特許第6744879号(P6744879)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6744879溶加材を用いて溶接によりFeCrAl合金とFeNiCr合金を接合する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6744879
(24)【登録日】2020年8月4日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】溶加材を用いて溶接によりFeCrAl合金とFeNiCr合金を接合する方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20200806BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20200806BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   B23K35/30 320D
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-567616(P2017-567616)
(86)(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公表番号】特表2018-524183(P2018-524183A)
(43)【公表日】2018年8月30日
(86)【国際出願番号】EP2016065334
(87)【国際公開番号】WO2017001575
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2019年5月7日
(31)【優先権主張番号】15174789.6
(32)【優先日】2015年7月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ブロームフェルト, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ラーション, オーサ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレロ, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルソン, アンデシュ
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−277776(JP,A)
【文献】 特開2008−132515(JP,A)
【文献】 特開2001−293596(JP,A)
【文献】 特開2013−188774(JP,A)
【文献】 特開昭58−065596(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0030003(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101288926(CN,A)
【文献】 特開2009−167443(JP,A)
【文献】 特開2014−084493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C 38/00
B23K 9/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
11wt%を上回るクロム含有量、4wt%を上回るアルミニウム含有量、及び残量のFe(及び不可避不純物)を有するFeCrAl合金と11wt%を上回るクロム含有量、20〜60wt%のニッケル含有量、及び残量のFe(及び不可避不純物)を有するFeNiCr合金とを溶加材を用いた溶接により接合する方法であって、溶加材が、重量%(wt%)で:
C 0.01から0.1;
Si 1.5以下;
Mn 2.0以下;
Cr 14.0〜27.0;
Ni 2.0以下;
Mo 1.5以下;
V 0.35以下;
Ti及び/又はZr 0.4から1.0;
Al 0.7以下;
Nb 0.3から1.5;
N 0.02以下;
残量のFe及び不可避不純物
を含む、方法。
【請求項2】
溶加材が、0.015wt%以下のN含有量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶加材が、0.5wt%以下のAl含有量を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
溶加材が、0.25wt%以下のNi含有量を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
