【文献】
Annette Trickett et. al.,T cell stimulation and expansion using anti-CD3/CD28 beads,Journal of Immunological Methods,2003年,Vol. 275,p251-255
【文献】
D. Teschner et.al.,In Vitro Stimulation and Expansion of Human Tumour-Reactive CD8+ Cytotoxic T Lymphocytes by Anti-CD3/CD28/CD137 Magnetic Beads,Scandinavian Journal of Immunology,2011年,Vol. 74,p155-164
【文献】
Wayne R. Godfrey et. al.,In vitro-expanded human CD4+CD25+ T-regulatory cells can markedly inhibit allogeneic dendritic cell-stimulated MLR cultures,BLOOD,2004年,Vol. 104, No. 2,p453-461
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
a) 表面が多突状であり、かつ少なくとも一種の免疫誘導物質が修飾され、内側から外側に向かってコポリマーコア、ポリマー層、磁性体層、およびシリコンベース層を含む磁性粒子を提供すること、
b) 少なくとも一種の免疫細胞を含む細胞溶液を提供すること、
c) 前記磁性粒子と前記細胞溶液とを接触させて、前記磁性粒子の前記表面上の前記少なくとも一種の免疫誘導物質により前記細胞溶液中の前記少なくとも一種の免疫細胞を活性化および/または増殖させること、
を含む、免疫細胞のインビトロ活性化および/または増殖の方法であって、
前記ポリマー層の材料は前記コポリマーコアの材料と異なり、
前記コポリマーコアがスチレン/ジビニルベンゼンコポリマー、メチルメタクリレート/トリエチレングリコールジメタクリレートコポリマー、メチルメタクリレート/エチレングリコールジメタクリレートコポリマー、スチレン/トリエチレングリコールジメタクリレートコポリマー、スチレン/エチレングリコールジメタクリレートコポリマーまたはメチルメタクリレート/ジビニルベンゼンコポリマーを含み、
前記ポリマー層がカルボキシル基、アミン基またはそれらの組み合わせを含む、方法。
前記少なくとも一種の免疫誘導物質は、抗CD3抗体、抗CD28抗体、抗TCRγ/δ抗体、抗CD83抗体、抗CD137抗体、4−1BBL、抗CD2抗体、抗CD335抗体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の免疫細胞のインビトロ活性化および/または増殖の方法。
前記少なくとも一種の免疫誘導物質が前記磁性粒子の前記表面に修飾される方法は、非共有結合、共有結合、アビジン‐ビオチン相互作用、静電吸着、疎水性吸着またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の免疫細胞のインビトロ活性化および/または増殖の方法。
前記コポリマーコアが、単官能モノマーと二官能モノマーとを共重合して得られるコポリマーを含む、請求項1に記載の免疫細胞のインビトロ活性化および/または増殖の方法。
【背景技術】
【0002】
癌免疫療法は、モノクローナル抗体薬、免疫チェックポイント阻害剤、細胞性免疫療法、および癌ワクチンを含み、そのうち細胞性免疫療法における著しい進歩が非常に注目を集めている。
【0003】
免疫細胞を患者の血液から精製分離した後、免疫細胞を如何に効率的かつ安全に活性化および増殖させるかは、その治療効果に影響する重要な技術である。一般に人体では、抗原提示細胞(antigen presenting cells, APC)が免疫細胞を活性化し、免疫反応を引き起こして異物を殺すが、樹状細胞(dendritic cells, DC)が最も重要な抗原提示細胞である。
【0004】
細胞性免疫療法技術の発展は、人工抗原提示細胞(artificial antigen presenting cells, aAPC)によってインビトロで免疫細胞を活性化および増殖させるという目的をこれまで達成してきた。その中で、aAPCとして遺伝子操作されたフィーダー細胞(feeder cells)の使用は操作性において不便かつ安全性の問題があり、よって磁性を有しかつ迅速に分離されると同時に免疫誘導物質としての特異的抗体で修飾され得る磁性粒子は市場における主流となっている。
