(54)【発明の名称】腫瘍細胞におけるアスパラギン酸合成の阻害剤、腫瘍細胞のスフェロイド形成阻害剤、腫瘍細胞の転移抑制剤、解糖系阻害剤の作用増強剤、並びに腫瘍の転移の抑制および/または予防用医薬組成物
【文献】
平島一輝ほか,フキノトウ抽出物の抗がん活性 Anti-neoplastic activity of Petasites japonicus extract,第77回日本癌学会学術総会抄録集,2018年,Vol.77,p.692[P-1125]
【文献】
LYU, X. et al.,Inhibitory effects of petasin on human colon carcinoma cells mediated by inactivation of Akt/mTOR pathway,Chinese medical journal,2019年,Vol.132, No.9,pp.1071-1078
【文献】
ADACHI, Y. et al.,Petasin Activates AMP-Activated Protein Kinase and Modulates Glucose Metabolism,Journal of Natural Products,2014年,Vol.77,pp.1262-1269
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で行う。
【0022】
本発明の第1の形態は、上述した化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物を有効成分として含有する、腫瘍細胞におけるアスパラギン酸合成阻害剤である。また、本発明の第2の形態は、上述した化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物を有効成分として含有する、腫瘍細胞のスフェロイド形成阻害剤である。
【0023】
[有効成分として用いられる化合物]
ここではまず、有効成分として用いられる下記化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物(以下、「本発明の化合物」とも称する)について説明する。なお、本発明において「化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物を含有する」とは、化学式1Aで表される化合物を含有する形態、化学式1Bで表される化合物を含有する形態、さらには、化学式1Aで表される化合物と化学式1Bで表される化合物とをともに含有する形態のいずれをも含む概念である。また、「置換基を有していてもよい炭化水素基」とは、炭化水素が、ヘテロ原子(酸素原子や窒素原子、硫黄原子等)を介してシクロヘキシル骨格に結合している形態を含む概念である。
【0025】
化学式1Aおよび化学式1Bにおいて、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基または置換されていてもよい炭化水素基である。また、点線で示されている隣接する2つの化学結合のうち、一方は単結合であり、他方は二重結合である。
【0026】
本明細書において、化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物は、下記化学式2Aまたは化学式2Bで表される化合物であることが好ましい。
【0028】
化学式2Aおよび化学式2Bにおいて、R
3は、水素原子または置換されていてもよい炭化水素基である。また、点線で示されている隣接する2つの化学結合のうち、一方は単結合であり、他方は二重結合である。
【0029】
また、本明細書において、化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物は、下記化学式3Aで表される化合物であることが好ましい。
【0031】
化学式3Aにおいて、R
4は、水素または置換基を有していてもよい炭化水素基である。また、点線で示されている隣接する2つの化学結合のうち、一方は単結合であり、他方は二重結合である。
【0032】
さらに、本明細書においては、各種の活性の強さの観点から、化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物は、下記化学式4A〜化学式6Aのいずれかで表される化合物であることが好ましく、化学式4Aで表される化合物(ペタシン)または化学式5Aで表される化合物(ネオペタシン)がより好ましい。さらには、活性が非常に強いという観点からは、化学式5Aで表される化合物(ネオペタシン)が最も好ましい。
【0034】
なお、上述した本発明に係る化合物は、本願出願時の技術常識を参酌することにより、常法に従って合成してもよいし、天然物からの抽出が可能であればそのような抽出物から精製されたものであってもよい。
【0035】
[本発明の各形態に係る用途]
続いて、上述した本発明の各形態に係る用途について、説明する。
【0036】
上述したように、ペタシンやS−ペタシンは悪性黒色腫に対する抗がん作用を有することが知られており(特許文献2)、また、ペタシン、S−ペタシン、ネオペタシンおよびネオ−S−ペタシンは、胃がん、大腸がんおよび白血病の増殖抑制作用を有することが知られている(特許文献3)。しかしながら、特許文献2および特許文献3には、本発明の化合物が示すこのような腫瘍細胞に対する増殖抑制作用が、腫瘍細胞におけるミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの阻害やアスパラギン酸合成の阻害、種々のがん関連分子の発現の抑制などの作用機序によって引き起こされることについては何ら開示されていない。
【0037】
これに対し、本発明者らは、本発明に係る化合物が、腫瘍細胞に対して種々の作用を発現することを初めて見出し、本発明を完成させるに至った。
【0038】
まず、本発明者らが検討を進めたところ、本発明の化合物が非常に強力な腫瘍細胞に対する転移抑制作用を示すことを、マウス悪性黒色腫肺転移モデルを用いたin vivoでの実験により見出した。そして、マウス高転移悪性黒色腫細胞株であるB16F10細胞を用いた腫瘍細胞肺転移試験により、本発明の化合物が非常に強い腫瘍細胞の遊走抑制作用を示すことも確認した(後述する試験例2)。すなわち、本発明の一形態によれば、上述した本発明に係る化合物の少なくとも1つを有効成分として含有する、腫瘍細胞の転移抑制剤が提供される。なお、「細胞の遊走」または「細胞遊走」とは、細胞がその運動能により元の位置から別の位置へと動くことを意味する。つまり、腫瘍細胞の遊走とは、腫瘍細胞が能動的に移動する現象である。腫瘍細胞の遊走は、がんの転移においても生じる現象である。本発明の一形態に係る腫瘍細胞の転移抑制剤は、この腫瘍細胞の遊走を抑制・阻害することで、腫瘍細胞が発生した場所(原発巣)から遊走(移動)して、遠隔部位に再びがんまたは腫瘍を形成する現象(転移)を抑制・阻害できると考えられる。なお、細胞遊走の種類としては、細胞がケモカインなどの走化性因子の濃度勾配によって遊走するケモタキシス(Chemotaxis、走化性)、細胞が細胞接着サイトもしくは、細胞外マトリックスに結合した走化性因子の濃度勾配に従って遊走するハプトタキシス(Haptotaxis、走触性)、細胞が創傷の間を渡って遊走する創傷治癒(Wound Healing)、および細胞が細胞外マトリックス(ECM)分解やタンパク質分解を介して、ECMを通って近接する組織へ移動する細胞浸潤(Invasion)がある。このため、腫瘍細胞に対する遊走抑制効果は、公知の方法、例えば、ラッフル膜の形成阻害、創傷治癒アッセイを用いて、または市販の細胞遊走測定システムを用いて評価できる。本明細書では、腫瘍細胞の転移抑制効果を、腫瘍細胞の遊走抑制効果により評価し、具体的には創傷治癒アッセイを用いて評価する(後述する実施例の試験例5)。
【0039】
