(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記p型窒化物系半導体層上に、タンタル、バナジウム、スズ、インジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタン、コバルト、マンガン、イットリウム及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物、又は、選択される複数の酸化物を形成する工程を含む
請求項1から6のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
さらに、前記p型窒化物系半導体層上に設けられた、タンタル、バナジウム、スズ、インジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタン、コバルト、マンガン、イットリウム及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物、又は、選択される複数の酸化物を備える
請求項13又は14に記載の窒化物系半導体発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本開示の概要)
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法は、n型窒化物系半導体層を形成する工程と、前記n型窒化物系半導体層上に、窒化物系半導体からなる発光層を形成する工程と、前記発光層上に、水素ガスを含む雰囲気で、2.0×10
18atom/cm
3以上の濃度でp型ドーパントをドーピングしながら、p型窒化物系半導体層を形成する工程と、水素を含まない雰囲気で、800℃以上の温度で、前記p型窒化物系半導体層をアニールする工程とを含み、前記アニールする工程後の前記p型窒化物系半導体層の水素濃度は、5.0×10
18atom/cm
3以下であり、かつ、前記p型ドーパントの濃度の5%以下であり、前記発光層の水素濃度は、2.0×10
17atom/cm
3以下である。
【0018】
これにより、水素ガスを含む雰囲気でp型窒化物系半導体層を形成するので、p型窒化物系半導体層の結晶性及び表面状態の劣化を抑制することができる。また、p型窒化物系半導体層に含まれる水素は、水素を含まない雰囲気でのアニールによって5.0×10
18atom/cm
3以下、かつ、p型ドーパントの濃度の5%以下まで低下する。このため、p型窒化物系半導体層から発光層への水素の拡散が抑制されて、発光層の水素濃度が2.0×10
17atom/cm
3以下になる。したがって、発光層内で水素に起因する欠陥の発生を抑制することができるので、信頼性の高い窒化物系半導体発光素子を実現することができる。
【0019】
また、例えば、前記アニールする工程は、不活性ガス雰囲気で、800℃以上の温度で、前記p型窒化物系半導体層をアニールする第1アニール工程と、前記第1アニール工程の後に、酸化性ガス雰囲気で、800℃以下の温度で、前記p型窒化物系半導体層をアニールする第2アニール工程とを含んでもよい。
【0020】
これにより、不活性ガス雰囲気でのアニールと酸化性ガス雰囲気でのアニールとの2段階のアニールを行うことで、必要以上にアニール温度を高めることなく、p型窒化物系半導体層の水素濃度を十分に低くすることができることから、アニールによる窒化物系半導体層へのダメージを抑制した信頼性の高い窒化物系半導体発光素子を実現することができる。アニール温度が高すぎる場合には、p型窒化物系半導体層の表面近傍の窒素が抜けてしまい、コンタクト抵抗が悪化する恐れがある。これに対して、例えば、不活性ガス雰囲気でのアニールのアニール温度を900℃以下とすることで、p型窒化物系半導体層とp側電極との間のコンタクト抵抗の増加を抑制することができる。
【0021】
また、例えば、前記不活性ガス雰囲気は、窒素ガスを含む雰囲気であり、前記酸化性ガス雰囲気は、酸素ガスを含む雰囲気であってもよい。
【0022】
これにより、窒素ガス雰囲気にすることで窒化物系半導体層からの窒素抜けを抑制し、酸素ガスを用いることで酸化反応によって効率良く水素を窒化物系半導体層から脱離させることが可能となる。また、窒素ガス及び酸素ガスといった希少性の低いガスを利用するので、簡単に低コストで信頼性の高い窒化物系半導体発光素子を実現することができる。
【0023】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法は、さらに、p型窒化物系半導体層の一部を除去することで、リッジを形成する工程を含み、前記リッジを形成する工程は、前記第1アニール工程の後、前記第2アニール工程の前に行われてもよい。
【0024】
これにより、例えば、リッジ構造を有する半導体レーザ素子を形成することができる。リッジを形成した後にアニールを行うことで、リッジ形成時に発生した残留応力を緩和することができる。
【0025】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法は、さらに、p型窒化物系半導体層の一部を除去することで、リッジを形成する工程を含んでもよい。
【0026】
これにより、例えば、リッジ構造を有する半導体レーザ素子を形成することができる。
【0027】
また、例えば、前記リッジを形成する工程は、前記アニールする工程の前に行われてもよい。
【0028】
これにより、リッジを形成した後にアニールを行うことで、リッジ形成時に発生した残留応力を緩和することができる。また、リッジの側面が酸化されることにより、発光に寄与しないリッジの側面を流れる無効電流を抑制することができる。応力の緩和及びリッジの側面を流れる無効電流の抑制によって、窒化物系半導体発光素子の電流−光出力特性を向上させることができる。
【0029】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法は、さらに、前記p型窒化物系半導体層上に、タンタル、バナジウム、スズ、インジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタン、コバルト、マンガン、イットリウム及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物、又は、選択される複数の酸化物を形成する工程を含んでもよい。
【0030】
これにより、p型窒化物系半導体層からの窒素の脱離を抑制することができ、p型窒化物系半導体層の膜質の劣化を抑制することができる。一方で、p型窒化物系半導体層からの水素の脱離を効果的に行うことができるので、アニール温度を高くしなくてもp型窒化物系半導体層の水素濃度を十分に低くすることができる。
【0031】
また、例えば、前記酸化物を形成する工程は、前記アニールする工程の前に行われてもよい。
【0032】
これにより、p型窒化物系半導体層からの窒素の脱離を抑制することができ、p型窒化物系半導体層の膜質の劣化を抑制することができる。
【0033】
また、例えば、前記p型窒化物系半導体層を形成する工程は、有機金属気相エピタキシー法により前記p型窒化物系半導体層を形成してもよい。
【0034】
これにより、結晶性及び膜質に優れたp型窒化物系半導体層を形成することができる。
【0035】
また、本開示の一態様に係る窒化物系半導体結晶の製造方法は、水素ガスを含む雰囲気で、2.0×10
18atom/cm
3以上の濃度でp型ドーパントをドーピングしながら、p型窒化物系半導体結晶を形成する工程と、不活性ガス雰囲気で、800℃以上の温度で、前記p型窒化物系半導体結晶をアニールする第1アニール工程と、前記第1アニール工程の後に、酸化性ガス雰囲気で、800℃以下の温度で、前記p型窒化物系半導体結晶をアニールする第2アニール工程とを含み、前記第2アニール工程の後の前記p型窒化物系半導体結晶の水素濃度は、5.0×10
18atom/cm
3以下であり、かつ、前記p型ドーパントの濃度の5%以下である。
【0036】
これにより、水素ガスを含む雰囲気でp型窒化物系半導体結晶を形成するので、p型窒化物系半導体結晶の結晶性及び表面状態の劣化を抑制することができる。また、p型窒化物系半導体結晶に含まれる水素は、不活性ガス雰囲気でのアニール及び酸化性ガスでのアニールによって5.0×10
18atom/cm
3以下、かつ、p型ドーパントの濃度の5%以下まで低下する。このため、p型窒化物系半導体結晶から他の層(例えば、発光層又は光電変換層)への水素の拡散が抑制されて、他の層の水素濃度を低くすることができる。したがって、他の層内で水素に起因する欠陥の発生を抑制することができるので、信頼性の高い窒化物系半導体結晶を実現することができる。
【0037】
また、例えば、前記不活性ガス雰囲気は、窒素ガスを含む雰囲気であり、前記酸化性ガス雰囲気は、酸素ガスを含む雰囲気であってもよい。
【0038】
これにより、窒素ガス及び酸素ガスといった希少性の低いガスを利用するので、簡単に低コストで信頼性の高い窒化物系半導体結晶を実現することができる。
【0039】
また、例えば、前記p型窒化物系半導体結晶を形成する工程は、有機金属気相エピタキシー法により前記p型窒化物系半導体結晶を形成してもよい。
【0040】
これにより、結晶性に優れたp型窒化物系半導体結晶を形成することができる。
【0041】
また、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、n型窒化物系半導体層と、窒化物系半導体からなる発光層と、p型窒化物系半導体層とが順に積層された窒化物系半導体発光素子であって、前記p型窒化物系半導体層のp型ドーパントの濃度は、2.0×10
18atom/cm
3以上であり、前記p型窒化物系半導体層の水素濃度は、5.0×10
18atom/cm
3以下であり、かつ、前記p型ドーパントの濃度の5%以下であり、前記p型窒化物系半導体層の酸素濃度は、前記発光層の酸素濃度より高く、前記発光層の水素濃度は、2.0×10
17atom/cm
3以下である。
【0042】
これにより、発光層の水素濃度を低くすることができるので、発光層内で水素に起因する欠陥の発生を抑制することができる。したがって、信頼性の高い窒化物系半導体発光素子を実現することができる。
【0043】
また、例えば、前記p型窒化物系半導体層は、アルミニウムを含んでもよい。
【0044】
これにより、発光層内への光の閉じ込め効果を高めることができる。このため、例えば、窒化物系半導体発光素子が半導体レーザ素子である場合に、高出力のレーザ光を出射させることができる。
【0045】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、さらに、前記p型窒化物系半導体層上に設けられた、タンタル、バナジウム、スズ、インジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタン、コバルト、マンガン、イットリウム及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物、又は、選択される複数の酸化物を備えてもよい。
