(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746110
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】ニッケル−クロム−鉄基鋳造合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20200817BHJP
C03B 37/04 20060101ALI20200817BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20200817BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20200817BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20200817BHJP
【FI】
C22C19/05 D
C03B37/04
C22C30/00
C22F1/10 H
!C22F1/00 611
!C22F1/00 624
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 631B
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 640B
!C22F1/00 650A
!C22F1/00 681
!C22F1/00 682
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 692A
!C22F1/00 692B
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-530354(P2018-530354)
(86)(22)【出願日】2017年7月26日
(86)【国際出願番号】JP2017027051
(87)【国際公開番号】WO2018021409
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2019年1月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-147806(P2016-147806)
(32)【優先日】2016年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】502425064
【氏名又は名称】サン−ゴバン セバ
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】谷 月峰
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ジンボ
(72)【発明者】
【氏名】シ ザン
(72)【発明者】
【氏名】ソン フェイ
【審査官】
鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−028552(JP,A)
【文献】
特開昭59−006348(JP,A)
【文献】
特開平08−290933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
C03B 37/04
C22C 30/00
C22F 1/00
C22F 1/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスと接触する部品の製造に使用するのに適したNi−Cr−Fe基鋳造合金であって、質量パーセントで、
Cr:15〜30%、
Fe:15〜30%、
Co:2.5〜5.0%、
W:3.0〜6.0%、
Ti:0.0〜2.0%、
Nb:0.5〜2.5%、
Mo:0.5〜2.0%、および、
C:0.5〜1.2%、
を含有し、残部がニッケル及び不可避的不純物からなることを特徴とするNi−Cr−Fe基鋳造合金。
【請求項2】
請求項1に記載のNi−Cr−Fe基鋳造合金において、各組成元素の含有率は、下記の少なくとも何れか一つ以上であることを特徴とするNi−Cr−Fe基鋳造合金。
Cr:24.5〜28.5%、
Fe:15〜25%、
Co:3.0〜4.5%、
W:3.0〜5.0%、
Ti:0.7〜1.5%、
Nb:0.5〜1.4%、
Mo:1.0〜1.5%、および、
C:0.7〜1.0%。
【請求項3】
1000℃での0.2%の圧縮降伏強度が100MPa以上であり、
1050℃で35MPaでの圧縮クリープの速度が7.5x10−8s−1以下であり、
1050℃での溶融ガラス中、1050℃、100時間での実験値に基づき推定される腐食速度が10mm/年以下である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のNi−Cr−Fe基鋳造合金。
