特許第6743983号(P6743983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6743983
(24)【登録日】2020年8月3日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】X線位相差撮像システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/041 20180101AFI20200806BHJP
【FI】
   G01N23/041
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-549947(P2019-549947)
(86)(22)【出願日】2018年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2018034674
(87)【国際公開番号】WO2019087605
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2019年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-211085(P2017-211085)
(32)【優先日】2017年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】森本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 健士
(72)【発明者】
【氏名】白井 太郎
(72)【発明者】
【氏名】土岐 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 哲
(72)【発明者】
【氏名】堀場 日明
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−061300(JP,A)
【文献】 特開2014−138625(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0293064(US,A1)
【文献】 特開2011−224329(JP,A)
【文献】 特開2011−206490(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/168844(WO,A1)
【文献】 特開2017−083411(JP,A)
【文献】 特開2017−006468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
A61B 6/00− 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、
前記X線源からX線が照射される第1格子と、前記第1格子からのX線が照射される第2格子とを含む複数の格子と、
前記X線源から照射されたX線を検出する検出器と、
前記複数の格子の少なくともいずれか1つを移動させる格子移動機構と、
前記検出器により検出された各画素の画素値の変化を表す強度変化に基づいて、位相コントラスト画像を生成する画像処理部とを備え、
前記画像処理部は、前記強度変化の周期と、周期を変数とするとともに格子の移動に伴う画素値の強度変化を表す関数とにより、前記位相コントラスト画像を生成するように構成されている、X線位相差撮像システム。
【請求項2】
前記強度変化の周期は、格子の周期のずれと前記格子移動機構による格子の移動量のずれとのうち少なくとも一方のずれを含んだ周期である、請求項1に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項3】
前記画像処理部は、前記複数の格子の少なくともいずれか1つを移動させて取得した前記強度変化のデータと前記関数とに基づいて、前記強度変化の周期を決定するように構成されている、請求項1に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項4】
前記画像処理部は、前記強度変化の波形の形状と前記関数の波形の形状とをフィッティングすることにより前記強度変化の周期を決定するように構成されている、請求項1に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項5】
前記画像処理部は、少なくとも前記格子移動機構により移動される格子の周期の設計値よりも大きい値および小さい値の両方の値を周期として用いて、前記強度変化の波形の形状と前記関数の波形の形状との偏差を求めるように構成されている、請求項4に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項6】
前記画像処理部は、所定の周期に対応する前記関数の係数を取得し、前記係数および前記所定の周期により前記強度変化の波形の形状と前記関数の波形の形状との偏差を取得するように構成されている。請求項4に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項7】
前記画像処理部は、あらかじめ取得された前記強度変化の周期から、前記関数の係数を取得し、取得した前記係数およびあらかじめ取得された前記強度変化の周期に基づき、前記位相コントラスト画像を生成するように構成されている、請求項1に記載のX線位相差撮像システム。
【請求項8】
前記複数の格子は、前記X線源と前記第1格子との間に配置された第3格子をさらに含んでいる、請求項1に記載のX線位相差撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線位相差撮像システムに関し、特に、複数の格子を用いて撮像を行うX線位相差撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の格子を用いて撮像を行うX線位相差撮像システムが知られている。このようなX線位相差撮像システムは、たとえば、国際公開第2014/030115号に開示されている。
【0003】
国際公開第2014/030115号に開示されているX線位相差撮像システムは、タルボ・ロー干渉計によってX線撮像を行い、縞走査法によって位相コントラスト画像を生成するように構成されている。