【0046】
これにより、p側電極からn側電極に流れるリーク電流を酸化物によって抑制することができる。さらに、発光層の水素濃度を低くすることができるので、発光層内における水素に起因する欠陥の発生を抑制することができる。特に金属元素が5価以上の原子価をもつ金属酸化物は、水素の吸蔵及び透過性に優れているため、効率良く水素を窒化物系半導体層の外部へ脱離させることができる。
【0047】
また、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、n型窒化物系半導体層と、窒化物系半導体からなる発光層と、p型窒化物系半導体層とが順に積層された窒化物系半導体発光素子であって、前記p型窒化物系半導体層のp型ドーパントの濃度は、2.0×10
18atom/cm
3以上であり、前記p型窒化物系半導体層の水素濃度は、5.0×10
18atom/cm
3以下であり、かつ、前記p型ドーパントの濃度の5%以下であり、前記p型窒化物系半導体層上に設けられた、タンタル、バナジウム、スズ、インジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタン、コバルト、マンガン、イットリウム及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物、又は、選択される複数の酸化物を備えてもよい。
【0048】
これにより、発光層の水素濃度を低くすることができるので、発光層内で水素に起因する欠陥の発生を抑制することができる。したがって、信頼性の高い窒化物系半導体発光素子を実現することができる。特に金属元素が5価以上の原子価をもつ金属酸化物は、水素の吸蔵及び透過性に優れているため、効率良く水素を窒化物系半導体層の外部へ脱離させることができる。
【0049】
また、例えば、前記発光層の水素濃度は、2.0×10
17atom/cm
3以下であってもよい。
【0050】
これにより、発光層の水素濃度が2.0×10
17atom/cm
3以下であるので、発光層内で水素に起因する欠陥の発生を抑制することができる。
【0051】
また、例えば、前記発光層は、インジウムを含んでもよい。
【0052】
これにより、インジウムの組成比を調整することで、所望の発振波長のレーザ光を出射させることができる。
【0053】
また、例えば、本開示の一態様に係る窒化物系半導体発光素子は、さらに、前記発光層と前記p型窒化物系半導体層との間に設けられたアンドープ窒化物系半導体層を備えてもよい。
【0054】
これにより、水素を含むp型窒化物系半導体層を発光層から遠ざけることができるため、発光層への水素拡散を低減させることができる。したがって、信頼性の高い窒化物系半導体発光素子を実現できる。また、この構成によれば、発光層内への光の閉じ込め効果を高めることができる。このため、例えば、窒化物系半導体発光素子が半導体レーザ素子である場合に、高出力のレーザ光を出射させることができる。
【0055】
以下では、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0056】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0057】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0058】
また、本明細書において、要素間の関係性を示す用語、及び、要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0059】
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0060】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1に係る窒化物系半導体装置の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の構成を示す断面図である。
【0061】
半導体レーザ素子1は、窒化物系半導体装置の一例である。具体的には、半導体レーザ素子1は、n型窒化物系半導体層と、窒化物系半導体からなる発光層と、p型窒化物系半導体層とが順に積層された窒化物系半導体発光素子の一例である。なお、本実施の形態では、窒化物系半導体は、III−V族窒化物系半導体である。例えば、窒化物系半導体は、GaN、AlGaN及びInGaNなどのGaNを主成分とする半導体である。なお、窒化物系半導体は、P又はAsなどのV族元素を少量含んでいてもよい。
【0062】
窒化物系半導体は、n型ドーパントが添加されることで、n型化される。n型ドーパントは、例えば、シリコン(Si)である。n型ドーパントは、ゲルマニウム(Ge)又は酸素(O)であってもよい。
【0063】
また、窒化物系半導体は、p型ドーパントが添加されることで、p型化される。p型ドーパントは、例えばマグネシウム(Mg)である。p型ドーパントは、亜鉛(Zn)又はベリリウム(Be)などであってもよい。
【0064】
図1に示されるように、半導体レーザ素子1は、基板10と、n型クラッド層12と、n型ガイド層14と、発光層16と、p側ガイド層18と、電子障壁層20と、p型クラッド層22と、p型コンタクト層24と、電流ブロック層26と、p側電極28と、n側電極30とを備える。本実施の形態では、説明の都合上、発光層16に対してn側電極30が位置する方向を「下方(下層側)」とし、発光層16に対してp側電極28(及びリッジ)が位置する方向を「上方(上層側)」としている。
【0065】
半導体レーザ素子1は、リッジ構造を有する。具体的には、
図1に示されるように、p型クラッド層22の凸部22aを形成するための溝32が設けられている。溝32は、p型コンタクト層24を積層方向(上下方向)に貫通し、かつ、p型クラッド層22の上面から凹んだ凹部を形成している。溝32は、p型クラッド層22を貫通していない。溝32は、半導体レーザ素子1のリッジの両側に、リッジの延びる方向(例えば、
図1の紙面奥行き方向)に沿って長尺に形成されている。
【0066】
また、半導体レーザ素子1は、素子分離溝34を有する。素子分離溝34は、p型コンタクト層24、p型クラッド層22、電子障壁層20、p側ガイド層18、発光層16及びn型ガイド層14を積層方向に貫通し、n型クラッド層12の上面から凹んだ凹部を形成している。素子分離溝34は、n型クラッド層12を貫通していない。素子分離溝34は、一対の溝32を間に挟んで、リッジの延びる方向に沿って長尺に形成されている。溝32と素子分離溝34との間には、p側電極28が設けられておらず発光に寄与しないダミーリッジが設けられている。なお、素子分離溝34は、n型クラッド層12を貫通し基板10に到達してもよい。また、素子分離溝34は設けられていなくてもよく、溝32が素子分離溝として機能してもよい。また、半導体レーザ素子1は、リッジ構造を有しなくてもよく、溝32及び素子分離溝34のいずれも有しなくてもよい。
【0067】
なお、半導体レーザ素子1は、p側電極28上に設けられ、電流ブロック層26及びp側電極28を覆うパッド電極を備えてもよい。また、半導体レーザ素子1は、パッド電極と電流ブロック層26との密着性を高めるための密着補助層を備えてもよい。パッド電極は、例えば、Auなどの金属膜であり、所定形状にパターニングされている。密着補助層は、例えば、Ti及びPtとの積層膜であり、所定形状にパターニングされている。
【0068】
以下に示される表1は、半導体レーザ素子1を構成する主な層の具体的な構成及び成膜条件の一例を示している。各層の具体的な構成は一例に過ぎず、材料、膜厚、不純物濃度及び総数などは適宜変更可能である。
【0069】
なお、本実施の形態において、ある層の不純物濃度とは、当該層に含まれる不純物の深さ方向における濃度の平均値を意味する。例えば、ある層の水素濃度、窒素濃度及び酸素濃度はそれぞれ、当該層に含まれる水素、窒素及び酸素の各々の深さ方向における濃度の平均値を意味する。
【0071】
基板10は、n型ドーパントを含むn型窒化物系半導体基板である。基板10は、例えば、n型のGaN基板である。基板10の板厚は、例えば50μm以上150μm以下である。
【0072】
基板10に含まれるn型ドーパントは、例えば、Siである。表1に示されるように、基板10の不純物濃度、すなわち、n型ドーパントの濃度(具体的には、Si濃度)は、例えば1.4×10
18cm
−3である。
【0073】
n型クラッド層12は、n型窒化物系半導体層の一例である。n型クラッド層12は、基板10とn型ガイド層14との間に各々に接して設けられている。n型クラッド層12は、例えば、表1に示されるように、膜厚が3μmのAlGaN層である。Alの組成比は、例えば2.6%である。n型クラッド層12には、n型ドーパントの一例であるSiが添加されている。n型クラッド層12の不純物濃度は、基板10の不純物濃度より低く、例えば5.0×10
17cm
−3である。
【0074】
n型ガイド層14は、n型窒化物系半導体層の一例である。n型ガイド層14は、n型クラッド層12と発光層16との間に各々に接して設けられている。n型ガイド層14は、例えば、表1に示されるように、膜厚が127nmのGaN層である。n型ガイド層14には、n型ドーパントの一例であるSiが添加されている。n型ガイド層14の不純物濃度は、n型クラッド層12の不純物濃度と同等であり、基板10の不純物濃度より低く、例えば5.0×10
17cm
−3である。
【0075】
発光層16は、窒化物系半導体からなる発光部の一例であり、半導体レーザ素子1の発光部を形成する層である。発光層16は、インジウム(In)を含んでいる。発光層16は、n型ガイド層14とp側ガイド層18との間に各々に接して設けられている。
【0076】
本実施の形態では、発光層16は、多重量子井戸構造を有する。具体的には、発光層16は、1層ずつ交互に積層された複数の井戸層及び複数の障壁層を有する。より具体的には、表1に示されるように、発光層16は、2層の井戸層と、3層の障壁層とを有する。2層の井戸層はいずれも、膜厚が7.5nmのアンドープInGaN層である。井戸層のInの組成比は、例えば発振波長が405nmになるように調整されている。3層の障壁層は、いずれもアンドープIn
0.08Ga
0.92N層であり、表1に示されるように、膜厚は互いに異なっている。
【0077】
詳しくは後で説明するが、発光層16を構成する複数の窒化物系半導体層は、水素ガスを含む雰囲気で成膜される。このため、発光層16は、水素を含んでいる。発光層16の水素濃度は、2.0×10
17atom/cm
3以下である。また、発光層16には、酸化性ガス雰囲気で行われるアニールによって、酸素が供給される。発光層16の酸素濃度は、p型クラッド層22の酸素濃度より低い。
