(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載された発明では、乗員の頭部の直近に、頭部保護エアバッグが配置されている。従って、衝突事故発生時に、頭部保護エアバッグが膨張展開すると、膨張しようとする頭部保護エアバッグが、乗員の頭部や頚部に強く当たってしまい、乗員のこれらの部位に対する加害性が大きい課題があった。
【0006】
また、その問題を回避するために、頭部保護エアバッグを乗員の頭部から離れて配置すると、衝突事故発生時に乗員の頭部を頭部保護エアバッグで十分に支持できない恐れがある。従って、運転手の頭部が、フロントエアバッグ袋で拘束されながら回転することで、頭部にダメージを与える恐れがある。また、運転手の首が捻じれて損傷する恐れがある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、衝突事故発生時に乗員の頭部を側方から支えるとともに、膨張展開時に乗員に対する加害性が小さい乗員保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の乗員保護装置は、車両に配設されるシートに着座する乗員を拘束するシートベルト装置と、前記乗員の肩部上方に配設されるエアバッグ装置と、を具備し、前記エアバッグ装置は、エアバッグケースと、前記エアバッグケースに収納されて衝突時に膨張展開するエアバッグ袋と、を有し、前記エアバッグケースの乗員側端部は、前記シートベルト装置のベルト部の乗員側端部よりも、前記乗員の頭部から離れた位置に配置され、
衝突事故が発生した場合は、衝突検知でインフレータが作動することで、前記エアバッグ袋が膨らんで前記エアバッグケースの中から頭部側方側へ展開し、前記乗員が慣性で前方へ移動することにより、前記ベルト部が引かれ、ベルト固定部が起動することで、前記エアバッグケースが前記ベルト部をクランプしてシートバックから離脱し、前記エアバッグ袋が、前記エアバッグケースと共に、頭部の移動に追従することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の乗員保護装置では、前記エアバッグ袋は、膨張展開する際に、前記乗員の頭部に向かって膨張する形状であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の乗員保護装置では、前記エアバッグケースは、ケース本体と、前記ケース本体を上方から閉鎖する蓋部と、を有し、前記エアバッグ袋が膨張展開する際に、前記蓋部は、前記乗員から離れる方向に開くことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の乗員保護装置では、前記エアバッグ袋は、複数の袋部を有し、前記エアバッグ袋が膨張展開した際に、上方に配置される前記袋部は、下方に配置される前記袋部よりも、前記乗員の頭部に接近することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の乗員保護装置では、膨張展開した際の前記エアバッグ袋は、後方部分の車両幅方向の長さが、前方部分の車両幅方向の長さよりも、長いことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の乗員保護装置では、前記エアバッグ袋は、前記ベルト部を跨いで膨張展開することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の乗員保護装置は、車両に配設されるシートに着座する乗員を拘束するシートベルト装置と、前記乗員の肩部上方に配設されるエアバッグ装置と、を具備し、前記エアバッグ装置は、エアバッグケースと、前記エアバッグケースに収納されて衝突時に膨張展開するエアバッグ袋と、を有し、前記エアバッグケースの乗員側端部は、前記シートベルト装置のベルト部の乗員側端部よりも、前記乗員の頭部から離れた位置に配置され、
