(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、まずは抵抗体にステンレス素材を用いた本発明の抵抗素子を、図面及び写真を参照しつつ説明するが、本発明の抵抗素子の実施形態はこれに限られるものではない。
【0026】
第一実施形態
図1は、本発明の抵抗素子の一実施形態を示した模式図である。
図1に示される抵抗素子100は、金属繊維を主として含有する抵抗体1と、抵抗体1の両端部に設けられた電極2と、抵抗体1と電極2とに積層された絶縁層3とを具備する。
【0027】
第二実施形態
図2は、第一抵抗体4と第二抵抗体5とが接続部10で電気的に接続された他の実施形態の抵抗素子を示す模式図である。
本実施形態では、第一抵抗体4と第二抵抗体5との端部に電極2が形成されており、第一抵抗体4と第二抵抗体5とは接続部10において相互に電気的に接続されている。また、第一抵抗体4と第二抵抗体5との接続部10以外の電気的接続を防ぐため、絶縁層3が配されている。このような形態を取ることで、抵抗素子の小型化が実現され、高密度実装化に貢献できると共に、第一抵抗体4の電圧の印加の向きと、前記第二抵抗体5の電圧の印加の向きとが異なる(本実施形態においては対向)ことによって磁場を相殺することが可能となり、抵抗素子自身から発生する電磁波を抑制することに寄与できる。
図2中、参照番号6は、第一抵抗体4を流れる電流の方向を意味し、参照番号7はそれにより生じる磁場を意味する。参照番号8は、第二抵抗体5を流れる電流の方向を意味し、参照番号9はそれにより生じる磁場を意味する。
また、本明細書において対向または、略対向とは、第一抵抗体と第二抵抗体の電圧印加の向きがまさに対向している様態の他、抵抗体同士の配置によって磁場の相殺効果が生ずる範囲をいう。
【0028】
第三実施形態
また、第一抵抗体4、第二抵抗体5、および接続部10は、連続体であっても良い。本明細書において連続体とは、1部材を折り曲げた形態を含む他、他部材等の接合によらない状態を指す。
図3は、第一抵抗体4、第二抵抗体5、および接続部10が連続体となっている構成を示している。このような構成とすることにより、
図2の実施形態のようにわざわざ接続部10を設ける手間を排除することができるため、抵抗素子の効率的な生産に寄与することができる。
図3中、参照番号6は、第一抵抗体4を流れる電流の方向を意味し、参照番号7はそれにより生じる磁場を意味する。参照番号8は、第二抵抗体5を流れる電流の方向を意味し、参照番号9はそれにより生じる磁場を意味する。
なお、本実施形態における接続部とは、第一抵抗体4と第二抵抗体5とを繋ぐ曲部を指す。
図3、
図4、
図5のような抵抗素子を作製する場合には、絶縁層3に沿って、連続体を折り曲げてゆくことで、効率的に作製することができる。
【0029】
図4、
図5は連続体である抵抗体1がそれぞれ1往復半、および2往復した抵抗素子である。抵抗体1と、抵抗体1との間には、絶縁層3が設けられている。このように絶縁層3を挟み、抵抗体1が積層された構成を取ることで、抵抗素子の小型化がはかられ、広範囲の抵抗値設定にも対応しやすくなる効果が期待できる。
【0030】
次に、本発明の抵抗素子100を構成する、抵抗体1、4、および5、電極2、および絶縁層3等について以下に詳細な説明を記載する。
【0031】
(抵抗体)
前記抵抗体1、4、および5は、主に金属繊維を含有している。金属繊維を構成する主たる金属である第一金属は、例えば、ステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅、鉄、白金、金、スズ、クロム、鉛、チタン、ニッケル、マンガニン、ニクロム等であり、中でも適度な電気抵抗率と経済性とからステンレス繊維を好適に用いることができる。また、本発明に係わる金属繊維を主として含有する抵抗体は、金属繊維のみから構成されていても良いし、金属繊維以外を含んでいても良い。さらに金属繊維は単一種類であっても、複数種類が用いられていても良い。
