【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的の1つは、HVPE法によりβ−Ga
2O
3系単結晶からなるエピタキシャル層を高い成長レートで成長させることができる、β−Ga
2O
3系単結晶からなる半導体基板、その半導体基板とエピタキシャル層を有するエピタキシャルウエハ、及びそのエピタキシャルウエハの製造方法を提供することにある。
【0006】
また、本発明の他の目的は、HVPE法により表面モフォロジーの良好なβ−Ga
2O
3系単結晶からなるエピタキシャル層を成長させることができる、β−Ga
2O
3系単結晶からなる半導体基板、その半導体基板とエピタキシャル層を有するエピタキシャルウエハ、及びそのエピタキシャルウエハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]〜[7]の半導体基板、[8]のエピタキシャルウエハ、又は[9]〜[16]のエピタキシャルウエハの製造方法を提供する。
【0008】
[1]HVPE法によるエピタキシャル結晶成長用の下地基板として用いられる半導体基板であって、β−Ga
2O
3系単結晶からなり、β−Ga
2O
3系単結晶の[100]軸に平行な面を主面とする、半導体基板。
【0009】
[2]a軸方向へ進む右ねじの回転方向を正の角度とする、前記主面と、β−Ga
2O
3系単結晶の(001)面とのなす角度θが、30°以上90°以下又は−150°以上−90°以下である、前記[1]に記載の半導体基板。
【0010】
[3]前記半導体基板の平均転位密度が1×10
4/cm
2以下であり、前記角度θが、54.3°以上65.7°以下、又は−125.7°以上−114.3°以下である、前記[2]に記載の半導体基板。
【0011】
[4]前記半導体基板の平均転位密度が1×10
3/cm
2以下であり、前記角度θが、41.6°以上78.4°以下、又は−138.4°以上−101.6°以下である、前記[2]に記載の半導体基板。
【0012】
[5]a軸方向へ進む右ねじの回転方向を正の角度とする、前記主面と、β−Ga
2O
3系単結晶の(001)面とのなす角度θが−0.33°以上0.33°以下、45°より大きく90°以下、又は−45°より小さく−90°以上である、前記[1]に記載の半導体基板。
【0013】
[6]a軸方向へ進む右ねじの回転方向を正の角度とする、前記主面と、β−Ga
2O
3系単結晶の(001)面とのなす角度θが、−30°以上30°以下である、前記[1]に記載の半導体基板。
【0014】
[7]前記角度θが、0.3°以上15°以下又は−15°以上−0.3°以下である、前記[6]に記載の半導体基板。
【0015】
[8]前記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の前記半導体基板と、前記半導体基板の前記主面上にHVPE法によるエピタキシャル結晶成長により形成された、β−Ga
2O
3系単結晶からなるエピタキシャル層と、を有するエピタキシャルウエハ。
【0016】
[9]β−Ga
2O
3系単結晶からなり、β−Ga
2O
3系単結晶の[100]軸に平行な面を主面とする半導体基板上に、β−Ga
2O
3系単結晶からなるエピタキシャル層をHVPE法によりエピタキシャル成長させる工程を含む、エピタキシャルウエハの製造方法。
【0017】
[10]a軸方向へ進む右ねじの回転方向を正の角度とする、前記主面と、β−Ga
2O
3系単結晶の(001)面とのなす角度θが、30°以上90°以下又は−150°以上−90°以下である、前記[9]に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【0018】
[11]前記半導体基板の平均転位密度が1×10
4/cm
2以下であり、前記角度θが、54.3°以上65.7°以下、又は−125.7°以上−114.3°以下である、前記[10]に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【0019】
[12]前記半導体基板の平均転位密度が1×10
3/cm
2以下であり、前記角度θが、41.6°以上78.4°以下、又は−138.4°以上−101.6°以下である、前記[10]に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【0020】
[13]a軸方向へ進む右ねじの回転方向を正の角度とする、前記主面と、β−Ga
2O
3系単結晶の(001)面とのなす角度θが−0.33°以上0.33°以下、45°より大きく90°以下、又は−45°より小さく−90°以上である、前記[9]に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【0021】