衝突事故が発生した場合は、衝突検知でインフレータが作動することで、前記エアバッグ袋が膨らんで前記エアバッグケースの中から頭部側方側へ展開し、前記乗員が慣性で前方へ移動することにより、前記ベルト部が引かれ、ベルト固定部が起動することで、前記エアバッグケースが前記ベルト部をクランプしてシートバックから離脱し、前記エアバッグ袋が、前記エアバッグケースと共に、頭部の移動に追従することを特徴とする。従って、エアバッグケースが、乗員の頭部から離れて配置されることから、衝突時にてエアバッグケースからエアバッグ袋が膨張展開しても、膨張展開するエアバッグ袋を、乗員の頭部や頚部から適度に離間させることができる。従って、エアバッグ袋の乗員に対する加害性を低減させることができる。
【0016】
また、本発明の乗員保護装置では、前記エアバッグ袋は、膨張展開する際に、前記乗員の頭部に向かって膨張する形状であることを特徴とする。従って、エアバッグケースが乗員の頭部から離間したとしても、衝突時において、乗員の頭部を膨張展開するエアバッグ袋で保護することができる。
【0017】
また、本発明の乗員保護装置では、前記エアバッグケースは、ケース本体と、前記ケース本体を上方から閉鎖する蓋部と、を有し、前記エアバッグ袋が膨張展開する際に、前記蓋部は、前記乗員から離れる方向に開くことを特徴とする。従って、エアバッグ袋が膨張展開する際に、エアバッグ装置の蓋部が乗員の頭部から離れる方向に開くので、開く蓋部の加害性を低減することができる。
【0018】
また、本発明の乗員保護装置では、前記エアバッグ袋は、複数の袋部を有し、前記エアバッグ袋が膨張展開した際に、上方に配置される前記袋部は、下方に配置される前記袋部よりも、前記乗員の頭部に接近することを特徴とする。従って、区画された複数の袋部からエアバッグ袋を構成することで、展開膨張時のエアバッグ袋の形状を正確に制御でき、膨張展開するエアバッグ袋の加害性を更に低減すると共に、乗員の頭部を側方から確実に支持することができる。
【0019】
また、本発明の乗員保護装置では、膨張展開した際の前記エアバッグ袋は、後方部分の車両幅方向の長さが、前方部分の車両幅方向の長さよりも、長いことを特徴とする。従って、衝突時において、比較的幅広に形成されるエアバッグ袋の後方部分で、乗員の頭部後方部分が側方から支持できるので、乗員の頭部が回転することを抑制することができる。
【0021】
また、本発明の乗員保護装置では、前記エアバッグ袋は、前記ベルト部を跨いで膨張展開することを特徴とする。従って、エアバッグ袋を収納するエアバッグケースがベルト部よりも乗員頭部から離れることで膨張展開時の加害性を小さくすると共に、膨張展開時にはベルト部を跨ぐことで、乗員の頭部を効果的に拘束することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る乗員保護装置1を図面に基づき詳細に説明する。尚、一実施形態の説明の際には、同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0024】
図1(A)は、本実施形態の乗員保護装置1が配設された運転席シート2を説明するための斜視図であり、
図1(B)は運転席シート2の車側面図である。
【0025】
図1(A)に示す如く、本実施形態の乗員保護装置1は、運転席シート2に配設され、シートベルト装置3と、運転席シート2に配設されたエアバッグ装置4と、を有している。尚、以下の説明では、乗員保護装置1が、運転席シート2に配設される場合について説明するが、この場合に限定されるものではなく、助手席シートや後列シートに配設される場合でも良い。
【0026】
運転席シート2は、乗員Pが着座するシートクッション2Aと、シートクッション2Aの後方から上方に延び乗員Pの背面を支持するシートバック2Bと、シートバック2Bの上端部に配設されるヘッドレスト2Cとを有している。そして、シートベルト装置3は、例えば、3点式のシートベルト装置である。
【0027】
シートベルト装置3は、主に、ベルト部5と、タングプレート部6と、バックル部7と、リトラクタ部8と、を有している。ベルト部5の一端はリトラクタ部8に取り付けられ、ベルト部5の他端はシートクッション2Aのシートフレーム(図示せず)や車体に固定されている。リトラクタ部8は、例えば、シートバック2B内に配設され、シートバック2Bのシートフレーム(図示せず)に固定されている。
