特許第6744745号(P6744745)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6744745熱可塑性樹脂組成物および熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6744745
(24)【登録日】2020年8月4日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物および熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/00 20060101AFI20200806BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200806BHJP
   B29C 48/69 20190101ALI20200806BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20200806BHJP
【FI】
   C08J3/00
   C08J5/18CEY
   B29C48/69
   B29C48/92
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-72201(P2016-72201)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179259(P2017-179259A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 耕太
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−017948(JP,A)
【文献】 特開2016−203384(JP,A)
【文献】 特開2015−123610(JP,A)
【文献】 特開2010−284832(JP,A)
【文献】 特開2009−083306(JP,A)
【文献】 特表2008−508118(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0021948(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−5/02、5/12−5/22、99/00
B29B 7/00−11/14、13/00−15/06
B29C 31/00−31/10、37/00−37/04
B29C 48/00−48/96、71/00−71/02
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が押出機を通過し、ポリマーフィルターにより濾過される工程を有し、
前記濾過は、前記押出機からの溶融押出の開始時に前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1[MPa]で、下記式(1)で示される前記熱可塑性樹脂組成物の量W[kg]を前記ポリマーフィルターに流入させた後、前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧をP2[MPa]として、前記熱可塑性樹脂組成物を前記ポリマーフィルターに流入させる工程を有し、
前記差圧P1およびP2は、下記式(2)で示される関係を満たす、
熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
W≧A×B/10[kg] (1)
A:フィルターエレメントの直径(インチ)、B:フィルターエレメントの枚数
P1≧8MPa、且つP2<8MPa (2)
【請求項2】
前記差圧P1[MPa]におけるポリマーフィルター内の樹脂温度T1、および前記差圧P2[MPa]におけるポリマーフィルター内の樹脂温度T2が、T1≦T2で示される関係を満たす、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
ゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が押出機を通過し、ポリマーフィルターにより濾過される工程、および前記熱可塑性樹脂組成物が前記濾過の後に成形される工程を有し、
前記濾過は、前記押出機からの溶融押出の開始時に前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1[MPa]で、下記式(1)で示される前記熱可塑性樹脂組成物量のW[kg]を前記ポリマーフィルターに流入させた後、前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧をP2[MPa]として、前記熱可塑性樹脂組成物を前記ポリマーフィルターに流入させる工程を有し、
前記差圧P1およびP2は、下記式(2)で示される関係を満たす、
熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法。
W≧A×B/10[kg] (1)
A:フィルターエレメントの直径(インチ)、B:フィルターエレメントの枚数
P1≧8MPa、且つP2<8MPa (2)
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂である、請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物および熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のように偏光を取り扱う装置に使用されるプラスチックフィルムには、光学的な透明性、及び光学的な均質性が求められる。このため、偏光子を保護するための偏光子保護フィルムや、液晶表示装置用のフィルム基板等に代表される光学フィルムには、複屈折と厚みの積で表される位相差が小さいことが要求される他、特にフィルム表面の凹凸による、いわゆるレンズ効果による画像のゆがみ現象が生じにくいことが要求される。従って、フィルム中に異物による顕著な凹凸が存在してフィルムに表面品質が低下すると、光学フィルムとして使用した場合、色が部分的に薄くなるなどの色抜け現象や、画像がゆがむなどの問題が生じることとなる。
【0003】
アクリル樹脂フィルムは、優れた光学的な透明性を有しており、近年、光学フィルム分野において用いられているが、フィルム強度・靭性が低く、フィルム成形性、搬送性が低いという欠点を有する。これらの欠点に対して、アクリル樹脂にゴム状重合体を添加することにより、アクリル樹脂特有の優れた透明性を保持したまま、強度、強靭性を向上したアクリル樹脂組成物からなるフィルムとすることが可能である。
【0004】
特許文献1には、応力白化が少なく、表面硬度も高く、透明性に優れ、耐候性に優れ、引張破断伸びも大きく、フィルム切断時にクラックが発生しにくく、更に成形性、表面性にも優れた、特定のアクリル酸エステル系ゴム状重合体を用いた多層構造アクリル系重合体とメタクリル系重合体とからなる樹脂組成物から得られるフィルムが開示されている。また、特許文献2には、透明性、耐候性、硬度および耐衝撃性に優れ、また、耐折曲げ割れ性および成形性においても優れた、特定の層構造および粒子径を有するメタクリル系樹脂組成物から得られるフィルムが開示されている。
【0005】
このようなゴム状重合体含有アクリル樹脂組成物フィルムの製造方法としては、各種光学フィルムに一般的に用いられる溶剤キャスト法の他、生産性、作業環境性等に優れるという観点で、溶融押出法が好ましく用いられる。特に、ゴム状重合体含有アクリル樹脂組成物フィルムを光学フィルム用途とする場合、フィルム製造中にポリマーフィルターによるゴム状重合体含有アクリル樹脂組成物を濾過して当該組成物中の異物を除去した後にフィルム状に成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−137299号公報
【特許文献2】国際公開第2005/095478号
【特許文献3】特開2009−083306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリマーフィルターによる濾過工程を有する熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの製造においては、ポリマーフィルター使用開始からしばらくの間、そのフィルター中に残存した異物がその製造により得られるフィルム中に発生する。この異物としては、フィルターエレメント製作の際やフィルターエレメントを組み付けてポリマーフィルターとする際に混入した異物等の未使用のポリマーフィルター中に存在する異物の他、品種切り替え等による長期間の生産休止や生産停止が発生した場合に一般的には洗浄した後、再度生産に使用されるところ、その際の洗浄不良によってポリマーフィルター内に残存した異物が挙げられる。例えば、ゴム状重合体含有熱可塑性樹脂組成物のようなゴム状重合体成分と熱可塑性樹脂成分との混合系から成る樹脂の製造に使用したポリマーフィルターを洗浄して、再度生産に使用する場合、洗浄不良に起因してポリマーフィルター内に残存したゴム状重合体成分が生産開始からしばらくの間、異物としてフィルム中に発生する。未使用のポリマーフィルターおよび再使用のポリマーフィルターの何れの場合も、連続して熱可塑性樹脂組成物を製造すると、ポリマーフィルター中に残存する異物に起因する異物は徐々に減少するが、例えば、光学フィルムとして用い得る程度の精度まで異物を減少するには特に長時間必要であり、その長時間の間、光学フィルムとして使用できないフィルムが生産され、その分生産収率が低くなる。