[14]前記エピタキシャル層の成長レートが2.5μm/h以上である、前記[9]に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【0022】
[15]a軸方向へ進む右ねじの回転方向を正の角度とする、前記主面と、β−Ga
2O
3系単結晶の(001)面とのなす角度θが、−30°以上30°以下である、前記[7]に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【0023】
[16]前記角度θが、0.3°以上15°以下又は−15°以上−0.3°以下である、前記[8]に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、HVPE法によりβ−Ga
2O
3系単結晶からなるエピタキシャル層を高い成長レートで成長させることができる、β−Ga
2O
3系単結晶からなる半導体基板、その半導体基板とエピタキシャル層を有するエピタキシャルウエハ、及びそのエピタキシャルウエハの製造方法を提供することができる。
【0025】
また、本発明によれば、HVPE法により表面モフォロジーの良好なβ−Ga
2O
3系単結晶からなるエピタキシャル層を成長させることができる、β−Ga
2O
3系単結晶からなる半導体基板、その半導体基板とエピタキシャル層を有するエピタキシャルウエハ、及びそのエピタキシャルウエハの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1の実施の形態〕
(結晶積層構造体の構成)
図1は、第1の実施の形態に係るエピタキシャルウエハ10の垂直断面図である。エピタキシャルウエハ10は、半導体基板11と、半導体基板11の主面12上にHVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法によるエピタキシャル結晶成長により形成されたエピタキシャル層13を有する。
【0028】
半導体基板11は、β−Ga
2O
3系単結晶からなる基板である。ここで、β−Ga
2O
3系単結晶とは、β−Ga
2O
3単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたβ−Ga
2O
3単結晶を母結晶とする結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたβ−Ga
2O
3単結晶の組成は、β−(Ga
xAl
yIn
(1−x−y))
2O
3(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)で表される。Alを添加した場合にはβ−Ga
2O
3単結晶のバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。また、半導体基板11は、Sn等の導電型不純物を含んでもよい。
【0029】
β−Ga
2O
3系結晶は単斜晶系に属するβ−ガリア構造を有し、不純物を含まないβ−Ga
2O
3結晶の典型的な格子定数はa
0=12.23Å、b
0=3.04Å、c
0=5.80Å、α=γ=90°、β=103.8°である。
【0030】
半導体基板11は、例えば、FZ(Floating Zone)法やEFG(Edge Defined Film Fed Growth)法等の融液成長法により育成したGa
2O
3系単結晶のバルク結晶をスライスし、表面を研磨することにより形成される。
【0031】
半導体基板11の主面12は、半導体基板11を構成するβ−Ga
2O
3系単結晶の[100]軸に平行な面である。これは、β−Ga
2O
3系単結晶基板の主面の面方位が[100]軸に平行であるときに、主面とβ−Ga
2O
3系単結晶の(100)面とのなす角度により、β−Ga
2O
3系単結晶層のHVPE法によるエピタキシャル成長のレートやβ−Ga
2O
3系単結晶層の表面モフォロジーを制御できるという本発明者らの発見に基づいて設定されたものである。
【0032】
この主面12が[100]軸に平行な半導体基板11において、主面12と、半導体基板11を構成するβ−Ga
2O
3系単結晶の(001)面とのなす角度(以下、角度θと呼ぶ)を半導体基板11のa軸方向へ進む右ねじの回転方向を正の角度として、−30°以上30°以下とすることにより、HVPE法によるエピタキシャル層13の成長レートを高くすることができる。さらに、角度θを0.3°以上15°以下又は−15°以上−0.3°以下とすることにより、HVPE法によるエピタキシャル層13の成長レートをより高くすることができる。
【0033】
