特許第6743971号(P6743971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6743971
(24)【登録日】2020年8月3日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】光検出器及びそれを備えた分光分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/44 20060101AFI20200806BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20200806BHJP
   G01J 3/02 20060101ALI20200806BHJP
   G01J 3/45 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   G01J1/44 Z
   G01J1/02 N
   G01J3/02 S
   G01J3/45
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-513645(P2019-513645)
(86)(22)【出願日】2018年4月17日
(86)【国際出願番号】JP2018015820
(87)【国際公開番号】WO2018194048
(87)【国際公開日】20181025
【審査請求日】2019年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2017-81793(P2017-81793)
(32)【優先日】2017年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 佳澄
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−38121(JP,A)
【文献】 特開平5−203489(JP,A)
【文献】 特開昭63−53426(JP,A)
【文献】 実開昭60−33630(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3206138(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0043638(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00−11/00
G01N 21/00−21/01、21/17−21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)冷媒を収容する容器と、
b)前記容器内に配置された光導電型検出素子と、
c)前記容器内に配置され、前記光導電型検出素子の温度を測定する測温素子と、
d)前記光導電型検出素子の抵抗値のうち所定の周波数以上の成分を測光信号として取得する測光信号取得手段と、
e)前記光導電型検出素子の全抵抗値を素子抵抗値信号として取得する素子抵抗値取得手段と、
f)前記測温素子によって測定された温度の時間変化と、前記素子抵抗値信号の時間変化とに基づいて前記容器内の冷媒残量が低下しているか否かを判定する判定手段と、
を有することを特徴とする光検出器。
【請求項2】
前記光導電型検出素子が赤外線を検出するものであることを特徴とする請求項1に記載の光検出器。
【請求項3】
a)光源と、
b)前記光源からの光を試料に照射する照射光学系と、
c)前記光源からの光と前記試料との相互作用により得られた光を検出する検出器と、
を有し、
前記検出器が請求項1に記載の光検出器であることを特徴とする分光分析装置。
【請求項4】
前記素子抵抗値取得手段によって前記素子抵抗値信号を取得する際に、前記光導電型検出素子に入射する光束を遮断する遮光手段を有することを特徴とする請求項3に記載の分光分析装置。
【請求項5】
更に、
d)前記検出器への光の導入に伴う前記素子抵抗値信号の時間変化を示す波形を生成する光由来波形生成手段と、
e)前記光由来波形生成手段によって生成された波形から直流成分を抽出する直流成分抽出手段と、
を有し、
前記判定手段が、前記直流成分の強度の時間変化を、前記素子抵抗値信号の時間変化として用いることを特徴とする請求項3に記載の分光分析装置。
【請求項6】