本発明に係る腫瘍細胞の転移抑制剤は、腫瘍細胞の遊走を抑制・阻害することで、腫瘍細胞の転移を抑制および/または予防することができる。本明細書において、「腫瘍細胞の転移」とは、腫瘍細胞が原発巣から分離して、別の組織や臓器に移動し、そこで増殖することを意味する。また、「腫瘍細胞の転移の抑制」または「腫瘍細胞転移抑制」とは、腫瘍細胞が発生した場所(原発巣)から移動(遊走)して、遠隔部位に再び腫瘍を形成する現象(転移)を抑制することを意味する。
【0040】
ここで、腫瘍細胞の転移抑制剤の対象となるがんの種類は、特に限定されない。例えば、神経系のがん(例えば、脳腫瘍、頚がん);消化器系のがん(例えば、口腔がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、肝がん、胆嚢がん、胆道がん、脾臓がん、大腸がん、小腸がん、十二指腸がん、結腸がん、結腸腺がん、直腸がん、膵臓がん、肝臓がん);筋骨格系のがん(例えば、肉腫、骨肉種、骨髄腫);泌尿器系のがん(例えば、膀胱がん、腎がん);生殖器系のがん(例えば、乳がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、前立腺がん);呼吸器系のがん(例えば、肺がん);造血器系のがん(例えば、急性または慢性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性または慢性リンパ性白血病等の白血病、悪性リンパ腫(リンパ肉腫)、血管肉腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、原発性骨髄線維症、血管外膜細胞腫);甲状腺がん、副甲状腺がん、舌がん、悪性黒色腫(メラノーマ)、肥満細胞腫、皮膚組織球腫、脂肪腫、毛包腫瘍、皮膚乳頭腫、皮脂腺腫、基底細胞がんなどが挙げられる。これらのうち、本発明に係る腫瘍細胞の転移抑制剤の対象としては、好ましくは造血器系のがん、消化器系のがん、生殖器系のがん、悪性黒色腫(メラノーマ)、肥満細胞腫および基底細胞がんであり、より好ましくは悪性黒色腫(メラノーマ)である。また、本発明に係る腫瘍細胞の転移抑制剤は、腫瘍細胞の肺への転移を抑制するのに用いられることが好ましい。
【0041】
ところで、2−デオキシ−D−グルコース(2-Deoxyglucose;2−DG)などの解糖系阻害剤は、グルコースと競合してGLUT1を介してがん細胞に取り込まれ、がん細胞の解糖系を阻害することによりがん細胞の増殖速度を低下させることが知られている。ここで、本発明者らの検討によれば、上述した化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物(例えば、ネオペタシン)は、2−デオキシ−D−グルコースなどの解糖系阻害剤とともに腫瘍細胞に適用されると、解糖系阻害剤の作用を増強する効果を発現することが判明した(後述する試験例3)。したがって、本発明の一形態によれば、上述した化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物を有効成分として含有する、解糖系阻害剤の作用増強剤もまた、提供される。ここで、本発明に係る有効成分とともに用いられうる解糖系阻害剤について特に制限はなく、解糖系を阻害する作用を有する物質(例、合成化合物、ペプチド、タンパク質、抗体、非ペプチド性化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿など)自体であっても、当該物質を含む剤であってもよいが、例えば、上述した2−デオキシ−D−グルコース(2−DG)のほか、フッ化ナトリウム、リチウムヨード酢酸などが挙げられる。
【0042】
本発明のさらに他の形態によれば、上述した本発明に係る腫瘍細胞の転移抑制剤を含む、腫瘍の転移の抑制および/または予防用医薬組成物が提供される。
【0043】
上述のとおり、本発明の一形態は、本発明に係る腫瘍細胞の転移抑制剤を含む、腫瘍の転移の抑制および/または予防用医薬組成物に関する。本発明に係る腫瘍細胞の転移の抑制および/または予防用医薬組成物は、上述した種々の腫瘍の転移の抑制および/または予防の用途に用いられうるが、特に悪性黒色腫(メラノーマ)の転移の抑制または予防に用いられることが好ましい。また、他の観点から、本発明に係る腫瘍細胞の転移の抑制および/または予防用医薬組成物は、腫瘍細胞の肺への転移を抑制および/または予防するのに用いられることが好ましい。なお、「腫瘍細胞の転移の予防」または「腫瘍細胞転移予防」とは、がんや腫瘍の転移を防止もしくは遅延させる、またはがんや腫瘍の転移の危険性を低下させることを意味する。さらに、上述したように、本発明に係る有効成分は解糖系阻害剤の作用を増強する効果を有していることから、本発明に係る医薬組成物は、解糖系阻害剤と併用されて投与されることが好ましい。
【0044】
本発明に係る化合物が腫瘍細胞に対して増殖抑制活性や転移抑制活性を示す作用機序を明らかにすることを目的として、本発明者らがさらに検討を進めたところ、本発明の化合物は、腫瘍細胞におけるアスパラギン酸合成を阻害する作用を有することが判明した(後述する実施例の試験例6および試験例7)。したがって、本発明の化合物は、腫瘍細胞におけるアスパラギン酸の合成を阻害することによって、腫瘍細胞に対する増殖抑制活性や転移抑制活性を示しているものと考えられる。また、本発明者らは、本発明に係る化合物は、腫瘍細胞のスフェロイドの形成を阻害する作用を有することも判明した(後述する実施例の試験例4)。したがって、本発明の化合物は、腫瘍細胞のスフェロイドの形成を阻害することによっても、腫瘍細胞に対する増殖抑制活性や転移抑制活性を示しているものと考えられる。
【0045】
さらに、本発明に係る化合物が腫瘍細胞においてアスパラギン酸の合成を阻害する作用機序を明らかにすることを目的として、本発明者らがさらに検討を進めたところ、本発明の化合物は、腫瘍細胞におけるミトコンドリアの呼吸鎖を構成する複合体Iを阻害する作用を有することが判明した(後述する実施例の試験例8および試験例9)。したがって、本発明の化合物が腫瘍細胞におけるアスパラギン酸合成を阻害する作用機序の少なくとも1つは、ミトコンドリアの呼吸鎖の複合体Iを阻害することによるものであると考えられる。
【0046】
また、本発明者らの検討によれば、本発明の化合物は、腫瘍細胞において種々のがん関連分子(タンパク質)(例えば、Akt、ERK1/2、FAK、もしくはSTAT3のリン酸化(活性化)型、または、AMPK、mTOR、ACC、GSK3bなど)の発現を抑制する作用を有することも判明した(後述する実施例の試験例10および試験例11)。このことから、上述したような種々のがん関連分子(タンパク質)の発現抑制もまた、腫瘍細胞に対する増殖抑制作用や転移抑制作用の発現に関与しているものと考えられる。
【0047】
上述したように、本発明に係る腫瘍細胞の転移の抑制および/または予防用医薬組成物は、本発明に係る腫瘍細胞の転移抑制剤を含む。また、本発明に係る腫瘍細胞の転移抑制剤は、上述した本発明に係る腫瘍細胞におけるミトコンドリア呼吸鎖複合体I阻害剤、腫瘍細胞におけるアスパラギン酸合成阻害剤、腫瘍細胞におけるAkt、ERK1/2、FAK、もしくはSTAT3のリン酸化(活性化)型またはAMPK、mTOR、ACC、GSK3bの発現抑制剤、あるいは、腫瘍細胞のスフェロイド形成阻害剤の少なくとも1つを含む。したがって、本発明に係る腫瘍細胞の転移の抑制および/または予防用医薬組成物は、上述した化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物を有効成分として含有する。当該医薬組成物は、従来と同様の剤形で使用できる。すなわち、本形態に係る医薬組成物は、化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物を賦形剤などの製薬上許容できる添加剤と混合して非経口投与、経口投与または外部投与に適した医薬品などの形態で使用することができる。