【0078】
なお、発光層16は、単一量子井戸構造を有してもよい。例えば、発光層16は、1層の井戸層と2層の障壁層を有してもよい。
【0079】
p側ガイド層18は、発光層に積層されたp型窒化物系半導体層の一例と、発光層とp型窒化物系半導体層との間に設けられたアンドープ窒化物系半導体の一例とを含んでいる。p側ガイド層18は、発光層16と電子障壁層20との間に各々に接して設けられている。p側ガイド層18は、例えば、表1に示されるように、膜厚40nmのアンドープInGaN層と、膜厚6nmのアンドープGaN層と、膜厚3nmのp型GaN層との積層構造を有する。
【0080】
アンドープInGaN層及びアンドープGaN層は、アンドープ窒化物系半導体層の一例である。アンドープInGaN層のInの組成比は、例えば0.3%である。p型GaN層は、p型窒化物系半導体層の一例であり、p型ドーパントとしてMgが添加されている。p型GaN層の不純物濃度は、基板10の不純物濃度よりも高く、例えば1.50×10
19cm
−3である。
【0081】
電子障壁層20は、n側電極30から発光層16に注入される電子がp型クラッド層22へ漏れ出すことを抑制する。具体的には、電子障壁層20は、発光層16からp側電極28に移動する電子をブロックする。電子障壁層20が設けられていることで、発光層16に対する電子の注入効率を高めることができ、発光効率を高めることができる。電子障壁層20は、p側ガイド層18とp型クラッド層22との間に各々に接して設けられている。電子障壁層20は、例えば、表1に示されるように、複数のp型AlGaN層の積層構造を有する。複数のp型AlGaN層は、膜厚及びAlの組成比が互いに異なっている。p側ガイド層18に接するp型AlGaN層(下層側)は、膜厚が5nmであり、Alの組成比が、p側ガイド層18からp型クラッド層22に向かう方向に沿って4%から36%まで漸増している。p型クラッド層22に接するp型AlGaN層(上層側)は、膜厚が1nmであり、Alの組成比が36%である。2つのp型AlGaN層には、p型ドーパントとしてMgが添加されている。p型AlGaN層の不純物濃度は、p側ガイド層18のp型GaN層の不純物濃度と同等であり、例えば1.5×10
19cm
−3である。
【0082】
p型クラッド層22は、発光層に積層されたp型窒化物系半導体層の一例である。p型クラッド層22は、アルミニウム(Al)を含んでいる。p型クラッド層22は、電子障壁層20とp型コンタクト層24との間に各々に接して設けられている。
図1に示されるように、p型クラッド層22は、n側電極30からp側電極28に向かう方向に突出した凸部22aを有する。具体的には、凸部22aは、半導体レーザ素子1の[1−100]方向に延びるリッジの一部である。凸部22aの高さは、例えば680nmである。
【0083】
本実施の形態では、p型クラッド層22のp型ドーパントの濃度(具体的には、Mg濃度)は、2.0×10
18atom/cm
3以上である。これにより、高濃度のキャリアが得られるので、良好なレーザ特性を実現することができる。また、p型クラッド層22の水素濃度は、5.0×10
18atom/cm
3以下である。本実施の形態では、p型クラッド層22の水素濃度は、p型クラッド層22のp型ドーパントの濃度の5%以下である。また、p型クラッド層22の酸素濃度は、発光層16の酸素濃度より高い。p型クラッド層22が複数のp型窒化物系半導体層から構成される場合には、複数のp型窒化物系半導体層の各々のMg濃度、水素濃度及び酸素濃度がそれぞれ、上述した関係を有する。
【0084】
具体的には、p型クラッド層22を構成する複数のp型AlGaN層の各々のMg濃度が、2.0×10
18atom/cm
3以上である。p型クラッド層22を構成する複数のp型AlGaN層の各々の水素濃度は、5.0×10
18atom/cm
3以下であり、かつ、p型ドーパントの濃度の5%以下である。また、p型クラッド層22を構成する複数のp型AlGaN層の各々の酸素濃度は、発光層16を構成する複数の窒化物系半導体層の各々の酸素濃度より高い。
【0085】
例えば、p型クラッド層22は、表1に示されるように、複数のp型AlGaN層の積層構造を有する。複数のp型AlGaN層は、膜厚及び不純物濃度が互いに異なっている。複数のp型AlGaN層の各々のAlの組成比は、互いに等しく、例えば2.6%である。複数のp型AlGaN層には、p型ドーパントとしてMgが添加されている。電子障壁層20に接するp型AlGaN層(下層側)の不純物濃度は、電子障壁層20の不純物濃度より低く、例えば2.0×10
18cm
−3である。p型コンタクト層24に接するp型AlGaN層(上層側)の不純物濃度は、電子障壁層20に接するp型AlGaN層の不純物濃度より高く、かつ、電子障壁層20の不純物濃度より低く、例えば1.0×10
19cm
−3である。なお、複数のp型AlGaN層の各々は、具体的には、AlGaN/GaNの超格子構造を有する。
【0086】
p型コンタクト層24は、p型クラッド層22とp側電極28との間に各々に接して設けられている。本実施の形態では、p型コンタクト層24は、p型クラッド層22の凸部22a上に設けられている。つまり、p型コンタクト層24は、半導体レーザ素子1のリッジの一部である。
【0087】
p型コンタクト層24は、例えば、表1に示されるように、複数のp型GaN層の積層構造を有する。複数のp型GaN層は、膜厚及び不純物濃度が互いに異なっている。複数のp型GaN層には、p型ドーパントとしてMgが添加されている。p型クラッド層22に接するp型GaN層(下層側)の不純物濃度は、p型クラッド層22の不純物濃度より高く、例えば2.0×10
19atom/cm
−3である。p側電極28に接するp型GaN層(上層側)の不純物濃度は、p型クラッド層22に接するp型GaN層の不純物濃度より高く、例えば2.0×10
20atom/cm
−3である。つまり、p側電極28に接するp型GaN層は、p型ドーパントが高濃度ドープされた状態である。
【0088】
電流ブロック層26は、p型窒化物系半導体層上に設けられた酸化物の一例である。酸化物は、具体的には、タンタル、バナジウム、スズ、インジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタン、コバルト、マンガン、イットリウム及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物、又は、これらの群から選択される複数の酸化物である。電流ブロック層26は、これらの群から選択される1つ又は複数の酸化物を含んでもよい。
【0089】
電流ブロック層26は、p側電極28からn側電極30に流れる電流を狭窄する。例えば、電流ブロック層26は、p側電極28上に設けられたパッド電極(図示せず)とp型クラッド層22との間に位置しており、パッド電極からn側電極30に向かって流れる電流を狭窄する。電流ブロック層26は、
図1に示されるように、半導体レーザ素子1のリッジの側方に設けられている。具体的には、電流ブロック層26は、p型クラッド層22の凸部22aの側面と、p型クラッド層22の凸部22a以外の上面とを覆っている。例えば、電流ブロック層26は、平面視において、p側電極28が設けられた領域以外の領域に設けられている。なお、平面視とは、基板10の主面(例えば、GaNの結晶構造の(0001)面)に直交する方向から見ることを意味している。電流ブロック層26は、絶縁性を有する材料を用いて形成されている。例えば、電流ブロック層26は、膜厚が300nmのシリコン酸化膜である。
【0090】
p側電極28は、p型コンタクト層24に接して設けられている。p側電極28は、金属材料を用いて形成されている。例えば、p側電極28は、膜厚が40nmのPd膜と、膜厚が35nmのPt膜との積層構造を有する。Pd膜が下層側に位置し、p型コンタクト層24と接している。
【0091】
n側電極30は、基板10の下面(すなわち、n型クラッド層12が設けられた面とは反対側の面)に設けられている。n側電極30は、金属材料を用いて形成されている。具体的には、n側電極30は、Ti、Al、Pt、Au、Mo、Sn、In、Ni、Cr、Nb、Ba、Ag、Rh、Ir、Ru及Hfからなる群から選択される少なくとも1種類の金属、又は、当該群から選択される少なくとも2種類の合金を含んでいる。例えば、n側電極30は、膜厚300nmのAu膜と、膜厚35nmのPt膜と、膜厚10nmのTi膜との積層構造を有する。Ti膜が上層側に位置し、基板10に接している。
【0092】
以上の構成を有する半導体レーザ素子1は、例えば、発振波長が405nmのレーザ光(青紫色)を発する。なお、発光層16の構成(例えば、Inの組成比)を変更することで、半導体レーザ素子1は、発振波長が455nmのレーザ光(青色)を発してもよい。
【0093】
続いて、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法について、
図2及び
図3A〜
図3Fを用いて説明する。
【0094】
図2は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法を示すフローチャートである。
図3A〜
図3Fはそれぞれ、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法に含まれる各工程を説明するための断面図である。
【0095】
まず、
図2に示されるように、複数の窒化物系半導体層を形成する(S10)。具体的には、
図3Aに示されるように、基板11上に、複数の窒化物系半導体層を順に成膜する。窒化物系半導体層の成膜は、V族原料ガスとして、アンモニアを用いる有機金属気相エピタキシー法を用いて行われる。これにより、基板11上に、n型の第1半導体層13、n型の第2半導体層15、アンドープの第3半導体層17、第4半導体層19、p型ドーパントをドーピングされたp型窒化物系半導体結晶からなる第5半導体層21、p型ドーパントをドーピングされたp型窒化物系半導体結晶からなる第6半導体層23及びp型ドーパントをドーピングされたp型窒化物系半導体結晶からなる第7半導体層25がこの順で形成される。第1半導体層13、第2半導体層15、第3半導体層17、第4半導体層19、第5半導体層21、第6半導体層23及び第7半導体層25はそれぞれ、所定形状にパターニングされることで、n型クラッド層12、n型ガイド層14、発光層16、p側ガイド層18、電子障壁層20、p型クラッド層22及びp型コンタクト層24になる。積層される各半導体層は、表1に示されるように、複数の半導体層の積層構造を有してもよい。また、基板11は、
図1に示される基板10より厚いn型窒化物系半導体基板である。後の工程で、基板11の下面が研磨されることにより、基板11は、基板10になる。
【0096】
図4は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法に含まれる、窒化物系半導体層の積層工程における温度プロファイルを示す図である。
