(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0013】
上記のように、本発明に係る糸切れ性の良い構造用接着剤組成物は、液状ゴム成分非含有の構造用接着剤組成物であって、(A)ゴム粒子が一次粒子の状態で分散しているエポキシ樹脂、及び(B)エポキシ樹脂潜在性硬化剤、を含み、前記構造用接着剤組成物中のゴム粒子の配合割合が10〜45質量%であり、前記構造用接着剤組成物の50℃における粘度が、せん断速度5(sec
−1)の時に190〜380(Pa・s)であり、せん断速度200(sec
−1)の時に1〜30(Pa・s)であるものである。
【0014】
上述した液状ゴム成分非含有という意味は、液状ゴム成分を実質的に含有していないという意味である。ここで、本明細書において、液状ゴムとは、室温(23℃)、1.01×10
5Paにて流動性のあるゴムを意味する。また、液状のゴム変性エポキシ樹脂も前記液状ゴム成分に含まれる。
【0015】
前記成分(A)のゴム粒子が一次粒子の状態で分散しているエポキシ樹脂は、個数平均粒子径が10〜1000nmのゴム粒子が一次粒子の状態で分散されてなる、エポキシ当量が500〜10000のゴム粒子分散エポキシ樹脂であるのが好ましい。好ましくは、エポキシ樹脂100質量部に対して、ゴム粒子を1質量部〜100質量部含み、本発明の効果を十分に得る観点から、より好ましくは10〜50質量部、さらに好ましくは10〜30質量部含む。
【0016】
ここで、ゴム粒子が「一次粒子の状態で分散されてなる」とは、個数平均一次粒子径が好ましくは10〜1000nmの架橋ゴム粒子同士が、エポキシ樹脂中で互いに凝集せず、それぞれ独立して分散していることを意味する。その分散状態は、例えば、前記ゴム粒子分散エポキシ樹脂をメチルエチルケトン等の溶剤に溶解し、これをレーザー光散乱による粒子径測定装置等でその粒子径を測定することや、前記ゴム粒子分散エポキシ樹脂を電子顕微鏡で観察すること等により確認可能である。
【0017】
前記成分(A)のゴム粒子は、上述の如く、エポキシ樹脂中に独立して分散していることにより本発明の効果が奏されることから、エポキシ樹脂中で相溶しないことが必要である。そのために、成分(A)のゴム粒子は、その内側に存在する、好ましくは55〜100質量%、より好ましくは60〜90質量%の架橋ゴム粒子コア層重合用単量体の重合体である架橋ゴム粒子コア層のコア重合体と、その外側に存在する、好ましくは0〜45質量%、より好ましくは10〜40質量%のビニル単量体の硬質ポリマーシェル層重合用単量体の重合物である硬質ポリマーシェル層のシェル重合体と、からなり、好ましくは、架橋ゴム粒子コア層、及び硬質ポリマーシェル層を含むコアシェル構造を有するものとされるのが好ましい。より好ましくは架橋ゴム粒子コア層に硬質ポリマーシェル層がグラフトされてなるコアシェルゴム粒子が好ましい。
【0018】
前記ゴム粒子は、効果的な靱性改良の観点からその個数平均粒径が10〜1000nmであり、好ましくは10〜600nm、より好ましくは10〜500nm、さらに好ましくは10〜400nmである。なお、このようなゴム粒子の個数平均粒子径は、例えば動的光散乱法、電子顕微鏡法等を用いて求めることができる。
【0019】
前記成分(A)のゴム粒子は、架橋ゴム粒子が好ましい。前記架橋ゴム粒子は、架橋されているので、そのゴム粒子には、溶媒不溶分がある。ゴム粒子の中の溶媒不溶物の量(即ち、架橋ゴムに関するゲル分率)は、室温で24時間過剰量のメチルエチルケトン(MEK)にサンプルを浸した後、1時間1万2000rpmで遠心分離することで可溶分と共に溶媒を除去し、残留したMEK不溶物の質量を測定することにより、投入サンプル質量に対する残留サンプル質量の割合として質量パーセントで表される。前記架橋ゴム粒子中の溶媒不溶分量は、優れた性能バランスを得る観点から、80〜100質量%とすることが好ましく、特に90〜100質量%が好ましい。
【0020】
本発明に用いられるゴム粒子は、架橋ゴム粒子コア層、及び硬質ポリマーシェル層を含むコアシェル構造を有するものであることが好ましく、靱性改良の観点からより好ましくは、ブタジエンゴム、ブタジエン−スチレンゴム、ブタジエンブチルアクリレートゴム、ブチルアクリレートゴム、及びオルガノシロキサンゴムからなる群から選ばれる1種以上、より好ましくはブタジエンゴムの架橋ゴム粒子コア層の存在下に、1種以上のビニル単量体を重合することで得られる硬質ポリマーシェル層を含むグラフト共重合体であることが好ましく、粒子サイズコントロールの観点から、好ましくは乳化重合で作製されたものであることが好ましい。
【0021】
前記架橋ゴム粒子コア層は、その物性を損なわない程度まで、以下に示すビニル単量体からなる成分を50%未満共重合していても良い。
【0022】
