特許第6744812号(P6744812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6744812ダイシングテープ及びその製造方法、並びに半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6744812
(24)【登録日】2020年8月4日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】ダイシングテープ及びその製造方法、並びに半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20200806BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   H01L21/78 M
   C09J201/00
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-235210(P2016-235210)
(22)【出願日】2016年12月2日
(65)【公開番号】特開2018-93058(P2018-93058A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】高柳 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】岩本 智成
(72)【発明者】
【氏名】中川 康弘
【審査官】 中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−342330(JP,A)
【文献】 特開平05−211234(JP,A)
【文献】 特開2000−345113(JP,A)
【文献】 特開2014−187244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む基材フィルムと、前記基材フィルムの厚み方向の第1の面側に設けられた粘着剤層とを備えるダイシングテープの製造方法であって、
前記基材フィルムに対して、厚み方向における前記第1の面から途中までの部分に部分的に電子線が到達するように電子線照射を行う工程と、
電子線照射後の前記基材フィルムの前記第1の面側に前記粘着剤層を形成する工程とを有する、ダイシングテープの製造方法。
【請求項2】
前記第1の面が露出した状態の前記基材フィルムに、前記第1の面側から下式(1)の条件を満たすように電子線照射を行う、請求項1に記載のダイシングテープの製造方法。
0<P/d1<1 ・・・(1)
(ただし、式(1)中、d1は前記基材フィルムの厚み(μm)であり、Pは電子線照射の加速電圧(kV)である。)
【請求項3】
前記基材フィルムの前記第1の面側にダミーフィルムを積層した状態で、前記ダミーフィルム側から下式(2)の条件を満たすように前記基材フィルムに電子線照射を行った後、前記ダミーフィルムを取り除いて前記粘着剤層を形成する、請求項1に記載のダイシングテープの製造方法。
0<(P−d2)/d1<1 ・・・(2)
(ただし、式(2)中、d1は前記基材フィルムの厚み(μm)であり、d2は前記ダミーフィルムの厚み(μm)であり、Pは電子線照射の加速電圧(kV)である。)
【請求項4】
電子線照射後の前記基材フィルムの前記第1の面側に、粘着剤を用いて離型処理フィルムをラミネートして、前記粘着剤層上に前記離型処理フィルムをさらに備えるダイシングテープを得る、請求項1〜3のいずれか一項に記載のダイシングテープの製造方法。
【請求項5】
樹脂を含み、かつ前記樹脂が架橋されている基材フィルムと、前記基材フィルムの厚み方向の第1の面側に設けられた粘着剤層とを備え、
前記基材フィルムが単層であり、
前記基材フィルムの厚み方向における前記第1の面側から途中までの部分に偏って架橋されている、ダイシングテープ。
【請求項6】
前記粘着剤層における前記基材フィルムと反対側に設けられた離型処理フィルムをさらに備える、請求項5に記載のダイシングテープ。
【請求項7】
請求項5に記載のダイシングテープにおける前記粘着剤層上に、半導体ウエハ上に回路が形成されたウエハ回路を設置した状態で、前記ウエハ回路をダイシングして複数の半導体デバイスとした後、前記ダイシングテープを引き延ばして半導体デバイス間に隙間を形成して各半導体デバイスをピックアップする、半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載のダイシングテープにおける前記離型処理フィルムを剥離し、
