(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、例えばIGBT等のパワー半導体素子を冷却対象物として、これを冷却するサーモサイフォン式冷却器が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載されたサーモサイフォン式冷却器では、蒸発部の通路内面にフィンを設けている。特許文献1には、蒸発部を押し出し型材を使用して作製すること、及び、フィンの表面に、ローレット加工等により微小な凹凸を設けることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、プレート状の蒸発部の上面に、T字型に凝縮部を直接接合したサーモサイフォン式冷却器が形成されている。特許文献2には、フィンが一体形成されている蒸発部の内面を、酸エッチングにより粗面化することが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、孔を形成した平板を折り曲げて波板形状の伝熱部材に加工し、伝熱部材を伝熱部基材の表面に一体に接合することによって、頂部に孔を有する各溝と伝熱部基材とで囲まれる空間をトンネル流路にした伝熱部品が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献3に記載されているように、各溝の頂部に孔を形成した構成では、トンネル流路内で発生した気泡が、孔から抜ける可能性はあるものの、発熱量によって気泡が抜けにくくなってしまい、沸騰性能が低下する場合がある。
【0008】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、サーモサイフォン式冷却器の沸騰部における沸騰面の表面積を拡大しつつも、沸騰面において生じた気泡を速やかに排除して、沸騰性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに開示する技術は、サーモサイフォン式冷却器に係る。このサーモサイフォン式冷却器は、冷却対象物が取り付けられる取付面を有しかつ、内部に封入した冷媒が前記冷却対象物の発熱によって沸騰するよう構成された沸騰部と、前記沸騰部の内部に連通する冷媒通路を有しかつ、気化した前記冷媒を凝縮させると共に、凝縮した前記冷媒を前記沸騰部に戻すように構成された凝縮部と、を備える。
【0010】
そして、前記沸騰部における前記取付面の裏側に相当する面であって、前記冷媒を封入する内部の空間を区画するよう構成された沸騰面には、互いに間隔を空けて並設された複数のフィンが接合されており、前記フィンは、前記沸騰面に当接した状態で、当該沸騰面に接合する当接部と、前記当接部に連続しかつ、前記沸騰面から離れるように立設した立設部と、を有し、前記フィンの並設方向に隣り合う前記立設部の間には、前記並設方向とは異なる方向に連続して開口する凹部が形成されている。
【0011】
この構成によると、沸騰面に接合される当接部と、当接部に連続する立設部とを有するフィンは、沸騰面の表面積を拡大させる。
【0012】
前記の構成では、立設部の間に形成される凹部は、並設方向とは異なる方向に連続して開口している。これにより、沸騰面及び/又はフィンの表面において発生した気泡が、沸騰面及びフィンから速やかに離れるようになる。また、気泡の生成を安定化させることができる。よって、サーモサイフォン式冷却器の沸騰性能が高まる。
【0013】
前記フィンは、前記沸騰面に、ろう付けされている、としてもよい。
【0014】
こうすることで、沸騰面とフィンとの間の伝熱性が良好になる。その結果、サーモサイフォン式冷却器の沸騰性能の向上に有利になる。
【0015】
前記フィンは、粗面化された表面層を有している、としてもよい。こうすることで、サーモサイフォン式冷却器の沸騰性能の、さらなる向上が図られる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、前記のサーモサイフォン式冷却器によると、沸騰部内の沸騰面に、複数のフィンを接合し、隣り合う立設部の間に形成される凹部を、フィンの並設方向とは異なる方向に連続して開口させることで、沸騰面及び/又はフィンの表面から発生した気泡が、沸騰面及びフィンから速やかに離れるようになり、サーモサイフォン式冷却器の沸騰性能を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、ここに開示するサーモサイフォン式冷却器について、図面を参照しながら詳細に説明をする。尚、以下の説明は例示である。
【0019】
図1は、サーモサイフォン式冷却器1の構成を、理解し易いように概念的に示した、斜視断面図である。サーモサイフォン式冷却器1は、例えばIGBT等のパワー半導体素子の冷却に利用される。サーモサイフォン式冷却器1は、沸騰部2と、沸騰部2の上側に設けられた凝縮部3とを備えている。
【0020】
図2は、沸騰部2を構成する構成部材20の断面図である。
図3は、
図2における構成部材20の一部分を拡大して示す断面図である。
【0021】
沸騰部2は、冷却対象物が取り付けられる取付面21を有している。図例のサーモサイフォン式冷却器1において、沸騰部2は、上下方向に伸びている。取付面21も、上下方向に広がる。沸騰部2は、その内部に冷媒が封入されるように構成されている。沸騰部2は、冷却対象物の発熱によって、内部に封入した冷媒が沸騰するように構成されている。
