(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746132
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】単一指向性コンデンサマイクロホンユニット
(51)【国際特許分類】
H04R 19/01 20060101AFI20200817BHJP
【FI】
H04R19/01
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-161773(P2016-161773)
(22)【出願日】2016年8月22日
(65)【公開番号】特開2018-32895(P2018-32895A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 智
【審査官】
菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】
実公平6−46158(JP,Y2)
【文献】
特開2009−246635(JP,A)
【文献】
特開2009−94937(JP,A)
【文献】
特開2007−312293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/00−19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を受けて振動する振動板と、
前記振動板に対向配置された固定極と、
前記固定極を支持して、前記固定極との間に背部空気室を形成する絶縁座と、
前記絶縁座に取り付けられて、前記固定極に生成される信号電圧を引き出す金属製の固定極引出し端子と、
を収容するユニットケースを有してなり、
前記ユニットケースは、
前記振動板の前面側に形成された前部音響端子孔と、
前記背部空気室に連通する後部音響端子孔と、
前記背部空気室とは別の第2空気室と、
を備え、
前記固定極引出し端子には、前記背部空気室と第2空気室とを連通させる細径の連通路が形成され、
前記連通路の一端を構成する前記固定極引出し端子の一端は、前記背部空気室に配置されている、
ことを特徴とする単一指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【請求項2】
前記固定極引出し端子は柱状に形成されると共に、軸方向に沿って軸孔もしくは溝孔が施され、
前記軸孔もしくは溝孔は、前記背部空気室と前記第2空気室とを連通させる連通路を構成し、
前記軸孔もしくは溝孔の一端が前記背部空気室に配置されている、
請求項1に記載の単一指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【請求項3】
前記固定極引出し端子は円柱状に形成されると共に、円柱面に沿って螺旋状の溝孔が施され、
前記螺旋状の溝孔は、前記背部空気室と前記第2空気室とを連通させる連通路を構成し、
前記溝孔の一端が前記背部空気室に配置されている、
請求項1に記載の単一指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【請求項4】
前記固定極引出し端子は、前記連通路を複数備える、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の単一指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【請求項5】
第1音響抵抗体、
を有してなり、
前記第1音響抵抗体は、前記背部空気室と前記後部音響端子孔との間に配置される、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の単一指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【請求項6】
第2音響抵抗体、
を有してなり、
前記第2音響抵抗体は、前記背部空気室と前記第2空気室との間に配置される、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の単一指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【請求項7】
前記固定極引出し端子に螺合するアジャストリング、
を有してなり、
前記第2音響抵抗体は、中心孔を備えるドーナツ状であり、
前記固定極引出し端子は、前記中心孔に挿入されて取り付けられ、
前記第2音響抵抗体は、前記アジャストリングと前記絶縁座との間で、音響抵抗値が可変可能に構成される、
請求項6に記載の単一指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、小型にして低域の周波数応答を改善することができると共に、近接効果による低域の指向性の低下を軽減することができる単一指向性コンデンサマイクロホンユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
