特許第6745530号(P6745530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6745530
(24)【登録日】2020年8月6日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】炭酸カルシウム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20200817BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20200817BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200817BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20200817BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   C01F11/18 D
   C08K3/26
   C08L101/00
   C08K9/00
   C08K7/00
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-36651(P2017-36651)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-140902(P2018-140902A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 麻弥
(72)【発明者】
【氏名】江口 健一郎
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−090822(JP,A)
【文献】 特開昭62−017020(JP,A)
【文献】 特開昭60−090819(JP,A)
【文献】 特公昭47−022944(JP,B1)
【文献】 特開2009−155120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00− 17/00
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム含有量が12000〜120000ppmであり、BET比表面積が60〜120m/gであり、(104)面の結晶子サイズが20〜50nmであり、各粒子が連鎖状に連なっていることを特徴とする炭酸カルシウム。
【請求項2】
X線回折パターンにおいて、マグネシウム化合物に起因するピークが認められないことを特徴とする請求項1に記載の炭酸カルシウム。
【請求項3】
カルサイトの結晶構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の炭酸カルシウム。
【請求項4】
脂肪酸、樹脂酸、及びこれらの誘導体、シリカ、カップリング剤、有機ケイ素化合物、並びに縮合リン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理剤で表面処理されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭酸カルシウム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭酸カルシウムを製造する方法であって、
水酸化マグネシウムが添加された水酸化カルシウムの水分散体を調製する工程と、
前記水分散体に炭酸ガスを導入して炭酸カルシウムを生成する工程を備えることを特徴とする炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
前記水酸化マグネシウムの前記水酸化カルシウムに対する添加量が、15000〜160000ppmであることを特徴とする請求項5に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭酸カルシウムを含有することを特徴とするポリマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、シーラントや、ゴム、プラスチックなどの用途に幅広く用いられており、特に微細な炭酸カルシウムは、これらの用途において物性を向上させる目的で無機フィラーとして用いられている。ポリマーを補強する観点から、理論的には、炭酸カルシウムの粒子径を小さくすればするほど、補強効果を高めることができる。しかしながら、実際には、炭酸カルシウムの粒子径が小さくなると、粒子同士が凝集し、凝集体となるため、ポリマー中において分散させることが困難となる。このため、粒子径を小さくしすぎると、高い補強効果が得られないことが知られている。
【0003】
