(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6744511
(24)【登録日】2020年8月3日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】ジクロフェナクナトリウム含有貼付剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/196 20060101AFI20200806BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20200806BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20200806BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
A61K31/196
A61K9/70 401
A61K47/32
A61P29/00
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-21280(P2020-21280)
(22)【出願日】2020年2月12日
【審査請求日】2020年3月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】稲倉 裕
【審査官】
山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/191128(WO,A1)
【文献】
国際公開第2018/124089(WO,A1)
【文献】
ジクロフェナクNaパップ 70mg「ラクール」、140mg「ラクール」、280mg「ラクール」,添付文書,ラクール薬品販売株式会社,2016年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/196
A61K 9/70
A61K 47/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体層と支持体層上に積層された粘着剤層とを備える、腰痛を緩和するための貼付剤であって、
粘着剤層が、粘着基剤、及び貼付面積1cm2あたり0.70〜1.50mgのジクロフェナクナトリウムを含有し、
粘着基剤が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびポリイソブチレンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、
1日に1回、ヒトの胸部、腹部、背部、上腕部又は大腿部に貼付するように用いられる、貼付剤。
【請求項2】
粘着基剤が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびポリイソブチレンを含む、請求項1に記載の貼付剤。
【請求項3】
粘着剤層が、ジメチルスルホキシドを更に含む、請求項1又は2に記載の貼付剤。
【請求項4】
粘着剤層が、有機酸を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項5】
有機酸が、オレイン酸である、請求項4に記載の貼付剤。
【請求項6】
粘着剤層が、粘着付与剤を更に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項7】
粘着付与剤が、脂環族飽和炭化水素樹脂および水素添加ロジングリセリンエステルである、請求項6に記載の貼付剤。
【請求項8】
粘着剤層が、可塑剤を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項9】
可塑剤が、流動パラフィンである、請求項8に記載の貼付剤。
【請求項10】
ジクロフェナクナトリウムの含有量が、50〜100mgである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項11】
1回あたりの貼付枚数が1〜3枚である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項12】
支持体が、透湿度が1000g/m2・24hr以上のポリエチレンテレフタレート編布である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項13】
貼付面積が、50〜150cm2である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロフェナク含有貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