前記ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン又は、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、又はメタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1、3ブチレングリコールジメタクリレート等のメタクリル酸やメタクリレート;メチルアクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等のアクリル酸やアクリレート;といったものが挙げられる。前記ビニル単量体は、単独で用いても良いし、これらの混合物を用いても良い。
【0023】
前記成分(A)のゴム粒子は、前記ゴム粒子を本発明の組成物中で長期に安定的に存在せしめる観点からエポキシ基、及びエポキシ基と反応可能な官能基からなる群から選ばれる1種以上の基を含有することが好ましく、より好ましくは前記硬質ポリマーシェル層に前記基を含有することである。
【0024】
前記架橋ゴム粒子コア層は、靱性改良の観点から、そのガラス転移移温度が0℃以下であることが好ましい。
【0025】
前記成分(A)のゴム粒子のエポキシ樹脂に対する配合割合としては、10〜45質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。
【0026】
前記成分(A)に用いられるエポキシ樹脂は、エポキシ当量が80〜10000のものが使用でき、エポキシ当量が80〜200のエポキシ樹脂が好ましい。
【0027】
前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノール化合物、水素添加ビスフェノール化合物、フェノールまたはo−クレゾールノボラック、芳香族アミン、多環脂肪族或いは芳香族化合物等の既知の基本骨格の化合物のグリシジルエーテル置換体、シクロヘキセンオキシド骨格を有する化合物等が挙げられ、代表的なものとしては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、及びその縮合物、即ち、いわゆるビスフェノールA型エポキシ樹脂が例示される。
【0028】
また、前記成分(A)のゴム粒子が一次粒子の状態で分散しているエポキシ樹脂としては、例えば特許文献2に記載されたエポキシ樹脂組成物が使用できる。
【0029】
前記成分(B)のエポキシ樹脂潜在性硬化剤としては、公知のエポキシ樹脂潜在性硬化剤が適用可能である。例えば、加熱により活性化されるエポキシ樹脂用潜在性硬化剤を、グアナミン類、グアニジン類、アミノグアニジン類、ウレア類、イミダゾール類、変性ポリアミン及びこれらの誘導体、ジシアンジアミド、三フッ化ホウ素アミン錯体、有機酸ヒドラジッド、メラミンなどの群から選択して用いることができる。中でも広く用いられているジシアンジアミドが好ましい。なお前記成分(B)のエポキシ樹脂潜在性硬化剤の添加量は、マトリクスのエポキシ当量に応じて決定される。
【0030】
本発明の構造用接着剤組成物には、上記した成分に加えて、本発明の効果が損なわれない限りにおいて、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フィラー、希釈剤、シランカップリング剤などを添加してもよい。また、上記した成分に加えて、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルクなどの体質顔料(充填材)、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄などの着色顔料を添加することができる。またケッチェンブラック、シリカ、微粒炭酸カルシウム、セピオライト等のチキソ材を添加してもよい。さらに剥離強度など接着性を改良する接着性改良剤として、アクリル樹脂を添加することもできる。
【0031】
本発明の構造用接着剤組成物は、50℃における粘度が、せん断速度5(sec
−1)の時に190〜380(Pa・s)であり、せん断速度200(sec
−1)の時に1〜30(Pa・s)である。
【0032】
本発明の構造用接着剤組成物は、特に一液型として好適に使用できる。
【0033】
本発明の構造用接着剤組成物は、自動車の車体や自動車部品などのパーツなどを構造接着して自動車構造体を製造するのに用いられ、特に、スポット溶接と接着剤を併用した工法(ウェルドボンド工法)での接着に好適に用いられる。即ち、本発明の構造用接着剤組成物は、自動車の車体を接着するのにも好適に用いられる。
【0034】
本発明の自動車構造体の製造方法は、好ましくは自動車製造ラインにおける製造方法であり、接着剤組成物を被着体に40〜60℃で加温しステッチ塗布する工程を含むものである。加温塗布することにより、ノズルからの吐出性が良くなる為、製造ラインでは加温塗布が好ましい。本発明の自動車構造体の製造方法は、ウェルドボンド工法とするのが好ましい。接着剤とスポット溶接としたウェルドボンド工法において、本発明の構造用接着剤組成物では、粘度の大きい接着剤とすることで、耐シャワー性が向上し、従来はスポット溶接のみだった部位についてもウェルドボンド工法による接合が可能となるため、車体などにおける接着剤の適用部位を大きくすることができ、剛性を高めることができ、結果として車が軽くなり、燃費向上に繋がる。また、従来はシャワー性とステッチ塗布した際の糸引きの両立が困難であったが、本発明の構造用接着剤組成物では、それらの両立が可能となった。