【0028】
ベルト部5には、その長手方向に移動可能なタングプレート部6が取り付けられ、乗員P(
図3(A)参照)がタングプレート部6を引っ張ることで、ベルト部5はリトラクタ部8から引き出される。一方、乗員Pがタングプレート部6を離すことで、ベルト部5はリトラクタ部8により巻き取られる。そして、シートバック2Bの上端面には、ヘッドレスト2Cよりも車両30(
図3(A)参照)のセンター側に開口部9が形成され、開口部9にはベルト部5及びエアバッグ装置4のチューブ13が挿通されている。尚、ベルト部5の他端は、アンカーレッジ(図示せず)を介して車両30のセンター側のシートフレーム(図示せず)等に固定されている。
【0029】
バックル部7は、車両30の窓側のシートクッション2Aのシートフレーム(図示せず)や車両30に固定され、乗員Pがシートベルト装置3を装着する時には、タングプレート部6がバックル部7に係止される。このとき、タングプレート部6より上方のベルト部5は、ショルダベルトとして用いられ、シートバック2Bの前面に斜めに架け渡され、乗員Pの胸部等を拘束する。一方、タングプレート部6から下方のベルト部5は、ラップベルトとして用いられ、シートバック2Bの前面に横断して架け渡され、乗員Pの腰部等を拘束する。
【0030】
シートベルト装置3は、例えば、ロードリミッタ付きプリテンショナ機構を備えている。車両30の制御部(図示せず)が、斜め衝突または狭小ラップ衝突が発生した際に、ベルト部5の引張力を検出し、所定値以上の引張力を検出した場合には、ベルト部5の緩みを瞬時に巻き取り、乗員Pを運転席シート2へ拘束する。その後、制御部は、ベルト部5の引張力を検出し、所定値以上の引張力を検出した場合には、乗員Pに加わる荷重を緩和するためベルト部5による拘束を緩和し、ベルト部5は、再び、リトラクタ部8から徐々に引き出される。
【0031】
図1(B)に示す如く、エアバッグ装置4は、主に、エアバッグ袋10(
図5(A)参照)と、エアバッグ袋10を収納するエアバッグケース11と、エアバッグケース11と一体となりベルト部5が挿通される挿通部材14と、エアバッグ袋10にガスを供給するインフレータ12と、エアバッグ袋10とインフレータ12とを連結するチューブ13と、を有している。
【0032】
エアバッグ袋10は、高圧ガスが注入されることで膨張展開する布製の袋であり、例えば、蛇腹状に折り畳まれてエアバッグケース11に収納されている。エアバッグケース11は、例えば、金属や合成樹脂から成り、その底面にはベルト部5を挿通する挿通部材14が設けられている。そして、インフレータ12及びチューブ13は、シートバック2B内に配設され、インフレータ12はシートバック2Bのシートフレーム(図示せず)に固定されている。
【0033】
図示したように、シートバック2Bのシートフレームの一部が、シートバック2Bの上端面から車両30の上方側へ突出し、エアバッグケース11の固定用ポール16として用いられる。固定用ポール16はシートバック2Bの上端面に車両30の車幅方向に延在し、取付機構15が固定用ポール16に対して回動自在に取り付けられている。そして、エアバッグケース11は、取付機構15に対して固定されることで、固定用ポール16に対して回動自在となる。
【0034】
例えば、シートベルト装置3の非装着時には、エアバッグケース11をシートバック2Bの上方へ挙げておくことで、エアバッグケース11が乗員Pに引っ掛かることなく、乗員Pの車両30への乗降がスムーズに行われる。一方、乗員Pがシートベルト装置3を装着する時には、エアバッグケース11は、ベルト部5と共に乗員Pの左肩部上面に配置される。尚、エアバッグケース11が固定用ポール16に対して回動することで、乗員Pの体格に合わせてエアバッグケース11の位置が調整可能となる。
【0035】
図2を参照して、上記したエアバッグ装置4を詳述する。
図2(A)は、エアバッグ装置4を説明するための側面図であり、
図2(B)は、