【0004】
ここで、タルボ・ロー干渉計では、マルチスリットと、位相格子と、吸収格子とを用いて撮像が行われる。具体的には、複数の格子のうちいずれか1つを、格子のパターンと直交する方向に並進させながら複数回撮像する。また、縞走査法とは、格子を並進移動させながら複数回撮像されたX線画像の各画素の画素値の強度変化に基づいて、位相コントラスト画像を生成する手法である。具体的には、縞走査法は、X線画像の各画素の画素値の強度変化が、格子の周期の関数の各位相におけるデータであるとして、関数の波形を決定し、波形が決定された関数に基づいて、位相コントラスト画像を生成する手法である。位相コントラスト画像には、吸収像、位相微分像および暗視野像が含まれる。吸収像とは、X線が被写体を通過した際に生じるX線の減衰に基づいて画像化した像である。また、位相微分像とは、X線が被写体を通過した際に発生するX線の位相のずれをもとに画像化した像である。また、暗視野像とは、物体の小角散乱に基づくVisibilityの変化によって得られる、Visibility像のことである。また、暗視野像は、小角散乱像とも呼ばれる。「Visibility」とは、鮮明度のことである。
【0005】
縞走査法を用いて位相コントラスト画像を生成する際、複数の格子のいずれか1つを、少なくとも格子の1周期分、格子のパターンと直交する方向に並進移動させながら撮像を行う。具体的には、縞走査法では、格子を格子のパターンと直交する方向に、格子の周期の1/Nずつ並進移動させながら撮像する。したがって、N回並進移動させた際の格子の総移動量が、移動させる格子の周期と等しくなる。また、格子の総移動量と移動させる格子の周期とが等しくなるため、各画素の画素値の強度変化の周期と移動させる格子の周期とが等しくなる。なお、Nは正の整数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/030115号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、国際公開第2014/030115号のX線位相差撮像システムで用いられている一般的な縞走査法では、X線画像の各画素の画素値の強度変化が1/N周期の位相の点のデータであることを前提として位相コントラスト画像を生成しているため、たとえば、熱変動による格子の相対位置の変化や格子移動機構の移動精度に起因して、各ステップにおける格子の移動量が1/N周期でない場合、関数の波形が実データから乖離する。したがって、格子の総移動量と格子の周期とにずれが生じた場合、得られる画像にアーチファクトが生じるという問題点がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、格子の格子パターンと直交する方向における総移動量と格子の周期とにずれが生じている場合でも、得られる位相コントラスト画像にアーチファクトが生じることを抑制することが可能なX線位相差撮像システムを提供することである。なお、格子の格子パターンと直交する方向における総移動量と格子の周期とのずれとは、熱変動や格子移動機構の精度等に起因する、極めて小さいずれである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるX線位相差撮像システムは、X線源と、X線源からX線が照射される第1格子と第1格子からのX線が照射される第2格子とを含む複数の格子と、X線源から照射されたX線を検出する検出器と、複数の格子の少なくともいずれか1つを移動させる格子移動機構と、検出器により検出された各画素の画素値の変化を表す強度変化に基づいて、位相コントラスト画像を生成する画像処理部とを備え、画像処理部は、強度変化の周期と、周期を変数とするとともに格子の移動に伴う画素値の強度変化を表す関数とにより、位相コントラスト画像を生成するように構成されている。
【0010】
この発明の一の局面におけるX線位相差撮像システムは、上記のように、強度変化の周期と、周期を変数とするとともに格子の移動に伴う画素値の強度変化を表す関数とにより、位相コントラスト画像を生成する画像処理部を備える。これにより、関数の周期が変数であるため、関数の周期の最適解を求めることにより、格子の移動によって実際に取得された強度変化の周期を近似することができる。その結果、各画素における画素値の強度変化の周期と格子の周期とにずれが生じている場合でも、関数の周期を強度変化の周期に合わせることが可能となるので、得られる位相コントラスト画像にアーチファクトが生じることを抑制することができる。
【0011】
上記一の局面におけるX線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、強度変化の周期は、格子の周期のずれと格子移動機構による格子の移動量のずれとのうち少なくとも一方のずれを含んだ周期である。これにより、格子の周期および格子の移動量のどちらにずれが生じていた場合(または、両方にずれが生じた場合)でも、ずれを含んだ強度変化の周期に、関数の周期(変数)を合わせることにより、生成する位相コントラスト画像にアーチファクトが生じることを抑制することができる。
【0012】
上記一の局面におけるX線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、画像処理部は、複数の格子の少なくともいずれか1つを移動させて取得した強度変化のデータと関数とに基づいて、強度変化の周期を決定するように構成されている。このように構成すれば、実際に計測した強度変化のデータから強度変化の周期を取得することができる。その結果、強度変化の周期と格子の周期とにずれが生じている場合でも、ずれを含んだ強度変化の周期を取得することができる。
【0013】
上記一の局面におけるX線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、画像処理部は、強度変化の波形の形状と関数の波形の形状とをフィッティングすることにより強度変化の周期を決定するように構成されている。このように構成すれば、強度変化の波形の形状と関数の波形の形状との偏差に基づいて強度変化の周期を決定することができる。その結果、複数の周期を用いて取得した偏差を比較することにより強度変化の周期を決定することが可能となるので、たとえば、複数の周期を用いて取得した画像を画像処理することにより強度変化の周期を決定する場合と比較して、強度変化の周期を決定する処理を簡素化することができる。
