特許第6746104号(P6746104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6746104セル内塗布装置及びそれを用いた反応容器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746104
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】セル内塗布装置及びそれを用いた反応容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20200817BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20200817BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20200817BHJP
   B05D 7/22 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   B05C5/00 101
   B01J37/02 301Z
   B05D1/26 Z
   B05D7/22 Z
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-77752(P2018-77752)
(22)【出願日】2018年4月13日
(65)【公開番号】特開2019-181395(P2019-181395A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2019年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏生
【審査官】 塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−176939(JP,A)
【文献】 特開2016−002534(JP,A)
【文献】 特開2017−185467(JP,A)
【文献】 特開平07−194986(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0237671(US,A1)
【文献】 特開2017−180016(JP,A)
【文献】 特開2009−018265(JP,A)
【文献】 特開2007−268484(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1981942(CN,A)
【文献】 特開2019−181468(JP,A)
【文献】 特開2019−181396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B05C 5/00−5/04
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料を塗布するためのセル内塗布装置であって、
独立した複数の材料吐出口と前記複数の材料吐出口にそれぞれ独立に連結している複数の材料流路とが形成されており、前記セル中に挿入可能な吐出管、及び
前記複数の材料流路に前記複数の材料をそれぞれ独立に供給するための複数の材料供給装置
を備えていることを特徴とするセル内塗布装置。
【請求項2】
前記複数の材料吐出口が、前記吐出管の周に沿った方向の異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のセル内塗布装置。
【請求項3】
前記吐出管に、気体を吹き付けるための気体吐出口と前記気体吐出口に連結している気体流路とが更に形成されており、かつ
前記気体流路に気体を供給するための気体供給装置を更に備えている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のセル内塗布装置。
【請求項4】
前記ハニカム状反応容器の、前記吐出管が挿入される側の端面とは反対側の端面から前記セル内を吸引するための吸引装置を更に備えていることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のセル内塗布装置。
【請求項5】
前記吐出管が前記ハニカム状反応容器の各セルの長手方向の中心軸に対して相対的に回転可能なものであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のセル内塗布装置。
【請求項6】