特許文献1においては、水酸化カルシウムスラリーに炭酸ガスを吹き込み炭酸化する際に、炭酸化の反応途中で水溶性のマグネシウム塩を添加することにより、連鎖状の微細な炭酸カルシウムが得られることが報告されている。また、最も粒子径の小さいゴム配合用の炭酸カルシウムの市販品として、白艶華O(白石工業社製)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭47−22944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された連鎖状の炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの市販品である白艶華Oを超える補強効果を示すものではなかった。従って、従来より、白艶華Oを超える補強効果を示す炭酸カルシウムが望まれている。そのためには、粒子径が小さく、かつポリマー中において分散が容易な炭酸カルシウムを開発する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、粒子径が小さく、かつポリマー中において分散が容易な炭酸カルシウム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭酸カルシウムは、マグネシウム含有量が12000〜120000ppmであり、BET比表面積が60〜120m/gであり、(104)面の結晶子サイズが20〜50nmであり、各粒子が連鎖状に連なっていることを特徴としている。
【0008】
本発明の炭酸カルシウムは、X線回折パターンにおいて、マグネシウム化合物に起因するピークが認められないことが好ましい。
【0009】
本発明の炭酸カルシウムは、カルサイトの結晶構造を有することが好ましい。
【0010】
本発明の炭酸カルシウムは、脂肪酸、樹脂酸、及びこれらの誘導体、シリカ、カップリング剤、有機ケイ素化合物、並びに縮合リン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理剤で表面処理されていてもよい。
【0011】
本発明の製造方法は、水酸化マグネシウムが添加された水酸化カルシウムの水分散体を調製する工程と、前記水分散体に炭酸ガスを導入して炭酸カルシウムを生成する工程を備えることを特徴としている。水酸化マグネシウムの水酸化カルシウムに対する添加量は、15000〜160000ppmであることが好ましい。
【0012】
本発明のポリマー組成物は、上記本発明の炭酸カルシウムを含有することを特徴としている。
【0013】
本発明の炭酸カルシウムは、上記本発明の製造方法により製造されたことを特徴している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒子径が小さく、かつポリマー中において分散が容易な炭酸カルシウムにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例4の炭酸カルシウムを示す透過型電子顕微鏡写真(80000倍)である。
図2】比較例4の炭酸カルシウムを示す透過型電子顕微鏡写真(80000倍)である。
図3】実施例2、4、及び5の炭酸カルシウムのX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<炭酸カルシウム>
(マグネシウム含有量)
本発明の炭酸カルシウムは、マグネシウム含有量が12000〜120000ppm(mg/kg)である。マグネシウム含有量を上記の範囲内にすることにより、炭酸化反応後の加熱工程において炭酸カルシウムの結晶成長を抑制することができ、微細な炭酸カルシウムにすることができる。
【0018】
マグネシウム含有量は、15000〜100000ppmの範囲であることが好ましく、20000〜90000ppmの範囲であることがさらに好ましい。
【0019】
マグネシウム含有量(ppm)は、炭酸カルシウム(kg)に対するマグネシウムの金属元素換算の値(mg)である。マグネシウム含有量は、例えば、ICP発光分析装置で測定することができる。
【0020】
(BET比表面積)
本発明の炭酸カルシウムは、BET比表面積が60〜120m/gである。BET比表面積は、60〜110m/gであることが好ましく、70〜100m/gであることがより好ましく、80〜100m/gであることがさらに好ましい。
【0021】
BET比表面積は、全自動比表面積測定装置などを用いて測定することができる。
【0022】
((104)面の結晶子サイズ)
本発明の炭酸カルシウムにおける(104)面の結晶子サイズは、20〜50nmである。(104)面の結晶子サイズは、20〜45nmであることが好ましく、20〜40nmであることがより好ましく、20〜30nmであることがさらに好ましい。
【0023】