【0014】
この場合、好ましくは、画像処理部は、少なくとも格子移動機構により移動される格子の周期の設計値よりも大きい値および小さい値の両方の値を周期として用いて強度変化の波形の形状と関数の波形の形状との偏差を求めるように構成されている。このように構成すれば、格子の周期の設計値よりも大きい値により算出される偏差と格子の周期の設計値よりも小さい値により算出される偏差とを比較することにより、偏差を最小にするための周期が、格子の周期の設計値よりも大きい値か小さい値かを判断することができる。その結果、偏差が最小になる周期を容易に決定することができる。
【0015】
上記強度変化の波形の形状と関数の波形の形状とをフィッティングすることにより強度変化の周期を決定する構成において、好ましくは、画像処理部は、所定の周期に対応する関数の係数を取得し、係数および所定の周期により強度変化の波形の形状と関数の波形の形状との偏差を取得するように構成されている。このように構成すれば、所定の周期に対応する偏差を取得することができる。その結果、複数の周期に対応した偏差を比較することにより、偏差が最小となる周期を容易に決定することができる。
【0016】
上記一の局面におけるX線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、画像処理部は、あらかじめ取得された強度変化の周期から、関数の係数を取得し、取得した係数およびあらかじめ取得された強度変化の周期に基づき、位相コントラスト画像を生成するように構成されている。ここで、格子の周期は非常に小さい値なので、製作誤差によりわずかに周期がずれる場合がある。格子の周期からわずかにずれた周期が既知であっても、一般的な縞走査法では、k/N周期のデータを取得する必要がある。しかし、格子移動機構の精度が十分でないと、既知の周期をN等分した移動量で格子を並進移動させることができないので、k/N周期のデータを取得することができず、アーチファクトが生じる。格子の周期のずれは計測することによりあらかじめ取得することが可能であるため、強度変化の周期と格子の周期とのずれは、あらかじめ取得することが可能である。したがって、上記のように構成すれば、実際の計測値と、あらかじめ取得された強度変化の周期を代入した関数とをフィッティングすることにより、関数の係数を取得することができる。その結果、格子の移動量がずれている場合でも、実データに精度よく近似した関数を決定することが可能となり、生成される位相コントラスト画像にアーチファクトが生じることを抑制することができる。なお、kは1からNまでの正の整数である。
【0017】
上記一の局面におけるX線位相差撮像システムにおいて、好ましくは、複数の格子は、X線源と第1格子との間に配置された第3格子をさらに含んでいる。このように構成すれば、第3格子によってX線源から照射されるX線の可干渉性を高めることができる。その結果、X線源の焦点径に依存することなく第1格子の自己像を形成させることが可能となるので、X線源の選択の自由度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記のように、格子の格子パターンと直交する方向における総移動量と格子の周期とにずれが生じている場合でも、得られる位相コントラスト画像にアーチファクトが生じることを抑制することが可能なX線位相差撮像システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態によるX線位相差撮像システムをY方向から見た模式図である。
図2】画素における画素値の強度変化を取得する処理を説明するための模式図である。
図3】各画素における画素値の強度変化の周期のずれを説明するためのグラフ(A)、および生成する位相コントラスト画像に生じるアーチファクトを説明するための模式図(B)である。
図4】周期を変動させた場合のアーチファクトの変化を説明するための模式図(A)〜(C)である。
図5】本発明の第1実施形態による位相コントラスト画像の生成方法を説明するためのフローチャートである。
図6】本発明の第2実施形態による位相コントラスト画像の生成方法を説明するためのフローチャートである。
図7】本発明の第1実施形態の変形例によるX線位相差撮像システムをY方向から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1図5を参照して、本発明の第1実施形態によるX線位相差撮像システム100の構成について説明する。
【0022】
(X線位相差撮像システムの構成)
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態によるX線位相差撮像システム100の構成について説明する。
【0023】
図1は、X線位相差撮像システム100をY方向から見た図である。図1に示すように、X線位相差撮像システム100は、X線源1と、第1格子2と、第2格子3と、検出器4と、画像処理部5と、装置制御部9と、格子移動機構10とを備えている。なお、本明細書において、X線源1から第1格子2に向かう方向をZ2方向、その逆向きの方向をZ1方向とする。また、Z方向と直交する面内の左右方向をY方向とし、紙面の奥に向かう方向をY2方向、紙面の手前側に向かう方向をY1方向とする。また、Z方向と直交する面内の上下方向をX方向とし、上方向をX1方向、下方向をX2方向とする。
【0024】
X線源1は、装置制御部9からの信号に基づいて高電圧が印加されることにより、X線を発生させるとともに、発生させたX線を検出器4(Z2方向)に向けて照射するように構成されている。
【0025】
第1格子2は、X方向に所定の周期(ピッチ)pで配列される複数のスリット2aおよび、X線位相変化部2bを有している。各スリット2aおよびX線位相変化部2bはそれぞれ、直線状に延びるように形成されている。また、各スリット2aおよびX線位相変化部2bはそれぞれ、平行に延びるように形成されている。第1格子2は、いわゆる位相格子である。
【0026】
