特許第6744538号(P6744538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6744538
(24)【登録日】2020年8月4日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】固体組成物及び固体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/00 20060101AFI20200806BHJP
   C08K 5/5333 20060101ALI20200806BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20200806BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20200806BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   C08L51/00
   C08K5/5333
   C22B59/00
   C22B3/24 101
   B01J20/26 B
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-228223(P2014-228223)
(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-89117(P2016-89117A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年10月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 平成26年9月1日 ウェブサイトのアドレス http://www.scirp.org/journal/ijoc
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】保科 宏行
(72)【発明者】
【氏名】植木 悠二
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 典明
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−148738(JP,A)
【文献】 特開2016−088846(JP,A)
【文献】 特開2010−179205(JP,A)
【文献】 特開2003−215292(JP,A)
【文献】 特開2006−026588(JP,A)
【文献】 特開2005−331510(JP,A)
【文献】 特開平01−096014(JP,A)
【文献】 特開2014−047223(JP,A)
【文献】 特開平06−248367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/00C08L 51/00−51/10
C08K 3/00−13/08
B01J 20/00−20/28
C22B 3/00−3/46、59/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に下記式(A)で表される構造を有し、かつ、グラフト率が120質量%である重合体を基剤とする固体組成物であって、
2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルを含有し、
前記固体組成物における前記重合体の含有量が50質量%以上95質量%以下であり、
前記固体組成物における2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルの含有量が0.01mmol/g以上100mmol/g以下であることを特徴とする、固体組成物。
【化1】
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数12〜18の炭化水素基を、nは2〜100,000の整数を表す。)
【請求項2】
前記重合体が繊維状の形態である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項3】
金属元素を吸着するための吸着材である、請求項1又は2に記載の固体組成物。
【請求項4】
前記金属元素が希土類元素である、請求項3に記載の固体組成物。
【請求項5】
側鎖に下記式(A)で表される構造を有し、かつ、グラフト率が120質量%である重合体を準備する準備工程、並びに2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルを前記重合体に接触させる接触工程を含むことを特徴とする、固体組成物の製造方法であって、
前記固体組成物における前記重合体の含有量が50質量%以上95質量%以下であり、
前記固体組成物における2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルの含有量が0.01mmol/g以上100mmol/g以下である、固体組成物の製造方法

【化2】
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数12〜18の炭化水素基を、nは2〜100,000の整数を表す。)
【請求項6】
前記準備工程が、前記重合体の主鎖となる高分子材料に対して下記式(a)で表される(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合することを含む、請求項5に記載の固体組成物の製造方法。
【化3】
(式(a)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数12〜18の炭化水素基を表す。)
【請求項7】
前記高分子材料が、ポリオレフィン系高分子、スチレン系高分子、アクリル系高分子、フッ素系高分子、ポリアミド系高分子、ポリイミド系高分子、ポリアセタール系高分子、ポリエステル系高分子、ポリカーボネート系高分子、ポリウレタン系高分子、多糖類、及びタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種の高分子である、請求項6に記載の固体組成物の製造方法。
【請求項8】
側鎖に下記式(A)で表される構造を有し、かつ、グラフト率が120質量%である重合体を基剤とし、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルを含有する吸着材と、希土類元素を含む溶液とを接触させる希土類元素の吸着方法であって、