図2(A)に示すエアバッグ装置4のエアバッグケース11が固定用ポール16に固定された状態を説明するための上面図であり、
図2(C)は
図2(B)のC−C線での断面図である。尚、
図2(A)では、説明の都合上、ヘッドレスト2Cは省略して図示している。
【0036】
図2(A)に示す如く、取付機構15は、主に、固定用ポール16に配設される一対の回動部材18A、18Bと、エアバッグケース11に固定される一対の支持プレート19A、19Bと、回動部材18A、18Bと支持プレート19A、19Bとを連結する複数の樹脂ピン17と、を有している。
【0037】
回動部材18A、18Bは、樹脂や金属等により作製され、例えば、略L字形状に形成されている。そして、円柱形状の固定用ポール16に対して回動自在に取り付けられ、乗員Pの車両30への乗降動作に合わせて、上下方向にエアバッグケース11を移動させることができる。
【0038】
図2(B)に示すように、回動部材18A、18Bは、エアバッグケース11を挟持するため、車両30の車幅方向に離間して配置されている。そして、シートベルト装置3のベルト部5及びエアバッグ装置4のチューブ13は、回動部材18A、18B間のスペースに配置されている。図示したように、ベルト部5は、固定用ポール16の上面を通り、エアバッグケース11の挿通部材14内に挿通されている。
【0039】
エアバッグケース11および挿通部材14は、支持プレート19A、19Bで支持されている。支持プレート19A、19Bは、車両30の前後方向に延在し、回動部材18A、18Bの間に樹脂ピン17を介して固定されている。この構造により、エアバッグケース11も回動部材18A、18Bを介して固定用ポール16に対して回動することができる。
【0040】
エアバッグケース11内に収納されたエアバッグ袋10(
図5(A)参照)は、チューブ13を介してインフレータ12と連結している。後述するように、エアバッグ装置4では、車両30の斜め衝突または狭小ラップ衝突時に、インフレータ12からエアバッグ袋10内へ高圧ガスが噴出される。エアバッグ袋10が乗員Pの後頭部の側方を拘束するように膨張展開することで、乗員Pの頭部が保護される。尚、エアバッグケース11は、常時、ベルト部5の上面に位置することで、ベルト部5により阻害されることなくエアバッグ袋10が膨張展開することができる。
【0041】
図2(B)および
図2(C)を参照して、エアバッグケース11および挿通部材14に関して説明する。
【0042】
図2(C)に示すように、エアバッグケース11は、上方部分が開口する箱体であるケース本体11Aと、ケース本体11Aの上部開口を塞ぐ蓋部11Bと、から構成されている。エアバッグケース11には、折りたたまれた状態で、または巻回された状態で、エアバッグ袋10が内蔵されている。蓋部11Bは、略板状の部材であり、支軸11Cを介してケース本体11Aに回転可能に備えられている。支軸11Cは、エアバッグケース11の、乗員Pから離れる側である左方端部に形成されている。このようにすることで、衝突時にエアバッグ袋10が膨張展開すると、蓋部11Bはエアバッグ袋10に下方から押され、支軸11Cを支点として反時計回りに回転する。即ち、蓋部11Bは、乗員Pから離れる方向に回転するので、衝突時に開く蓋部11Bの加害性が低減されている。
【0043】
ここで、ベルト部5が挿通される挿通部材14とエアバッグケース11とは、一体に成形されても良いし、個別に成形されて接合されても良い。
【0044】
本形態では、エアバッグ袋10が収納されるエアバッグケース11は、乗員Pの頭部や頚部から離れる方向、即ち左方向にオフセットしている。
図2(B)では、エアバッグケース11の左右方向における中心を一点鎖線である中心線CL1で示し、ベルト部5の左右方向における中心を一点鎖線である中心線CL2で示している。そして、エアバッグケース11の中心線CL1は、ベルト部5の中心線CL2よりも、乗員Pの頭部から離れる方向である左方に配置されている。換言すると、エアバッグケース11およびそれに内蔵されるエアバッグ袋10は、挿通部材14およびそれに挿通されるベルト部5よりも、左方側にオフセットしている。また、エアバッグケース11およびエアバッグ袋10の左方側の端部は、ベルト部5および挿通部材14よりも、左方に配置されている。