つまり、本発明における抵抗体1、4、および5は、複数種類のステンレス素材から構成される金属繊維で形成された抵抗体であってもよいし、ステンレス素材及び他の金属から構成される金属繊維で形成された抵抗体、すなわち、ステンレス素材を含む複数種類の金属から構成される金属繊維で形成された抵抗体でもよいし、ステンレス素材が含まれない金属群から構成される金属繊維からなる抵抗体であってもよいし、金属繊維以外を構成要素として有している抵抗体であってもよい。
【0032】
また、第二金属としては、特に限定されないが、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、青銅、黄銅、ニッケル、クロムなどが例示でき、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等の貴金属であっても良い。
【0033】
本発明に係わる抵抗体1、4、および5は、金属繊維を主として含有するシート状物であることが好ましい。金属繊維を主として含有するシート状物とは、金属繊維不織布、金属繊維メッシュ(金属繊維織布)を指す。
金属繊維不織布は、湿式法及び乾式法いずれで作製されたものであっても良く、金属繊維メッシュは、織布(金属繊維織布)等を含む。
本明細書において、金属繊維を主としてとは、重量比率で金属繊維を50%以上有する場合をいう。
【0034】
本発明に係わる抵抗体1、4、および5を構成する金属繊維は、抵抗値の安定と均一化との点から焼結されているか、または第二の金属成分によって、金属繊維間が結着されていることが好ましい。
本明細書において結着とは、金属繊維が第二の金属成分によって物理的に固定されている状態をいう。
【0035】
本発明に係わる金属繊維の平均繊維径は、抵抗体の形成、抵抗素子の作製に支障が無い範囲で任意に設定可能であるが、好ましくは1μm〜50μmであり、さらに好ましくは1μm〜20μmである。
なお、本明細書における「平均繊維径」とは、顕微鏡で撮像された抵抗体の任意の場所における垂直断面に基づき金属繊維の断面積を算出し(例えば、公知のソフトにて)、当該断面積と同一面積を有する円の直径を算出することにより導かれた任意の個数の繊維の面積径の平均値(例えば、20個の繊維の平均値)である。
【0036】
金属繊維の断面形状は円形、楕円形、略四角形、不定形等いずれであっても良い。
【0037】
本発明に係わる金属繊維の繊維長は、1mm以上であることが好ましい。1mm以上であれば、抵抗体を湿式抄造法で作製する場合であっても、金属繊維間の交絡あるいは、接点を得易い。
なお、本明細書における「平均繊維長」とは、顕微鏡で20本を測定し、測定値を平均した値である。
【0038】
なお、金属繊維の繊維径や繊維長を調整することにより、抵抗体の大きさ等を調整することなく、抵抗素子、抵抗体の小型化を実現しながらも、広範囲の抵抗値設定へ対応しやすくなるという効果が期待できる。
【0039】
抵抗体1、4、および5の厚さは、所望の抵抗値により任意に設定可能である。
なお、本明細書における「抵抗体の厚さ」とは、空気による端子落下方式の膜厚計(例えば、ミツトヨ社製:デジマチックインジケータID−C112X)で例えば、任意の数測定点を測定した際の平均値をいう。
【0040】
抵抗体1、4、および5における繊維の占積率は、1〜40%の範囲が好ましく、3%〜20%がより好ましい。占積率を調整することにより、抵抗体の大きさ等を調整することなく、抵抗素子、抵抗体の小型化を実現しながらも、広範囲の抵抗値設定へ対応しやすくなるという効果が期待できる。すなわち、占積率を調整することで抵抗体の断面積を調整することが可能となり、例えば、同じ大きさの抵抗体であっても、異なる抵抗値に調整することが可能となる。
本明細書における「占積率」とは、抵抗体の体積に対して繊維が存在する部分の割合である。抵抗体1、4、および5がシート状物であって、金属繊維のみから抵抗体が構成される場合、抵抗体の坪量、厚さ、及び金属繊維の真密度から以下の式により算出される。占積率(%)=抵抗体の坪量/(抵抗体の厚さ×金属繊維の真密度)×100