【0048】
当該医薬組成物の治療対象は、特に制限されないが、哺乳動物や鳥類、好ましくはがんに罹患した哺乳動物や鳥類である。ここで、哺乳動物は、ヒト、サル、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン等の霊長類、ならびにマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ラクダ、ヤギなどの非ヒト哺乳動物双方を包含する。鳥類としては、ニワトリ、ウズラ、ハトなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ヒト、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタであり、より好ましくは、ヒトおよびイヌ、ネコ、ウサギ等のペット動物である。すなわち、本発明の好ましい実施形態によると、本発明に係る腫瘍細胞の転移の抑制および/または予防用医薬組成物は、ヒト、またはペット動物に経口的に投与されて使用されることが好ましく、ヒトまたはイヌ、ネコ、ウサギからなる群より選択される少なくとも一種のペット動物に経口的に投与されて使用されることがより好ましい。本発明のより好ましい実施形態によると、本発明に係る腫瘍細胞の転移の抑制および/または予防用医薬組成物は、ヒト、イヌ、またはネコに経口的に投与されて使用される。
【0049】
上記医薬組成物は、経口剤、外用剤、注射剤、吸入剤、点鼻・点眼剤等として提供されることができ、これらの使用方法に応じて、錠剤、液剤、注射剤、軟膏、クリーム、ローション、エアゾール剤、座剤等の所望の剤形にすることができる。また、必要に応じて賦形剤、基剤、乳化剤、安定剤、溶解助剤、矯味剤、保存剤、芳香剤、着色剤、コーティング剤などを適宜配合することができる。
【0050】
上記医薬組成物の投与量は、治療上有効な量を考慮して決定されるが、投与経路;患者の病気の性質;患者のサイズ、体重、表面積、年齢および性別;投与される他の薬剤;ならびに主治医の判断などによって異なる。適当な投与量は、有効成分として1日当たり、例えば1〜500mg/kg体重である。様々な利用できる上記医薬組成物の様々な投与経路の異なる有効性を考慮すると、必要な投与量は広範に変化しうると予想される。これらの投与量レベルの変動は、当該分野において既知の最適に関する標準的な経験上の手順を用いて調節できる。特に経口によるデリバリーでは、適当なデリバリーベヒクル(例えば、ポリマーミクロ粒子または移植可能な装置)への上記医薬組成物のカプセル化により、デリバリー効率が上がる。また、上記投与量は、1日1回または複数回に分けてもよい。または、場合によっては、より低い頻度(例えば、週もしくは月単位)で投与されてよい。加えて、同一患者であっても、患者の症状や重篤度に応じて、投与量は変化しうる。
【0051】
本明細書において、「治療上有効な量」とは、本明細書で使用される場合、いずれの医療にも適用可能な妥当な便益/リスク比で、何らかの所望の抑制効果を生じるのに有効な有効成分または医薬組成物の量を意味する。例えば、本発明に係る上記医薬組成物の投与量は、対象疾患、投与対象、投与経路などにより差異はあるが、上記医薬組成物を経口投与する場合、用量は対象となる者の体重等の条件によって容易に変動しうるため、当業者によって適宜選択されうる。また、最終的には、主治医が患者の症状や重篤度などを考慮して、適宜選択する。
【0052】
本明細書において、「製薬上許容できる」とは、正しい医学的判断の範囲内で、妥当な便益/リスク比に見合って、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応等の問題や合併症なしに、治療対象(ヒト、哺乳動物など)の組織に接触しての使用に好適な、化合物、材料、組成物、および/または投薬形態を指すために使用される。
【0053】
製薬上許容できる担体とは、体の一器官または一部から体の別の器官または一部へ本発明の生殖器系のがんの転移抑制/予防剤を運搬または輸送することに関与する液体または固体の充填剤、希釈剤、補形薬、溶剤またはカプセル化材料のような、製薬上許容できる材料、組成物または賦形剤を意味する。各担体は、剤形の他の成分と適合し、患者に有害でないという意味で「許容できる」ものでなければならない。製薬上許容できる担体としては、以下に制限されないが、ラクトース、グルコースおよびスクロースのような糖;トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプンのようなデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースのようなセルロースおよびその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび座薬ワックスのような補形薬;落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油のような油;プロピレングリコールのようなグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールのようなポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルのようなエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムのような緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張食塩液;リンガー溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;ならびに薬物処方で使用される他の非毒性の適合物質が挙げられる。いくつかの実施形態では、薬物製剤は非発熱性である。すなわち、患者の体温を上昇させないものが望ましい。その他、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムのような湿潤剤、乳化剤および潤滑剤、ならびに着色剤、放出剤、被覆剤、甘味料、香味剤および香料、保存料および酸化防止剤が本発明の生殖器系のがんの転移抑制/予防剤中に含まれてもよい。
【0054】
製薬上許容できる酸化防止剤としては、以下に制限されないが、アスコルビン酸、塩酸システイン、硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性酸化防止剤;パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロール等のような油溶性酸化防止剤;ならびにクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤が挙げられる。
【0055】
本発明に係る医薬組成物は、経口、経鼻、局所(口内および舌下を含む)、直腸、膣および/または非経口投与に等の様々な剤形で使用できるが、好ましくは経口投与である。剤形は、単位投薬形態で都合よく差し出されてもよく、薬学分野で周知のいかなる方法によって調製されてもよい。担体材料と組み合わせて単一投薬形態を作製することができる活性成分の量は、治療されるホスト、特定の投与方式に応じて変わるであろう。担体材料と組み合わせて単一投薬形態を作製することができる活性成分の量は一般に、治療効果を生じる化合物の量であるが、一般に、有効成分(化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物)の量は、医薬組成物の全量に対して、約0.1〜約99重量%であり、好ましくは約1〜約70重量%であり、より好ましくは約5〜約50重量%である。
【0056】
これらの剤形または組成物を調製する方法は、本発明に係る有効成分を担体と、任意に1つまたは複数の副成分と結びつけるステップを含む。一般に、剤形は本発明に係る1つまたは複数の有効成分を液体担体、もしくは微粉化した固体担体、またはその両方と均一かつ緊密に結びつけ、必要であれば製品を成形することによって調製される。
