(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1軸圧縮試験において、初期の膜厚の40%まで圧縮した後、荷重を開放して60秒以内に初期の膜厚の80%以上まで復元する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭素フォーム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0026】
<第一の実施形態>
本実施形態の炭素フォームは、線状部(ライン)と該線状部を結合する結合部(ノード)とを有する炭素フォームであり、三次元網目状構造を有する。
【0027】
本発明者らは、炭素フォームに圧縮荷重が印加された際の炭素繊維の破断を抑制して粉落ちを低減する方法を確立するために、圧縮荷重の印加時に炭素繊維の破断が発生するメカニズムについて検討した。
【0028】
一般的な炭素フォームは、炭素フォームを構成する炭素繊維の線状部が、互いに直交する3方向対して等方的に配向した構造を有している。本発明者らは、こうした炭素フォームに圧縮荷重が印加された際に破断する線状部は、圧縮荷重が印加された方向に対して略平行に配向したものではないかと推測した。
【0029】
すなわち、炭素繊維の線状部に対して、線状部の配向方向に垂直な方向の力が作用すると、線状部が変形する(曲がる)ことにより、印加された力を吸収すると考えられる。一方、線状部に対して、線状部の配向方向の力が作用すると、線状部は収縮しにくいため、印加された力を吸収することができずに破断したものと考えられる。
【0030】
そこで本発明者らは、上記推測に基づいて、圧縮の際の負荷を出来るだけ均一に分散する方法について鋭意検討した。その結果、炭素フォーム中の結合部の密度を高くすることでこの課題を解決しうることを見出した。
本実施形態の炭素フォームにおいて、上記結合部の密度は、30,000個/mm
3以上であることが好ましく、50,000個/mm
3以上であることがより好ましく、100,000個/mm
3以上であることがさらに好ましい。また、結合部の密度は、線状部と結合部が圧縮の際に変形する空間の確保の観点から、5,000,000個/mm
3以下であることが好ましく、3,000,000個/mm
3以下であることがより好ましく、2,000,000個/mm
3以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の炭素フォーム中の少なくとも一部にこの結合部の密度を満たす箇所があればよく、50体積%で上記密度範囲を満たしていれば好ましく、75体積%で上記密度範囲を満たしていればより好ましく、炭素フォームの任意の箇所で上記密度範囲を満たしていることが特に好ましい。
【0031】
また本発明者らは、上記推測に基づいて、炭素フォームに対して圧縮荷重が印加された際に、炭素フォームを構成する炭素繊維の線状部に対して、その配向方向から荷重が印加されるのを抑制する方法について鋭意検討した。その結果、炭素繊維(線状部)の配向に異方性を持たせることに想到したのである。
【0032】
そして本発明者らは、線状部の互いに直交する三方向の各々に対する配向角度の平均値について、一方向に対する配向角度の平均値と、他の方向に対する配向角度の平均値の少なくとも一方との差が所定値以上であるようにすれば、炭素繊維の破断を抑制できることを見出した。本発明者らは、更に高温で炭素化した場合にも、炭素フォームのもつ高い復元性を維持できることを見出した。
【0033】
<結合部の数N
nに対する線状部の数N
lの割合R>
本実施形態における炭素フォームにおいて、結合部の数N
nに対する線状部の数N
lの割合Rは、1.2以上が好ましく、1.3以上がより好ましく、1.4以上が特に好ましい。また、1.7以下が好ましく、1.6以下が好ましく、1.5以下が特に好ましい。
割合Rは、換言すれば、結合部にて分岐する枝分かれの平均数である。不織布のように結合していない線状部が接触している構造の場合、この割合Rは小さい値となる。一方、線状部が帯状の様になった、例えば蜂の巣の様な壁面で覆われた多孔性構造の場合は、この割合Rは大きい値となる。
また三次元構造の堅牢性と、押圧に対する柔軟性の維持の点から好ましくは1.42以上1.48以下、より好ましくは1.44以上1.46以下である。
【0034】
<線状部の配向角度>
本実施形態の炭素フォームにおいて、線状部の互いに直交する三方向の各々に対する配向角度の平均値について、一方向に対する配向角度の平均値と、他の方向に対する配向角度の平均値の少なくとも一方との差θが3°以上であるようにする。これにより、炭素フォームに圧縮荷重が印加された際にも、炭素繊維(線状部)の破断を抑制して粉落ちを低減することができる。上記差θは、好ましくは5°以上であり、より好ましくは8°以上であり、特に好ましくは10°以上である。また、上記差θは炭素フォームの柔軟性の観点から、好ましくは35°以下であり、より好ましくは25°以下であり、さらに好ましくは20°以下であり、特に好ましくは15°以下である。逆に、上記差θが3°を下回ると、等方的な配向性が高まり、圧縮荷重が印加された際に炭素繊維が破断して落下する、いわゆる粉落ちが相当量発生するおそれがある。
【0035】
なお、上記三方向は、炭素フォームの厚み方向をx方向、前記x方向に垂直な方向をy方向、前記x方向及び前記y方向に垂直な方向をz方向とする。
【0036】
炭素フォーム中の300μm×300μm×300μmの領域内に含まれる線状部のx方向に対する配向角度の平均値をθavex、y方向に対する配向角度の平均値をθ
avey、z方向に対する配向角度の平均値をθ
avez、と定義したときに、炭素フォームは、θ
avex、θ
avey、θ
avezの中の最大値と最小値との差θcが3°以上となる領域を含むことが好ましい。θ
avex、θ
avey、θ
avezの中の最大値と最小値との差θcは、より好ましくは5°以上であり、更に好ましくは8°以上であり、特に好ましくは10°以上である。θ
avex、θ
avey、θ
avezの中の最大値と最小値との差θcの上限は特に限定は無いが、炭素フォームの柔軟性の観点から、好ましくは35°以下であり、より好ましくは25°以下であり、さらに好ましくは20°以下であり、特に好ましくは15°以下である。
また、θ
avex、θ
avey、θ
avezの中の最大値と残りの2つの差が、共に3°以上となることが好ましく、より好ましくは5°以上であり、更に好ましくは8°以上であり、特に好ましくは10°以上である。θ
avex、θ
avey、θ
avezの中の最大値と残りの2つの差の上限に特に限定は無いが、炭素フォームの柔軟性の観点から、好ましくは35°以下であり、より好ましくは25°以下であり、さらに好ましくは20°以下である。言い換えると、θ
avex、θ
avey、θ
avezの中の最大値と2番目に大きな値との差θdが上記範囲を満たすことが好ましい。
本実施形態の炭素フォーム中の少なくとも一部に上記θavex、θavey、θ
avezの規定を満たす縦300μm×横300μm×高さ300μmの部分が含まれていればよく、50体積%で上記角度規定を満たしていれば好ましく、75体積%で上記密度範囲を満たしていればより好ましく、炭素フォームの任意の箇所で上記角度規定を満たしていることが特に好ましい。
前述のとおり、配向性と粉落ちとの間には関係があるところ、配向の異方性を示す指標である上記差θと前記粉落ちの重量との関係を
図3に示す。
【0037】
また、本明細書において、上記結合部の数N
n、線状部の数N
lおよび配向角度θ(θc及びθdを含む)は、X線CT(Computerized Tomography)装置を用いて炭素フォームを撮影し、得られた断層像データから、前処理としてMedian filterを使用した後に、大津の二値化アルゴリズム(大津 展之著、「判別および最小2乗規準に基づく自動しきい値選定法」、電子情報通信学会論文誌D、Vol.J63−D、No.4、pp.346−356(1980)参照)を用いて構造と空間に領域分割し、炭素フォームの内部を含めた構造の三次元画像を作製し、得られた三次元画像から構造解析ソフトウェアを用いて求めた値である。
【0038】
具体的には、結合部の数N
nおよび線状部の数N
lは、上述のように得られた三次元画像に含まれる結合部および線状部を検出し、その数をカウントすることにより求める。こうして得られたN
nおよびN
lから、N
nに対するN
lの割合Rを求めることができる。
【0039】
<結合部の数N
nに対する線状部の数N
lの割合R>
本実施形態における炭素フォームにおいて、結合部の数N
nに対する線状部の数N