【0005】
免疫細胞を活性化および増殖するために現在用いられている市販の磁性粒子はほぼ球形であり、表面修飾抗体も大部分が同じであり、主にαβT細胞の活性化および増殖に使用されるが、γδT細胞に適用できる関連製品は乏しい。さらに、近年、関連研究文献において、磁性粒子そのものの大きさ、弾性、表面抗体の組成および修飾方法がみな免疫細胞の活性化および増殖に影響を及ぼし得ることが指摘されている。
【0006】
したがって、γδT細胞へのさらなる適用のために、免疫細胞を効率的に活性化および増殖させることができる磁性粒子を開発し、表面刺激物質においても更に多元的な選択肢を提供することが早急に必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高効率で免疫細胞を活性化および/または増殖することができる免疫細胞のインビトロ活性化および/または増殖の方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示による免疫細胞のインビトロ活性化および/または増殖の方法は、以下のステップを含む:a)表面が多突状であり、かつ少なくとも一種の免疫誘導物質が修飾され、内側から外側に向かってコポリマーコア、ポリマー層、磁性体層、およびシリコンベース層を含む磁性粒子を提供する。b)少なくとも一種の免疫細胞を含む細胞溶液を提供する。c)磁性粒子と細胞溶液とを接触させて、磁性粒子の表面上の少なくとも一種の免疫誘導物質により細胞溶液中の少なくとも一種の免疫細胞を活性化および/または増殖させる。
【0009】
本発明の一つの実施形態では、磁性粒子の表面は、複数の不規則な形状の突起物を含む。
【0010】
本発明の一つの実施形態では、前記複数の突起物の平均高さは100nm〜5000nmである。
【0011】
本発明の一つの実施形態では、前記磁性粒子の平均直径は1μm〜50μmである。
【0012】
本発明の一つの実施形態では、前記免疫細胞はT細胞、NK細胞、またはそれらの組み合わせを含む。
【0013】
本発明の一つの実施形態では、前記免疫細胞は調節性T細胞を含む。
【0014】
本発明の一つの実施形態では、前記免疫細胞は、αβT細胞、γδT細胞、またはそれらの組み合わせを含む。
【0015】
本発明の一つの実施形態では、前記少なくとも一種の免疫誘導物質は、抗CD3抗体、抗CD28抗体、抗TCRγ/δ抗体、抗CD83抗体、抗CD137抗体、4−1BBL、抗CD2抗体、抗CD335抗体またはそれらの組み合わせを含む。
【0016】
本発明の一つの実施形態では、前記少なくとも一種の免疫誘導物質が磁性粒子の表面に修飾される方法は、非共有結合(non-covalent binding)、共有結合(covalent binding)、アビジン‐ビオチン相互作用(avidin-biotin interaction)、静電吸着(electrostatic adsorption)、疎水性吸着(hydrophobic adsorption)またはこれらの組み合わせを含む。
【0017】
本発明の一つの実施形態では、前記コポリマーコアは、単官能モノマーと二官能モノマーとを共重合することによって得られるコポリマーを含む。
【0018】
本発明の一つの実施形態では、単官能モノマーに対する前記二官能モノマーの体積百分率は、0.4%〜2%である。
【0019】
本発明の一つの実施形態では、前記コポリマーコアは、スチレン/ジビニルベンゼンコポリマー、メチルメタクリレート/トリエチレングリコールジメタクリレートコポリマー、メチルメタクリレート/エチレングリコールジメタクリレートコポリマー、スチレン/トリエチレングリコールジメタクリレートコポリマー、スチレン/エチレングリコールジメタクリレートコポリマーまたはメチルメタクリレート/ジビニルベンゼンコポリマーを含む。
【0020】
本発明の一つの実施形態では、前記ポリマー層は、カルボキシル基、アミン基、またはそれらの組み合わせを含む。
【0021】
本発明の一つの実施形態では、前記磁性体層は、鉄イオン(Fe
2+)、コバルトイオン(Co
2+)、ニッケルイオン(Ni
2+)、またはそれらの組み合わせを含む。
【0022】
本発明の一つの実施形態では、前記シリコンベース層の厚さが少なくとも1nm〜50nmである。
【発明の効果】
【0023】
上記に基づき、従来の球状磁性粒子と比較して、本発明の実施形態によって提供される磁性粒子は、多突起物の表面を有し、外表形の大部分が不規則な形状である免疫細胞に直面するとき、さらには神経細胞に近似する不規則な突起物を有する樹状細胞に直面するときでも、バイオニクスの概念のもとでは、磁性粒子と免疫細胞の接触表面積を増加させることができ、磁性粒子の免疫細胞活性化および/または免疫細胞数の増殖の効果を向上させることができる。