【0008】
ここで、特許文献3には、樹脂成形機の加熱シリンダーやスクリュー等の洗浄剤として、メタクリル酸メチルを主成分とする特定の重合体等を特定の組成比で配合した洗浄剤が開示されている。しかしながら、ポリマーフィルターを使用した生産に関しては考慮されていない。
【0009】
本発明は、未使用または再使用のポリマーフィルター使用開始後のゴム状重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物の生産収率を向上することを可能とする、ゴム状重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題に対して、鋭意検討を実施したところ、ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧条件を調整することで、ポリマーフィルター内の異物を効率よく早期に排出させることができることを見出した。
【0011】
本発明の第一は、ゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂組成物が押出機を通過し、ポリマーフィルターにより濾過される工程を有し、前記濾過は、前記押出機からの溶融押出の開始時に前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1[MPa]で、下記式(1)で示される前記熱可塑性樹脂組成物の量W[kg]を前記ポリマーフィルターに流入させた後、前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧をP2[MPa]として、前記熱可塑性樹脂組成物を前記ポリマーフィルターに流入させる工程を有し、前記差圧P1およびP2は、下記式(2)で示される関係を満たす、
熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
W≧A×B/10[kg] (1)
A:フィルターエレメントの直径(インチ)、B:フィルターエレメントの枚数
P1≧8MPa、且つP1>P2 (2)
【0012】
前記差圧P1[MPa]におけるポリマーフィルター内の樹脂温度T1、および前記差圧P2[MPa]におけるポリマーフィルター内の樹脂温度T2が、T1≦T2で示される関係を満たすことが好ましい。
【0013】
前記熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂であることが好ましい。
【0014】
本発明の第二は、ゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法であって、前記熱可塑性樹脂組成物が押出機を通過し、ポリマーフィルターにより濾過される工程、および前記熱可塑性樹脂組成物が前記濾過の後に成形される工程を有し、前記濾過は、前記押出機からの溶融押出の開始時に前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1[MPa]で、下記式(1)で示される前記熱可塑性樹脂組成物量のW[kg]を前記ポリマーフィルターに流入させた後、前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧をP2[MPa]として、前記熱可塑性樹脂組成物を前記ポリマーフィルターに流入させる工程を有し、前記差圧P1およびP2は、下記式(2)で示される関係を満たす、熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法に関する。
W≧A×B/10[kg] (1)
A:フィルターエレメントの直径(インチ)、B:フィルターエレメントの枚数
P1≧8MPa、且つP1>P2 (2)
【発明の効果】
【0015】
未使用または再使用のポリマーフィルター使用開始後の生産収率を向上することを可能とするゴム状重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】熱可塑性樹脂組成物の製造方法に係る装置の一例を模式的に示す図である。
図2】熱可塑性樹脂組成物の製造方法に係るポリマーフィルター内部構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されない。本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、ゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂組成物が押出機を通過し、ポリマーフィルターにより濾過される工程を有し、前記濾過は、前記押出機からの溶融押出の開始時に前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1[MPa]で、下記式(1)で示される前記熱可塑性樹脂組成物の量W[kg]を前記ポリマーフィルターに流入させた後、前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧をP2[MPa]として、前記熱可塑性樹脂組成物を前記ポリマーフィルターに流入させる工程を有し、前記差圧P1およびP2は、下記式(2)で示される関係を満たすものである。
W≧A×B/10[kg] (1)
A:フィルターエレメントの直径(インチ)、B:フィルターエレメントの枚数
P1≧8MPa、且つP1>P2 (2)
【0018】
図1は、本発明のゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法に係る装置の一例を模式的に示す図である。ゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物の原料たる熱可塑性樹脂組成物が押出機10に投入され、押出機10内において、ガラス転移温度以上の温度まで加熱され、溶融状態となる。溶融状態の熱可塑性樹脂組成物は、押出機の出口側に取り付けられたギヤポンプ11を経て、ポリマーフィルター12に移行する。そして、ポリマーフィルター12内において、熱可塑性樹脂組成物中の異物を濾過し、ポリマーフィルター12の出口側に取り付けられたダイ13に移行し、ダイ先端のダイ出口14から溶融状態のまま吐出される。ダイ出口の形状により、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物15はシート形状をとる。
【0019】
ゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物がポリマーフィルター12により濾過される際、押出機からの溶融押出の開始時には、ポリマーフィルター12の入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1[MPa]で、下記式(1)で示される量W[kg]の熱可塑性樹脂組成物をポリマーフィルターに流入させ、その後、ポリマーフィルター12の入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧をP2[MPa]として、熱可塑性樹脂組成物をポリマーフィルターに流入させる。差圧P1およびP2は下記式(2)で示される関係を満たすようにする。
W≧A×B/10[kg] (1)
A:フィルターエレメントの直径(インチ)、B:フィルターエレメントの枚数
P1≧8MPa、且つP1>P2 (2)
【0020】
続いて、ダイ出口14から吐出されたシート状の熱可塑性樹脂組成物15を、弾性ロール16とキャストロール17で挟み込むことにより、熱可塑性樹脂組成物15を、そのガラス転移温度以下の温度に冷却することにより、光学フィルム等フィルム状の熱可塑性樹脂組成物15を取得することができる。また、溶融状態にあるシート状の熱可塑性樹脂組成物15を、弾性ロール16を用いずに、キャストロール17上にキャストさせることのみによっても、光学フィルム等フィルム状の熱可塑性樹脂組成物15を取得することができる。得られたフィルム状の熱可塑性樹脂組成物15は、巻き取り機19によって巻き取られる。なお、当該挟み込み成形工程は、フィルム表面の平滑化のための工程であり、フィルムを延伸するための工程とは異なる。
【0021】
また、フィルムの延伸は、延伸機18を用いてフィルムを加熱しつつ行うこともでき、さらに、目的に応じて、二軸延伸を実施し、フィルムに靭性を付与する等の改質も可能である。