lの割合Rは、1.2以上が好ましく、1.3以上がより好ましく、1.4以上が特に好ましい。また、1.7以下が好ましく、1.6以下が好ましく、1.5以下が特に好ましい。
割合Rは、換言すれば、結合部にて分岐する枝分かれの平均数である。不織布のように結合していない線状部が接触している構造の場合、この割合Rは小さい値となる。一方、線状部が帯状の様になった、例えば蜂の巣の様な壁面で覆われた多孔性構造の場合は、この割合Rは大きい値となる。
また三次元構造の堅牢性と、押圧に対する柔軟性の維持の点から好ましくは1.42以上1.48以下、より好ましくは1.44以上1.46以下である。
【0040】
また、線状部の配向角度θは、線状部の両端の結合部を結ぶ直線と各方向との間の角度であり、上記三次元画像において互いに直交する三方向の各々に対して求め、各方向について、線状部の配向角度の平均値を求める。
【0041】
炭素フォームの構造解析に用いるCT装置としては、低エネルギー高輝度X線によるCT装置、例えば株式会社リガク製の高分解能3DX線顕微鏡nano3DXを用いることができる。また、画像処理並びに構造解析には、例えば株式会社JSOL社製のソフトウェアsimplewareのCenterline editorを用いることができる。
結合部の数N
n、線状部の数N
lおよび配向角度θの測定方法は実施例に記載の測定方法で測定する。
【0042】
<粉落ち>
本実施形態の炭素フォームでは、粉落ちがあると、粉落ちした炭素フォームの断片が他の部材に付着して他の部材の性能を阻害する可能性がある。また、炭素フォームの導電性や復元性の低下を招くため粉落ちは10質量%以下であることが肝要であり、5質量%未満とすることが好ましく、2質量%未満とすることがより好ましい。下限については特に限定は無いが、0.01質量%以上であってもよく、0.05質量%以上であってもよく、0.1質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよい。粉落ちの量は実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0043】
<炭素含有率>
本実施形態の炭素フォームの炭素含有率は、導電性の観点から51質量%以上が好ましく、60質量%以上が好ましく、65質量%以上が好ましく、70質量%以上が好ましく、75質量%以上が好ましく、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限は特に限定は無いが、100質量%以下であってもよく、99質量%以下であってもよく、98質量%以下であってもよい。
炭素フォームの炭素含有率は、蛍光X線測定から求めることができ、具体的には実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0044】
<比着色力>
本実施形態の炭素フォームの比着色力は、例えばレドックスフローに用いる場合、粉落ちにより電解液に混入した炭素フォームの検出が容易になる点から、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。また、上限については特に限定は無いが、60%以下であってもよく、50%以下であってもよく、40%以下であってもよい。比着色力は実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0045】
<空隙率>
本実施形態の異方性を持つ炭素フォームの空隙率は、柔軟性の観点から50%以上とすることが好ましく、60%以上とすることがより好ましく、70%以上とすることがより好ましく、80%以上とすることがより好ましく、90%以上とすることがより好ましい。空隙率の上限については特に限定は無いが、100%未満であってもよく、99%以下であってもよく、98%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよい。
なお、本明細書において、空隙率は、かさ密度および真密度から求めた値である。かさ密度は、炭素フォームに含まれる空隙も含めた体積に基づいた密度である。これに対して、真密度は、炭素フォームの材料が占める体積に基づいた密度である。
【0046】
[かさ密度の測定]
まず、ノギス等を用いて炭素フォームの寸法を測定し、得られた寸法から、炭素フォームのかさ体積V
bulkを求める。次に、精密天秤を用いて、炭素フォームの質量Mを測定する。得られた質量Mおよびかさ体積V
bulkから、下記の式(1)を用いて炭素フォームのかさ密度ρ
bulkを求めることができる。
ρ
bulk=M/V
bulk・・・(1)
【0047】
[真密度の測定]
炭素フォームの真密度ρ
realは、n−ヘプタン、四塩化炭素および二臭化エチレンからなる混合液を用いて浮沈法によって求めることができる。具体的には、まず、共栓試験管に適当なサイズの炭素フォームを入れる。次に、3種の溶媒を適宜混合して試験管に加え、30℃の恒温槽に漬ける。試料片が浮く場合は、低密度であるn−ヘプタンを加える。一方、試験片が沈む場合は、高密度である二臭化エチレンを加える。この操作を繰り返して、試験片が液中に漂うようにする。最後に、液の密度をゲーリュサック比重瓶を用いて測定する。
【0048】
[空隙率の算出]
上述のように求めたかさ密度ρ
bulkおよび真密度ρ
realから、下記の式(2)を用いて空隙率V
f,poreを求めることができる。
V
f,pore=((1/ρ
bulk)−(1/ρ
real))/(1/ρ
bulk)×100(%)
・・・(2)
【0049】
<結晶子サイズ>
本実施形態の炭素フォームの結晶子サイズLcは、1.1nm以上が好ましく、導電性の観点からは1.5nm以上がより好ましい。また物理的な脆弱性の点から4.0nm以下が好ましく、3.0nm以下がより好ましい。結晶子サイズLcは実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0050】
<平均直径>
また、走査型電子顕微鏡観察によって測定した、炭素電極3を構成する繊維状炭素の平均直径d
aveが10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。これにより、比表面積の増大によって電解質膜2と炭素電極3との間の耐剥離性能を向上させることができる。繊維状炭素の平均直径d
aveの下限に特に限定は無いが、0.1μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。
【0051】
[平均直径の測定方法]
炭素電極3を構成する繊維状炭素の平均直径d
aveは、走査型電子顕微鏡像を画像解析することによって求める。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて10,000倍の倍率で炭素電極3を観察する。得られた観察像から、繊維状炭素の太さを無作為に20か所測定する。断面形状が円形であると仮定して、この平均太さを平均直径d
aveとする。
【0052】
<比表面積>
また、炭素電極の真密度と炭素電極を構成する繊維状炭素の平均直径から求めた、炭素電極3の比表面積Sが、0.5m
2/g以上であることが好ましく、1m
2/g以上であることがより好ましい。これによって、電解質膜2との接合面積が充分に確保することができ、耐剥離性能を向上させることができる。比表面積Sの上限は特に限定は無いが、100m
2/g以下であってもよく、50m
2/g以下であってもよく、30m
2/g以下であってもよく、15m
2/g以下であってもよく、10m
2/g以下であってもよい。
【0053】
[比表面積の算出]
炭素電極3の比表面積Sは、構成する繊維状炭素の形状が円柱状であることを仮定して、上述のように求めた真密度ρ
realと平均直径d
aveから、下記(13)を用いて求めることができる。
S=4/(ρ
real×d
ave)・・・(13)
【0054】
(炭素フォームの作製方法)
本実施形態の炭素フォームは、材料である樹脂フォームに対して圧縮荷重を印加しつつ、窒素等の不活性気流中や真空等の不活性雰囲気下で熱処理して炭素化することにより得ることができる。その際、熱処理温度は、樹脂フォームの軟化点以上の温度とすることが肝要である。これにより、炭素フォーム中の結合部の密度を高め、また、炭素フォームを構成する炭素繊維を圧縮荷重の印加方向に対して垂直な方向に配向させて、炭素繊維の配向に異方性を持たせることができる。
【0055】
例えばフォーム材料としてメラミン樹脂フォームを用いる場合、メラミン樹脂フォームとしては、例えば特開平4−349178号公報に開示されている方法により製造されるメラミン/ホルムアルデヒド縮合発泡体を用いることができる。
【0056】