【0024】
さらに、本発明の別の実施形態では、特定の種類の免疫誘導物質を磁性粒子の表面に設計修飾して、磁性粒子をγδT細胞の活性化および増殖に適用できるようにすることにより、現在γδT細胞に応用できる関連製品が乏しいという問題を克服することができる。その結果、免疫細胞を癌免疫療法などへ応用する技術の研究開発を促進する。
【0025】
本発明の上記特徴と優れた点を更に明確に理解できるよう、以下において実施形態を例示するとともに、図面と併せて以下のように詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の実施形態による、免疫細胞をインビトロ活性化および/または増殖するための方法のフローチャートである。
図2は、本発明の実施形態による、免疫細胞をインビトロ活性化および/または増殖するための方法のための磁性粒子の概略図である。
図1及び
図2を併せて参照すると、まず、ステップS10を行い、磁性粒子100を提供し、磁性粒子100の表面は多突状でありかつ少なくとも一種の免疫誘導物質102a、102bが修飾され、そのうち磁性粒子100は内側から外側に向かって、コポリマーコア110、ポリマー層120、磁性体層130およびシリコンベース層140を含む。実施形態の一つでは、磁性粒子100は、平均直径Dを有し、すなわち磁性粒子100の最短直径(例えばD
1)と最長直径(例えばD
2)の平均値は、1μmから50μmの範囲であり得る。実施形態の一つでは、磁性粒子100は、2μmから40μmの平均直径を有することができる。別の実施形態では、磁性粒子100は、3μmから30μmの平均直径を有することができる。さらに別の実施形態では、磁性粒子100は4μmから20μmの平均直径を有することができる。さらに別の実施形態では、磁性粒子100は、2μmから10μmの平均直径を有することができる。
【0028】
前記多突状コポリマーコア110は球形であり、その表面に複数の突起物112を有する。突起物112の平均高さh、すなわち各突起物112の頂部から各突起物112の両底部までを繋いだ線の垂直距離(例えば、高さh
1、h
2、h
3)の平均値は、100nmから5000nmの範囲、例えば、100nm〜500nm、500nm〜1000nm、1000nm〜1500nm、1500nm〜2000nm、2000nm〜2500nm、2500nm〜3000nm、3000nm〜3500nm、3500nm〜4000nm、4000nm〜4500nmまたは4500nm〜5000nmであり得る。実施形態の一つでは、突起物112の平均高さhは、300nm〜4000nmであり得る。別の実施形態では、突起物112の平均高さhは、500nmから3000nmであり得る。さらに別の実施形態では、突起物112の平均高さhは800nmから2000nmであり得る。さらに別の実施形態では、突起物112の平均高さhは1000nmから1800nmの範囲であり得る。実施形態の一つでは、突起物112は表面上に均一にまたは不均一に広がっていてもよく、全体として突起物112は実質的に不規則な突起物である。例えば、突起物112は、乳頭状または球状を含み得るが、これらに限定されない。
【0029】
実施形態のひとつでは、上記多突状コポリマーコア110を形成する方法は、分散重合法、懸濁重合法、または乳化重合法を含み得るが、これらに限定されず、すなわち、前記重合法により少なくとも2種類のモノマーをコポリマーに重合する。実施形態の一つでは、少なくとも2つのモノマーは脂溶性モノマーでもよく、例えば、単官能モノマー、二官能モノマー、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。実施形態の一つでは、それが単官能モノマーと二官能モノマーとの組み合わせである場合、単官能モノマーに対する二官能モノマーの体積百分率は0.4%〜2%、例えば0.5%〜1.8%または0.6%〜1.5%であり得る。
【0030】
さらに、単官能モノマーは、スチレン、メチルメタクリレート、塩化ビニルまたはその他の単官能モノマーのようなモノビニルモノマーでもよい。二官能性モノマーは、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレートなどのジビニルモノマー、または他の二官能性モノマーでもよい。実施形態の一つでは、コポリマーはスチレン/ジビニルベンゼンコポリマー、メチルメタクリレート/トリエチレングリコールジメタクリレートコポリマー、メチルメタクリレート/エチレングリコールジメタクリレートコポリマー、スチレン/トリエチレングリコールジメタクリレートコポリマー、スチレン/エチレングリコールジメタクリレートコポリマーまたはメチルメタクリレート/ジビニルベンゼンコポリマーを含み得るが、これらに限定されない。