第1格子2は、X線源1と、第2格子3との間に配置されており、X線源1からX線が照射される。第1格子2は、タルボ効果により、第1格子2の自己像20(図2参照)を形成するために設けられている。可干渉性を有するX線が、スリットが形成された格子を通過すると、格子から所定の距離(タルボ距離)離れた位置に、格子の像(自己像20)が形成される。これをタルボ効果という。
【0027】
第2格子3は、X方向に所定の周期(ピッチ)pで配列される複数のX線透過部3aおよびX線吸収部3bを有する。各X線透過部3aおよびX線吸収部3bはそれぞれ、直線状に延びるように形成されている。また、各X線透過部3aおよびX線吸収部3bはそれぞれ、平行に延びるように形成されている。第2格子3は、いわゆる、吸収格子である。第1格子2、第2格子3はそれぞれ異なる役割を持つ格子であるが、スリット2aおよびX線透過部3aはそれぞれX線を透過させる。また、X線吸収部3bはX線を遮蔽する役割を担っており、X線位相変化部2bはスリット2aとの屈折率の違いによってX線の位相を変化させる。
【0028】
第2格子3は、第1格子2と検出器4との間に配置されており、第1格子2を通過したX線が照射される。また、第2格子3は、第1格子2からタルボ距離離れた位置に配置される。第2格子3は、第1格子2の自己像20と干渉して、検出器4の検出表面上にモアレ縞(図示せず)を形成する。
【0029】
検出器4は、X線を検出するとともに、検出されたX線を電気信号に変換し、変換された電気信号を画像信号として読み取るように構成されている。検出器4は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector)である。検出器4は、複数の変換素子(図示せず)と複数の変換素子上に配置された画素電極(図示せず)とにより構成されている。複数の変換素子および画素電極は、所定の周期(画素ピッチ)で、X方向およびY方向にアレイ状に配列されている。また、検出器4は、取得した画像信号を、画像処理部5に出力するように構成されている。
【0030】
画像処理部5は、画像生成部6、制御部7および記憶部8を含んでいる。画像生成部6は、検出器4から出力された画像信号に基づいて、X線画像(図示せず)を生成するように構成されている。また、画像生成部6は、生成したX線画像に基づいて、位相コントラスト画像11(図3(B)参照)を生成するように構成されている。画像生成部6は、たとえば、GPU(Graphics Processing Unit)または画像処理用に構成されたFPGA(Field−Programmable Gate Array)などのプロセッサを含む。
【0031】
また、制御部7は、検出器4で検出したX線の強度変化30(図2参照)の周期pなどを取得するように構成されている。制御部7が強度変化30の周期pを取得する詳細な構成については後述する。また、制御部7は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを含む。
【0032】
記憶部8は、画像生成部6が生成したX線画像や位相コントラスト画像11を生成するためのプラグラムなどを保存するように構成されている。記憶部8は、たとえば、HDD(ハードディスクドライブ)や不揮発性のメモリなどを含む。
【0033】
装置制御部9は、格子移動機構10を介して、第2格子3を格子面内において格子パターンの方向(Y方向)と直交する方向(X方向)にステップ移動させるように構成されている。また、装置制御部9は、たとえば、CPUなどのプロセッサを含む。
【0034】
格子移動機構10は、装置制御部9からの信号に基づいて、第2格子3を格子面内(XY面内)において格子の格子パターンの方向(Y方向)と直交する方向(X方向)にステップ移動させるように構成されている。具体的には、格子移動機構10は、第2格子3の周期pをN分割し、p/Nずつ第2格子3をステップ移動させる。なお、Nは正の整数であり、第1実施形態では、たとえば、N=4である。また、格子移動機構10は、たとえば、ステッピングモータやピエゾアクチュエータなどを含む。
【0035】
(各画素における画素値の強度変化を取得する構成)
次に、図2を参照して、画像処理部5が各画素における画素値の強度変化30を取得する構成について説明する。
【0036】
図2は、第1実施形態による画像生成部6が縞走査法によって位相コントラスト画像11を生成する際に格子移動機構10によって第2格子3を並進移動させた際の第1格子2の自己像20と第2格子3との位置関係を示す模式図(A)〜(D)および、第2格子3を並進移動させて撮影したX線画像の各画素における画素値の強度変化30を示したグラフである。
【0037】
第1実施形態では、装置制御部9は、格子移動機構10を介して第2格子3をp/4ずつ4回並進移動させて撮影を行うように構成されている。すなわち、第1実施形態では、図2(A)〜図2(D)に示すように、X線位相差撮像システム100は、第2格子3をp/4ずつX2方向に移動させつつ撮像を行うように構成されている。また、制御部7は、第2格子3をp/4ずつX2方向に移動させつつ撮像を行った際の各画素の画素値の強度変化として、図2のグラフに示すような強度変化30を取得する。
【0038】
(比較例の説明)
ここで、一般的な縞走査法では、被写体Qを配置せずに撮像したX線画像における強度変化30と、被写体Qを配置して撮像したX線画像における強度変化30とに基づいて、位相コントラスト画像11を生成する。たとえば、第2格子3をN回並進させて撮影した場合を考える。
【0039】
被写体Qを配置して撮影した際の検出器4で検出されるX線の強度をI(x、y)、被写体Qを配置せずに撮影した際のX線の強度をI0k(x、y)とし、以下のS(x,y)およびS(x、y)を定義する。
【数1】
ここで、kは1からNまでの正の整数である。また、xおよびyは、各画素のx座標およびy座標である。
【0040】
位相微分像11aを示す各画素の画素値は、上記式(1)および式(2)を用いて、以下に示す式(3)によって算出することができる。なお、位相微分像11aの各画素の画素値φ(x、y)は、被写体Qを配置した場合と配置しない場合における位相値の差分である。
【数2】
ここで、Zは、第1格子2と第2格子3との間の距離である。また、吸収像11bを示す各画素の画素値T(x、y)は、以下の式(4)によって表される。