溶加材が、18.0から23.0wt%のCr含有量を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶加材が、0.01〜0.08wt%のC含有量を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶加材が、0.5から1.0wt%のTi及び/又はZr含有量を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
溶加材が、0.3から1.0wt%のNb含有量を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
FeCrAl合金及びFeNiCr合金が、チューブ及び/又はストリップの形態である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
溶加材が、ワイヤ又はストリップの形態である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載の組成を有する溶加材により互いに接合される少なくとも一つのFeCrAl合金と少なくともFeNiCr合金とを含む目標物。
【請求項12】
温度が650℃以上である用途における、請求項11に記載の製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の溶加材を用いることによりFeCrAl合金とFeNiCr合金を接合するために溶接を用いる方法に関する。本発明は、それにより得られる製品にも関する。さらに、本発明は、特に高温用途における、前記方法によって得られた製品の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの工業プロセスには、高温及び有害雰囲気が存在する。このような環境において、材料は急速に酸化又は腐食しうる、及び/又は歪みが生じうる。このような環境の一例は、ポリマー製造用のエチレンを得るための熱分解の過程である。これは、使用する材料の耐腐食性及び高温強度に大きな要件を要する。この過程では、メンテナンスの停止及び高価な修理の回数を減らすために、材料の耐用年数を延ばすことが目標である。また、生産性を上げるため、製造過程で温度を上昇させることが目標である。
【0003】
高温用途に用いられる一つの材料は、フェライト系鉄−クロム−アルミニウム(FeCrAl)合金である。多くの場合、FeCrAl合金は、建設材料として使用されるとき、FeNiCr合金のようなオーステナイト系ステンレス鋼であることが多い別の高温材料に接合されなければならない。しかしながら、溶接の機械特性を損なう中間相の形成を困難にする材料化学の差異に起因して、これら二つの材料を溶接により接合することには困難がある。
【0004】
国際公開第2014/204388号には、(重量%で):C:
0.036、Ni:15.0−20.0、Cr:15.0−22.0、Mn:0.75−2.0、Zr:0.1−1.45、Si:0−1.5、Al:0−2、N:<0.06並びに残量のFe及び不可避不純物を含む溶接用フィラーが開示されている。
【0005】
米国特許出願公開第2006/163231号には、重量で、0.03%以下のC、3%以下のSi、3%以下のMn、2%以下のNi、11から20%のCr、3%以下のMo、1%以下のCo、2%以下のCu、0.02から2.0%のAl、0.2から1.0%のTi、0.02%以下のO、0.04%以下のN、並びにNb及びTaの少なくとも一方から本質的になり、その質量%が前記Cと前記Nの総質量パーセントの八倍から1.0質量%であり、残量がFe及び不可避不純物であるフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤが開示されている。
【発明の概要】
【0006】
したがって、溶接の間に形成される脆弱な中間相の形成を最小化及び/又は排除することは、特に接合される目標物が高温用途に使用されるとき、極めて重要である。また、やはり溶接部の機械特性を低下させることになるため、溶接部において脆弱な析出物の連続膜の形成を回避することが重要である。
【0007】
したがって、本発明の一態様は、上記問題のうちの少なくとも一つが低減又は回避される、溶接によるFeCrAl合金とFeNiCr合金との接合方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】A及びBは、750℃で5000時間エージングした溶接サンプルの微細構造を開示している。AはFeNiCr金属フィラーであり、BはFeCrAl金属フィラーである。
図2】A及びBは、溶接したままの及び750℃で5000時間エージングしたときのFeNiCr−金属フィラー−FeCrAlの引っ張り強度を開示している。Aは室温(RT)での、2Bは750℃での同強度をそれぞれ示す。