前記粘着剤層上に、半導体ウエハ上に回路が形成されたウエハ回路を設置した状態で、前記ウエハ回路をダイシングして複数の半導体デバイスとした後、前記ダイシングテープを引き延ばして半導体デバイス間に隙間を形成して各半導体デバイスをピックアップする、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシングテープ及びその製造方法、並びに半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップ等の半導体デバイスの製造方法としては、例えば、略円板形状の半導体ウエハ上に回路が形成されたウエハ回路を、ダイシングテープ上でダイシングにより分割し、個々の半導体デバイスを得る方法が広く用いられている。ダイシング後は、例えば、ダイシングテープを引き延ばして半導体デバイス間に隙間を形成した後に各半導体デバイスがロボット等でピックアップされる。
【0003】
ダイシングテープとしては、例えば、ポリオレフィン等を含有する基材フィルムと、前記基材フィルム上に設けられた粘着剤層を備えるものが知られている。ダイシングテープの基材フィルムにおいては、ウエハ回路のダイシングを容易にするために、充分な強靭性を有し、ダイシング時に半導体デバイスにバリが発生することを抑制できることが重要である。そこで、基材フィルムに電子線架橋を施すことで、基材フィルムの強靭性を高め、ダイシング時のバリ発生を抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−33059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記方法では、基材フィルムの電子線架橋によってダイシングテープが引き延ばされにくくなり、ダイシング後に半導体デバイス間に充分な隙間を形成しにくくなることで、半導体デバイスのピックアップが困難になる。
【0006】
本発明は、優れた強靭性を有し、ダイシング時に半導体デバイスにバリが発生することを抑制でき、引き延ばし性にも優れたダイシングテープ及びその製造方法、並びに前記ダイシングテープを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]樹脂を含む基材フィルムと、前記基材フィルムの厚み方向の第1の面側に設けられた粘着剤層とを備えるダイシングテープの製造方法であって、前記基材フィルムに対して、厚み方向における前記第1の面から途中までの部分に部分的に電子線が到達するように電子線照射を行う工程と、電子線照射後の前記基材フィルムの前記第1の面側に前記粘着剤層を形成する工程とを有する、ダイシングテープの製造方法。
[2]前記第1の面が露出した状態の前記基材フィルムに、前記第1の面側から下式(1)の条件を満たすように電子線照射を行う、[1]に記載のダイシングテープの製造方法。
0<P/d1<1 ・・・(1)
(ただし、式(1)中、d1は前記基材フィルムの厚み(μm)であり、Pは電子線照射の加速電圧(kV)である。)
[3]前記基材フィルムの前記第1の面側にダミーフィルムを積層した状態で、前記ダミーフィルム側から下式(2)の条件を満たすように前記基材フィルムに電子線照射を行った後、前記ダミーフィルムを取り除いて前記粘着剤層を形成する、[1]に記載のダイシングテープの製造方法。
0<(P−d2)/d1<1 ・・・(2)
(ただし、式(2)中、d1は前記基材フィルムの厚み(μm)であり、d2は前記ダミーフィルムの厚み(μm)であり、Pは電子線照射の加速電圧(kV)である。)
[4]電子線照射後の前記基材フィルムの前記第1の面側に、粘着剤を用いて離型処理フィルムをラミネートして、前記粘着剤層上に前記離型処理フィルムをさらに備えるダイシングテープを得る、[1]〜[3]のいずれかに記載のダイシングテープの製造方法。
[5]樹脂を含み、かつ前記樹脂が架橋されている基材フィルムと、前記基材フィルムの厚み方向の第1の面側に設けられた粘着剤層とを備え、前記基材フィルムの厚み方向における前記第1の面側に偏って架橋されている、ダイシングテープ。
[6]前記粘着剤層における前記基材フィルムと反対側に設けられた離型処理フィルムをさらに備える、[5]に記載のダイシングテープ。