単一指向性マイクロホンは、ユニットの前方と後方、すなわち振動板の前面側と背面側にそれぞれ音波を取り込むための開口が施される。これにより、ユニットの前方に前部音響端子が形成され、ユニットの後方に後部音響端子が形成されて、前後の音響端子に加わる音圧の差によって振動板が駆動される。
【0003】
なお音響端子とは、マイクロホンユニットに対して、実効的に音圧を与える空気の位置を指し、マイクロホンユニットが備える振動板と同時に動く空気の中心位置と言うことができる。したがって、単一指向性コンデンサマイクロホンユニットの場合、音響端子は前記したとおり振動板の前面側と背面側の前記開口(音響端子孔)付近に存在する。
【0004】
ところで、前記した単一指向性コンデンサマイクロホンにおいては、後部音響端子に加わる双指向性成分による近接効果によって、低域の指向性が低下するという技術的な課題を有している。
図11は、近接効果の例を示すものであり、これは従来の一般的な単一指向性コンデンサマイクロホンの周波数応答特性を示している。すなわち横軸は周波数を縦軸は出力レベル(dBV)を示している。そして、特性Aは収音軸に対して0度、すなわち正面から音波が到来する場合、特性Bは90度、すなわち真横から音波が到来する場合、特性Cは180度、すなわち後ろから音波が到来する場合の各特性を示している。
【0005】
図11から理解できるように、特性B(90度)と特性C(180度)は、低域において交差し、より低域になると特性C(180度)は特性A(0度)に接近している。これは、近接効果により低域の指向性が低下した状態を示すものであり、低域の周波数応答を改善するための一つの課題は、近接効果を無くすことである。
この場合、単一指向性コンデンサマイクロホンにおいては、低域における指向性を無指向性寄りに調整すれば、低域における特性の低下を保障することができる。
【0006】
そこで、従来における単一指向性コンデンサマイクロホンにおいては、低域の周波数応答を改善する第1の手段として、2つの単一指向性コンデンサマイクロホンユニットを前後に背中合わせに配置し、その両者を音響的に結合した構造とする提案(特許文献1,2)がなされている。この構造のコンデンサマイクロホンによると、2つのコンデンサマイクロホンユニットにそれぞれ加わる成極電圧を制御することにより低域の周波数を含めた指向性を調整することができる。
【0007】
しかしながら、この構造のコンデンサマイクロホンによると、前後に背中合わせに配置された2つのユニットの各振動板の直前に、前後の音響端子がそれぞれ形成されることになる。したがって、前後の音響端子間の距離が一つのマイクロホンユニットの2倍になるために、マイクロホンユニットの全体構成が大型化せざるを得ないものとなる。
【0008】
また、単一指向性コンデンサマイクロホンにおいて、低域の周波数応答を改善する第2の手段として、マイクロホンユニットの背部空気室に音響抵抗体を介して第2の空気室を連通させた構造とする提案(特許文献3,4)もなされている。
【0009】
図8は、例えば特許文献4に開示されたマイクロホンユニットの基本構成を示すものである。このマイクロホンユニット20は、その前面に前部音響端子孔となる複数の開口3を備え、側面に後部音響端子孔となる複数の開口4を備えた円筒状のユニットケース2が、外郭を構成している。
そして、ユニットケース2内において、対向する振動板6と固定極7が、その背面に配置された絶縁座8によって支持され、固定極7と絶縁座8との間に背部空気室8bが形成されている。さらに、背部空気室8bは絶縁座8に形成された連通孔8cおよび第1音響抵抗体13を介して後部音響端子孔として機能する開口4側に連通している。また、背部空気室8bは絶縁座8に軸方向に形成された透孔8eおよび第2音響抵抗体18を介して第2空気室16に連通している。
【0010】
第2音響抵抗体18は、金属製の固定極引出し端子9に螺合するアジャストリング17の圧着を受けて、音響抵抗値が可変されるように構成されている。したがって、アジャストリング17の回動操作による第2音響抵抗体18の音響抵抗値の調整により、単一指向性コンデンサマイクロホンユニット20における低域の周波数応答を適正な状態に設定することができる。
【0011】
図9は、
図8に示したコンデンサマイクロホンユニット20の音響的な等価回路を示しており、この等価回路を構成する各素子は以下のように定義することができる。
P1:前部音響端子(開口3)側からの音波の音圧
P2:後部音響端子(開口4)側からの音波の音圧
m0:振動板6の質量
s0:振動板6のスチフネス
r0:振動板6の前側の音響抵抗
r1:第1音響抵抗体13の音響抵抗
