(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本実施の形態を詳細に説明する。
1.杖の使用形態の例
【0013】
まず、本実施の形態の杖及び杖用のグリップを説明する前に、杖の使用形態と課題の例を説明する。
【0014】
杖は、老齢などによる歩行の困難さを補助する場合に使用される他、病気などで片麻痺を呈した人がリハビリや日常生活を営む場合にも利用される。片麻痺の人は、杖を使用するときに、より大きな体重をかけることが多い。このような使用状態で杖を過使用すると、手根管症候群などの症状が生じる場合がある。このような症状が生じると、洋服のボタンの開け閉め、パソコンのタイピング作業など日常生活や仕事に影響がある。また、片麻痺の人にとっては、杖を用いる手は健常な側の手であり、麻痺のない手にも疾患を生じることになる。このような背景から、日常的な杖の使用によって起こる二次障害リスク(例えば、手根管症候群、肩関節周囲炎等)を軽減することができる杖及びそのような杖を構成するためのグリップ、シャフト及び足部が求められている。換言すると、床からの反力を吸収し、身体への衝撃を抑える杖及び杖用の構成要素を提供することは技術的な観点のみならず、社会的にも重要な意義がある。
【0015】
また、片麻痺患者は、いわゆる分回し歩行を行うことが多い。分回し歩行とは、足を膝から前方向に進めるのではなく、半円を描くように足を前に進めるような歩行をいう。これは、4点など多点支持の杖を用いた場合でも多くみられる。これは、杖が体重を支えるものの、人間の歩行という動きを考慮していないことにも理由があると考えられる。不自然な歩行が続くと、身体の別の箇所に代償が生じ、二次障害を発生し得る。したがって、操作性がよく、身体に負担がかかりにくく、自然な歩行が可能な杖及びそのような杖を構成するためのグリップ、シャフト及び足部が求められている。
【0016】
なお、上述の使用形態は杖を使用する一例であり、本実施の形態はこれに限定するものではない。
【0017】
2.全体構成
図1は、本実施の形態における杖の構成図である。本実施の形態の杖1は、グリップ10と、シャフト20と、足部30とを備える。グリップ10は、使用者が手で杖を持つ部分である。グリップ10は、例えば、持ち手、握りと称される場合もある。グリップ10は、シャフト20と連結される。シャフト20は、グリップ10と足部30との間に連結される部分である。シャフト20は、例えば、柄、支柱と称される場合もある。足部30は、地面等に接地する部分である。足部30は、シャフト20と連結される。足部30は、後述する構成以外にも、単に地面に接地する部分を表してもよい。例えば、足部30は、シャフト20と一体化していてもよいし、シャフトの下部に取り付けられるゴム又は他の弾性体などでもよい。足部30は、例えば接地部と称される場合もある。また、シャフト20は、後述する構成以外にも、公知の形状でもよいし、適宜の形状でもよい。
【0018】
本実施の形態では、グリップ10、シャフト20及び足部30は別々の要素として構成され、互いに連結して杖1を構成するが、グリップ10、シャフト20及び足部30を一体的に構成してもよいし、グリップ10、シャフト20及び足部30のうち2つを一体的に構成し、他の1つと連結してもよい。各部の詳細な構成は後述する。
【0019】
なお、以下の説明において、各方向を以下のように定義する。使用者が杖1を把持して歩行する方向を前後方向とし、歩く方向を前方向、その逆を後方向とする。水平な地面に対して鉛直方向を上下方向とし、地面側を下方向、その逆を上方向とする。なお、杖1は使用中に傾くが、上下を反転して使用することはないため、杖1の上側とは、杖1の長手方向におけるグリップ側に相当し、杖1の下側とは、杖1の長手方向における足部側に相当する。また、上述の前後方向及び鉛直方向に直交する方向を横方向(左右方向)とする。杖1を持つ手が右手か左手かによって方向が違う場合があるため、杖1を持つ手を想定して手の親指側を親指方向(親指側)とし、手の小指側を小指方向(小指側)とする。杖1を持つ手が左右逆になれば、親指方向と小指方向は逆向きとなる。つまり、杖1(特にグリップ10)は、右手用と左手用を提供することができる。杖1を持つ手に関係がない場合は、単に横方向又は左右方向という場合もある。