[7][5]に記載のダイシングテープにおける前記粘着剤層上に、半導体ウエハ上に回路が形成されたウエハ回路を設置した状態で、前記ウエハ回路をダイシングして複数の半導体デバイスとした後、前記ダイシングテープを引き延ばして半導体デバイス間に隙間を形成して各半導体デバイスをピックアップする、半導体デバイスの製造方法。
[8][6]に記載のダイシングテープにおける前記離型処理フィルムを剥離し、前記粘着剤層上に、半導体ウエハ上に回路が形成されたウエハ回路を設置した状態で、前記ウエハ回路をダイシングして複数の半導体デバイスとした後、前記ダイシングテープを引き延ばして半導体デバイス間に隙間を形成して各半導体デバイスをピックアップする、半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のダイシングテープの製造方法によれば、優れた強靭性を有し、ダイシング時に半導体デバイスにバリが発生することを抑制でき、引き延ばし性にも優れたダイシングテープが得られる。
本発明のダイシングテープは、優れた強靭性を有し、ダイシング時に半導体デバイスにバリが発生することを抑制でき、引き延ばし性にも優れている。
本発明の半導体デバイスの製造方法によれば、ダイシング時に半導体デバイスにバリが発生することを抑制でき、ダイシング後の半導体デバイスのピックアップも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のダイシングテープの製造方法の一例を示した工程図である。
図2】本発明のダイシングテープの製造方法の他の例を示した工程図である。
図3】本発明の半導体デバイスの製造方法の一例を示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ダイシングテープ>
本発明のダイシングテープは、樹脂を含み、かつ前記樹脂が架橋されている基材フィルムと、前記基材フィルムの厚み方向の第1の面側に設けられた粘着剤層とを備えている。本発明のダイシングテープにおいては、基材フィルムの樹脂は、基材フィルムの厚み方向における第1の面側に偏って架橋されている。すなわち、基材フィルムの架橋は、基材フィルムの厚み方向における粘着剤層側に偏っている。
【0011】
架橋が基材フィルムの第1の面側(粘着剤層側)に偏っていることで、基材フィルムの第1の面側の強靭性が充分に高まる。これにより、ダイシング時に半導体デバイスにバリが発生することを抑制することができる。また、架橋が基材フィルムの第1の面側に偏っていることで、基材フィルムにおける第1の面と反対側の第2の面側では、架橋による引き延ばし性の低下が抑制されている。そのため、本発明のダイシングテープは優れた引き延ばし性が確保されている。
基材フィルムの厚み方向の第1の面側に偏った架橋は、後述するように電子線照射によって形成することができる。
【0012】
基材フィルムを形成する樹脂としては、ダイシングテープに通常用いられる公知の樹脂を用いることができる。樹脂の具体例としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体等のアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリウレタン;ポリアミド;エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。基材フィルムを形成する樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
基材フィルムには、前記した樹脂に加えて、各種添加剤が含有されていてもよい。
添加剤としては、ダイシングテープに通常用いられる公知の添加剤を用いることができ、例えば、架橋助剤、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤等が挙げられる。添加剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
架橋助剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
基材フィルムが架橋助剤を含有する場合、基材フィルム中の架橋助剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.05〜5質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。
【0015】
