検体領域の画素の輝度値Igrid(air)およびInogrid(air)は、被検体Sによる散乱の影響を受けていない。ここで、グリッド8が配置されている状態で撮像された輝度値Igrid(air)は、グリッド8の透過部8bを通過する際に、透過部8bを形成する部材によって吸収される。そのため、グリッド8による吸収に起因する信号低下率Dprimは、下記の式(4)のように示される。
【数4】
なお、Dprimは、放射線画像Xnogrid全体(全画素)において共通し、座標(x,y)に依存しない値である。
【0041】
ここで、非被検体領域のIgrid(air)(Inogrid(air))は、被検体Sを透過せず(素抜けして)直接的に放射線検出部2に入射する放射線の強度に対応する非被検体領域の画素の輝度値である。そのため、各々の画像全体において最も輝度値が高い領域となる。そのため、画像処理演算部6は、たとえば、Igrid(air)(Inogrid(air))を、画像中の輝度値がある所定の閾値を超えた場合に、被検体Sに入射することなしに(損失を起こさず)放射線検出部2に直接入射した非被検体領域とみなし、閾値を超えた輝度値Igrid(x,y)(Inogrid(x,y))を平均することにより取得するように構成されている。このように平均することで、放射線照射部1から照射される放射線(X線)の強度ムラに起因する輝度値のバラツキを抑制することができる。なお、グリッド8を配置して予め取得する放射線画像Xgridにおいては、非被検体領域の輝度値のみが必要となるので、被検体Sを載置せずに撮像してもよい。
【0042】
また、第1実施形態では、画像処理演算部6は、Dscat(x,y)を、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridにおける非被検体領域の輝度値Inogrid(air)と各画素の輝度値Inogrid(x,y)との比に基づいて算出するように構成されている。
【0043】
具体的には、上記のように、撮影画像中の座標(x,y)において、輝度値Inogrid(x,y)は、被検体Sの厚みTと関連している(図3参照)。また、被検体Sの厚みTは、被検体Sにおける散乱によってどの程度信号線が低下したかにより取得できる。すなわち、被検体Sの厚みT(x,y)は非被検体領域の輝度値Inogrid(air)と被検体を通過した放射線の入射する位置の輝度値Inogrid(x,y)との比率から求めることができる。
【0044】
ここで、被検体Sにおける散乱成分を取り除くことによる信号低下率Dscat(x,y)は、被検体Sの厚みT(x,y)と関連している。すなわち、Dscat(x,y)は、Inogrid(air)とInogrid(x,y)との比率により、下記の式(5)のように示される。
【数5】
ここで、fは何らかの関数である。なお、Dscat(x,y)は、画素ごとに異なり、座標に依存する値である。
【0045】
なお、記憶部7に記憶されている特性データ(データ72)は、非被検体領域から輝度値の変化率であるInogrid(x,y)のInogrid(air)に対する比率と、被検体Sにおける散乱成分を取り除くことによる信号低下率Dscat(x,y)との一般的な特性を予め保持している。そのため、画像処理演算部6は、特性データと合致するようなDscat(x,y)を算出(取得)する。
【0046】
また、本実施形態では、画像処理演算部6は、下記の式(6)に基づいて、被検体Sの厚みTに相当する被検体厚み指標αを算出するように構成されている。
【数6】
【0047】
具体的には、被検体厚み指標αは、放射線画像Xnogridにおいて、被検体Sを透過していない放射線が直接到達する画素の位置における輝度値Inogrid(air)と、被検体Sを透過した放射線が到達する画素の位置を含む任意の位置に対応する座標(x,y)における輝度値Inogrid(x,y)との差(減少量)を、被検体Sを透過せず直接到達した場合の輝度値Inogrid(air)で除算することによって規格化した値となっている。α(x,y)は、各座標(x,y)により異なる値であり、被検体Sの座標(x,y)に対応する部分の厚みT(x,y)を輝度値Inogrid(x,y)であらわしたおよその値になっている。
【0048】
ここで、被検体の厚みT(x,y)は、被検体厚み指標α(x,y)とおおよそ比例していると近似することにより、下記の式(7)のように示される。
【数7】
ここで、cは正の比例定数である。
【0049】
また、被検体Sにおける放射線の散乱に起因する信号の低下率を、被検体厚み指標α(x,y)に基づいて算出することもできる。被検体厚み指標α(x,y)は、下記の式(8)のように示される。
【数8】
ここで、gは何らかの関数である。
【0050】
また、本実施形態では、記憶部7は、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridにおける、放射線が被検体Sを透過しない非被検体領域に対応する画素の輝度値Inogrid(air)に対する、放射線が被検体Sを透過した被検体領域に対応する画素の輝度値Inogrid(x,y)の低下率に相当する被検体Sの厚みTと、散乱線に起因する放射線の信号低下率Dscatとの間の関係の特性を保持するように構成されており、画像処理演算部6は、記憶部7に保持される被検体Sの厚みTと放射線の信号低下率である被検体厚み指標α(x,y)との間の関係の特性から求められる信号低下率Dscat(x,y)と、実際に撮像された放射線画像Xnogridの輝度値Inogridとに基づいて、Irealを算出するように構成されている。