貼付剤は、支持体層上に薬剤を含む膏体を展延して製造される経皮吸収製剤の一種である。貼付剤を患部に近い皮膚に適用することにより、肝臓における初回通過効果を避けながら、局所的に薬剤の組織内濃度を高めることができるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/191128号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
腰痛症は、(1)動作要因(例えば、腰部に動的又は静的に過度に負担を加える場合等)、(2)環境要因(例えば、腰部の振動、寒冷、床や階段での転倒等)、(3)個人的要因(例えば、年齢、性、体格、筋力等の違い、腰椎椎間板ヘルニア、骨粗しょう症等の基礎疾患の有無、精神的な緊張等)によって、腰部の痛み、張り等を主徴とする症状の総称である。
【0005】
腰痛の治療を目的として貼付剤を適用するときには、通常、その患部である腰部に貼付される。しかしながら、腰部は患者自身の手が届きにくい場所であり、高齢もしくは独りで暮らしている患者、又は身体に障害をかかえる患者が腰部に貼付剤を適用することは困難である場合がある。
【0006】
これまでにも、高濃度の薬剤を含有する貼付剤は検討されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、患部付近に貼付する場合(局所投与)と異なり、患部以外の部位に貼付した場合には、血液循環に伴う他の組織への分布、肝代謝、腎排泄による影響を受けるため、単純に薬剤の含有量を増加させたとしても、所望の腰痛緩和効果を奏するかは不明である。そこで、本発明は、腰部でない場所に適用しても、腰痛の緩和に有効な貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、粘着剤層が粘着基剤及びジクロフェナクナトリウムを含有し、ジクロフェナクナトリウムの含有量が貼付面積1cm
2あたり0.70〜1.50mgである貼付剤であると、腰部以外に適用したとしても腰痛の緩和に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の貼付剤は、支持体層と支持体層上に積層された粘着剤層とを備える、腰痛を緩和するための貼付剤であって、粘着剤層が粘着基剤、及び貼付面積1cm
2あたり0.70〜1.50mgのジクロフェナクナトリウムを含有し、1日に1回、ヒトの胸部、腹部、背部、上腕部又は大腿部に貼付するように用いられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る貼付剤は、腰部でない場所に適用しても、腰痛の緩和に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】腰痛の緩和効果の評価試験の概要を示す図である。
【
図2】腰部貼付率とVAS値の変化量の関係を示すグラフである。
【
図3】A群及びB群における平均VAS値の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について、以下に詳細に述べる。
【0012】
本発明の一実施形態は、支持体層と支持体層上に積層された粘着剤層とを備える、腰痛を緩和するための貼付剤であって、粘着剤層が、粘着基剤、及び貼付面積1cm
2あたり0.70〜1.50mgのジクロフェナクナトリウムを含有し、1日に1回、ヒトの胸部、腹部、背部、上腕部又は大腿部に貼付するように用いられる、貼付剤である。貼付剤には、必要に応じて、粘着剤層のもう一方の面(支持体層が積層している面の反対側の面)に剥離可能なフィルムが積層される。
【0013】
腰部とは、解剖学的には、腰椎周辺の背部を意味する。脊椎は、頸椎(7椎)、胸椎(12椎)、腰椎(5椎)、仙椎(5椎)および尾椎(3〜6椎)の約30個の椎骨から形成されている。したがって、本明細書において、腰部とは、ヒトの後面における、頸部側から数えて20〜24番目の椎骨がある位置に対応する部分のことを示し、この腰部よりも上の部分を上背部、下の部分を臀部と定義する。胸部は、ヒトの前面における頸部から横隔膜までの範囲を意味し、腹部は、ヒトの前面における横隔膜から股関節までの範囲を意味する。上腕部は、肩関節から肘関節までの範囲を意味し、大腿部は、股関節から膝関節までの範囲を意味する。上腕部及び大腿部は、ヒトの前面、後面及び側面のいずれであってもよい。
【0014】
まず、粘着剤層について説明する。粘着剤層は、貼付剤適用時に皮膚に圧着する部位であり、粘着基剤及びジクロフェナクナトリウムを含有する。