また、この角度θを半導体基板11のa軸方向へ進む右ねじの回転方向を正の角度として、30°以上90°以下又は−150°以上−90°以下とすることにより、HVPE法により形成されるエピタキシャル層13の表面モフォロジーを良好にすることができる。
【0034】
さらに、角度θを60°又は−120°に近い値に設定することにより、エピタキシャル層13の表面モフォロジーをより良好にすることができる。例えば、半導体基板11の平均転位密度が1×10
4/cm
2以下であるときは、角度θを54.3°以上65.7°以下、又は−125.7°以上−114.3°以下に設定する。また、半導体基板11の平均転位密度が1×10
3/cm
2以下であるときは、角度θを41.6°以上78.4°以下、又は−138.4°以上−101.6°以下に設定する。
【0035】
なお、β−Ga
2O
3系単結晶は、その対称性から、[100]軸を回転軸として(001)面を正の方向に回転させたときに一致する面と負の方向に回転させたときに一致する面は等価になる。すなわち、上記の角度θが正負どちらであっても、主面12の面方位は等価である。
【0036】
エピタキシャル層13は、半導体基板11と同様に、β−Ga
2O
3系単結晶からなる。また、エピタキシャル層13は、Si等の導電型不純物を含んでもよい。
【0037】
(気相成長装置の構造)
以下に、本実施の形態に係るエピタキシャル層13の成長に用いる気相成長装置の構造の一例について説明する。
【0038】
図2は、実施の形態に係る気相成長装置2の垂直断面図である。気相成長装置2は、HVPE法用の気相成長装置であり、第1のガス導入ポート21、第2のガス導入ポート22、第3のガス導入ポート23、及び排気ポート24を有する反応チャンバー20と、反応チャンバー20の周囲に設置され、反応チャンバー20内の所定の領域を加熱する第1の加熱手段26及び第2の加熱手段27を有する。
【0039】
HVPE法は、PLD法等と比較して、成膜レートが高い。また、膜厚の面内分布の均一性が高く、大口径の膜を成長させることができる。このため、結晶の大量生産に適している。
【0040】
反応チャンバー20は、Ga原料が収容された反応容器25が配置され、ガリウムの原料ガスが生成される原料反応領域R1と、半導体基板11が配置され、エピタキシャル層13の成長が行われる結晶成長領域R2を有する。反応チャンバー20は、例えば、石英ガラスからなる。
【0041】
ここで、反応容器25は、例えば、石英ガラスであり、反応容器25に収容されるGa原料は金属ガリウムである。
【0042】
第1の加熱手段26と第2の加熱手段27は、反応チャンバー20の原料反応領域R1と結晶成長領域R2をそれぞれ加熱することができる。第1の加熱手段26及び第2の加熱手段27は、例えば、抵抗加熱式や輻射加熱式の加熱装置である。
【0043】
第1のガス導入ポート21は、Cl
2ガス又はHClガスであるCl含有ガスを、不活性ガスであるキャリアガス(N
2ガス、Arガス又はHeガス)を用いて反応チャンバー20の原料反応領域R1内に導入するためのポートである。
【0044】
第2のガス導入ポート22は、酸素の原料ガスであるO
2ガスやH
2Oガス等の酸素含有ガス及びエピタキシャル層13にSi等のドーパントを添加するための塩化物系ガス(例えば、四塩化ケイ素等)を、不活性ガスであるキャリアガス(N
2ガス、Arガス又はHeガス)を用いて反応チャンバー20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。
【0045】
第3のガス導入ポート23は、不活性ガスであるキャリアガス(N
2ガス、Arガス又はHeガス)を反応チャンバー20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。
【0046】
(エピタキシャル層の成長)
以下に、本実施の形態に係るエピタキシャル層13の成長工程の一例について説明する。
【0047】
まず、第1の加熱手段26を用いて反応チャンバー20の原料反応領域R1を加熱し、原料反応領域R1の雰囲気温度を所定の温度に保つ。
【0048】
次に、第1のガス導入ポート21からCl含有ガスを、キャリアガスを用いて導入し、原料反応領域R1において、上記の雰囲気温度下で反応容器25内の金属ガリウムとCl含有ガスを反応させ、塩化ガリウム系ガスを生成する。
【0049】
このとき、上記の原料反応領域R1内の雰囲気温度は、反応容器25内の金属ガリウムとCl含有ガスの反応により生成される塩化ガリウム系ガスのうち、GaClガスの分圧が最も高くなるような温度であることが好ましい。ここで、塩化ガリウム系ガスには、GaClガス、GaCl
2ガス、GaCl
3ガス、(GaCl
3)
2ガス等が含まれる。
【0050】
GaClガスは、塩化ガリウム系ガスに含まれるガスのうち、Ga
2O