基材フィルムの厚みは、50〜200μmが好ましく、70〜150μmがより好ましい。基材フィルムの厚みが下限値以上であれば、必要な強靭性を確保しやすい。基材フィルムの厚みが上限値以下であれば、強靭性と低価格が両立する。
【0016】
粘着剤層を形成する粘着剤としては、ダイシングテープに通常用いられる公知の粘着剤を用いることができる。粘着剤の具体例としては、例えば、天然ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂等が挙げられる。粘着剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
粘着剤層の厚みは、5〜50μmが好ましく、5〜25μmがより好ましい。粘着剤層の厚みが下限値以上であれば、十分な接着力が得られる。粘着剤層の厚みが上限値以下であれば、接着力と低価格が両立する。
【0018】
本発明のダイシングテープは、粘着剤層における基材フィルムと反対側に設けられた離型処理フィルムをさらに備えることが好ましい。離型処理フィルムが設けられていることで、保管時や輸送時等において粘着剤層を保護することができる。半導体デバイスの製造に使用する際には、離型処理フィルムは粘着剤層から剥離されて取り除かれる。
【0019】
離型処理フィルムとしては、特に限定されず、例えば、粘着剤層が設けられる側の表面にシリコーンによる離型処理を施したフィルム等が挙げられる。
【0020】
離型処理フィルムの厚みは、25〜75μmが好ましく、30〜50μmがより好ましい。離型処理フィルムの厚みが下限値以上であれば、コシがあり作業性がよい。離型処理フィルムの厚みが上限値以下であれば、作業性と低価格を両立する。
【0021】
本発明のダイシングテープの実施形態の一例としては、例えば、図1(b)に示すように、基材フィルム10と、基材フィルム10の第1の面10a側に設けられた粘着剤層12と、粘着剤層12の基材フィルム10と反対側に設けられた離型処理フィルム14とを備えるダイシングテープ1が挙げられる。基材フィルム10は樹脂を含有し、かつ厚み方向における第1の面10a側に偏って架橋されている。
なお、本発明のダイシングテープは、離型処理フィルムを有しない物であってもよい。
【0022】
以上説明したように、本発明のダイシングテープにおいては、基材フィルム内の架橋が厚み方向における第1の面側(粘着剤層側)に偏っているため、基材フィルムの粘着剤層側で優れた強靭性と、優れた引き延ばし性が両立されている。そのため、本発明のダイシングテープを半導体デバイスの製造に用いることで、ダイシング時に半導体デバイスにバリが発生することを抑制できるうえ、ダイシング後の半導体デバイスのピックアップも容易になる。
本発明のダイシングテープは、後述する本発明のダイシングテープの製造方法により製造することができる。
【0023】
<ダイシングテープの製造方法>
本発明のダイシングテープの製造方法は、樹脂を含む基材フィルムと、前記基材フィルムの厚み方向の第1の面側に設けられた粘着剤層とを備えるダイシングテープの製造方法であって、下記の工程(1)及び工程(2)を有する。
(1)基材フィルムに対して、厚み方向における第1の面から途中までの部分に部分的に電子線が到達するように電子線照射を行う工程。
(2)電子線照射後の基材フィルムの第1の面側に粘着剤層を形成する工程。
【0024】
本発明のダイシングテープの製造方法は、基材フィルムに電子線照射を施す際にダミーフィルムを用いるか否かによって下記の方法(α)及び方法(β)に分けられる。
(α)ダミーフィルムを用いず、基材フィルムの第1の面を露出させた状態で電子線照射を行う方法。
(β)基材フィルムの第1の面側にダミーフィルムを積層した状態で、ダミーフィルム側から基材フィルムに電子線照射を行う方法。
以下、方法(α)及び方法(β)についてそれぞれ説明する。
【0025】
[方法(α)]
方法(α)としては、下記の工程(α−1)及び工程(α−2)を有する方法が挙げられる。
(α−1)第1の面が露出した状態の基材フィルムに、第1の面側から下式(1)の条件(以下、条件(1)ともいう。)を満たすように電子線照射を行う工程。
0<P/d1<1 ・・・(1)
(ただし、式(1)中、d1は基材フィルムの厚み(μm)であり、Pは電子線照射の加速電圧(kV)である。)
(α−2)電子線照射後の基材フィルムの第1の面側に粘着剤層を形成する工程。
【0026】