なお、金属繊維を結着させるために、他の金属使用する場合、または金属繊維以外を使用する場合には、組成分析により抵抗体中の金属比率あるいは、金属成分以外の比率を特定し、真比重の値に反映させれば良い。
【0041】
本発明に係る抵抗体1、4、および5の伸び率は、2〜5%であることが好ましい。適度な伸び率を有することにより、例えば絶縁層に沿って抵抗体が折り曲げられた場合、抵抗体の折り曲げ部外側に伸びしろがあることにより、座屈せずに絶縁層に追従しやすくなる効果を奏する。
伸び率は、JIS P8113(ISO 1924−2)に準拠し、試験片の面積を15mm×180mmとなるように調整し、引張速度30mm/minにて測定することができる。
なお、
図14は、本発明の抵抗素子が具備する抵抗体がステンレス繊維焼結不織布である場合の圧縮応力と、ひずみとの関係を示すグラフである。ここで使用された抵抗体の伸び率は2.8%である。
【0042】
本発明に係わる抵抗体1、4、および5は、圧縮応力とひずみとの関係において、塑性変形を示す第一領域と、前記第一領域よりも圧縮応力が高い領域で現れる、弾性変形を示す第二領域とを具備することが好ましい。
この変化は、抵抗体の厚さ方向の圧縮でも発現するし、折り曲げ時には折り曲げ箇所内部においても圧縮応力が発生する。
例えば、絶縁層3に沿って抵抗体が折り曲げられた場合、抵抗体の折り曲げ部内側と外側とでは、曲率に相当する距離の差が生ずる。金属繊維を主として含有する抵抗体は、この距離の差を埋めるべく、その空隙を狭めることとなり、結果として折り曲げ部では抵抗体内部に圧縮応力が生ずることとなる。
図6〜
図8は、厚さ約216μmのガラスエポキシ板12(絶縁層3に該当する)の端部13に沿って、ステンレス繊維焼結不織布11、ステンレス繊維織布14、ステンレス箔15をそれぞれ追従させて折り曲げた状態を撮影した写真である。端部13を見ると、ステンレス繊維焼結不織布11(
図6)およびステンレス織布14(
図7)は、ガラスエポキシ板12の端部13に追従していることがわかる。
これに対して、ステンレス箔15(
図8)はガラスエポキシ板12の端部13との間に隙間が生じてしまっている。この現象は、100μmの両面粘着付きPETフィルム16(絶縁層3)の端部に沿って、ステンレス繊維焼結不織布11(
図9)、ステンレス繊維織布14(
図10)、ステンレス箔15(
図11)をそれぞれ追従させて折り曲げた場合にも同様の傾向が見られる。
すなわち、金属繊維を主として含有する抵抗体1、4、および5の実施形態に含まれるステンレス繊維焼結不織布11、ステンレス繊維織布14は、絶縁層3の実施形態に含まれるガラスエポキシ板12、両面粘着付きPETフィルム16の端部への追従が優れており、隙間が生じることで危惧される電気的短絡等の恐れがないことに加えて、抵抗体の小型化に実現する上での生産性にも優れるという効果を奏することができるものである。
【0043】
この現象は、ステンレス繊維焼結不織布およびステンレス繊維織布が、圧縮応力と、ひずみとの関係において、圧縮応力が大きくなるにつれて、まず塑性変形領域(第一領域)、次に現れる変化が弾性変形領域(第二領域)を有すること、および/または弾性変形を示す領域(第二領域)に圧縮応力に対するひずみの変曲部aを有することに起因すると推察される。
【0044】
以下、上記塑性変形(第一領域)、弾性変形(第二領域)、および変曲部aについて説明する。
これら塑性変形、弾性変形、および変曲部aは、圧縮・開放のサイクルで圧縮試験を実施することにより、応力−ひずみ曲線から確認することができる。
図14は、本発明に係わる抵抗体(ステンレス繊維焼結不織布:初期厚1,020μm)を圧縮・開放のサイクルで圧縮試験した際の測定結果を示すグラフである。グラフ中、1回目〜3回目は圧縮回数を示し、1回目である初回圧縮時の測定値、次いで2回目圧縮時の測定値、さらに3回目圧縮時の測定値をプロットしている。
本発明に係わる抵抗体は、一回目の圧縮・開放の動作により塑性変形するため、2回目の圧縮時には測定プローブのスタート位置が未圧縮時よりも下がる。