【0031】
実施形態の一つでは、前記ポリマー層120は多突状コポリマーコア110を覆い、かつポリマー層120は少なくとも1つの官能基を含んでもよい。そのうち、ポリマー層120の材料は多突状コポリマーコア110とは異なり、かつ官能基は電荷を帯びてもよく、多突状コポリマーコア110の表面が帯電し、それによりその後の磁性体層130の磁性体前駆物質の吸着を促進する。実施形態の一つでは、前記官能基は、負に帯電したものを含み得るが、これらに限定されない。また、官能基は、カルボキシル基、アミン基またはそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されない。特に、
図2ではポリマー層120と多突状コポリマーコア110は区別可能な膜層として描かれているが、ポリマー層120と多突状コポリマーコア110の間には実質的に明確な境界は存在しない。なお、本発明では、多突状コポリマーコアの表面に官能基を有する膜層をまとめてポリマー層と称しているが、実際にはポリマー層120は、具体的に膜層を形成するものではなく、官能基で修飾(modification)された多突状コポリマーコアの表面であってもよい。
【0032】
前記磁性体層130はポリマー層120を覆ってもよい。実施形態の一つでは、ポリマー層120に覆われた多突状コポリマーコア110は、磁性体前駆物質を吸着して、ポリマー層120上に磁性体層130を形成してもよい。実施形態の一つでは、磁性体前駆物質は、鉄イオン(Fe
2+)、コバルトイオン(Co
2+)、ニッケルイオン(Ni
2+)、またはそれらの組み合わせを含み得るが、これらに限定されない。具体的には、磁性体前駆物質は、塩化第一鉄、塩化コバルト、塩化ニッケルなどの上記金属イオンの塩であってもよい。実施形態の一つでは、磁性体層130の表面は小さな突起物を有してもよく、すなわち粗い表面を有してもよい。さらに、磁性体層130は、常磁性体、超常磁性体、強磁性体、フェライト磁性体、またはそれらの組み合わせを含み得るが、それらに限定されない。実施形態の一つでは、磁性体層130は強磁性体でもよい。また、実施形態の一つでは、磁性体層130は実質的に均一な厚さを有し、コポリマーコア110を全面的に覆ってもよい。例えば、磁性体層130の厚さは、20nm〜200nm、例えば、40nm〜100nmであり得る。
【0033】
前記シリコンベース層140は磁性体層130を覆っていてもよい。実施形態の一つでは、シリコンベース層140の材料は、シロキサン、シリコンガラス、酸化ケイ素、ケイ酸塩、またはそれらの組み合わせを含み得るが、これらに限定されない。具体的には、シリコンベース層140は、テトラメトキシシラン(tetramethoxysilane, TMOS)、テトラエトキシシラン(tetraethoxysilane, TEOS)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(3-Aminopropyltriethoxysilane, APTES)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(3-Glycidoxypropyltrimethoxysilane, GOPTS)などの材料を含んでもよい。さらに、実施形態の一つでは、シリコンベース層140の厚さは、1nmから50nmとすることができ、5nmから40nm、10nmから35nm、15nmから30nm、または10nmから20nmでもよい。
【0034】
実施形態の一つでは、多突状コポリマーコア110上に順次形成されたポリマー層120、磁性体層130、およびシリコンベース層140は実質的に多突状コポリマーコア110の形態を変化させないので、形成された磁性粒子100は依然として多突状の外表を有する。これにより、磁性粒子100と免疫細胞との表面積を大幅に増大させることができ、磁性粒子100の最密充填が容易になる。
【0035】
実施形態の一つでは、免疫誘導物質102a、102bは、免疫応答を誘発することができる任意の物質でもよく、特定の種類のペプチド、タンパク質またはフラグメントを含み得るが、これらに限定されない。実施形態の一つでは、増殖および/または活性化する免疫細胞の種類に対して、特定の種類の抗体を免疫誘導物質102a、102bとして選択することができる。例えば、免疫誘導物質102a、102bは、抗CD3抗体(anti-CD3)、抗CD28抗体(anti-CD28)、抗TCRγ/δ抗体(anti-TCR γ/δ)、抗CD8