【0045】
このようにすることで、乗員Pがシートベルトを着用した際には、ベルト部5は乗員Pの頭部や頚部の直近に配されるが、エアバッグケース11は、ベルト部5よりも左方にオフセットしていることで、乗員Pの頭部等から離間する。従って、後述するように、衝突時に、エアバッグケース11から、上方に向かってエアバッグ袋10が膨張展開したとしても、膨張展開するエアバッグ袋10の、乗員Pの頭部等に対する加害性を低減することができる。
【0046】
次に、
図3から
図6を用いて通常の運転時から斜め衝突または狭小ラップ衝突時における乗員保護装置1の動作について説明する。
図3は通常の運転時における乗員保護装置1を説明する(A)側面図、(B)上面図である。
図4は斜め衝突または狭小ラップ衝突直後における乗員保護装置1を説明する(A)側面図、(B)上面図である。
図5は斜め衝突または狭小ラップ衝突後にシートベルト装置3のロードリミッタ機構が作用した状態の乗員保護装置1を説明する(A)側面図、(B)上面図である。
図6は、衝突時に膨張展開するエアバッグ袋10を示す(A)背面図、(B)背面図、(C)側面図である。
【0047】
図3(A)では、乗員Pが運転席シート2に着座し、シートベルト装置3を装着し、車両30を運転している状況を示している。乗員Pは、運転席シート2に深く腰掛け、乗員Pの体格に応じた個々のドラインビングポジションを決め、シートベルト装置3を装着する。その状態で、乗員Pは、両手でステアリングホイール31を握り、車両30の操作を行う。乗員Pの胸部や腰部は、ベルト部5により拘束されている。
【0048】
上述したように、エアバッグ装置4のエアバッグケース11は、シートバック2Bの上端面の車両30のセンター側に配置され、ベルト部5はエアバッグケース11底面の挿通部材14(
図2(A)参照)に挿通している。
【0049】
図3(B)に示す如く、エアバッグケース11は、シートバック2Bの上端面から乗員Pの左肩部上面に掛けて配置されている。乗員Pの体格により異なるが、例えば、エアバッグケース11の車両30の前方側の先端が、乗員Pの耳部の横に位置している。エアバッグ装置4の目的は乗員Pの頭部が回転することを防止することであり、エアバッグ袋10が、少なくとも乗員Pの後頭部の側方に膨張展開するように配置されている。
【0050】
また、上記したように、エアバッグケース11は、ベルト部5よりも左方にオフセットしている。従って、乗員Pが搭乗時にシートベルト装置3をしっかりと装着すると、ベルト部5は乗員Pの頭部の近傍に配置されるようになる。よって、仮に、エアバッグケース11をベルト部5の直上に配置した場合、衝突時に於いては、乗員Pの頭部の直近でエアバッグケース11からエアバッグ袋10が膨張展開することになるので、膨張展開時の乗員Pに対する加害性が大きくなってしまう恐れがある。そこで本形態では、エアバッグケース11を、ベルト部5から左方にオフセットしている。即ち、エアバッグケース11は、乗員Pの頭部等から離れた位置に配設されることになる。従って、後述するエアバッグ袋10が、乗員Pから離れた位置で膨張展開するので、乗員Pに対する加害性を小さくすることができる。
【0051】
図4(A)では、車両30の助手席シート(図示せず)の前方側にて斜め衝突または狭小ラップ衝突が発生した直後の状況を示している。斜め衝突または狭小ラップ衝突直後の乗員Pの初期動作では、車両30が急減速するため運転席シート2に着座する乗員Pは車両30の前方へと移動する。この乗員Pの移動によりベルト部5に掛かる引張力が検出される。そして、乗員Pがステアリングホイール31やフロントガラス(図示せず)に勢いよく衝突することを防止するため、シートベルト装置3のプリテンション機構が起動する。シートベルト装置3のプリテンション機構により、ベルト部5の緩みを瞬時に巻き取り、乗員Pを運転席シート2へ拘束する。
【0052】