【0051】
具体的には、放射線画像Xnogridの全体(または、被検体領域の全体)の輝度値Inogrid(x,y)を平均することにより、放射線画像Xnogrid全体において組成および厚みTが一様な被検体Sが撮像されたとみなした場合の(平均値である)輝度値Inogrid(ave)を取得することができる(図3参照)。そして、Inogrid(ave)を下記の式(9)に代入することにより、グリッド8を配置したと仮定した場合の実際の撮影データXnogridに基づいた推定値の平均的な値であるIrealを取得することができる。
【数9】
【0052】
ここで、上記のように、被検体Sを通過する放射線の散乱線量Qは、被検体Sの厚みTと関連して変化する(図4参照)。具体的には、散乱線量Qは、被検体Sの厚みTが比較的小さい間は、厚みTが増加するのに伴って増加する。しかしながら、被検体Sの厚みTがある程度大きくなると、散乱されずに到達できる放射線の量自体が減ることを反映して、厚みTが増加するのに伴って減少する。すなわち、図4に示すように、散乱線量Qは、厚みTの増加に伴って増加から減少に転じる山型(上に凸)のグラフとなる。このような被検体Sの厚みTと散乱線量Qとの対応関係を予め取得しておくことにより、各画素の位置する座標における被検体Sの厚みT(x,y)から、対応する位置の散乱線量Q(x,y)を取得することができる。なお、被検体の厚みTと散乱線量Qとの対応関係は、記憶部7に記憶されている。
【0053】
また、上記した被検体Sを一様とみなした場合の平均的な輝度値Inogrid(ave)から、記憶部7に記憶された特定の撮影条件による上記の対応関係に基づいて、被検体Sのおよその厚みT(ave)を求めることができる。すなわち、およその厚みT(ave)から理想的な条件下において理論的に導出される散乱線量Qが取得されるので、取得される散乱線量Qから輝度値Iidealを取得することができる。なお、Iidealを取得するために用いる散乱線量Qと厚みTとの対応関係は、理想的な条件下における対応関係である。そのため、遮蔽部8aの撮影条件(たとえば、グリッド8の情報(グリッド比、グリッド密度、グリッドの素材、遮蔽部8aの集束距離等))が不明であったり、特性を得るために用いた被検体Sの密度と実際の撮像対象の被検体Sの密度の違いによるズレや、その他の原因で発生する誤差等が生じることによりIidealは、実際の値からずれることがある。そこで、理想的な条件化で理論的に求められるIidealと、実際の撮影データXnogridに基づいた推定値の平均的な値であるIrealとの比(違い)である調整係数Iideal/Irealをかけて同じく理論的に求められるDscatの値を調整することにより、ずれを調整した正確な演算結果を得ることができる。
【0054】
なお、Iidealを取得するために用いる散乱線量Qと厚みTとの対応関係は、たとえば、アクリル板やファントム(人体模型)を被検体Sとして、被検体S(アクリル板等)の厚みTと検出された輝度値から求められる散乱線量Qとの予め関係性が測定されている対応関係から取得し、記憶部7にデータテーブルとして記憶されている。
【0055】
このようにして求められた、理想的な状況下において成り立つ理論的に求められる値Iidealと、特性データ(実際の測定データ)に基づいて求められるIrealとに基づいて取得される、調整係数Iideal/Irealを乗算することにより、散乱成分を取り除くことによる信号低下率Dscatを調整することができる。すなわち、Dscatに調整係数Iideal/Irealをかけておくことにより、実際の撮影時(放射線画像Xnogridの撮影時)に理論的に算出される値(調整係数を掛けていないDscat)からの調整を行うことで、放射線照射部1と放射線検出部2との位置関係のずれや誤差が生じた場合、および、撮影条件が不明の場合(正しく撮影条件を設定できない場合)にも対応することができる。
【0056】
次に、図5に基づいて、散乱線除去処理の手順をフローチャートに沿って説明する。
【0057】
グリッド8が配置されていない状態で撮像された放射線画像Xnogridに対して散乱線除去処理が開始されると、ステップS1に進む。ステップS1において、予め取得(測定)されているグリッド8が配置されている状態で撮像された放射線画像Xgridの非被検体領域の輝度値Igrid(air)と、グリッド8が配置されていない状態で撮像された処理対象となる放射線画像Xnogridの非被検体領域の輝度値Inogrid(air)とが取得され、ステップS2に進む。なお、輝度値Igrid(air)および散乱成分を取り除くことによる信号低下率に関する特性(Dscatと厚みTとの関係等)については、散乱線除去処理開始前に記憶部7に記憶されている。
【0058】
ステップS2において、Igrid(air)およびInogrid(air)に基づいて、直接線の信号低下率であるDprimが取得され、ステップS3に進む。
【0059】
ステップS3において、放射線画像Xnogridの平均的な輝度値Inogrid(ave)と特性データおよび被検体Sの厚みTと散乱線量Qとの関係等から、IrealとIidealが取得される。そして、調整係数Ireal/idealが取得され、ステップS4に進む。