図4において、横軸は時間を表し、縦軸は成膜時の基板温度を表している。また、
図4では、時間に対応付けて成長中の半導体層(成長層)の種別及びキャリアガスを示している。
【0097】
図4に示されるように、窒化物系半導体層の成膜工程は、n型窒化物系半導体層を形成する工程と、n型窒化物系半導体層上に、窒化物系半導体からなる発光層16を形成する工程と、発光層16上にp型窒化物系半導体層を形成する工程とを含んでいる。p型窒化物系半導体層を形成する工程は、水素ガスを含む雰囲気で、2.0×10
18atom/cm
3以上の濃度でp型ドーパントをドーピングしながら行われる。
【0098】
具体的には、
図4に示されるように、まず、基板温度を1130℃まで上昇させた後、基板11上にn型窒化物系半導体層を形成する。n型窒化物系半導体層は、具体的には、第1半導体層13及び第2半導体層15である。つまり、表1に示されるように、n型クラッド層12を構成するAlGaN膜及びn型ガイド層14を構成するGaN膜を、水素ガスを含む雰囲気で、1130℃の温度で成長させる。
【0099】
n型窒化物系半導体層の成膜が終了した後、基板温度を850℃まで降下させる。この間にキャリアガスの流量を調整する。基板温度の降下中には、半導体層の成膜は中断されている。
【0100】
次に、発光層及びガイド層を順に形成する。具体的には、第3半導体層17及び第4半導体層19を成長させる。より具体的には、表1に示されるように、複数のアンドープのInGaN膜を、In組成比を調整しながら順に成長させる。発光層16を構成する5つのInGaN膜の成長が終了した後、p側ガイド層18のInGaN膜の成長の開始タイミングで、基板温度の昇温を開始する。基板温度を緩やかに上昇させながら、p側ガイド層18を構成するアンドープのInGaN膜及びGaN膜、並びに、p型のGaN膜を順に成膜する。
【0101】
次に、水素ガスを含む雰囲気でp型窒化物系半導体層を形成する。p型窒化物系半導体層は、具体的には、第5半導体層21、第6半導体層23及び第7半導体層25である。つまり、表1に示されるように、電子障壁層20を構成する2つのp型AlGaN膜、p型クラッド層22を構成する2つのp型AlGaN膜、及び、p型コンタクト層24を構成する2つのp型GaN膜をこの順で、水素ガスを含む雰囲気で、970℃の温度で成長させる。p型窒化物系半導体層の形成が終了した後、基板温度を降下させる。
【0102】
以上のように、本実施の形態では、p型窒化物系半導体層(具体的には、電子障壁層20、p型クラッド層22及びp型コンタクト層24)を、水素ガスを含む雰囲気で形成する。これにより、p型窒化物系半導体層の結晶性を高めることができる。また、p型窒化物系半導体層の成長にはキャリアガスとして窒素ガスを用いていないので、三次元成長モードが発生しにくく、表面状態の悪化も抑制することができる。
【0103】
次に、
図2及び
図3Aに示されるように、窒化物系半導体層を形成した後、窒化物系半導体層上に誘電体膜40を形成する(S12)。誘電体膜40は、例えば、シリコン酸化膜などの絶縁膜であり、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法などにより形成される。誘電体膜40は、アニールによって窒化物系半導体層から窒素が抜けるのを抑制するために設けられている。
【0104】
誘電体膜40の膜厚は、例えば50nm以上300nm以下であり、一例として200nmである。誘電体膜40の膜厚が50nm以上であることで、p型窒化物系半導体層からの窒素の脱離を十分に抑制することができる。また、誘電体膜40の膜厚が300nm以下であることで、p型窒化物系半導体層からの水素の脱離が誘電体膜40によって妨げられるのを抑制することができる。また、誘電体膜40自体に含まれる水素がp型窒化物系半導体層に拡散するのを抑制することができる。
【0105】
次に、
図2に示されるように、水素を含まない雰囲気で、800℃以上の温度でp型窒化物系半導体層のアニールを行う(S14、第1アニール工程)。具体的には、水素を含まない不活性ガス雰囲気で、800℃以上の温度で、p型窒化物系半導体層をアニールする。不活性ガスは、例えば窒素ガスである。p型の第5半導体層21、p型の第6半導体層23及びp型の第7半導体層25が800℃以上の高温でアニールされることにより、各層に含まれる水素濃度を低減することができる。第1アニール工程のアニール時間は、例えば20分である。窒素ガスの流量は、例えば6slmである。
【0106】
次に、第1アニール工程の後に、水素を含まない酸化性ガス雰囲気で、800℃以下の温度で、p型窒化物系半導体層をアニールする(S16、第2アニール工程)。酸化性ガスは、例えば酸素ガスである。第2アニール工程における加熱温度は、第1アニール工程における加熱温度よりも低い。p型の第5半導体層21、p型の第6半導体層23及びp型の第7半導体層25が800℃以下の低温でアニールされることにより、第7半導体層25の表面が酸化されることなく、各層に含まれる水素濃度を更に低減することができる。第2アニール工程のアニール時間は、第1アニール工程のアニール時間より短く、例えば5分である。酸素ガスの流量は、例えば、第1アニール工程のガス流量と同じで、6slmである。
【0107】
次に、第1アニール工程及び第2アニール工程の両方が終了した後、誘電体膜40を除去する(S18)。誘電体膜40の除去は、ドライエッチング若しくはウェットエッチング又はその両方で行われる。
【0108】
誘電体膜40を除去した後、複数の窒化物系半導体層の一部を除去することで、リッジを形成する(S20)。具体的には、複数の窒化物系半導体層の一部を除去することで、溝32及び素子分離溝34を形成する。溝32及び素子分離溝34が形成されることで、半導体レーザ素子1のリッジ及びダミーリッジが形成される。
【0109】
具体的には、まず、
図3Bに示されるように、素子分離溝34を形成する。具体的には、ハードマスクの形成、窒化物系半導体層のエッチング、及び、ハードマスクの除去を順に行うことで、素子分離溝34を形成する。ハードマスクは、例えば、平面視において素子分離溝34が設けられる位置に開口を有する酸化膜41である。酸化膜41は、例えばシリコン酸化膜である。酸化膜41の形成は、酸化膜の成膜、感光性レジストの塗布、フォトリソグラフィ、エッチング及びレジストの除去を順に行うことで形成される。酸化膜41のエッチングは、例えば、CF
4及びCHF
3を含むフッ素系ガスを用いたドライエッチング、又は、フッ酸系の溶液を用いたウェットエッチングで行われる。なお、酸化膜41は、アニール時の保護用に用いた誘電体膜40を含んでもよい。つまり、誘電体膜40を除去する工程は省略されてもよい。
【0110】
酸化膜41をマスクとしてエッチングを行うことで、窒化物系半導体層の一部を除去し、素子分離溝34を形成する。窒化物系半導体層のエッチングは、例えば、BCl
3及びCl
2を含む塩素系ガスを用いたドライエッチングで行われる。具体的には、第7半導体層25(p型コンタクト層24)、第6半導体層23(p型クラッド層22)、第5半導体層21(電子障壁層20)、第4半導体層19(p側ガイド層18)、第3半導体層17(発光層16)及び第2半導体層15(n型ガイド層14)を順に貫通し、第1半導体層13(n型クラッド層12)の一部を除去する。これにより、
図3Bに示されるように、素子分離溝34が形成される。素子分離溝34を形成した後、酸化膜41を除去する。
【0111】
次に、
図3Cに示されるように、溝32を形成することで、半導体レーザ素子1のリッジ(及びダミーリッジ)を形成する。具体的には、素子分離溝34の形成と同様に、ハードマスクの形成、窒化物系半導体層のエッチング、及び、ハードマスクの除去を順に行うことで、溝32を形成する。ハードマスクは、例えば、平面視における素子領域内で、溝32が設けられる位置に開口を有する酸化膜42である。なお、素子領域は、平面視において、半導体レーザ素子1の発光部が設けられる領域であり、素子分離溝34によって分離された領域である。酸化膜42は、例えば、シリコン酸化膜である。酸化膜42の形成は、酸化膜の成膜、感光性レジストの塗布、フォトリソグラフィ、エッチング及びレジストの除去を順に行うことで形成される。なお、酸化膜42は、アニール時の保護用に用いた誘電体膜40、又は、素子分離溝34の形成時にハードマスクとして用いた酸化膜41を含んでもよい。
【0112】
具体的には、酸化膜42をマスクとしてエッチングを行うことで、窒化物系半導体層の一部を除去し、溝32を形成する。より具体的には、第7半導体層25(p型コンタクト層24)を貫通し、第6半導体層23(p型クラッド層22)の一部を除去する。これにより、p型クラッド層22に凸部22aが形成されて、半導体レーザ素子1のリッジが形成される。
【0113】
次に、
図2に示されるように、p側電極28及びn側電極30をそれぞれ順に形成する(S22)。具体的には、
図3Dに示されるように、p型コンタクト層24の上面、並びに、溝32及び素子分離溝34の表面を覆うように、絶縁膜27を形成する。絶縁膜27は、例えばシリコン酸化膜であり、プラズマCVD法などにより形成される。
【0114】
次に、絶縁膜27をパターニングすることで、p側電極28を形成するために、p型クラッド層22の凸部22a上のp型コンタクト層24の上面を露出させる。絶縁膜27のパターニングは、感光性レジストの塗布、フォトリソグラフィ及びエッチングによって行われる。絶縁膜27がパターニングされることにより、
図3Eに示されるように、電流ブロック層26が形成される。なお、絶縁膜27は、アニール時の保護用に用いた誘電体膜40、又は、窒化物系半導体層のパターニング時のハードマスクとして用いた酸化膜41若しくは42を含んでもよい。つまり、電流ブロック層26には、アニール時の保護用に用いた誘電体膜40などが含まれてもよい。
【0115】
次に、露出させたp型コンタクト層24の上面にp側電極28を形成する。具体的には、感光性レジストの塗布及びフォトリソグラフィを行うことで、リッジの上部のみに開口を有するレジスト層を形成する。次に、形成したレジスト層上に、Pd膜及びPt膜を順に成膜する。Pd膜及びPt膜などの金属膜の成膜は、例えば蒸着法又はスパッタリング法によって行われる。金属膜の成膜後、リフトオフ法により、p型コンタクト層24上にp側電極28を形成する。なお、全面に金属膜を形成した後、エッチングなどによって金属膜をパターニングすることでp側電極28を形成してもよい。
【0116】
p側電極28を形成した後、p側電極28上に、Auなどの金属材料からなるパッド電極を形成してもよい。また、パッド電極の密着性を高めるために、電流ブロック層26とパッド電極との間に、Ti及びPtとの積層膜である密着補助層を形成してもよい。
【0117】
次に、