前記複数の材料吐出口が前記吐出管の外周面に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のセル内塗布装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のセル内塗布装置を用いてハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料が塗布された反応容器を製造する方法であって、
前記ハニカム状反応容器のセル中に前記吐出管を挿入する吐出管挿入工程と、
前記複数の材料を、前記複数の材料供給装置からそれぞれ独立に前記複数の材料流路に供給し、前記複数の材料吐出口からそれぞれ独立に吐出させることにより、前記ハニカム状反応容器の各セル内に前記複数の材料を塗布する塗布工程と、
を含むことを特徴とする反応容器の製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載のセル内塗布装置を用いてハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料が塗布された反応容器を製造する方法であって、
前記塗布工程において、気体を、前記気体供給装置から前記気体流路に供給し、前記気体吐出口から吹き付けながら、前記複数の材料を塗布することを特徴とする請求項7に記載の反応容器の製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載のセル内塗布装置を用いてハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料が塗布された反応容器を製造する方法であって、
前記塗布工程において、前記吸引装置を用いて、前記ハニカム状反応容器の、前記吐出管が挿入される側の端面とは反対側の端面から前記セル内を吸引しながら、前記複数の材料を塗布することを特徴とする請求項7又は8に記載の反応容器の製造方法。
【請求項10】
請求項5に記載のセル内塗布装置を用いてハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料が塗布された反応容器を製造する方法であって、
前記塗布工程において、前記吐出管を、前記ハニカム状反応容器の各セルの長手方向の中心軸に対して相対的に回転させながら、前記複数の材料を塗布することを特徴とする請求項7〜9のうちのいずれか一項に記載の反応容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料を塗布するためのセル内塗布装置、並びに、ハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料が塗布された反応容器を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられる排ガス浄化用触媒としては、例えば、複数の貫通孔を有するハニカム基材と、このハニカム基材のセル内に塗布された触媒材料からなる触媒層とを備えるものが知られている。このような触媒層としては、従来、1種類の触媒材料を塗布して形成された単層の触媒層が用いられていたが、近年、触媒性能の向上のために、複数の触媒材料を塗布して形成された、組成が異なる複数の触媒層が排ガスの流れ方向(セルの長手方向)に分布している流れ方向分離型の触媒層や排ガスの流れ方向に垂直な方向(セルの短手方向又は半径方向)に分布している多層の触媒層が用いられるようになってきた。
【0003】
例えば、特開2007−268484号公報(特許文献1)には、ハニカム基材のセル隔壁の表面に、複数のスラリーをハニカム基材の軸方向及び径方向の少なくとも一方で異なる分布パターンをもつようにコートする方法であって、前記分布パターンと略同一パターンとなるように複数のスラリーを筒状のコート治具に区画して充填し、このコート治具をハニカム基材の一端面に当接させ、前記コート治具の端面からスラリーをセル通路に導入するコート方法が記載されている。
【0004】
また、国際公開第2010/114132号(特許文献2)には、複数の吐出口が設けられているノズルと、このノズルに接続されている流体供給装置とを備える排ガス浄化用触媒の製造装置が記載されている。また、特許文献2には、触媒層の原料を含んだ流体を前記ノズルからモノリスハニカム基材の一方の端面に吐出させて触媒層を形成し、次いで、異なる触媒層の原料を含んだ流体を前記ノズルからモノリスハニカム基材の他方の端面に吐出させて異なる触媒層を形成することによって、モノリスハニカム基材の上流部と下流部に異なる組成の触媒層が形成された排ガス浄化用触媒が得られることが記載されている。