【0015】
ジクロフェナクナトリウムは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であり、疼痛を緩和する成分である。本実施形態の貼付剤では、貼付面積1cm
2あたり0.70〜1.50mgのジクロフェナクナトリウムを含有する。また、本実施形態の貼付剤では、好ましくは1枚あたり50〜100mg、より好ましくは60〜90mg、さらに好ましくは70〜80mgのジクロフェナクナトリウムを含有する。
【0016】
粘着基剤は、ゴム系粘着基剤、アクリル系粘着基剤及びシリコーン系粘着基剤から選択される少なくとも一つの粘着基剤を含んでもよい。ゴム系粘着基剤は、例えば、ポリイソプレン、ポリイソブチレン(PIB)、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)ブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、又はこれらの組み合わせである。このうち、ジクロフェナクナトリウムの皮膚透過性を高め、また、貼付剤の粘着性をより高めるという点から、SISブロック共重合体、PIB、又はこれらの組み合わせが好ましく、SISブロック共重合体とPIBの混合物であることがより好ましい。アクリル系粘着基剤は、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種を重合又は共重合させた粘着基剤である。シリコーン系粘着基剤は、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、及びポリメチルフェニルシロキサン等のシリコーンゴムを主成分とする。
【0017】
粘着基剤の含有量は、ゴム系粘着基剤の場合、貼付剤の粘着性の点から、粘着剤層の全質量に対して、10〜70質量%、20〜50質量%、23〜40質量%、又は25〜30質量%であってよい。アクリル系粘着基剤又はシリコーン系粘着基剤の場合、粘着基剤の含有量は、粘着剤層の全質量に対して、50〜90質量%であると好ましい。ゴム系粘着基剤がSISブロック共重合体とPIBの混合物である場合、SISブロック共重合体とPIBの質量比は4:1〜1:4、3:1〜1:1、又は3:1〜2:1であると好ましい。
【0018】
粘着剤層は、ジクロフェナクナトリウムを溶解させて、その皮膚透過性を向上させるため等の目的で、さらにDMSOを含有してよい。ジメチルスルホキシド(DMSO)の含有量は、粘着剤層の全質量に対して、1〜20質量%、2〜10質量%、3〜10質量%、又は5〜9質量%であると好ましい。
【0019】
ジクロフェナクナトリウムとDMSOの比は、ジクロフェナクナトリウムの皮膚透過性を向上させる点、及びジクロフェナクナトリウムの結晶の析出を防止する点から、1:0.3〜1:4であってよく、1:0.4〜1:3、1:0.6〜1:3、又は1:0.72〜1:3であると好ましい。
【0020】
粘着剤層は、ジクロフェナクナトリウムの経皮吸収を促進するため、又はジクロフェナクナトリウムの結晶が経時的に析出するのを防止するため等の目的で、さらに有機酸を含有してよい。有機酸としては、脂肪族モノカルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、ソルビン酸、ピルビン酸等)、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、オキサロ酢酸等)、及び脂肪族トリカルボン酸(アコニット酸、プロパントリカルボン酸等)等の脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ酸(グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、糖酸、グルコン酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸等)、芳香族カルボン酸(安息香酸、没食子酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、フタル酸等)、その他の有機酸(メシル酸、ベシル酸等)、又は、これらの塩(例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩)が例示される。これらの有機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら有機酸の中でも、ジクロフェナクナトリウムの経皮吸収を促進し、ジクロフェナクナトリウムの結晶が経時的に析出するのを防止する点から、特に、クエン酸、オレイン酸、メシル酸、又はこれらのアルカリ金属塩が好ましく、オレイン酸がより好ましい。ジクロフェナクナトリウムの皮膚透過性を向上させ、かつジクロフェナクナトリウムの結晶が経時的に析出するのを防止する点から、有機酸の含有量は、粘着剤層の全質量に対して、0.1〜20質量%、0.5〜10質量%、1〜8質量%、又は2〜7質量%であると好ましい。