前記吸着材における前記重合体の含有量が50質量%以上95質量%以下であり、
前記吸着材における2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルの含有量が0.01mmol/g以上100mmol/g以下であり、
前記希土類元素が溶存した溶液のpHが0〜3であることを特徴とする、希土類元素の吸着方法。
【化4】
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数12〜18の炭化水素基を、nは2〜100,000の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体組成物及び固体組成物の製造方法に関し、より詳しくは希土類元素の吸着材として利用することができる固体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド等の希土類元素(「レアアース」とも呼ばれる。)は、微量添加することによって金属材料や半導体材料の機能や物性を飛躍的に高めることができるため、構造材、電子材料、磁性材料、機能性材料等に利用され、様々な工業製品において非常に重要な役割を果たしている。例えば、希土類元素の添加によって耐熱性に優れた強力な磁石を製造できるため、モーターの小型軽量化や高性能化に貢献しているほか、蛍光体、研磨材、電子部品、自動車の排ガス触媒等にも利用されている。
【0003】
このような希土類元素は、特定の鉱石を採掘、製錬することによって生産されているが、世界的な需要の増加や輸出国の資源保護対応から、需供が切迫した時期もあり、将来の需要を見越して安定的に希土類元素を確保するためには、希土類元素の収集方法の多様化や分離、精製方法の効率化が必要となる。
例えば、採算性を高めた分離、精製方法として、特許文献1及び2には、粘土試料(アージライト)等を酸で浸出し、浸出液からアルミニウムイオンや鉄イオンを除去して、希土類元素を選択的に取り出す方法等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2014−508863号公報
【特許文献2】特表2014−513212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スカンジウム(Sc)等の特定の希土類元素については、温泉水等の環境水中に極微量溶存していることが確認されており、このような溶存した希土類元素を選択的に回収することができれば、希土類元素の生産方法の1つとして確立することも可能となる。特に再利用が可能な吸着材のような固体材料を開発することができれば、生産コストを低減する重要な技術となると考えられる。
本発明は、機能性の高い新規な固体材料、特に希土類元素の吸着材として利用することができる固体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、側鎖に特定の構造を有する重合体を基剤とし、さらにリン酸基等の官能基を有した特定の化合物を含有した固体組成物が、希土類元素の吸着材等の機能性の高い固体材料となることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> 側鎖に下記式(A)で表される構造を有する重合体を基剤とする固体組成物であ
って、
下記式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物、下記式(C−1)〜(C−5)で表される硫黄含有化合物、及び下記式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする
、固体組成物。
【化1】
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、nは2〜100,000の整数を表す。)
【化2】
(式(B−1)〜(B−3)、(C−1)〜(C−5)、及び(D−1)〜(D−14)中、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の炭化水素基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を、aは0〜2の整数を、bは0〜3の整数を、cは0〜4の整数を、dは0〜5の整数を表す。但し、化合物内に炭化水素基であるRが2以上ある場合、R同士が互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
<2> 前記重合体が繊維状の形態である、<1>に記載の固体組成物。
<3> 金属元素を吸着するための吸着材である、<1>又は<2>に記載の固体組成物

<4> 前記金属元素が希土類元素である、<3>に記載の固体組成物。
<5> 側鎖に下記式(A)で表される構造を有する重合体を準備する準備工程、並びに
下記式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物、下記式(C−1)〜(C−5)で表される硫黄含有化合物、及び下記式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を前記重合体に接触させる接触工程を含むことを特徴とする、固体組成物の製造方法。
【化3】

(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、nは2〜100,000の整数を表す。)
【化4】
(式(B−1)〜(B−3)、(C−1)〜(C−5)、及び(D−1)〜(D−14)中、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の炭化水素基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を、aは0〜2の整数を、bは0〜3の整数を、cは0〜4の整数を、dは0〜5の整数を表す。但し、化合物内に炭化水素基であるRが2以上ある場合、R同士が互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
<6> 前記準備工程が、前記重合体の主鎖となる高分子材料に対して下記式(a)で表
される(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合することを含む、<5>に記載の固体組成物の製造方法。
【化5】
(式(a)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を表す。)
<7> 前記高分子材料が、ポリオレフィン系高分子、スチレン系高分子、アクリル系高