【0020】
また、歩行時の状態遷移と各相の名称について概略的に説明する。歩行時は、主に立脚期と遊脚期に分かれる。立脚期は、対象の脚をついてから他方の脚がつくまでの期間であり、遊脚期は、他方の脚がついてから対象の脚がつくまでの期間である。立脚期は、初期接地から、荷重反応期、立脚中期、立脚終期の順に遷移する。荷重反応期は、概略、初期接地から他方の脚のつま先が離れるまでの期間である。立脚中期は、概略、荷重反応期の後、対象の脚のかかとが上がるまでの期間である。立脚後期は、概略、立脚中期の後、他方の脚が付くまでの期間である。遊脚期は、遊脚前期、遊脚初期、遊脚中期、遊脚終期の順に遷移する。遊脚前期は、概略、他方の脚の初期接地から対象の脚のつま先が離れるまでの期間である。遊脚初期は、概略、遊脚前期の後、両足が近接するまでの期間である。遊脚中期は、概略、遊脚前期の後、対象の脚の脛骨が鉛直になるまでの期間である。遊脚後期は、概略、遊脚中期の後、対象の脚がつくまでの期間である。なお、杖についても、上述の脚と同様の名称を参照することが可能である。
【0021】
3.グリップの構成と作用効果
(グリップの構成例)
図2に、本実施の形態におけるグリップ10の構成図を示す。
図2(a)は斜視図、
図2(b)は上面図、
図2(c)は正面図、
図2(d)は側面図をそれぞれ示す。
【0022】
グリップ10は、上面(上部)11と、下面(下部)12と、湾曲部13と、接続部14を備える。グリップ10は、使用者が手で把持する杖用のグリップである。グリップ10の各部は一体で形成されてもよい。また、上面11、下面12及び湾曲部13は、ゴムなどの弾性体、高反発な素材などで形成されてもよい。
【0023】
上面11は、杖1の使用者が手の平を乗せる部位である。
図2(b)において、使用者の親指が符号111の箇所から下側(
図2(b)では紙面の奥側)に折れてグリップ10を把持し、使用者の他の4本の指が符合112の箇所から下側に折れてグリップ10を把持する。上面11は、複数の指の幅よりも広い幅を有している。例えば、上面11は、想定される使用者の親指以外の4本の指の幅よりも広い幅を有している。グリップ10は、想定される使用者の手の大きさに応じて、S、M、Lなどの各サイズを提供することができる。なお、
図2の例は、左手用のグリップ10を示すが、右手用のグリップは左右を反転すればよい。
【0024】
下面12は、上面11と空間(空洞)15を空けて設けられている。下面12の端部が上面11の端部と湾曲部13により接続されている。湾曲部13は、上面11の歩行方向の前側から、下方向に湾曲する。
【0025】
上面11は、近位横アーチ部113を有する。近位横アーチ部113は、使用者の複数の指(例えば4本の指)が湾曲部13に係ってグリップ10を把持した場合に、使用者の手の手根管列に相当する位置に設けられる。近位横アーチ部113は、歩行方向に対して垂直な横方向に延び、上に凸に湾曲している。また、上面11は、遠位横アーチ部114を有する。遠位横アーチ部114は、使用者の複数の指(例えば4本の指)が湾曲部13に係ってグリップ10を把持した場合に、使用者の手の遠位部に相当する位置に設けられる。遠位横アーチ部114は、歩行方向に対して垂直な横方向に延び、上に凸に湾曲している。本実施の形態のグリップ10は、手の指を湾曲部13(特に後述するフック部)にかけることにより、近位横アーチ部113及び遠位横アーチ部114に対して使用者の手を位置決めできるように構成されている。なお、近位横アーチ部113及び遠位横アーチ部114は、一方のみを備えてもよい。
【0026】
湾曲部13は、上面11の歩行方向の前側から、下方向に向かい、その後歩行方向の後ろ方向に向かって湾曲する(
図2(d)のC1)。また、湾曲部13は、上方向にさらに湾曲するフック部C2を有してもよい。フック部C2には、例えば指先が係る。なお、フック部C2を省略し、湾曲部13の湾曲C1の後、下面12は歩行方向の後ろ方向に延び、さらに下方向に湾曲してもよい。また、使用者の手と床との間の押圧力によって、湾曲部13がしなる。