【0021】
粘着剤層は、粘着付与剤、可塑剤、溶解剤、安定化剤、充填剤等のその他の添加剤をさらに含んでいてよい。
【0022】
粘着付与剤は、例えば、ロジン、ロジンのグリセリンエステル、水素添加ロジン(水添ロジンともいう。)、水素添加ロジングリセリンエステル及びロジンのペンタエリストールエステルなどのロジン誘導体、アルコンP100(商品名、荒川化学工業株式会社製)などの脂環族飽和炭化水素樹脂、クイントンB170(商品名、日本ゼオン株式会社製)などの脂肪族炭化水素樹脂、クリアロンP−125(商品名、ヤスハラケミカル株式会社製)などのテルペン樹脂、マレイン酸レジンなどが挙げられる。これらの中でも、水素添加ロジングリセリンエステル、脂環族飽和炭化水素樹脂、脂肪族炭化水素樹脂又はテルペン樹脂が好ましく、脂環族炭化水素樹脂がより好ましい。これら粘着付与樹脂は2種以上組み合わせてもよい。粘着付与樹脂を含むことにより、粘着剤層の接着性を向上させ、他の物性を安定に維持することができる。粘着付与樹脂の含有量は、粘着剤層の全質量を基準として、例えば、5〜60質量%、10〜50質量%、30〜45質量%、又は35〜40質量%であると好ましい。粘着付与剤としては、脂環族飽和炭化水素樹脂と水素添加ロジングリセリンエステルの組合せがより好ましい。脂環族飽和炭化水素樹脂と水素添加ロジングリセリンエステルの質量比は、4:1〜1:4、4:1〜2:3、又は3:1〜2:1であると好ましい。
【0023】
可塑剤としては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル及び芳香族系プロセスオイルなどの石油系オイル;スクワラン;スクワレン;オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油及びラッカセイ油などの植物系オイル;シリコンオイル;ジブチルフタレート及びジオクチルフタレートなどの二塩基酸エステル;ポリブテン及び液状イソプレンゴムなどの液状ゴム;ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、セバシン酸ジエチル及びセバシン酸ジイソプロピルなどの液状脂肪酸エステル類;ジエチレングリコール;ポリエチレングリコール;サリチル酸グリコール;プロピレングリコール;ジプロピレングリコール;トリアセチン;クエン酸トリエチル;クロタミトンなどが挙げられる。これらの中でも、流動パラフィン、液状ポリブテン、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル及びラウリン酸ヘキシルが好ましく、液状ポリブテン、ミリスチン酸イソプロピル及び流動パラフィンがより好ましく、流動パラフィンが特に好ましい。これらの可塑剤は2種以上組み合わせてもよい。可塑剤の含有量は、粘着剤層の全質量に対して、例えば、7〜70質量%、8〜40質量%、10〜20質量%、又は12〜15質量%であると好ましい。
【0024】
溶解剤は、例えば、液状脂肪酸エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル等)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリエチル、クロタミトン等が挙げられる。これらのうち、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましく、ポリエチレングリコールがより好ましい。溶解剤がポリエチレングリコールである場合、ポリエチレングリコールの数平均分子量は200〜20000であってよく、400〜6000であると好ましく、1000〜6000であるとより好ましい。これらの溶解剤は2種以上組み合わせてもよい。溶解剤の含有量は、粘着剤層の全質量を基準として、例えば、0.1〜10質量%、又は0.5〜5質量%である。
【0025】