分子、フッ素系高分子、ポリアミド系高分子、ポリイミド系高分子、ポリアセタール系高分子、ポリエステル系高分子、ポリカーボネート系高分子、ポリウレタン系高分子、多糖類、及びタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種の高分子である、<6>に記載の固体組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機能性の高い新規な固体材料、特に希土類元素の吸着材として利用することができる固体材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ポリエチレン製不織布に対してメタクリル酸ドデシルを放射線グラフト重合したときの電子線の線量とグラフト率の関係を示したグラフである。
図2】(a)メタクリル酸ドデシルを放射線グラフト重合した後の重合体のFT−IR測定結果と(b)2−エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートに浸漬した後の固体組成物のFT−IR測定結果である。
図3】実施例1の固体組成物、並びに比較例1及び2の吸着材のスカンジウム(Sc)吸着率と鉄(Fe)吸着率のpH依存性を表したグラフである。
図4】実施例1の固体組成物を充填した円筒状カラムにスカンジウム(Sc)と鉄(Fe)の混合溶液を通液させた時の排出液中のスカンジウム(Sc)濃度及び鉄(Fe)濃度を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0010】
<固体組成物>
本発明の一態様である固体組成物(以下、「本発明の固体組成物」と略す場合がある。)は、側鎖に下記式(A)で表される構造を有する重合体(以下、「本発明に係る重合体」と略す場合がある。)を基剤とする固体組成物であり、下記式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物、下記式(C−1)〜(C−5)で表される硫黄含有化合物、及び下記式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(以下、「本発明に係る化合物」と略す場合がある。)を含有
することを特徴とする。
【化6】
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、nは2〜100,000の整数を表す。)
【化7】
(式(B−1)〜(B−3)、(C−1)〜(C−5)、及び(D−1)〜(D−14)中、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の炭化水素基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を、aは0〜2の整数を、bは0〜3の整数を、cは0〜4の整数を、dは0〜5の整数を表す。但し、化合物内に炭化水素基であるRが2以上ある場合、R同士が互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物、式(C−1)〜(C−5)で表
される硫黄含有化合物、及び式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物は、それぞれRとして炭化水素基を有しているが、これが固体組成物内において基剤となる重合体のRの炭化水素基と疎水性相互作用によって引き合うため、本発明の固体組成物は、リン酸基等の有用な官能基を固定した機能性の高い固体材料となるのである((B−1)で表されるリン含有化合物を含有する固体組成物の場合、下記式で示されるように炭化水素基同士が引き合って、リン含有化合物が固定化されるものと考えられる。)。
リン酸基等の活性な官能基を重合体に導入する従来法は、操作が煩雑であったり、官能基を定量的に導入することができなかったりする等の問題があった。本発明者らは、(メタ)アクリル酸エステル等を利用して基剤となる重合体の側鎖に炭化水素鎖を形成した上で、導入したい官能基と炭化水素基の両方を有する化合物を接触させることにより、炭化水素鎖同士が疎水性相互作用によって結びつき、定量的に官能基を固定化した固体材料となることを見出したのである。
【化8】
また、本発明者らは、本発明の固体組成物が金属元素、特に希土類元素を選択的に吸着できることを確認しており、希土類元素の吸着材として活用できることも明らかとしているのである。
なお、「基剤」とは、固体組成物を主な構成成分であることを意味するものとし、「重合体を基剤とする固体組成物」は、固体組成物の50質量%以上が「重合体」であることを意味するものとする。
また、式(A)中の波線は、その先が重合体の主鎖に結合しているか、或いは側鎖の末端となっていることを意味するものとする。
さらに、(B−1)〜(B−3)、(C−1)〜(C−5)、及び(D−1)〜(D−14)中の実線と破線の二重線は、単結合又は二重結合を表すものとする。
【0011】
本発明に係る重合体は、側鎖に下記式(A)で表される構造を有する重合体であるが、式(A)で表される構造の具体的種類は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【化9】
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、nは2〜100,000の整数を表す。)
はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表しているが、Rが水素原子である構造はアクリル酸エステルを、Rがメチル基である構造はメタクリル酸エステルを構成モノマーとすることによって形成することができる。
はそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を表しているが、炭素数は、好ましくは4以上、より好ましくは6以上であり、好ましくは18以下、より好ましくは14以下である。なお、炭化水素基は、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素−炭素不飽和結合、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよい。Rとしては、ヘキシル基
、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
nは、2〜100,000の整数を表しているが、好ましくは10以上、より好ましく