(104)面の結晶子サイズは、X線回折パターンの(104)面のピークの積分値からシェラーの式を用いて算出することができる。
【0024】
(炭酸カルシウムの形状)
本発明の炭酸カルシウムは、各粒子が連鎖状に連なっていることを特徴としている。このような連鎖状の形状を有することにより、BET比表面積が大きく、粒子径が小さいにもかかわらず、強固に凝集することなく安定して存在することができるものと思われる。また、各粒子が連鎖状に連なっており、かつ上記範囲のBET比表面積及び(104)面の結晶子サイズを有することにより、ポリマー中において分散が容易な炭酸カルシウムにすることができる。
【0025】
炭酸カルシウムの形状は、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡などで観察することができる。
【0026】
(X線回折パターンにおける特性)
本発明の炭酸カルシウムは、X線回折パターンにおいて、マグネシウム化合物に起因するピークが認められないことが好ましい。ピークが認められないマグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、正炭酸マグネシウムが挙げられる。ここで、「ピークが認められない」とは、ピーク強度が、(104)面における炭酸カルシウムのピークのピーク強度の1/100以下であることを意味する。
【0027】
本発明の炭酸カルシウムは、カルサイトの結晶構造を有することが好ましい。
【0028】
<表面処理>
本発明の炭酸カルシウムは、表面処理されたものであってもよい。例えば、脂肪酸、樹脂酸、及びこれらの誘導体、シリカ、カップリング剤、有機ケイ素化合物、並びに縮合リン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理剤で表面処理されていてもよい。
【0029】
表面処理量は、使用する表面処理剤、炭酸カルシウムの粒子径及び表面処理の目的などによって適宜調整される。表面処理量は、例えば、炭酸カルシウム100質量部に対して、0.2〜20質量部の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜10質量部の範囲内である。
【0030】
表面処理炭酸カルシウムの場合、表面処理する前の炭酸カルシウムが本発明の範囲のBET比表面積を有していてもよいし、表面処理後の炭酸カルシウムが本発明の範囲のBET比表面積を有していてもよい。
【0031】
(脂肪酸、樹脂酸及びこれらの誘導体)
脂肪酸及びその誘導体は、特に限定されない。脂肪酸及びその誘導体としては、例えば脂肪酸、その金属塩、そのエステル化物などが挙げられる。
【0032】
脂肪酸としては、例えば炭素数6〜31の飽和または不飽和の脂肪酸が挙げられる。
【0033】
飽和脂肪酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アライン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸などが挙げられる。これらの中でも、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが好ましく用いられる。
【0034】
また、不飽和脂肪酸の具体例としては、オブッシル酸、カルロレイン酸、ウンデシレン酸、リンデル酸、ツズ酸、フィゼテリン酸、モリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アスクレビン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、ゴンドイン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、セラコレイン酸、キシメン酸、ルメクエン酸、ソルビン酸、リノール酸などが挙げられる。
【0035】
脂肪酸の金属塩としては、例えば、上記脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。これらの中でも上記脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましい。
【0036】
脂肪酸のエステル化物としては、例えば、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ラウリル、パルミチン酸ステアリル、パルミチン酸ラウリルなどが挙げられる。
【0037】
より好ましい脂肪酸及びその誘導体としては、炭素数9〜21の飽和脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。これらの中でも、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などのナトリウム塩が特に好ましい。