【数3】
【0041】
被写体Qを配置した際のVisibilityであるV(x、y)および、被写体Qを配置しない場合のVisibilityであるV(x、y)は、以下の式(5)および式(6)により表される。
【数4】
【0042】
暗視野像11cは、被写体Qを配置した場合と配置しない場合とのVisibilityの比率であるため、以下の式(7)で表される。
【数5】
【0043】
上記式(1)および式(2)に示す通り、一般的な縞走査法では、1ステップにつき、第2格子3の周期pをステップ数で割った値だけ移動することを前提として計算された値に基づいて、位相コントラスト画像11を画像化している。言い換えると、上記式(1)および式(2)は、各ステップで取得される画像が、第2格子3の周期pの1/4、2/4、3/4、4/4の各位相における画像であることを前提としているため、第2格子3を並進移動させながら撮影することによって、1/4〜4/4の各位相の画像を確実に取得する必要がある。したがって、取得される強度変化30の周期pと、第2格子3の周期pとにずれが生じた場合、1/4〜4/4の各位相からずれた位相における画像(画素値)を用いて演算を行うことになるため、生成される位相コントラスト画像11にアーチファクト12が形成される。
【0044】
(強度変化の周期のずれ)
次に、図3を参照して、強度変化30の周期pと第2格子3の周期pとにずれが生じた際に、位相コントラスト画像11に生じるアーチファクト12について説明する。
【0045】
図3(A)に示すグラフは、強度変化30の周期pと第2格子3の周期pとが一致している場合の強度変化30a(直線グラフ)および強度変化30の周期pと第2格子3の周期pとにずれが生じている場合の強度変化30b(破線グラフ)を示す模式図である。なお、強度変化30bは、実際にはN点のデータであるが、図3(A)に示す例では、N点のデータのそれぞれをk/N周期におけるデータとみなしている。ここで、X線位相差撮像システム100では、X線源1から生じる熱に起因して、第2格子3が熱変形を起こす場合がある。第2格子3が熱変形を起こした場合、第2格子3の周期pが変化する。また、格子移動機構10は、第2格子3を第1格子2と平行に移動させるように構成されているが、設置の際の位置ずれなどに起因して、第2格子3の移動方向が第1格子2とは平行にならない場合がある。このように、第2格子3の周期pの変化および/または第2格子3の移動方向にずれが生じた場合、第2格子3の格子パターンの方向(Y方向)と直交する方向(X方向)における総移動量と、第2格子3の周期pとにずれが生じる。第2格子3の格子パターンの方向(Y方向)と直交する方向(X方向)における総移動量と、第2格子3の周期pとにずれが生じた場合、制御部7が取得する強度変化30の周期pが第2格子3の周期pとずれる。すなわち、強度変化30の周期pは、第2格子3の周期pのずれと格子移動機構10による第2格子3の移動量のずれとのうち少なくとも一方のずれを含んだ周期pである。
【0046】
一般的な縞走査法は、上記式(1)〜式(7)に示したように、得られた強度変化30bを、第2格子3の周期pと同じ周期である強度変化30aを表す関数に当てはめることにより位相コントラスト画像11を生成している。したがって、強度変化30の周期pと第2格子3の周期pとにずれが生じた状態で、上記式(1)〜式(8)を用いた一般的な縞走査法によって位相コントラスト画像11を生成した場合、図3(B)に示すように、各画像に縞状のアーチファクト12が形成される。
【0047】
そこで、第1実施形態では、画像処理部5は、強度変化30bの周期pと、周期を変数とするとともに格子の移動に伴う画素値の強度変化30bを表す関数とにより、位相コントラスト画像11を生成するように構成されている。具体的には、画像生成部6は、強度変化30の周期pと第2格子3の周期pとにずれが生じた状態であっても、位相コントラスト画像11にアーチファクト12が生じることを抑制できるように、以下に示す処理によって位相コントラスト画像11を生成する。
【0048】
(位相コントラスト画像の生成処理)
第1実施形態では、制御部7は、第2格子3を移動させて取得した強度変化30bのデータと関数とに基づいて、強度変化30bの周期pを決定するように構成されている。具体的には、制御部7は、強度変化30bの波形の形状と関数の波形の形状とをフィッティングすることにより強度変化30bの周期pを決定するように構成されている。制御部7は、取得した強度変化30b上のN個のデータ点に対して、最小二乗フィッティングを行うことにより、関数の係数a〜cを決定し、関数の偏差の二乗和Zが最小となる周期pを取得するように構成されている。
【0049】
N個のデータ点のX座標xは以下の式(8)により表すことができる。
【数6】
【0050】
フィッティングには、以下の式(9)に示す関数を用いる。
【数7】
ここで、pは強度変化30bの周期である。また、a、bおよびcは、周期pが決定されることにより決定される関数の係数である。
【0051】
画像処理部5は、所定の周期に対応する上記式(9)の係数a〜cを取得するように構成されている。また、制御部7は、取得した係数a〜cおよび所定の周期pにより強度変化30bの波形の形状と、上記式(9)の波形の形状との偏差の二乗和Zを取得するように構成されている。具体的には、制御部7は、上記式(9)の関数とN個のデータ点との偏差の二乗和Zを計算することにより、式(9)の周期pを取得するように構成されている。偏差の二乗和Zは、以下の式(10)のように示すことができる。
【数8】
ここで、mは、強度変化30bの周波数であり、m=2π/pである。
【0052】
第1実施形態では、制御部7は、最小二乗法を用いてフィッティングを行うため、上記式(10)の係数a、b、およびcの偏微分をとる。係数a、b、およびcの偏微分は、それぞれ以下の式(11)〜式(13)で表される。
【数9】
ここで、yは、各画素における画素値である。
【0053】
最小二乗法の定義により、上記式(11)〜式(13)のそれぞれが0になるようなa、b、cを求めればよいため、上記式(11)〜式(13)を以下に示す式(14)〜式(16)のように変形する。
【数10】
【0054】