【0022】
図示はしないが、ダイ出口14の形状によって、熱可塑性樹脂組成物15をストランド形状とし、水槽での冷却固化、ペレタイザでのストランドカットによって、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得ることもできる。
【0023】
[押出機]
本発明に用いられる押出機としては特に限定されず、各種押出機を使用でき、例えば、単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。上記例示した押出機は単独で用いてもよいし、複数を直列に連結して用いてもよい。
【0024】
前記押出機のシリンダー温度は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂の種類にもよるが、例えばアクリル樹脂を用いる場合、150℃以上310℃以下が好ましく、180℃以上280℃以下がより好ましい。
【0025】
[ポリマーフィルター]
本発明に用いられるポリマーフィルターは、熱可塑性樹脂組成物の異物除去が可能なものであれば特に限定されない。
【0026】
図2は、ポリマーフィルター内部構造の一例を示す図である。ポリマーフィルター12は、1または2以上のフィルターエレメント21を重ねた構造となっている。図2中に記載される矢印は、溶融樹脂の流れ方向を示す。溶融樹脂は、入口22からポリマーフィルター内に流入すると、1または2以上のフィルターエレメント21より濾過され、流路を兼ねたフィルター支持体24に流れ込み、出口23から流出する。
【0027】
ポリマーフィルターは、1または2以上のフィルターエレメントにより構成される。フィルターエレメントの構造は、例えば、繊維束を撚り合わせた構造、網目構造、不織布構造、粉末焼結体構造などが挙げられる。これらの中でも、樹脂組成物中の異物除去精度が高いため、不織布構造が好ましい。
【0028】
フィルターエレメントの形状は、例えば、シート形状(リーフディスクタイプ)が挙げられ、シート形状(リーフディスクタイプ)の場合、異物除去後の溶融樹脂の流路を兼ねたフィルター支持体を軸に並行に積層することが好ましい。なお、シート形状(リーフディスクタイプ)は、円形シート状のものが主に用いられる。
【0029】
フィルターエレメントの構造を形成する材料は、例えば金属(ステンレス鋼、ニッケル鋼等)、樹脂などが挙げられ、これらの中でも金属(ステンレス鋼、ニッケル鋼等)が好ましくステンレス鋼がより好ましい。
【0030】
フィルターエレメントの濾過精度は、樹脂組成物中の異物除去の観点から、25μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0031】
フィルターエレメントとしては、具体的には、日本精線株式会社製ナスロンフィルター、株式会社長瀬産業製デナフィルター等を用いることができる。
【0032】
本発明に用いられるポリマーフィルターは、押出機の出口側に取り付けてもよいが、押出機とポリマーフィルターの間に介したギヤポンプの出口側に取り付けてもよい。
【0033】
前記押出機からの溶融押出の開始時におけるポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1は、P1≧8MPaであることが好ましく、P1≧9MPaであることがより好ましい。P1<8MPaでは、ポリマーフィルターにかかる背圧が小さくなり、ポリマーフィルター内の異物が排出されにくく好ましくない。差圧P1の上限値は制限されないが、例えば、P1<10MPaであることが好ましい。10MPa以上であると、ポリマーフィルターが破損する恐れがあるためである。
【0034】
ここで、前記押出機からの溶融押出の開始時とは、ポリマーフィルターに溶融樹脂が充満した状態において、ポリマーフィルターによる溶融樹脂の濾過を開始する時をいう。
【0035】
ポリマーフィルター入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P2は、1MPa以上8MPa未満であることが好ましく、4MPa以上8MPa未満であることがより好ましい。1MPa未満では、溶融樹脂の流動が不均一になることで、ポリマーフィルター内にて、局所的な樹脂難流動箇所が発生しやすく、樹脂劣化、異物化が懸念されるため好ましくなく、8MPa以上では、生産中にポリマーフィルターで捕捉した異物が排出される可能性があるため好ましくない。
【0036】
ここで、ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1およびP2は、以下のようにして測定することができる。ポリマーフィルター入口と出口に取り付けられた樹脂圧センサーの値に関して両者の差分(ポリマーフィルター入口の樹脂圧)−(ポリマーフィルター出口の樹脂圧)から測定することができる。
【0037】
前記押出機からの溶融押出の開始時において、ポリマーフィルターに流入させる熱可塑性樹脂組成物の量W[kg]は、フィルターエレメントとして、直径Aインチの円形シート状のフィルターをB枚配列したものを用いる場合、W≧A×B/10[kg]の関係を満たす必要があり、W≧A×B/5[kg]の関係を満たすことが好ましい。これにより、ポリマーフィルター内の異物を効率的に短時間で十分に排出することができる。
【0038】
ここで、フィルターエレメントの直径は、円形フィルターエレメントの外周円の直径の長さをいう。
【0039】
前記差圧P1[MPa]におけるポリマーフィルター内の樹脂温度T1、前記差圧P2[MPa]におけるポリマーフィルター内の樹脂温度T2が、T1≦T2で示される関係を満たすことが好ましい。T1>T2であるとP1>P2の関係を満たさない場合があるためである。
【0040】
ポリマーフィルター内の樹脂温度は、240℃より高く300℃未満であることが好ましい。240℃以下では、樹脂圧が上昇することで、ポリマーフィルター破損の懸念が生じるため好ましくなく、300℃以上では、ポリマーフィルター内での樹脂熱分解が懸念されるため好ましくない。ポリマーフィルター入口の樹脂温度は、ポリマーフィルター内の樹脂温度に影響を及ぼさないようにするため、230℃以上310℃以下であることが好ましい。
【0041】
ここで、ポリマーフィルター内の樹脂温度およびポリマーフィルター入口の樹脂温度は、以下のようにして測定することができる。ポリマーフィルター内の樹脂温度はフィルター出口から流出する溶融樹脂の温度を、ポリマーフィルター入口の樹脂温度はフィルター入口に流入する溶融樹脂の温度を接触式温度計によって測定することができる。
【0042】
本発明の製造方法で用いられるポリマーフィルターは、未使用のポリマーフィルターまたは再使用のポリマーフィルタ−のいずれであってもよい。
【0043】
ここで、未使用のポリマーフィルターとは、未だ熱可塑性樹脂組成物の濾過を行っていないポリマーフィルターをいう。未使用のポリマーフィルターには、フィルターエレメント製作の際やフィルターエレメントを組み付けてポリマーフィルターとする際に混入した異物等の異物が付着している可能性がある。
【0044】
再使用のポリマーフィルターとは、少なくとも1度、熱可塑性樹脂組成物の濾過を行ったポリマーフィルターをいう。ポリマーフィルターの再使用にあたっては、そのまま再使用してもよいが、ポリマーフィルター中に長時間滞留した樹脂の熱劣化や異物化の観点から、少なくとも一度洗浄することが好ましい。ポリマーフィルターの洗浄方法としては、特に限定されないが、例えば、焙焼洗浄方法及び溶剤洗浄方法を使用することができる。前者の焙焼洗浄方法は、ポリマーフィルターから取り出したフィルターエレメントを、例えば炉に入れて、酸素存在下で炉内雰囲気温度を樹脂の熱分解温度まで上昇させることで、フィルターエレメントに付着した樹脂を熱分解させることで洗浄する方法である。後者の溶剤洗浄方法は、例えばポリマーフィルターから取り出したフィルターエレメントを、例えば沸点付近まで加温したエチレングリコール、N−メチルピロリジノン、N−メチルピロリドン等の溶剤に浸し、フィルターエレメントに付着した樹脂を希釈させることで洗浄する方法である。焙焼洗浄方法においては、フィルター中に十分に熱分解せずに炭化した樹脂が残存する可能性があり、溶剤洗浄方法においても、特に、溶融樹脂が滞留しやすい部分等にゴム状重合体等の架橋性樹脂が残存する可能性がある。
【0045】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の製造方法により得られるゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物について説明する。当該熱可塑性樹脂組成物は、ゴム状重合体成分および熱可塑性樹脂を有する。
【0046】