上記方法によれば、まず、メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物と、乳化剤、気化性発泡剤、硬化剤、および必要に応じて周知の充填剤とを含有する水溶液または分散液を発泡処理した後、硬化処理を施すことによりメラミン/ホルムアルデヒド縮合フォームを得ることができる。
【0057】
上記方法において、メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物としては、例えばメラミン:ホルムアルデヒド=1:1.5〜1:4、平均分子量が200〜1000のものを使用することができる。また、乳化剤としては、例えばアルキルスルホン酸やアリールスルホン酸のナトリウム塩などを0.5〜5質量%(メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物基準、以下同じ)、気化性発泡剤としては、例えばペンタンやヘキサンなどを1〜50質量%、硬化剤としては塩酸や硫酸などを0.01〜20質量%が挙げられる。発泡処理および硬化処理は、使用した気化性発泡剤などの種類に応じて設定される温度に、上記成分からなる溶液を加熱すればよい。
【0058】
メラミン樹脂フォームの炭素化の際の熱処理温度については、メラミン樹脂フォームの軟化点(300〜400℃)以上とする。好ましくは800℃以上であり、より好ましくは1000℃以上である。また、高い結晶性による物理的な脆弱性の観点から、好ましくは3000℃以下であり、より好ましくは2500℃以下である。
【0059】
上記炭素フォームに印加する圧縮荷重については、異方性を持たせる点から好ましくは50Pa以上であり、より好ましくは200Pa以上である。また、3次元構造を保つ点から好ましくは2000Pa以下であり、より好ましくは1500Pa以下である。
また、真空プレス装置等を用いて圧縮を行う際には、スペーサーにてプレス後の膜厚を定め、元の厚みをスペーサーの厚みで割り返した圧縮倍率の制御が必要である。この場合圧縮倍率については異方性を持たせる点から好ましくは4倍以上でありより好ましくは10倍以上である。また、3次元構造を保つ点から好ましくは100倍以下であり、より好ましくは50倍以下である
【0060】
なお、樹脂フォームへの圧縮応力は、一方向のみならず、二方向から印加してもよい。
【0061】
第一実施形態の異方性炭素フォームの用途としては、膜電極接合体、レドックスフローバッテリーの電極、燃料電池の電極、ガス拡散層などに好適に用いられる。
<第二の実施形態>
(膜電極複合体)
図8は、本発明による膜電極複合体を示している。この図に示した膜電極複合体1は、電解質膜2と、該電解質膜の両面に配置された炭素電極3とを備える。ここで、炭素電極3は炭素フォームからなり、川端評価システム法(KES法)による炭素電極3の摩擦係数の平均偏差(以下、「MMD」とも言う。)が0.006以下であることを特徴とする。
【0062】
−電解質膜−
本実施形態における電解質膜2は高分子電解質膜である。高分子電解質膜の種類は特に限定されないが、レドックスフロー電池に用いる観点からは、プロトン伝導性を有する膜が好ましい。
【0063】
プロトン伝導性を有する膜としては、特開2005−158383号公報に記載されたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン樹脂)多孔膜、ポリオレフィン系多孔膜、ポリオレフィン系不織布といった多孔膜系のもの、特公平6−105615号公報記載の多孔膜と含水性ポリマーとを組み合わせた複合膜、特公昭62−226580号公報に記載のセルロース又はエチレンービニルアルコール共重合体の膜、特開平6−188005号公報に記載のポリスルホン系膜陰イオン交換膜、特開平5−242905号公報に記載のフッ素系又はポリスルホン系イオン交換膜、特開平6−260183号公報に記載のポリプロピレンなどにより形成された多孔膜の孔に親水性樹脂を備えた膜、ポリプロピレン製多孔膜の両表面に薄く数μmのフッ素系イオン交換樹脂(Nafion(登録商標))を被覆した膜、特開平10−208767号公報に記載のピリジウム基を有する陰イオン交換型とスチレン系及びジビニルベンゼンとを共重合した架橋型重合体からなる膜、特開平11−260390号公報に記載のカチオン系イオン交換膜(フッ素系高分子又は炭化水素系高分子)とアニオン系イオン交換膜(ポリスルホン系高分子等)とを交互に積層した構造を有する膜、特開2000−235849号公報に記載の多孔質基材に2個以上の親水基有するビニル複素環化合物(アミン基を有する、ビニルピロリドン等)の繰り返し単位を有する架橋重合体を複合してなるアニオン交換膜等が挙げられる。これらの中でも、パーフルオロスルホン酸(PFSA)系樹脂からなる膜が好ましい。
【0064】
−−パーフルオロスルホン酸系樹脂−−
パーフルオロスルホン酸系樹脂としては、例えば、下記一般式(3)で表される繰り返し単位と、下記一般式(4)で表される繰り返し単位とを含む重合体が挙げられる。
−[CX
1X
2−CX
3X
4]−・・・(3)
(式(3)中、X
1、X
2、X
3、X
4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であり、X
1、X
2、X
3、X
4のうち少なくとも1つは、フッ素原子又は炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基である。)
−[CF
2−CF(−(O
a−CF
2−(CFX
5)
b)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
3R)]− ・・・(4)
(式(4)中、X
5はハロゲン原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であり、Rは、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、若しくはカリウム原子等のアルカリ金属原子、NH
4、NH
3R
1、NH
2R
1R
2、NHR
1R
2R
3、若しくはNR
1R
2R
3R
4(R
1R
2R
3R
4は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基を示す)等のアミン類である。また、aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜8の整数であり、dは0又は1であり、eは0〜8の整数である。ただし、bとeは同時に0でない。)
なお、パーフルオロスルホン酸系樹脂に複数の上記一般式(4)で表される繰り返し単位、及び/又は複数の上記一般式(4)で表される繰り返し単位が含まれる場合、各繰り返し単位は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0065】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂としては、下記一般式(5)〜(9)で表される繰り返し単位の1つ以上を有する化合物が好ましい。
−[CF
2−CX
3X
4]
f−[CF
2−CF(−O−CF
2−CFX
5)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(5)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF(−O−CF
2−CF(CF
3))
c−O−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(6)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF−O−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(7)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF(−O−CF
2−CFX
5)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
3H]
g ・・・(8)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(9)
(式(5)〜(9)中、X
3、X
4、X
5、Rは、式(3)、(4)と同様である。また、c、d、eは、式(3)、(4)と同様であり、0≦f<1、0<g≦1、f+g=1である。ただし、式(7)、(9)においてeは0でない。)
【0066】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂は、上記一般式(3)、(4)で表される繰り返し単位以外の、他の構成単位をさらに含んでいてもよい。上記他の構成単位としては、例えば、下記一般式(I)で表される構成単位等が挙げられる。