s1:背部空気室8bのスチフネス
r2:第2音響抵抗体18の音響抵抗
s2:第2空気室16のスチフネス
【0012】
図9に示す等価回路においては、一般の単一指向性コンデンサマイクロホンの等価回路に比較して、r2およびs2が加わっている。
すなわち、背部空気室8bのスチフネスs1に、背部空気室8bと第2空気室16との間の音響抵抗体18の音響抵抗r2、および第2空気室16のスチフネスs2の直列回路が、並列に付加されている点で、一般の単一指向性コンデンサマイクロホンの等価回路と異なる。
【0013】
この音響抵抗r2とスチフネスs2が付加されている
図8および
図9に示す単一指向性コンデンサマイクロホンの周波数応答特性を、
図10に例示している。なお、
図10に示す周波数応答特性はすでに説明した
図11に示す例と同様であり、特性A〜Cは、収音軸に対するそれぞれの角度が0度、90度、180度の特性を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7−143595号公報
【特許文献2】特開2011−55062号公報
【特許文献3】特開2010−136044号公報
【特許文献4】実公平6−46158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、コンデンサマイクロホンユニットの背部空気室8bに音響抵抗体(第2音響抵抗体18)を介して第2空気室16を連通させた
図8に示すコンデンサマイクロホンユニット20によると、振動板6の背面側に加わる低域成分が、後部音響端子孔4側からの双指向性成分に、第2空気室16側の無指向性成分の作用も加わることになる。これにより双指向性成分に対する無指向性成分の割合が増加し、低域における指向性を無指向性寄りに制御することができる。
これにより、
図11に示す特性に比較して
図10に示すように、近接効果による低域の指向性の低下が改善されていることが認められる。
【0016】
しかしながら、
図8に示すコンデンサマイクロホンによると、第2空気室16の容積をある程度以下に小さくすると、第2空気室16の無指向性成分の共振周波数が高くなり、例えば1KHz程度の中域の周波数特性に影響を与えるという問題が生ずる。
この様な理由から特許文献3および4に開示された単一指向性コンデンサマイクロホンにおいても、第2空気室の容積をある程度確保する必要があり、マイクロホンユニットの全体構成は大型化せざるを得ないものとなる。
【0017】
したがって、この発明が解決しようとする主要な課題は、小型にして低域の周波数応答を改善することができ、近接効果による低域の指向性の低下を軽減させた単一指向性コンデンサマイクロホンユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係る単一指向性コンデンサマイクロホンユニットは、音波を受けて振動する振動板と、前記振動板に対向配置された固定極と、前記固定極を支持して固定極との間に背部空気室を形成する絶縁座と、前記絶縁座に取り付けられて前記固定極に生成される信号電圧を引き出す金属製の固定極引出し端子とが、ユニットケース内に配置され、前記ユニットケースには、前記振動板の前面側に前部音響端子孔が形成されると共に、前記背部空気室に連通して後部音響端子孔が備えられ、
前記ユニットケース内には、前記背部空気室とは別の第2空気室を備え、前記固定極引出し端子には、前記背部空気室と第2空気室とを連通させる連通路が形成されていることを特徴とする。
【0019】
この場合、一つの好ましい形態においては、前記固定極引出し端子は柱状に形成されると共に、軸方向に沿って軸孔もしくは溝孔が施され、前記軸孔もしくは溝孔が、前記背部空気室と前記第2空気室とを連通させる連通路とする構成が採用される。
また、好ましい他の形態においては、前記固定極引出し端子は円柱状に形成されると共に、円柱面に沿って螺旋状の溝孔が施され、前記螺旋状の溝孔が、前記背部空気室と前記第2空気室とを連通させる連通路とする構成が採用される。
そして、前記固定極引出し端子には、前記背部空気室と前記第2空気室とを連通させる複数の連通路が形成した構成を採用することができる。
【0020】
加えて、前記背部空気室と後部音響端子孔との間には、第1音響抵抗体が配置され、前記背部空気室と第2空気室との間には、第2音響抵抗体が配置されていることが望ましい。そして、前記第2音響抵抗体はドーナツ状に形成されて、中心孔に前記固定極引出し端子が挿入されることで取り付けられ、前記固定極引出し端子に螺合するアジャストリングと前記絶縁座との間で、前記第2音響抵抗体の音響抵抗値が可変可能に構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