熱可塑性樹脂組成物中のゴム状重合体の含有量としては、1〜60重量%であることが好ましく、5〜50重量%であることがより好ましく、10〜40重量%であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの成形性に影響を及ぼさない範囲内でフィルムへの強度、靭性付与できる観点で好ましいためである。
【0047】
熱可塑性樹脂組成物はゴム状重合体成分と熱可塑性樹脂を溶融混練した後、冷却することにより製造される。得られる熱可塑性樹脂組成物の形状は、特に制限されず、ペレット形状およびフィルム形状等種々のものが挙げられる。フィルム形状にする場合、ゴム状重合体と熱可塑性樹脂を溶融混練した後、フィルム形状に冷却して成形してもよく、ゴム状重合体と熱可塑性樹脂とを溶融混練した後、ペレット形状にしてから、再度溶融してフィルム形状に冷却して成形してもよい。
【0048】
(ゴム状重合体)
ゴム状重合体を構成する樹脂は、特に限定されず、例えば、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体などのゴム状重合体が挙げられる。なかでも、得られる熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの耐候性(耐光性)、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)が特に好ましい。
【0049】
(メタ)アクリル系架橋重合体としては、例えばABS樹脂ゴム、ASA樹脂ゴムが挙げられるが、透明性等の観点から、以下に示すアクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体(以下、単に「アクリル系グラフト共重合体」と称する。)が好ましい。
【0050】
アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物を重合して得ることができる。
【0051】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルを主成分としたゴム状重合体であり、具体的には、アクリル酸エステル50重量%以上100重量%以下および共重合可能な他のビニル系単量体0重量%以上50重量%以下からなる単量体混合物(100重量%)並びに多官能性単量体0.05重量部以上10重量部以下(単量体混合物100重量部に対して)を重合させてなるものが好ましい。単量体を全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用してもよい。
【0052】
アクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点より、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることが好ましい。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸フェニル等があげられ、これらの単量体は2種以上併用してもよい。アクリル酸エステル量は、単量体混合物100重量%において50重量%以上100重量%以下が好ましく、60重量%以上99重量%以下がより好ましく、70重量%以上99重量%以下がさらに好ましく、80重量%以上99重量%以下が最も好ましい。50重量%未満では耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0053】
共重合可能な他のビニル系単量体としては、耐候性、透明性の点より、メタクリル酸エステル類が特に好ましく、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸フェニル等があげられる。また、芳香族ビニル類およびその誘導体、及びシアン化ビニル類も好ましく、例えば、スチレン、メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等があげられる。その他、無置換及び/又は置換無水マレイン酸類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル、ハロゲン化ビニリデン、(メタ)アクリル酸およびその塩、(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0054】
多官能性単量体は通常使用されるものでよく、例えばアリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのアクリレート類などを使用することができる。これらの多官能性単量体は2種以上使用してもよい。
【0055】
多官能性単量体の量は、単量体混合物の総量100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。多官能性単量体の添加量が0.05重量部未満では、架橋体を形成できない傾向があり、10重量部を超えても、フィルムの耐割れ性が低下する傾向がある。
【0056】
アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体5〜90重量部(より好ましくは、5〜75重量部)の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物95〜25重量部を少なくとも1段階で重合させることより得られるものが好ましい。グラフト共重合組成(単量体混合物)中のメタクリル酸エステルは50重量%以上が好ましい。50重量%未満では得られるフィルムの硬度、剛性が低下する傾向がある。
【0057】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体へのメタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物の重合、つまり、グラフト共重合に用いられる単量体としては、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、これらを共重合可能なビニル系単量体を同様に使用でき、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルが好適に使用される。アクリル系樹脂との相溶性の観点からメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点からアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0058】
光学的等方性の観点からは、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリル系単量体(「環構造含有(メタ)アクリル系単量体」と称する。)が好ましく、具体的には(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルが挙げられる。その使用量は、単量体混合物の総量(環構造含有(メタ)アクリル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量)100重量%において1〜100重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。ここでいう、これと共重合可能な他の単官能性単量体には、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、共重合可能な他のビニル系単量体が同様に使用できる。
【0059】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体に対するグラフト率は、10〜250%が好ましく、より好ましくは40〜230%、最も好ましくは60〜220%である。グラフト率が10%未満では、得られるアクリル系グラフト共重合体が、熱可塑性樹脂組成物中で凝集しやすく、透明性が低下したり、異物原因となる恐れがある。また引張破断時の伸びが低下し、熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム切断時にクラックが発生しやすくなったりする傾向がある。250%以上では成形時、たとえば、熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム成形時の溶融粘度が高くなり、フィルムの成形性が低下する傾向がある。算出式は実施例の項にて説明する。
【0060】
グラフト率とは、アクリル系グラフト共重合体におけるグラフト成分の重量比率であり、次の方法で測定される。得られたアクリル系グラフト共重合体2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpm、温度12℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する(遠心分離作業を合計3回セット)。得られた不溶分を、アクリル酸エステル系グラフト重合体として以下の式により算出する。
【0061】