【0005】
さらに、特開2010−133332号公報(特許文献3)には、1つのハニカム担体に光発熱材のコート層と排ガス浄化用触媒の触媒層を塗り分けることによって、排気上流側又は下流側に光発熱体、下流側又は上流側に排ガス浄化用触媒が配置されている触媒装置が得られることが記載されている。
【0006】
また、特開2014−188466号公報(特許文献4)には、ハニカム構造部の入口セル側の隔壁表面に、微細原料粒子を塗布し、焼成して、複数の細孔を有する表面捕集層を形成し、ハニカム構造部の出口セル側の隔壁表面に、排ガス浄化用触媒を含むスラリーを塗工し、乾燥させて、前記排ガス浄化用触媒を担持させる排ガス浄化フィルターの製造方法が記載されている。
【0007】
さらに、特開2016−2534号公報(特許文献5)には、シリンジ先端から、ウォールスルー型のフィルター基体のガス流入通路の封止端側の隔壁表面に粒子状物質酸化触媒の前駆体である触媒スラリーを圧入し、さらに、ガス流入通路の開口端側の隔壁表面にNOx浄化触媒の前駆体である触媒スラリーを圧入し、その後、乾燥、焼成を施す排ガス浄化用触媒の製造方法が記載されている。
【0008】
しかしながら、これらの特許文献に記載の方法は、複数のスラリー材料をハニカム基材のセルの長手方向や半径方向に分布した状態に塗布する方法であり、複数のスラリー材料をセルの内周に沿った方向に分布した状態に塗布することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−268484号公報
【特許文献2】国際公開第2010/114132号
【特許文献3】特開2010−133332号公報
【特許文献4】特開2014−188466号公報
【特許文献5】特開2016−2534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、複数の材料をハニカム状反応容器のセル内の任意の位置に互いに分離した状態(特に、セルの内周に沿った方向(内周方向)に分布した状態)に塗布することを可能とするセル内塗布装置、及び複数の材料がハニカム状反応容器のセル内の任意の位置に互いに分離した状態(特に、セルの内周方向に分布した状態)に塗布されている反応容器を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、独立した複数の材料吐出口と前記複数の材料吐出口にそれぞれ独立に連結している複数の材料流路とが形成されている吐出管を用い、この吐出管をハニカム状反応容器のセル内の任意の方向に自在に移動させたり、各セルの長手方向の中心軸に対して相対的に回転させたりすることによって、複数の材料をハニカム状反応容器のセル内の任意の位置に互いに分離した状態(特に、セルの内周方向に分布した状態)に塗布できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のセル内塗布装置は、ハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料を塗布するためのセル内塗布装置であって、
独立した複数の材料吐出口と前記複数の材料吐出口にそれぞれ独立に連結している複数の材料流路とが形成されており、前記セル中に挿入可能な吐出管、及び
前記複数の材料流路に前記複数の材料をそれぞれ独立に供給するための複数の材料供給装置
を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明のセル内塗布装置においては、前記複数の材料吐出口が、前記吐出管の周に沿った方向の異なる位置に配置されていることが好ましい。また、前記吐出管に、気体を吹き付けるための気体吐出口と前記気体吐出口に連結している気体流路とが更に形成されており、かつ、前記気体流路に気体を供給するための気体供給装置を更に備えていることが好ましい。さらに、前記ハニカム状反応容器の、前記吐出管が挿入される側の端面とは反対側の端面から前記セル内を吸引するための吸引装置を更に備えていることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明のセル内塗布装置において、前記吐出管は前記ハニカム状反応容器の各セルの長手方向の中心軸に対して相対的に回転可能なものであることが好ましく、また、前記複数の材料吐出口が前記吐出管の外周面に形成されていることも好ましい。
【0015】