3結晶の成長駆動力を最も高い温度まで保つことのできるガスである。高純度、高品質のGa
2O
3結晶を得るためには、高い成長温度での成長が有効であるため、高温において成長駆動力の高いGaClガスの分圧が高い塩化ガリウム系ガスを生成することが、エピタキシャル層13の成長のために好ましい。
【0051】
なお、エピタキシャル層13を成長させる際の雰囲気に水素が含まれていると、エピタキシャル層13の表面の平坦性及び結晶成長駆動力が低下するため、水素を含まないCl
2ガスをCl含有ガスとして用いることが好ましい。
【0052】
また、塩化ガリウム系ガスのうちのGaClガスの分圧比を高くするため、第1の加熱手段26により原料反応領域R1の雰囲気温度を300℃以上に保持した状態で反応容器25内の金属ガリウムとCl含有ガスを反応させることが好ましい。
【0053】
また、例えば、850℃以上の雰囲気温度下では、GaClガスの分圧比が圧倒的に高くなる(GaClガスの平衡分圧がGaCl
2ガスより4桁大きく、GaCl
3ガスより8桁大きい)ため、GaClガス以外のガスはGa
2O
3結晶の成長にほとんど寄与しない。
【0054】
なお、第1の加熱手段26の寿命や、石英ガラス等からなる反応チャンバー20の耐熱性を考慮して、原料反応領域R1の雰囲気温度を1000℃以下に保持した状態で反応容器25内の金属ガリウムとCl含有ガスを反応させることが好ましい。
【0055】
次に、結晶成長領域R2において、原料反応領域R1で生成された塩化ガリウム系ガスと、第2のガス導入ポート22から導入された酸素含有ガスとを混合させ、その混合ガスに半導体基板11を曝し、半導体基板11上にエピタキシャル層13をエピタキシャル成長させる。このとき、反応チャンバー20を収容する炉内の結晶成長領域R2における圧力を、例えば、1atmに保つ。
【0056】
ここで、Si、Al等の添加元素を含むエピタキシャル層13を形成する場合には、ガス導入ポート22より、添加元素の原料ガス(例えば、四塩化ケイ素(SiCl
4)等の塩化物系ガス)も塩化ガリウム系ガス及び酸素含有ガスに併せて結晶成長領域R2に導入する。
【0057】
なお、エピタキシャル層13を成長させる際の雰囲気に水素が含まれていると、エピタキシャル層13の表面の平坦性及び結晶成長駆動力が低下するため、酸素含有ガスとして水素を含まないO
2ガスを用いることが好ましい。
【0058】
また、GaClガスの平衡分圧の上昇を抑え、エピタキシャル層13を効率的に成長させるためには、結晶成長領域R2におけるO
2ガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比が0.5以上である状態でエピタキシャル層13を成長させることが好ましい。
【0059】
また、高品質のエピタキシャル層13を成長させるために、成長温度を900℃以上にすることが好ましい。
【0060】
なお、エピタキシャル層13は、例えば、5×10
16(atoms/cm
3)以下のClを含む。これは、エピタキシャル層13がCl含有ガスを用いるHVPE法により形成されることに起因する。通常、HVPE法以外の方法によりGa
2O
3単結晶膜を形成する場合には、Cl含有ガスを用いないため、Ga
2O
3単結晶膜中にClが含まれることはなく、少なくとも、1×10
16(atoms/cm
3)以上のClが含まれることはない。
【0061】
(エピタキシャル層の表面モフォロジーの評価)
以下に、主面12と半導体基板11を構成するβ−Ga
2O
3単結晶の(001)面とのなす角度θと、エピタキシャル層13の表面モフォロジーとの関係の評価結果を示す。
【0062】
図3(a)〜(d)、
図4(a)〜(d)、
図5(a)〜(c)は、光学顕微鏡によるエピタキシャル層13の表面の観察画像である。各図の左上には、各々のエピタキシャル層13の下地である半導体基板11の角度θの値が示されている。
【0063】
図3(a)〜(d)、
図4(a)〜(d)、
図5(a)〜(c)に示されるエピタキシャル層13は、β−Ga
2O
3単結晶からなる半導体基板11上に成長したβ−Ga
2O
3単結晶からなる層である。
【0064】
図3(a)〜(d)、
図4(a)〜(d)、
図5(a)〜(c)は、角度θが0°から90°に近づくほど、エピタキシャル層13の表面に現れるV字状の溝の長さが短くなり、表面モフォロジーが良好になることを示している。
【0065】
ここで、エピタキシャル層13の表面モフォロジーを劣化させるV字状の溝について、
図6(a)、(b)を用いて説明する。
【0066】
図6(a)は、光学顕微鏡によるエピタキシャル層13の表面の観察画像であり、
図6(b)は、
図6(a)の切断線A−Aにおけるエピタキシャル層13の垂直断面の模式図である。