グラフト率(%)=[{(メチルエチルケトン不溶分の重量)−(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)}/(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)]×100
【0062】
アクリル系ゴム状重合体は、熱可塑性樹脂組成物100重量部において、1〜60重量部含まれるように配合されることが好ましく、1〜30重量部がより好ましく、1〜25重量部がさらに好ましい。1重量部未満ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、また光弾性定数が大きくなり、光学的等方性に劣ったりする場合がある。一方、60重量部を越えるとフィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折曲げ白化性が悪化する傾向がある。
【0063】
ゴム状重合体は、粒子状をとりうるところ、ゴム状重合体粒子の体積平均粒子径は、20〜450nmが好ましく、20〜300nmがより好ましく、20〜150nmが更に好ましく、30〜80nmが最も好ましい。20nm未満では耐割れ性が悪化する場合がある。一方、450nmを超えると透明性が低下する場合がある。なお、体積平均粒子径は、動的散乱法により、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
【0064】
アクリル系グラフト共重合体は、一般的な乳化重合法によって製造できる。具体的には、水溶性重合開始剤の存在下、乳化剤を用いてアクリル酸エステル単量体を連続的に重合させる方法を例示できる。
【0065】
乳化重合法では、連続重合を単一の反応槽で行うことが好ましく、二槽以上の反応槽を用いるとラテックスの機械的安定性が低下するため好ましくない。
【0066】
重合温度としては30℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。30℃未満では生産性が低下する傾向があり、100℃を超えた温度では、目標分子量が過剰に大きくなる等によって、品質が低下する傾向がある。重合反応槽へ連続的に添加するアクリル酸エステル単量体、開始剤、乳化剤及び脱イオン水等の原料類は、定量ポンプの制御下で正確に添加するが、反応槽内で発生する重合熱の除熱量を確保するため必要に応じて予め冷却しても支障ない。反応槽から払い出されたラテックスには、必要に応じて重合禁止剤、凝固剤、難燃剤、酸化防止剤、pH調節剤を添加しても良く、未反応単量体の回収や後重合を行っても良い。その後、凝固、熱処理、脱水、水洗、乾燥等公知の方法を経て共重合体を得ることができる。
【0067】
乳化重合においては、通常の重合開始剤を使用できる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、更にアゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤も使用される。これらは単独又は2種以上併用してもよい。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコロビン酸、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム錯体なとの還元剤と併用した通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0068】
重合開始剤と合わせて連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤には炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素などが挙げられ、これらは単独又は2種以上併用してもよい。
【0069】
乳化重合法にて使用する乳化剤に関して特に制限はなく、通常の乳化重合用の乳化剤であれば使用することが出来る。例えば、アルキル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホン酸塩系界面活性剤、アルキルリン酸ナトリウムエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムエステル等のリン酸塩系界面活性剤といったアニオン系界面活性剤が挙げられる。また上記ナトリウム塩はカリウム塩等の他のアルカリ金属塩やアンモニウム塩でも良い。これらの乳化剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に、ポリオキシアルキレン類またはその末端水酸基のアルキル置換体またはアリール置換体に代表される、非イオン性界面活性剤を使用または一部併用しても差し支えない。その中でも、重合反応安定性、粒子系制御性の点から、スルホン酸塩系界面活性剤、またはリン酸塩系界面活性剤が好ましく、中でも、ジオクチルスルホコハク酸塩、またはポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩がより好ましく用いることができる。
【0070】
乳化剤の使用量としては、単量体成分全体100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部が好ましく、0.1重量部以上1.0重量部以下であることがより好ましい。0.05重量部より少量では、共重合体の粒系が大きくなり過ぎる傾向があり、10重量部より多量では共重合体の粒系が小さくなりすぎる、また、粒度分布が悪化する傾向がある。
【0071】
(熱可塑性樹脂)
本発明の製造方法により得られるゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、具体的には、ビスフェノールAポリカーボネートに代表されるポリカーボネート樹脂;ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-無水マレイン酸樹脂、スチレン−マレイミド樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸樹脂、スチレン系熱可塑エラストマー等の芳香族ビニル系樹脂及びその水素添加物;非晶性ポリオレフィン、結晶相を微細化した透明なポリオレフィン、エチレン-メタクリル酸メチル樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、スチレン−メタクリル酸メチル樹脂等のアクリル系樹脂、およびそのイミド環化、ラクトン環化、メタクリル酸変性等により改質された耐熱性のアクリル系樹脂;ポリエチレンテレフタレートあるいはシクロヘキサンジメチレン基やイソフタル酸等で部分変性されたポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等の非晶ポリエステル樹脂あるいは結晶相を微細化した透明なポリエステル樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルホン樹脂;ポリアミド樹脂;トリアセチルセルロース樹脂等のセルロース系樹脂;ポリフェニレンオキサイド樹脂等の透明性を有する熱可塑性樹脂が幅広く例示される。実使用を考えた場合、得られた成形体の全光線透過率が85%以上、好ましくは90%、より好ましくは92%以上になるように樹脂を選定することが好ましい。
【0072】
上記樹脂のなかでも、アクリル系樹脂は、優れた光学特性、耐熱性、成形加工性などの面で特に好ましい。アクリル系樹脂は、特に制限が無いが、メタクリル酸メチルを単量体成分としたメタクリル系樹脂が使用でき、メタクリル酸メチルは、30〜100重量%、好ましくは50〜99.9重量%、より好ましくは50〜98重量%含有され、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマーは、70〜0重量%、好ましくは50〜0.1重量%、より好ましくは50〜2重量%含有される。メタクリル酸メチルの含有量が30重量%未満ではアクリル系樹脂特有の光学特性、外観性、耐候性、耐熱性が低下してしまう傾向がある。また、加工性、外観性の観点から、多官能性モノマーは使用しないことが望ましい。
【0073】
メタクリル酸メチルを単量体成分としたメタクリル系樹脂を用いる場合、メタクリル系樹脂のガラス転移温度は使用する条件、用途に応じて設定することができる。好ましくはガラス転移温度が100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、最も好ましくは120℃以上である。
【0074】