前記分光分析装置がフーリエ変換型赤外分光光度計であることを特徴とする請求項3に記載の分光分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出器に関し、特に検出素子を液体窒素などの冷媒によって冷却する機能を備えた光検出器及びそれを備えた分光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光検出器のうち、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)において一般的に用いられるものとしてMCT(Mercury cadmium telluride、HgCdTe、テルル化カドミウム水銀)検出器がある(例えば特許文献1を参照)。MCT検出器には光起電力型のものと光導電型のものがあるが、FT−IRにおいては、安価であって、より長波長側の指紋領域(分子に固有の吸収が多数見られる1300〜650 cm-1前後の領域 )に分光感度領域が広がっている光導電型のMCT検出器が使用されることが多い。
【0003】
光導電型MCT検出器は冷却することで高感度化と低ノイズ化を実現可能であり、そのための冷却手段としては液体窒素が用いられることが多い。一般的に、光導電型MCT検出器は、赤外線を透過する窓を備えたデューワとよばれる円筒形の金属容器にMCT半導体から成る光導電型MCT素子(以下、単にMCT素子とよぶ)を収容したMCT検出器ユニットとしてFT−IR等に搭載され、該デューワに液体窒素を導入することで前記MCT素子が冷却される。
【0004】
上記MCT検出器ユニットにおいて、MCT素子に接続される回路の概略を図6に示す。同図に示すようにMCT素子には、該素子にバイアス電流を供給するための定電流源が接続されており、MCT素子への光入射による該素子の抵抗値の低下量に基づいてMCT検出器ユニットに入射した赤外光の光量が求められる。FT−IRでは赤外光の比較的速い光量変化を測定する必要があるため、MCT検出素子から得られた抵抗信号は、まずハイパスフィルタによって所定の周波数以下の成分をカットされ、その後、増幅回路で増幅される。増幅された信号は、測光信号としてパーソナルコンピュータ等のコンピュータから成るデータ処理部(図示略)に送出される。データ処理部では、該測光信号に基づいて前記MCT検出器ユニットへの入射光量が導出され、該入射光量の時間変化をプロットすることによりインターフェログラムとよばれる干渉波形が生成される。
【0005】
上記のようなMCT検出器ユニットでは、例えば白金測温抵抗体等の測温素子をデューワ内に配置したものがある。こうした測温素子を備えたMCT検出器ユニットをFT−IRに搭載することにより、液体窒素の蒸発などによってMCT素子が所定の温度以上になった場合に、液体窒素を補充するようユーザに通知したり、MCT素子に供給するバイアス電流を遮断してMCT素子を保護したりする機能を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平6-56734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記白金測温抵抗体等の測温素子では、温度の上昇に伴って電気抵抗が増大する。そこで、上記のような液体窒素残量低下の通知機能やMCT素子の保護機能を実現する際には、該測温素子の抵抗値が所定の閾値を超えた時点で、MCT素子温度が前記所定の温度以上になったと判定していた。しかし、前記測温素子によって測定される温度と実際のMCT素子の温度には多少のずれが存在することが多く、通常、前記閾値は低めに設定されるため、液体窒素が残っているにもかかわらずユーザに残量低下を通知する誤判定を起こす。また、この誤判定を避けるために前記閾値を比較的高めに設定すると、MCT素子温度が前記所定の閾値以上になったと判定された時点では、すでに相当の温度上昇が生じ、それに伴いMCT素子の感度低下やノイズ増による測光性能の低下が発生した状態となっていることがあった。その結果、ユーザが液体窒素残量低下の通知を認識したときには、すでに測光性能が低下した測定を複数回実施した後となっていることがあり、これは特に自動分析によって複数の試料を連続的に測定する場合に問題となる。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、液体窒素などの冷媒の残量低下を適切なタイミングで検知することのできる光検出器及びそれを備えた分光分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る光検出器は、
a)冷媒を収容する容器と、