【0027】
接続部14は、杖1のシャフト20と接続する。接続部14は、下面12において湾曲部13と対向する側に設けられる。例えば、接続部14は、使用者の指が湾曲部13に係ってグリップ10を把持した場合に、使用者の手の手根部に相当する位置の下部に設けられる。シャフト20と足部30の少なくとも一方の向きが、本実施の形態のように歩行方向に対して予め定められている場合、接続部14は、グリップ10の向きが歩行方向に対応するように定める方向指定部(図示せず)を有してもよい。すなわち、方向指定部によって、グリップ10がシャフト20に取り付けられる際に、例えば湾曲部13が歩行方向側になるなど所定の方向に定まるようにグリップ10をシャフト20に取り付けることができる。方向指定部は、例えば一方向に向けられた凹部又は切欠部(若しくは突起部)でもよく、シャフト20に形成される一方向に設けられた突起部(若しくは凹部又は切欠部)に嵌合するよう構成されてもよい。これにより、グリップ10が歩行方向に対して正しく配向されることができる。
【0028】
また、グリップ10(例えば接続部14)は、接地面に対してシャフト20の傾きを調整できる機構(傾き調整部)を有しても良い。ここでの傾きは、歩行動作において経時的に変化する杖1(シャフト20)の傾きではなく、杖1の予め定められた接地状態における傾きを指す。予め定められた接地状態とは、例えば、足部30の各接地面が接地した状態、又は、杖1が倒れにくく安定する状態でもよく、これら以外にも予め定められた状態でもよい。換言すると、足部30が同じ接地状態のときに、シャフト20の傾きを変えられる機構であってもよい。このような機構の一例として、グリップ10の接続部14へのシャフト20の差し込む深さを調整することで、シャフト20の傾きを調整できる機構を備えてもよい。例えば、接続部14が、シャフト20の差し込む深さによってシャフト20の接地面に対する傾きが変化するように、シャフト20の挿入部分の傾斜が変化しており、シャフト20の第1接続部23は接続部14に挿入可能であって、適宜の深さで固定できるようにしてもよい。この例とは逆に、グリップ10の接続部14がシャフト20の第1接続部23に挿入される構成でもよい。なお、接地面に対してシャフト20の傾きを調整できる機構(傾き調整部)は、この例に限らず適宜の形態でもよい。
【0029】
なお、本実施の形態においてグリップ10の左右方向の向き(上下方向の軸周りの回転)については、シャフト20が断面長方形の形状を有し、接続部14が対応する形状の切欠を有することで配向されるが、これ以外の適宜の構成を用いてもよい。また、図示の例では、接続部14にはめ込まれるシャフト20と接続部14とをネジで止める構成を例示しているが、固定方法はこれに限らず適宜に固定手段を用いることができる。
【0030】
グリップ10の大きさは、以下のように例示することができるが、これに限定するものではない。例えば、グリップ10の幅(例えば、上面11の幅)が96mm、グリップの前後方向の長さ(湾曲部13の前端から上面11の後端まで)が84mm、上面11の上端から下面12の下端までが41mm、上面11の上端から接続部14の下端までが174mm、接続部14の幅が20mmである。
【0031】
(グリップの各部の作用効果)
近位横アーチ部113は、手掌面でグリップ10に荷重を加えたとしても、手のアーチ形状を保ち、これにより、手根管症候群等の発生を予防し得る。本実施の形態のグリップ10では、上面11に近位横アーチ部113を有し、この近位横アーチ部113に、使用者の手の近位横アーチが位置するように、使用者の指が湾曲部13及びフック部C2に係るように構成されている。
【0032】
遠位横アーチ部114の湾曲によって、手掌部とグリップ10の上面11における荷重分圧の偏りが減少する。なお、本実施の形態のグリップ10の遠位横アーチ部114は、一例として、手の機能的肢位(生活上比較的便利な肢位)である手関節背屈15〜30度、橈屈5〜尺屈15度、手指は軽度屈曲(ボールを握るような肢位)を保持したときの遠位横アーチの湾曲に合わせてアーチを形成することができる。