(工程(α−1))
工程(α−1)では、第1の面側に何も設けられていない基材フィルム、すなわち第1の面が露出した状態の基材フィルムを用いて電子線照射を行う。具体的には、例えば、図1(a)に示すように、基材フィルム10に対して、基材フィルム10の厚み方向の第1の面10a側から、条件(1)を満たすように電子線(EB)を照射する。すなわち、基材フィルム10の厚みをd1(μm)、電子線照射の加速電圧をP(kV)としたとき、0<P/d1<1の条件を満たすように、第1の面10a側から基材フィルム10に電子線照射を行う。
【0027】
電子線照射が条件(1)を満たすことで、基材フィルム10の厚み方向における第1の面10aから途中までの部分に部分的に電子線が到達する。これにより、基材フィルム10の厚み方向において、第1の面10aから途中までの部分に偏って電子線架橋が生じる。そのため、基材フィルム10における厚み方向の第1の面10a側の強靭性が高まる。一方、基材フィルム10における厚み方向の第2の面10b側は電子線架橋がほとんど生じないため、優れた引き延ばし性が確保される。
【0028】
条件(1)におけるP/d1は、0超であり、0.2以上が好ましく、0.4以上がより好ましい。P/d1の値が大きくなるほど、基材フィルムにおける厚み方向の第1の面側において電子線架橋が生じやすく、強靭性が向上する。
条件(1)におけるP/d1は、1未満であり、0.75以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。P/d1の値が小さくなるほど、基材フィルムにおける厚み方向の第2の面側で電子線架橋が生じにくくなるため、優れた引き延ばし性が確保されやすい。
【0029】
方法(α)における電子線照射の加速電圧Pは、基材フィルムの厚みに応じて条件(1)を満たすように調節すればよい。方法(α)における加速電圧Pは条件(1)を満たす範囲内において、60〜200kVが好ましく、70〜180kVがより好ましく、80〜150kVがさらに好ましい。加速電圧Pが下限値以上であれば、基材フィルムにおける厚み方向の第1の面側において電子線架橋が生じやすく、強靭性を向上させやすい。加速電圧Pが上限値以下であれば、基材フィルムにおける厚み方向の第2の面側で電子線架橋が生じにくくなるため、優れた引き延ばし性が確保されやすい。
【0030】
方法(α)における電子線照射の線量は、10〜400kGyが好ましく、30〜300kGyがより好ましく、70〜150kGyがさらに好ましい。電子線照射の線量が下限値以上であれば、基材フィルムにおける厚み方向の第1の面側において電子線架橋が生じやすく、強靭性を向上させやすい。電子線照射の線量が上限値以下であれば、加工中の基材フィルムの耐熱性が保たれ、加工性が向上する。
【0031】
(工程(α−2))
例えば、図1(b)に示すように、電子線照射後の基材フィルム10の第1の面10a側に、粘着剤を用いて離型処理フィルム14をラミネートする。これにより、基材フィルム10と、基材フィルム10の第1の面10a側に設けられた粘着剤層12と、粘着剤層12上に設けられた離型処理フィルム14とを備えるダイシングテープ1が得られる。
ラミネート法としては、特に限定されず、公知のラミネート法を採用できる。
【0032】
なお、工程(α−2)においては、離型処理フィルムを用いずに、電子線照射後の基材フィルムの第1の面側に粘着剤を塗工して粘着剤層を形成してもよい。
【0033】
[方法(β)]
方法(β)としては、下記の工程(β−1)及び工程(β−2)を有する方法が挙げられる。
(β−1)基材フィルムの第1の面側にダミーフィルムを積層した状態で、ダミーフィルム側から下式(2)の条件(以下、条件(2)ともいう。)を満たすように基材フィルムに電子線照射を行った後、ダミーフィルムを取り除く工程。
0<(P−d2)/d1<1 ・・・(2)
(ただし、式(2)中、d1は基材フィルムの厚み(μm)であり、d2はダミーフィルムの厚み(μm)であり、Pは電子線照射の加速電圧(kV)である。)
(β−2)電子線照射後の基材フィルムの第1の面側に粘着剤層を形成する工程。
【0034】
(工程(β−1))
例えば、図2(a)に示すように、基材フィルム10の第1の面10a側にダミーフィルム16を積層して積層フィルム2とする。基材フィルム10とダミーフィルム16の積層方法としては、特に限定されず、例えば、ラミネート法により積層する方法が挙げられる。なお、基材フィルム10とダミーフィルム16とは単に重ね合せるだけでもよい。