は100以上であり、好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下で
ある。
【0012】
本発明に係る重合体の主鎖の構造は、特に限定されず、公知の合成高分子構造及び天然高分子構造を適宜選択して使用することができる。例えば、ポリエチレン構造、ポリプロピレン構造等のポリオレフィン系高分子構造、ポリスチレン構造等のスチレン系高分子構造、ポリメタクリル酸メチル構造等のアクリル系高分子構造、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)構造等のフッ素系高分子構造、ナイロン構造等のポリアミド系高分子構造、ポリイミド系高分子構造、ポリアセタール系高分子構造、ポリエステル系高分子構造、ポリカーボネート系高分子構造、ポリウレタン系高分子構造、セルロース構造等の多糖類構造、タンパク質構造が挙げられる。なお、主鎖の構造は、1種類のモノマーから構成される構造に限られず、2種類以上の単量体(モノマー)やブロックによって形成される共重合体であってもよい。
【0013】
本発明に係る重合体の分子量(重量平均分子量)は、特に限定されないが、通常100以上、好ましくは1,000以上、より好ましくは10,000以上であり、通常10,000,000以下である。
【0014】
本発明に係る重合体の形態は、特に限定されず、繊維状、粒子状等の様々な形態を利用することができるが、表面積が高く、利用し易いことから繊維状であることが好ましい。また、本発明に係る重合体は、多孔質材料として細孔を有するものであってもよく、また繊維状である場合には中空の繊維であってもよい。
【0015】
本発明に係る重合体の調製方法も、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができるが、重合体の主鎖となる高分子材料に対して下記式(a)で表される(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合する方法が挙げられる。
【化10】
(式(a)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を表す。)
なお、グラフト重合の種類や条件等は、「固体組成物の製造方法」において詳細について説明する。
【0016】
本発明の固体組成物における本発明に係る重合体の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0017】
本発明に係る化合物は、下記式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物、下記式(C−1)〜(C−5)で表される硫黄含有化合物、及び下記式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であるが、化合物の具体的種類は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【化11】
(式(B−1)〜(B−3)、(C−1)〜(C−5)、及び(D−1)〜(D−14)中、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の炭化水素基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を、aは0〜2の整数を、bは0〜3の整数を、cは0〜4の整数を、dは0〜5の整数を表す。但し、化合物内に炭化水素基であるRが2以上ある場合、R同士が互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
はそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を表しているが、炭素数は、好ましくは4以上であり、好ましくは18以下、より好ましくは14以下である。なお、炭化水素基は、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素−炭素不飽和結合、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよい。Rとしては、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表しているが、炭素数は、好ましくは12以下、より好ましくは6以下である。なお、炭化水素基は、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素−炭素不飽和結合、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよい。Rとしては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基等が挙げられる。
はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表しているが、炭素数は、好ましくは12以下、より好ましくは6以下である。なお、炭化水素基は、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素−炭素不飽和結合、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよい。Rとしては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基等が挙げられる。
はそれぞれ独立して炭素数1〜30の炭化水素基を表しているが、炭素数は、好ましくは12以下、より好ましくは6以下である。なお、炭化水素基は、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素−炭素不飽和結合、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよい。また、化合物内に炭化水素基であるRが2以上ある場合、R同士が互いに結合して環状構造を形成していてもよいが、R同士が互いに結合して環状構造を形成した具体的な化合物として、「2−プロピルベンゾイミダゾール」が挙げられる。「2−プロピルベンゾイミダゾール」は、(D−3)で表される窒素含有化合物に該当するが、この化合物は、イミダゾール構造の4位と5位に炭化水素基を有し、これらが互いに結合してベンゼン環構造を形成していると表現することもできるからである。
【化12】
なお、Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基等が挙げられる。
【0018】