【0033】
湾曲部13は、手指を軽く握ったときの手指の湾曲と同様の形状とすることができる。また、フック部C2を有する場合、フック部C2は、さらに丸め込まれるような形状をしている。指先をフック部C2に引っ掛けるように固定することができる。通常の使用時は、手指を軽く握ったような肢位を保持し、余分な力が入らない状態で杖1を付く。一方、いざ転倒しそうになった際は、使用者の手は、フック部C2に強く力を加え、手指内の内在筋が強く働き、杖1に対する把持力を強化する。これによって軽い力で杖1を把持することができ、かつ、いざ転倒しそうになったとしても杖1を離すことなく、歩行が継続できる。
【0034】
また、指先をフック部C2に引っ掛けることができる形状は、杖1を振り出すときに、グリップ10が横方向を軸に軸回転して杖1の振り出しを補助する。例えば立脚後期などにおいては、杖1は前方に傾き、手の甲が鉛直上方向よりも歩行方向に向くような状態で杖1を把持している。この状態から杖1を持ち上げるだけで、手の甲が回転して杖1を振り出す効果がある。
【0035】
また、フック部C2の位置から延長した手根部の位置でシャフト20と接続させる構成になっている。これにより、軸回転のモーメントの距離が長くなり、より軽い力で杖1を振り出すことができる。
【0036】
湾曲部13は、上面11に荷重をかけた際、上面11が湾曲部13を軸に1mm〜10mm程度下降するようにしなる。このしなりにより、近位横アーチ部113の構造を保護することができる。また、このしなりによって、杖1のシャフト20に取り付けられて杖1を使用する際に、使用者の手が受ける床半力を分散することができる。また、下面12と接続部14の間の湾曲部(第2湾曲部)も、立脚中期から後期において、この湾曲部を軸に下面12が1mm〜10mm程度下降するようにしなる。これにより、手関節背屈に対する床反力をさらに緩和することができる。
【0037】
(効果)
以上のように、本実施の形態のグリップによると、床からの反力を吸収し、身体への衝撃を抑えることができる。また、本実施の形態のグリップによると、杖が振り出しやすく、歩行しやすい。
【0038】
(他の構成例)
上述の構成は、以下のように表すこともできる。
【0039】
[構成例1]
使用者が手で把持する杖用のグリップであって、
上面と、
前記上面と空間を空けて設けられた下面と、
前記上面と前記下面を接続し、歩行方向の前側に設けられ、使用者の複数の指よりも広い幅の湾曲部と
を備え、
前記上面と前記湾曲部と前記下面がコの字型を形成してもよい。
【0040】
[構成例2]
上記構成例1の杖用のグリップにおいて、
前記下面の、前記湾曲部と対向する側に設けられた、杖のシャフトと接続する接続部
をさらに備えてもよい。
【0041】
[構成例3]
使用者が手で把持する杖用のグリップであって、
歩行方向の前側に設けられ、使用者の複数の指よりも広い幅を有し、グリップの上面の歩行方向の前側から、下方向及び歩行方向の後ろ方向に向かって湾曲する湾曲部
を備えてもよい。
【0042】
[構成例4]
上述の構成例1〜3の杖用のグリップにおいて、
上面は、使用者の手の平を、手首を歩行方向の後ろ側にして乗せる上面であってもよい。
【0043】
4.シャフトの構成と作用効果
(シャフトの構成例)
図3に、本実施の形態におけるシャフト20の構成図を示す。
図3(a)は斜視図、
図3(b)は上面図、
図3(c)は正面図、
図3(d)は側面図をそれぞれ示す。
【0044】