【0057】
例えば、経口投与に好適な剤形は、カプセル、サシェ(sachet)、丸薬、錠剤、ロゼンジ(味付けされた主薬、通常はスクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカント、を用いる)、粉末、顆粒の形態でもよく、または水性もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液として、または水中油もしくは油中水液体乳剤として、またはエリキシルもしくはシロップとして、または香錠(ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアゴムのような不活性基剤を用いる)および/または含嗽剤等としてでもよく、それぞれ活性成分として所定量の本発明に係る有効成分の化合物を含む。本発明に係る医薬組成物は、巨丸剤、舐剤、またはペーストとして投与されてもよい。
【0058】
経口投与のための固体投薬形態(カプセル、錠剤、丸薬、糖衣錠、粉末薬、顆粒剤等)
では、有効成分は、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムのような1つまたは複数の製薬上許容できる担体、および/または以下のもののいずれかと混合される:デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、および/またはケイ酸のような充填剤または増量剤;例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよび/またはアラビアゴムのような粘結剤;グリセロールのような保湿剤;寒天、炭酸カルシウム、バレイショまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウムのような崩壊剤;パラフィンのような溶解遅延剤;4級アンモニウム化合物のような吸収促進剤;セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールのような湿潤剤;カオリンおよびベントナイト粘土のような吸収剤;タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物のような潤滑剤;ならびに着色剤。カプセル、錠剤および丸薬の場合、これらは緩衝剤を含んでもよい。同様の種類の固体組成物が、ラクトースまたは乳糖のような補形薬と、高分子量ポリエチレングリコール等とを用いたソフトおよびハード充填ゼラチンカプセル内の充填剤としても使用可能である。
【0059】
また、錠剤は、圧縮または成形によって、任意に1つまたは複数の副成分とともに、作製されうる。圧縮された錠剤は、粘結剤(例えば、ゼラチンもしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性希釈剤、保存料、崩壊剤(例えば、グリコール酸ナトリウムデンプンもしくは架橋型カルボキシメチルセルロースナトリウム)、表面活性剤または分散剤を用いて調製されうる。成形タブレットは、不活性液体希釈剤で湿潤化された粉末化合物の混合物を好適な機械で成形することによって作製されうる。
【0060】
糖衣錠、カプセル、丸薬および顆粒剤のような、本発明に係る医薬組成物の錠剤等の固体投薬形態は、任意に、刻み目を付けられ、または薬物調剤分野において周知の腸溶性被膜等の被膜および殻を用いて調製されてもよい。それらは、例えば、所望の放出プロフィールを提供するための種々の比率でのヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソームおよび/またはミクロスフェアを用いて、内部の有効成分の徐放性または制御された放出を提供するように調剤されてもよい。それらは、例えば、細菌保持フィルターを通す濾過によって、または使用直前に滅菌水等の滅菌注射可能媒質に溶解することができる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって、滅菌してもよい。これらの組成物は、任意に乳白剤を含んでもよく、胃腸管のある特定の部分のみで、またはそこで優先的に、任意に遅延したやり方で、1つまたは複数の有効成分を放出する組成であってもよい。使用可能な埋込み組成物の例として、ポリマー物質およびワックスがある。有効成分は、適当であれば1つまたは複数の上記の補形薬とともに、マイクロカプセル化された形態であってもよい。
【0061】
本発明に係る医薬組成物の経口投与のための液体投薬形態としては、製薬上許容できる乳剤、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップおよびエリキシルがある。液体投薬形態は、活性成分に加えて、例えば水や他の溶媒のような当技術分野で一般に使用される不活性希釈剤、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブタジエングリコール、油(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステルのような可溶化剤および乳化剤、およびそれらの混合物を含んでもよい。また、不活性希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味料、香味剤、着色剤、香料および保存剤のような補助薬を含んでもよい。懸濁液は、活性化合物に加えて、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天およびトラガカント、ならびにそれらの混合物のような懸濁剤を含んでもよい。
【0062】
直腸または膣投与のための本発明に係る医薬組成物の剤形は、座薬として提示されうる。この座薬は、例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール、座薬ワックスまたはサリチル酸塩を含む1つまたは複数の好適な非刺激性補形薬または担体と、本発明の1つまたは複数の有効成分とを混合することによって調製することが可能であり、室温で固体であるが、体温では液体であるため、直腸または膣腔で融解し、活性化合物を放出することになる。膣投与に好適な剤形はまた、当技術分野で適当であることが知られているような担体を含むペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、発泡またはスプレー剤形も含む。
【0063】
本発明に係る医薬組成物の局所的または経皮的投与の投薬形態は、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入薬を含む。有効成分は、製薬上許容できる基材と、および必要であれば保存料、緩衝液、または推進剤と、滅菌条件下で混合してもよい。軟膏、ペースト、クリームおよびゲルは、有効成分に加えて、動物脂または植物脂、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクおよび酸化亜鉛、またはそれらの混合物のような補形薬を含んでもよい。
【0064】
粉末およびスプレーは、有効成分に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物のような補形薬を含んでもよい。スプレーは、塩化フッ化炭化水素や、ブタンおよびプロパンのような揮発性非置換炭化水素のような通例の高圧ガスをさらに含んでもよい。
【0065】
経皮的パッチは、本発明に係る医薬組成物を、体に制御して配送するという更なる利点を有する。このような投薬形態は、適当な媒質に本発明に係る有効成分を溶解または分散させることによってなされうる。吸収増進剤を用いて、皮膚を横切る本発明に係る有効成分を含有する物質のフラックスを上昇させることも可能である。このようなフラックスの速さは、速さ制御膜を設けるか、またはポリマーマトリックスもしくはゲル中に化合物を分散させるかのいずれかによって制御することができる。