【0035】
次いで、ダミーフィルム16側から条件(2)を満たすように基材フィルム10に電子線(EB)を照射する。すなわち、基材フィルム10の厚みをd1(μm)、ダミーフィルムの厚みをd2(μm)、電子線照射の加速電圧をP(kV)としたとき、0<(P−d2)/d1<1の条件を満たすように積層フィルム2のダミーフィルム16側から基材フィルム10に電子線照射を行う。
【0036】
このように、工程(β−1)では、積層フィルム2における基材フィルム10に対して、ダミーフィルム16側から条件(2)を満たすように電子線照射を行い、ダミーフィルム16を通過した電子線(EB)を第1の面10a側から基材フィルム10に進入させて電子線架橋を施す。電子線照射を行った後は、図2(b)に示すように、基材フィルム10からダミーフィルム16を取り除く。
【0037】
電子線照射が条件(2)を満たすことで、基材フィルム10の厚み方向における第1の面10aから途中までの部分に部分的に電子線が到達する。これにより、方法(α)の場合と同様に、基材フィルム10の厚み方向において、第1の面10aから途中までの部分に偏って電子線架橋が生じる。そのため、基材フィルム10における厚み方向の第1の面10a側の強靭性が高まる。一方、基材フィルム10における厚み方向の第2の面10b側は電子線架橋がほとんど生じないため、優れた引き延ばし性が確保される。
【0038】
条件(2)における(P−d2)/d1は、0超であり、0.25以上が好ましく、0.4以上がより好ましい。(P−d2)/d1の値が大きくなるほど、基材フィルムにおける厚み方向の第1の面側において電子線架橋が生じやすく、強靭性が向上する。
条件(2)における(P−d2)/d1は、1未満であり、0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。(P−d2)/d1の値が小さくなるほど、基材フィルムにおける厚み方向の第2の面側で電子線架橋が生じにくくなるため、優れた引き延ばし性が確保されやすい。
【0039】
方法(β)における電子線照射の加速電圧Pは、基材フィルム及びダミーフィルムの厚みに応じて条件(2)を満たすように調節すればよい。方法(β)における加速電圧Pは条件(2)を満たす範囲内において、80〜300kVが好ましく、100〜250kVがより好ましく、150〜200kVがさらに好ましい。加速電圧Pが下限値以上であれば、基材フィルムにおける厚み方向の第1の面側において電子線架橋が生じやすく、強靭性を向上させやすい。加速電圧Pが上限値以下であれば、基材フィルムにおける厚み方向の第2の面側で電子線架橋が生じにくくなるため、優れた引き延ばし性が確保されやすい。
【0040】
方法(β)における電子線照射の線量は、30〜400kGyが好ましく、50〜300kGyがより好ましく、70〜150kGyがさらに好ましい。電子線照射の線量が下限値以上であれば、基材フィルムにおける厚み方向の第1の面側において電子線架橋が生じやすく、強靭性を向上させやすい。電子線照射の線量が上限値以下であれば、加工中の基材フィルムの耐熱性が保たれ、加工性が向上する。
【0041】
方法(β)における基材フィルムとしては、方法(α)で説明した基材フィルムと同じものを用いることができる。
【0042】
ダミーフィルムとしては、例えば、基材フィルムとして挙げたものと同じ材質のフィルムを用いることができる。
ダミーフィルムの厚みは、特に限定されず、例えば、50〜200μmのものを用いることができる。
【0043】
(工程(β−2))
例えば、工程(α−2)と同様にして、図2(c)に示すように、電子線照射後の基材フィルム10の第1の面10a側に、粘着剤を用いて離型処理フィルム14をラミネートする。これにより、基材フィルム10と、基材フィルム10の第1の面10a側に設けられた粘着剤層12と、粘着剤層12上に設けられた離型処理フィルム14とを備えるダイシングテープ1が得られる。
なお、工程(β−2)においては、離型処理フィルムを用いずに、電子線照射後の基材フィルムの第1の面側に粘着剤を塗工して粘着剤層を形成してもよい。
【0044】