図3Fに示されるように、基板11の研磨を行う。研磨は、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)によって行われる。これにより、
図3Fに示されるように、基板11の板厚が小さくなり、薄型化された基板10が形成される。研磨後は、有機物を用いた洗浄、及び、酸素プラズマを用いたアッシング処理を行うことで、研磨面に付着した有機物を除去し、ドライエッチング又はウェットエッチングによって研磨によるダメージ層を除去する。本実施の形態においては、塩素系ガスを用いたドライエッチングにより200nm以上の研磨面のエッチングを実施し、研磨によるダメージ層を除去している。
【0118】
次に、基板10の研磨面にn側電極30を形成する。n側電極30は、例えば、感光性レジストの塗布、フォトリソグラフィ、金属膜の成膜、及び、リフトオフ法による金属膜のパターニングを順に行うことで形成される。金属膜の成膜は、例えばTi膜、Pt膜及びAu膜をこの順で蒸着法又はスパッタリング法によって行われる。
【0119】
以上の工程を経て、
図1に示される半導体レーザ素子1が製造される。
【0120】
続いて、上記製造方法において行われる2回のアニール工程が窒化物系半導体層に与える影響について説明する。まず、不活性ガス雰囲気(具体的には、N
2ガス雰囲気)での第1アニール工程による影響について、
図5〜
図8を用いて説明する。
【0121】
図5は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1において、N
2ガス雰囲気でのアニール温度に対するp型クラッド層22の水素濃度の温度依存性を示す図である。
図5において、横軸は、p型コンタクト層24の上面からの深さを表している。縦軸は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析を行うことで得られた水素濃度を表している。
【0122】
SIMS分析を行う上で、水素を多く含む誘電体膜40を残した状態での解析では、半導体内部の水素濃度以外に誘電体膜から放出される水素が同時に検出されてしまい水素濃度の正確さが低下する。このため、SIMS分析を行ったサンプルでは、誘電体膜40はウェットエッチングで除去している。なお、SIMS分析の特性上、表面近傍(例えば、深さが数十nmまでの範囲)の分析結果はノイズの影響などを受けて正確な値を示していない場合があり、最表面層であるp型コンタクト層24の水素濃度は正しい値を示していない可能性がある。これは、
図9、
図13及び
図20で示される他のSIMS分析結果についても同様である。
【0123】
深さが0.05μm〜0.45μmの範囲は、p型クラッド層22を構成する2層のp型AlGaN層のうち、p型コンタクト層24側(上層側)のp型AlGaN層に相当する。深さが0.45μm〜0.70μmの範囲は、p型クラッド層22を構成する2層のp型AlGaN層のうち、電子障壁層20(下層側)のp型AlGaN層に相当する。深さが0.70μm〜0.80μmの範囲は、電子障壁層20を構成する2層のp型AlGaN層、及び、p側ガイド層18に含まれるp型GaN層に相当する。深さが0.80μmより深い範囲は、p側ガイド層18のInGaN層及び発光層16に相当する。これらは、
図9、
図13及び
図20で示される他のSIMS分析結果についても同様である。
【0124】
窒化物系半導体層に含まれる水素は、成膜時の導入ガスに含まれる水素に起因する。具体的には、水素は、p型ドーパントの濃度に比例して、窒化物系半導体層の結晶中に取り込まれる。つまり、p型ドーパントの濃度が高い層に含まれる水素濃度が高くなる。例えば、表1で示したように、電子障壁層20のp型ドーパントの濃度はp型クラッド層22のp型ドーパントの濃度よりも高いので、
図5に示されるように、電子障壁層20が位置する深さにおいて、水素濃度が高くなっている。
【0125】
図5では、N
2ガス雰囲気でのアニール(以下、窒素アニールと記載する)を行う前と、所定の温度及び所定の時間で窒素アニールを行った後との水素濃度を示している。
図5に示されるように、窒素アニールを行うことで、p型クラッド層22の水素濃度が低減している。低減の程度は、アニール温度に依存している。例えば、700℃で30分の窒素アニールを行った場合、p型クラッド層22の水素濃度は、約半減している。また、800℃で60分の窒素アニールを行った場合、及び、830℃で30分の窒素アニールを行った場合、p型クラッド層22の水素濃度は約1桁低減している。
【0126】
なお、
図5には示されていないが、
図6に示されるように、815℃で60分の窒素アニールを行った場合は、830℃で30分の窒素アニールを行った場合と同等の水素濃度の低減効果が得られた。また、750℃で90分の窒素アニールを行った場合は、750℃で30分の窒素アニールを行った場合よりも、水素濃度を低減させることができた。つまり、窒素アニールの時間を長くすることで、水素濃度を低減させることができる。
【0127】
なお、
図6は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1において、N
2ガス雰囲気でのアニール温度に対するp型クラッド層22の水素濃度の温度依存性を示す図である。
図6において、横軸は、窒素アニールのアニール温度を表している。縦軸は、p型クラッド層22を構成する2層のp型AlGaN層のうち、p型コンタクト層24側(上層側)のp型AlGaN層の水素濃度を表している。
【0128】
図6に示されるように、窒素アニールのアニール温度を高くすることで、水素濃度を低下させることができる。また、アニール時間が長くなることで、さらに水素濃度を低下させることができる。
【0129】
図7は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1において、N
2ガス雰囲気でのアニール温度に対するp型コンタクト層24とp側電極28との間のコンタクト抵抗の温度依存性を示す図である。
図7において、横軸は、窒素アニールのアニール温度を表している。縦軸は、コンタクト抵抗ρcを表している。なお、
図7に示されるプロットは、対応するアニール温度で30分の窒素アニールを行ったときのコンタクト抵抗ρcを示している。
【0130】
図7に示されるように、アニール温度が700℃から高くなるにつれて、コンタクト抵抗ρcは低下している。このため、窒素アニールのアニール温度が800℃以上である場合に、コンタクト抵抗ρcは約2.3×10
−4Ωcm
2以下になり、十分に小さくすることができる。アニール温度が約850℃の場合にコンタクト抵抗ρcは最小になり、その後、コンタクト抵抗ρcは増加している。窒素アニールのアニール温度が900℃以上の場合、p型コンタクト層24の窒素抜け、又は、Mgの熱による偏析が生じるためコンタクト抵抗が増大すると考えらえる。よって、例えば、800℃以上900℃以下の温度で窒素アニールを行うことで、コンタクト抵抗を十分に低くすることができる。また、窒素アニールのアニール温度は、800℃以上850℃以下であってもよい。
【0131】
図8は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1において、N
2ガス雰囲気でのアニール温度に対するp型層のシート抵抗の温度依存性を示す図である。
図8において、横軸は、窒素アニールのアニール温度を表している。縦軸は、シート抵抗Rsを表している。
【0132】
図8に示されるように、アニール温度が700℃から高くなるにつれて、シート抵抗Rsは低下している。具体的には、アニール温度が700℃から800℃の範囲ではシート抵抗Rsは約25%低下している。アニール温度が800℃を越えたあたりから、シート抵抗Rsの低下の傾きの変化が小さくなっている。アニール温度が800℃から900℃の範囲ではシート抵抗Rsは約6%低下している。
【0133】
このように、800℃以上の温度で窒素アニールを行うことで、窒素アニールによるシート抵抗Rsの低下効果を有効に発揮させることができ、シート抵抗Rsを十分に低くすることができる。
【0134】
続いて、不活性ガス雰囲気での第1アニール工程の後に行われる、酸化性ガス雰囲気(具体的には、O
2ガス雰囲気)での第2アニール工程による影響について、
図9〜
図12を用いて説明する。
【0135】
図9は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1のp型クラッド層22から発光層16にかけて深さ方向における水素の濃度分布を示す図である。
図9において、
図5と同様に、横軸はp型コンタクト層24の上面からの深さを表している。縦軸は、SIMS分析を行うことで得られた水素濃度を表している。
【0136】
図9において一点鎖線で表される“アニールなし”のグラフは、
図5において太い実線で表される“アニール前”のグラフと同じである。また、
図9において破線で表される“不活性ガスのみ”のグラフは、
図5において破線で表される“800℃、60分”の窒素アニールを行った場合のグラフと同じである。
図9において実線で表される“不活性ガス+酸化性ガス”グラフは、不活性ガスでのアニールを行った後、酸化性ガスでのアニールを行った場合のグラフである。具体的には、実線のグラフは、800℃で20分の窒素アニールを行った後、700℃で5分の酸素アニールを行った場合の深さ方向における水素の濃度分布を示している。
【0137】
図9に示されるように、窒素アニールの後に酸素アニールを行うことで、p型クラッド層22の水素濃度は、窒素アニールのみを行った場合よりも低くなっている。具体的には、p型クラッド層22の水素濃度は、920℃で30分の窒素アニールを行った場合と同等の水素濃度になっている。
【0138】
例えば、p型クラッド層22の水素濃度は、5.0×10
18atom/cm
3以下になっている。例えば、p型クラッド層22の上層側のp型AlGaN層のp型ドーパントの濃度は、表1で示されるように、1.0×10
19atom/cm
3である。これに対して、窒素アニール及び酸素アニールが行われた後の当該p型AlGaN層の水素濃度は、
図9の深さが0.05μm〜0.45μmの範囲で示されるように、5.0×10
17atom/cm
3以下である。つまり、当該p型AlGaN層の水素濃度は、p型ドーパントの濃度の5%以下になっている。このように、p型ドーパントの濃度が高い層においても、窒素アニールと酸素アニールとを行うことで、水素濃度を低くすることができる。
【0139】
p型クラッド層22の水素濃度が低くなっていることに伴って、発光層16の水素濃度も低くなっている。具体的には、発光層16の水素濃度は、2.0×10
17atom/cm
3以下になっている。これにより、発光層16内で水素に起因して発生する欠陥を抑制することができるので、信頼性の高い半導体レーザ素子1を実現することができる。
【0140】