また、耐熱性のアクリル系樹脂を使用でき、例えば、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されている樹脂、グルタル酸無水物樹脂、ラクト・BR>投ツ構造を有する樹脂、グルタルイミド樹脂、水酸基および/またはカルボキシル基を含有する樹脂、芳香族ビニル単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有重合体またはその芳香族環を部分的にまたは全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有重合体(例えば、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン系重合体)、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、並びにメタクリル酸メチル97〜100重量%及びアクリル酸メチル3〜0重量%で構成されるアクリル系重合体などを挙げることができる。
【0075】
特に、得られる熱可塑性樹脂組成物または光学フィルムの耐熱性の観点、且つ、延伸時の光学特性からは、グルタルイミド樹脂をより好ましく用いることができる。
グルタルイミド樹脂については、以下に詳述する。グルタルイミド樹脂としては具体的には、例えば、下記一般式(1)
【0076】
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「グルタルイミド単位」ともいう)と、下記一般式(2)
【0077】
【化2】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)で表される単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう)とを含むグルタルイミド樹脂を好適に用いることができる。
【0078】
また、上記グルタルイミド樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)
【化3】

(式中、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜10のアリール基である。)で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0079】
上記一般式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、Rは水素、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基であることが好ましく、Rはメチル基であり、Rは水素であり、Rはメチル基であることがより好ましい。
【0080】
上記グルタルイミド樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR、R、およびRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0081】
グルタルイミド単位は、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより、形成することができる。
【0082】
また、無水マレイン酸等の酸無水物、または、このような酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成させることができる。
【0083】
上記一般式(2)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、Rは水素またはメチル基であることが好ましく、Rは水素であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基であることがより好ましい。
【0084】
上記グルタルイミド樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR、R、およびRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0085】
上記グルタルイミド樹脂は、上記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位として、スチレン、α−メチルスチレン等を含むことが好ましく、スチレンを含むことがより好ましい。
【0086】
また、上記グルタルイミド樹脂は、芳香族ビニル構成単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R、およびRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0087】
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、Rの構造等に依存して変化させることが好ましい。
【0088】
一般的には、上記グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミド樹脂の1重量%以上とすることが好ましく、1重量%〜95重量%とすることがより好ましく、2重量%〜90重量%とすることがさらに好ましく、3重量%〜80重量%とすることが特に好ましい。
【0089】
グルタルイミド単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性および透明性が低下したり、成形加工性、およびフィルムに加工したときの機械的強度が低下したりすることがない。
【0090】
一方、グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。また、上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に脆くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
【0091】
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、特に限定されるものではなく、求められる物性に応じて適宜設定することが可能である。使用される用途によっては、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は0であってもよい。一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含む場合は、グルタルイミド樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上とすることが好ましく、10重量%〜40重量%とすることがより好ましく、15重量%〜30重量%とすることがさらに好ましく、15重量%〜25重量%とすることが特に好ましい。
【0092】
芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足したり、フィルム加工時の機械的強度が低下したりすることがない。
【0093】
一方、芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足する傾向がある。
【0094】
上記グルタルイミド樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに共重合されていてもよい。
【0095】
その他の単位としては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を挙げることができる。
【0096】
これらのその他の単位は、上記グルタルイミド樹脂中に、直接共重合していてもよいし、グラフト共重合していてもよい。
【0097】
上記グルタルイミド樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1×10〜5×10であることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。
【0098】
一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0099】
また、上記グルタルイミド樹脂のガラス転移温度は特に限定されるものではないが、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の適用範囲を広げることができる。
【0100】
上記グルタルイミド樹脂の製造方法は特に制限されないが、例えば、特開2008−273140に記載されている方法などがあげられる。
【0101】
本発明の製造方法により得られるゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物には、熱や光に対する安定性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを単独又は2種以上併用して添加してもよい。
【0102】