3抗体(anti-CD8
3)、抗CD137抗体(anti-CD137)、4−1BBL(4−1BBリガンド(Ligand)、またはCD137リガンド)、抗CD2抗体(anti-CD2)、抗CD335抗体(anti-CD335)またはこれらの組み合わせを含んでもよい。実施形態の一つでは、T細胞を活性化するために、免疫誘導物質102a、102bの選択として、抗CD3抗体および抗CD28抗体などの少なくとも二種の異なる抗体を含んでもよいが、これに限定されない。特に注意すべきこととして、
図2には2つの異なる免疫誘導物質102a、102bが例示されているが、他の実施形態では、磁性粒子100の最外面は同一種の免疫誘導物質を含む、或いは二種以上の異なる免疫誘導物質を含んでもよい。また、
図2における免疫誘導物質102a、102bの配置は例示に過ぎず、免疫誘導物質の配置を限定するものではない。
【0036】
実施形態の一つでは、免疫誘導物質102a、102bは、免疫細胞との接触を容易にするために、磁性粒子100の最外面に均一に分布させてもよい。別の実施形態では、免疫誘導物質102a、102bはシリコンベース層140の表面上に修飾することもできる。前記免疫誘導物質102a、102bが磁性粒子100の表面に修飾される方法は、非共有結合、共有結合、アビジン‐ビオチン相互作用、静電吸着、疎水性吸着、またはそれらの組み合わせを含み得るが、これらに限るものではなく、その他の適切な結合方法でもよい。さらに、別の実施形態では、免疫誘導物質102a、102bは、カップリング剤によってシリコンベース層140の表面上に修飾されてもよい。カップリング剤は、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン((3-Glycidyloxypropyl)trimethoxysilane)、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン((3-Glycidyloxypropyl)triethoxysilane)、取りエトキシシラン‐ポリエチレン-グリコール-N-ヒドロキシスクシンイミド(triethoxysilane-polyethylene-glycol-N-hydroxysuccinimide)或いはこれらの組合せを含み得るが、これらに限らない。
【0037】
次に、
図1および
図2を参照すると、ステップS20が実行され、細胞溶液を提供し、該細胞溶液は少なくとも一種の免疫細胞を含む。実施形態の一つでは、免疫細胞は、αβT細胞、γδT細胞、調節性T細胞、NK細胞、またはそれらの組み合わせを含み得るが、これらに限定されない。他の実施形態では、免疫細胞は、例えば、γδT細胞である。
【0038】
その後、引き続き
図1および
図2を参照し、ステップS30が実行され、磁性粒子100を細胞溶液と接触させて、磁性粒子100の表面上の少なくとも一種の免疫誘導物質102a、102bにより細胞溶液中の少なくとも一種の免疫細胞を活性化および増殖させることができる。実施形態の一つでは、免疫細胞はγδT細胞を例とすると、磁性粒子100の表面上の免疫誘導物質102a、102bは、抗TCRγ/δ抗体(anti-TCR γ/δ)および4−1BBLでもよい。実施形態の一つでは、前記接触は、ほぼ同数の磁性粒子100と免疫細胞を混合することによって接触の目的を達成してもよい。
【0039】
前記免疫細胞の生細胞数の細胞増殖率は、細胞型、個体差、培養環境の違いによって異なる。培養環境に関しては、実際の必要に応じて所望の培養の規模を選択することができ、例えば、小規模培養環境(例えば、6ウェル培養プレート)における免疫細胞の生細胞数の細胞増殖率は、20〜120倍とすることができ、例えば30〜110倍、40〜100倍などであるが、これらに限定されない。大規模培養環境(例えば、バイオリアクター(bioreactor))における免疫細胞の生細胞数の細胞増殖率は、100〜8000倍、例えば、500〜7000倍、800〜6000倍などであり得るが、これらに限定されない。特定の実施形態では、ある種の免疫細胞の生細胞数の細胞増殖率は、数万倍に達することさえあり得る。一般的に、免疫細胞の生細胞数の平均増殖率は20〜1000倍であり得る。実施形態の一つでは、免疫細胞の生細胞数の平均増殖率は30〜900倍であり得る。別の実施形態では、免疫細胞の生細胞数の平均増殖率は、40〜800倍であり得る。
【0040】