また、本実施の形態によれば、窒素アニールと酸素アニールとの合計時間(具体的には25分)が、窒素アニールのみのアニール時間(具体的には30分)よりも短くすることができる。これにより、半導体レーザ素子1の製造時間も短くすることができる。
【0141】
図10は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1において、O
2ガス雰囲気でのアニール温度に対するp型コンタクト層24とp側電極28との間のコンタクト抵抗ρcのアニール温度依存性を示す図である。
図10において、横軸は、酸素アニールのアニール温度を表している。縦軸は、コンタクト抵抗ρcを表している。なお、
図10に示されるプロットは、800℃で20分の窒素アニールを行った後、対応する温度で5分の酸素アニールを行った場合のコンタクト抵抗ρcを示している。
【0142】
図10に示されるように、酸素アニールのアニール温度が高くなるにつれて、コンタクト抵抗ρcは増加している。このとき、酸素アニールを行わない場合(便宜上、0℃に対応する位置にプロットしている)と比較すると、800℃以下の酸素アニールを行うことで、コンタクト抵抗ρcが低下している。例えば、600℃での酸素アニールを行うことで、酸素アニールを行わない場合に比べてコンタクト抵抗を約半分にすることができる。一方で、900℃の酸素アニールを行った場合、酸素アニールを行わない場合よりもコンタクト抵抗ρcが大きくなっている。なお、高温でのアニールでコンタクト抵抗が増大する要因は、p型コンタクト層24の表面の酸化及びp型コンタクト層24でのMg偏析が発生するためと考えられる。また、高温でのアニールを行った場合には、発光層16のInGaNの一部が分解され、発光層16内に欠陥が増大することにより、半導体レーザ素子1の緩慢劣化が加速する恐れもある。
【0143】
図11は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1において、O
2ガス雰囲気でのアニール温度に対するp型クラッド層22のシート抵抗Rsの温度依存性を示す図である。
図11において、横軸は、酸素アニールのアニール温度を表している。縦軸は、シート抵抗Rsを表している。なお、
図11に示されるプロットは、800℃で20分の窒素アニールを行った後、対応する温度で5分の酸素アニールを行った場合のシート抵抗Rsを示している。
【0144】
図11に示されるように、酸素アニールのアニール温度が高くなるにつれて、シート抵抗Rsは減少している。具体的には、アニール温度が600℃から900℃の範囲において、シート抵抗Rsは約12200Ωから約11500Ωの範囲の値を取りうる。つまり、600℃から900℃の範囲においては、シート抵抗Rsは、最大で約700Ωの差が生じうる。この最大差は、酸素アニールを行わない場合(便宜上、0℃に対応する位置にプロットしている)のシート抵抗である12000Ωの約5%である。つまり、酸素アニールを行ったとしても、シート抵抗Rsはほとんど変わらない。
【0145】
したがって、800℃以下の温度で酸素アニールを行った場合、シート抵抗Rsをほとんど変化させずに、コンタクト抵抗ρcを低下させることができる。
【0146】
図12は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1において、O
2ガス雰囲気でのアニール温度に対するp型クラッド層22のH/Mg比率の温度依存性を示す図である。
図12において、横軸は、酸素アニールのアニール温度を表している。縦軸は、H/Mg比率、すなわち、p型ドーパントであるMgの濃度に対する水素濃度の比率を表している。なお、
図12に示されるプロットは、800℃で20分の窒素アニールを行った後、対応する温度で5分の酸素アニールを行った場合のH/Mg比率を示している。
【0147】
図12に示されるように、酸素アニールのアニール温度が高くなるにつれて、H/Mg比率が低下している。具体的には、酸素アニールを行わない場合(便宜上、0℃に対応する位置にプロットしている)、H/Mg比率は14%であるのに対して、800℃で酸素アニールを行った場合に、H/Mg比率は約4%である。つまり、800℃での酸素アニールを行うことで、H/Mg比率を約70%減少させることができる。なお、Mgの濃度はアニールによってはほとんど変化しないため、H/Mg比率の減少量は、実質的には水素濃度の減少量に相当している。
【0148】
600℃での酸素アニールを行った場合、H/Mg比率は約13%であり、酸素アニールを行わない場合よりも低くすることができる。900℃での酸素アニールを行った場合、H/Mg比率は約3%であり、800℃での酸素アニールを行った場合よりも低くすることができる。このように、酸素アニールのアニール温度が600℃から800℃の範囲でH/Mg比率の減少の割合は大きく、800℃から900℃の範囲でH/Mg比率の減少の割合は小さい。このため、例えば、700℃以上800℃以下の温度で酸素アニールを行うことで、水素濃度を効果的に低減することができる。
【0149】
続いて、酸素アニールによって添加された酸素の濃度分布と、発光層16への水素の拡散の抑制効果との関係について、
図13を用いて説明する。
【0150】
図13は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1のp型クラッド層22から発光層16にかけて深さ方向における酸素の濃度分布を示す図である。
図13において、横軸は、p型コンタクト層24の上面からの深さを表している。縦軸は、SIMS分析を行うことで得られた酸素濃度を表している。
【0151】
図13に示されるように、酸素濃度は、窒素アニールのみを行った場合に比べて、窒素アニールと酸素アニールとを行った場合に高くなっている。また、p型AlGaN層の酸素濃度は、発光層16の酸素濃度より高い。p型AlGaN層の酸素濃度は、発光層16側からp型コンタクト層24に向かうにつれて徐々に上昇している。
【0152】
具体的には、窒素アニールのみを行った場合、p型クラッド層22を構成するp型AlGaN層の酸素濃度は、約1×10
16atom/cm
−3であり、発光層16の酸素濃度は、約5×10
15atom/cm
−3である。窒素アニールのみを行った場合のp型AlGaN層の酸素濃度は、発光層16の酸素濃度の約1.8倍である。
【0153】
窒素アニールと酸素アニールとを行った場合、p型AlGaN層の酸素濃度は、約2×10
16atom/cm
−3であり、発光層16の酸素濃度は、約8×10
15atom/cm
−3である。窒素アニールと酸素アニールとを行った場合のp型AlGaN層の酸素濃度は、発光層16の酸素濃度の約2.5倍である。
【0154】
このように、窒素アニールの後に酸素アニールを行うことで、p型AlGaN層及び発光層16の各々の酸素濃度を高めることができる。また、p型AlGaN層には、発光層16よりも多くの酸素が供給される。p型AlGaN層に酸素が多く存在することで、水素をトラップする効果を高めることができるため、p型AlGaN層から発光層16への水素の拡散を抑制することができると推測される。具体的には、
図5に示されるように、発光層16の水素濃度は、約1.5×10
17atom/cm
−3になっている。
【0155】
これにより、発光層16内で水素に起因する欠陥の発生が抑制されるので、発光効率の低下及び緩慢劣化の発生を抑制することができる。したがって、本実施の形態によれば、信頼性の高い半導体レーザ素子1を実現することができる。
【0156】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。実施の形態2に係る窒化物系半導体発光素子は、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子と比較して、その製造方法が相違する。以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0157】
図14は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法を示すフローチャートである。
図14に示されるように、複数の窒化物系半導体層の形成(S10)から不活性ガス雰囲気でのアニール(S14、第1アニール工程)を行うまでの工程は、実施の形態1と同じである。
【0158】
本実施の形態では、不活性ガス雰囲気で、800℃以上の温度でアニール(すなわち、第1アニール工程)を行った後に、複数の窒化物系半導体層の一部を除去することで、リッジを形成する(S20)。具体的には、実施の形態1と同様にして、
図3Cに示されるように、素子分離溝34と、リッジを形成するための溝32とを形成する。
【0159】
次に、誘電体膜を形成する(S30)。具体的には、
図15に示されるように、素子分離溝34及び溝32の側面に沿って、p型コンタクト層24を覆うように誘電体膜50を形成する。このとき、第1アニール工程の前に形成された誘電体膜40を覆うように誘電体膜50を形成する。誘電体膜50は、例えばシリコン酸化膜であり、プラズマCVD法などにより形成される。誘電体膜50は、アニール時に窒化物系半導体層から窒素が抜けることを抑制するために設けられる。なお、
図15は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法に含まれる、誘電体膜50の形成工程を説明するための断面図である。
【0160】
次に、
図14に示されるように、酸化性ガス雰囲気で、800℃以下の温度でアニール(すなわち、第2アニール工程)を行う(S16)。その後、形成した誘電体膜40及び50を除去した後(S18)、p側電極28及びn側電極30を形成する(S22)。第2アニール工程、誘電体膜の除去及び電極の形成の詳細は、実施の形態1と同様である。
【0161】
このように、本実施の形態では、リッジを形成する工程(S20)は、第1アニール工程(S14)の後、第2アニール工程(S16)の前に行われる。リッジを形成した後にアニールを行うことで、リッジ形成時に発生した残留応力を緩和することができる。なお、残留応力は、例えば、ラマン分光による結晶格子の振動解析又はカソードルミネッセンス法による電子構造の変化を解析することで測定することができる。また、リッジの側面が酸化されることにより、リッジの側面を流れる無効電流を抑制することができる。応力の緩和及び無効電流の抑制によって、半導体レーザ素子1の電流−光出力特性を向上させることができる。
【0162】
(実施の形態3)
続いて、実施の形態3について説明する。実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子は、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子と比較して、その製造方法が相違する。以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0163】