【0060】
ステップS4において、Xnogridの処理対象画素(座標)における輝度値Inogrid(x,y)が取得され、ステップS5に進む。
【0061】
ステップS5において、Inogrid(x,y)およびInogrid(air)に基づいて、処理対象画素における被検体厚み指標α(x,y)が取得され、ステップS6に進む。
【0062】
ステップS6おいて、被検体厚み指標α(x,y)(または、輝度値の変化率Inogrid(x,y)/Inogrid(air))に基づいて、被検体における散乱成分を取り除くことによる信号低下率Dscatが取得され、ステップS7に進む。
【0063】
ステップS7において、上記の式(3)に基づいて、処理対象の画素の輝度値が処理され、グリッドが配置されていた場合を推定した仮想的な輝度値Iest(x,y)が取得され、ステップS8に進む。
【0064】
ステップS8において、全ての画素において処理が実行されていなければ(No)、ステップS4に戻り、全ての画素において処理が実行されていれば(Yes)、散乱線除去処理を終了する。
【0065】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0066】
本実施形態では、上記のように、画像処理演算部6を、放射線画像Xnogridの撮影時に、被検体Sを透過した放射線に含まれる散乱線を除去するための部材を含むグリッド8が配置されていない状態において被検体Sに照射された放射線により撮像される、散乱線の信号が含まれる放射線画像Xnogridの輝度値Inogridに基づいて、予め記憶部7に記憶された放射線の信号低下率Dscatに関する特性を調整する調整係数Iideal/Irealを算出するともに、算出された調整係数Iideal/Irealに基づいて、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridに重畳した散乱線の信号成分を除去するように構成する。これにより、ユーザが、グリッド8、被検体S、放射線画像Xnogridの取得時の撮影条件等を入力することなく、実際に撮像された放射線画像の輝度値に基づいて算出される調整係数Iideal/Irealを算出することができる。また、算出された調整係数Iideal/Irealを用いることにより放射線の散乱成分を取り除くことによる信号低下率Dscatに関する特性が調整されるので、撮像された放射線画像Xnogridの各画素の散乱線の信号成分が除去された輝度値をさらに調整し、理論的に得られる値と実際に撮像される放射線画像Xnogridから得られる値とのずれに基づいて調整された正確な輝度値Iestを取得することができる。したがって、ユーザ(撮像者および被検体Sである患者)の負担を軽減しながら、グリッド8を使用せずに実際にグリッド8を使用して撮影を行った場合と同様の散乱線が除去された放射線画像Xestを取得することができる。
【0067】
また、本実施形態では、上記のように、画像処理演算部6を、上記の式(3)に基づいて、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridに重畳した散乱線の信号成分を除去して、グリッド8が配置されていたと仮定した場合を推定した輝度値Iest(x,y)を算出するように構成する。これにより、上記の式(3)に基づいて、容易に、輝度値Iest(x,y)を算出することができる。
【0068】
また、本実施形態では、上記のように、記憶部7を、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridにおける、放射線が被検体Sを透過しない非被検体領域に対応する画素の輝度値Inogrid(air)に対する、放射線が被検体Sを透過した被検体領域に対応する画素の輝度値Inogrid(x,y)の低下率に相当する被検体Sの厚みTと、散乱線に起因する放射線の信号低下率Dscatとの間の関係の特性を保持するように構成し、画像処理演算部6を、記憶部7に保持される被検体Sの厚みTと放射線の信号低下率である被検体厚み指標α(x,y)との間の関係の特性と、実際に撮像された放射線画像Xnogridの輝度値Inogridとに基づいて、Irealを算出するように構成する。これにより、放射線が被検体Sを透過せずに直接入射する画素の輝度値Inogrid(air)および放射線が被検体Sを透過して入射する画素の輝度値Inogrid(x,y)に基づいて、被検体Sのおよその厚みT(ave)を実際に撮像された放射線画像Xnogridから取得することができる。そして、取得された被検体Sのおよその厚みTに対して、被検体Sの厚みTと放射線の信号低下率である被検体厚み指標α(x,y)との間の関係の特性を用いることにより、放射線の信号低下率Dscatを取得することができるので、実際に撮像された被検体Sのおよその厚みT(ave)に対する放射線の信号低下率Dscatを用いて輝度値Irealを算出することができる。すなわち、実際に撮像された放射線画像Xnogridに基づく輝度値Irealを算出することができる。そして、実際に撮像された放射線画像に基づく輝度値Irealと、特定の撮影条件下における一意に定まる理想的な輝度値Iidealとのズレを調整する調整係数Iideal/Irealを取得することができる。
【0069】