b)前記容器内に配置された光導電型検出素子と、
c)前記容器内に配置され、前記光導電型検出素子の温度を測定する測温素子と、
d)前記光導電型検出素子の抵抗値のうち所定の周波数以上の成分を測光信号として取得する測光信号取得手段と、
e)前記光導電型検出素子の全抵抗値を素子抵抗値信号として取得する素子抵抗値取得手段と、
f)前記測温素子によって測定された温度の時間変化と、前記素子抵抗値信号の時間変化とに基づいて前記容器内の冷媒残量が低下しているか否かを判定する判定手段と、
を有することを特徴としている。
【0010】
本発明における光検出器は、赤外線、紫外線、又は可視光などの電磁気的エネルギーを検出するものであって、前記光導電型検出素子は、典型的には上述の光導電型MCT素子であるが、液体窒素等の冷媒による冷却下で使用されるものであれば、その他の素子、例えば光導電型PbS(硫化鉛)素子を用いることもできる。
【0011】
上記の通り、本発明に係る光検出器は、前記光導電型検出素子の抵抗値のうち、従来、測光信号として取得されていた所定の周波数以上の成分のみならず、該所定の周波数未満の成分をも含めた全抵抗値を素子抵抗値信号として取得する素子抵抗値取得手段を備えており、これにより、該光導電型検出素子において感度低下やノイズ増による測光性能の低下が生じているか否かを知ることができる。そのため、前記判定手段により、前記測温素子による測定温度の時間変化と前記光導電型検出素子の全抵抗値の時間変化を監視することにより、前記測定温度が上昇し始めてから、前記光導電型検出素子の感度低下や測光性能の低下が生じるまでの間の任意のタイミングで冷媒残量が低下していると判定することができる。その結果、誤判定を生じることなく冷媒残量の低下を速やかに検知することができるため、適切なタイミングでユーザに冷媒残量の低下を通知したり、光導電型検出素子に供給するバイアス電流を遮断して該素子の保護を図ったりすることが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る分光分析装置は、
a)光源と、
b)前記光源からの光を試料に照射する照射光学系と、
c)前記光源からの光と前記試料との相互作用により得られた光を検出する検出器と、
を有し、
前記検出器が前記光検出器であることを特徴とするものである。
【0013】
上記本発明に係る分光分析装置は、紫外可視分光光度計、紫外可視近赤外分光光度計、分光蛍光光度計、フーリエ変換型赤外分光光度計、ラマン分光装置などいかなるものであってもよいが、本発明は、特にフーリエ変換型赤外分光光度計に好適に適用することができる。この場合、前記光源としては干渉計が使用され、該干渉計で発生した干渉光が試料に照射される。
【0014】
前記分光分析装置は、更に、前記素子抵抗値取得手段によって前記素子抵抗値信号を取得する際に、前記光導電型検出素子に入射する光束を遮断する遮光手段を有するものとすることが望ましい。
【0015】
このような構成によれば、前記素子抵抗値取得手段による前記素子抵抗値信号の取得を、常に、前記光導電型検出素子に光束が入射しない状態で行うことができる。そのため、前記判定部において、前記光導電型検出素子への入射光量に依存しない抵抗値(暗抵抗)の時間変化、すなわち該素子の温度変化に起因する抵抗値の時間変化を求めることができる。
【0016】
前記遮光手段は、分光分析装置の光源から前記光検出器に至る光路上のいずれの位置に設けてもよく、例えば、光検出器の直前に設けるほか、光源(例えば、フーリエ変換型赤外分光光度計の場合は干渉計)や試料室に設けるようにしてもよい。
【0017】
また、前記分光分析装置は、前記遮光手段に代えて、
d)前記検出器への光の導入に伴う前記素子抵抗値信号の時間変化を示す波形を生成する光由来波形生成手段と、
e)前記光由来波形生成手段によって生成された波形から直流成分を抽出する直流成分抽出手段と、
を有し、
前記判定手段が、前記直流成分の強度の時間変化を、前記素子抵抗値信号の時間変化として用いるものとしてもよい。
【0018】
前記直流成分抽出手段によって抽出される直流成分は、光導電型検出素子への入射光量の増減によらない抵抗値の変化、すなわち該素子の温度変化に起因する抵抗値の時間変化を示している。従って、上記構成から成る分光分析装置によれば、上述のような遮光手段を設けることなく、光検出器への光の導入を継続した状態(例えば試料測定の実行中)において、前記素子抵抗値信号の取得を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の通り、本発明に係る光検出器及びそれを備えた分光分析装置によれば、液体窒素などの冷媒の残量低下を適切なタイミングで検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施例に係るフーリエ変換型赤外分光光度計の概略構成図。