【請求項4】
溶融ガラスと接触する部品の製造に使用するのに適したNi−Cr−Fe基鋳造合金であって、質量パーセントで、
Cr:22〜30%、
Fe:15〜30%、
Co:2.5〜4.5%、
W:4.0〜6.0%、
Ti:0.0〜2.0%、
Nb:0.5〜1.4%、
Mo:0.5〜2.0%、および、
C:0.5〜1.2%、
を含有し、残部がニッケル及び不可避的不純物からなることを特徴とするNi−Cr−Fe基鋳造合金。
【請求項5】
請求項4に記載のNi−Cr−Fe基鋳造合金において、各組成元素の含有率は、下記の少なくとも何れか一つ以上であることを特徴とするNi−Cr−Fe基鋳造合金。
Cr:24.5〜28.5%、
Fe:15〜25%、
Co:3.0〜4.0%、
W:4.0〜5.0%、
Ti:0.7〜1.5%、
Mo:1.0〜1.5%、および、
C:0.7〜1.0%。
【請求項6】
1000℃での0.2%の圧縮降伏強度が100MPa以上であり、
1050℃で35MPaでの圧縮クリープの速度が5.5x10−8s−1以下であり、
1050℃での溶融ガラス中、1050℃、100時間での実験値に基づき推定される腐食速度が8.5mm/年以下である、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のNi−Cr−Fe基鋳造合金。
【請求項7】
以下の工程を含む回転繊維化プロセスで溶融ガラスを繊維化するためのスピナーとして使用するためのNi−Cr−Fe基鋳造合金を用いた鋳造品の製造方法。
(a)請求項1、2、4、又は5に記載のNi−Cr−Fe基鋳造合金を提供する工程と、
(b)前記合金を溶融させ、空気中で周囲温度まで前記合金を凝固させて物品を得る工程と、
(c)前記合金の溶融開始温度より少なくとも20℃低い温度で前記物品を熱処理して最終物品を得る工程。
【請求項8】
請求項7に記載のNi−Cr−Fe基鋳造合金を用いた鋳造品の製造方法において、
前記熱処理工程(c)は、
1150℃から1250℃の間であって、前記合金の溶融開始温度より少なくとも20℃低い温度で、前記物品を2〜4時間加熱する工程と、
550℃以下まで、毎分65℃〜30℃の速度で前記物品を冷却し、その後、空気中で周囲温度まで前記物品を冷却する工程
を含むことを特徴とする鋳造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスに対する機械的強度と耐食性に優れたNi−Cr−Fe基鋳造合金に関する。本発明の合金は、例えば溶融ガラスのような高温の液状無機物と接触するもので、例えば回転繊維化プロセスにおける溶融ガラスを繊維に分解するための遠心スピナーのような部品の製造に、好ましくは鋳造に、使用する材料として特に適している。
【背景技術】
【0002】
ガラス産業では、ガラス繊維の製造は、1000〜1200℃の範囲の高温でのスピナーの回転によって実現される。したがって、この場合の合金は、高い応力と高温酸化、腐食の攻撃を同時に受ける。ガラス製品の品質を保証し、コストを下げるために、スピナー合金は、酸化、ガラス腐食、高温クリープに優れた耐性を有すると共に、低コストなどの望ましい特性を有する必要がある。
【0003】
高い温度での上記特性の要件を満たすために、一般的には、高温耐性のコバルト(Co)とニッケル(Ni)の合金が、例えば、回転繊維化プロセスにおける溶融ガラスを繊維化するための遠心スピナー内において、溶融ガラスと接触する部品の製造に典型的に使用されている。このような合金は、例えば特許文献6、7に開示されている。
【0004】
他方で、複数のCo−Cr基合金とNi−Cr基合金が特許文献1−5に開示されている。Ni基合金は、Niの価格がCoよりもはるかに低価格であるため、経済的な観点から、Co基合金よりも優れている。例えば、現在(2016年7月時点)の金属地金の取引価格では、Niの1kgとCoの1トロイオンス(約31g)が同程度の価格になっている。
【0005】
しかし、これら従来のCo基合金およびNi基合金は、Ni、Co、Wおよびの他の高融点元素の多い含有量を含む。この点は、Co基合金およびNi基合金を高価にすると共に、均一に大型部品を鋳造して製造することを困難にする。
【0006】
したがって、溶融ガラスと接触するような部品の製造に使用するために、これらの要件を満たすことができる経済的な材料は現在存在していない。現在利用可能なスピナー材料の調査によると、強度、耐酸化及び耐食性、価格及び製造性の必要な組み合わせを達成するが、難しいことが明らかになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,933,484号
【特許文献2】米国特許第4,367,083号