式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化13】
式(C−1)〜(C−5)で表される硫黄含有化合物としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化14】
式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化15】
なお、これらの化合物は、市販されており、適宜入手して本発明の固体組成物に含有させることができる。
【0019】
本発明の固体組成物における本発明に係る化合物の含有量(2種類以上含有する場合には総含有量)は、通常0.01mmol/g以上、好ましくは0.5mmol/g以上、より好ましくは1mmol/g以上であり、通常100mmol/g以下である。
【0020】
本発明の固体組成物は、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤が含まれてもよく、その種類や含有量も特に限定されない。例えば、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの添加剤の含有量は、通常0.01質量%以上、2質量%以下である。
【0021】
本発明の固体組成物の用途は、特に限定されず、本発明に係る化合物に含まれる官能基の種類に応じて適宜選択することができる。本発明に係る化合物は、酸点、塩基点、金属原子に配位する電子対等を有していることから、金属元素を吸着するための吸着材、イオン交換樹脂、固体酸、固体塩基等として利用することが挙げられる。この中でも、金属元素を吸着するための吸着材として利用することが好ましい。
なお、吸着材として利用する場合の吸着対象の金属元素は、特に限定されず、幅広い金属元素を対象とすることができるが、経済的価値の高い希少金属元素(レアメタル)、希土類元素(レアアース)を吸着対象とすることが好ましい。特に金属元素が溶存した溶液のpHを調節することにより、希土類元素を選択的に吸着することができることから、希土類元素を吸着対象とすることが好ましい。因みに希土類元素(レアアース)としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)のほか、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のランタノイドが挙げられる。
【0022】
<固体組成物の製造方法>
本発明の別態様である固体組成物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略す場合がある。)は、重合体を基剤とする固体組成物の製造方法であり、側鎖に下記式(A)で表される構造を有する重合体を準備する準備工程(以下、「本発明に係る準備工程」と略す場合がある。)、並びに下記式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物、下記式(C−1)〜(C−5)で表される硫黄含有化合物、及び下記式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を前記重合体に接触させる接触工程(以下、「本発明に係る接触工程」と略す場合がある。)を含むことを特徴とする。
【化16】
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、nは2〜100,000の整数を表す。)
【化17】
(式(B−1)〜(B−3)、(C−1)〜(C−5)、及び(D−1)〜(D−14)中、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の炭化水素基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を、aは0〜2の整数を、bは0〜3の整数を、cは0〜4の整数を、dは0〜5の整数を表す。但し、化合物内に炭化水素基であるRが2以上ある場合、R同士が互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
前述のように、本発明に係る重合体のRの炭化水素基と本発明に係る化合物のRの炭化水素基とが疎水性相互作用によって引き合うために、式(A)で表される構造を有す
る重合体を準備し、この重合体を式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物、式(C−1)〜(C−5)で表される硫黄含有化合物、及び式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物に接触させることにより、リン酸基等の有用な官能基を固定した機能性の高い固体材料を製造することができるのである((B−1)で表されるリン含有化合物を含有する固体組成物の場合、下記式で示されるように炭化水素基同士が引き合って、リン含有化合物が固定化されるものと考えられる。)。
【化18】
【0023】
本発明に係る準備工程は、側鎖に下記式(A)で表される構造を有する重合体を準備する工程であるが、側鎖に下記式(A)で表される構造を有する重合体は、前述した本発明に係る重合体と同義であり、以下も同様に「本発明に係る重合体」と略すものとする。
【化19】
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、nは2〜100,000の整数を表す。)
【0024】
本発明に係る重合体の準備方法は、特に限定されず、他者から入手しても、或いは自ら調製してもよい。
本発明に係る重合体を調製する場合の調製方法も、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができるが、重合体の主鎖となる高分子材料に対して下記式(a)で表される(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合する方法が挙げられる。
【化20】
(式(a)中、Rはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を表す。)
グラフト重合の種類や条件等は、特に限定されないが、主鎖となる高分子材料の種類や形態が制限されず、また大量生産に適していることから、放射線グラフト重合であることが好ましい。また、放射線グラフト重合として、主鎖となる高分子材料と(メタ)アクリル酸エステルに対して同時に放射線を照射してグラフト重合させる同時照射法、及び主鎖となる高分子材料に対して先に放射線を照射し、これに(メタ)アクリル酸エステルを接触させてグラフト重合させる前照射法が挙げられるが、ホモポリマーの生成量が少なくなることから、前照射法が好ましい。