図6(b)中の「L」、「T」は、それぞれV字溝の長さ、エピタキシャル層13の厚さ(V字溝の深さ)を表す。なお、
図6(a)に示される半導体基板11の角度θはおよそ+0.75°である。
【0067】
V字溝は半導体基板11の転位がエピタキシャル層13に伝播することにより形成されるものと考えられる。本願発明者らは、エピタキシャル層13のV字溝の発生の起点となる半導体基板11の転位の転位線15が、半導体基板11のa軸方向へ進む左ねじの回転方向(
図6(b)における反時計回り方向)へ[010]軸をおよそ60°回転させた位置に生じることを見出した。
【0068】
図7(a)、(b)は、それぞれエピタキシャルウエハ10の上面及び垂直断面の走査透過電子顕微鏡(STEM)の明視野像である。
図7(a)、(b)に示される半導体基板11の角度θはおよそ−0.8°である。これらの画像において、半導体基板11中の転位線15を確認することができる。
【0069】
なお、後述するように、V字溝の底の直線14と半導体基板11の主面12とのなす角度は角度θに等しい。
図7(a)に示されるエピタキシャルウエハ10における角度θは−0.8°と小さく、拡大倍率の大きい
図7(b)のSTEM像においては、V字溝の底の直線14は主面12に一致しているように見える。また、V字溝の側面は、
図6(b)に示されるように、主面12に対してほぼ垂直であるが、主面12の近傍のごく薄い領域においては傾斜することがある。
図7(a)に示される半導体基板11及びエピタキシャル層13は、STEM観察のために薄く加工されており、
図7(a)には、主面12の近傍の傾斜したV字溝の側面が示されている。
【0070】
角度θを60°に設定することにより、半導体基板11の転位線15が主面12と平行になり、主面12に転位が現れない。このため、半導体基板11からエピタキシャル層13への転位の伝播がほとんど生じない。また、角度θが−120°のときにも、転位線15が主面12と平行になるため、V字溝の長さLがほぼ0になる。
【0071】
また、転位線15が主面12と完全に平行でなくても、平行に近づくほど、主面12に表れる転位(主面12と転位線15の交点に表れる)の間隔が大きくなる。
【0072】
図8(a)、(b)は、転位線15と主面12のなす角度φと主面12に現れる転位の間隔D
2との関係を示す概念図である。この概念図においては、転位線15が一定の間隔で並んでいるものとする。
【0073】
転位線15の間隔をD
1とすれば、主面12に現れる転位の間隔D
2は、D
1/sinφと等しい。このため、間隔D
1が一定であるとして角度φを変化させると、φ=90°のとき(角度θがおよそ150°又は−30°のとき)転位線15が主面12に対して垂直になり、間隔D
2は間隔D
1と等しくなるために最も小さくなる。そして、角度φが0°(角度θがおよそ60°又は−120°)に近づくほど、転位線15が主面12に対して平行に近づき、間隔D
2が増加する。
【0074】
例えば、半導体基板11の平均転位密度が1×10
4/cm
2であるとすると、転位線15の間隔D
1の平均値は100μmとなる。この場合、φの絶対値がおよそ5.7°よりも小さければ、主面12に現れる転位の間隔D
2が1000μmよりも大きくなる。すなわち、主面12に現れる転位の平均個数が1個/mm
2未満になる。
【0075】
以下の表1に、主面12に現れる転位の平均個数が1個/mm
2未満となるときの、半導体基板11の平均転位密度と角度φとの関係を示す。
【0077】
角度θがおよそおよそ60°又は−120°のときにφ=0°となるため、表1によれば、半導体基板11の平均転位密度が1×10
5/cm
2以下であるときは、角度θを58.2°以上61.8°以下、又は−121.8°以上−118.2°以下に設定することにより、主面12に現れる転位の平均個数を1個/mm
2未満とすることができる。
【0078】
また、半導体基板11の平均転位密度が1×10
4/cm
2以下であるときは、角度θを54.3°以上65.7°以下、又は−125.7°以上−114.3°以下に設定することにより、主面12に現れる転位の平均個数を1個/mm
2未満とすることができる。
【0079】
また、半導体基板11の平均転位密度が1×10
3/cm
2以下であるときは、角度θを41.6°以上78.4°以下、又は−138.4°以上−101.6°以下に設定することにより、主面12に現れる転位の平均個数を1個/mm
2未満とすることができる。
【0080】
また、半導体基板11の平均転位密度が1×10
2/cm
2以下であるときは、角度θを−30°、150°以外に設定することにより、主面12に現れる転位の平均個数を1個/mm
2未満とすることができる。
【0081】
また、V字溝の底の直線14は、半導体基板11を構成するβ−Ga
2O
3単結晶の[010]軸に平行である。