[光学フィルムの製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法は、ゴム状重合体成分を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法であって、前記熱可塑性樹脂組成物が押出機を通過し、ポリマーフィルターにより濾過される工程、および前記熱可塑性樹脂組成物が前記濾過の後に成形される工程を有し、前記濾過は、前記押出機からの溶融押出の開始時に前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1[MPa]で、下記式(1)で示される前記熱可塑性樹脂組成物量のW[kg]を前記ポリマーフィルターに流入させた後、前記ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧をP2[MPa]として、前記熱可塑性樹脂組成物を前記ポリマーフィルターに流入させる工程を有し、前記差圧P1およびP2は、下記式(2)で示される関係を満たすものである。
W≧A×B/10[kg] (1)
A:フィルターエレメントの直径(インチ)、B:フィルターエレメントの枚数
P1≧8MPa、且つP1>P2 (2)
【0103】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法においては、生産性や作業環境性から、溶融押出法を好適に使用できる。
【0104】
溶融押出法によるフィルム成形法としては、例えば、Tダイ押出成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形が挙げられる。ただし、フィルム成形法はこれらに限定されるものではない。また、さらに加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。
【0105】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムの製造方法によれば、未使用または再使用のポリマーフィルター使用開始から短時間で光学フィルムに発生する顕著な異物を抑制可能とする。
【0106】
本発明の製造方法により得られる光学フィルムの厚みは、20μm以上500μm以下が適当であり、40μm以上200μm以下がより好ましい。20μm未満ではフィルムの靭性が低下する傾向があるため好ましくなく、一方、500μmを超えるとフィルムの透明性が低下する傾向があるため好ましくない。
【0107】
本発明の製造方法により得られる光学フィルムは、300mm×300mm角あたり、長手方向の外寸が30μm以上の異物個数が、生産開始から短時間で10個以内と、非常に少なくすることができることから、フィルム表面の凹凸なども低減でき、光学フィルム表面の品質低下をさらに防ぐことができる。
【0108】
本発明の製造方法により得られる光学フィルムは、液晶表示装置などの表示装置に用いられる部材、例えば、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、液晶基板、光拡散シート、プリズムシートなどに用いることができる。中でも、偏光板保護フィルムや位相差フィルムに好適である。
【実施例】
【0109】
以下、実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。以下の記載において、「部」は、特に断らない限り、「重量部」を表す。実施例・比較例における光学フィルムの評価は以下の方法を用いて行った。
【0110】
(ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧)
ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧を、ポリマーフィルター入口と出口にそれぞれ取り付けられた樹脂圧センサーにより測定し、両者の差分(ポリマーフィルター入口の樹脂圧)−(ポリマーフィルター出口の樹脂圧)をポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧として算出した。
【0111】
(ポリマーフィルター内の樹脂温度)
ポリマーフィルター内の樹脂温度は、フィルター出口から流出する溶融樹脂の温度を接触式温度計により測定して求めた。
【0112】
(フィルム中異物評価)
300mm×300mm角の試験片を切り出し、フィルムから目視評価によって抽出した異物に関して、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製VHX1000)を使用して、サイズ30μ以上の異物個数を評価した。
【0113】
製造例および実施例における略号が表す物質を以下に示す。
BA:ブチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
tDM:ターシャリードデシルメルカプタン
AIMA:アリルメタクリレート
【0114】
(製造例1:ゴム状重合体成分の調製)
脱イオン水 200部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部
硫酸第一鉄 0.001部
【0115】
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、混合物(A)(BA90重量%およびMMA10重量%からなる単量体混合物45部に対しAIMA0.45部およびCHP0.041部を添加してなる混合物)45.491部を225分かけて連続的に添加した。混合物(A)追加開始から20分後、40分後、60分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)0.2部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(混合物(A)の重合物)を得た。重合転化率は98.6%であった。
【0116】
その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、混合物(B)(MMA57.8重量%、BA4重量%、およびベンジルメタクリレート38.2重量%からなる単量体混合物55部に対し、tDM0.3部およびCHP0.254部を添加してなる混合物)55.554部を210分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のアクリル系グラフト共重合体を得た。
【0117】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(混合物(A)の重合物)の平均粒子径は121nmであった。アクリル系グラフト共重合体のグラフト率は56%であった。
【0118】
(製造例2:熱可塑性樹脂の調製)
原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、グルタルイミド樹脂(A1)を製造した。
【0119】
この製造においては、押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いた。
【0120】
タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機、第2押出機共に直径が75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の噛合い型同方向二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。
【0121】
第1押出機、第2押出機における各ベントの減圧度は−0.095MPaとした。更に、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。
【0122】
第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極めるために、第1押出機の吐出口、第1押出機と第2押出機間の接続部品の中央部、および、第2押出機の吐出口に樹脂圧力計を設けた。
【0123】
第1押出機において、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部の温度は280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して2.0部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。
【0124】
第2押出機において、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルを添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機の各バレル温度は260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100部に対して3.2部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することで、グルタルイミド樹脂(A1)を得た。