なお、本明細書では、既圧縮時(2回目または3回目の圧縮時)のひずみスタート値を境として、低ひずみ側を塑性変形領域とし、塑性変形領域以降(高ひずみ側)のひずみを弾性変形領域と定義している。
図14のグラフでは、ひずみスタート値である、2回目の圧縮時のひずみは約600μmである。
【0045】
図14に示す測定結果から、前記抵抗体は、ひずみ600μmを境に、塑性変形を示す第一領域A、弾性変形を示す第二領域Bを有していることがわかる。
すなわち、上述したように、本発明に係わる抵抗体は、圧縮応力とひずみの関係において、圧縮応力が大きくなるにつれて、塑性変形を示す第一領域Aと、その後弾性変形を示す第二領域Bとが出現するものであることが好ましい。
より具体的には、本発明における抵抗体は、既圧縮時(2回目の圧縮時)をひずみスタート値とした場合、当該スタート値のひずみよりも低ひずみ側に塑性変形領域(第一領域)を有し、当該スタート値のひずみよりも高ひずみ側に弾性変形領域(第二領域)を有することが好ましい。
【0046】
本発明で抵抗体として使用できる、ステンレス繊維焼結不織布、またはステンレス繊維織布を、ガラスエポキシ板12等の絶縁層3端部に追従させて折り曲げた時、塑性変形を示す第一領域Aで適度にその形状を変形しつつ、弾性変形を示す第二領域Bでクッション性によって前記端13部へ充分に追従し、ステンレス繊維焼結不織布、ステンレス繊維織布とガラスエポキシ板12端部との間に発生する若干の隙間を埋めることができるものと推察される。
【0047】
一方、ステンレス箔は、曲げ応力に対して、まず弾性変形が生じ、次に現れる変化は塑性変形である。すなわち、ステンレス箔においては、折り曲げ部で弾性変形限界に達したステンレス箔が、塑性変形(座屈)することによって、急激な形状変化をきたし、これによって、ステンレス箔の折り曲げ箇所と、例えばガラスエポキシ板12端部との間に隙間が発生する。また、
図12に示すSEM写か真から、厚さ20μmのステンレス箔を折り曲げた部位では一部が破断を生じていることがわかる。
【0048】
ステンレス箔は、まず弾性変形が生じ、次に塑性変形が生じるために、曲げ応力に対して座屈限界に達したステンレス箔が、塑性変形を生ずることにより、ある部分で折れ曲がった状態となり、ガラスエポキシ板等の絶縁層端部へ充分に追従できなくなっているものと解される。
【0049】
また、上述したように、本発明の抵抗素子が具備する抵抗体においては、圧縮応力に対するひずみの変曲部aが、弾性変形を示す領域(第二領域)にあることが好ましい。
図15は、本発明に係わる抵抗素子が具備する抵抗体の弾性変形を示す領域を詳細に説明するためのグラフであり、
図14の測定で使用したステンレス繊維焼結不織布を使用している。
図15中、変曲部aよりも圧縮応力が低い、弾性変形を示す領域B1は、いわゆるバネ弾性領域と解され、変曲部aよりも圧縮応力が高い、弾性変形を示す領域B2は金属内部にひずみを溜め込むいわゆるひずみ弾性領域であると解される。
【0050】
図15に示すように、本発明に係わる抵抗体の一例としての前記ステンレス繊維焼結不織布が、変曲部aよりも圧縮応力が低い、弾性変形を示す領域B1と、変曲部aよりも圧縮応力が高い、弾性変形を示す領域B2を有することで、形状追従性を高め易く、もって抵抗素子の小型化を容易にするという効果を奏する。
このような抵抗体は、変曲部aよりも圧縮応力に対してひずみの変化が大きい、弾性変形領域B1で適度に形状変形しつつ、変曲部aよりも圧縮応力に対してひずみの変化が小さい弾性変形領域B2で絶縁層端部へきっちりと追従する。
【0051】
本発明に係わる抵抗体が、弾性変形を示す第二領域Bに変曲部aを有する場合、圧縮応力とひずみとの関係において、弾性変形を示す第二領域Bの前に塑性変形を示す第一領域Aを有しても良い。
【0052】
上記の通り、塑性変形、弾性変形は、圧縮・開放のサイクルで圧縮試験を行うことにより、応力−ひずみ曲線から確認することができる。