図6(b)の断面は半導体基板11を構成するβ−Ga
2O
3系単結晶のb軸に平行であるため、この断面に現れる半導体基板11の(001)面は[010]軸に一致する。このため、半導体基板11の主面12と[010]軸とのなす角度θは、
図6(b)に示されるように、主面12と(001)面とのなす角(V字溝の底の直線14と主面12のなす角)に等しい。このため、計算上、角度θが90°に近づくほど、V字溝の長さLが短くなる。
【0082】
図9は、半導体基板11のa軸方向へ進む右ねじの回転方向を正とする角度θとV字溝の長さLの関係を表すデータをプロットしたグラフである。
図9の縦軸のV字溝の長さLは、エピタキシャル層13の厚さTを10μmとしたときの、L=T/tanθの式により算出した計算値である。
【0083】
図9に示される曲線によれば、θが0°から離れるに従ってV字溝の長さLが急激に低下し、30°のあたりで曲率がほぼ0となって、V字溝の長さLの減少が緩やかになる。このため、V字溝の長さLを小さくするためには、角度θが、30°以上90°以下、及びこれに等価な−150°以上−90°以下であることが好ましい。
【0084】
次の表2に、半導体基板11のa軸方向へ進む右ねじの回転方向を正とする角度θと、V字溝の長さLの実測値及び計算値との関係を示す。
【0086】
表2に示されているV字溝の長さLの実測値のうち、角度θが60°のときの値がほぼ0になっているのは、上述のように、転位線15が主面12と平行になり、主面12に転位が現れないため、転位がエピタキシャル層13まで伝播しないためである。計算値は、転位がエピタキシャル層13まで伝播していると仮定した上での計算によるものであるため、0にはならない。
【0087】
また、角度θが45°、75°のときのV字溝の長さLの実測値が計算値よりも小さくほぼ0になっているが、これは、V字溝の長さLがエピタキシャル層13の厚さTよりも小さくなる場合には、成長過程においてV字溝に成長結晶が埋め込まれて溝が浅くなり、長さLが光学顕微鏡で計測できないほど短くなるためである。長さLがおよそ0.5μm以下になると、光学顕微鏡での判別が困難になる。また、角度θが−135°、−105°のときにも、V字溝の長さLが光学顕微鏡で計測できないほど短く、実測値がほぼ0になる。
【0088】
また、角度θが90°のときのV字溝の長さLの実測値もほぼ0になっているが、これは、半導体基板11の[010]軸が主面12に対して垂直になるために、V字溝の底の直線14が主面12に対して垂直になるためと考えられる。また、角度θが−90°のときにも、半導体基板11の[010]軸が主面12に対して垂直になるため、V字溝の長さLの実測値がほぼ0になる。
【0089】
このように、角度θは45°以上90°以下又は−135°以上−90°以下に設定することにより、V字溝の長さLを光学顕微鏡で観測困難なほど短くすることができる。
【0090】
また、表2によれば、角度θが小さい(θ=0.06、0.33)ときに、V字溝の長さLの実測値が計算値よりも小さくなっているが、これは、エピタキシャル層13の成長過程においてV字溝に成長結晶が埋め込まれて浅くなっているためである。
【0091】
θ=0.06、0.33のときのV字溝の深さ(エピタキシャル層13の表面からV字溝の最下部までの長さ)をLの実測値から計算により求めた値は、それぞれ0.52μm、2.01μmであり、表2に示されるエピタキシャル層13の厚さよりも小さい。このことは、θ=0.06、0.33のときにV字溝が結晶成長過程において埋め込まれていることを示している。
【0092】
図10(a)〜(f)は、角度θを正の方向(半導体基板11のa軸方向へ進む右ねじの回転方向)へ増加させたときのV字溝の形状の変化を示す模式図である。
【0093】
図11(a)〜(f)は、角度θを負の方向(半導体基板11のa軸方向へ進む左ねじの回転方向)へ増加させたときのV字溝の形状の変化を示す模式図である。
【0094】
図10(a)及び
図11(a)は、V字溝が浅く、その最下部が半導体基板11の主面12から離れている状態を表している。上述のように、角度θが0°より大きく、0.33°以下である場合、及び角度θが0°より小さく、−0.33°以上である場合の状態は、この
図10(a)及び
図11(a)に示される状態に該当する。このため、エピタキシャル層13の表面にCMP(Chemical Mechanical Polishing)等の研磨処理を施すことにより、V字溝を除去することができる。一方、V字溝の最下部が半導体基板11の主面12に達している場合には、エピタキシャル層13の一部を残してV字溝を除去することはできない。
【0095】