図3】816℃における破断時間に対する付加応力を開示している。
図4】816℃におけるFeCrAl−金属フィラー−FeNiCrの硬度試験を開示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義
本明細書において、用語「FeCrAl」は、11wt%を上回るクロム含有量、4wt%を上回るアルミニウム含有量、及び残量のFe(及び不可避不純物)を有するFeCrAl合金を意味するものである。このようなステンレス鋼は、フェライト系微細構造を有し、また前記合金を含む目標物の表面に酸化アルミニウムの保護層を形成する。これら合金は、大きなモリブデン含有量も含む。
【0010】
本明細書において、用語「FeNiCr」は、11wt%を上回るクロム含有量、20〜60wt%のニッケル含有量、及び残量のFe(及び不可避不純物)を有するFeNiCr合金を意味するものである。これらFeNiCrステンレス鋼合金は、鉄ベース及びニッケルベースの合金を含め、常にオーステナイト系微細構造を有し、前記合金を含む目標物の表面に酸化クロムの保護層を形成する。
【0011】
本明細書において、用語「wt%」、「重量%」又は「%」は、互換可能に使用され、重量パーセントを意味する。
【0012】
詳細な説明
本発明は、二つの異なる合金を特定の種類の溶加材を用いることにより接合する方法を提供する。したがって、本発明は、FeCrAl合金とFeNiCr合金とを、溶加材を用いる溶接により接合する方法を提供し、この溶加材は(wt%で):
C 0.01から0.1;
Si 1.5以下;
Mn 2.0以下;
Cr 14.0から27.0;
Ni 2以下;
Mo 1.5以下;
V 0.35以下;
Ti及び/又はZr 0.4から1.0;
Al 0.7以下;
Nb 0.3から1.5;
N 0.02以下;
並びに残量のFe及び不可避不純物を含む。
【0013】
したがって、上記又は後述に規定される方法は、異なる材料化学を有する二つ以上の合金を、上記又は後述に規定される溶加材を用いて溶接することにより接合可能であるという発見に基づいており、前記溶加材は、制御された量のN、Al、及びNiを、制御された量のC、Nb、Ti及び/又はZrとの組み合わせで含む。
【0014】
異なる合金、即ちFeCrAl合金とFeNiCr合金は、チューブ及び/又はストリップの形態とすることができ、溶加材は、例えば、溶接の用途に用いるために適したストリップ又はワイヤの形態で提供される。
【0015】
特に、上記又は後述に規定される方法は、FeCrAl合金とFeNiCr合金とを接合するために適しており、得られた製品(目標物及び製品は本明細書において互換可能に使用される)は、高温において良好なクリープ強度並びに耐腐食性を有する。したがって、得られた製品は、高温の用途、即ち650℃以上の温度において使用するために適している。しかしながら、製品は、良好なクリープ強度と良好な耐腐食性が必要とされる他の用途のために使用することもできる。
【0016】
このように、本方法は、最初に言及した脆弱相の影響が回避されるか又は少なくとも最小化される溶接部を提供する。また、上記又は後述に規定される方法により得られる製品は脆弱な析出物の連続膜を有さず、このことは、前記製品が、高温で運転されるプラントにおいて使用される場合、前記製品から作製される部品の耐用年数が延び、それによりメンテナス停止の回数が減少することを意味する。
【0017】
また、上記及び後述に規定される方法は、引っ張り強度、極限引っ張り延び、及び経時的延性といった十分な機械強度を有する製品を提供し、このことは、前記製品が高温用途、即ち650℃を上回る温度において使用されるとき特に有用である。したがって、本発明は、上記又は後述に規定される組成を有する溶加材と共に接合される、少なくとも一つのFeCrAl合金と少なくともFeNiCr合金を含む目標物に関する。さらに、本発明は、高温で運転されるプラント又はプラントの一部に使用される、前記目標物から作製される部品を提供する。
【0018】
ここで、本発明による溶加材の合金要素について記載する。
【0019】
炭素(C):0.01から0.10wt%
Cは、Ti、Zr及びNbとカーバイドを形成するとき、クリープ強度を上昇させる好ましい効果を有する。しかしながら、炭素の濃度が高すぎると、腐食及び酸化特性が低下しうる。したがって、炭素含有量は、0.01〜0.10wt%、例えば0.01〜0.08wt%である。
【0020】
ケイ素(Si):1.5wt%以下
Siは、酸素含有量を低下させ、溶接プールの流動性に対して好ましい効果を有する。ケイ素は、浸炭性に対しても好ましい効果を有する。しかしながら、Siの含有量が多すぎると、中間相の析出傾向が高まる。したがって、Si含有量は1.5wt%以下、例えば0.01から1.5wt%である。