図2】同実施形態においてMCT素子と接続される回路の模式図。
図3】Pt温度センサとMCT素子の抵抗値の時間変化を示すグラフ。
図4】本発明の第2の実施例に係るフーリエ変換型赤外分光光度計の概略構成図。
図5】MCT素子抵抗値信号の実測例。
図6】従来の光検出器におけるMCT素子と接続される回路の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本実施例に係るフーリエ変換型赤外分光光度計の概略構成図である。本実施例のフーリエ変換型赤外分光光度計では、気密室110内に配置された赤外光源111からの赤外光は第1集光鏡112を経てコリメータ鏡113に入射され、該コリメータ鏡113により平行光となったあと、ビームスプリッタ114により2つに分割され、一方が固定鏡115、他方が移動鏡116に反射され、再び同一経路に導かれることで干渉光となる。そして、該干渉光は気密室110の外部に配置された第2集光鏡117を介して試料室118に導入され、試料Sに照射された後、前記干渉光と該試料Sの相互作用により発せられた光が第3集光鏡119を介して赤外線検出器ユニット120で検出される。赤外線検出器ユニット120で検出された信号は入射光計測部122を経由してデータ処理部130へ送られ、入射光算出部132によりインターフェログラムが作成される。また、データ処理部130は図示しないコントロール干渉計からのデータを基に移動鏡116の現在位置を算出する。現在位置の情報は制御部140へ送られ、移動鏡116の駆動制御等に利用される。
【0023】
赤外線検出器ユニット120は、前記干渉光を検出するMCT素子120a(本発明における光導電型検出素子に相当)と、該MCT素子120aを冷却するための冷媒を収容するデューワ120b(本発明における容器に相当)と、該デューワ120b内に設けられた白金測温抵抗体120c(本発明における測温素子に相当)からなる。MCT素子120aは図2に示す回路に接続される。MCT素子120aにはバイアス電流を供給するための定電流源が接続されている。MCT素子120aへ赤外光が入射すると、該素子の抵抗値が変化し、この抵抗値の変化に応じた電圧が入射光計測部122(本発明における測光信号取得手段に相当)へ入力される。入射光計測部122に入力された信号は、図2に示すハイパスフィルタ122a及び増幅回路122bを通ることで一定周波数以上の交流成分のみが増幅され、測光信号として出力される。このとき、MCT素子120aの抵抗値の変化量は該素子温度によって変化するが、前記デューワ120b内の冷媒残量が十分であれば、前記MCT素子120aが一定温度に冷却されるため、所望の感度で前記干渉光を検出することができる。
【0024】
検出素子抵抗計測部121(本発明における素子抵抗値取得手段に相当)には入射光計測部122と同じ信号が入力されるが、ハイパスフィルタを通さずに増幅回路へ信号が入力される。従って、入力された信号は直流成分を含む素子抵抗値信号として増幅され、データ処理部130に送られる。データ処理部130内の検出素子抵抗算出部131では前記素子抵抗値信号に基づいてMCT素子120aの素子抵抗値(全抵抗値)が算出される。
【0025】
測温素子抵抗計測部123は前記白金測温抵抗体120cの測温抵抗値信号を測定し、該測温抵抗値信号をデータ処理部130に送る。データ処理部130内の測温素子抵抗算出部133では、測温抵抗値信号を基に白金測温抵抗体120cの抵抗値を算出する。
【0026】
本実施例における冷媒残量の低下を判定する手順を説明する。まず、制御部140は遮断機構駆動部150を操作し、遮光板などから成る光束遮断機構151をMCT素子120aの前に移動させる(これら遮断機構駆動部150及び光束遮断機構151が、本発明における遮光手段に相当する)。これによりMCT素子120aには赤外光源111等から発せられる赤外光が入射しなくなり、素子抵抗値(暗抵抗)は一定値となる。暗抵抗は素子温度に依存して変化するため、該暗抵抗を測定することにより素子温度の変化を推定することができる。この素子抵抗値(暗抵抗)と白金測温抵抗体の抵抗値は試料の測定の合間に自動で又はユーザの指示により定期的に測定され、データ処理部130に蓄積される。