前記した構成の単一指向性コンデンサマイクロホンユニットによると、固定極に生成される信号電圧を引き出す金属製の固定極引出し端子を利用して、固定極の背部空気室と、第2空気室とを連通させる連通路が形成される。
この連通路は、固定極引出し端子の軸方向に沿って施された軸孔または溝孔により、さらには円柱面に沿って施された螺旋状の溝孔により形成される。
【0022】
このように金属製の固定極引出し端子に施される連通路は、
図8に示した樹脂製の絶縁座に軸方向に形成した透孔に比較して、より細径となるように精密加工を施すことができ、これは背部空気室と第2空気室との間に介在して、音響質量(イナータンス)として有効に作用する。
【0023】
したがって、前記した音響質量と第2空気室のスチフネスとにより構成されるローパスフィルタは、その遮断周波数を下げることができ、これにより第2空気室に入る低域成分の周波数(共振点)は下がることになる。この結果、中域の周波数応答に影響を与えることなく、低域の周波数応答を改善したコンデンサマイクロホンユニットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】この発明に係るコンデンサマイクロホンユニットの第1の形態を示した中央断面図である。
【
図2】同じく第2の形態を示した中央断面図である。
【
図3】同じく第3の形態を示した中央断面図である。
【
図4】固定極引出し端子に施される連通路の好ましい形態を示した模式図である。
【
図5】この発明に係るコンデンサマイクロホンユニットの音響的な等価回路図である。
【
図6】この発明に係る他の形態のコンデンサマイクロホンユニットの音響的な等価回路図である。
【
図7】
図1に示すコンデンサマイクロホンユニットの周波数応答特性を示すグラフである。
【
図8】従来のコンデンサマイクロホンユニットの中央断面図である。
【
図9】
図8に示すコンデンサマイクロホンユニットの音響的な等価回路図である。
【
図10】
図8に示すコンデンサマイクロホンユニットの周波数応答特性を示すグラフである。
【
図11】一般的なコンデンサマイクロホンユニットの周波数応答特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明に係る単一指向性コンデンサマイクロホンユニットについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
図1は第1の実施の形態を示しており、このコンデンサマイクロホンユニット1は、その前面側に複数の開口3を備えた円筒状のユニットケース2が、外郭を構成している。そして、ユニットケース2の側面にも複数の開口4が施されており、前面の開口3が前部音響端子孔を構成し、側面側の開口4が後部音響端子孔を構成している。
【0026】
また、ユニットケース2内の前面側には、その周囲が支持リング5に取り付けられた振動板6が配置され、この振動板6の背面に僅かな隙間を介して固定極7が対向して配置されている。なお、前記振動板6と固定極7とは、図には現われていないがリング状のスペーサを介して対峙しており、この構成により振動板6に成膜された電極膜(図示せず)と固定極7との間でコンデンサが形成される。そして、この実施の形態においては、例えば固定極7側に誘電体膜が形成されてバックエレクトレット方式によるエレクトレットコンデンサマイクロホンユニットが構成されている。
【0027】
前記固定極7の背面には、樹脂素材により形成された絶縁座8が配置されている。この絶縁座8の周縁は、ユニットケース2の前面側に向かって起立しており、この起立部8aに前記固定極7の周囲が嵌め込まれて、固定極7をユニットケース2の前面側に向かって押さえ付けている。そして、固定極7の背面と絶縁座8との間には隙間が形成されて、この隙間が背部空気室8bを形成している。また、絶縁座8には背部空気室8bをユニットケース2の前記した後部音響端子孔4に連通させる複数の連通孔8cが周方向に沿って形成されている。
なお、前記固定極7には周知のとおり、全面にわたって小径の開口(図示せず。)が施されている。
【0028】
また絶縁座8の中央部には、その背面側に向かって円筒部8dが立設されている。そして円筒部8dの内面には、金属素材により形成されたロッド状の固定極引出し端子9の先端部が嵌め込まれて取り付けられている。この固定極引出し端子9と前記した固定極7の間には、図には示されていないがリード線が接続されており、固定極引出し端子9は固定極7に生成される信号電圧を、コンデンサマイクロホンユニット1に搭載された図示せぬFET等によるインピーダンス変換回路に供給するように作用する。
【0029】
前記絶縁座8の円筒部8dに、底部開口が嵌め込まれた状態でカップ部材11が収容されており、このカップ部材11はその開口縁がリング部材12によって押さえられてユニットケース2内に取り付けられている。すなわち、前記ユニットケース2の内周面には周に沿って雌捩子が捩子切りされており、前記リング部材12がユニットケース2の内周面に螺合することにより、カップ部材11がユニットケース2内に取り付けられている。