【0066】
非経口投与に好適な本発明に係る医薬組成物は、当該組成物とともに、1つまたは複数の製薬上許容できる滅菌等張水溶液または非水溶液、分散剤、懸濁液もしくは乳剤、または使用直前に滅菌注射可能溶液または分散剤中で戻すことが可能な滅菌粉末を含み、これは酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、調剤を目的レシピエントの血液と等張にする溶質、または懸濁剤もしくは濃縮剤を含みうる。
【0067】
本発明に係る医薬組成物において使用可能な好適な水性および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、およびそれらの好適な混合物、オリーブ油のような植物油、ならびにオレイン酸エチルのような注射可能有機エステルがある。固有の流動性は、例えば、レシチンのような被覆材料の使用によって、分散剤の場合には必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0068】
本発明に係る医薬組成物は、保存料、湿潤剤、乳化剤および分散剤のような補助薬を含んでもよい。微生物の活動の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノール等の種々の抗菌剤および抗真菌剤の含有によって確保しうる。糖、塩化ナトリウム等の等張剤を組成物に含めると望ましいかもしれない。さらに、注射可能薬物形態の持続性吸収が、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる作用物質の含有により引き起こされうる。
【0069】
本発明のさらに他の形態は、本発明に係る医薬組成物を腫瘍細胞の転移を抑制する必要のある患者に投与することを含む、腫瘍細胞の転移を抑制および/または予防する方法に関する。さらに、好ましい一実施形態は、本発明に係る医薬組成物を、がん摘出後の腫瘍細胞の転移を抑制する必要のある患者に投与することを含む、がん摘出後の腫瘍細胞の転移を抑制および/または予防する方法に関する。
【0070】
本発明のさらに他の形態によれば、上述した化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物を有効成分として含有する、腫瘍細胞転移抑制用飲食品組成物が提供される。
【0071】
腫瘍細胞転移抑制用飲食品組成物の形態は、特に制限されず、液状、ゲル状あるいは固形状の食品(例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等)に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したりしてもよい。また、上述した化学式1Bまたは化学式1Bで表される化合物の少なくとも1つをゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。腫瘍細胞転移抑制用飲食品組成物に含まれる上記化合物(有効成分)の配合量は、当該食品や組成物の種類や状態等により一律に規定し難いが、食品の全重量に対して、0.01〜90重量%、より好ましくは0.1〜80重量%である。このような配合量であれば、風味を損なうことなく、上記化合物(有効成分)による効能を十分発揮できる。また、食品を容易に調製できる。
【0072】
ここで、「飲食品組成物」とは、人間等の哺乳動物(ペットを含む)による摂取を意図した組成物を意味する。例えば、ペットフード組成物は、ペットによる摂取を意図した飲食品組成物である。飲食品組成物は、当技術分野において広く知られている。ペットフード組成物は、栄養的にバランスがとれていてもまたとれていなくてもよく、サプリメント(例えば、エサ)の他に、毎日の食事に適した栄養的にバランスがとれた組成物であってもよい。ここで、「栄養的にバランスのとれた」とは、本発明の組成物が、ペット栄養学分野において適切な量および割合で、生命を維持するために必要な既知の栄養素を有することを意味する。
【0073】
本発明の好ましい実施形態において、腫瘍細胞転移抑制用飲食品組成物は、ヒト用健康食品またはペットフード組成物である。
【0074】
ここで、本発明に係る化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物(有効成分)をヒトへの健康食品(ヒト用健康食品)またはペットフード組成物に添加・使用する場合の、当該化合物(有効成分)の添加量(含有量)は、特に制限されないが、健康食品またはペットフード組成物(固形分換算)に対して、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.05〜20重量%程度になるような量である。または、上記化合物を、1日に合計重量として、好ましくは0.1〜1000mg/kg体重、より好ましくは1〜500mg/kg体重程度投与されるような量である。このような量であれば、十分な腫瘍細胞の転移抑制効果を達成できる。また、上記したような量であれば、ペットの嗜好を阻害することがなく、ペットは与えられたペットフード全量を摂取する。
【0075】
ペットフード組成物は、本発明に係る有効成分を含むこと以外は従来と同様の成分を含む。例えば、ペットフード組成物は、本発明に係る有効成分に加えて、単糖類、オリゴ糖、多糖類、食物繊維、デンプン類(例えば、ワキシーコーンデンプン、コーンデンプン、小麦デンプン、米デンプン、糯米デンプン、馬鈴薯デンプン、甘露デンプン、タピオカデンプン、サゴデンプン、これらに化学的処理を施したものや化学修飾した加工デンプン)や穀物類(例えば、とうもろこし、大麦、小麦、ライ麦、ソルガム、米、ひえ、あわ、アマラサンサス、キヌア)等の炭水化物源;牛、豚、羊、うさぎ、カンガルー等の畜肉や獣肉、その副生成物および加工品、鶏、七面鳥、うずら等の鳥肉、その副生成物および家屋品、魚、白身魚等の魚肉、その副生成物および加工品、ミートミール、ミートボーン、チキンミール、ポータリーミール、フィッシュミール等の上記原料のレタリング等の、動物性タンパク質源;大豆タンパク質、小麦タンパク質、小麦グルテン、コーングルテン等の、植物性のタンパク質源;α−シトステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール等のフリー体、これらの脂肪酸エステル、フェルラ酸エステル、桂皮酸エステル等のエステル体等の植物ステロール;米ぬか、ふすま等のぬか類、大豆粕等の粕類、野菜エキス等の野菜、ビタミンA、B1、B2、D、E、ナイアシン、パントテン酸、カロチン等のビタミン類などが挙げられる。上記に加えて、一般的にペットフード組成物に使用されるゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等の他の添加剤を含有してもよい。上記他の添加剤に加えてまたは上記他の添加剤に代えて、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、エトキシキン、tert−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、プロピルガレートなどの抗酸化剤を併用することも可能である。上記した各成分の添加量(含有量)は特に制限されず、従来と同様の量が適用できる。
【0076】
ペットフード組成物は、従来公知の方法によって製造される。例えば、本発明に係る有効成分および前記した必要成分を混合し、所望の形態にすることにより製造できる。一例としては、上記の有効成分、穀物、肉ミール並びに鉄および銅等のミネラル成分とともに、必要であればクエン酸またはクエン酸塩を混合し、十分混合した後に、水や水蒸気で加水しながらエクストルーダーによって押出成型をする。その後に、好ましくは水分を10%以下になるまで熱風乾燥させて、ペットフード組成物を製造する。なお、ペットフード組成物が二重結合を二つ以上有る脂肪酸を含有する油脂を含む場合には、熱風乾燥させた後、コーティングするのが望ましい。