【0038】
樹脂酸及びその誘導体は、特に限定されない。樹脂酸及びその誘導体としては、例えば樹脂酸、その金属塩、その他の誘導体などが挙げられる。
【0039】
樹脂酸の具体例としては、アビエチン酸、ピマル酸、レポピマール酸、ネオアビエチン酸、パルストリン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラアビエチン酸、デキストロピマール酸、イソデキストロピマール酸などが挙げられる。
【0040】
樹脂酸の金属塩としては、例えば上記樹脂酸のナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0041】
また、樹脂酸の誘導体としては、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、ロジンエステル、マレイン化ロジン、マレイン化ロジンエステル、ロジン変成フェノールなども挙げられる。
【0042】
好ましい樹脂酸及びその誘導体としては、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、テトラアビエチン酸、ピマル酸、デキストロピマール酸、水添ロジン、不均化ロジン、マレイン化ロジンが挙げられる。
【0043】
炭酸カルシウムを脂肪酸、樹脂酸及びこれらの誘導体の少なくとも1種で表面処理する方法は特に限定されない。
【0044】
表面処理は、例えば、炭酸カルシウムと水とを含むスラリーに、脂肪酸、樹脂酸及びこれらの誘導体の少なくとも1種を添加した後、脱水、乾燥する方法などが採用できる。例えば、脂肪酸のアルカリ金属塩で炭酸カルシウムを表面処理する具体的な方法としては、次のような方法が挙げられる。
【0045】
脂肪酸を水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ金属水溶液中で加熱しながら、脂肪酸のアルカリ金属水溶液にする。次に、炭酸カルシウムと水とのスラリーに、脂肪酸のアルカリ金属水溶液を添加して攪拌する。これにより、炭酸カルシウムの表面を脂肪酸で表面処理することができる。
【0046】
炭酸カルシウムと水とのスラリー中の炭酸カルシウムの固形分の含有量は、炭酸カルシウムの平均粒子径、炭酸カルシウムのスラリー中への分散性、スラリー脱水の容易さなどを考慮して適宜調整すればよい。一般的には、スラリーの固形分含有量を2〜30質量%程度、好ましくは5〜20質量%程度となるように調整することにより、適度な粘度のスラリーとすることができる。
【0047】
スラリーの脱水は、例えばフィルタープレスなどの方法によって行えばよい。また、乾燥は、例えば箱型乾燥機などによって行えばよい。
【0048】
また、脂肪酸を脂肪酸の金属塩とはせずに、脂肪酸を用いて炭酸カルシウムの表面を処理することもできる。例えば、炭酸カルシウムを、脂肪酸の融点以上の温度に加温しながら攪拌し、これに脂肪酸を添加して攪拌することにより、脂肪酸で炭酸カルシウムの表面を処理することができる。同様にして、脂肪酸のエステルの融点以上に炭酸カルシウムを加温しながら攪拌し、これに脂肪酸のエステルを添加することにより、脂肪酸のエステルで炭酸カルシウムの表面を処理することができる。
【0049】
(シリカ)
炭酸カルシウムに対するシリカ処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法により、炭酸カルシウムの表面にシリカを付着させてシリカ層を形成し、シリカ処理することができる。
【0050】
炭酸カルシウムのスラリーに、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)の水溶液を添加した後、無機酸あるいは有機酸などの酸性物質を用いて中和し、炭酸カルシウムの表面にシリカを付着させる。その後、シリカ処理した炭酸カルシウムのスラリーを脱水、乾燥することにより、シリカ処理炭酸カルシウムの粉末を得ることができる。
【0051】
また、炭酸カルシウムに金属アルコキシドの溶液を添加した後、金属アルコキシドの溶液を加水分解することで、金属アルコキシドゾルを析出させ、これを炭酸カルシウムの表面に付着させることによりシリカ層を形成する方法が挙げられる。
【0052】
(カップリング剤)
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤などが挙げられる。シラン系カップリング剤としては、後述する有機ケイ素化合物において例示するようなものが挙げられる。これらのカップリング剤は、上記のシリカ処理炭酸カルシウムに対して表面処理してもよい。
【0053】
表面処理方法としては、湿式処理及び乾式処理が挙げられる。
【0054】
(有機ケイ素化合物)
有機ケイ素化合物としては、シランカップリング剤、反応性官能基を有するシリコーンオイル、シラザンなどが挙げられる。