【0027】
図3はMCT素子120aの抵抗値(暗抵抗)と白金測温抵抗体120cの抵抗値の実測値について、縦軸を抵抗値、横軸を液体窒素の保持時間としたグラフである。図3から分かるように、保持時間が9.5時間からしばらくの間は、温度が安定しているため素子抵抗値が安定している。そして、9.92時間付近からMCT素子120aの抵抗値は徐々に上昇し、10.04〜10.06時間付近でピークとなり、その後は徐々に下降している。この抵抗値の上昇はMCT素子の物性によるものであり、液体窒素の温度(77K)よりもやや高い温度で素子抵抗値のピークを有する。つまり、保持時間が9.94〜10.24時間の時間帯で、MCT素子120aは高い感度で干渉信号を検出する。そして保持時間が10.24時間を越えると、液体窒素の残量が十分な状態(9.94時間よりも前の時間)よりも素子抵抗値が低くなり、MCT素子120aの感度も低下する。
【0028】
一方、白金測温抵抗体120cの抵抗値は、9.96時間付近から徐々に上昇しているが、素子抵抗値の測定結果と比較して上昇を始める時間がわずかに遅い。これは白金測温抵抗体120cの測温位置がデューワ120b内部であり、MCT素子120aに接触して測温していないことが原因である。このような時間的な遅れがあるため正確な温度測定にこの抵抗値を利用することは難しいが、時間経過に応じて上昇し続けていることから、液体窒素残量の低下により素子の温度が上昇しているか否かの判定に使用することは可能である。
【0029】
データ処理部130内の冷媒残量判定部134(本発明における判定手段に相当)はこれら2つの抵抗値変化を基に冷媒残量が低下している可能性があるかを判定する。図3の例では素子抵抗値と白金測温抵抗体の抵抗値の両方について、事前にそれぞれ設定された閾値を越えると冷媒残量が低下していると判定する。冷媒残量判定部134により冷媒残量が低下していると判定されると、データ処理部130は制御部140に冷媒残量低下を通知し、制御部140は補充タイミング信号をディスプレイなどの表示装置(図示略)へ出力し、ユーザに冷媒残量の低下を通知する。
なお、MCT素子120aの場合は温度が上昇し始めると一時的に素子抵抗値が上昇し、MCT素子120aの干渉信号の検出感度も増加する。従って、素子抵抗値による冷媒残量低下の判定においては素子抵抗値が増加している間は判定を行わず、素子抵抗値が減少して閾値を下回った場合に冷媒残量が低下したことを通知するようにしてもよい。
【0030】
このようにMCT素子120aの抵抗値を測定することで、MCT素子120aの素子温度の変化を正確に把握することが可能となる。さらに、白金測温抵抗体120cの抵抗値を測定することで、前記素子抵抗値の変化が素子温度の上昇によるものであるか、その他の要因によるものかを確認できる。その結果、液体窒素の残量の低下を、誤判定を生じることなく検知することができるため、適切なタイミングでユーザに冷媒残量の低下を通知したり、必要に応じてMCT素子120aに供給するバイアス電流を遮断して、該素子の保護を図ることができる。
【0031】
また、MCT素子120aの暗抵抗を長期的に測定し、本来一定であるはずの暗抵抗の変化をみることで、MCT素子120aの感度低下を推定することも可能である。また、赤外光源111から一定光量の光を照射した場合のMCT素子120aの素子抵抗を定期的に計測することにより、光路中にあるビームスプリッタ114や集光ミラーといった光学系の光軸ズレや光学素子の劣化に伴う光量低下を推定することも可能となる。
【0032】
本実施例では光束遮断機構151をMCT素子120aの直前に設置したが、赤外光源111からMCT素子120aに入射する光束を遮断できる位置であれば、試料室180の前後や気密室110の中などに配置してもよい。また、MCT素子への入射光量が一定であれば光束遮断機構で光束を遮断せずに素子抵抗値を計測し、その経時変化を基に冷媒の低下を判定することで、冷媒残量の低下を判定することも可能である。
【実施例2】
【0033】
本発明の第2の実施例に係るフーリエ変換型赤外分光光度計について図4、5を参照しつつ説明する。図4は本実施例に係るフーリエ変換型赤外分光光度計の概略構成図である。本実施例では光束遮断機構を設けておらず、データ処理部230に光由来波形生成部236及び直流成分抽出部235が設けられている。その他の構成については第1の実施例と同じであるため、説明を適宜省略する。
【0034】