【化1】
(式(I)中、R
1は、単結合又は炭素数1〜6の2価のパーフルオロ有機基(例えば、炭素数1〜6のパーフルオロアルキレン基等)であり、R
2は、炭素数1〜6の2価のパーフルオロ有機基(例えば、炭素数1〜6のパーフルオロアルキレン基、等)である。)
【0067】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂としては、プロトンを透過しやすく、抵抗が一層低い高分子電解質膜が得られる観点から、式(6)又は式(7)で表される繰り返し単位を有する樹脂が好ましく、式(7)で表される繰り返し単位のみからなる樹脂がより好ましい。
【0068】
前記PFSA樹脂の当量質量EW(プロトン交換基1当量あたりのPFSA樹脂の乾燥質量グラム数)は、300〜1300に調整されているものが好ましい。本実施形態におけるPFSA樹脂の当量質量EWは、抵抗の観点から、より好ましくは350〜1000、更に好ましくは400〜900、最も好ましくは450〜750である。
【0069】
電解質膜2の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。これにより、正負極の短絡を抑制することができるのと同時に、正負極電解液のクロスオーバーも抑制することができる。また、電解質膜2の厚さは、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、75μm以下であることがさらに好ましい。これにより、電池サイズを小さくすることができるのと同時に、内部抵抗を低減するこができる。
【0070】
−炭素電極−
本実施形態における炭素電極3は、炭素フォームからなる。炭素フォームは、後述するように、例えばメラミン樹脂フォームを不活性ガス雰囲気中で加熱することにより簡便に得られ弾力性に富んだ材料である。また、空隙率が高く大きな表面積を有し、また電気伝導率が高いことから、電池の電極材料に適した材料である。
【0071】
<空隙率>
炭素電極(炭素フォーム)3の空隙率は柔軟性の観点から50%以上とすることが好ましく、60%以上とすることがより好ましく、70%以上とすることがより好ましく、80%以上とすることがより好ましく、90%以上とすることが好ましく、95%以上とすることがより好ましく、99%以上とすることがさらに好ましい。上限は特に限定は無いが、100%未満であってもよく、99%以下であってもよく、98%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよい。空隙率を90%以上とすることで、レドックスフロー電池の電極として用いた場合に、電極の表面積を充分に大きくすることができ、セル抵抗を小さくすることができる。
【0072】
なお、本明細書において、空隙率は、かさ密度および真密度から求めた値である。かさ密度は、炭素電極3に含まれる空隙も含めた体積に基づいた密度である。これに対して、真密度は、炭素電極3の材料が占める体積に基づいた密度である。
【0073】
[かさ密度の測定]
まず、ノギス等を用いて炭素電極3の寸法を測定し、得られた寸法から、炭素電極3のかさ体積V
bulkを求める。次に、精密天秤を用いて、炭素電極3の質量Mを測定する。得られた質量Mおよびかさ体積V
bulkから、下記の式(10)を用いて炭素電極3のかさ密度ρ
bulkを求めることができる。
ρ
bulk=M/V
bulk・・・(10)
【0074】
[真密度の測定]
炭素電極3の真密度ρ
realは、n−ヘプタン、四塩化炭素および二臭化エチレンからなる混合液を用いて浮沈法によって求めることができる。具体的には、まず、共栓試験管に適当なサイズの炭素フォームを入れる。次に、3種の溶媒を適宜混合して試験管に加え、30℃の恒温槽に漬ける。試料片が浮く場合は、低密度であるn−ヘプタンを加える。一方、試験片が沈む場合は、高密度である二臭化エチレンを加える。この操作を繰り返して、試験片が液中に漂うようにする。最後に、液の密度をゲーリュサック比重瓶を用いて測定する。
【0075】
[空隙率の算出]
上述のように求めたかさ密度ρ
bulkおよび真密度ρ
realから、下記の式(11)を用いて空隙率V
f,poreを求めることができる。
V
f,pore=((1/ρ
bulk)−(1/ρ
real))/(1/ρ
bulk)×100(%)
・・・(11)
【0076】
<炭素含有率>
本実施形態の炭素フォームの炭素含有率は、導電性の観点から51質量%以上が好ましく、60質量%以上が好ましく、65質量%以上が好ましく、70質量%以上が好ましく、75質量%以上が好ましく、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限は特に限定は無いが、100質量%以下であってもよく、99質量%以下であってもよく、98質量%以下であってもよい。
炭素フォームの炭素含有率は、蛍光X線測定から求めることができ、具体的には実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0077】
<摩擦係数>
炭素電極3は、KES法によるMMDが0.006以下であることが肝要である。MMDは、測定対象表面の粗さを表す指標の1つである(川端季雄著、「風合い評価の標準化と解析」、第2版、社団法人日本繊維機会学会 風合い計量と規格化研究委員会、昭和55年7月10日発行参照)。好ましくは0.005以下、より好ましくは0.004以下、更に好ましくは0.003以下である。また、下限に特に限定は無いが0.000を超えればよく、0.001以上であってもよく、より好ましくは0.002以上である。
【0078】
本発明者らは、KES法による炭素電極3のMMDが、電解や充放電等の繰返しによって電解質膜2が炭素電極3から剥離する現象と密接に関連していることを見出した。そして、KES法による炭素電極3のMMDを0.006以下とすることにより、上記電解質膜2の剥離を抑制できることを見出したのである。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように考えている。すなわち、表面粗さを表す指標であるMMDは、一般に、数値が大きいほど表面粗さは大きくなる。炭素フォームのMMDを小さくすること、すなわち、表面粗さを小さくすることは、電解質膜2と炭素電極3との接合強度を高める一般的な機構と、一見矛盾するように見える。しかしながら、本発明者らは、この特異的な挙動は、炭素フォームの構造に由来する以下のような機構に基づくと推察している。すなわち、炭素フォームは、直径1〜3μmの繊維状炭素が三次元的に架橋した網目状構造を有している。一般的な炭素繊維ペーパや炭素繊維不織布に比べて、炭素フォームの繊維径が小さいことが、炭素フォームのMMDが小さい主な要因と考えられる。一方で、繊維径が小さいことは、炭素フォームの比表面積が大きいことを示しており、電解質膜2との接触面積の増大が、接合強度の向上をもたらしたと考えられる。
【0079】
このように、KES法による炭素電極3の摩擦係数の平均偏差が0.006以下であることにより、集電板によって強く挟まれて大きな圧縮応力が印加された状態においても、炭素電極3が電解質膜2を貫通して短絡を起こすことなく、電解質膜2と炭素電極3との間の剥離を抑制することができる。
【0080】
なお、本明細書では、上記炭素電極3の摩擦係数は、膜電極複合体1を形成する前の炭素電極3の側面又は裏面(電解質膜2と接合する面以外の面)に対して測定されたものである。
【0081】
本発明者らは、上述の位置で測定したMMDと、電解質膜2と炭素電極3との間の接合界面の状態とが密接に関連していることを知見し、上述の位置でのMMDが0.006以下であれば、電解質膜2の剥離を抑制できることを見出した。そこで、本明細書においては、炭素電極3の側面又は裏面(すなわち、炭素電極3の電解質膜2との接合面以外の面)においてMMDを測定するものとする。
【0082】
[摩擦係数の測定方法]
KES法による炭素電極3の摩擦係数の測定は、10mm角ピアノワイヤセンサを取り付けたカトーテック社製摩擦感テスターKES─SEを用いて行うことができる。具体的には、まず、炭素電極3をテスターのステージに固定する。次いで、テスターに取り付けたセンサを、固定した炭素電極3に対して荷重10gfを負荷して押し当てる。続いて、炭素電極3を取り付けたステージを速度1mm/secにて水平方向に25mm移動させ、一定間隔で摩擦係数MIUを測定する。測定数をN、MIUの平均値をMIU
aveとすると、下記の式(12)を用いて摩擦係数MIUの平均偏差MMDを求めることができる。
MMD=Σ|MIU−MIU
ave|/N・・・(12)
【0083】