【0021】
マンガン(Mn):2.0wt%以下
Mnは、硫黄を固定することにより熱間延性に好ましい影響を有する。しかしながら、Mn含有量が多すぎると、得られる溶接が脆化しうる。したがって、Mn含有量は2wt%以下に設定される。
【0022】
クロム(Cr):14.0〜27.0wt%
Crは、溶接部の腐食及び酸化特性を改善する。しかしながら、Crの含有量が多すぎると、シグマ相が安定化して脆性材料となる。したがって、Cr含有量は、27.0重量%に制限されるべきである。Cr含有量が少なすぎると、耐腐食性が低下する。したがって、Crの含有量は、溶加材中、14.0から27.0wt%、例えば18.0〜23.0wt%である。
【0023】
ニッケル(Ni):2.0wt%以下
Niは脆弱相の形成、例えばニッケル−アルミニウム化物の形成を増大させうるため、Ni含有量は溶加材中においてできる限り小さく保たれる。脆弱相は、ニッケル−アルミニウム化物の連続膜が形成されるとき、溶接部の強度を弱めることになる。しかしながら、低量のニッケル−アルミニウム化物は、溶接部のクリープ強度に対して好ましい効果を有する。したがって、Niの含有量は、2.0wt%以下、例えば1.0wt%以下、例えば0.5wt%以下、例えば0.25wt%以下、例えば0.1wt%以下、例えば0wt%である。
【0024】
モリブデン(Mo):1.5wt%以下
Moは、クリープ特性を改善し、また、脆弱なシグマ相を安定化する。しかしながら、Moの含有量が多すぎると、中間相の形成が増大する。したがって、Mo含有量は、1.5wt%以下、例えば0.3wt%以下に設定される。
【0025】
バナジウム(V):0.35wt%以下
バナジウムは、クリープ特性を改善し、炭化クロム形成のリスクを低減するカーバイドを形成する。しかしながら、Vの含有量が多すぎると、粗いカーバイド析出物の形成を招き、溶接の機械強度が低下する。したがって、V含有量は、溶加材中において、0.35wt%以下、例えば0.25wt%以下に設定される。
【0026】
アルミニウム(Al):0.7wt%以下
ニッケルアルミニウム化物及び窒化アルミニウムといった析出物の濃度が高いと溶接の易破砕性に繋がるため、溶接部におけるニッケルアルミニウム化物及び窒化アルミニウムの形成を低減するために、アルミニウムは低く保たれる。しかしながら、低濃度のニッケルアルミニウム化物又は窒化アルミニウムは、クリープ強度に対して好ましい効果を有しうる。したがって、Al含有量は、溶加材中において、0.7wt%、例えば0.5wt%未満、例えば0.25wt%未満に設定される。
【0027】
チタン及び/又はジルコニウム(Ti及び/又はZr):0.4から1.0wt%
Ti及びZrは、同等に使用することができ、クリープ特性を改善し且つ炭化クロム形成のリスクを低減するカーバイドを形成する。しかしながら、Ti及び/又はZrの含有量が多すぎると、溶接部の機械特性を低下させる粗い析出物の形成を招く。したがって、Ti及び/又はZrの含有量は、0.4から1.0wt%、例えば0.5から1.0wt%である。
【0028】
ニオブ(Nb):0.3から1.5wt%
ニオブは、クリープ特性を改善し且つ炭化クロム形成のリスクを低減するカーバイドを形成する。しかしながら、Nbの含有量が多すぎると、溶接部の機械特性を低下させる粗い析出物の形成を招く。したがって、Nbの含有量は、0.3から1.5wt%、例えば0.3から1.0wt%である。
【0029】
窒素(N):0.02wt%以下
窒素は、窒化アルミニウムのような脆弱相を生じさせるため、溶加材中において可能な限り低く保たれるべきである。したがって、窒素の含有量は、0.02wt%以下、例えば0.015wt%以下である。
【0030】
残量は鉄(Fe)と不可避不純物である。
【0031】
溶加材中のNi、Al及びNを最小化することにより、得られる溶接部中の窒化アルミニウム(AlN)並びにニッケルアルミナイド(NiAl)の存在が最小化されるか又は場合によっては排除される。さらに、溶接部中に形成される析出物の連続膜がなくなる。中間相の形成の最小化は、溶接される接合部の機械特性に好ましい影響を及ぼす。溶接部においてAlN及びNiAl両方が欠如すること又は低量となることは、いかなる理論にも拘束されないが、Ni、Al及びNの含有量が最小化された溶加材の組成に依存すると考えられる。
【0032】
本発明について、以下の非限定的実施例によりさらに説明する。
【実施例】
【0033】
FeCrAl合金とFeNiCr合金を、溶加材を用いて接合した。TIG(タングステン不活性ガス)を溶接法として用いた。
【0034】