【0077】
ペットフードとしては、ドライタイプ、ウェットタイプ、セミモイストタイプ、ジャーキータイプ、ビスケットタイプ、ガムタイプ、粒状、粉状、スープ状等いずれの形態であってもよいが、ドライタイプであることが保存の簡便性から好ましい。ドライタイプのペットフードとしては、キブル形状、平板形状、骨形状などが挙げられる。ペットの噛み易さや扱いやすい形状を得るなどの観点からは、嵩密度が100kg/m
3以上、好ましくは300kg/m
3以上であり、そして900kg/m
3以下、好ましくは700kg/m
3以下であり、または、100〜900kg/m
3、特に300〜700kg/m
3であることが好ましい。また、ペットフードは、袋詰め、箱詰め、パック詰め、缶詰、レトルトパウチされた形態で提供され得る。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
(試験例1)
ペタシン、S−ペタシン、ネオペタシンおよびネオ−S−ペタシンの4種の化合物について、以下の手法により、マウスまたはイヌ由来の悪性黒色腫細胞に対する増殖抑制作用を評価した。
【0080】
B16F10細胞(マウス悪性黒色腫細胞)は、JCRB細胞バンク(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)より入手した。また、CMeC1細胞(イヌ悪性黒色腫細胞)は、東京大学大学院農学生命科学研究科獣医外科学研究室より入手した。さらに、A2058細胞(ヒト悪性黒色腫細胞)は、JCRB細胞バンク(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)より入手した。それぞれ、B16F10細胞はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて、CMeC1細胞はRPMI(ロズウェルパーク記念研究所)培地(RPMI1640)を用いて、A2058細胞はE−MEM培地を用いて、37℃のインキュベーター(空気/CO
2=95/5(v/v))内で培養した。
【0081】
まず、CMeC1細胞(イヌ悪性黒色腫細胞)を、0.5×10
5細胞/mLとなるように6ウェルプレートに播種し、その24時間後に、上記の4種の化合物のそれぞれ(終濃度は0.01〜100μg/mL)を培地中に0.1%の割合で懸濁して72時間インキュベートした。培養開始の72時間後に、トリパンブルー染色法により生存細胞数を計測した。この際、陰性対照区(DMSO処置)における生存細胞数を100%とした場合の相対的な細胞数として、生存細胞(Cell viability %)を算出した。そして、グラフパッドプリズムソフトウェアシステム(グラフパッドソフトウェア社)を用いIC
50を算出した。
【0082】
結果を
図1Aおよび下記の表1に示す。
図1Aおよび表1に示すように、上記4種の化合物のすべてがCMeC1細胞に対して増殖抑制作用を示したが、なかでもネオペタシンが最も強い活性(IC
50=0.99μM(0.314μg/mL))を示した。
【0083】
【表1】
【0084】
また、B16F10細胞(マウス悪性黒色腫細胞)を用いてネオペタシンについて同様の実験を行った結果を
図1Bに示す。
図1Bに示すように、ネオペタシンはB16F10細胞に対しても強い増殖抑制活性(IC
50=0.493μM(0.156μg/mL))を示した。このようにネオペタシンの増殖抑制活性は極めて高く、古典的抗がん剤(シスプラチンの活性(B16F10細胞に対するIC
50が5μg/mL)と比較しても極めて高い増殖抑制活性を示すことがわかる。
【0085】
さらに、正常ヒト皮膚由来線維芽細胞であるASF4−1細胞およびヒト悪性黒色腫細胞であるA2058細胞を用いて上記と同様の試験を行った結果を、B16F10細胞を用いた場合と比較して
図1Cに示す。
図1Cに示すように、ネオペタシンのASF4−1細胞(正常細胞)に対するIC
50値は、腫瘍細胞であるA2058細胞およびB16F10細胞に対するIC
50値よりも1000倍以上大きかった。このことから、ネオペタシンは正常細胞に対してほとんど増殖抑制作用を示さず、腫瘍細胞に対して選択的に増殖抑制作用を示すことがわかる。
【0086】
(試験例2)
マウス悪性黒色腫肺転移モデルを用いて、ネオペタシンの腫瘍細胞に対する転移抑制効果を調べた。具体的には、C57BL/6マウス(6週齢、メス)を日本SLC(浜松)より購入した。次いで、B16F10細胞を尾静脈より0.25×10
6細胞/100μL PBSの量で静脈投与した。そして、細胞を播種させた日からネオペタシン(50mg/kg)を2日ごと1回(合計5回)腹腔内投与した。投与開始から10日後に解剖を行って肺を摘出して、肺表面に認められる転移巣の数を計測した。なお、グラフパッドプリズムソフトウェアシステム(グラフパッドソフトウェア社)を用い、ステューデントT検定を用いてP値を算出した。
【0087】
結果を
図2Aに示す。
図2Aにおいて、「Neopetasin」はネオペタシン投与群(コーン油懸濁ネオペタシン)を意味し、「Vehicle」は陰性対照区(コーン油投与群)を示す。
図2Aに示す結果から、ネオペタシン処置によってマウス悪性黒色腫肺転移モデルにおける肺転移が極めて強力に抑制されたことがわかる。
【0088】
また、上記でネオペタシンまたはコーン油を投与したモデルマウスを解剖した際に、各臓器(心臓、肺の正常部位、大脳、腎臓、肝臓、脾臓)の組織から切片を作製し、顕微鏡を用いて観察した。結果を
図2Bに示す。
図2Bに示すように、ネオペタシン投与による組織形態学的な変化は観察されなかった。この結果は、試験例1において上述したin vitroでのネオペタシンの腫瘍細胞に対する作用の特異性と一致するものである。
【0089】
(試験例3)
解糖系阻害剤である2−デオキシグルコース(2-Deoxyglucose;2−DG)は、グルコースと競合してGLUT1を介してがん細胞に取り込まれ、がん細胞の解糖系を阻害することによりがん細胞の増殖速度を低下させることが知られている。本試験例では、このような2−DGの腫瘍細胞に対する制がん作用に対してネオペタシンが及ぼす影響を調べた。
【0090】
具体的には、まず、B16F10細胞を0.5×10
5細胞/mLの量で6ウェルプレートに播種した。次いで、播種から24時間経過後に、2−DG(濃度は3mMから3nMまで変化させた)に加えて、0.3μMまたは3μMの濃度のネオペタシンで同時に処置した。そして、この処置から36時間後に試験例1と同様の手法により細胞生存率を測定した。なお、陰性対照区としては、DMSOを投与して同様の実験を行った。
【0091】
結果を
図3に示す。
図3に示すように、陰性対照区においては2−DGの作用によって濃度依存的に細胞生存率が低下することが確認された。そして、このような2−DGの制がん作用は、ネオペタシンの添加によってやはり濃度依存的に増強されたことがわかる。解糖系阻害剤である2−DGと相乗効果を示すことから、ネオペタシンはミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを阻害することで抗がん活性を示していると考えられる。さらに、ネオペタシンは、従来活性が低く抗がん活性を示すことができなかった2−DGのような既存のがん代謝阻害剤の効果を増強する効果も有していることが示された。
【0092】
(試験例4)
B16F10細胞について、ネオペタシンの存在下でスフェロイド形成アッセイを行い、ネオペタシンが当該細胞のスフェロイド形成能に及ぼす影響を調べた。
【0093】
具体的には、B16F10細胞を0.3×10