なお、θ=0°のときには、V字溝の底の直線14が主面12と平行になるため、V字溝の長さLが非常に大きく(理論上は無限大)になる。この場合のV字溝も、エピタキシャル層13の成長過程において成長結晶が埋め込まれて、浅くなる。
【0096】
また、上述のように、V字溝の長さLがエピタキシャル層13の厚さTよりも小さくなる場合には、成長過程においてV字溝に成長結晶が埋め込まれて溝が浅くなる。すなわち、角度θが45°より大きく、90°以下である場合、及び角度θが−45°より小さく、−90°以上である場合には、V字溝が浅くなる。このため、
図10(d)、(f)及び
図11(d)に示されるV字溝は、成長結晶が埋め込まれて浅くなり、その最下部が半導体基板11の主面12から離れている。
【0097】
したがって、角度θが−0.33°以上0.33°以下である場合、45°より大きく90°以下である場合、又は−45°より小さく−90°以上である場合には、エピタキシャル層13の表面に研磨処理を施すことにより、V字溝を除去することができる。
【0098】
図12(a)、(b)は、角度θが0.06°である半導体基板11上のエピタキシャル層13の表面の光学顕微鏡による観察画像であり、
図12(a)がCMP前の画像、
図12(b)がCMP後の画像である。
図12(a)、(b)は、エピタキシャル層13の一部を残した状態でV字溝が除去されたことを示している。
【0099】
なお、半導体基板11とエピタキシャル層13が、それぞれβ−Ga
2O
3単結晶以外のβ−Ga
2O
3系単結晶からなる場合であっても、同様の評価結果が得られる。
【0100】
(エピタキシャル層の成長レートの評価)
次の表3に、β−Ga
2O
3基板の主面の(001)面からの[100]軸方向及び[010]軸方向へのオフセット角度と、HVPE法によるβ−Ga
2O
3基板上のβ−Ga
2O
3層の成長レートとの関係を示す。
【0102】
表3は、例えば、(001)面から[100]軸方向に−0.04°、[010]軸方向に0.78°傾いた面を主面とするβ−Ga
2O
3基板上のβ−Ga
2O
3層の成長レートが6.0μm/hであることを示している。
【0103】
図13(a)は、表3に示される(001)面からの[100]軸方向へのオフセット角度と、β−Ga
2O
3層の成長レートとの関係を表すデータをプロットしたグラフである。
図8(b)は、表3に示される(001)面からの[010]軸方向へのオフセット角度と、β−Ga
2O
3層の成長レートとの関係を表すデータをプロットしたグラフである。
【0104】
図13(a)に示されるように、(001)面からの[100]軸方向へのオフセット角度と成長レートとの関係には規則性がなく、成長レートの[100]軸方向へのオフセット角度への明確な依存性は確認されなかった。
【0105】
一方、
図13(b)に示されるように、(001)面からの[010]軸方向へのオフセット角度と成長レートとの関係においては、オフセット角度が0°付近のときに成長レートが最も低く、0°から離れるに従って成長レートが増加する。
【0106】
次の表4に、β−Ga
2O
3単結晶からなる半導体基板11の角度θ、すなわち(001)面からの[010]軸方向へのオフセット角度と、β−Ga
2O
3単結晶からなるエピタキシャル層13の成長レートとの関係を示す。
【0108】
図14(a)は、表4に示される角度θとエピタキシャル層13の成長レートとの関係を表すデータをプロットしたグラフである。
図14(b)は、
図14(a)の0°≦θ≦5.5°の範囲を拡大したグラフである。
【0109】
図14(a)、(b)に示されるように、エピタキシャル層13の成長レートは、角度θが0°以上30°以下であるときに比較的高く(2.5μm/h以上)、角度θが0.3°以上15°以下であるときに特に高い(4.0μm/h以上)。また、半導体基板11を構成するβ−Ga
2O
3系単結晶の対称性から、角度θが負であるときのθの絶対値とエピタキシャル層13の成長レートの関係は、角度θが正であるときのθとエピタキシャル層13の成長レートの関係と同じである。このため、角度θが−30°以上30°以下であるときにエピタキシャル層13の成長レートが比較的高く、角度θが0.3°以上15°以下又は−15°以上−0.3°以下であるときに特に高いといえる。
【0110】
なお、半導体基板11とエピタキシャル層13が、それぞれβ−Ga
2O
3単結晶以外のβ−Ga
2O
3系単結晶からなる場合であっても、同様の角度θとエピタキシャル層13の成長レートとの関係を示す評価結果が得られる。
【0111】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、第1の実施の形態に係るエピタキシャルウエハ10を含む半導体素子についての形態である。この半導体素子の一例として、MESFET(Metal Semiconductor Field Effect Transistor)構造を有する横型トランジスタについて説明する。