このとき、斜め衝突または狭小ラップ衝突直後には、乗員Pの動きに連動してベルト部5が急に車両30の前方へ引き出される。上述したように、このベルト部5の動きに連動してエアバッグケース11の挿通部材14に設けられたロック機構付きのタング(図示せず)が起動し、ベルト部5がエアバッグケース11にクランプされる。斜め衝突または狭小ラップ衝突時の衝撃によりベルト部5には、通常時には無い高い荷重が加わるが、この荷重が回動部材18A、18B(
図2(A)参照)と支持プレート19A、19B(
図2(A)参照)との連結部にも加わる。そして、樹脂ピン17(
図2(B)参照)はこの荷重を支持出来ない強度にて成形されているので、樹脂ピン17が破断し、エアバッグケース11は取付機構15から離脱する。
【0053】
図4(B)に示す如く、乗員Pの頭部は、直接、ベルト部5により拘束されていないため、ヘッドレスト2Cよりも、若干、前方へ移動するが、上述したように斜め衝突または狭小ラップ衝突直後に、乗員Pの頭部近傍のベルト部5はエアバッグケース11にクランプされる。その結果、エアバッグケース11は、
図3(A)に示した通常の運転時における乗員Pの頭部との位置関係を、実質、維持した状態にて、ベルト部5と共に乗員Pの前方への移動を追従することができる。つまり、エアバッグケース11は、少なくとも乗員Pの後頭部の側方をエアバッグ袋10にて拘束出来る位置を維持するように、取付機構15から離脱する。
【0054】
また、本形態では、
図3(B)に示したように、エアバッグ袋10を収納するエアバッグケース11が、乗員Pの頭部から離間するように、ベルト部5から左方にオフセットしている。従って、エアバッグ袋10は、乗員Pから離れた位置で、エアバッグケース11から上方に向かって膨張展開する。よって、膨張展開するエアバッグ袋10は、乗員Pの頭部や頚部に激しく接触することが抑止され、乗員Pの頭部等に打撲等が発生してしまうことが防止されている。
【0055】
更に、
図4(B)に示すように、膨張展開した状態のエアバッグ袋10は、乗員Pの頭部の後方部分を好適に支えることができる形状とされている。具体的には、膨張展開したエアバッグ袋10の後方部分の左右方向の幅L11は、その前方部分の左右方向の幅L10よりも、長く形成されている。また、膨張展開したエアバッグ袋10の右方の側面部10Dは、後方に向かって右方に傾斜する傾斜面とされている。このようにすることで、エアバッグ袋10の厚い後方部分が、乗員Pの頭部後方部分を左方から支えるので、衝突時に頭部が回転してしまうことが抑制される。
【0056】
図5(A)では、斜め衝突または狭小ラップ衝突後、シートベルト装置3のロードリミッタ機構が起動し、エアバッグ袋10が膨張展開している状況を図示している。上述したように、斜め衝突または狭小ラップ衝突直後には、乗員Pの背面がシートバック2Bに当接するように乗員Pはベルト部5により運転席シート2のシートバック2Bに拘束される。その後、このベルト部5の拘束により乗員Pの胸部等を圧迫し過ぎることで乗員Pが損傷することを防止するため、ベルト部5の引張力が設定された値以上となると、シートベルト装置3のロードリミッタ機構が起動する。そして、ベルト部5は、再び、リトラクタ部8から徐々に引き出されることで、乗員Pの上半身は車両30の前方へと移動し始める。
【0057】
一方、斜め衝突または狭小ラップ衝突後、上記斜め衝突または狭小ラップ衝突を検知することで、運転席シート2のエアバッグ装置4や車両30に配設された他のエアバッグ装置も起動する。詳しくは、運転席シート2の周囲では、ステアリングホイール31に配設されたフロントエアバッグ袋32や車両30の窓際に配設されたカーテンエアバッグ袋(図示せず)が膨張展開される。そして、エアバッグ装置4においても、乗員Pの頭部がフロントエアバッグ袋32に接触する前にエアバッグ袋10が膨張展開され、エアバッグ袋10により乗員Pの後頭部の側方を拘束する。尚、エアバッグ袋10は、その他のエアバッグ装置と同様に、上記斜め衝突または狭小ラップ衝突の検知した際に、膨張展開を開始する場合でも良い。
【0058】