【0030】
カップ部材11の下底面と絶縁座8との間には、ドーナツ状に成形された第1音響抵抗体13が、絶縁座8に形成された連通孔8cを閉塞するようにして配置されている。
したがって、前記リング部材12のユニットケース2に対する螺合の度合いに応じて、カップ部材11は軸方向に移動し、第1音響抵抗体13の物理的な密度を調整することができる。これにより、背部空気室8bに加わる後部音響端子孔4からの双指向性成分を調整することができる。
【0031】
一方、前記したロッド状の固定極引出し端子9には、軸芯に沿って先端部から中央部付近に達する軸孔9aが施されており、さらにこの軸孔9aに直交して径方向に連通する交差孔9bが施されている。この軸孔9aと交差孔9bとによる連通路は、絶縁座8に形成された背部空気室8bと、カップ部材11内に形成される後述する第2空気室16とを連通し、音響質量(イナータンス)として効果的に作用するものとなる。
【0032】
そして、ユニットケース2に螺合された前記リング部材12のさらに後部には、円筒状の短軸部材14がユニットケース2に螺合されており、この円筒状の短軸部材14には、中央部に開口15aが施された蓋体15が取り付けられている。
前記蓋体15の中央開口15aに、固定極引出し端子9が通されて蓋体15がカップ部材11を閉塞しており、カップ部材11とこれを閉塞する蓋体15とにより前記した第2空気室16が形成されている。すなわち、第2空気室16はユニットケース2に背部空気室8bとは別に備える空気室である。
【0033】
前記固定極引出し端子9の交差孔9b付近を覆うようにして、ドーナツ状に形成された第2音響抵抗体18が装着されている。すなわち第2音響抵抗体18は、その中心孔に前記した固定極引出し端子9が挿入されることで、固定極引出し端子9に取り付けられている。そして、第2音響抵抗体18は、固定極引出し端子9の外周面に施された雄捩子に螺合するアジャストリング17と、前記絶縁座8に形成された円筒部8dの端部との間で、前記第2音響抵抗体18が挟まれた状態で配置されている。
【0034】
これにより、前記背部空気室8bと第2空気室16との間に、軸孔9aと交差孔9bとによる連通路を介して第2音響抵抗体18が介在されている。そして、固定極引出し端子9に対するアジャストリング17の螺合の度合いに応じて、第2音響抵抗体18の物理的な密度を調整することができる。それ故、第2音響抵抗体18は背部空気室8bに加わる第2空気室16からの無指向性成分を調整することができる。
【0035】
図1に示したコンデンサマイクロホンユニット1においては、金属製の固定極引出し端子9に施された軸孔9aと交差孔9bによる連通路は、極めて細径のパイプとして機能し、これが前記したとおり音響質量として作用することになる。
図5は、
図1に示したコンデンサマイクロホンユニット1の音響的な等価回路を示しており、この等価回路には
図9に示した等価回路に、軸孔9aと交差孔9bによる音響質量m2が加わった状態となる。
この
図5に示す等価回路によると、前記音響質量m2による等価的なコイルLと、第2空気室16のスチフネスs2による等価的なコンデンサCとによるローカットフィルタが音響回路に形成される。
【0036】
これにより、軸孔9aと交差孔9bによる音響質量m2を介して、第2空気室16に入る低域成分は、実質的に低い周波数帯域に移動する。すなわち、無指向性成分が低い帯域に移動するので、例えば1kHz程度の音声帯域における指向性には影響を与えることなく、低域の指向性成分を効果的に補足することができることになる。
【0037】
図7に示す周波数応答特性は、その効果を裏付けるものであり、
図10および
図11に示したグラフと同様に、特性A〜Cは収音軸に対するそれぞれの角度が0度、90度、180度の特性を示している。
なお
図7は、音響質量m2として機能する連通路(パイプ)の開口径を0.2mm、その長さを3.5mmに設定し、さらに第2空気室16の容積を0.27mlに設定した場合の周波数応答特性を示している。
【0038】
図7に示す実測値に示されているように、第2空気室16は
図1に示すように小さな容積の状態のまま、低域の周波数応答を改善することが可能となる。
すなわち、第2空気室16の容積を小さく設計することができるので、小型にして低域の周波数応答を改善することができると共に、近接効果が低減されたコンデンサマイクロホンユニットを実現することが可能となる。
【0039】
図2はこの発明に係る単一指向性コンデンサマイクロホンの第2の実施の形態を示している。この第2の実施の形態においては、ロッド状の固定極引出し端子9の側面に、先端部から中央部付近に達する溝孔9cが施されている。なお他の構成は