圧縮・開放のサイクルでの圧縮試験の測定方法は、例えば引張・圧縮応力測定試験機を使用して行うことができる。まず、30mm角の試験片を準備する。ミツトヨ製、デジマチックインジケータID−C112Xを用いて準備した試験片の厚さを圧縮試験前の厚さとして測定する。このマイクロメーターは空気によってプローブの上げ下げを行うことができ、また、その速度も任意に調節することができる。試験片は微量の応力により潰れやすい状態であるため、測定プローブを降ろす際にはなるべくプローブの自重のみが試験片にかかるようにゆっくり降ろす。且つ、プローブを当てる回数は1度のみとする。このとき測定した厚さを「試験前の厚さ」とする。
【0053】
続いて、試験片を用いて圧縮試験を行う。1kNのロードセルを用いる。圧縮試験に使用する冶具は、ステンレス製の直径100mmの圧縮プローブを使用する。圧縮速度は1mm/minとし、試験片の圧縮・開放動作を続けて3回行う。これにより本発明に係わる抵抗体の塑性変形、弾性変形、変曲部等を確認することができる。
【0054】
試験により得られた「応力-ひずみ曲線」から、圧縮応力に対する実際のひずみを計算し、以下の式にしたがって塑性変形量を算出する。
塑性変形量=(圧縮1回目の立ち上がり部のひずみ)−(圧縮2回目の立ち上がり部のひずみ)
このとき、立ち上がり部とは、2.5Nのときのひずみのことを指す。試験後の試験片の厚さを前述と同様の方法で測定を行い、これを「試験後の厚さ」とする。
【0055】
また、本発明に係わる抵抗体は、塑性変形率が所望の範囲内であることが好ましい。塑性変形率とは、抵抗体の塑性変形の程度を示す。
なお、本明細書における塑性変形率(例えば、0MPa〜1MPaまで荷重を徐々に増加させながら加えた際の塑性変形率)は以下のように規定される。
塑性変形量(μm)=T0−T1
塑性変形率(%)=(T0−T1)/T0×100
上記T0は、荷重を加える前の抵抗体の厚さであり、
上記T1は、荷重を加え、解放した後の抵抗体の厚さである。
本発明に係わる抵抗体の塑性変形率は、1%〜90%が好ましく、4%〜75%であることがさらに好ましく、20%〜55%であることが特に好ましく、20%〜40%であることが最も好ましい。塑性変形率が1%〜90%であることにより、より良好な形状追従性が得られ、これによって抵抗素子の小型化が達成されやすくなる効果を奏する。
【0056】
(抵抗体の作製)
本発明に係わる抵抗体を得る方法としては、金属繊維または金属繊維を主体としたウェブを圧縮成形する乾式法、金属繊維を織る方法、金属繊維または金属繊維を主体とする原料を湿式抄造法で抄紙する方法等を採用することができる。
【0057】
乾式法により、本発明に係わる抵抗体を得る場合には、カード法、エアレイド法等により得られた金属繊維または金属繊維を主体とするウェブを圧縮成形することができる。
この時、繊維間の結合を付与するために繊維間にバインダーを含浸させてもよい。かかるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などの有機系バインダーの他に、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ酸ソーダなどの無機質接着剤を用いることができる。
なお、バインダーを含浸する代わりに、繊維の表面に熱接着性樹脂を予め被覆しておき、金属繊維または金属繊維を主体とする集合体を積層した後に加圧・加熱圧縮しても良い。
【0058】
金属繊維を織り込むことによって作製する方法は、機織りと同様の方法にて、平織、綾織、杉綾織、畳織、トリプル織等の形態に仕上げることができる。
【0059】
また、金属繊維等を水中に分散させて、これを抄き上げる湿式抄造法により本発明に係わる抵抗体を作製することもできる。
金属繊維不織布の湿式抄造方法としては、金属繊維等の繊維状物を水中分散等して抄造スラリーを作製する工程、抄造スラリーから湿体シートを得る抄造工程、湿体シートを脱水させる脱水工程、および脱水後のシートを乾燥して、乾燥シートを得る乾燥工程を少なくとも具備する。
以下、工程ごとに説明する。
【0060】
(スラリー作製工程)