本発明の反応容器の製造方法は、前記本発明のセル内塗布装置を用いてハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料が塗布された反応容器を製造する方法であって、
前記ハニカム状反応容器のセル中に前記吐出管を挿入する吐出管挿入工程と、
前記複数の材料を、前記複数の材料供給装置からそれぞれ独立に前記複数の材料流路に供給し、前記複数の材料吐出口からそれぞれ独立に吐出させることにより、前記ハニカム状反応容器の各セル内に前記複数の材料を塗布する塗布工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0016】
本発明の反応容器の製造方法においては、前記塗布工程において、気体を、前記気体供給装置から前記気体流路に供給し、前記気体吐出口から吹き付けながら、前記複数の材料を塗布することが好ましい。また、前記塗布工程において、前記吸引装置を用いて、前記ハニカム状反応容器の、前記吐出管が挿入される側の端面とは反対側の端面から前記セル内を吸引しながら、前記複数の材料を塗布することも好ましい。さらに、前記塗布工程において、前記吐出管を、前記ハニカム状反応容器の各セルの長手方向の中心軸に対して相対的に回転させながら、前記複数の材料を塗布することも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の材料をハニカム状反応容器のセル内の任意の位置に互いに分離した状態(特に、セルの内周方向に分布した状態)に塗布することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のセル内塗布装置の好適な一実施形態を示す模式縦断面図である。
図2図1に示す吐出管2の例を示す模式横断面図である。
図3図1に示す吐出管2の例を示す模式横断面図である。
図4A】本発明の製造方法によって得られる反応容器において、セル内に塗布された材料の状態を示す模式横断面図である。
図4B】本発明の製造方法によって得られる反応容器において、セル内に塗布された材料の状態を示す模式横断面図である。
図4C】本発明の製造方法によって得られる反応容器において、セル内に塗布された材料の状態を示す模式横断面図である。
図5】本発明の製造方法によって得られる反応容器において、セル内に塗布された材料の状態を示す模式縦断面図である。
図6】本発明の製造方法によって得られる反応容器において、セル内に塗布された材料の状態を示す模式横断面図である。
図7】本発明の製造方法によって得られる反応容器において、セル内に塗布された材料の状態を示す模式横断面図である。
図8】実施例で得られた反応容器のセル内の状態を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
先ず、本発明のセル内塗布装置について説明する。本発明のセル内塗布装置は、ハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料を塗布するためのセル内塗布装置であって、前記セル中に挿入可能な吐出管及び前記複数の材料をそれぞれ独立に供給するための複数の材料供給装置を備えるものである。前記吐出管には、独立した複数の材料吐出口と前記複数の材料吐出口にそれぞれ独立に連結している複数の材料流路とが形成されている。また、前記複数の材料流路には、前記複数の材料供給装置がそれぞれ独立に連結されている。
【0021】
このような本発明のセル内塗布装置を用いて各セル内に複数の材料を塗布することが可能なハニカム状反応容器としては、材料の塗布時に既にハニカム形状になっているもの(一体化されているもの)であれば特に制限はなく、例えば、一体成型された公知のハニカム状反応容器を使用することができる。
【0022】
図1は本発明のセル内塗布装置の好適な一実施形態を示す模式縦断面図である。図1に示す本発明のセル内塗布装置は、ハニカム状反応容器1の各セル1a内に2種類の材料A及び材料Bを塗布するためのものであり、セル1a中に挿入可能な吐出管2と、吐出管2に材料A及び材料Bをそれぞれ独立に供給するための材料供給装置3A及び材料供給装置3Bとを備えている。そして、吐出管2には、独立した材料吐出口5A及び材料吐出口5Bと、材料吐出口5Aに連結している材料流路6Aと、材料吐出口5Bに連結している材料流路6Bとが形成されている。さらに、材料流路6Aには材料供給装置3Aが、材料流路6Bには材料供給装置3Bがそれぞれ独立に連結されている。これにより、材料供給装置3Aから材料流路6Aに材料Aを、材料供給装置3Bから材料流路6Bに材料Bをそれぞれ独立に供給し、材料Aを材料吐出口5Aから、材料Bを材料吐出口5Bからそれぞれ独立に吐出させることができ、材料A及び材料Bをハニカム状反応容器1のセル1a内に混合させずに互いに分離した状態に塗布することが可能となる。