【特許文献3】米国特許第4,662,920号
【特許文献4】米国特許第4,877,435号
【特許文献5】米国特許第6,266,979号
【特許文献6】米国公開特許2002−73742号
【特許文献7】米国公開特許2005−06802号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の課題を解決するもので、例えば、回転繊維化プロセスにおける溶融ガラスを繊維化するための遠心スピナーなどの部品に有用な、新規な鋳造合金を提供することである。本発明の鋳造合金は、長時間の溶融ガラス中での優れた耐食性及び耐久性によって、溶融ガラスと接触する部品の鋳造を可能にし、製造を容易にする。
したがって、本発明は、高温の溶融ガラス中で改善された高温機械的強度と耐食性を有するニッケル−クロム−鉄基鋳造合金を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、スピナー材料の鋳造用のNi−Cr基合金に質量15〜30%の範囲の鉄(Fe)を積極的に添加することによって、合金が高温において望ましいクリープ強度と耐食性を発揮することを見出した。また、例えばNi、CrおよびFe等の主要構成元素の組成を適切に制御することによって、Feの追加された鋳造用Ni−Cr基合金を製造することは非常に容易であることを、本発明者らは見出した。
【0010】
また、高温クリープ強度を有する、鉄の添加されたNi−Cr基合金の鋳造性を維持するために、例えばTi、Nb、W及び高含有率のCのような他の合金元素を添加して組み合わせる必要のあることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであり、以下によって特徴付けられる:
【0011】
(1) 本発明の第1の態様のNi−Cr−Fe基鋳造合金は、溶融ガラスと接触する部品の製造に使用するのに適したNi−Cr−Fe基鋳造合金であって、質量パーセントで、Cr:15〜30%、Fe:15〜30%、Co:2.5〜5.0%、W:3.0〜6.0%、Ti:0.0〜2.0%、Nb:0.5〜2.5%、Mo:0.5〜2.0%、および、C:0.5〜1.2%を含有し、残部がニッケル及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0012】
(2) 本発明のNi−Cr−Fe基鋳造合金(1)において、好ましくは、各組成元素の含有率は、下記の少なくとも何れか一つ以上であると良い。
Cr:24.5〜28.5%、Fe:15〜25%、Co:3.0〜4.5%、W:3.0〜5.0%、Ti:0.7〜1.5%、Nb:0.5〜1.4%、Mo:1.0〜1.5%、および、C:0.7〜1.0%。
【0013】
(3) 本発明のNi−Cr−Fe基鋳造合金(1)、(2)において、好ましくは、1000℃での0.2%の圧縮降伏強度が100MPa以上であり、1050℃で35MPaでの安定した圧縮クリープの速度が約7.5x10
−8s
−1以下であり、1050℃での溶融ガラス中推定される腐食速度が約10mm/年以下であるとよい。
【0014】
(4) 本発明の第2の態様のNi−Cr−Fe基鋳造合金は、溶融ガラスと接触する部品の製造に使用するのに適したNi−Cr−Fe基鋳造合金であって、質量パーセントで、Cr:22〜30%、Fe:15〜30%、Co:2.5〜4.5%、W:4.0〜6.0%、Ti:0.0〜2.0%、Nb:0.5〜1.4%、Mo:0.5〜2.0%、および、C:0.5〜1.2%を含有し、残部がニッケル及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0015】
(5) 本発明のNi−Cr−Fe基鋳造合金(4)において、好ましくは、各組成元素の含有率は、下記の少なくとも何れか一つ以上であると良い。
Cr:24.5〜28.5%、Fe:15〜25%、Co:3.0〜4.0%、W:4.0〜5.0%、Ti:0.7〜1.5%、Mo:1.0〜1.5%、および、C:0.7〜1.0%。
【0016】
(6) 本発明のNi−Cr−Fe基鋳造合金(4)、(5)において、好ましくは、1000℃での0.2%の圧縮降伏強度が100MPa以上であり、1050℃で35MPaでの安定した圧縮クリープの速度が約5.5x10
−8s
−1以下であり、1050℃での溶融ガラス中推定される腐食速度が約8.5mm/年以下であるとよい。
【0017】
(7) 本発明のNi−Cr−Fe基鋳造合金を用いた鋳造品の製造方法は、以下の工程を含む回転繊維化プロセスで溶融ガラスを繊維化するためのスピナーとして使用するため製造方法である;
(a)上記(1)、(2)、(4)、または(5)に記載のNi−Cr−Fe基鋳造合金を提供する工程と、