金属繊維または金属繊維を主体としたスラリーを調製し、これに填料、分散剤、増粘剤、消泡剤、紙力増強剤、サイズ剤、凝集剤、着色剤、定着剤等を適宜添加して、スラリーを得る。
また、金属繊維以外の繊維状物としてポリエチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)樹脂、ポリビニルアルコ−ル(PVA)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アラミド樹脂、ナイロン、アクリル系樹脂等の加熱溶融により結着性を発揮する有機繊維等をスラリー中に添加することもできる。
【0061】
(抄造工程)
次に前記スラリーを用いて、抄紙機にて湿式抄造を実施する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらの中から同種または異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機などを用いることができる。
【0062】
(脱水工程)
次に、抄紙後の湿紙を脱水する。
脱水時には、脱水の水流量(脱水量)を抄造網の面内、幅方向等で均一化することが好ましい。水流量を一定にすることで、脱水時の乱流等が抑えられ、金属繊維が抄造網へ沈降する速度が均一化されるため、均質性の高い抵抗体を得易くなる。
脱水時の水流量を一定にするためには、抄造網下の水流の障害となる可能性のある構造物を排除する等の方策を取ることができる。これにより、面内バラツキが小さく、より緻密で均一な折り曲げ特性を有した抵抗体を得易くなる。このため抵抗素子の高密度実装化を実施しやすくなる効果を奏する。
【0063】
(乾燥工程)
次に、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラムドライヤー、赤外方式ドライヤー等を用いて、乾燥する。
このような工程を経て金属繊維を主として含有するシートを得ることができる。
【0064】
上記工程を経て抵抗体を得ることができる。
なお、上記工程以外に加え、下記工程を採用することもが好ましい。
(繊維交絡工程)
なお、湿式抄造法により抵抗体を得る際には、抄紙機の網上の水分を含んだシートが含有する金属繊維または金属繊維を主体とした成分を互いに交絡させる繊維交絡工程を経て製造されることが好適である。つまり、繊維交絡工程を採用する場合、繊維交絡工程は、抄造工程後に行なわれる。
繊維交絡工程としては、例えば、抄造網上の金属繊維湿体面に高圧ジェット水流を噴射するのが好ましく、具体的には、湿体の流れ方向に直交する方向に複数のノズルを配列し、この複数のノズルから同時に高圧ジェット水流を噴射することにより、湿体全体に亘って金属繊維または金属繊維を主体とする繊維同士を交絡させることが可能である。
繊維交絡工程を採用することにより、繊維同士が交絡するため、いわゆるダマの少ない、均質な抵抗体を得ることができる。高密度実装化に好適である。
【0065】
(繊維結着工程)
抵抗体をなす金属繊維同士は結着されていることが好ましい。金属繊維同士を結着させる工程としては、抵抗体を焼結する工程、化学エッチングにより結着する工程、レーザー溶着する工程、IH加熱を利用して結着する構成、ケミカルボンド工程、サーマルボンド工程法等を用いることができるが、抵抗値の安定化のためには、抵抗体を焼結する方法を好適に用いることができる。
図13は、ステンレス繊維を焼結により結着させたステンレス繊維抵抗体の断面をSEM観察したものである。ステンレス繊維同士が充分に結着していることがわかる。
本明細書において「結着」とは、金属繊維が物理的に固定されている状態をいい、金属繊維同士が直接固定されていても良いし、当該金属繊維の金属成分とは異なる金属成分を有する第二の金属成分によって固定されていても良いし、金属繊維の一部同士が金属成分以外の成分によって固定されていても良い。
【0066】