さらに、実施形態の一つでは、磁性粒子100は残留磁気を有していてもよく、すなわち、印加磁場が除去された後、磁性粒子100の磁気特性はそれに伴い消失することはなく、なおも磁性を有する。これにより、実施形態の一つにおいて、磁性粒子100が細胞溶液中に分散されている場合、磁性粒子100は残留磁気によって一列に配列され得るが、一列のみに限定されるものではなく、配列される磁性粒子100は、全体の表面積が大きいため、免疫細胞と接触する可能性が高くなる。また、実施形態の一つでは、複数列の磁性粒子100を免疫細胞と群に凝集させて、免疫細胞の活性化および/または増殖を促進することができる。
【0041】
前記磁性粒子は、人体内の最も強力な抗原提示細胞(antigen presenting cell, APC)に類似し、さらには樹状細胞(dendritic cell, DC)に類似した多突状表面を有する。したがって、バイオニクスの概念の下では、多突状の磁性粒子は免疫細胞と大きな表面積をもって接触することができ、免疫細胞の活性化および/または増殖に効率的に役立つと考えられる。
【0042】
以下、具体的な実験例を挙げて、免疫細胞をインビトロ活性化および/または増殖させる方法を具体的に説明する。
【0043】
実験例1:免疫誘導物質を多突状磁性粒子の表面へ修飾
【0045】
まず、平均直径がそれぞれ2.5μm、4.5μm、8.5μmであり、電子顕微鏡(10000倍)で
図3A〜
図3Cに示すような形態を有する本発明で開示する3種類の多突状磁性粒子を用意する。また、平均直径4.5μmの多突状磁性粒子を例にとり、ヒステリシス曲線解析チャートを
図4に示す。一般的に、磁場強度が0のとき、ヒステリシス曲線が一致し、磁化の強さが0のときは常磁性であり、ヒステリシス曲線が重ね合わせることができないときは強磁性である。
図4から分かるように、これらの多突状磁性粒子は強磁性を有する。
【0046】
1グラムの多突状磁性粒子、100mLの脱イオン水、500mLのエタノール、30mLのアンモニア(NH
4OH)、および0.1mLの3?アミノプロピルトリエトキシシラン(3-Aminopropyltriethoxysilane, APTES)を反応器に入れ、室温下で1時間撹拌反応させた。反応終了後、多突状磁性粒子をマグネットで回収した。次に、反応溶液を除去し、脱イオン水を加えて多突状磁性粒子を洗浄した後、脱イオン水で3回洗浄を繰り返して、表面にアミン基が修飾された多突状磁性粒子を得た。
【0048】
まず、100μLの4−モルホリンエタンスルホン酸(4-Morpholineethanesulfonic acid, MES)緩衝液(25mM、pH5.0)を用いて、上記のような表面にアミン基が修飾された約7×10
7個の多突状磁性粒子を3回洗浄した。次に、20mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride, EDC)、20mgのN-ヒドロキシコハク酸イミドナトリウム塩(N-Hydroxysulfosuccinimide sodium salt, NHS)および4mgのポリアクリル酸(poly acrylic acid, PAA,15 kDa)を400μLのMES緩衝液に溶解し、次いで洗浄後の多突状磁性粒子と混合し、室温で30分間反応させた。反応終了後、多突状磁性粒子をマグネットで回収した。
【0049】
次に、反応溶液を除去し、100μLのMES緩衝液で多突状磁性粒子を3回洗浄した後、10μLの抗CD3抗体(ebioscience社製)、60μLの抗CD28抗体(ebioscience社製)、及び130μLのMES緩衝液を含む混合溶液を加えて、4℃で一晩反応させた。その後、200μLのヒト血清アルブミン(human serum albumin, HSA,Sigma社製)溶液(10mg/mL、MES緩衝液で調製)を添加し、4℃で再び一晩反応させた。
【0050】
反応終了後、多突状磁性粒子をマグネットで回収した。次に、反応溶液を除去し、0.1%のHSAおよび2mMのエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid, EDTA)を含むPBS緩衝液で各回少なくとも5分間かけて多突状磁性粒子を3回洗浄し、次いで0.1%のHSAを含むPBS緩衝液で多突状磁性粒子を3回洗浄した。最後に、免疫誘導物質の修飾が完了した多突状磁性粒子を、0.1%のHSAを含有するPBS緩衝溶液1.75mL中に分散させて、濃度4×10
7個/mLの表面に免疫誘導物質が修飾された多突状磁性粒子を得た。
【0051】
実験2:免疫誘導物質が修飾された多突状磁性粒子によるT細胞の活性化および/または増殖
【0053】