【0022】
取付面21の裏側は、沸騰面22を構成している。沸騰面22は、冷媒を封入する内部の空間を区画する。沸騰面22には、
図1〜3に示すように、上下方向に伸びる複数の個別通路23が形成されている。沸騰部2を構成する構成部材20は、例えばアルミニウム製の押出形材によって構成される。個別通路23を区画する隔壁24は、構成部材20の成形時に、構成部材20と一体に形成される。各個別通路23内には、複数のフィン4が配設されている。各フィン4は、沸騰面22に接合されている。フィン4の構成の詳細は、後述する。
【0023】
凝縮部3は、
図1に示すように、プレートフィン型の熱交換器を構成している。具体的に、凝縮部3は、沸騰部2の内部に連通する冷媒通路31と、空気が通過する空気通路32とを有している。冷媒通路31と空気通路32とは、チューブプレートを間に挟んで、交互に配設されている。
【0024】
冷媒通路31は、沸騰部2にのみ連通するように構成されており、凝縮部3の上部、左右の側部、及び下部の一部はそれぞれ、閉塞されている。冷媒通路31内には、コルゲートフィン311が配設されている。コルゲートフィン311は、例えばセレートフィンとしてもよい。また、その他の種類のコルゲートフィンを、冷媒通路31内に配設してもよい。沸騰部2において気化した冷媒は上昇して、
図1に実線の矢印で示すように、冷媒通路31内に至る。冷媒は、空気通路32を流れる空気により冷却されることで、冷媒通路31内で凝縮し、凝縮した冷媒は、
図1に破線の矢印で示すように下に落ちて、沸騰部2に戻る。
【0025】
空気通路32は、凝縮部3の左右の一側(
図1における右手前側で、図示されている側)と他側(
図1における左奥側で、図示されていない側)とのそれぞれに開口し、凝縮部3を左右方向に貫通して設けられている。空気は、強制的に、又は、自然に、空気通路32内を通過する。空気通路32内にも、コルゲートフィン321が配設されている。空気通路32内に配設するコルゲートフィン321の種類は、特に限定されない。
【0026】
次に、沸騰部2の沸騰面22に設けられたフィン4の構成について、詳細に説明する。フィン4は、沸騰面22内において、上下方向に直交する横方向に間隔を空けて、並設している。各フィン4は、当接部41と、立設部42とを有している。各フィン4は、横断面が、略U字状をなしている。
【0027】
当接部41は、沸騰面22に当接した状態で、当該沸騰面22に接合している。当接部41は、例えばろう付けによって、沸騰面22に接合される。
図3では、当接部41と沸騰面22との間に、ろう材44が介在している状態を示している。尚、ろう材44が介在している場合も、当接部41が沸騰面22に当接していることに含まれる。
【0028】
立設部42は、当接部41の左右の両側に連続しかつ、沸騰面22から離れるように立設している。
【0029】
前述したように、フィン4は、個別通路23に沿って、上下方向(つまり、
図3における紙面に直交する方向)に伸びている。左右方向に隣り合う立設部42の間には、凹溝431、432が形成されている。凹溝431、432は、底部が沸騰面22によって構成される第1凹溝431と、底部が当接部41によって構成される第2凹溝432と、を含んでいる。第1凹溝431と第2凹溝432とは、交互に配設されている。第1凹溝431及び第2凹溝432は共に、沸騰面22の反対側に向かって開口している。第1凹溝431の開口、及び、第2凹溝432の開口はそれぞれ、上下方向に連続している。つまり、複数のフィン4は、
図3における紙面左右方向に並設しているが、そのフィン4の並設方向に直交する方向に、第1凹溝431の開口、及び、第2凹溝432の開口は連続している。
【0030】
ここで、各フィン4は、例えばその板厚を0.1〜1.0mm程度としてもよい。また、各フィン4における立設部42の間隔は、0.5〜3.0mm程度としてもよい。さらに、フィン4とフィン4との間隔は、0.5〜3.0mm程度としてもよい。各フィン4の高さは、2〜5mm程度としてもよい。
【0031】
次に、前記構成のサーモサイフォン式冷却器1、特に沸騰部2の製造方法について、
図4を参照しながら説明する。沸騰部2を構成する構成部材20は、前述したように、アルミニウム製の押出形材によって構成される。押出成形によって、それぞれ上下方向に伸びると共に、左右方向に並設される複数の個別通路23を、構成部材20と一体に形成することが可能になる(
図4の工程P1参照)。
【0032】
個別通路23内のフィン4は、コルゲートフィン40によって構成される。具体的には、
図4の工程P2及び工程P3に示すように、板状の部材400から、例えばプレーン型のコルゲートフィン40を作成する。ここで、後述するように、コルゲートフィン40を構成部材20の沸騰面22に、ろう付けによって接合する場合は、コルゲートフィン40に加工される板状の部材400としては、図示は省略するが、心材と、心材の片面又は両面に設けた、ろう材とを含むブレージングシート(例えば、アルミニウムクラッド材)を用いてもよい。
【0033】