上記式(14)〜式(16)を用いて連立方程式を解くことにより、a、b、cは以下の式(17)〜式(19)によって表すことができる。
【数11】
【0055】
このとき、a、b、cおよびdは、それぞれ、以下の式(20)〜式(23)によって表すことができる。
【数12】
【0056】
上記式(17)〜式(19)で取得した係数a、b、c、および上記式(9)に含まれる周期p(周波数m)は未知数である。したがって、第1実施形態では、画像処理部5は、偏差の二乗和Zが最小となる周期pを取得するように構成されている。図3(A)に示す例では、強度変化30bの周期pは、第2格子3の周期pよりも小さくなるようにずれている。そのため、制御部7は、周期pの値を第2格子3の周期pよりも小さくした複数の周期pを用いて偏差の二乗和Zを取得すればよい。しかし、実際には強度変化30bの周期pは未知数である。そのため、制御部7は、少なくとも格子移動機構10により移動される第2格子3の周期pの設計値よりも大きい値および小さい値の両方の値を周期として用いて強度変化30bの波形の形状と式(9)の波形の形状との偏差の二乗和Zを求めるように構成されている。
【0057】
たとえば、制御部7は、第2格子3の周期pよりも大きい値を周期として用いた第1偏差と、第2格子3の周期pよりも小さい値を周期として用いた第2偏差とを取得する。制御部7は、取得した第1偏差と第2偏差とを比較し、第1偏差の方が小さければ、第2格子3の周期pよりも大きい複数の周期pを用いて複数の偏差の二乗和Zを取得する。一方、第2偏差の方が小さければ、制御部7は、第2格子3の周期pよりも小さい複数の周期pを用いて複数の偏差の二乗和Zを取得する。制御部7は、取得した複数の偏差の二乗和Zが最も小さくなる際の周期pを強度変化10bの周期pとして決定するように構成されている。
【0058】
図4は、強度変化30bの周期pを第2格子3の周期pよりも小さくした複数の周期を用いて位相微分像11a、吸収像11bおよび暗視野像11cを生成した場合の例を示している。図4における解析周期とは、第2格子3の周期pを所定の係数で乗算することにより得られる周期の事である。たとえば、解析周期0.95とは、第2格子3の周期pに0.95をかけた周期(0.95×p)のことである。図4に示すように、解析周期を1.00から0.95へと小さくするにつれて、各画像に生じているアーチファクト12が軽減されていることがわかる。また、解析周期を0.95からさらに小さくするとアーチファクト12が増加していることもわかる。したがって、図4に示す例では、偏差の二乗和Zが最も小さくなる周期は、解析周期0.95(0.95×p)となる。なお、図4に示す例は、強度変化30bの周期pを0.95×pとしてシミュレーションを行った例である。したがって、実際に強度変化30bの周期pを決定するために、制御部7は、偏差の二乗和Zの大きさが小さくなる周期pから大きくなる周期pの変曲点を含むような複数の周期pを設定し、偏差の二乗和Zが極小値となるような周期pを強度変化30bの周期pと決定するように構成されている。
【0059】
第1実施形態では、画像生成部6は、上記式(17)〜式(23)により算出した係数a、b、およびcと決定した周期pとを用いて、位相コントラスト画像11の各画素値を算出する。位相コントラスト画像11の各画素値を算出する際には、上記式(9)を以下に示す式(24)に書き換えた式を用いる。
【数13】
ここで、係数A、B、Cと係数a、b、cとの間には、以下の式(25)〜式(27)に示す関係がある。なお、以下に示す式(26)の単位はradである。
【数14】
【0060】
上記式(24)の係数A、B、Cを用いると、位相微分像11a、吸収像11bおよび暗視野像11cはそれぞれ以下の式(28)〜式(30)で表すことができる。
【数15】
ここで、φは位相微分像である。また、Tは吸収像である。また、Dは暗視野像である。また、下付き文字のsおよびrは、それぞれ、被写体Qありで撮像した場合の係数および被写体Qなしで撮像した場合の係数を示している。
【0061】
以上のように、第1実施形態では、制御部7は、最小二乗法を用いて、実際に撮影されたX線画像の強度変化30bの波形の形状と、式(9)の波形の形状とのフィッティングを行うように構成されている。したがって、強度変化30bの周期pが第2格子3の周期pとずれている場合でも、強度変化30bの周期pに対応した関数(式(9))を所得することにより、位相コントラスト画像11を生成することができる。
【0062】
(位相コントラスト画像の生成方法)
次に、図5を参照して、第1実施形態による位相コントラスト画像11の生成方法について説明する。
【0063】
ステップS1において、画像生成部6は、被写体Qを撮影したX線画像を取得する。その後、制御部7は被写体Qを撮影したX線画像の各画素における画素値の強度変化30bのデータを取得する。次に、ステップS2において、制御部7は、第2格子3の周期pよりも大きい値の第1周期を関数に代入して第1偏差の二乗和を取得する。また、制御部7は、第2格子3の周期pよりも小さい値の第2周期を関数に代入し、第2偏差の二乗和を取得する。なお、ステップS2では、第1偏差の二乗和および第2偏差の二乗和を取得するために、上記式(9)、式(17)〜式(23)およびm=2π/pの関係式を用いて、式(9)に含まれる変数を周期pのみにした式を用いる。その後、処理はステップS3へ進む。
【0064】
ステップS3において、制御部7は、第1偏差の二乗和および第2偏差の二乗和の値の大きさを比較する。第1偏差の二乗和が第2偏差の二乗和よりも小さい場合、処理はステップS4へ進む。第1偏差の二乗和が第2偏差の二乗和よりも大きい場合、処理はステップS5へ進む。
【0065】
ステップS4において、制御部7は、第2格子3の周期pよりも小さい値の複数の周期pを設定する。また、ステップS5では、制御部7は、第2格子3の周期pよりも大きい値の複数の周期pを設定する。その後、処理はステップS6へ進む。
【0066】