商品マニュアルに推奨される割合に基づき、10mLの血液を0.5mLのT細胞分離試薬(商品名RosetteSep Human T Cell enrichment cocktail、Stemcell社製)と混合し、20分間反応させた後、ピペット(pipette)を用いて、2%のウシ胎児血清を含むPBS緩衝液を等量混合して細胞溶液を得た。次に、15mLのT細胞分離溶液を含む密度勾配遠心分離管に細胞溶液を加え、そして回転速度1200rcfで20分間遠心分離した。その後、細胞上澄み液を新しい遠心分離管に移し、再度回転速度300rcfで10分間遠心分離した。次に、上澄み液を除去した後、2%のウシ胎児血清を含む5mLのPBS緩衝液で細胞を再構成し、20mLの赤血球溶解液(商品名RBC lysis buffer、Stemcell社製)を加えて4℃で10分間反応させて、さらに回転速度300rcfで8分間遠心分離した。次に、5mLの細胞培養液(10%のウシ胎児血清(fetal bovine serum, FBS、BI社製)を含有するRPMI1640培養液、Gibco社製)で細胞を再構成し、そして回転速度300rcfで8分間遠心分離した後、細胞を1回洗浄した。最後に、細胞培養液を用いて細胞を再構成して、高純度(例えば90〜97%)のT細胞溶液を得た。
【0055】
実験例1で得られた5×10
5個の免疫誘導物質が表面に修飾された多突状磁性粒子を0.2mLの細胞培養液で3回洗浄した後、多突状磁性粒子を0.15mLの細胞培養液に分散させた。次に、実験例2の(1)で得られた5×10
5個のT細胞と、培養液中に分散されかつ表面に免疫誘導物質が修飾された多突状磁性粒子とを混合し、総体積が0.5mLとなるように細胞培養液を補って、T細胞液を得た。また、比較例として、市販の球状磁性粒子(Dynabeads(R))と前記実験例2(1)で得られた5×10
5個のT細胞を混合してT細胞液とした。次に、実験群と比較群のT細胞溶液をそれぞれ24ウェル培養プレート(Corning社製)に入れ、5%の二酸化炭素を含む37℃のインキュベーター内でT細胞を刺激培養した(このときを培養の第0日目と称する)。
【0056】
その後、培養2日目に細胞培養液0.5mLを加え、培養5日目にピペットを用いてT細胞と磁性粒子を散布した。その後、T細胞と磁性粒子の混合物をマイクロチューブに移し、マイクロチューブをマグネットベース上に置いて磁性粒子をマイクロチューブの管壁に引き付け、免疫誘導物質の刺激を受けたが磁性粒子を含まない懸濁細胞液を6ウェル培養プレートに移した(Corning社製)。次に、前記刺激を受けたが磁性粒子を含まない懸濁細胞溶液の総体積および細胞濃度を測定し、該細胞液濃度を0.5〜1×10
6個/mLに調整し、それを新しい培養プレートに入れて、5%の二酸化炭素を含む37℃のインキュベーターに戻して培養を続けた。
【0057】
その後、培養6〜8日目には、ピペットを用いてT細胞を均一に分散させた後、細胞液の総体積と細胞濃度を測定し、刺激された後のT細胞溶液の濃度を0.5〜1×10
6個/mLに調整した後、インキュベーターに戻して培養を続ける工程を毎日繰り返した。培養9〜12日目には、ピペットを用いてT細胞を均一に分散させ、細胞液の総体積と細胞濃度を測定し、0日目の細胞濃度を対照基準として、9〜12日目のT細胞の平均増殖率を計算する工程を毎日繰り返した。
【0058】
図5Aから5Dはそれぞれ市販の磁性粒子、平均直径が2.5μm、4.5μm、および8.5μmの多突状磁性粒子を使用してT細胞の活性化および/または増殖を行った、異なる培養日における細胞数をそれぞれ示し、これらのうち、市販の磁性粒子を比較群として用いた。
【0059】
図5A〜
図5Dの結果によれば、9日目には、比較群と比較したT細胞の平均増殖倍率は26.64であり、平均直径2.5μm、4.5μmおよび8.5μmの多突状磁性粒子を用いて処理を行った実験群のT細胞の平均増殖倍率は、それぞれ29.20、31.39、および29.89であった。また、9日目以降、比較群のT細胞の平均増殖率は徐々に減少するか、または横ばいになる傾向があり、一方、実験群のT細胞の平均増殖率は増加し続けた。その中でも、4.5μmの磁性粒子(すなわち、
図5(c)に示すもの)で達成できる増殖効率が最も顕著であり、90以上の増殖倍率に達している。
【0060】
実験例3:異なる比率の2つの抗体で修飾された多突状磁性粒子によるT細胞の活性化および/または増殖
【0061】