炭素電極3の形状は特に限定されないが、電極としての取扱いや加工が容易な点から、シート状であることが好ましい。
【0084】
炭素電極3を構成する炭素フォームは、例えばメラミン樹脂フォームを加熱して形成すると、炭素電極3の骨格を構成する繊維状炭素が全ての方向に均等に広がった構造を有するものとなるが、上記メラミン樹脂フォームの加熱を、所定の方向に圧力を負荷しつつ行うと、繊維状炭素の拡がりに異方性を有する骨格構造となる。本実施形態の炭素電極3を構成する炭素フォームは、繊維状炭素が等方的に拡がった等方的な骨格構造を有しても、繊維状炭素の拡がりに異方性を有する異方的な骨格構造を有してもよい。
【0085】
等方的な骨格構造を有する炭素フォームは、形成の際に圧力を負荷していないため、形成された炭素フォームの空隙率が高く(例えば、99%以上)、小さな応力で圧縮できるより柔軟性に富んだものとなり、電解や電池の充放電の際の電解質膜の膨潤収縮に対してより柔軟に対応できるものとなる。これに対して、異方的な骨格構造を有する炭素フォームは、形成の際に圧力を負荷するため、等方的な骨格構造を有するものに比べて空隙率は低いが(例えば、95%以上)、セルを形成する際に集電板によって強く挟まれて大きな圧縮応力が印加された際にも、繊維状炭素の破断による劣化や粉落ちを抑制することができる。
【0086】
<平均直径>
また、走査型電子顕微鏡観察によって測定した、炭素電極3を構成する繊維状炭素の平均直径d
aveが10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。これにより、比表面積の増大によって電解質膜2と炭素電極3との間の耐剥離性能を向上させることができる。繊維状炭素の平均直径d
aveの下限に特に限定は無いが、0.1μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。
【0087】
[平均直径の測定方法]
炭素電極3を構成する繊維状炭素の平均直径d
aveは、走査型電子顕微鏡像を画像解析することによって求める。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて10,000倍の倍率で炭素電極3を観察する。得られた観察像から、繊維状炭素の太さを無作為に20か所測定する。断面形状が円形であると仮定して、この平均太さを平均直径d
aveとする。
【0088】
<比表面積>
また、炭素電極の真密度と炭素電極を構成する繊維状炭素の平均直径から求めた、炭素電極3の比表面積Sが、0.5m
2/g以上であることが好ましく、1m
2/g以上であることがより好ましい。これによって、電解質膜2との接合面積が充分に確保することができ、耐剥離性能を向上させることができる。比表面積Sの上限は特に限定は無いが、100m
2/g以下であってもよく、50m
2/g以下であってもよく、30m
2/g以下であってもよく、15m
2/g以下であってもよく、10m
2/g以下であってもよい。
【0089】
[比表面積の算出]
炭素電極3の比表面積Sは、構成する繊維状炭素の形状が円柱状であることを仮定して、上述のように求めた真密度ρ
realと平均直径d
aveから、下記(13)を用いて求めることができる。
S=4/(ρ
real×d
ave)・・・(13)
【0090】
<圧縮応力>
また、一軸圧縮試験によって測定した、炭素電極3の圧縮ひずみ60%における圧縮応力σ
60が400kPa以下であることが好ましく、100kPa以下であることがより好ましく、40kPa以下であることがさらに好ましい。これにより、集電板によって強く挟まれて大きな圧縮応力が印加された状態においても、炭素電極3はより柔軟性を有するものとなり、電解質膜2と炭素電極3との間の耐剥離性能を向上させることができる。また、10kPa以上であることが好ましく、20kPa以上であることがより好ましい。これにより、膜電極複合体のハンドリング性が良好となり,セルの組立が容易になる。
【0091】
[圧縮応力の測定方法]
炭素電極3の圧縮ひずみ60%における圧縮応力σ
60は、ミネベア社製万能材料試験機TG−1KNを用いて測定される、一軸圧縮における応力ひずみ曲線から求めることができる。具体的には、炭素電極3を縦横20mm、高さ5〜20mmの直方体に切断した試料片を、高さ方向に速度5mm/minにて一軸圧縮する。得られた応力ひずみ曲線のひずみ60%における応力を圧縮応力σ
60とする。
【0092】
<比着色力>
本実施形態の炭素フォームの比着色力は、例えばレドックスフローに用いる場合、粉落ちにより電解液に混入した炭素フォームの検出が容易になる点から、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。また、上限については特に限定は無いが、60%以下であってもよく、50%以下であってもよく、40%以下であってもよい。比着色力は実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0093】
炭素電極3を構成する炭素フォームは、例えばメラミン樹脂発泡体を不活性雰囲気下で800〜2500℃にて炭素化することによって形成することができる。メラミン樹脂発泡体としては、例えば、特開平4−349178号公報に開示されている方法により製造されるメラミン/ホルムアルデヒド縮合発泡体を用いることができる。
【0094】
上記方法によれば、まず、メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物と、乳化剤、気化性発泡剤、硬化剤、および必要に応じて周知の充填剤とを含有する水溶液又は分散液を発泡処理した後、硬化処理を施すことによりメラミン/ホルムアルデヒド縮合発泡体を得ることができる。
【0095】
上記方法において、メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物としては、例えばメラミン:ホルムアルデヒド=1:1.5〜1:4、平均分子量が200〜1000のものを使用することができる。また、乳化剤としては、例えばアルキルスルホン酸やアリールスルホン酸のナトリウム塩などを0.5〜5質量%(メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物基準、以下同じ)、気化性発泡剤としては、例えばペンタンやヘキサンなどを1〜50質量%、硬化剤としては塩酸や硫酸などを0.01〜20質量%が挙げられる。発泡処理および硬化処理は、使用した気化性発泡剤などの種類に応じて設定される温度に、上記成分からなる溶液を加熱すればよい。
【0096】
次に、このメラミン樹脂フォームを炭素化する。炭素化は、不活性ガス気流中あるは真空中などの不活性雰囲気下にて行うことができる。また、熱処理温度の下限については、導電性を高める観点から、800℃以上であることが好ましく、900℃以上がより好ましく、1000℃以上がさらに好まし。一方、熱処理温度の上限については、電極の柔軟性を維持する観点から、2500℃以下であることが好ましく、2400℃以下がより好ましく、2200℃以下がさらに好ましい。
【0097】
炭素電極3の厚さは、20μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。これにより、十分な電極表面積が確保でき、電気化学反応に伴う抵抗を低減できる。また、炭素電極3の厚さは、2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。これにより、電極内の電子の移動に伴う抵抗を低減できるとともに、セルを小型化することができる。
【0098】
(膜電極複合体の形成方法)
電解質膜2と炭素電極3を接合して膜電極複合体1を形成するには、ホットプレス法や膜と同種の高分子の溶液によって貼り合わせる方法などがある。この中でも、ホットプレス法は、加工性の点から好ましい。ホットプレス法による膜電極複合体1の形成は、具体的には、まず、電解質膜2を2枚の炭素電極3によって挟み、適当な厚さのスペーサーとともにホットプレス機の圧板間に置く。次に、圧板を所定の温度まで加熱した後、プレスする。所定の時間保持した後、圧板を開放して膜電極複合体1を取り出し、室温まで冷却する。こうして膜電極複合体1を形成することができる。
【0099】
上記ホットプレス法において、加熱温度は80℃以上200℃以下とすることが好ましく、120℃以上160℃以下とすることがより好ましい。これにより、電解質膜2を熱的に劣化させることなく、軟化した電解質膜2が炭素電極3に密着することによって、強固に接合させることができる。また、スペーサーの厚さは、電解質膜2と2枚の炭素電極3の合計厚さに対して、10%以上50%以下とすることが好ましく、20%以上40%以下とすることがより好ましい。プレス後の保持時間は、5min以上30min以下とすることが好ましく、10min以上20min以下とすることがより好ましい。これにより、炭素電極間の短絡を引き起こすことなく、電解質膜2と炭素電極3を強固に接合させることができる。