【0035】
本発明の構造用接着剤組成物は、高い耐シャワー性を有するとともに糸切れ性が良いため、自動車製造ラインで使用した際、ステッチ塗布が可能であり、作業性が優れている。ステッチ塗布とは接着剤を間欠的に塗布することを指す。ウェルドボンド工法においてステッチ塗布を適用することにより、スポット溶接を行う部位を避けて接着剤を塗布することができ、接着剤が燃焼することによる煙や二酸化炭素などの燃焼ガス発生の抑制、接着剤の使用量削減の効果がある。本発明の構造用接着剤組成物は、塗布ガンによる塗布速度が500mm/分でも使用可能である。本発明の自動車構造体の製造方法では、塗布はロボットハンドで行うことが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0037】
(実施例1〜2及び比較例1〜3)
下記表1に示す質量部数の各成分を用いて、下記の手順で構造用接着剤組成物を製造した。5L万能混合攪拌機(株式会社ダルトン製)に表1の各材料を配合し、30分間攪拌したあと、10分間減圧脱泡し、構造用接着剤組成物を調製した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1における材料は以下の通りである。
*1)「ダイハード100SH」AlzChem社製のジシアンジアミド
*2)「エピクロン B605-IM」DIC(株)製のジウロン
*3)「CCR」白石工業(株)製の表面処理炭酸カルシウム
*4)「NN500」日東粉化工業(株)製の炭酸カルシウム
*5)「TS-720」キャボットジャパン(株)製のシリカ
*6)「DER331」ダウ・ケミカル日本(株)製のビスフェノールA型液状エポキシ樹脂
*7)「カネエース MX154」(株)カネカ製のコアシェルゴムを均一に分散させたエポキシ樹脂 (ゴム粒子の配合量40質量%)
*8)「カネエース MX960」(株)カネカ製のコアシェルゴムを均一に分散させたエポキシ樹脂 (ゴム粒子の配合量25質量%)
*9)「Nipol DN601」日本ゼオン(株)製の液状ニトリルゴム
*10)「カネエース B562」(株)カネカ製のブタジエン系ゴム粒子
【0040】
上記製造した実施例1〜2及び比較例1〜3の各接着剤組成物を以下に示す性能試験に供し、結果を下記の表2に示す。
【0041】
(1)せん断強度
2枚の縦100mm×横25mm×厚さ1.6mmの冷間圧延鋼板を準備した。得られた接着剤組成物を、前記冷間圧延鋼板に塗布厚さ0.1mmにて塗布し、前記2枚の冷間圧延鋼板の重ね合わせ部分が12.5mmとなるようにして重ね合わせ、はみ出した接着剤は除去した。このようにして、せん断試験片を作成した。前記せん断試験片を170℃の乾燥機に30分投入して焼付け後24時間放冷したのち、万能引張り試験機を用いて50mm/分の引張り速度で試験を行った。せん断強度が20MPa以上のものを○、20MPa未満のものを×と判定した。
【0042】
(2)粘度
加熱装置とセンサーシステム類を装備したブルックフィールド社製RSTーCPSを用いて、せん断速度は5(sec
−1)および200(sec
−1)のときの前記得られた接着剤組成物の50℃における粘度を求めた。
【0043】
(3)糸切れ性
前記得られた接着剤組成物が充填されたシリンジ(テルモシリンジ、コード番号:SS−10SZ、容量10mL、中口)を鋼板から1mm離して前記接着剤組成物を3mL吐出した状態で前記シリンジを固定して、前記鋼板を300mm/秒の速度で300mm下げた時、前記シリンジの吐出口から前記構造用接着剤組成物の糸引きの長さをノギスで計測した。糸引きの長さが5mm以下を○、5mmを超えるものを×とした。
【0044】
(4)耐シャワー性
前記得られた接着剤組成物を、
図1のように、幅が3mmで半円ビード状に鋼板10に塗布し試験片12とした。
図1において、符号10は鋼板であり、符号14は接着剤組成物であり、符号16はシャワーノズルを示す。ポンプにノズル[1/2 MVVP65350B(株式会社いけうち製)]を接続し、40℃の温水を0.15MPaの水圧で
図1のように、試験片12に対して垂直に温水が当たるように、前記試験片12に10秒間シャワーを行った。シャワーノズル16と試験片12の距離は350mmとした。シャワー後のビード形状が保たれているものを○、ビード形状が崩れているものを×とした。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例1〜2では、耐シャワー性と糸切れ性の両方ともに良い結果となったが、比較例1〜3では、いずれか或いは両方が悪い結果となった。