5細胞/mLの量でスフェロイド形成用96ウェルプレートに100μLずつ播種した。その際、0.3μMまたは3μMの濃度のネオペタシンを培地に添加した。ネオペタシンの添加から、24時間、48時間および72時間経過後に、位相差顕微鏡を用いて細胞の写真を撮影した。なお、陰性対照区としては、DMSOを投与して同様の実験を行った。
【0094】
結果を
図4に示す。
図4に示すように、陰性対照区においてはスフェロイドの形成が確認されたが、ネオペタシンで処置した細胞は、スフェロイドを形成することができなかったことがわかる。
【0095】
(試験例5)
ネオペタシンが腫瘍細胞の遊走作用に及ぼす影響を調べる目的で、スクラッチ創傷治癒アッセイを行った。
【0096】
具体的には、まず、B16F10細胞を1.0×10
5細胞/mLの量で6ウェルプレートに播種した。次いで、播種から24時間後に、200μLチップを使用してスクラッチを作成した。その後、ネオペタシン(濃度0.3μM)を含む培地に交換し、さらに72時間培養して、細胞の写真を撮影した。なお、陰性対照区としては、ネオペタシンを含有しない培地に交換して同様の実験を行った。
【0097】
結果を
図5に示す。
図5に示すように、陰性対照区においては、72時間培養後にスクラッチ部分に腫瘍細胞が遊走している様子が確認された。これに対し、ネオペタシンで処置することにより、スクラッチ部分への腫瘍細胞の遊走が抑制されていることがわかる。
【0098】
(試験例6)
ネオペタシンが腫瘍細胞に対して増殖抑制活性や転移抑制活性を示す作用機序を明らかにすることを目的として、ネオペタシンがB16F10細胞のミトコンドリアに与える影響を評価した。ネオペタシン処置により影響を受けるシグナル伝達経路を、マイクロアレイを用いたKEGG Pathway解析により調べた。具体的には、A2058細胞を0.5×10
5細胞/mLとなるように6ウェルプレートに播種し、その24時間後に、ネオペタシン(終濃度は3μM)を培地中に懸濁して8時間インキュベートした。このようにしてネオペタシン(3μM)で8時間処置したA2058細胞をセルスクレイパーで回収した。なお、陰性対照区にはDMSOを投与して同様の実験を行った。次いで、SurePrint G3 Human CGH マイクロアレイ 8x60K(Agilent、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を使用してデータを収集し、各サンプルについて得られた生データを75パーセンタイルの値で正規化(global normalization)した。そして、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA、ブロード研究所、マサチューセッツ工科大学、マサチューセッツ州,アメリカ合衆国)を用いてKEGG,Reactome,GOに登録されているpathwayを検索した。
【0099】
結果を
図6に示す。
図6には、上記の検索でヒットしたpathwayのうち、False−discovery rate(FDR)のq−valueがq<0.25であったものが示されている。また、
図6に示すpathayのうち、特に有意な変動を示した上から6つのものではq−valueがq<0.05であった。
図6に示す結果から、ネオペタシン処置によってアミノ酸代謝に関与する分子の発現が大きく変動することがわかる。
【0100】
また、
図6に示されている変動pathwayのうち、特に変動が大きかった遺伝子を示すヒートマップを
図7に示す。
図7において、発現が上昇した遺伝子は赤色、発現が低下した遺伝子群は青色、中間の変化を示した遺伝子群は白色で示されている。
図7に示すように、変動pathwayに含まれる分子のうち、特にアスパラギンシンテダーゼ(ASNS;asparagine synthetase)およびシスタチオニンガンマライアーゼ(CTH;cystathionine gamma-lyase)の著しい変動が認められた。なお、ヒートマップを描出する際には、変動pathwayに含まれる遺伝子群を抽出し、log変換したシグナルデータについて、JMP version 12.2.0(SAS Institute Inc.)を用いてウォード法によりクラスター分析した。
【0101】
(試験例7)
ネオペタシンで処置したB16F10細胞のメタボローム解析(アミノ酸)を行った。具体的には、試験例1と同様の手法によりネオペタシン(3μM)で処置したB16F10細胞について、処置から9時間および48時間後のそれぞれの時点で細胞を回収し、キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析計(CE−TOFMS)を用いてアミノ酸濃度を測定した。なお、サンプル中のアミノ酸濃度は内部標準検量法に従って測定し、サンプル中の内部標準濃度を25μMとして算出した。また、解析にはMaster Hands ver.2.17.3.18(慶應義塾大学先端生命科学研究所)を使用した。
【0102】
結果を
図8に示す。
図8において、サンプル中に含まれているアミノ酸濃度の変化はFold−changeとして計算されヒートマップとして示されている。そして、サンプル中の濃度が高いほど赤色で示され、濃度が低いほど青色で示され、検出限界以下であったものは空白として示されている。
図8に示す結果から、ネオペタシン処置によってアスパラギン酸(Asp)のサンプル中濃度がネオペタシンによる処置後9時間の時点においてすでに強く低下していることがわかる。
【0103】
(試験例8)
ネオペタシンが腫瘍細胞においてアスパラギン酸の合成を阻害する作用機序を明らかにすることを目的として、ネオペタシンがB16F10細胞のミトコンドリアに与える影響を評価した。具体的には、試験例1と同様の手法によりネオペタシン(3μM)で48時間処置したB16F10細胞を、膜電位に依存してミトコンドリアを標識するMitoTracker Orange(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)を使用して染色した。なお、陽性対照区として、ネオペタシンに代えて、ミトコンドリア呼吸鎖複合体I阻害剤(ミトコンドリア毒)として知られているメトホルミンを5000μMの濃度で用いて同様の実験を行った。
【0104】
続いて、上記のようにして染色した細胞を、蛍光顕微鏡にて撮影した(
図9A)。また、イメージサイトメーター(Tali、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)を用いて、当該細胞の蛍光強度と細胞数の分布との関係を計測した(
図9B)。
【0105】
図9Aおよび
図9Bに示すように、ネオペタシン(3μM)およびメトホルミン(5000μM)のいずれの化合物によって処置された細胞においても蛍光強度の増強(蛍光ピークが強い方に遷移)が認められた。このことから,これらの化合物はミトコンドリアの数または膜電位に影響を与えていることが示唆された。なお、メトホルミンに比べてネオペタシンの活性は1000倍以上高い。
【0106】
上記の結果を受けて、上記においてネオペタシン(3μM)およびメトホルミン(5000μM)のそれぞれによって処置した細胞を、電子顕微鏡を用いて観察した。なお、陰性対照区にはDMSOを投与して同様の実験を行った。
【0107】
結果を
図9Cに示す。
図9Cに示すように、ネオペタシン(3μM)で処置した細胞においては大部分のミトコンドリアが空胞化しており、ミトコンドリアが大きな障害を受けていることが確認された。これに対し、メトホルミン処置細胞においては、5000μMと極めて高濃度で処置したにもかかわらず、ミトコンドリアに対する影響は軽度であった。この結果から、ネオペタシンの腫瘍細胞におけるアスパラギン酸の合成阻害作用は、極めて強力なミトコンドリア毒として作用することによるものであることが示唆された。
【0108】
(試験例9)
ネオペタシンのミトコンドリア毒としての作用点を明らかにすることを目的として、ミトコンドリアの呼吸鎖を構成する各複合体(複合体I〜複合体V)のそれぞれの活性にネオペタシンが及ぼす影響を調べた。