また、前照射法については、不活性ガス中で主鎖となる高分子材料に対して放射線を照射するポリマーラジカル法、及び酸素存在下で主鎖となる高分子材料に対して放射線を照射するパーオキサイド法の何れも使用可能である。
放射線のエネルギー量は、通常1kGy以上、好ましくは5kGy以上、より好ましくは10kGy以上であり、通常1,000kGy以下、好ましくは500kGy以下である。
放射線を照射する際の温度条件は、通常室温、好ましくは冷却下である。
放射線の照射時間は、通常は1秒以上、24時間以下である。
上記範囲内であると、重合を十分に進めることができるとともに、高分子基剤の劣化を抑制することができる。
【0025】
前照射法で放射線グラフト重合する場合の主鎖となる高分子材料と(メタ)アクリル酸エステルと接触方法は特に限定されないが、放射線を照射した後の主鎖となる高分子材料を(メタ)アクリル酸エステルが含まれる溶液に浸漬する方法が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルが含まれる溶液に使用する溶媒としては、水、ジクロロエタン、クロロホルム、N−メチルホルムアルデヒド、N−メチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、γ−プチロラクトン、n−ヘキサン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、tert−ブタノール、トルエン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホオキシド等が挙げられる。
溶液中の(メタ)アクリル酸エステルの濃度は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定することができるが、通常5質量%以上であり、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
浸漬温度は、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、好ましくは80℃以下である。
浸漬時間は、通常0.1時間以上であり、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。
【0026】
本発明に係る重合体のグラフト率は、通常1質量%以上、好ましくは10質量%以上であり、通常1000質量%以下、好ましくは300質量%以下である。上記範囲内であると、グラフト重合前の主鎖となる高分子材料の特性を保持した状態で、吸着性能等の機能性基を十分量導入できる利点がある。
なお、グラフト率(Xdg[質量%])は、下記計算式を用いて算出することができる。
【数1】
:グラフト重合前の主鎖となる高分子材料の乾燥質量[g]
:グラフト重合後の重合体の乾燥質量[g]
【0027】
重合体の主鎖となる高分子材料は、特に限定されず、公知の合成高分子及び天然高分子を適宜選択して使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系高分子、ポリスチレン等のスチレン系高分子、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系高分子、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系高分子、ナイロン等のポリアミド系高分子、ポリイミド系高分子、ポリアセタール系高分子、ポリエステル系高分子、ポリカーボネート系高分子、ポリウレタン系高分子、セルロース等の多糖類、シルク等のタンパク質が挙げられる。なお、高分子材料は、1種類のモノマーから構成される高分子に限られず、2種類以上の単量体(モノマー)やブロックによって形成される共重合体であってもよい。
これらの中でも、ポリオレフィン系高分子、多糖類が特に好ましい。
【0028】
本発明に係る接触工程は、下記式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物、下記式(C−1)〜(C−5)で表される硫黄含有化合物、及び下記式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を
前記重合体に接触させる工程であるが、下記式(B−1)〜(B−3)で表されるリン含有化合物、下記式(C−1)〜(C−5)で表される硫黄含有化合物、及び下記式(D−1)〜(D−14)で表される窒素含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物は、前述した本発明に係る化合物と同義であり、以下も同様に「本発明に係る化合物」と略すものとする。
【化21】
(式(B−1)〜(B−3)、(C−1)〜(C−5)、及び(D−1)〜(D−14)中、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜30の炭化水素基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を、aは0〜2の整数を、bは0〜3の整数を、cは0〜4の整数を、dは0〜5の整数を表す。但し、化合物内に炭化水素基であるRが2以上ある場合、R同士が互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【0029】
本発明に係る接触工程における接触方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができるが、本発明に係る化合物又は本発明に係る化合物を含有する溶液に前記重合体を浸漬させる方法が挙げられる。
浸漬させる方法において溶媒を使用する場合の溶媒の種類は、水、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のプロトン性極性溶媒、アセトン、ジメチルアセトアミド(
DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。
溶液における本発明に係る化合物の濃度は、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、100質量%以下である。
溶液の温度は、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下である。