【0023】
また、本発明のセル内塗布装置においては、独立した3つ以上の材料吐出口と各材料吐出口にそれぞれ独立に連結されている3つ以上の材料流路とが形成されている吐出管、及び、各材料流路にそれぞれ独立に連結されている3つ以上の材料供給装置を用いることもできる。これにより、3種類以上の材料を、混合させずに分離した状態で、ハニカム状反応容器の各セル内に塗布することが可能となる。
【0024】
本発明のセル内塗布装置においては、吐出管2を、ハニカム状反応容器1の端面9上の任意の方向に自在に移動させることが可能であるため、ハニカム状反応容器1の任意のセル1a内に材料を塗布することができる。また、吐出管2を、セル1aの長手方向及び短手方向(又は半径方向)に移動させることが可能である。さらに、吐出管2をハニカム状反応容器1の各セル1aの長手方向の中心軸に対して相対的に回転させることも可能である。例えば、ハニカム状反応容器1を回転させずに吐出管2を回転(又は吐出管2に取り付けた回転軸4を回転)させたり、或いは、吐出管2を回転させずにハニカム状反応容器1を回転させたりすること等によって、吐出管2を相対的に回転させることができる。本発明のセル内塗布装置においては、吐出管をセル内の任意の方向に自在に移動させたり、各セルの長手方向の中心軸に対して相対的に回転させたりすることが可能であるため、複数の材料をセル内の任意の位置に互いに分離した状態に塗布することができる。特に、吐出管をセルの長手方向に移動させながら複数の材料を塗布することによって、セルの内周に沿った方向(内周方向)に複数の材料層が分布している反応容器を製造することが可能となる。また、吐出管をセル内でセルの長手方向の中心軸に対して相対的に回転かつセルの長手方向に移動させながら複数の材料を吐出させることによって、複数の材料をセル内に螺旋状に塗布するができ、内壁が滑らかな流路(セル)を有する、圧力損失が少ない反応容器を製造することが可能となる。
【0025】
本発明に用いられる吐出管の外径(吐出管の横断面が円状でない場合には、外接円の直径)としては、セル内に挿入可能な大きさであれば特に制限はないが、セルの内径(セルの横断面が円状でない場合には、内接円の直径)の90%以下であることが好ましい。
【0026】
また、本発明に用いられる吐出管においては、複数の材料吐出口が吐出管の周に沿った方向(周方向)の異なる位置に配置されていることが好ましい。図2は、このような吐出管の例を示す模式横断面図である。図2(A)は、2つの材料吐出口が吐出管の周方向の異なる位置に配置されている吐出管の模式横断面図であり、材料流路6Aと材料流路6Bが吐出管2の周方向の異なる位置に配置されている。図2(B)は、3つの材料吐出口が吐出管の周方向の異なる位置に配置されている吐出管の模式横断面図であり、材料流路6Aと材料流路6Bと材料流路6Cが吐出管2の周方向の異なる位置に配置されている。図2(C)は、4つの材料吐出口が吐出管の周方向の異なる位置に配置されている吐出管の模式横断面図であり、材料流路6Aと材料流路6Bと材料流路6Cと材料流路6Dが吐出管2の周方向の異なる位置に配置されている。このように、複数の材料吐出口及び複数の材料流路が吐出管の周方向の異なる位置に配置されている吐出管を用いることによって、複数の材料をセル内に互いに分離した状態に塗布することが可能となる。なお、前記材料流路を形成する複数の配管は、図2(A)に示すように、溶接等(図示なし)により束ねられていてもよいし、図2(B)及び(C)に示すように、外筒管7内に収容されていてもよい。
【0027】
また、本発明に用いられる吐出管においては、複数の材料吐出口が吐出管の外周面に形成されていることが好ましい。これにより、複数の材料を混合させずに互いに分離した状態で塗布することが可能となる。
【0028】