(b)前記合金を溶融させ、空気中で周囲温度まで前記合金を凝固させて熱鋳造の欠陥が存在しない物品を得る工程と、
(c)前記合金の溶融開始温度より少なくとも20℃低い温度で前記物品を熱処理して最終物品を得る工程。
【0018】
(8) 本発明のNi−Cr−Fe基鋳造合金を用いた鋳造品の製造方法において、好ましくは、前記熱処理工程(c)は、1150℃から1250℃の間であって、前記合金の溶融開始温度より少なくとも20℃低い温度で、前記物品を2〜4時間加熱する工程と、550℃以下まで、毎分65℃〜30℃の速度で前記物品を冷却し、その後、空気中で周囲温度まで前記物品を冷却する工程を含むとよい。
【発明の効果】
【0019】
従来の回転繊維化プロセスで溶融ガラスを繊維化するためのスピナー用合金は、鋳造によって製造されるNi基合金及びCo基合金のうち、溶融ガラス中の高温強度と耐食性の最高値を示しており、従前は他の鋳造合金によって突破されないと考えられていた。しかし本発明によれば、溶融ガラス中の高温強度と耐食性について、従来のスピナー用合金を上回るNi−Cr−Fe基鋳造合金が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施例、従来例及び比較例のNi−Cr−Fe基合金で行われた1050℃での圧縮試験および腐食試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明のNi−Cr−Fe基鋳造合金の組成及びその含有量について、上記のように限定した理由を記す。なお、以下の説明において、含有率を表す%は、質量%である。
【0022】
鉄(Fe):Feは合金の加工性を改善すると共に、安価であるため、多量に添加することにより、合金のコストを削減する。しかし、一般のNi−Cr基合金中に大量のFeを添加することは、高温での強度及び耐食性に有害であると考えられている。よって、Feの含有量は15〜30%の範囲が好ましく、特に好ましくは、15%から25%の範囲での添加であれば、その強度、耐酸化性、耐食性を劣化させることなく、合金の加工性を改善することが見出されている。耐酸化性については、複数の合金をチェックして、鉄を添加すると、500時間の試験中にわずかに質量増加することを見つけた。
【0023】
ニオブ(Nb):Nbは強度向上に大きく寄与する元素である。この効果を達成するために、Nbが0.5%以上の量で含有されることが好ましい。Nbは2.5%以上である場合には、マクロ偏析が溶融中に発生し、デルタ相とラーベス相などのような、有害な位相幾何学最密充填(TCP)相が合金に現れる。したがって、Nbの含有量は、0.5〜2.5%が好ましく、特に好ましくは、0.5〜1.4%である。
【0024】
チタン(Ti):Tiは、結晶粒界の強化に寄与する。この効果を達成するために、好ましくは、Tiは0.5%以上の量で含有される。しかし、Tiが2.0%を超えて含まれる場合は、合金の熱間加工性と溶接性が著しく低下する。したがって、Ti含有量は、0.0〜2.0%が好ましく、特に好ましくは、0.7〜1.5%である。
【0025】
炭素(C):Cは、MC型炭化物を形成するためのNb、W及びTiと結合している。MC型炭化物はピン止め効果(pinning effect)により、粒界の移動を抑制する。しかし、Cの添加量が多すぎる場合には、MC型炭化物が粗く形成されると共に、Nb、W、Tiという強化元素を多量に消費するため、機械的性質を低下させる。したがって、Cの含有量は、0.5〜1.2%が好ましく、特に好ましくは、0.7〜1.0%の範囲である。
【0026】
コバルト(Co):Coは、積層欠陥エネルギーを低下させる元素であり、炭化物の分布を調整し、及びFe−Cr基耐熱合金の結晶粒径を微細化する。しかし、Ni−Cr−Fe基合金にCoを多量に添加することで、高い割合でFe、Mo及びWと結合して、TCP相を形成する傾向がある。したがって、Coの含有量は、2.5〜5.0%が好ましく、特に好ましくは、3.0〜4.5%の範囲である。また、高温クリープ特性と溶融ガラスへの耐食性を良好に保つためには、Coの含有量は、2.5〜4.5%が好ましく、特に好ましくは、3.0〜4.0%の範囲である。
【0027】
モリブデン(Mo)およびタングステン(W):MoおよびWは、母相中の固溶強化により高温での合金の強度を向上させるために添加される。これらの効果を達成するために、これらの元素の含有量の下限値は、Moについて0.5%、Wについて3.0%が好ましい。これらの元素が過剰に含まれている場合は、TCP相が合金中に形成されるため、これらの元素の含有量の上限値はMoについて2.0%で、Wについて6.0%が好ましい。そこで、Moの含有量は、0.5〜2.0%が好ましく、特に好ましくは、1.0〜1.5%の範囲である。また、Wの含有量は、3.0〜6.0%が好ましく、特に好ましくは、3.0〜5.0%の範囲である。また、高温クリープ特性と溶融ガラスへの耐食性を良好に保つためには、Wの含有量は、4.0〜6.0%が好ましく、特に好ましくは、4.0〜5.0%の範囲である。