以上説明した本発明のダイシングテープの製造方法においては、基材フィルムの厚み方向における第1の面から途中までの部分に部分的に電子線が到達するように電子線照射を行う。これにより、基材フィルムの厚み方向における、第1の面から途中までの部分に偏って電子線架橋が生じる。そのため、基材フィルムにおける粘着剤層側の強靭性が高まり、ダイシング時に半導体デバイスにバリが生じることが抑制される。また、基材フィルムの厚み方向における第1の面と反対側の第2の面側の部分では電子線架橋がほとんど生じないため、優れた引き延ばし性が確保される。このように、本発明のダイシングテープの製造方法によれば、ダイシング時の半導体デバイスのバリ発生を抑制できる優れた強靭性と、優れた引き延ばし性を兼ね備えたダイシングテープが得られる。
【0045】
本発明のダイシングテープの製造方法によって得られるダイシングテープの用途は、特に限定されないが、ICチップ等の半導体デバイスの製造に好適に使用できる。
【0046】
<半導体デバイスの製造方法>
本発明の半導体デバイスの製造方法は、前述した本発明のダイシングテープの製造方法によって得られるダイシングテープを用いて半導体デバイスを製造する方法である。本発明の半導体デバイスの製造方法は、以下の工程(a)及び工程(b)を有する。
(a)ダイシングテープの粘着剤層上に、半導体ウエハ上に回路が形成されたウエハ回路を設置した状態で、前記ウエハ回路をダイシングして複数の半導体デバイスとする工程。
(b)ダイシングテープを引き延ばして半導体デバイス間に隙間を形成した後、各半導体デバイスをピックアップする工程。
【0047】
[工程(a)]
例えば、前記したダイシングテープの製造方法で製造した、図3(a)に示すダイシングテープ1を用いる場合は、図3(b)に示すように、ダイシングテープ1から離型処理フィルム14を剥離し、半導体ウエハ上に回路が形成されたウエハ回路20を粘着剤層12上に設置した状態とする。工程(a)では、半導体ウエハ上に回路が形成してウエハ回路20を得た後に、そのウエハ回路20を粘着剤層12上に設置してもよく、粘着剤層12上に半導体ウエハを設置してから回路を形成してウエハ回路20としてもよい。
なお、ダイシングテープの製造時に粘着剤層上に離型処理フィルムを設けていない場合は、そのダイシングテープをそのまま用いればよい。
【0048】
次いで、図3(c)に示すように、ダイシングテープ1の粘着剤層12上のウエハ回路20をダイシングし、複数の半導体デバイス22とする。本発明では、用いるダイシングテープの粘着剤層側の強靭性が優れているため、ダイシング時に半導体デバイスにバリが発生することが抑制される。
ウエハ回路20をダイシングする方法は、公知の方法を採用でき、例えば、レーザーを用いて切断する方法、ダイシング刃を用いて切断する方法等が挙げられる。
【0049】
[工程(b)]
図3(d)に示すように、ダイシングテープ1を引き延ばし、各半導体デバイス22の間に隙間を形成し、各半導体デバイス22をロボット等によりピックアップする。本発明では、用いるダイシングテープが優れた引き延ばし性を有しているため、ダイシング後にダイシングテープを引き延ばすことで各半導体デバイスの間に充分な隙間を形成できるため、半導体デバイスのピックアップが容易である。
【0050】
以上説明した本発明の半導体デバイスの製造方法においては、本発明の製造方法で得られるダイシングテープを用いるため、ダイシング時に半導体デバイスにバリが発生することを抑制でき、また半導体デバイスのピックアップも容易である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[強靭性及びバリ抑制の評価]
各例のダイシングテープの粘着剤層上にウエハ回路を設置し、ダイシング刃を用いて半導体デバイスを形成し、基材フィルムの強靭性及びバリ抑制について以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:基材フィルムが強靭で断面がシャープであり、カットバリの発生もない。
△:基材フィルムが強靭で断面が湾曲せず、カットバリも少なく、使用上問題ない。
×:基材フィルムの強靭性が不足して断面が湾曲し、カットバリも多く、使用できない。
【0052】
[引き延ばし性の評価]
各例のダイシングテープの粘着剤層上にウエハ回路を設置し、ダイシング刃を用いて半導体デバイスを形成し、ダイシングテープを引き延ばして半導体デバイス(チップ)のピックアップ状況を確認し、基材フィルムの引き延ばし性について以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:チップを容易にピックアップできる。