【0055】
シランカップリング剤としては、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリル基などの官能基を有するシランカップリング剤などが挙げられる。また、官能基を有しないシランカップリング剤を用いてもよい。
【0056】
反応性官能基を有するシリコーンオイルとしては、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン・メチルハイドロジェンポリシロキサン共重合体、アミノ変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、シラノール変性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0057】
シラザンとしては、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。
【0058】
有機ケイ素化合物は、上記のシリカ処理炭酸カルシウムに対して表面処理してもよい。
【0059】
表面処理方法としては、湿式処理及び乾式処理が挙げられる。
【0060】
(縮合リン酸)
本発明の炭酸カルシウムは、縮合リン酸で表面処理されてもよい。表面処理方法としては、湿式処理及び乾式処理が挙げられる。縮合リン酸としては、ピロリン酸、メタリン酸などの縮合リン酸を用いることができる。
【0061】
湿式処理は、炭酸カルシウムの水懸濁液に、縮合リン酸を添加し混合した後、炭酸カルシウムを濾過し、乾燥する方法である。この方法では、縮合リン酸のナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩等を用いてもよい。しかしながら、表面処理炭酸カルシウムに含有させるナトリウムまたはカリウムなどのアルカリ金属の含有量を低減する観点からは、塩の形態ではなく、酸の形態で用いることが好ましい。
【0062】
乾式処理は、炭酸カルシウムの粉末に、縮合リン酸を添加し混合した後、乾燥する方法である。縮合リン酸は、溶液の形態で添加することができる。
【0063】
縮合リン酸は、上記のシリカ処理炭酸カルシウムに対して表面処理してもよい。
【0064】
<製造方法>
上記本発明の炭酸カルシウムは、水酸化マグネシウムが添加された水酸化カルシウムの水分散体を調製する工程と、この水分散体に炭酸ガスを導入して炭酸カルシウムを生成する工程を備える方法により製造することができる。
【0065】
水酸化マグネシウムの添加量は、得られる炭酸カルシウムのマグネシウム含有量が本発明の範囲となるように適宜調整される。水酸化マグネシウムの添加量は、水酸化カルシウムに対するマグネシウムの金属元素換算で、15000〜160000ppm(mg/kg)にすることが好ましい。水酸化マグネシウムの添加量をこのような範囲内にすることにより、炭酸化反応後の加熱工程において炭酸カルシウムの結晶成長を抑制することができ、微細な炭酸カルシウムを製造することができ、本発明の範囲のBET比表面積及び(104)面の結晶子サイズを有する炭酸カルシウムを製造することができる。
【0066】
水酸化マグネシウムの添加量は、20000〜140000ppmの範囲であることがより好ましく、25000〜130000ppmの範囲であることがさらに好ましい。
【0067】
水酸化マグネシウムは、水溶液または水分散体にして添加することが好ましい。水酸化マグネシウムの水溶液または水分散体の濃度は、1〜30質量%の範囲であることが好ましい。
【0068】
水酸化マグネシウムが添加される水酸化カルシウムの水分散体の濃度は、0.5〜15質量%の範囲であることが好ましい。
【0069】
水酸化マグネシウムが添加された水酸化カルシウムの水分散体に、炭酸ガスを導入して水酸化カルシウムを炭酸化し、炭酸カルシウムを生成させる。炭酸ガスを導入する際の水酸化カルシウムの水分散体の温度は、5〜30℃の範囲であることが好ましい。
【0070】
炭酸化直後の炭酸カルシウムは、粒子同士が強く凝集しているため、一般に炭酸化反応後に、炭酸カルシウムの凝集体を解す加熱工程が行われる。加熱工程は、水分散体の状態で行われ、50〜150℃の範囲で行われることが好ましい。
【0071】
粉末状の炭酸カルシウムを製造する場合には、加熱工程後の炭酸カルシウムの水分散体をフィルタープレスなどで脱水し、その後乾燥して製造される。
【0072】
炭酸カルシウムを表面処理する場合は、処理方法に応じて、水分散体の状態または粉末の状態で表面処理される。
【0073】
<ポリマー組成物>
本発明のポリマー組成物は、上記本発明の炭酸カルシウムをポリマー中に配合したことを特徴としている。ポリマーとしては、ゴム、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0074】