さらに、本発明に用いられる吐出管においては、気体を吹き付けるための気体吐出口と前記気体吐出口に連結している気体流路とが更に形成されていることが好ましく、前記気体流路には、気体を供給するための気体供給装置が連結されていることが好ましい。空気等の気体を吹き付けながら材料を塗布することによって、材料をセルの内壁に確実に密着させることができ、さらに、余分な材料が除去されてセルの内壁が平滑となり、圧力損失が少なく、内壁が滑らかな流路(セル)を有する反応容器を製造することが可能となる。図3は、このような気体吐出口と気体流路とが形成されている吐出管の模式横断面図を示す。図3(A)は、2つの材料吐出口と2つの気体吐出口とが吐出管の周方向の異なる位置に配置されている吐出管の模式横断面図であり、材料流路6Aと材料流路6Bと2つの気体流路8とが吐出管2の周方向の異なる位置に配置されている。図3(B)は、3つの材料吐出口と3つの気体吐出口とが吐出管の周方向の異なる位置に配置されている吐出管の模式横断面図であり、材料流路6Aと材料流路6Bと材料流路6Cと3つの気体流路8とが吐出管2の周方向の異なる位置に配置されている。図3(C)は、4つの材料吐出口と1つの気体吐出口とが吐出管の周方向の異なる位置に配置されている吐出管の模式横断面図であり、材料流路6Aと材料流路6Bと材料流路6Cと材料流路6Dと1つの気体流路8とが吐出管2の周方向の異なる位置に配置されている。
【0029】
また、図1に示す本発明のセル内塗布装置においては、ハニカム状反応容器1の、吐出管2が挿入される側の端面9とは反対側の端面10からセル1a内を吸引するための吸引装置(図示なし)を更に備えていることが好ましい。セル1a内を吸引することによって、余分な材料が除去されてセルの内壁が平滑となり、圧力損失が少なく、内壁が滑らかな流路(セル)を有する反応容器を製造することが可能となる。
【0030】
さらに、本発明のセル内塗布装置においては、超音波処理装置を備えていることが好ましい。これにより、材料吐出口を超音波洗浄することが可能となり、材料吐出口付近での材料(特に、スラリー状材料)の詰まりを防止することができる。
【0031】
以上、本発明のセル内塗布装置の好適な実施形態について説明したが、本発明のセル内塗布装置は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、セル内に挿入される吐出管は1本であるが、複数の吐出管を備えていてもよい。これにより、複数の吐出管を複数のセル内に同時に挿入して複数のセル内で同時に塗布することが可能となり、塗布時間の短縮を図ることができる。また、材料(特に、スラリー状材料)の詰まりや沈降を防止することができ、塗布不良による歩留まりの低下を抑制することができる。
【0032】
次に、本発明の反応容器の製造方法について説明する。本発明の反応容器の製造方法は、前記本発明のセル内塗布装置を用いて、ハニカム状反応容器の各セル内に複数の材料が塗布された反応容器を製造する方法であって、前記ハニカム状反応容器のセル中に前記吐出管を挿入する吐出管挿入工程と、前記複数の材料を、前記複数の材料供給装置からそれぞれ独立に前記複数の材料流路に供給し、前記複数の材料吐出口からそれぞれ独立に吐出させることにより、前記ハニカム状反応容器の各セル内に前記複数の材料を塗布する塗布工程と、を含む方法である。
【0033】
本発明に用いられるハニカム状反応容器としては、材料の塗布時に既にハニカム形状になっているもの(一体化されているもの)であれば特に制限はなく、例えば、一体成型された公知のハニカム状反応容器を使用することができる。
【0034】
また、本発明に用いられる、ハニカム状反応容器のセル内に塗布される材料としては、前記本発明のセル内塗布装置を用いてハニカム状反応容器のセル内に塗布できるものであれば特に制限はなく、液状のものであってもスラリー状のものであってもよいが、材料供給装置や材料流路、材料吐出口において、材料(特に、スラリー状材料)の目詰まりや沈降が起こらないように、材料の粘度や粒度・固形分の割合等を適宜調整する必要がある。
【0035】
図1に示すセル内塗布装置を用いた本発明の反応容器の製造方法においては、先ず、吐出管2をハニカム状反応容器1の端面9から挿入し、吐出管2の先端部をハニカム状反応容器の端面10まで到達させる(吐出管挿入工程)。次に、材料Aを材料供給装置3Aから材料流路6Aに、材料Bを材料供給装置3Bから材料流路6Bにそれぞれ独立に供給し、材料Aを材料吐出口5Aから、材料Bを材料吐出口5Bからそれぞれ独立に吐出させて、材料A及び材料Bをハニカム状反応容器1のセル1a内に混合させずに互いに分離した状態に塗布し、ハニカム状反応容器1の隔壁1bに材料Aからなる層(材料A層)101A及び材料Bからなる層(材料B層)101Bを互いに分離した状態で形成する(塗布工程)。このとき、吐出管2の動きを制御することによって、様々な構造の材料層を形成することができる。
【0036】