本発明に係わる抵抗体を焼結させるには、真空中または非酸化雰囲気中で金属繊維の融点以下の温度で焼結する焼結工程を含むことが好ましい。焼結工程を経た抵抗体は有機物が焼失しており、このように金属繊維のみからなる抵抗体の繊維同士の接点が結着することで、例えば、第一抵抗体と第二抵抗体を連続した様態とする場合などに、絶縁層に対してより良好な形状追従性を与えられると共に、安定した抵抗値を本発明の抵抗体に付与しやすくなる効果を奏する。なお、本明細書において焼結とは、金属繊維が加熱前の繊維状態を残しつつも、結着している状態を示す。
【0067】
このようにして作製される抵抗体の抵抗値は、金属繊維の種類、厚み、密度等により任意に調整可能であるが、ステンレス繊維を焼結させて得られたシート状の抵抗体の抵抗値は、例えば50〜300mΩ/□程度である。
【0068】
(プレス工程)
プレスは加熱下で実施しても、非加熱下で実施しても良いが、本発明に係わる抵抗体が加熱溶融により結着性を発揮する有機繊維等を含んでいる場合には、その溶融開始温度以上での加熱が有効であり、金属繊維単独または、第二の金属成分を含んで構成される場合には、加圧のみでも良い。さらに加圧時の圧力は、抵抗体の厚さを考慮して適宜設定すれば良い。また、このプレス工程により、抵抗体の占積率を調整することもできる。
プレス工程は、脱水工程と乾燥工程の間、乾燥工程と結着工程の間、および/または結着工程後に実施することができる。
【0069】
乾燥工程と結着工程の間にプレス(加圧)工程を実施すると、その後の結着工程に於いて結着部を確実に設けやすい(結着点数を増加させやすく)。また、塑性変形を示す第一領域と、前記第一領域よりも圧縮応力が高い領域で現れる、弾性変形を示す第二領域をより得易い。さらに弾性変形を示す領域に変曲部aをより得易いため、本発明に係わる抵抗体に形状追従性を与えやすくなる点において好ましい。
【0070】
焼結後(結着工程後)、プレス(加圧)工程を実施すると、抵抗体の均質性をさらに高めることができる。繊維がランダムに交絡した抵抗体は、厚み方向に圧縮されることで厚み方向だけではなく、面方向にも繊維のシフトが生じる。これにより、焼結時には空隙だった場所にも金属繊維が配置しやすくなる効果が期待でき、その状態は金属繊維の有する塑性変形特性によって維持される。これにより、面内バラツキ等の小さく、より緻密で薄型の抵抗体が得られる。このため抵抗素子の高密度実装化を実施しやすくなる効果を奏する。
【0071】
(電極2)
本発明に係わる電極2は、抵抗体1と同様の金属により構成されていても良いし、別の種類の金属によって構成されていても良く、例えばステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅、鉄、白金、金、スズ、クロム、鉛、チタン、ニッケル、マンガニン、ニクロム等を用いることができる。電極2は、金属繊維を主として含有する抵抗体に流れる電流を確実に伝播可能な態様に形成されていれば良く、例えば、上記金属を加熱或いは、化学的に溶融させ、金属繊維との接点を確実に取る方法にて作製することも可能である。
【0072】
(絶縁層)
本発明に係わる絶縁層3は、抵抗体あるいは電極2に通電される電流を遮る効果のあるものであればいずれのものも使用可能で、例えばガラスエポキシ、絶縁性を有する樹脂シート、セラミック材料等を使用することができる。中でも抵抗体との一体化が容易である点において両面粘着付きPETフィルムを好適に用いることができる。
【0073】
(接続部)
図2に示すように、本発明の抵抗体は、接続部10を有することもできる。
接続部10の素材は、第一抵抗体4と第二抵抗体5を相互に電気的に接続可能な素材であれば良く、例えばステンレス、銅、鉛、ニクロム等の金属材料を好適に用いることができる。
【0074】
本発明の抵抗素子は、その外側を絶縁材料によって封止されていることが好ましい。封止の方法は、溶融樹脂へのディッピング、ボンディングなどの他、絶縁塗料の塗布等、絶縁性が担保できるものであれば、いずれの材料あるいは方法によっても実施することが可能である。
【0075】
以上、本発明によれば、抵抗素子の小型化が達成されるため、更なる高密度実装化に対応可能であると共に、広範囲の抵抗値設定にも対応可能な抵抗素子を提供することができるものである。