【0109】
具体的には,MitoCheck Complex Activity Assay Kit(Cayman Chemical Company,Ann Arbor, MI,USA)を使用して、ネオペタシン処置によってミトコンドリアの呼吸鎖を構成する複合体I、複合体II、複合体II/III、複合体IVおよび複合体Vのそれぞれの相対活性がどの程度低下するかを調べた。なお、陰性対照区としてはDMSOを投与して同様の実験を行った。また、陽性対照区としては、ロテノン(複合体I)、TTFA(複合体II)、アンチマイシンA(複合体II/III)、KCN(複合体IV)およびオリゴマイシン(複合体V)をそれぞれ投与して同様の実験を行った。
【0110】
結果を
図10に示す。
図10に示すように、ネオペタシンはミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの相対活性のみを選択的に低下させた。このことから、ネオペタシンはミトコンドリアの呼吸鎖複合体Iを阻害することにより、ミトコンドリア毒として作用していることが示された。
【0111】
(試験例10)
ウエスタンブロット法を用いて、ネオペタシン処置細胞における様々ながん関連タンパク質の発現の変化を調べた。なお、KMeC細胞(イヌ悪性黒色腫細胞)は、東京大学大学院農学生命科学研究科獣医外科学研究室より入手した。また、KMeC細胞はRPMI1640培地を用いて、37℃のインキュベーター(空気/CO
2=95/5(v/v))内で培養した。
【0112】
まず、A2058細胞(ヒト悪性黒色腫細胞)およびKMeC細胞(イヌ悪性黒色腫細胞)のそれぞれを、0.5×10
5細胞/mLとなるように6ウェルプレートに播種し、その24時間後に、ネオペタシン(終濃度は3μM)を培地中に懸濁して56時間インキュベートした。このようにしてネオペタシン(3μM)で56時間処置した細胞をセルスクレイパーで回収した。なお、陰性対照区にはDMSOを投与して同様の実験を行った。
【0113】
次いで、氷冷した溶解バッファー(10mMトリス−HCl(pH7.4)、1%(w/v)NP−40、0.1%(w/v)デオキシコール酸、0.1%(w/v)SDS、150mM NaCl、1mM EDTA、および1%(w/v)プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ−アルドリッチ社)中で細胞をホモジナイズし、氷上で20分間静置した。ホモジネートを13,000rpmで20分間(4℃)遠心分離した後、上清をウエスタンブロッティング用試料として採取した。試料中のタンパク質含有量は、DCプロテインアッセイキット(バイオラッド社製)を用いて測定した。試料(5μgのタンパク質量)を10.0または12.5%(w/v)のポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEで分離し、PVDF膜(パーキンエルマーライフサイエンス社)に転写した。5%(w/v)脱脂乳液(0.1%(w/v)Tween(登録商標)20を含むPBS(PBS−T)で調製)中で1時間インキュベートして非特異的結合をブロックした。その後、2%(w/v)ウシ血清アルブミンおよび0.01%(w/v)アジ化ナトリウムを含有するTBS−Tで適度に希釈した1次抗体と共に、4℃にて膜を一晩インキュベートした。次いで、PBS−Tで膜を3回洗浄し、2次抗体(HRP−結合抗マウスまたはウサギIgG抗体、Cell Signaling社)と共に室温でさらにインキュベートした。次いで、PBS−Tで膜を3回洗浄した。免疫ブロットは、アマシャムECLプラスウエスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア社)を用いて可視化した。抗β−アクチン抗体(シグマ−アルドリッチ社)を用いて同じ膜を再インキュベートすることにより、β−アクチンを内部標準として用いた。
【0114】
結果を
図11に示す(
図11において、「C」は陰性対照区を示し、「N」はネオペタシン処置した細胞の結果を示す)。
図11に示すように、ネオペタシンはA2058細胞およびKMeC細胞の双方において、広範ながん関連分子を阻害することが示された。すなわち、
図11に示す結果によれば、ネオペタシン処置細胞では、がんの増殖・転移に関係する分子群(Akt、ERK1/2、FAK、STAT3)のリン酸化(活性化型)の低下、がん代謝を調節する分子群(AMPK、 mTOR、ACC、GSK3b)の変化、アポトーシス誘導(PARPの分解)などが生じていることがわかる。
【0115】
(試験例11)
ウエスタンブロット法を用いて、ネオペタシンまたはメトホルミンで処置したB16F10細胞における様々ながん代謝・増殖・転移関連タンパク質(AMPK、FAK、Akt、ERK1/2)の発現の経時的な変化を調べた。
【0116】
具体的には、試験例1と同様の手法によりネオペタシン(3μM)またはメトホルミン(5000μM)で処置したB16F10細胞について、これらの化合物による処置から3時間、8時間、24時間および56時間後のそれぞれの時点で細胞を回収し、試験例10と同様の手法によりウエスタンブロット法による各種タンパク質の含有量の測定を行った。なお、陰性対照区にはDMSOを投与して同様の実験を行った。
【0117】
結果を
図12に示す(
図12において、「C」は陰性対照区を示し、「NP」はネオペタシン処置した細胞の結果を示し、「Met」はメトホルミン処置した細胞の結果を示す)。
図12に示す結果によれば、ネオペタシン処置後、がん代謝を調節するマスターレギュレーターであるAMPKが最も早い段階(3時間)で変化し,転移接着に関連するFAKが次に不活化され、最終的にがんの転移・増殖・細胞死を制御する中心的分子であるAkt、ERKが不活化されていることがわかる。このことから、ネオペタシンは,がんの代謝を調節することで腫瘍細胞に対する増殖抑制作用や転移抑制作用を発揮することが示唆された。
【0118】
(まとめ)
上述した各試験例に示す結果をまとめると、まず、マウス高転移悪性黒色腫細胞株であるB16F10細胞を用いた腫瘍細胞肺転移試験を行ったところ、ネオペタシン投与はB16F10腫瘍細胞の肺転移を阻害することが判明した。なお、in vitroの抗腫瘍効果の特異性と一致して、ネオペタシン投与は肝臓腎臓脾臓などにほとんど毒性を示さなかった。効果発現機序の検索を進めたところ,ネオペタシンは腫瘍代謝を破綻させ、特にアスパラギン酸合成を10分の1以下にまで阻害することがわかった。ここで、アスパラギン酸はミトコンドリアで合成されるアミノ酸であり、核酸やタンパク質の合成に必須のアミノ酸である。このように、ネオペタシンは第一義的にはアミノ酸代謝を破綻させることによって作用を発現していると考えられるが、ひいてはエネルギー代謝、さらには解糖系からもペントースリン酸回路を介して核酸の合成を強く抑制する。また、FAKの発現を著しく低下させることで、細胞の運動や形態変化を障害する。以上のことから、ネオペタシンは腫瘍細胞の転移先での増殖と適応に必要な栄養素であるアスパラギン酸の合成を強力に阻害することで、腫瘍細胞の転移能を阻害しているものと考えられる。
【0119】
また、上記のようなネオペタシンによるアスパラギン酸の合成阻害作用は、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを直接かつ強力に阻害することによるものであることも判明した。また、このようなネオペタシンの活性はメトホルミンやフェンホルミンに比べて1000〜10000倍以上高いことも判明した。
【解決手段】明細書に記載の化学式1Aまたは化学式1Bで表される化合物を、腫瘍細胞におけるアスパラギン酸合成阻害剤、腫瘍細胞のスフェロイド形成阻害剤、または、解糖系阻害剤の作用増強剤として用いる。これらの剤は、非常に強力な腫瘍細胞の転移抑制剤としての機能を有する。