【実施例】
【0100】
<第一の実施形態の実施例>
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】
<炭素フォームの作製>
(実施例1)
まず、炭素フォームの材料としてメラミン樹脂フォーム(寸法:90mm×120mm×40mm)用意した。次いで、用意したメラミン樹脂フォーム上に厚さ6mmの炭素繊維不織布とその上に黒鉛板を載置して、280Paの圧縮荷重を印加し、この圧縮荷重を印加した状態でメラミン樹脂フォームを熱処理炉内に導入した。続いて、炉内に窒素ガスを流量:2.5L/分で供給し、炉内の温度を昇温速度:5℃/分で1100℃まで昇温した後、1時間保持してメラミン樹脂フォームを炭素化した。その後、炉内の温度を室温まで降温し、炉から炭素化したメラミン樹脂フォームを取り出した。こうして実施例1による炭素フォームを作製した。
【0102】
(実施例2)
実施例1と同様に、実施例2による炭素フォームを作製した。ただし、メラミン樹脂フォームに印加した圧縮荷重を70Paとした。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0103】
(実施例3)
実施例1と同様に、実施例3による炭素フォームを作製した。ただし、メラミン樹脂フォームに印加した圧縮荷重を630Paとした。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0104】
(実施例4)
実施例1と同様に、実施例4による炭素フォームを作製した。ただし、メラミン樹脂フォームに対する熱処理温度を2000℃とした。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0105】
(実施例5)
実施例2と同様に、実施例5による炭素フォームを作製した。ただし、メラミン樹脂フォームに対する熱処理温度を2000℃とした。その他の条件は実施例2と全て同じである。
【0106】
(実施例6)
実施例1と同様に、実施例6による炭素フォームを作製した。ただし、メラミン樹脂フォームに印加した圧縮荷重を18Paとし、熱処理温度を1500℃とした。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0107】
(実施例7)
炭素フォームの材料としてメラミン樹脂フォーム(寸法:90mm×120mm×40mm)用意した。次いで、250mm角の黒鉛板の上にサンプルを置き、サンプルの横にスペーサーとして厚み0.5mmの150mm×20mmSUS板を置き、上から更に黒鉛板を置いてサンプルとスペーサーを挟み込んだ。この黒鉛板に挟み込んだ状態で北川精機社製真空プレス機(KVHC−II)内に導入し、真空ポンプで真空減圧しながら設定圧力2.0MPaで押圧した。減圧を続けながら昇温速度:5℃/分で360℃まで昇温した後、10分間保持してから冷却を行った。サンプルを取り出した後、実施例6と同様に再度サンプル上に黒鉛板を載置して、18Paの圧縮荷重を印加し、この圧縮荷重を印加した状態で熱処理炉内に導入して、1500℃で熱処理を行い、実施例7による炭素フォームを作製した。
【0108】
(比較例1)
実施例1と同様に炭素フォームを作製した。ただし、メラミン樹脂フォームに対して黒鉛板による圧縮荷重を印加しなかった。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0109】
(比較例2)
実施例4と同様に炭素フォームを作製した。ただし、メラミン樹脂フォームに対して黒鉛板による圧縮荷重を印加しなかった。その他の条件は実施例4と全て同じである。
【0110】
<SEM観察>
図1〜2は、実施例1および比較例1による炭素フォームのSEM(Scanning Electron Microscope)像をそれぞれ示している。ここで、
図1の(a)は実施例1の断面(圧縮荷重の印加方向の断面)、(b)は実施例1の表面(圧縮荷重の印加方向に垂直な面)に関するものである。また、倍率は、何れのSEM像についても500倍である。
図1から明らかなように、実施例1による炭素フォームにおいては、炭素繊維の線状部同士が結合部で結合しており、線状部が圧縮荷重の印加方向に対して垂直な方向に配向していることが分かる。これに対して、
図2に示した比較例1による炭素フォームにおいては、炭素繊維の線状部は等方的に配向している。
【0111】
また、炭素フォームの繊維状炭素の平均直径d
ave、比表面積Sを測定・算出した。
【0112】
<X線CTによる構造解析>
実施例1〜7および比較例1〜2による炭素フォームに対して、厚み方向をx軸となるようにして、X線CTによる構造解析を行った。具体的には、X線画像を撮像しやすくするため、実施例および比較例の各々に無電解銅めっきを行った後、試験片(サンプル)を採取し、高分解能3DX線顕微鏡nano3DX(株式会社リガク製)を用いて、採取した試験片に対して構造解析を行った。具体的な無電解めっき条件、X線CT解析条件は以下の通りである。
得られた3次元画像を、Median filterで隣接する1pixelにて処理し、大津のアルゴリズムを用いて二値化した。
続いて、JSOL社製のソフトウェアsimplewareのCenterline editor(Ver.7)をデフォルトの設定値で使用して、2.16μm以下の線をノイズとして除去した後、測定視野300μm×300μm×300μm内の結合部の数N
n、線状部の数N
lを検出した。
さらに、炭素フォームの厚み方向をx方向(x軸)、前記x方向に垂直な方向をy方向(y軸)、前記x方向及び前記y方向に垂直な方向をz方向(z軸)とし、前記測定視野内の各線状部のベクトルを算出し、各ベクトルのx軸に対する配向度の平均値θ
avex、y軸に対する配向度の平均値θ
avey、z軸に対する配向度の平均値θ
avezを算出した。その際、配向角度は90度以内となるように変換した。
図4に比較例1の炭素フォームより得られるX線CT解析画像を、
図5に
図4の画像のライン、ノード検出を行った画像処理後の図を結果の一例として示す。
【0113】
[無電解めっき条件]
サンプルをOPCコンディクリーンMA(奥野製薬工業社製、100mL/Lに蒸留水で希釈)に70℃で5分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPCプリディップ49L(奥野製薬工業社製、10mL/Lに蒸留水で希釈、98%硫酸を1.5mL/L添加)に70℃で2分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPCインデューサー50AM(奥野製薬工業社製、100mL/Lに蒸留水で希釈)及び、OPCインデューサー50CM(奥野製薬工業社製、100mL/Lに蒸留水で希釈)を1:1で混合した溶液中に45℃で5分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPC−150クリスタMU(奥野製薬工業社製、150mL/Lに蒸留水で希釈)に室温で5分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPC−BSM(奥野製薬工業社製、125mL/Lに蒸留水で希釈)に室温で5分間浸漬した。続いて化学銅500A(奥野製薬工業社製、250mL/Lに蒸留水で希釈)及び、化学銅500B(奥野製薬工業社製、250mL/Lに蒸留水で希釈)を1:1で混合した溶液中に室温で10分間浸漬した後、蒸留水で5分間洗浄した。その後90℃で12時間真空乾燥を行い、水分を乾燥させた。
【0114】
[X線条件]
X線ターゲット:Cu
X線管電圧:40kV
X線管電流:30mA
[撮影条件]
投影数:1500枚
回転角度:180°
露光時間:20秒/枚
空間解像度:0.54μm/ピクセル
【0115】
上記構造解析により、結合部の数N
n、線状部の数N
l、互いに直交する3方向(x、y、z)に対する配向角度の平均値および結合部の密度を求めた。得られた結果を表1に示す。表1におけるθcは、θ
avex、θ
avey、θ
avezの中の最大値と最小値との差を求めたもので、θ
dは、θ
avexとθ
avey又はθ
avezとの差のうち、小さい値を求めたものである。
【0116】
<炭素含有率>
実施例1〜7、比較例1〜2による炭素フォームの炭素含有率を測定した。サンプルを35mm角に切断し、X線照射径30mmφ用のサンプルホルダーにセットした後、株式会社リガク製の蛍光X線分析装置ZSX−100E(波長分散型、Rh管球)を用いて測定を行った。X線照射径30mmφで全元素半定量分析を行い、全元素中の炭素含有率を決定した。測定した結果を表1に示す。