また、本実施形態では、上記のように、画像処理演算部6を、Dprimを、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridにおける非被検体領域の輝度値Inogrid(air)に対する、グリッド8が配置されている状態において予め撮像された放射線画像Xgridにおける非被検体領域の輝度値Igrid(air)の比に基づいて算出するように構成する。これにより、放射線がグリッド8(透過部8b)を通過することに起因する信号低下率であるDprimの値を、ユーザが入力することなく実際に撮像された画像Xnogridに基づいて自動的に求めることができる。この結果、入力の手間を省くことができる。
【0070】
また、本実施形態では、上記のように、画像処理演算部6を、Dscat(x,y)を、グリッド8が配置されていない状態において撮像された放射線画像Xnogridにおける非被検体領域の輝度値Inogrid(air)と各画素の輝度値Inogrid(x,y)との比に基づいて算出するように構成する。これにより、被検体Sにおける散乱成分を取り除くことによる信号低下率であるDscat(x,y)の値を、ユーザが入力することなく実際に撮像された画像Xnogridの輝度値Inogrid(x,y)および輝度値Inogrid(air)に基づいて自動的に求めることができる。この結果、入力の手間を省くことができる。
【0071】
また、本実施形態では、上記のように、画像処理演算部6を、上記の式(6)に基づいて、被検体Sの厚みTに相当する被検体厚み指標α(x,y)を算出するように構成する。これにより、放射線画像Xnogrid(画素の輝度値Inogrid(x,y))から、被検体Sの実際の厚みTを計測することなく、容易に被検体Sの厚みTに相当する被検体厚み指標α(x,y)を取得することができる。
【0072】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0073】
たとえば、上記実施形態では、Iidealを取得するために用いる散乱線量Qと厚みTとの対応関係は、たとえば、予めアクリル板やファントム(人体模型)を被検体Sとした場合において、被検体Sの厚みTと測定された輝度値から求められる散乱線量Qとの対応関係から取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、散乱線量Qと厚みTとの対応関係を、公知の論文等に記載されている対応関係として用いてもよい。また、対応関係を、データテーブルとして記憶するように構成する例を示したが、三角関数等の適当な関数により近似した関数データとして記憶するように構成してもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、Igrid(air)(Inogrid(air))を、放射線画像Xnogrid中の輝度値が所定の閾値を越えた領域の輝度値を平均して取得するように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、非被検体領域の占める割合がある程度大きい場合、Igrid(air)(Inogrid(air))を、放射線画像Xnogridの輝度のヒストグラムに基づいて、極大値(最頻値)や中央値となる輝度値から取得するように構成してもよい。また、被検体Sの撮像部位がわかっている場合、Igrid(air)(Inogrid(air))を非被検体領域に対応する領域の画素の輝度値から取得してもよい。たとえば、胸部を撮像する場合、被検体Sは腕を左右に開き体側から離して撮像されることが多い。そのため、画像の左右下部領域(脇の下に相当する領域)は、被検体Sを透過せずに入射した放射線に対応する非被検体領域となる。また、被検体Sを中心に載置して撮像する場合は、画像の縁部が非被検体領域となる。また、1つの輝度値(たとえば、画像における最大値)から求めてもよい。また、その他の輝度値に対する統計的な方法で算出してもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、Dprimを放射線画像Xnogridの非被検体領域の輝度値Inogrid(air)と、放射線画像Xgridの非被検体領域の輝度値Igrid(air)とから取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では。装置の製造時、出荷時、前回の散乱線除去処理時等に、予め使用するグリッドごとにグリッドの通過に起因する信号低下率Dprimを記憶しておくように構成してもよい。これにより、撮影前に使用するグリッドのプリセットの種別を指定することにより取得することも可能となる。
【0076】
また、上記実施形態では、被検体Sを人体とする例を示したが、被検体Sを人体以外の動物や非生物としてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、説明の便宜上、画像処理演算部6による散乱線除去処理を、「フロー駆動型」のフローチャートを用いて説明したが、本発明はこれに限られない。画像処理演算部6の処理をイベント単位で実行する「イベント駆動型」により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0078】
6 画像処理演算部
7 記憶部(データベース部)
8 グリッド
100 放射線画像処理装置
図1
図2
図3
図4
図5