本実施例では、試料Sの分析と同時にMCT素子220aの素子抵抗値を測定する。まず、フーリエ変換型赤外分光光度計で試料Sの分析を行うと、入射光計測部222では試料Sの測光信号が得られ、検出素子抵抗計測部221では素子抵抗値信号が得られ、これらのデータはデータ処理部230へ送られる。データ処理部230の光由来波形生成部236では、前記データから前記素子抵抗値信号の時間変化を示す波形が生成される。図5は、光由来波形生成部236で生成される波形の一例であり、前記素子抵抗値信号の実測値である。同図の縦軸は素子抵抗値信号の電圧値、横軸は移動鏡216と固定鏡215の光路差である。図5の中央では光路差がゼロとなり(移動鏡216の反射光と固定鏡215の反射光が同位相となり)入射光が最も強い(素子抵抗値が最も高い)状態であり、同図の両端では光路差が赤外光源の波長λの1/2(移動鏡216の反射光と固定鏡215の反射光が逆位相となり)となり入射光が遮断されている場合と同等な状態となる。従って、光路差がλ/2の位置における素子抵抗値信号は第1の実施例における暗抵抗とほぼ同等な値となる。
【0035】
データ処理部230は図示しないコントロール干渉計から移動鏡216の位置データを受信し、該位置データを直流成分抽出部235へ送る。直流成分抽出部235では前記位置データに基づき、前記素子抵抗値信号の時間変化を示す波形から光路差がλ/2のときの素子抵抗値を抽出し、データ処理部230に保存する。
【0036】
このように試料の分析を実施する毎に、データ処理部230に素子抵抗値の測定データが蓄積され、第1の実施例で説明した図3と同様な抵抗値の時間変化のグラフを得ることができる。データ処理部230の冷媒残量判定部234は前記素子抵抗値及び白金測温抵抗体220cの抵抗値を基に冷媒残量が低下しているか否かを判定する。冷媒残量が低下していると判定されると、データ処理部230は制御部240に冷媒残量低下を通知し、制御部240は補充タイミング信号をディスプレイなどの表示装置(図示略)へ出力し、ユーザに冷媒残量の低下を通知する。
【0037】
このように、試料Sの測定の際に、移動鏡の移動範囲に移動鏡と固定鏡の光路差がλ/2となる位置を含む構成にすることで、試料の測定と同時にMCT素子220aの素子抵抗値(暗抵抗)が得られ、この素子抵抗値と測温素子の抵抗値を基に冷媒残量の低下を誤判定することなく判定することができる。また、素子抵抗値の測定は試料の分光特性の測定と同時に行うことができるため、ユーザが冷媒残量を確認するための測定を追加で行う必要がなく、負担をかけることがない。さらに、測定を中断することなく冷媒残量の低下を判定することができる。
【0038】
上記実施例1、2では光検出器にMCT素子を用いたが、検出素子としてPbS素子を用いてもよい。この場合、素子が感度を持つ波長範囲や動作温度、使用する冷媒の種類、抵抗値の変化等はMCT素子とは異なるが、上記実施例1、2と同様な構成で素子抵抗値と測温素子の抵抗値をそれぞれ測定して、冷媒残量の低下を判定することができる。また、上記実施例1、2では、図2、6に示すように、入射光計測部のハイパスフィルタとしてRC回路を用いたが、その他のハイパスフィルタを用いてもよい。また、同図に示すように、上記実施例1、2では、入射光計測部及び検出素子抵抗計測部において非反転増幅回路を用いたが、直流成分を増幅できるものであればその他の増幅回路を用いてもよい。また、本発明に係る光検出器はフーリエ変換型分光光度計以外に、分散型分光光度計にも適用することもできる。
【符号の説明】
【0039】
110、210…気密室
111、211…赤外光源
112、117、119、212、217、219…集光鏡
113、213…コリメータ鏡
114、214…ビームスプリッタ
115、215…固定鏡
116、216…移動鏡
118、218…試料室
120、220…赤外線検出器ユニット
120a、220a…MCT素子
120b、220b…デューワ
120c、220c…白金測温抵抗体
121、221…検出素子抵抗計測部
122、222…入射光計測部
122a…ハイパスフィルタ
122b…増幅回路
123、223…測温素子抵抗計測部
130、230…データ処理部
131、231…検出素子抵抗算出部
132、232…入射光算出部
133、233…測温素子抵抗算出部
134、234…冷媒残量判定部
140、240…制御部
150…遮光機構駆動部
151…光束遮断機構
235…直流成分抽出部
236…光由来波形生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6