安定化剤は、脂肪酸金属塩(ステアリン酸マグネシウム等)、酸化防止剤(トコフェロール誘導体、アスコルビン酸誘導体、エリソルビン酸誘導体、ノルジヒドログアヤレチン酸、没食子酸誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール、2−メルカプトベンズイミダゾール等)、紫外線吸収剤(イミダゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、p−アミノ安息香酸誘導体、アントラニル酸誘導体、サリチル酸誘導体、ケイヒ酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、クマリン酸誘導体、カンファー誘導体等)などを挙げることができる。これらの安定化剤は2種以上組み合わせてもよい。安定化剤の含有量は、粘着剤層の全質量を基準として、0〜5質量%であることが好ましく、0〜2質量%であることがより好ましい。粘着剤層が安定化剤を含有することにより、ジクロフェナクナトリウムの安定性がより向上し得る。
【0026】
充填剤は、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化チタン等)、金属塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等)、ケイ酸化合物(カオリン、タルク、ベントナイト、アエロジル、含水シリカ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム等)などを挙げることができる。これらの充填剤は2種以上組み合わせてもよい。充填剤の含有量は、粘着剤層の全質量を基準として、0〜10質量%であることが好ましく、0〜5質量%であることがより好ましい。
【0027】
粘着剤層は、1種の組成からなる単層であってよく、組成の異なる複数の層が積層してなる複層であってもよい。粘着剤層の全体の膏体質量は、貼付剤を適切に皮膚へ粘着させる点から、10〜1000g/m
2が好ましく、30〜300g/m
2がより好ましく、150〜250g/m
2がさらに好ましい。
【0028】
次に、支持体層について説明する。支持体層は、粘着剤層を保持する。支持体層は、繊維を布状(織布、不織布、又は編布)にしたものの、又は無孔性若しくは多孔性のフィルム(シート)の、単層体又は積層体であることが好ましい。支持体層の材質は、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、又はポリエチレンナフタレート等)、ポリオレフィン(エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、又はアクリロニトリル等のビニル系モノマーの重合体又は共重合体)、ポリアミド(ナイロン又は絹等)、ポリウレタン(PU)、又はセルロース(木綿又は麻等)から選ばれる1種以上の材質であることが好ましい。布(織布、不織布、又は編布)にはゴム組成物がコーティングされていてもよい。ゴム組成物は、ゴム系粘着基剤を含む。ゴム系粘着基剤は、例えば、ポリイソプレン、PIB、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、SISブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、又はこれらの組み合わせである。ゴム組成物は、粘着付与剤を含んでもよい。粘着付与剤は、例えば、脂環族飽和炭化水素樹脂、水添ロジンエステル、テルペン樹脂、又はこれらの組み合わせである。また、ゴム組成物は、可塑剤、充填剤等の添加剤をさらに含んでもよい。支持体層の厚みは、例えば、0.1〜2mmである。支持体層の目付けは、例えば、30〜200g/m
2である。本明細書において、支持体層の厚み及び目付けは、JIS L1906:2000の規格に準じて測定される。
【0029】
支持体層の透湿度は1000g/m
2・24hr以上であることが好ましい。このような高い透湿度の支持体層を用いると、皮膚に適用した貼付剤からDMSOが徐々に揮散するため、貼付剤の粘着性が向上し、貼付剤を長時間適用しても、剥がれ落ちにくい。透湿度の上限値は、20000g/m
2・24hrであってよい。支持体層の透湿度がこのような範囲にあると、DMSOが粘着剤層からより揮散しやすいため、貼付剤の粘着性の向上に、より効果的である。なお、支持体層の透湿度は、JIS Z0208:1976の規格(防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法))において定義される、40℃における透湿度を意味する。
【0030】