実験例3の操作手順は実験例2と同じであり、主な違いは、実験例3は試験対象として4.5μmの磁性粒子を用い、免疫誘導物質の修飾割合は抗CD3抗体と抗CD28抗体を1:2、1:6及び1:10の割合で抗体混合液を調製し、それぞれ前述の4.5μmの磁性粒子を修飾するのに用いた。本実験例では、市販の球状磁性粒子(Dynabeads(R))を比較群として同時に用いたが、市販の球状磁性粒子上の抗体の割合は確認できなかった。
【0062】
図6A〜6Dは、それぞれ市販の磁性粒子(Dynabeads(R))、表面に抗体が修飾されかつ抗CD3抗体と抗CD28抗体の割合がそれぞれ1:2、1:6及び1:10である多突状磁性粒子を用いてT細胞の活性化および/または増殖を行った異なる培養日数での細胞数を示している。
図6A〜6Dより、比較群と比較して(
図6A,Dynabeads(R))、実験群の表面が異なる割合の抗体で修飾された磁性粒子(
図6B、抗CD3抗体:抗CD28抗体=1:2。
図6C、抗CD3抗体:抗CD28抗体=1:6。
図6D、抗CD3抗体:抗CD28抗体=1:10)は、どれもT細胞を効果的に活性化および/または増殖できることがわかる。
【0063】
実験例4:活性化および/または増殖したT細胞の特性分析
【0064】
フローサイトメーター(SONY SA3800)を使用して、前記本発明の多突状磁性粒子の活性化および/または増殖後のT細胞の特性分析を行うとともに、2種の市販製品(磁性粒子および修飾抗体を含むが、商品中ではその修飾抗体が抗CD3抗体と抗CD28抗体であることしか示されておらず、修飾抗体の割合は提供されていない)を介して活性化および/または増殖した後のT細胞(比較群1及び比較群2)についても比較を行なった。比較群1は市販の製品TransAct
TM T Cell reagent(Miltenyi Biotec)で活性化および/または増殖したT細胞であり、比較群2は市販の製品Dynabeads(R) Human T-Activator CD3/CD28(ThermoFisher))で活性化および/または増殖したT細胞である。実験群は、表面に抗体が修飾され、かつ抗CD3抗体と抗CD28抗体の割合が1:6である前述の多突状磁性粒子により活性化および/または増殖されたT細胞であり、処理を行っていない第0日目の初動細胞を対照群とした。結果は
図7A〜7Cに示すとおりである。
【0065】
図7Aから
図7Cを参照すると、比較群1(TransAct
TM)および比較群2(Dynabeads(R))と比較して、実験群のT細胞(すなわち、本発明の修飾された多突状磁性粒子により活性化および/または増殖されたT細胞)は以下の特性を有する:(1)CD4
+T細胞とCD8
+T細胞の割合は1:1に最も近い(
図7A)。(2)セントラルメモリーT細胞 (central memory T cell, TCM)がエフェクターメモリーT細胞(TEM)より高い割合を占める(
図7B)。(3)4つの免疫抑制分子(PD-1(programmed cell death-1)、CTLA−4(cytotoxicT-lymphocyte-associated antigen 4)、TIM−3(T-cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3)およびLAG−3(lymphocyte-activation gene 3)を有するT細胞の総数は最も少なかった(
図7C)。
【0066】
要約すると、本明細書に公開される磁性粒子は、多突状表面を有し、人体における機能が最も強力な抗原提示細胞に類似し、さらには樹状細胞にまで類似する。したがって、バイオニクスの概念の下では、多突状磁性粒子は免疫細胞と大きな表面積で接触することができ、これは免疫細胞の活性化および/または免疫細胞数の増加の効率に役立つと考えられる。
【0067】
さらに、本発明の実施形態の磁性粒子は、その表面に特定の種類の免疫誘導物質を設計および修飾することによって、磁性粒子をγδT細胞の活性化と増殖に応用することができ、それによってγδT細胞に応用できる関連製品が乏しいという課題を克服することができる。例えば、実施形態の一つでは、全血から分離された末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell, PBMC)を供給源として、免疫誘導物質で修飾された多突状磁性ビーズを使用すると、γδT細胞の増殖倍率を約1.2〜3.5倍に高めることができる。さらに、磁性粒子は磁性と特定の免疫誘導物質を有するので、迅速な分離と免疫誘発反応という利点を有し、これにより免疫細胞を癌免疫療法などの技術の研究と発展に応用することに役立つ。
【0068】
以上のように、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。