図1に示した第1の実施の形態と変わるところはなく、相当する部分を同一符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0040】
この第2の形態によると、固定極引出し端子9への溝孔9cの形成部分が、絶縁座8に一体成形された円筒部8dに嵌め込まれて取り付けられることで、前記溝孔9cは円筒部8dとの間で細径の連通孔を構成している。この細径の連通孔が前記した音響質量m2として作用し、
図5に示した例と同様の音響的な等価回路が形成される。
したがって、
図2に示した第2の実施の形態においても、
図1に示した第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0041】
図3はこの発明に係る単一指向性コンデンサマイクロホンの第3の実施の形態を示している。この第3の実施の形態においては、ロッド状の固定極引出し端子9の円柱面に沿って、螺旋状の溝孔9dが、その先端部から中央部付近に達するように施されている。なお他の構成は
図1に示した第1の実施の形態と変わるところはなく、相当する部分を同一符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0042】
この第3の形態によると、固定極引出し端子9への螺旋状の溝孔9dの形成部分が、絶縁座8に一体成形された円筒部8dに嵌め込まれて取り付けられることで、螺旋状の溝孔9dは円筒部8dとの間で細径の連通孔を構成している。この細径の連通孔が前記した音響質量m2として作用し、
図5に示した例と同様の音響的な等価回路が形成される。
【0043】
この第3の形態によると、固定極引出し端子9に螺旋状の溝孔9dを施すことで、より長い細径の連通孔を形成することができ、これによると
図5に示した等価回路において、より大きな値の音響質量m2が加わることになる。
したがって、この音響質量m2によって得られる等価的なコイルLの値も増加し、より顕著な低域の改善特性に寄与することができる。
【0044】
図4(A)〜(E)は、固定極引出し端子9に施される軸孔もしくは溝孔の構成例を、模式的に示したものであり、これらは固定極引出し端子9をその先端部側から見た状態で示している。
(A)は、固定極引出し端子9の軸芯沿って軸孔9aと、この軸孔9aに直交して径方向に連通する交差孔9bを施した例を示しており、これは
図1に示した実施の形態において採用されている。
(B)は、固定極引出し端子9の側面に、軸方向に沿って溝孔9cを施した例を示しており、これは
図2に示した実施の形態において採用されている。
【0045】
(C)は、固定極引出し端子9に、前記(A)に示す軸孔9aと交差孔9b、さらに(B)に示す溝孔9cを施した例を示しており、これによると、それぞれの軸孔および溝孔による音響質量m2aおよびm2bが、並列に配列されたものとなる。
したがって、その音響的な等価回路は
図6に示すように、各音響質量m2aおよびm2bによる等価的なコイルLが並列接続されたものとなる。
【0046】
(D)は、前記した(C)に示す構成に対して、溝孔9cを施す位置を周方向に90度ずらしたものであり、その音響的な等価回路は
図6に示す例とほぼ同様になる。
さらに(E)は、固定極引出し端子9の相対抗する側面(180度対向する側面)に、それぞれ溝孔9cを施したものであり、その音響的な等価回路は
図6に示す例とほぼ同様になる。
【0047】
以上説明したこの発明に係る単一指向性コンデンサマイクロホンユニットによると、固定極に生成される信号電圧を引き出す金属製の固定極引出し端子を利用して、細径の連通路を形成することで、背部空気室と第2空気室との間に音響質量(イナータンス)を配置した構成が採用される。
【0048】
これにより、前記音響質量と第2空気室のスチフネスとにより構成されるローパスフィルタは、その遮断周波数を下げることができ、この結果、中域の周波数応答に影響を与えることなく、低域の周波数応答を改善したコンデンサマイクロホンユニットを提供することができるなど、前記した発明の効果の欄に記載したとおりの作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 コンデンサマイクロホンユニット
2 ユニットケース
3 前面側開口(前部音響端子孔)
4 側面側開口(後部音響端子孔)
5 支持リング
6 振動板
7 固定極
8 絶縁座
8a 起立部
8b 背部空気室
8c 連通孔
8d 円筒部
8e 透孔
9 固定極引出し端子
9a 軸孔(連通路)
9b 交差孔(連通路)
9c 溝孔(連通路)
9d 螺旋状溝孔(連通路)
11 カップ部材
12 リング部材
13 第1音響抵抗体
14 短軸部材
15 蓋体
15a 中央開口
16 第2空気室
17 アジャストリング
18 第2音響抵抗体