例えば、ハニカム状反応容器1及び吐出管2を回転させずに、図2(A)や図3(A)に示す吐出管2をセル1aの長手方向に沿ってハニカム状反応容器1の端面10から端面9まで移動させながら、材料Aと材料Bとを塗布することによって、ハニカム状反応容器1の隔壁1bに、セル1aの長手方向には組成が均一であり、内周方向には図4A及び図4Bに示すように分布している材料Aからなる層(材料A層)101Aと材料Bからなる層(材料B層)101Bとを形成することができる。また、ハニカム状反応容器1及び吐出管2を回転させずに、図2(A)や図3(A)に示す吐出管2をセル1aの長手方向に沿って移動させながら、材料Aと材料Bとを塗布した後、ハニカム状反応容器1又は吐出管2を回転させること等によって吐出管2を各セル1aの長手方向の中心軸に対して相対的に回転させ、再び、ハニカム状反応容器1及び吐出管2を回転させずに、吐出管2をセル1aの長手方向に沿って移動させながら、材料Aと材料Bとを塗布し、これらの操作を繰り返すことによって、ハニカム状反応容器1の隔壁1bに、セル1aの長手方向には組成が均一であり、内周方向には図4Cに示すように分布している材料Aからなる層(材料A層)101Aと材料Bからなる層(材料B層)101Bとを形成することもできる。なお、図4A図4Cは、本発明の製造方法によって得られる反応容器の例を示す模式横断面図である。
【0037】
また、図2(A)や図3(A)に示す吐出管2を、ハニカム状反応容器1の各セル1aの長手方向の中心軸に対して相対的に回転させ、かつ、セル1aの長手方向に沿ってハニカム状反応容器1の端面10から端面9まで移動させながら、材料Aと材料Bとを塗布することによって、図5に示すように、ハニカム状反応容器1の隔壁1bに螺旋状に配置されている材料Aからなる層(材料A層)101Aと材料Bからなる層(材料B層)101Bとを形成することができる。吐出管2を相対的に回転させる方法としては、ハニカム状反応容器1を回転させずに吐出管2を回転(又は吐出管2に取り付けた回転軸4を回転)させる方法や、吐出管2を回転させずにハニカム状反応容器1を回転させる方法等が挙げられる。なお、図5は、本発明の製造方法によって得られる反応容器の例を示す模式縦断面図である。
【0038】
さらに、ハニカム状反応容器1及び吐出管2を回転させずに、図2(B)や図3(B)に示す吐出管2をセル1aの長手方向に沿ってハニカム状反応容器1の端面10から端面9まで移動させながら、材料Aと材料Bと材料Cとを塗布することによって、ハニカム状反応容器1の隔壁1bに、セル1aの長手方向には組成が均一であり、内周方向には図6に示すように分布している材料Aからなる層(材料A層)101Aと材料Bからなる層(材料B層)101Bと材料Cからなる層(材料C層)101Cとを形成することができる。なお、図6は、本発明の製造方法によって得られる反応容器の例を示す模式横断面図である。
【0039】
また、ハニカム状反応容器1及び吐出管2を回転させずに、図2(C)や図3(C)に示す吐出管2をセル1aの長手方向に沿ってハニカム状反応容器1の端面10から端面9まで移動させながら、材料Aと材料Bと材料Cと材料Dとを塗布することによって、ハニカム状反応容器1の隔壁1bに、セル1aの長手方向には組成が均一であり、内周方向には図7に示すように分布している材料Aからなる層(材料A層)101Aと材料Bからなる層(材料B層)101Bと材料Cからなる層(材料C層)101Cと材料Dからなる層(材料D層)101Dとを形成することができる。なお、図7は、本発明の製造方法によって得られる反応容器の例を示す模式横断面図である。
【0040】
本発明にかかる塗布工程において、各材料は、材料供給装置から材料流路に、一定の流量で連続的に供給してもよいし、流量を変動させながら供給してもよいし、間欠的に供給してもよい。一定の流量で連続的に供給することによって均一な厚さの材料層を形成することができる。また、流量を変動させながら供給したり、間欠的に供給したりすることによって、材料層の厚さに分布を持たせることが可能となる。材料層の厚さに分布がある反応容器においては、反応基質ガス等の流体がセル内を乱流で流通するため、セル内での流体の混合効率が向上する。
【0041】
本発明にかかる塗布工程においては、空気等の気体を、気体供給装置から気体流路に供給し、気体吐出口から吹き付けながら、材料を塗布することが好ましい。これにより、材料をセルの内壁に確実に密着させることができ、さらに、余分な材料が除去されてセルの内壁が平滑となり、圧力損失が少なく、内壁が滑らかな流路(セル)を有する反応容器を製造することが可能となる。
【0042】