支持体層が布状である場合、支持体層の縦方向(材料流れ方向)及び横方向(材料幅方向)のいずれの方向の50%モジュラス(JIS L1018:1999又はJIS L1096:2010の規格に準じて測定)も、1N/50mm〜12N/50mmであることが好ましい。50%モジュラスが12N/50mm以下である場合、皮膚の伸縮により貼付剤が受けるストレスがより小さいため、皮膚への付着性が良好となる。
【0031】
支持体層がフィルムである場合、材質はポリウレタンのような、高透湿性(高DMSO透過性)であることが好ましい。ポリウレタンからなるフィルムは、伸縮性に優れるため、貼付剤の、皮膚への付着性及び伸縮追従性を高める点から好ましい。
【0032】
支持体層は、例えば、ポリウレタンからなる不織布若しくはフィルム、ポリエチレンテレフタレートからなる編布、ゴム組成物でコーティングされたポリエステルの布又はこれらの組み合わせであることが好ましい。より具体的には、支持体層は、ポリウレタンからなるフィルムとポリウレタン繊維からなる不織布との積層体、PET繊維からなる不織布、又はゴム組成物でコーティングされたポリエステルの布であることが好ましい。
【0033】
十分な粘着力を確保し、かつ、十分なジクロフェナクナトリウムの皮膚透過量を確保するため、貼付剤の貼付面積は、50〜150cm
2であることが好ましい。本実施形態に係るジクロフェナクナトリウムの含有量は、貼付面積1cm
2あたり0.70〜1.50mgであるから、1枚あたり35〜225mgである。好ましいジクロフェナクナトリウムの含有量は、1枚あたり50〜100mgである。
【0034】
貼付剤は、例えば、次の方法により製造することができるが、これに限定されず、公知の方法を使用することができる。まず、粘着剤層を構成する各成分を所定の割合で混合して均一な溶解物を得る。次に、剥離可能なフィルム(剥離フィルム、離形ライナー)上に溶解物を所定の厚みで展延して粘着剤層を形成する。次いで、粘着剤層が離形ライナーと支持体層とに挟まれるように、粘着剤層に支持体層を圧着する。最後に、所望の形状に切断することにより、貼付剤を得ることができる。この場合、離形ライナーは、貼付剤の適用時に除去される。また、同様にして、支持体層上に溶解物を所定の厚みで展延して粘着剤層を形成した後、剥離可能なフィルム(剥離フィルム、離形ライナー)に支持体層を圧着してもよい。
【0035】
貼付剤は、ヒト成人に対し、1日1回あたり少なくとも1枚を胸部、腹部、背部、上腕部又は大腿部等に貼付し、1日(約24時間)毎に貼り替える。腰痛の緩和効果が十分得られない場合は、1日1回あたり2または3枚を貼付してもよい。皮膚刺激を避けるために、毎回、貼付部位を変えることが望ましい。
【0036】
本実施形態の貼付剤を、1日に1回、ヒトの胸部、腹部、背部、上腕部又は大腿部に貼付することにより(例えば、4週間の反復投与)、ジクロフェナクナトリウムの平均血漿中濃度は、20〜90ng/mLになり得る。腰部以外に適用した場合であっても、平均血漿中濃度が上記範囲内で維持されると、腰痛をより確実に緩和することができる。
【0037】
本実施形態は、支持体層と支持体層上に積層された粘着剤層とを備え、粘着剤層が、粘着基剤、及び貼付面積1cm
2あたり0.70〜1.50mgのジクロフェナクナトリウムを含有する貼付剤を、1日に1回、ヒトの胸部、腹部、背部、上腕部又は大腿部に貼付することを含む、腰痛を緩和する方法という側面もある。
【実施例】
【0038】
(貼付剤の調製)
ジクロフェナクナトリウムを含有する貼付剤を以下の方法で調製した。表1に示す各成分を混和し、剥離フィルム(離型処理をしたPETフィルム)上に膏体質量(214g/m
2となるよう展延した。展延した膏体液(粘着剤層)上に支持体層をラミネートし、1枚あたり7cm×10cmの大きさの矩形に裁断して貼付剤を得た(貼付面積:70cm
2)。支持体層として、透湿度が5667g/m
2・24hrのPET編布を使用した。貼付剤1枚あたりのジクロフェナクナトリウムの含有量は、75mgである。
【0039】
【表1】
【0040】
(プラセボ貼付剤の調製)
ジクロフェナクナトリウムを含有しない点以外は同じ組成のプラセボ貼付剤を上記と同様の方法で調製した。
【0041】
(腰痛の緩和効果の評価)
評価試験の概要を
図1に示す。
図1において、各選定日又は移行判定日(V1、V2、V3等)の間隔は7日間である。
まず、患者選定日V1において、以下の選定基準を全て満たす患者に、1週間(選定日V1を含む)の休薬期を設けた。
<選定基準>
(1−1)同意取得の3カ月以上前から腰痛症と臨床的に診断された患者である。
(1−2)同意取得の4週間以上前から腰痛症に対してNSAID又はアセトアミノフェンによる治療を継続しており、かつ同意取得の前4週間以内にその用法及び用量を変更していない。