図16は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法を示すフローチャートである。
図16に示されるように、複数の窒化物系半導体層の形成(S10)と誘電体膜40の形成(S12)とは、実施の形態1と同じである。
【0164】
本実施の形態では、アニールする工程の前に、複数の窒化物系半導体層の一部を除去することで、リッジを形成する(S20)。具体的には、実施の形態1と同様にして、
図3Cに示されるように、素子分離溝34と、リッジを形成するための溝32とを形成する。
【0165】
次に、実施の形態2と同様に、誘電体膜50を形成する(S30)。具体的には、
図15に示されるように、素子分離溝34及び溝32の側面に沿って、p型コンタクト層24を覆うように誘電体膜50を形成する。誘電体膜50は、例えばシリコン酸化膜であり、プラズマCVD法などにより形成される。誘電体膜50は、シリコン酸化膜でなくてもよい。誘電体膜50は、タンタル、バナジウム、スズ、インジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタン、コバルト、マンガン、イットリウム及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物であってもよい。あるいは、誘電体膜50は、これらの群から選択される複数の酸化物であってもよい。
【0166】
次に、不活性ガス雰囲気で、800℃以上の温度でアニールを行う(S14、第1アニール工程)。第1アニール工程の後に続いて、酸化性ガス雰囲気で、800℃以下の温度でアニールを行う(S16、第2アニール工程)。以降、実施の形態2と同様に、形成した誘電体膜50を除去した後(S18)、p側電極28及びn側電極30を形成する(S22)。第1アニール工程、第2アニール工程、誘電体膜の除去及び電極の形成の詳細は、実施の形態1と同様である。
【0167】
このように、本実施の形態では、リッジを形成する工程(S20)は、第1アニール工程(S14)の前に行われる。リッジを形成した後にアニールを行うことで、リッジ形成時に発生した残留応力を緩和することができる。
【0168】
図17は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の電流−光出力特性を示す図である。
図17において、横軸は、半導体レーザ素子1の動作時に流れる電流を表している。縦軸は、半導体レーザ素子1の動作時の光出力を表している。
【0169】
図17に示されるように、リッジを形成した後にアニールを行った場合、リッジを形成する前にアニールを行った場合よりも、同じ電流に対する光出力が大きくなっている。つまり、本実施の形態では、半導体レーザ素子1の発光効率が高められている。
【0170】
これは、リッジ形成時に発生した残留応力が緩和され、リッジ内の発光層16におけるバンドギャップを大きく確保できたことに起因すると考えられる。なお、残留応力は、例えば、ラマン分光によって測定することができる。また、リッジ形成後にアニールが行われることにより、リッジ側面のエッチングダメージ層の回復及びリッジの側面に酸化物が形成され、リッジ側面のエッチングダメージ層又は表面層を流れる無効電流が抑制されたためと考えられる。
【0171】
(実施の形態3の変形例)
続いて、実施の形態3の変形例について説明する。
【0172】
本変形例では、基板の一方の面側にn側電極及びp側電極が設けられた発光ダイオード素子を、窒化物系半導体発光素子の一例として説明する。なお、以下では、実施の形態3との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0173】
図18は、本変形例に係る発光ダイオード素子100の構成を示す断面図である。
図18に示されるように、発光ダイオード素子100は、基板110と、第1のn型窒化物系半導体層114と、発光層116と、p型窒化物系半導体層118と、p側電極126と、絶縁膜128と、金属バンプ132と、n側電極134とを備える。本変形例では、説明の都合上、発光層116に対して基板110が位置する方向を「下方(下層側)」とし、その反対方向を「上方(上層側)」としている。
【0174】
基板110の上面には、第1のn型窒化物系半導体層114が設けられている。基板110は、例えば、絶縁性のC面のサファイア基板であるが、他の面方位のサファイア基板、又は、窒化物系半導体基板、Si基板若しくはSiC基板などの半導体基板であってもよい。基板110の板厚、形状及び大きさは、特に限定されない。
【0175】
図18に示されるように、第1のn型窒化物系半導体層114は、凹部114dを有する。凹部114dは、平面視において発光層116に重ならない領域に設けられている。これにより、第1のn型窒化物系半導体層114は、平面視において発光層116に重なる領域と、発光層116に重ならない領域とで厚みが異なっている。例えば、凹部114dの側面と、発光層116及びp型窒化物系半導体層118の端面とは面一である。第1のn型窒化物系半導体層114の一部である凹部114dの底面114c上にn側電極134が設けられている。
【0176】
発光層116は、発光ダイオード素子100の発光部を形成する層である。発光層116は、第1のn型窒化物系半導体層114とp型窒化物系半導体層118との間に各々に接して設けられている。発光層116は、所定形状にパターニングされており、平面視においてn側電極134に重複していない。発光層116は、多重量子井戸構造又は単一量子井戸構造を有する。発光層116は、例えば実施の形態1に係る発光層16と同じ構成を有してもよい。
【0177】
p型窒化物系半導体層118は、第1のn型窒化物系半導体層の、基板110とは反対側に積層されたp型窒化物系半導体層の一例である。p型窒化物系半導体層118は、発光層116とp側電極126との間に各々に接して位置している。p型窒化物系半導体層118は、所定形状にパターニングされており、平面視においてn側電極134に重複していない。p型窒化物系半導体層118は、発光層116と同じ平面視形状及び同じ大きさを有する。p型窒化物系半導体層118は、例えば、p型不純物の一例であるMgが添加されたGaN層である。なお、p型窒化物系半導体層118はMgが添加されたAlGaN層でもよい。
【0178】
p側電極126は、p型窒化物系半導体層118に接して設けられている。p側電極126は、酸化インジウムスズ(ITO)を用いて形成されている。p側電極126の平面視における面積は、例えば4.8×10
−3cm
2である。p側電極126は、平面視において、凹部114dとは重複していない。ここで、ITOからなるp側電極126は、透明電極としても機能するので、発光層116で発生した光を、p側電極126を通して取り出すことができる。
【0179】
絶縁膜128は、p型窒化物系半導体層118の上面の、p側電極126に覆われていない部分と、p型窒化物系半導体層118及び発光層116の各々の端面と、凹部114dのn側電極134に覆われていない部分とを覆っている。つまり、絶縁膜128は、平面視においてp側電極126とn側電極134との間に位置しており、p側電極126とn側電極134との間の短絡を抑制する。絶縁膜128は、例えばシリコン酸化膜である。
【0180】
金属バンプ132は、p側電極126に接して設けられている。金属バンプ132は、例えば、Auである。
【0181】
n側電極134は、第1のn型窒化物系半導体層に接するn側電極の一例である。n側電極134は、第1のn型窒化物系半導体層114に接している。n側電極134の平面視における面積は、例えば、6.0×10
−4cm
2である。
【0182】
以上の構成を有する発光ダイオード素子100は、例えば、青色光を出射する。発光ダイオード素子100のチップ幅は784μmである。発光ダイオード素子100の最大動作電流は、1.4Aである。このときのp側電極126の電流密度は、0.3kAcm
−2であり、n側電極134の電流密度は、2.3kAcm
−2である。発光ダイオード素子100の動作電圧は、3.8Vであり、動作時の最大ジャンクション温度は、150℃である。なお、これらの数値は一例に過ぎず、各値は適宜設計変更されてもよい。
【0183】
続いて、本変形例に係る発光ダイオード素子100の製造方法について、
図19を用いて説明する。
図19は、本変形例に係る発光ダイオード素子100の製造方法に含まれる、半導体層の除去工程及び絶縁膜の形成工程を説明するための断面図である。
【0184】
基板110上に、図示しない低温バッファ層を形成したのち、n型窒化物系半導体膜、窒化物系半導体膜及びp型窒化物系半導体膜をこの順で形成する。次に、形成した複数の窒化物系半導体膜の一部を除去する。具体的には、p型窒化物系半導体膜、窒化物系半導体膜及びn型窒化物系半導体膜の、平面視において所定の領域に位置する部分をこの順で、ドライエッチングにより除去する。これにより、
図19に示されるように、所定形状にパターニングされたp型窒化物系半導体層118及び発光層116、並びに、第1のn型窒化物系半導体層114の凹部114dが形成される。
【0185】
次に、絶縁膜128及びp側電極126を形成する。具体的には、p側電極126とn側電極134とを形成する部分に開口部を有するように、絶縁膜128を形成する。その後、
図19に示されるように、p型窒化物系半導体層118の露出部分に、p側電極126を形成する。
【0186】
その後、実施の形態3と同様に、第1アニール工程及び第2アニール工程を順に行う。
【0187】
最後に、
図18に示されるように、凹部114dの底面114cの絶縁膜128の開口部にn側電極134を形成し、アニール工程で用いたp側電極126上の一部に金属バンプ132を形成する。
【0188】
本変形例では、p型窒化物系半導体層118の水素濃度を、発光層116の水素濃度と同等にまで低くすることにより、発光層116への水素の拡散を抑制することができる。
【0189】
(実施の形態4)
続いて、実施の形態4について説明する。実施の形態4に係る窒化物系半導体発光素子は、実施の形態1から3に係る窒化物系半導体発光素子と比較して、その製造方法が相違する。具体的には、本実施の形態では、不活性ガス雰囲気でのアニール(第1アニール工程)を行い、酸化性ガス雰囲気でのアニール(第2アニール工程)を行わない。以下では、実施の形態1から3との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0190】
図20は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法を示すフローチャートである。
図20に示されるように、まず、複数の窒化物系半導体層の形成を行う(S10)。複数の窒化物系半導体層の形成は、実施の形態1と同じである。
【0191】
次に、窒化物系半導体層上に誘電体膜を形成する(S40)。具体的には、