炭酸カルシウムの含有量としては、1〜60質量%の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは5〜50質量%の範囲内であり、さらに好ましくは10〜40質量%の範囲内である。ポリマー中に、炭酸カルシウムを配合する方法としては、ポリマーの種類等に応じて、公知の方法により炭酸カルシウムを配合することができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1〜6並びに比較例1及び2)
5質量%の濃度の水酸化カルシウムの水分散体に、表1に示すマグネシウム添加量となるように、10質量%の濃度の水酸化マグネシウムの水分散体を添加した。なお、水酸化マグネシウムの添加量(ppm)は、水酸化カルシウム(kg)に対するマグネシウムの金属元素換算の値(mg)である。
【0077】
水酸化マグネシウムを添加した水酸化カルシウムの水分散体に、炭酸ガスを導入することにより、水酸化カルシウムを炭酸化した。具体的な条件は、水酸化カルシウムの水分散体の反応開始温度は15℃とし、濃度30体積%の炭酸ガスを、炭酸化反応が1時間で終了するように導入量を調整して導入した。炭酸化終了直後の炭酸カルシウムの水分散体からサンプルを採取し、サンプルにおける水をエタノールで置換し、乾燥させて、炭酸化直後の炭酸カルシウムを得た。炭酸化直後の炭酸カルシウムのBET比表面積を測定し、結果を表1に示した。BET比表面積は、全自動比表面積測定装置を用いて測定した。
【0078】
炭酸化終了後の炭酸カルシウムの水分散体を、95℃に6時間保持するにより、加熱工程を行った。加熱工程後、脱水乾燥して炭酸カルシウムを得た。加熱工程後の炭酸カルシウムについて、(104)面の結晶子サイズ、BET比表面積、及びマグネシウム含有量を測定し、結果を表1に示した。
【0079】
(結晶子サイズ)
得られた炭酸カルシウムのX線回折パターンから、上述のようにして、(104)面の結晶子サイズを求めた。
【0080】
(BET比表面積)
BET比表面積は、全自動比表面積測定装置を用いて測定した。
【0081】
(マグネシウム含有量)
得られた炭酸カルシウムについて、ICP発光分析装置を用いてマグネシウム含有量を測定した。マグネシウム含有量(ppm)は、炭酸カルシウム(kg)に対するマグネシウムの金属元素換算の値(mg)である。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように、本発明に従い、マグネシウム含有量が12000〜120000ppmである実施例1〜6の炭酸カルシウムにおいては、炭酸化直後のBET比表面積が高く、かつ加熱工程後のBET比表面積も高くなっている。従って、炭酸化反応後の加熱工程において炭酸カルシウムの結晶成長が抑制されていることがわかる。
【0084】
これに対し、マグネシウム含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例1では、炭酸化直後のBET比表面積は高いが、加熱工程後のBET比表面積は低くなっている。これは、炭酸化反応後の加熱工程において炭酸カルシウムの結晶が成長したためであると考えられる。
【0085】
また、マグネシウム含有量が本発明の範囲よりも多い比較例2では、加熱工程においてもBET比表面積は低くなっている。また、X線回折パターンにもマグネシウム化合物に起因するとみられるピークが確認される。これは、マグネシウム化合物が加熱工程で溶解し、析出したためであると考えられる。
【0086】
(比較例3)
特許文献1に記載された実施例に従い炭酸カルシウムを製造した。具体的には、7質量%の濃度で液温20℃の水酸化カルシウムの水分散体30リットルに、濃度30%の炭酸ガスを毎分150リットルの速さで吹き込み、25分間炭酸化した後、硫酸マグネシウム(MgSO・7HO)150gを3リットルの水に溶解した水溶液を添加し、その後さらに炭酸ガスを導入して、炭酸化した。炭酸化終了後の炭酸カルシウムの水分散体を、95℃に6時間保持するにより、加熱工程(熟成工程)を行った。加熱工程後、脱水乾燥して炭酸カルシウムを得た。加熱工程後の炭酸カルシウムについて、(104)面の結晶子サイズ、BET比表面積、及びマグネシウム含有量を測定し、結果を表2に示した。硫酸マグネシウムの添加量は、水酸化カルシウムに対するマグネシウムの金属元素換算で、7050ppmである。
【0087】
(比較例4)
硫酸マグネシウムの金属元素換算の添加量が60000ppmとなるように、硫酸マグネシウムの水溶液を添加する以外は、比較例3と同様にして炭酸カルシウムを製造した。得られた炭酸カルシウムについて、(104)面の結晶子サイズ、BET比表面積、及びマグネシウム含有量を測定し、結果を表2に示した。
【0088】