【0042】
移行判定日V2の直前3日間(移行判定日V2は含まない)のVAS値(Visual Analogue Scale)値を評価し、移行判定日V2において、下記の移行基準を全て満たす患者を、さらに1週間(移行判定日V2を含む)の観察期に移行した。観察期では、単盲検でプラセボ貼付剤を1日1枚貼付し、1日毎に貼り替えた。貼付する部位は、患者自身がその都度、胸部、腰部、腹部、背部、上腕部及び大腿部等から選択し、記録した。
<観察期への移行基準>
(2−1)移行判定日V2の直前3日間(移行判定日V2は含まない)のVAS値の平均値が、40mm以上である。
(2−2)休薬期前のVAS値と比較して、移行判定日V2の直前3日間(移行判定日V2は含まない)の平均VAS値が10mm以上増加している。
(2−3)休薬期前と比較して、移行判定日V2での患者の治療満足度が改善していない。
【0043】
移行判定日V3において、以下の選定条件を全て満たす患者を治療期へと移行した。
<治療期への移行基準>
(3−1)移行判定日V3の直前3日間(移行判定日V3は含まない)のVAS値の平均値が、40mm以上である。
(3−2)移行判定日V3の直前3日間(移行判定日V3は含まない)の各VAS値が、上記平均値の±15mm以内である。
(3−3)移行判定日V3の直前3日間(移行判定日V3は含まない)のVAS値の平均値が、移行判定日V2の直前3日間の平均VAS値と比較して、20mm以上減少していない。
(3−4)移行判定日V2におけるAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)値が基準値上限(40U/L)の3倍以下であり、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)値が基準値上限(45U/L)の3倍以下であり、血清クレアチニン値が基準値上限(男性であれば1.04mg/dL、女性であれば0.79mg/dL)の1.5倍以下である。
【0044】
患者を薬物投与群及び対照群に分け、二重盲検で、薬物投与群にはジクロフェナクナトリウムを含有する貼付剤を1日に1回、1枚貼付し、対照群にはプラセボ貼付剤を1日1枚貼付し、1日毎に貼り替えた。貼付する部位は、患者自身がその都度、胸部、腰部、腹部、背部、上腕部及び大腿部等から選択した。移行判定日V3以降、毎日、VAS値を評価した。判定日V5及びV6のそれぞれにおいて、「その直前3日間の平均VAS値が、判定日V3時点におけるVAS値よりも15mm以上改善していない」と判定し、かつ、安全上の理由により問題がない場合は、貼付する枚数を1枚追加した。すなわち、判定日V5及びV6の両方で、移行判定日V3の直前3日間(移行判定日V3は含まない)におけるVAS値の平均値よりも15mm以上改善していないと判定された患者には、判定日V6以降、貼付剤3枚を貼付した。
【0045】
得られたデータに基づいて、腰痛の緩和効果を評価した。
(1)腰部貼付率による比較
以下の式から腰部貼付率を算出し、腰部貼付率と判定日V5の直前3日間(判定日V5は含まない)VAS値の平均値の変化量を比較した結果を
図2に示す。腰部貼付率の大小にかかわらず、薬物投与群では、対照群と比べてVAS値の低下は大きかった。
腰部貼付率(%) = 腰部に貼付した日数/移行判定日V3から判定日V5の前日までの日数×100
【0046】
(2)腰部への貼付群と腰部以外への貼付群との比較
得られたデータから、腰部のみに貼付した群(A群)と腰部以外の部位に貼付し、腰部には貼付しなかった群(B群)との各データを抽出し、解析した。A群及びB群における、各判定日V4、V5、V6、V7の直前3日間の平均VAS値の平均値を表2及び
図3に示す。表2中、かっこ内の数字は、その判定日の直前3日間における貼付部位にしたがい計数した患者数を意味する。
【表2】
【0047】
B群のVAS値の平均値の変化量は、A群のVAS値の平均値の変化量と大きな違いはなかった。本発明の貼付剤であれば、腰部以外(胸部、腹部、背部、上腕部又は大腿部)に貼付した場合であっても、腰部(患部)に貼付した場合と同程度の腰痛の緩和効果を示すことがわかった。
【要約】
【課題】 腰部でない場所に適用しても、腰痛の緩和に有効な貼付剤を提供すること。
【解決手段】 支持体層と支持体層上に積層された粘着剤層とを備える、腰痛を緩和するための貼付剤であって、粘着剤層が、粘着基剤、および貼付面積1cm
2あたり0.70〜1.50mgのジクロフェナクナトリウムを含有し、1日に1回、ヒトの胸部、腹部、背部、上腕部又は大腿部に貼付するように用いられる、貼付剤。
【選択図】なし