本実施例おいて、用いられたFeCrAl合金はKanthal(登録商標)APMTであり、用いられたFeNiCr合金は、Sandvik Materials Technology AB(以降Sandvik鋼種SanicrTM 31HTという)から取得されたAlloy 800HTであり、用いられた溶加材はSandvik(登録商標)19.LNbTi溶接ワイヤであった。FeCrAl合金とFeNiCr合金はチューブの形態であった。異なる材料の組成を表1に示す(組成はそれぞれの合金の製品シートから得られた)。
【0035】
表1.用いられた合金(Kanthal(登録商標)APMT and SanicroTM 31HT)及び溶加材(Sandvik(登録商標)19.LNbTi)の化学組成
組成の残量はFe及び不可避不純物である。
【0036】
合金は、表2に示す溶接パラメータに従ってTIG法を用いて接合した。
【0037】
表2.溶加材として19.LNbTiを用いるKanthal(登録商標)APMTとSanicroTM 31HTのTIG溶接法による接合に用いられた溶接パラメータ
【0038】
チューブを250〜300℃の温度に予熱し、シールド及びバッキングガスの両方としてアルゴン(99.99%)を用いて250〜300℃の温度でTIG溶接した。溶接後、得られた溶接部に850℃±20℃の温度で30分間溶接後熱処理を行い、その後少なくとも100℃/時間の冷却速度でゆっくりと周囲温度まで冷却した。
【0039】
微細構造に特徴付けられ、機械的に評価される前に、溶接部のサンプルを750℃で5000時間エージングした。
【0040】
エージング後の微細構造的特徴は、Kanthal(登録商標)APMT及びSanicroTM 31HTの両方が、溶加材への融解ラインに沿った析出物の連続膜を有さないことを示した(図1A及びB参照)。しかしながら、アルミン酸ニッケルの小さな析出粒子(図1Aのダークスポット)及びシグマ相が、Kanthal(登録商標)APMTへの融解ラインに沿って見られた。窒化アルミニウムは、Ti及びNbを含む析出物(共に少量)と共に、SanicroTM 31HTへの融解ラインに見られた(図1Bのダークスポット)。少量の析出物は許容可能である。しかしながら、析出物の連続膜が形成される場合、接合部の一体性は、特に熱サイクルの間に影響を受ける。
【0041】
機械特性
図2A及び2Bは、Sandvik(登録商標)19.LNbTi溶加材を用いて溶接されたKanthal(登録商標)APMTとSanicroTM 31HTの、溶接のまま及びエージングした(750℃で5000時間)サンプルの引っ張り強度における差異を示す。図2Aは、室温での差異を、図2Bは750℃における差異を、それぞれ示している。
【0042】
図示のように、エージングは溶接部の引っ張り強度に影響を及ぼした;しかしながら、図示のように、溶接部の機械強度はそれでも高温用途(長時間にわたる)のために十分であった。さらに、溶接のまま及びエージングしたサンプルの両方が、750℃において20〜25%の延びを有しており、このことは、両溶接部が良好な延性を有していたことを意味する。
【0043】
図3は、19.LNbTiを用いて溶接されたKanthal(登録商標)APMTとSanicroTM 31HTの、816℃(1500F)におけるクリープ破断時間に対する付加応力の影響を示す。クリープ破断は溶接部に位置しており、融解ラインのどちらに沿っても位置していない。これは、融解ラインに沿って析出部が存在しないこと、及び得られる製品が良好な延性を有することを示す。これはまた、クリープ破断が溶加材の強度によって制御され、融解ラインに沿ったどのような脆弱析出物の形成にも影響されないことを示す。さらに、溶接部の良好な延性は、FeCrAl合金とFeNiCr合金との接合のために、低含有量のアルミニウム、ニッケル及び窒素を有する溶加材を選択することの利点を示す。
【0044】
図4は、溶接のまま及びエージングしたサンプルの溶接部をHv0.2で測定した場合の硬度プロファイルの差異を示す。測定は、チューブ壁の中心線に沿って実施された。Kanthal(登録商標)APMTはグラフの左側領域に、SanicroTM 31HTはグラフの融解ラインの右側領域に、それぞれ位置している。溶加材は、グラフの融解ライン間に位置している。主要な硬度ピークは存在していない。溶接したままの状態の溶接部の両側の小さな硬度上昇は、エージングにより平滑化される。これは、析出物の存在下においては硬度の上昇が融解ラインに予想されるため、析出物の連続膜が融解ラインのいずれの側にも形成されないことを示している。
【0045】
結論
したがって、結果は、溶加材の組成の選択が基本的重要事項であること、及び得られる溶接部が、高温において極めて良好な機械特性、即ち極めて良好な引っ張り強度、極めて良好な延性、及び極めて良好なクリープ破断時間を有していたことを示すものである。
図1
図2
図3
図4