【表2】
【0089】
(電子顕微鏡観察)
図1は、実施例4の炭酸カルシウムを示す透過型電子顕微鏡写真(80000倍)であり、図2は、比較例4の炭酸カルシウムを示す透過型電子顕微鏡写真(80000倍)である。
【0090】
図1に示すように、実施例4の炭酸カルシウムにおいては、炭酸カルシウムの微細な粒子が連鎖状に連なっていることがわかる。他の実施例の炭酸カルシウムについても、各粒子が連鎖状に連なっていることが確認されている。比較例4の炭酸カルシウムも、各粒子は連鎖状に連なっているが、実施例4に比べ、電子顕微鏡写真で観察される各粒子の大きさは小さくなっている。表2に示すように、比較例4の炭酸カルシウムの(104)面の結晶子サイズは、実施例4の(104)面の結晶子サイズより小さいので、電子顕微鏡写真で観察される各粒子の大きさは、(104)面の結晶子サイズに対応していると思われる。しかしながら、比較例4のBET比表面積は、実施例4のBET比表面積より小さいので、比較例4の炭酸カルシウムでは、各粒子が強固に凝集した凝集体になっているものと思われる。
【0091】
(X線回折パターン)
図3は、実施例2、4、及び5の炭酸カルシウムのX線回折パターンを示す図である。図3において、「30000ppm」は実施例2、「60000ppm」は実施例4、「120000ppm」は実施例5である。
【0092】
図3に示すように、実施例2、4、及び5の炭酸カルシウムのX線回折パターンにおいては、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、正炭酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物に起因するピークが認められない。他の実施例の炭酸カルシウムについても、マグネシウム化合物に起因するピークが認められないことが確認されている。
【0093】
白艶華AAは、マグネシウム化合物を含む炭酸カルシウムであるが、21°近傍にマグネシウム化合物に起因するピークが認められている。
【0094】
本発明の炭酸カルシウムにおいて、マグネシウムがどのような形態で含まれているかについて詳細は明らかではないが、炭酸化反応後の加熱工程において炭酸カルシウムの結晶成長を抑制し、かつ各粒子が強固に凝集した凝集体とならないような形態で、マグネシウムが含まれているものと思われる。
【0095】
(表面処理炭酸カルシウムの製造)
実施例1〜5並びに比較例3及び4の各炭酸カルシウムについて、以下のようにして表面処理し、表面処理炭酸カルシウムを製造した。
【0096】
それぞれの炭酸カルシウムに固形分が10質量%となるように水を加え、40℃下で攪拌して、炭酸カルシウムのスラリーを調製した。次に、このスラリーに10質量%に調整したステアリン酸ナトリウム塩(ST−NA、日油社製)を炭酸カルシウム100質量部に対して3質量部となるように混合して表面処理し、表面処理炭酸カルシウムのスラリーを調製した。次に、得られたスラリーを脱水して、得られたケーキを、箱型乾燥機で乾燥した。
【0097】
実施例1〜5の炭酸カルシウムを用いた表面処理炭酸カルシウムを実施例7〜11、比較例3の炭酸カルシウムを用いた表面処理炭酸カルシウムを比較例5、比較例4の炭酸カルシウムを用いた表面処理炭酸カルシウムを比較例6とした。
【0098】
(ポリマー組成物としての評価)
ポリマーとして、EPDMゴムを用いて、ポリマー組成物としての評価を行った。具体的には、以下の配合でゴム組成物を調製し、評価した。表面処理炭酸カルシウムとしては、実施例7〜11並びに比較例5及び6の表面処理炭酸カルシウムと、市販の表面処理炭酸カルシウムである白艶華Oを用いた。
【0099】
・EPDMゴム(EP−21、JSR社製):100質量部
・亜鉛華:5質量部
・ステアリン酸:1質量部
・パラフィンオイル(PW−380、出光興産社製):10質量部
・加硫促進剤ZnBDC:1質量部
・加硫促進剤CBS:1.5質量部
・加硫促進剤TMTD:0.5質量部
・硫黄:1.5質量部
・表面処理炭酸カルシウム:100質量部
【0100】
得られたゴム組成物について、100%のモジュラス、300%のモジュラス、500%のモジュラス、引張強さ、伸びを、JIS K6251に準拠して測定した。ダンベルは3号形を用い、引張速度は500mm/分とした。硬さの測定には、タイプAを用いた。評価結果を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
表3に示すように、本発明に従う実施例7〜11の表面処理炭酸カルシウムを用いることにより、比較例5及び6並びに白艶華Oより高いモジュラス及び高い引張強さが得られることがわかる。また、伸び及び硬さも高くなっている。特に、伸びが大きくなっていることから、ポリマー中での分散状態が良好であることがわかる。
図1
図2
図3