【0125】
得られたグルタルイミド樹脂(A1)は、一般式(1)で表されるグルタミルイミド単位と、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位が共重合したアクリル系樹脂である。
【0126】
(製造例3:熱可塑性樹脂組成物の調製)
(製造例1)で得られたアクリル系グラフト共重合体と(製造例2)で得られた、グルタルイミド樹脂とを40:60の重量比にてブレンドした。続いて、上記アクリル系グラフト共重合体とグルタルイミド樹脂の混合物をφ40mmベント式押出機(単軸押出機)にて、シリンダー温度を260℃に設定して溶融押出を行い、押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化した熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0127】
(実施例1)
光学フィルム製造に係る装置は、上流側から順に、φ40mmベント式単軸押出機と、フィルターエレメントとして生産未使用の直径4インチサイズ、濾過精度5μmの金属焼結繊維濾材からなるリーフディスクフィルター(日本精線株式会社製ナスロン)を20枚と、ギヤポンプと、Tダイを配列したものである。
【0128】
上記装置を使用した。ポリマーフィルター内の樹脂温度T1を264℃として、溶融押出の開始時にポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1を8.5MPaとし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W)を15kg流入させた後、ポリマーフィルター内の樹脂温度T2を268℃として、ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P2を7.8MPaとし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物樹脂(W’)を25kg流入させた。Tダイから吐出した溶融状態にあるシート状の熱可塑性樹脂組成物を90℃に加温したキャストロールを用いて、光学フィルムを生産した。そして、溶融押出開始から(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物を40kgを流入させた時点、つまり、溶融押出開始から2時間経過時点で、取得したフィルム中の異物評価を行った。結果は表1に示した。
【0129】
(実施例2)
光学フィルム製造に係る装置は、上流側から順に、φ40mmベント式単軸押出機と、フィルターエレメントとして生産未使用の直径8インチサイズ、濾過精度5μmの金属焼結繊維濾材からなるリーフディスクフィルター(日本精線株式会社製ナスロン)を80枚と、ギヤポンプと、Tダイを配列したものである。
【0130】
上記装置を使用した。ポリマーフィルター内の樹脂温度T1を264℃として、溶融押出の開始時にポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1を8.5MPaとし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W)を120kg流入させた後、ポリマーフィルター内の樹脂温度T2を268℃として、ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P2を7.8MPaとし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W’)を180kg流入させた。Tダイから吐出した溶融状態にあるシート状の熱可塑性樹脂組成物を90℃に加温したキャストロールを用いて、光学フィルムを生産した。そして、溶融押出開始から(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物を300kgを流入させた時点、つまり、溶融押出開始から2時間経過時点で、取得したフィルム中の異物評価を行った。結果は表1に示した。
【0131】
(実施例3)
リーフディスクフィルターの枚数を15枚とし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W)を10kg流入させ、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W’)を20kg流入させて、溶融押出開始から(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物を30kg流入させた時点、つまり、溶融押出開始から2時間経過時点で評価を行った以外は、(実施例1)と同様の方法で取得したフィルム中の異物評価を行った。結果は表1に示した。
【0132】
(実施例4)
リーフディスクフィルターの直径を5インチとし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W’)を35kg流入させて、溶融押出開始から(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物を50kg流入させた時点、つまり、溶融押出開始から2時間経過時点で評価を行ったこと以外は(実施例1)と同様の方法で、取得したフィルム中の異物評価を行った。結果は表1に示した。
【0133】
(比較例1)
ポリマーフィルター内の樹脂温度T1を275℃として、ポリマーフィルター入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1を6.5MPaとし、その後、ポリマーフィルター内の樹脂温度T2を279℃として、差圧P2を5.8MPaとし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W’)を25kg流入させたこと以外は(実施例1)と同様の方法で、取得したフィルム中の異物評価を行った。結果は表1に示した。
【0134】
(比較例2)
ポリマーフィルター内の樹脂温度T1を264℃として、ポリマーフィルター入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1が8.5MPaとし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W)を4kg流入させ、その後、ポリマーフィルター内の樹脂温度T2を268℃として、ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P2を7.8MPaとし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W’)を36kg流入させたこと以外は、(実施例1)と同様の方法で取得したフィルム中の異物評価を行った。結果は表1に示した。
【0135】
(比較例3)
ポリマーフィルター内の樹脂温度T1を275℃として、ポリマーフィルター入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1を6.5MPaとし、ポリマーフィルター内の樹脂温度T2を279℃として、ポリマーフィルター入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P2を5.8MPaとした以外は、(実施例2)と同様の方法で取得したフィルム中の異物評価を行った。結果は表1に示した。
【0136】
(比較例4)
(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物の量(W)を30kgとし、(製造例3)で得られたペレット化した熱可塑性樹脂組成物(W’)を270kg流入させた以外は、(実施例2)と同様の方法で取得したフィルム中の異物評価を行った。結果は表1に示した。
【0137】
【表1】

表1の結果より、実施例1乃至4に示すように、本発明の製造方法によれば、ポリマーフィルターの使用開始から短時間で得られる光学フィルム中異物の低減が確認できるようになった。一方、比較例1乃至4に示すように、本発明の製造方法から外れる条件として、ポリマーフィルターの入口の樹脂圧と出口の樹脂圧の差圧P1が小さい条件や、ポリマーフィルターに流入する樹脂量Wが小さい条件においてフィルム生産を実施した場合、ポリマーフィルターの使用開始から短時間では未だ異物の発生が確認される。従って、本発明の製造方法によって得られる光学フィルムにおいて、そのポリマーフィルターの使用開始から短時間で異物発生を抑制することができるようになり、光学フィルムの生産品の品質向上や生産収率の向上が可能となる。
【符号の説明】
【0138】
10 押出機
11 ギヤポンプ
12 ポリマーフィルター
13 ダイ
14 ダイ出口
15 熱可塑性樹脂組成物
16 弾性ロール
17 キャストロール
18 延伸機
19 巻き取り機
21 フィルターエレメント
22 入口
23 出口
24 フィルター支持体
図1
図2