次いで、工程P4において、構成部材20の各個別通路23内に、個別通路23の形状に合わせて切り出したコルゲートフィン40を接合する。コルゲートフィン40は、ろう付けによって構成部材20に接合してもよい。つまり、所定の温度に加熱することによってろう材を溶かしかつ、溶かしたろう材を、再凝固させることによって、コルゲートフィン40を構成部材20に接合してもよい。ここで、前述したように、コルゲートフィン40は、ブレージングシートによって構成してもよい。ブレージングシートによって構成したコルゲートフィン40は、そのまま、沸騰面22にろう付けするようにしてもよいが、コルゲートフィン40と沸騰面22との間に、ろう材をさらに介在させた上で、ブレージングシートからなるコルゲートフィン40を、構成部材20にろう付けするようにしてもよい。
【0034】
尚、コルゲートフィン40と沸騰面22とを接合する手法は、ろう付けに限定されるものではない。その他の手法を適宜採用することが可能である。
【0035】
コルゲートフィン40を、個別通路23内に接合すれば、コルゲートフィン40の上端部を、例えばフライス加工によって除去する(工程P5参照)。こうすることで、コルゲートフィン40における各山部分の頂部が除去されるから、工程P5に示すように、個別通路23内に、複数のフィン4を左右方向に並設することが可能になる。尚、コルゲートフィン40の上端部を除去する加工は、フライス加工に限定されない。
【0036】
工程P5の後、個別通路23内の各フィン4の表面及び沸騰面22を粗面化する加工を施す。例えば酸処理(酸洗)によって、粗面化するようにしてもよい。これにより、各フィン4は、粗面化された表面層を有するようになる。尚、各フィン4の表面及び沸騰面22の粗面化は、酸処理の他にも、例えば機械的な加工によって行うようにしてもよい。
【0037】
こうして、複数のフィン4が接合された構成部材20が完成すれば、別途、作成した部材と重ね合わせて、互いに接合をすることにより、内部に冷媒が封入される沸騰部2が完成する。
【0038】
以上説明したように、前記構成のサーモサイフォン式冷却器1によると、沸騰部2の沸騰面22に、複数のフィン4を接合することで、沸騰面22の表面積を拡大することができる。また、各フィン4は、沸騰面22に接合される当接部41と、当接部41の両側に連続する立設部42とを有し、隣り合う立設部42の間には、上下方向に連続して開口する凹溝431、432が形成される。凹溝431、432が開放されているため、沸騰面22及び/又は各フィン4の表面から発生した気泡は、開口を通じて沸騰面22及び/又は各フィン4から速やかに離れるようになる。凹溝は、第1凹溝431と第2凹溝432とを含むが、いずれの凹溝431、432も開口が連続しているため、発生した気泡を速やかに排出することが可能になる。
【0039】
また、各フィン4を、ろう付けによって沸騰面22に接合するようにすれば、沸騰面22と各フィン4との伝熱性が良好になり、サーモサイフォン式冷却器1の沸騰性能の向上に有利になる。
【0040】
さらに、各フィン4の表面を粗面化することによって、サーモサイフォン式冷却器1の沸騰性能の、さらなる向上を図ることが可能になる。
【0041】
また、複数のフィン4を、コルゲートフィン40によって構成することにより、沸騰面22に、多数のフィン4を設けることが比較的容易になる。また、コルゲートフィン40の、山と谷のピッチや、山と谷の高さ、また、コルゲートフィン40において除去をする上端部の高さ等を適宜調整することによって、沸騰面22に設けるフィン4の形状、ピッチ等を、適宜変更することが可能になる。例えば、サーモサイフォン式冷却器1に要求される冷却性能に応じて、これらのパラメータ(つまり、コルゲートフィン40の、山と谷のピッチや、山と谷の高さ、また、コルゲートフィン40において除去をする上端部の高さ等)を適宜調整してもよい。サーモサイフォン式冷却器1の仕様の変更が容易になる。
【0042】
尚、沸騰面22に接合するコルゲートフィン40の形状は、図例に限定されず、適宜の形状にすることが可能である。また、各フィン4の形状も、
図3等に示す形状に限定されず、適宜の形状にすることが可能である。
【0043】
例えば使用するコルゲートフィン40は、前述したようにプレーン型のコルゲートフィンに限らず、セレート型のコルゲートフィンを使用してもよい。セレート型のコルゲートフィンを用いた場合は、立設部は、フィンの並設方向に直交する方向に連続しないが、隣り合う立設部の間に形成される凹部は、並設方向に直交する方向に、その一部が連続して開口する。そのため、前記と同様に、サーモサイフォン式冷却器1の沸騰性能の向上が図られる。
【0044】
また、沸騰面22に設けるフィンは、前述したように、横断面が略U字状をなすものに限らず、例えば当接部に対して、立設部が、左右の何れか一方の側で連続するような、横断面が略L字状をなすものにしてもよいし、当接部に対して、立設部が中央側で連続するような、横断面が略I字状をなすものにしてもよい。
【0045】
さらに、立設部42は、フィン4の並設方向に直交する方向に伸びる構成に限らず、フィン4の並設方向とは異なる方向に伸びる構成とすればよい。その構成に伴い、第1凹溝431の開口、及び、第2凹溝432の開口も、フィン4の並設方向とは異なる方向に伸びる構成とすればよい。
【0046】
また、ここに開示する技術は、
図1に示す構成のサーモサイフォン式冷却器に適用することに限らず、例えば特許文献2に記載されているような、水平方向に広がるプレート状の沸騰部の上面に、凝縮部を直接接合することによって、全体として逆T字状に構成したサーモサイフォン式冷却器に適用することも可能である。