図5(B)に示す如く、ベルト部5と共にエアバッグ袋10も車両30の前方へ移動する。そして、エアバッグ袋10が乗員Pの後頭部の側方を拘束するように膨張展開する。この図に示すように、乗員Pの頭部の左側面部が、エアバッグ袋10で左方から支えられていることで、乗員Pの頭部が過度に回転してしまうことが防止されている。
【0059】
図6を参照して、衝突時に膨張展開するエアバッグ装置4を詳述する。
図6(A)は膨張展開するエアバッグ袋10を後方から見た図であり、
図6(B)はエアバッグ袋10を抜き出して示す図であり、
図6(C)はエアバッグ袋10を右方から見た図である。
【0060】
図6(A)を参照して、本形態では、エアバッグケース11から、エアバッグ袋10を、乗員Pの頭部に向けて斜め方向に膨張展開させている。このようにすることで、エアバッグケース11が乗員Pの頭部から離間して配置されたとしても、衝突発生時に、即座にエアバッグ袋10を、ベルト部5を跨いで頭部の近傍に配置させ、乗員Pの頭部を保護する効果を大きくすることができる。
【0061】
図6(B)を参照すると、エアバッグ袋10は、エアバッグケース11の直上で膨張展開する袋部10Bと、袋部10Bの上方で膨張展開する袋部10Aと、袋部10Aの左方で膨張展開する袋部10Cと、から構成されている。これらの各袋部10A等は、ひとつのエアバッグ袋を区画することで形成されても良いし、個々のエアバッグ袋として構成されても良い。ここでは、袋部10Aが乗員Pの頭部を支え、袋部10Bは下方から袋部10Aを支え、袋部10Cは左方から袋部10A、10Bを支えている。
【0062】
図6(C)を参照して、袋部10A、10Bは、一つのエアバッグ袋10として形成されている。この図では、エアバッグ袋10を右方から見た状態を示している。エアバッグ袋10の上方部分が袋部10Aであり、エアバッグ袋10の下方部分が袋部10Bである。また、袋部10Aと袋部10Bとの境界部分のエアバッグ袋10を開口して開口部22が形成されている。
【0063】
袋部10Aを乗員Pの頭部側に向かって膨張展開させるために、エアバッグ袋10は、テザー23を備えている。ここでは、2本のテザー23が設けられている。テザー23の上端は、エアバッグ袋10の上端付近に固定され、テザー23の下端は、エアバッグ袋10の下端付近に固定されている。また、テザー23は開口部22を挿通しており、テザー23の開口部22よりも上方部分は、エアバッグ袋10よりも左方側(紙面上奥側)に配置され、テザー23の開口部22よりも下方部分は、エアバッグ袋10よりも右方側(紙面上手前側)に配置される。また、テザー23の長さは、エアバッグ袋10よりも、短く形成されている。
【0064】
上記のようにテザー23が形成されることで、衝突時にエアバッグ袋10が膨張展開すると、エアバッグ袋10の膨張展開がテザー23で若干制限される。その結果、
図6(B)に示すように、袋部10Aは、乗員Pの頭部に向かって膨張展開するように成り、この袋部10Aが頭部の後方部分を支えることで、乗員Pの頭部を保護することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態を示したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0066】
例えば、
図1(A)を参照して、本実施の形態では、乗員保護装置1を構成するシートベルト装置3が、運転席シート2に内蔵され、車両30のセンター側から窓側に向けてベルト部5が配設される場合について説明したが、この場合に限定するものではない。例えば、シートベルト装置3のベルト部5が、車両30の窓側からセンター側に向けて配設される場合でも良い。
【0067】
また、
図6(B)では、エアバッグ袋10を膨張展開させる際には、蓋部11Bは支軸11Cを中心に略180度回転したが、蓋部11Bが回転する角度を180度以外とすることもできる。例えば、蓋部11Bが開く角度を直角よりも小さくし、膨張展開するエアバッグ袋10を、蓋部11Bで乗員Pの頭部に向かって膨張展開するようにガイドしてもよい。更には、支軸11Cを、ケース本体11Aの左右方向両端部に形成し、エアバッグ袋10が膨張展開する際には、蓋部11Bが観音開きするようにしてもよい。