△:チップをピックアップできるが、隣のチップを引っ掛けることがある。
×:チップをピックアップできない。
【0053】
[製造例1]
低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)(製品名「P1845」、Dow社製)を用いて、Tダイを備える押出機により温度180℃で押し出し成形し、厚みがそれぞれ80μm、100μm、200μmの基材フィルムを得た。
【0054】
[製造例2]
製造例1で得た各厚みの基材フィルムの第1の面側に、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(製品名「ルミラー」、東レ社製)をダミーフィルムとしてラミネートして積層フィルムを得た。
【0055】
[例1]
電子線照射装置(製品名「キュアトロン」、NHVコーポレーション社製)を用いて、製造例1で得た各厚みの基材フィルムに対して、表1に示す条件で第1の面側から電子線照射を行った。次いで、基材フィルムの第1の面側に、粘着剤(製品名「S−1511X」、東亞合成社製)を用いて離型処理フィルム(製品名「PET−01−BU」、三井化学東セロ社製)をラミネートした。次いで、該離型処理フィルムを剥離して、基材フィルムと粘着剤層を備えるダイシングテープを得た。
評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、基材フィルムの厚みd1が100μmであるのに対して、加速電圧Pを80kV(P/d1=0.80)とした場合には、基材フィルムは優れた強靭性と引き延ばし性を兼ね備えていた。d1=200μmに対してP=80kV(P/d1=0.40)とした場合、d1=200μmに対してP=150kV(P/d1=0.75)とした場合も、基材フィルムは優れた強靭性と引き延ばし性を兼ね備えていた。このように、0<P/d1<1とした場合には、強靭性に優れ、ダイシング時のバリ発生が充分に抑制され、引き延ばし性にも優れた基材フィルムが得られた。
【0058】
一方、P/d1が1以上の場合には、充分な引き延ばし性が得られなかった。これは、基材フィルムの厚み方向において全体的に電子線架橋が生じたためであると考えられる。
また、電子線照射を行っていない(P/d1=0)基材フィルムは、引き延ばし性には優れるものの、強靭性に劣り、ダイシング時のバリ発生の抑制も不充分であった。
【0059】
[例2]
電子線照射装置(製品名「キュアトロン」、NHVコーポレーション社製)を用いて、製造例2で得た各厚みの積層フィルムに対して、表2に示す条件でダミーフィルム側から電子線照射を行った。次いで、ダミーフィルムを取り除いた後、例1と同様にしてダイシングテープを得た。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示すように、基材フィルムの厚みd1が80μm、ダミーフィルムの厚みd2が100μmであるのに対して、加速電圧Pを150kV((P−d2)/d1=0.63)とした場合には、基材フィルムは優れた強靭性と引き延ばし性を兼ね備えていた。d1=100μm、d2=100μmに対してP=150kV((P−d2)/d1=0.50)とした場合、d1=200μm、d2=100μmに対してP=150kV((P−d2)/d1=0.25)とした場合も、基材フィルムは優れた強靭性と引き延ばし性を兼ね備えていた。また、d1=200μm、d2=100μmに対してP=200kV((P−d2)/d1=0.50)とした場合も、基材フィルムは優れた強靭性と引き延ばし性を兼ね備えていた。このように、0<(P−d2)/d1<1とした場合には、強靭性に優れ、ダイシング時のバリ発生が充分に抑制され、引き延ばし性にも優れた基材フィルムが得られた。
【0062】
一方、(P−d2)/d1が1以上の場合には、充分な引き延ばし性が得られなかった。これは、基材フィルムの厚み方向において全体的に電子線架橋が生じたためであると考えられる。
また、(P−d2)/d1が0以下の場合の基材フィルムは、引き延ばし性には優れるものの、強靭性に劣り、ダイシング時のバリ発生の抑制も不充分であった。
【符号の説明】
【0063】
1 ダイシングテープ
2 積層フィルム
10 基材フィルム
10a 第1の面
10b 第2の面
12 粘着剤層
14 離型処理フィルム
16 ダミーフィルム
20 ウエハ回路
22 半導体デバイス
図1
図2
図3