図21に示されるように、p型の第7半導体層25(p型コンタクト層24)上に、酸化物からなる誘電体膜60を形成する。
【0192】
図21は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法に含まれる、誘電体膜60の形成工程を説明するための断面図である。
図21に示されるように、第7半導体層25上に、第1誘電体膜61と、第2誘電体膜62とをこの順で成膜する。
【0193】
第1誘電体膜61は、シリコン酸化膜である。第1誘電体膜61の膜厚は、例えば40nmである。本実施の形態では、常圧でのCVD法によりシリコン酸化膜を第1誘電体膜61として成膜する。
【0194】
第2誘電体膜62は、第1誘電体膜61とは異なる誘電体膜であり、例えば、タンタル酸化膜である。第2誘電体膜62の膜厚は、例えば150nmである。本実施の形態では、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマ成膜装置を用いてタンタル酸化膜を第2誘電体膜62として成膜する。
【0195】
なお、第2誘電体膜62は、タンタル酸化膜でなくてもよい。第2誘電体膜62は、タンタル、バナジウム、スズ、インジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタン、コバルト、マンガン、イットリウム及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物であってもよい。あるいは、第2誘電体膜62は、これらの群から選択される複数の酸化物であってもよい。また、第2誘電体膜62は、上記の材料群のうち、中心金属の原子価が5価以上の金属酸化物が望ましい。5価以上の多価金属酸化物は、水素の吸蔵性及び透過性に優れているため効率良く水素を半導体層から脱離させることができる。したがって本、実施の形態ではタンタル酸化物を用いている。
【0196】
第2誘電体膜62が設けられることにより、アニール後のp型クラッド層22の水素濃度を十分に低減することができる。なお、タンタル酸化膜をp型の第7半導体層25上に直接形成した場合、タンタル酸化膜の除去が難しい。本実施の形態では、タンタル酸化膜である第2誘電体膜62と第7半導体層25との間に、シリコン酸化膜からなる第1誘電体膜61が設けられているので、誘電体膜60を容易に除去することができる。
【0197】
図20に示されるように、誘電体膜60を形成した後、不活性ガス雰囲気で、800℃以上の温度でアニールを行う(S14)。具体的には、窒素ガス雰囲気で、800℃の温度で30分間、アニールを行う。窒素ガスの流量は、例えば6slmである。
【0198】
次に、アニールを行った後、誘電体膜60を除去する(S18)。誘電体膜60の除去は、ドライエッチング若しくはウェットエッチング又はその両方で行われる。
【0199】
誘電体膜60を除去した後、複数の窒化物系半導体層のパターニングを行う(S20)。具体的には、実施の形態1と同様に、素子分離溝34と、リッジを形成するための溝32とを形成する。
【0200】
リッジが形成された後、p側電極28及びn側電極30を形成する(S22)。具体的な電極の形成処理は、実施の形態1と同様である。
【0201】
以上のように、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法では、誘電体膜60を形成した後に、アニールを行う。誘電体膜60が水素の脱離を促進し、p型クラッド層22の水素濃度を十分に低減することができる。
【0202】
なお、誘電体膜60を除去する工程は省略されてもよい。つまり、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1は、誘電体膜60を電流ブロック層26の一部又は全部として備えてもよい。
【0203】
図22は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1のp型クラッド層22から発光層16にかけて深さ方向における水素の濃度分布を示す図である。
図22において、横軸は、p型コンタクト層24の上面からの深さを表している。縦軸は、SIMS分析を行うことで得られた水素濃度を表している。
【0204】
図22において一点鎖線で表される“アニールなし”のグラフは、
図5において太い実線で表される“アニール前”のグラフと同じである。また、
図22において破線で表される“SiO
2キャップ”のグラフは、誘電体膜60の代わりに、厚さが200nmのシリコン酸化膜を形成した後、800℃で30分の窒素アニールを行った場合の水素の深さ方向の濃度分布を示している。
図22において実線で表される“Ta
2O
5キャップ”のグラフは、本実施の形態に係る誘電体膜60を形成した後、800℃で30分の窒素アニールを行った場合の水素の深さ方向の濃度分布を示している。
【0205】
図22に示されるように、タンタル酸化膜を含む誘電体膜60を形成した後に、窒素アニールを行うことで、p型クラッド層22(p型AlGaN層)の水素濃度が、発光層16の水素濃度と同等にまで低くなっている。具体的には、実施の形態1と同様に、アニール後のp型クラッド層22の水素濃度は、5.0×10
18atom/cm
3以下であり、かつ、p型ドーパントの濃度の5%以下になっている。これにより、発光層16への水素の拡散を抑制することができる。
【0206】
図22に示されるように、発光層16の水素濃度は、2.0×10
17atom/cm
3以下であるので、発光層16内の水素に起因して発生する欠陥の発生も抑制される。このように、本実施の形態によれば、タンタル酸化膜は、水素吸蔵性及び透過性に優れており、アニールによるp型窒化物系半導体層及びSiO
2膜の水素を効率良く脱離させることが可能となる。このため、タンタル酸化膜を含む誘電体膜60をアニール前に形成することで、アニールによる水素の脱離を効果的に行わせることができ、発光層16の水素濃度を低減することができる。例えば、酸化性ガス雰囲気でのアニールを行わなくても、信頼性の高い半導体レーザ素子1を実現することができる。
【0207】
(実施の形態5)
続いて、実施の形態5について、実施の形態1から4との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。実施の形態5に係る窒化物系半導体発光素子は、p型コンタクト層に接する電極として透明電極を用いている。
【0208】
図23は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子2の構成を示す断面図である。
図23に示される半導体レーザ素子2は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子1と比較して、p側電極として、p型コンタクト層24に接してp側透明電極29を備える。本実施の形態では、p側透明電極29は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)を用いて形成されている。
【0209】
p側透明電極29を形成する前の工程までは、実施の形態1から4のいずれかの製造方法と同一である。具体的には、電流ブロック層26に対して、感光性レジストの塗布及びフォトリソグラフィを行うことで、リッジの上部のみに開口を有するレジスト層を形成する。次に、形成したレジスト層上に、ITO膜をECRプラズマ成膜装置を用いて成膜する。ITO膜は、蒸着法又はレーザ蒸発堆積法によって行われてもよい。ITO膜の成膜後、リフトオフ法により、p型コンタクト層24上にp側透明電極29を形成する。
【0210】
ITO膜は酸素欠損による導電性透明材料であり、水素による還元作用により透明度(透過率)が低下することが知られている。本実施の形態では、窒化物系半導体層の内部の水素濃度が低く抑えられているため、通電における発熱によってp型クラッド層22から脱ガスする水素の影響をITO膜が受けにくくなる。そのため、ITO膜は透明度を保つことが可能となるため、新たな光の損失が生じない高い信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0211】
(他の実施の形態)
以上、1つ又は複数の態様に係る窒化物系半導体発光素子及びその製造方法、並びに、窒化物系半導体装置の製造方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、及び、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0212】
例えば、上記の実施の形態では、第1アニール工程における不活性ガスは、窒素ガスでなくてもよく、アルゴンなどの希ガスであってもよい。第2アニール工程における酸化性ガスは、酸素ガスでなくてもよく、亜酸化窒素、二酸化窒素又はオゾンなどであってもよい。
【0213】
また、上記の実施の形態では、発光層の成長の際に、キャリアガスとして水素ガスの代わりに窒素ガスを用いてもよく、キャリアガスとして窒素ガスを用いることで、Inの組成を高くすることが容易になる。
【0214】
また、例えば、上記の実施の形態では、(0001)面が表面に露出したGaN基板を用いて、(0001)面に窒化物系半導体層を形成し、基板の裏面である(000−1)面にn側電極を形成したが、異なる面方位のGaN基板を用いてもよい。例えば、m面が表面に露出したGaN基板を用いて、裏面である(1−100)面にn側電極を形成してもよい。
【0215】
また、例えば、上記の実施の形態では、窒化物系半導体装置の一例として、窒化物系半導体発光素子を示したが、窒化物系半導体装置は、フォトダイオードなどの受光素子であってもよい。あるいは、窒化物系半導体装置は、バイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)などの増幅素子又はスイッチング素子であってもよい。
【0216】
また。例えば、上記の実施の形態では、有機金属気相エピタキシー法を用いてp型窒化物系半導体層(p型窒化物系半導体結晶)を形成したが、ハイドライド気相成長法(水素を含むハライド気相成長法も含む)、又は、窒素の原料としてアンモニアなど水素を含む窒素化合物を用いた分子線エピタキシー法を使用してもよい。
【0217】
また、上記の各実施の形態は、請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
窒化物系半導体発光素子の製造方法は、n型窒化物系半導体層を形成し、n型窒化物系半導体層上に、窒化物系半導体からなる発光層を形成し、発光層上に、水素ガスを含む雰囲気で、2.0×10
以上の濃度でp型ドーパントをドーピングしながら、p型窒化物系半導体層を形成する工程(S10)と、水素を含まない雰囲気で、800℃以上の温度で、p型窒化物系半導体層をアニールする工程(S16)とを含み、アニールする工程後のp型窒化物系半導体層の水素濃度は、5.0×10