接触時間は、通常0.1時間以上であり、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。
【0030】
本発明の製造方法は、前述の本発明に係る準備工程及び接触工程を含むものであれば、その他については特に限定されないが、接触工程後に固体組成物を洗浄する洗浄工程、洗浄工程後に固体組成物を乾燥させる乾燥工程等を含むことが挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法によって製造される固体組成物の用途は、本発明に固体組成物と同様に、金属元素を吸着するための吸着材、イオン交換樹脂、固体酸、固体塩基等として利用することが挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0033】
<放射線グラフト重合における電子線の線量とグラフト率>
重合体の主鎖となるポリエチレン製不織布に対して電子線照射(線量:20〜500k
Gy)を行った後、20質量%メタクリル酸ドデシル水溶液(Tween20(界面活性
剤):2%、水:78%)に60℃で6時間接触させて、グラフト重合を行った。電子線の線量とグラフト率の関係を表したグラフを図1に示す。
【0034】
<固体組成物の製造>
(実施例1)
重合体の主鎖となるポリエチレン製不織布に対して電子線照射(線量:500kGy)を行った後、20質量%メタクリル酸ドデシル水溶液(Tween20(界面活性剤):2%、水:78%)に60℃で6時間接触させて、グラフト重合を行った。
【0035】
得られた重合体を2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシル(大八化学工業社製、以下「EHEP」とする)に浸漬させ、常温で12時間振盪(振盪の条件:200回転/分)した。振盪後、表面に付着したEHEPを洗浄し、固体組成物を得た。
得られた固体組成物について、FT−IRを用いて構造解析した結果、EHEPのP=O結合に起因する1240cm−1のピークが観測された(図2参照)ことから、EHEPが固定化されているものと考えられる。なお、固体組成物におけるリン酸基導入量は、1.0mmol/gであった。
【0036】
<スカンジウム(Sc)の吸着特性評価>
実施例1の固体組成物のスカンジウム(Sc)の吸着特性を評価した。なお、吸着特性評価は、バッチ方式とカラム方式の両方における吸着率を測定し、評価した。
バッチ方式では、スカンジウム(Sc)と鉄(Fe)がそれぞれ1mg/L濃度で溶存する混合溶液をpH0〜3にそれぞれ調整した後、実施例1の固体組成物(グラフト率:
120%,EHEPの濃度:1.0mmol/g)を浸漬させて、12時間攪拌し吸着試験を行った。吸着試験前後の溶液中のスカンジウム(Sc)と鉄(Fe)の濃度をICP発光分光(ICP−OES)を用いて測定し、吸着量、吸着率、及びスカンジウム(Sc)吸着選択性を算出し、評価を行った。結果を表1及び図3に示す。
【数2】
【0037】
また、既知のリン酸型吸着材のスカンジウム(Sc)の吸着性能と比較するため、比較例1として2−ヒドロキシルメタクリル酸リン酸(以下、「HMPA」と略す場合がある。)をグラフト重合により導入した吸着材、及び比較例2としてメタクリル酸グリシジルをグラフト重合により導入した後、エポキシ基の転化反応によりリン酸を導入した吸着材(以下、「GMA−PA」と略す場合がある。)を同様に評価した。結果を表1及び図3に示す。
【表1】
【0038】
表1及び図3より、3種類の吸着材ともに、pHが低い条件においてスカンジウム(Sc)吸着率は高くなり、鉄(Fe)吸着率は低くなる傾向を示した。つまり、強酸性条件においてスカンジウム(Sc)に対して高い吸着選択性を示した。実施例1の固体組成物のスカンジウム(Sc)吸着選択性は、すべてのpH条件において他の吸着材よりも高い値となり、特にpH0〜1の強酸性条件下においては、鉄(Fe)吸着率が6%程度であったのに対してスカンジウム(Sc)吸着率は98%以上となり、極めて高いスカンジウム(Sc)吸着選択性を示した。また、スカンジウム(Sc)吸着容量についても、すべてのpH条件において、他の吸着材と比較して約2〜8倍の高い値となった。
【0039】
カラム方式では、実施例1の固体組成物を充填した内径7mmの円筒状カラムに、スカンジウム(Sc)と鉄(Fe)がそれぞれ1mg/L濃度で溶存する混合溶液(pH1)を空間速度250h−1で通液させ、カラム出口の溶液中のスカンジウム(Sc)濃度及び鉄(Fe)濃度を定量し、評価した。結果を図4に示す。
実施例1の固体組成物は、体積の564倍の通液量に対して溶液中のスカンジウム(Sc)を95%以上吸着することができた。一方、鉄(Fe)の吸着については、通液開始直後からカラム出口の鉄(Fe)濃度が急激に上昇し、通液倍率360において鉄(Fe)濃度が初期濃度である1mg/Lに到達した。つまり、通液倍率360以降については、鉄(Fe)を全く吸着せず、スカンジウム(Sc)のみを選択的に吸着することができた。吸着材体積の5000倍量の通液を行った際のスカンジウム(Sc)と鉄(Fe)の
吸着容量は、それぞれ5.22mg−Sc/g−吸着材、0.12mg−Fe/g−吸着材であったことから、スカンジウム(Sc)吸着容量は鉄(Fe)吸着容量と比較して約44倍大きいことがわかった。以上の結果から、実施例1の固体組成物は、スカンジウム(Sc)と同じ3価で溶存し吸着挙動類似する鉄(Fe)が共存する条件下においても、高容量かつ選択的にスカンジウム(Sc)を吸着できる事が明らかとなった。
【0040】
<ジスプロシウム(Dy)及びネオジム(Nd)の吸着特性評価>
ジスプロシウム(Dy)とネオジム(Nd)がそれぞれ1ppm濃度で溶存する混合溶液(pH2.6)に、実施例1の固体組成物と比較例1としてHMPAをそれぞれ浸漬させて吸着特性を評価した。結果を表2に示す。
【表2】
【0041】
実施例1の固体組成物のジスプロシウム(Dy)とネオジム(Nd)の吸着性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の固体組成物は、金属元素を吸着するための吸着材、イオン交換樹脂、固体酸、固体塩基等として、特に経済的価値の高い希土類元素(レアアース)金属元素を吸着するための吸着材として利用することができる。スカンジウム(Sc)等の特定の希土類元素については、温泉水等の環境水中に極微量溶存していることが確認されており、このような溶存した希土類元素を選択的に回収するために好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4