ステップS6において、制御部7は、ステップS4(ステップS5)において設定した複数の周期pを用いて複数の偏差の二乗和Zを取得する。その後、制御部7は、複数の偏差の二乗和Zの値が最も小さくなる周期pを取得し、関数(式(9))の周期pとする。その後、ステップS7において、制御部7は、関数(式(9))の係数a〜cを取得する。その後、ステップS8において、画像生成部6は、ステップS6において取得した周期pが決定された関数(式(9))およびステップS7において取得された係数a〜cを用いて、位相コントラスト画像11を生成し、処理を終了する。
【0067】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0068】
第1実施形態では、上記のように、X線位相差撮像システム100は、X線源1と、X線源1からX線が照射される第1格子2と第1格子2からのX線が照射される第2格子3とを含む複数の格子と、X線源1から照射されたX線を検出する検出器4と、第2格子3を移動させる格子移動機構10と、検出器4により検出された各画素の画素値の変化を表す強度変化30bに基づいて、位相コントラスト画像11を生成する画像処理部5とを備え、画像処理部5は、強度変化30bの周期pと、周期を変数とするとともに格子の移動に伴う画素値の強度変化30bを表す関数(式(9))とにより、位相コントラスト画像11を生成するように構成されている。これにより、関数(式(9))の周期pが変数であるため、関数(式(9))の周期pの最適解を求めることにより、第2格子3の移動によって実際に取得された強度変化30bの周期pを近似することができる。その結果、各画素における画素値の強度変化30bの周期pと第2格子3の周期pとにずれが生じている場合でも、関数(式(9))の周期pを強度変化30bの周期pに合わせることが可能となるので、得られる位相コントラスト画像11にアーチファクト12が生じることを抑制することができる。
【0069】
また、第1実施形態では、上記のように、強度変化30bの周期pは、第2格子3の周期pのずれと格子移動機構10による第2格子3の移動量のずれとのうち少なくとも一方のずれを含んだ周期である。これにより、第2格子3の周期pおよび第2格子3の移動量のどちらにずれが生じていた場合(または、両方にずれが生じた場合)でも、ずれを含んだ強度変化30bの周期pに、関数(式(9))の周期p(変数)を合わせることにより、生成する位相コントラスト画像11にアーチファクト12が生じることを抑制することができる。
【0070】
また、第1実施形態では、上記のように、画像処理部5は、第2格子3を移動させて取得した強度変化30bのデータと関数(式(9))とに基づいて、強度変化30bの周期pを決定するように構成されている。これにより、実際に計測した強度変化30bのデータから強度変化30bの周期pを取得することができる。その結果、強度変化30bの周期pと第2格子3の周期pとにずれが生じている場合でも、ずれを含んだ強度変化30bの周期pを取得することができる。
【0071】
また、第1実施形態では、上記のように、画像処理部5は、強度変化30bの波形の形状と関数(式(9))の波形の形状とをフィッティングすることにより強度変化30bの周期pを決定するように構成されている。これにより、強度変化30bの波形の形状と関数(式(9))の波形の形状との偏差の二乗和Zに基づいて強度変化30bの周期pを決定することができる。その結果、複数の周期を用いて取得した偏差の二乗和Zを比較することにより強度変化30bの周期pを決定することが可能となるので、たとえば、複数の周期pを用いて取得した画像を画像処理することにより強度変化30bの周期pを決定する場合と比較して、強度変化30bの周期pを決定する処理を簡素化することができる。
【0072】
また、第1実施形態では、上記のように、少なくとも格子移動機構10により移動される第2格子3の周期pの設計値よりも大きい値および小さい値の両方の値を周期pとして用いて強度変化30bの波形の形状と関数(式(9))の波形の形状との偏差の二乗和Zを求めるように構成されている。これにより、第2格子3の周期pの設計値よりも大きい値により算出される第1偏差と第2格子3の周期pの設計値よりも小さい値により算出される第2偏差とを比較することにより、偏差の二乗和Zを最小にするための周期pが、第2格子3の周期pの設計値よりも大きい値か小さい値かを判断することができる。その結果、偏差の二乗和Zが最小になる周期pを容易に決定することができる。
【0073】
また、第1実施形態では、上記のように、画像処理部5は、所定の周期pに対応する関数(式(9))の係数a〜cを取得し、係数a〜cおよび所定の周期pにより強度変化30bの波形の形状と関数(式(9))の波形の形状との偏差の二乗和Zを取得するように構成されている。これにより、所定の周期pに対応する偏差の二乗和Zを取得することができる。その結果、複数の周期pに対応した偏差の二乗和Zを比較することにより、偏差の二乗和Zが最小となる周期pを容易に決定することができる。
【0074】
[第2実施形態]
次に、図1および図6を参照して、本発明の第2実施形態によるX線位相差撮像システム200について説明する。複数の周期pを用いて取得した複数の偏差の二乗和Zを比較することにより関数の周期pを決定する第1実施形態とは異なり、第2実施形態では、画像処理部5は、あらかじめ取得された強度変化30bの周期pから、関数(式(9))の係数a〜cを取得し、取得した係数a〜cおよびあらかじめ取得された強度変化30bの周期pに基づき、位相コントラスト画像11を生成するように構成されている。なお、上記第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0075】
ここで、第2格子3の周期pは非常に小さい値なので、製作誤差によりわずかに周期pがずれる場合がある。その場合、第2格子3の周期pからわずかにずれた周期(以下、pとする)が既知であっても、上記式(1)および式(2)を用いる一般的な縞走査法では、k/N周期のデータを取得する必要がある。しかし、格子移動機構10の精度が十分でないと、既知の周期pをN等分した移動量(p×(k/N))で第2格子3を並進移動させることができないので、k/N周期のデータを取得することができず、アーチファクト12が生じる。そこで、第2実施形態では、制御部7は、あらかじめ第2格子3の周期pのずれを計測するように構成されている。また、制御部7は、実際の測定値と、あらかじめ取得された強度変化30bの周期pを代入した上記式(9)とをフィッティングさせることにより、係数a〜cを決定するように構成されている。