【0117】
<比着色力>
炭素フォームの比着色力は、カーボンブラックの比着色力の測定手法であるJIS K6217−5と同様に測定した。
まず、比着色力測定用の標準カーボンブラック0.1g、標準酸化亜鉛3.75g、エポキシ化大豆油(比重0.92〜0.99)2mLを、遊星ボールミルを用いて混練した。混練条件はボール数:10個、回転速度:200rpm、時間:10minとした。得られたペーストをアプリケータを用いてガラス板上に展開した。塗膜状のペーストの反射率を東京電色社製黒色度計を用いて測定した。加える標準カーボンブラックの質量を0.01〜0.14gの範囲において変化させたペーストについて同様に反射率を測定し、反射率と標準着色力値との関係を与える検量線を作成した。尚、標準着色力値は標準カーボンブラックの質量(g)×1000(%)として与えられる。
次に、炭素フォーム0.1gとエポキシ化大豆油2mLを混練して得たペーストについて、同様に反射率を測定し、検量線から比着色力を決定した。測定した結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
実施例および比較例の結果をプロットした
図3を見れば明らかなように、θ
cが3°を下回ると粉落ちの重量が急激に増加し、θ
dが3°を下回ると粉落ちの重量が急激に増加する。
【0120】
<粉落ち量の評価(耐圧縮荷重性能の評価)>
実施例1〜7および比較例1〜2による炭素フォームの耐圧縮荷重性能を評価した。具体的には、実施例および比較例の各々に対して、サンプルを20mm角で切り出し、よび径0.6mmのボルト4本を通した平板でサンプルを挟みこみ、トルクレンチを用いてそれぞれ0.3N・mで締め付けることにより1.25MPaの圧縮荷重を印加した。1分間保持した後、荷重を外して、構造内部に残る粉落ちを取り除くため、ウエハーピンセットでサンプルを掴み、薬包紙上に軽く打ちつけ、内部の粉落ちを除去する処理を行った。その際、実施例1〜7による炭素フォームに対しては、圧縮荷重の印加方向は、炭素フォーム作製の際に荷重を印加した方向と同じにした。上記繰り返し処理の後、粉落ちした炭素繊維を回収し、その質量を測定した。得られた結果を表2に示す。
表2から明らかなように、実施例1〜7による圧縮荷重を加えた炭素フォームにおいて粉落ちした炭素繊維の質量は、比較例1、2による炭素フォームに比べて少ないことが分かる。
【0121】
<結晶子サイズの評価>
実施例1〜7および比較例1〜2による炭素フォームの(002)面の回折から結晶子サイズLcを評価した。サンプルを乳鉢で粉砕した後、卓上X線回折装置 D2 PHASER(Bluker社製)を用いて粉砕したサンプルの広角X線測定を行った。具体的な測定条件は以下の通りである。
【0122】
[測定条件]
線源:Cu Kα
管電流:30mA
管電圧:40kV
スリット:1mm
試料回転速度:10回転/min
1ステップの測定時間:0.3sec
開始角度(2θ):5.00°
測定ステップ(2θ):0.01°
終了角度(2θ):90.00°
上記測定後、得られたデータを解析し、結晶子サイズLcを算出した。結晶子サイズLcの算出には2θ=25度の付近に現れる(002)面の回折ピークの半値幅β、ピーク最大値の角度θを下記のScherrerの式(14)に代入して求めることができる。一般的に高い温度で炭素化するほど高い結晶性を有し、Lcの値が大きくなる。
Lc=(Kλ)/βcosθ・・・(14)
ここでKは形状因子、λは線源の波長を表す。形状因子は(002)面回折であるため、0.90を代入する。線源は今回CuKαを用いているため、1.541を代入して計算を行った。結果を表2に示す。
2000℃という高温で熱処理した場合、1100℃の時と比較して、結晶性が高くなり、より大きなLcを示す。
【0123】
<1軸圧縮試験による復元性の評価>
実施例1〜7および比較例1〜2による炭素フォームを一軸で圧縮した後、その復元性を測定した。サンプルを20mm角に切断した後、引張圧縮試験機TG−1kN(ミネベア社製)を使用して初期の膜厚の40%まで圧縮した。その後、負荷を外して60秒の間静置し、復元後の膜厚を測定した。具体的な測定条件は以下の通りである。
[測定条件]
ロードセル:TU3D−1kN 最大荷重1000N
圧縮速度:10mm/min
【0124】
表2から、2000℃で熱処理した実施例4〜5と比較例2との間では、復元性に明確な差が見られる。特に実施例4〜5の復元性は1100℃で熱処理している実施例1〜3と比較例1と同等の復元性を示す。このことから本願の異方性炭素フォーム構造は、高温で熱処理を行った場合にも、高い結晶性を持ちながら、従来の復元性を維持することができる。
【0125】
<レドックスフロー電池抵抗の評価>
実施例1〜7および比較例1〜2で作成した炭素フォームを電極として用い、レドックスフロー電池の充放電試験を行い、セル抵抗の評価を行った。電極に用いる際、親水性を向上するために、前処理として、乾燥空気を用いて熱処理を行った。熱処理は、炉内に炭素フォームを投入し、Airボンベを用いて、流量1L/分で供給し、炉内の温度を昇温速度5℃/分で500℃まで昇温した後、1時間保持することで行った。
正極側の電解液には、バナジウム4価(V
4+)を含む硫酸水溶液50mLを用い、負極側の電解液には、バナジウム3価(V
3+)を含む硫酸水溶液50mLを用いた。いずれの溶液も、バナジウムイオン濃度が1.5M/L、全硫酸イオン濃度が3.5M/Lとなるように調整した。正極と負極を隔てる隔膜には、Nafion212(登録商標:米国デュポン社製)を使用した。隔膜の正極側および負極側に炭素フォーム電極をそれぞれ設置し、さらに外側に集電板(正極用、負極用)を設置し、これらをボルトを用いて締結することによってセルを組み立てた.締結トルクはトルクレンチを用いて4Nmに調節した。なお、隔膜と集電板の間には、セル組立後の炭素フォームの厚さが,元の厚さの70%となるようにPTFE製のスペーサーを設置した。
その他の充放電試験条件は、以下の通り実施した。
電極面積:10cm
2
電流密度:70mA/cm
2
セル抵抗は、充電と放電における過電圧の平均値を,電流密度で除すことによって求めた。得られた結果を表2に示す。
【0126】
<電極の破断耐性の評価>
実施例1〜7、および比較例1、2について電極面積100cm
2のセルが3セル積層したスタックセルを用いて、電極の破断耐性の評価を行った。
正極と負極を隔てる隔膜には、Nafion212(登録商標:米国デュポン社製)を使用した。隔膜の正極側および負極側に炭素フォーム電極をそれぞれ設置し、さらに外側に集電板(正極用、負極用)を設置し、これらをボルトを用いて締結することによってセルを組み立てた。締結トルクはトルクレンチを用いて4N・mに調節した。なお、隔膜と集電板の間には、セル組立後の炭素フォームの厚さが,元の厚さの70%となるようにPTFE製のスペーサーを設置した。電解液の代わりに、蒸留水を1時間通液し、漏れ、圧力の増加が無いことを確認した。続いて、セルを分解し、以下の水準で電極の変形を評価した。
◎:全ての電極で破断箇所が見られず、セルから電極を取り外すことができた。
○:セルを分解した際、全ての電極で破断箇所は見られなかったが、セルから電極を取り外す際に、一部の電極で破断を生じた。
×:セルを分解した際、全ての電極で破断箇所が見られた。
【0127】
【表2】
【0128】
<第二の実施形態の
参考例>
以下、具体的な
参考例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0129】
(
参考例8)
<膜電極複合体の作製>
[炭素フォームの作製]
まず、メラミン樹脂フォーム(寸法:90mm×90mm×10mm)を用意した。このメラミン樹脂フォームを黒鉛板に載せて熱処理炉内に導入した。次に、炉内を窒素ガスで置換した後、窒素ガスを1L/minの流速で流通させた。続いて、800℃まで5℃/minの昇温速度で加熱し、上記発泡体に対して1時間の熱処理を施した。その後室温まで降温して取り出し、炭素フォームを作製した。得られた炭素フォームの寸法は、45mm×45mm×5mmであった。
また、炭素フォームのかさ密度、真密度、空隙率、摩擦係数の平均偏差MMD、繊維状炭素の平均直径d
ave、比表面積Sおよび圧縮ひずみ60%における圧縮応力σ
60をそれぞれ測定した。得られた結果を表3に示す。
【0130】
[電解質膜と炭素フォームの接合]