また、本発明にかかる塗布工程においては、吸引装置を用いてハニカム状反応容器1の端面10からセル1a内を吸引しながら、材料を塗布することが好ましい。これにより、余分な材料が除去されてセルの内壁が平滑となり、圧力損失が少なく、内壁が滑らかな流路(セル)を有する反応容器を製造することが可能となる。
【0043】
以上、本発明の反応容器の製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明の反応容器の製造方法は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、1本の吐出管を1つのセル内に挿入して複数の材料を塗布しているが、複数の吐出管を複数のセル内に同時に挿入して複数のセル内で同時に塗布してもよい。これにより、塗布時間の短縮を図ることができる。また、材料(特に、スラリー状材料)の詰まりや沈降を防止することができ、塗布不良による歩留まりの低下を抑制することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
図1に示すセル内塗布装置を用いて、一体成型されたハニカム状反応容器(断面積:6cm、長さ:50mm、セル形状:6角セル、セル径(内接円の直径):1.26mm)のセル内に2種類のスラリー材料を塗布した。スラリー材料としては、スラリー材料A(固体成分:セリアとジルコニアとを主成分とする複合酸化物、固形分:30質量%、粘度:300Pa・s以下)及びスラリー材料B(固体成分:La−Fe−Zrを主成分とする複合酸化物、固形分:30質量%、粘度:300Pa・s以下)を調製した。吐出管2としては、2本のステンレスパイプ(外径:0.51mm、内径:0.39mm)を束ねたものを使用した。この吐出管は、図2(A)に示す横断面を有するものであり、その外径(外接円の直径)は1.05mm以下であった。
【0046】
先ず、図1に示すセル内塗布装置において、吐出管2をハニカム状反応容器1の端面9から挿入し、吐出管2の先端部をハニカム状反応容器1の端面10まで到達させた。次に、ハニカム状反応容器1及び吐出管2を回転させずに、吐出管2をセル1aの長手方向に沿って4mm/秒の速さで端面10から端面9の方向に移動させながら、前記スラリー材料Aを材料供給装置3Aから材料流路6Aに約1mg/秒の流量で、前記スラリー材料Bを材料供給装置3Bから材料流路6Bに約1mg/秒の流量で、それぞれ独立に連続的に供給し、前記スラリー材料Aを材料吐出口5Aから、前記スラリー材料Bを材料吐出口5Bからそれぞれ独立に吐出させた。これにより、ハニカム状反応容器1の隔壁1bに、前記スラリー材料Aと前記スラリー材料Bとが塗布された反応容器が得られた。
【0047】
このようにして得られた反応容器のセル内の状態を光学顕微鏡により観察した。その結果を図8に示す。図8に示したように、ハニカム状反応容器の隔壁(セルの内壁)には、セルの長手方向には組成が均一であり、内周方向には分布している材料Aからなる層(材料A層)と材料Bからなる層(材料B層)とが形成されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明のセル内塗布装置によれば、複数の材料をハニカム状反応容器のセル内の任意の位置に互いに分離した状態(特に、セルの内周方向に分布した状態)に塗布することが可能となる。
【0049】
したがって、本発明の反応容器の製造方法は、このような本発明のセル内塗布装置を用いているため、例えば、近接して共存すると反応容器の性能(例えば、耐久性)が向上するが、混合された状態になると反応容器の性能(例えば、耐久性)が低下するといった、共存状態によって相反する特性が発現する複数の材料がハニカム状反応容器のセル内の任意の位置に互いに分離した状態(特に、セルの内周方向に分布した状態)に塗布されている反応容器等を製造する方法として有用である。
【符号の説明】
【0050】
1:ハニカム状反応容器、1a:ハニカム状反応容器1のセル、1b:ハニカム状反応容器1の隔壁、2:吐出管、3A,3B:材料供給装置、4:回転軸、5A,5B:材料吐出口、6A,6B,6C,6D:材料流路、7:外筒管、8:気体流路、9:ハニカム状反応容器1の、吐出管2が挿入される側の端面、10:ハニカム状反応容器1の端面9とは反対側の端面、101A:材料Aからなる層(材料A層)、101B:材料Bからなる層(材料B層)、101C:材料Cからなる層(材料C層)、101C:材料Dからなる層(材料D層)、102A:除去された余分な材料A、102B:除去された余分な材料B
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8