【0028】
クロム(Cr):Crは耐酸化性及び耐食性を向上させるために有効な元素である。また、Crは本発明で定義された合金における熱間加工性の向上に寄与する。これらの効果を達成するために、Crは15%以上の量で含まれるのがよい。一方、Crが過剰に含まれている場合、有害なTCP相が形成される。よって、Crの含有量は15〜30%の範囲が好ましく、特に好ましくは、24.5%から28.5%の範囲である。また、高温クリープ特性と溶融ガラスへの耐食性を良好に保つためには、Crの含有量は、22%から30%の範囲が好ましく、さらに好ましくは、24.5%から28.5%の範囲である。高い含有率のクロムを添加した合金の耐酸化性は、鉄を添加し(15%から25%の鉄)又は鉄添加なしの合金とほぼ同じレベルである。
【0029】
本発明を具現化する実施例について、さらに詳細に、説明のために示される。もちろん、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0030】
次の表1に示される組成を有する各合金A〜Gは、溶解鋳造によって製造された。これらの合金において、合金Aは従来例であり、合金B〜Eは本発明の第1の態様に包含される実施例であり、合金F及びGは、本発明で規定する範囲を超える元素含有量を有する比較例である。
【0032】
圧縮試験を、本発明の合金B〜E、市販合金A、および本発明の範囲外である合金Fと合金Gについて行い、それらの結果を比較した。その結果を表2に示す。本発明の合金B〜Eは、表2に示すように、1000℃での0.2%の圧縮降伏強度、1050℃/35MPaでのクリープ抵抗値(圧縮クリープ速度)が、従来例の合金A及び比較例の合金F及びGよりも優れている。
【0034】
また、各々の合金を、1050℃、100時間で溶融ガラス中での静的浸漬によって試験し、耐食性を評価した。腐食深さの平均によって計算された腐食速度を表2に示した。本発明の合金B〜Eは、従来例の合金A、および比較例の合金F、Gのそれよりも少し優れている。なお、溶融ガラスによる腐食速度については、一年当たりの腐食量で示したもので、実験値に基づく推定値である。溶融ガラスによる腐食速度は、100時間の実験値を用いて、一年当たりの腐食量を算出したものである。
【0035】
図1は、本発明の実施例、従来例及び比較例のNi−Cr−Fe基合金で行われた1050℃での圧縮試験および腐食試験の結果を示すグラフである。
本発明の第1の態様のNi−Cr−Fe基鋳造合金によれば、表2および
図1に示すように、1000℃での0.2%の圧縮降伏強度が100MPa以上であり、1050℃で35MPaでの安定した圧縮クリープの速度が約7.5x10
−8s
−1以下であり、1050℃での溶融ガラス中推定される腐食速度が約10mm/年以下である。
【0036】
これに対して、本発明の第2の態様のNi−Cr−Fe基鋳造合金は、表1に示される組成を有する各合金B、D−Eを実施例とするものであり、合金Cを含まない組成範囲とするものである。本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様と比較して、より優れた高温強度、クリープ抵抗、及び溶融ガラス中の耐食性を有する。即ち、本発明の第2の態様のNi−Cr−Fe基鋳造合金によれば、表2および
図1に示すように、1000℃での0.2%の圧縮降伏強度が100MPa以上であり、1050℃で35MPaでの安定した圧縮クリープの速度が約5.5x10
−8s
−1以下であり、1050℃での溶融ガラス中推定される腐食速度が約8.5mm/年以下である。
【0037】
なお、本発明のNi−Cr−Fe基鋳造合金は、高温強度、クリープ抵抗、及び溶融ガラス中の耐食性について、従来例の合金、および本発明の範囲外である比較例の合金と同等またはより優れていることは明らかである(
図1)。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、溶融ガラスと接触する部品のための新規なNi−Cr−Fe基鋳造合金が提供される。このような溶融ガラスと接触する部品としては、例えば、回転繊維化プロセスで溶融ガラスを繊維化するための遠心スピナーがある。しかし本発明のNi−Cr−Fe基鋳造合金は、これに限定されるものではなく、溶融ガラスと類似の高温の液化無機物、例えばケイ素や石英のような無機物であって、この液化無機物を繊維化するような部品を製造、好ましくは鋳造する用途に適用できる。