【0112】
(半導体素子の構造)
図15は、第2の実施の形態に係る横型トランジスタ40の垂直断面図である。横型トランジスタ40は、半導体基板11上に形成されたエピタキシャル層13と、エピタキシャル層13上のゲート電極41、ソース電極42、及びドレイン電極43を含む。ゲート電極41は、ソース電極42とドレイン電極43との間に配置される。
【0113】
ソース電極42及びドレイン電極43は、エピタキシャル層13の上面(半導体基板11に接している面の反対側の面)に接触してオーミック接合を形成する。また、ゲート電極41はエピタキシャル層13の上面に接触してショットキー接合を形成し、エピタキシャル層13中のゲート電極41下に空乏層が形成される。この空乏領域の厚さにより、横型トランジスタ40は、ノーマリーオフ型のトランジスタ又はノーマリーオン型のトランジスタとして機能する。
【0114】
半導体基板11は、Mg、Be、Zn、Fe等のp型ドーパントを含むGa
2O
3系結晶からなり、高い電気抵抗を有する。
【0115】
エピタキシャル層13は、Si、Sn等のn型ドーパントを含む。ソース電極42及びドレイン電極43との接触部付近におけるn型ドーパントの濃度は、他の部分におけるn型ドーパントの濃度よりも高い。エピタキシャル層13の厚さは、例えば、0.1〜1μmである。
【0116】
ゲート電極41、ソース電極42、及びドレイン電極43は、例えば、Au、Al、Ti、Sn、Ge、In、Ni、Co、Pt、W、Mo、Cr、Cu、Pb等の金属、これらの金属のうちの2つ以上を含む合金、ITO等の導電性化合物、又は導電性ポリマーからなる。導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン誘導体(PEDOT:ポリ(3,4)-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたものや、ポリピロール誘導体にTCNAをドーピングしたもの等が用いられる。また、ゲート電極41は、異なる2つの金属からなる2層構造、例えばAl/Ti、Au/Ni、Au/Co、を有してもよい。
【0117】
横型トランジスタ40においては、ゲート電極41に印加するバイアス電圧を制御することにより、エピタキシャル層13内のゲート電極41下の空乏層の厚さを変化させ、ドレイン電流を制御することができる。
【0118】
上記の横型トランジスタ40は、第1の実施の形態に係るエピタキシャルウエハ10を含む半導体素子の一例であり、その他にも、エピタキシャルウエハ10を用いて様々な半導体素子を製造することができる。
【0119】
例えば、エピタキシャル層13をチャネル層として用いるMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)やHEMT(High Electron Mobility Transistor)、半導体基板11とエピタキシャル層13にオーミック電極とショットキー電極がそれぞれ接続されるショットキーダイオード等を製造することができる。製造する半導体素子の種類によって、半導体基板11とエピタキシャル層13に含まれるドーパントの種類や濃度を適宜設定する。
【0120】
横型トランジスタ40を含む半導体素子の製造には、エピタキシャル層13のV字状の溝が存在しない領域、及びその領域上に形成された結晶層が用いられる。すなわち、エピタキシャル層13の表面モフォロジーが優れているほど、1枚のウエハから得られる半導体素子の数が増える。
【0121】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、半導体基板11の角度θを0°以上30°以下、より好ましくは0.3°以上15°以下とすることにより、HVPE法によるエピタキシャル層13の成長レートをより高くすることができる。これにより、効率よくエピタキシャル層13を形成することができる。また、エピタキシャル層13を高い成長レートで成長させることにより、半導体基板11からの不純物の拡散を抑制し、品質を高めることができる。
【0122】
また、半導体基板11の角度θを30°以上90°以下とすることにより、HVPE法により形成されるエピタキシャル層13の表面モフォロジーを良好にすることができる。これにより、エピタキシャル層13の半導体素子の形成に用いることのできる面積が増え、半導体素子の製造歩留まりを向上させることができる。
【0123】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0124】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。