電解質膜として、寸法:50mm×50mm×0.05mmのNafion(登録商標、米国デュポン社製)を用意した。この電解質膜を、上述のように作製した炭素フォームで挟み込み、ホットプレス法により電解質膜と炭素フォームとを接合した。具体的には、電解質膜を2枚の炭素フォームで挟み、厚さ2mmのスペーサーとともにホットプレス機の圧板間に置いた。次に、圧板を160℃まで加熱しプレスした。10min保持した後、圧板を開放して膜電極複合体を取り出し、室温まで冷却した。こうして
参考例8による膜電極複合体を作製した。
【0131】
(
参考例9)
参考例8と同様に、
参考例9による膜電極複合体を作製した。ただし、メラミン樹脂フォームの熱処理温度を1100℃とした。その他の条件は
参考例8と全て同じである。
【0132】
(
参考例10)
参考例8と同様に、
参考例10による膜電極複合体を作製した。ただし、メラミン樹脂フォームの熱処理温度を1500℃とした。その他の条件は
参考例8と全て同じである。
【0133】
(
参考例11)
参考例9と同様に、
参考例11による膜電極複合体を作製した。ただし、メラミン樹脂フォームの熱処理の際に、メラミン樹脂フォームに70Paの圧縮応力を負荷しながら行った。また、ホットプレスに用いるスペーサーの厚さは0.4mmとした。その他の条件は
参考例9と全て同じである。
【0134】
(
参考例12)
参考例9と同様に、
参考例12による膜電極複合体を作製した。ただし、メラミン樹脂フォームの熱処理の際に、メラミン樹脂フォームに280Paの圧縮応力を負荷しながら行った。また、ホットプレスに用いるスペーサーの厚さは0.2mmとした。その他の条件は
参考例9と全て同じである。
【0135】
(比較例3)
参考例8における炭素フォームに代えて、炭素電極として炭素繊維不織布(SGL CARBON社製のSIGRACELL GFA6EA)を用いて、比較例3による膜電極複合体を作製した。その際、ホットプレスに用いるスペーサーの厚さは2mmとした。その他の条件は
参考例8と全て同じである。
【0136】
【表3】
【0137】
<X線CTによる構造解析>
参考例8〜12による炭素フォーム、比較例3による炭素繊維不織布に対して、X線CTによる構造解析を行った。
X線CTによる構造解析は、厚み方向をx軸となるようにして解析を行った。具体的には、X線画像を撮像しやすくするため、
参考例および比較例の各々に無電解銅めっきを行った後、試験片(サンプル)を採取し、高分解能3DX線顕微鏡nano3DX(株式会社リガク製)を用いて、採取した試験片に対して構造解析を行った。具体的な無電解めっき条件、X線CT解析条件は以下の通りである。
【0138】
得られた3次元画像を、Median filterで隣接する1pixelにて処理し、大津のアルゴリズムを用いて二値化した。
続いて、JSOL社製のソフトウェアsimplewareのCenterline editor(Ver.7)をデフォルトの設定値で使用して、2.16μm以下の線をノイズとして除去した後、測定視野300μm×300μm×300μm内の結合部の数N
n、線状部の数N
lを検出した。
【0139】
[無電解めっき条件]
サンプルをOPCコンディクリーンMA(奥野製薬工業社製、100mL/Lに蒸留水で希釈)に70℃で5分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPCプリディップ49L(奥野製薬工業社製、10mL/Lに蒸留水で希釈、98%硫酸を1.5mL/L添加)に70℃で2分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPCインデューサー50AM(奥野製薬工業社製、100mL/Lに蒸留水で希釈)及び、OPCインデューサー50CM(奥野製薬工業社製、100mL/Lに蒸留水で希釈)を1:1で混合した溶液中に45℃で5分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPC−150クリスタMU(奥野製薬工業社製、150mL/Lに蒸留水で希釈)に室温で5分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPC−BSM(奥野製薬工業社製、125mL/Lに蒸留水で希釈)に室温で5分間浸漬した。続いて化学銅500A(奥野製薬工業社製、250mL/Lに蒸留水で希釈)及び、化学銅500B(奥野製薬工業社製、250mL/Lに蒸留水で希釈)を1:1で混合した溶液中に室温で10分間浸漬した後、蒸留水で5分間洗浄した。その後90℃で12時間真空乾燥を行い、水分を乾燥させた。
【0140】
[X線条件]
X線ターゲット:Cu
X線管電圧:40kV
X線管電流:30mA
[撮影条件]
投影数:1500枚
回転角度:180°
露光時間:20秒/枚
空間解像度:0.54μm/ピクセル
上記構造解析により、結合部の数N
n、線状部の数N
l、および結合部の密度を求めた。得られた結果を表3に示す。
【0141】
<炭素含有率>
参考例8〜12、比較例3による炭素フォームの炭素含有率を測定した。サンプルを35mm角に切断し、X線照射径30mmφ用のサンプルホルダーにセットした後、株式会社リガク製の蛍光X線分析装置ZSX−100E(波長分散型、Rh管球)を用いて測定を行った。X線照射径30mmφで全元素半定量分析を行い、全元素中の炭素含有率を決定した。測定した結果を表1に示す。
【0142】
<比着色力>
炭素フォームの比着色力は、カーボンブラックの比着色力の測定手法であるJIS K6217−5と同様に測定した。
まず、比着色力測定用の標準カーボンブラック0.1g、標準酸化亜鉛3.75g、エポキシ化大豆油(比重0.92〜0.99)2mLを、遊星ボールミルを用いて混練した。混練条件はボール数:10個、回転速度:200rpm、時間:10minとした。得られたペーストをアプリケータを用いてガラス板上に展開した。塗膜状のペーストの反射率を東京電色社製黒色度計を用いて測定した。加える標準カーボンブラックの質量を0.01〜0.14gの範囲において変化させたペーストについて同様に反射率を測定し、反射率と標準着色力値との関係を与える検量線を作成した。尚、標準着色力値は標準カーボンブラックの質量(g)×1000(%)として与えられる。
次に、炭素フォーム0.1gとエポキシ化大豆油2mLを混練して得たペーストについて、同様に反射率を測定し、検量線から比着色力を決定した。測定した結果を表1に示す。
【0143】
<耐剥離性能の評価>
参考例8〜12および比較例3による膜電極複合体の耐剥離性能を評価した。具体的には、膜電極複合体を湾曲させた際の剥離の有無と、膜電極複合体をエチレングリコールに浸漬した際の剥離を評価した。以下、各評価について説明する。
【0144】
[湾曲による評価]
参考例8〜12および比較例3による膜電極複合体の各々について、湾曲させた際に、電解質膜と炭素フォームとの間で剥離が発生するか否かを評価した。具体的には、直径20mmの丸棒の側面に膜電極複合体を沿わせることによって、膜電極複合体を曲率半径20mmで湾曲させ、電解質膜と炭素フォームとの間で剥離が生じているか否かを目視観察により評価した。同様の評価を、膜電極複合体を曲率半径10mmで湾曲させた場合についても行った。評価結果を表3に示す。
【0145】
なお、表3において、◎は、曲率半径が20mmおよび10mmの双方の場合について剥離が発生しなかったことを示しており、○は、曲率半径が20mmの場合には剥離は発生せず、10mmの場合には剥離が発生したことを示しており、×は、曲率半径が20mmおよび10mmの場合の双方について剥離が発生したことを示している。
【0146】
[エチレングリコール浸漬による評価]
参考例8〜12および比較例3による膜電極複合体の各々について、エチレングリコールに浸漬した際に、電解質膜と炭素フォームとの間で剥離が発生するか否かを評価した。具体的には、エチレングリコールを容器内に供給し、エチレングリコールの温度を25℃に維持した状態で、膜電極複合体をエチレングリコールに浸漬した。12時間経過した時点において、電解質膜と炭素フォームとの間で剥離が生じているか否かを目視観察により評価した。評価結果を表3に示す。
【0147】
なお、表3において、○は、剥離が発生しなかったことを示しており、△は、12時間後に部分的に剥離が発生したことを示しており、×は、12時間後に完全に剥離したことを示している。
【0148】
表3から明らかなように、
参考例8〜12による膜電極複合体は、曲率半径20mmで湾曲させた剥離評価およびエチレングリコール浸漬による剥離評価の何れにおいても、剥離は発生しなかった。特に、圧縮応力σ
60が40MPa以下である
参考例8〜10は、曲率半径10mmで湾曲させた剥離評価においても剥離は発生しなかった。これに対して、比較例3は、湾曲による剥離評価およびエチレングリコール浸漬による剥離評価の何れにおいても、剥離が発生した。