【0076】
(位相コントラスト画像の生成方法)
次に、図6を参照して、第2実施形態による位相コントラスト画像11の生成方法について説明する。
【0077】
ステップS1において、制御部7は、被写体Qを撮像したX線画像の各画素における画素値の強度変化30bのデータを取得する。次に、ステップS10において、制御部7は、強度変化30bの周期pを取得する。その後、ステップS11において、制御部7は、あらかじめ取得された強度変化30bの周期pから、式(9)の係数a〜cを取得する。その後、処理はステップS8へ進む。
【0078】
ステップS8において、画像生成部6は、取得した係数a〜cおよびあらかじめ取得された強度変化30bの周期pに基づき、位相コントラスト画像11を生成し、処理を終了する。
【0079】
なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0080】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0081】
第2実施形態では、上記のように、画像処理部5は、あらかじめ取得された強度変化30bの周期pから、関数(式(9))の係数a〜cを取得し、取得した係数a〜cおよびあらかじめ取得された強度変化30bの周期pに基づき、位相コントラスト画像11を生成するように構成されている。これにより、実際の計測値と、あらかじめ取得された強度変化30bの周期pを代入した関数(式(9))とをフィッティングすることにより、関数(式(9))の係数a〜cを取得することができる。その結果、第2格子3の移動量がずれている場合でも、実データに精度よく近似した関数(式(9))を決定することが可能となり、生成される位相コントラスト画像11にアーチファクト12が生じることを抑制することができる。
【0082】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0083】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0084】
たとえば、上記第1〜第3実施形態では、複数の格子として、第1格子2および第2格子3を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図7に示すX線位相差撮像システム300のように、X線源1と第1格子2との間に、第3格子40を設ける構成でもよい。第3格子40は、X方向に所定の周期(ピッチ)pで配列される複数のスリット40aおよびX線吸収部40bを有している。各スリット40aおよびX線吸収部40bはそれぞれ、直線状に延びるように形成されている。また、各スリット40aおよびX線吸収部40bはそれぞれ、平行に延びるように形成されている。また、第3格子40は、X線源1と第1格子2との間に配置されており、X線源1からX線が照射される。第3格子40は、各スリット40aを通過したX線を、各スリット40aの位置に対応する線光源とするように構成されている。これにより、第3格子40によってX線源1から照射されるX線の可干渉性を高めることができる。その結果、X線源1の焦点径に依存することなく第1格子2の自己像20を形成させることが可能となるので、X線源1の選択の自由度を向上させることができる。
【0085】
また、上記第1および第2実施形態では、第1格子2として、位相格子を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1格子2として、吸収格子を用いてもよい。第1格子2として吸収格子を用いた場合、画像処理部5(画像生成部6)は、第1格子2を透過したX線の縞模様と第2格子3とにより位相コントラスト画像11を生成する。したがって、第1格子2の自己像20を用いることなく位相コントラスト画像11を取得することが可能となるので、第1格子2の配置位置の自由度を向上させることができる。しかし、第1格子2として吸収格子を用いる場合、得られる位相コントラスト画像11の画質が低下するため、高画質の位相コントラスト画像11を得たい場合は、第1格子2として位相格子を用いる方が好ましい。
【0086】
また、上記第1実施形態では、偏差の二乗和Zを取得する際に用いる複数の周期pとして、第2格子3の周期pよりも小さい値を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、強度変化30bの周期pが第2格子3の周期pよりも大きい場合、複数の周期pとして、第2格子3の周期pよりも大きい値を用いてもよい。
【0087】
また、上記第1実施形態では、強度変化30bの波形の形状と関数の波形の形状のフィッティングとして最小二乗法を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。関数(式(9))の係数a〜cを取得することが可能であれば、どのようなフィッティング方法を用いてもよい。
【0088】
また、上記第1および第2に実施形態では、格子移動機構10が第2格子3を並進移動させる例を示したが、本発明はこれに限られない。第1格子2を並進移動させてもよい。移動させる格子はいずれの格子でもよい。
【0089】
また、上記第1および第2実施形態では、制御部7によって関数(式(9))の偏差の二乗和Zを決定する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図4に示すような周期pを変化させた複数の位相コントラスト画像11を表示する表示部を備え、表示部に表示された位相コントラスト画像11をユーザが選択することにより、関数(式(9))の偏差の二乗和Zを決定するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 X線源
2 第1格子
3 第2格子
4 検出器
5 画像処理部
10 格子移動機構
12 位相コントラスト画像
30、30a、30b 強度変化
40 第3格子
100、200、300 X線位相差撮像システム
Q 被写体
p 強度変化の周期
格子の周期
Z 偏差の二乗和
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7