シャフト20は、杖1用のシャフトであって、使用者の歩行方向に凸となるように湾曲した第1湾曲部21と、歩行方向と逆向きに凸となるように湾曲した第2湾曲部22とを備える。換言すると、第1湾曲部21と第2湾曲部22は、逆方向に湾曲している。第1湾曲部21は、例えば、杖1を持つためのグリップ10側に構成され、第2湾曲部22は、杖1が接地する足部30側に構成される。すなわち、第1湾曲部21は、第2湾曲部22よりも上側に配置される。第1湾曲部21の湾曲(カーブ)は、第2湾曲部22の湾曲(カーブ)よりも緩やかである。換言すると、第1湾曲部21の曲率は、第2湾曲部22の曲率よりも小さい(第1湾曲部21の曲率半径は、第2湾曲部22の曲率半径よりも大きい)。一例として、第1湾曲部21の曲率半径R1及び第2湾曲部22の曲率半径R2はそれぞれ、R1=500mm、R2=90mmとすることができるが、これに限定するものではない。シャフト20の寸法は、一例として、左右方向の幅が20mm、長手方向の長さが720mmとすることができるが、これに限定するものではない。長手方向の長さは、使用者の身長に応じて、S、M、Lなどの複数サイズを提供してもよい。また、シャフト20の長手方向の長さを自由に調整できる機構(長さ調整部)を備えてもよい。また、本実施の形態では、シャフト20は、
図2に示すように断面が長方形の形状を有しているがこれ以外の形状でもよい。シャフト20は、例えば、炭素繊維、樹脂、金属などの材料、又は使用者の体重の一部を支えることが可能な強度を持つその他の素材から構成することができる。
【0045】
ここで、使用者の歩行方向に凸であるとは、第1湾曲部21の湾曲の凸方向と、歩行方向が平行である場合以外にも、第1湾曲部21の湾曲の凸方向が、歩行方向に対して90度未満の所定の角度を成してもよい。換言すると、第1湾曲部21の湾曲の凸方向は、少なくとも歩行方向の成分を有していてもよい。一例として、歩行方向と逆向きに凸も同様に、第2湾曲部22の湾曲の凸方向が、少なくとも歩行方向と逆方向の成分を有していてもよい。上述の所定の角度は、例えばプラスマイナス15度以内、プラスマイナス30度以内又はプラスマイナス45度以内とすることができるが、これに限定するものではない。
【0046】
杖1をついて歩行する際に、杖1を持つためのグリップ10と接地面との間の押圧力によって、第1湾曲部21と第2湾曲部22が撓む。歩行時の時系列でみると、杖1をついて歩行する際に第1湾曲部21が撓む度合と第2湾曲部22が撓む度合との割合が変化する。より具体的には、歩行時に杖1の長手方向と杖1の接地面との傾きは、杖1が接地してから地面から離れるまで変化するが、この傾きの変化に応じて、グリップ10と接地面との間の押圧力による第1湾曲部21が撓む度合と第2湾曲部22が撓む度合との割合が変化する。
【0047】
また、シャフト20は、杖1を手で持つ持ち方によって歩行方向が定まるグリップ10に接続する第1接続部23を有する。第1接続部23は、第1湾曲部21及び第2湾曲部22の湾曲が歩行方向に対応するようにシャフト20の向きを定める方向指定部(図示せず)を有してもよい。すなわち、方向指定部によって、シャフト20がグリップ10及び足部30に取り付けられる際に、第1湾曲部21の凸方向が歩行方向を向くようにグリップ10及び足部30に取り付けることができる。方向指定部は、例えば一方向に向けられた突起部でもよく、グリップ10に形成される一方向に設けられた凹部又は切欠部に嵌合するよう構成されてもよい。これにより、シャフト20の湾曲が歩行方向に対して正しく配向されることができる。
【0048】
シャフト20は、歩行方向が定められた足部30に接続する第2接続部24を有する。第2接続部24は、第1湾曲部21及び第2湾曲部22の湾曲が歩行方向に対応するようにシャフト20の向きを定める方向指定部(図示せず)を有してもよい。方向指定部は、例えば一方向に向けられた突起部でもよく、足部30に形成される一方向に設けられた凹部又は切欠部に嵌合するよう構成されてもよい。これにより、シャフト20の湾曲が歩行方向に対して正しく配向されることができる。なお、第1接続部23の方向指定部と第2接続部24の方向指定部は、少なくともいずれか一方に設けられてもよい。また、突起部は、グリップ10及び/又は足部30側にあり、第1接続部23及び/又は第2接続部24に凹部又は切り欠け部を設けてもよい。
【0049】
また、シャフト20(例えば第2接続部24、第1接続部23)は、接地面に対してシャフト20の傾きを調整できる機構(傾き調整部)を有しても良い。ここでの傾きは、歩行動作において経時的に変化する杖1(シャフト20)の傾きではなく、杖1の予め定められた接地状態における傾きを指す。予め定められた接地状態とは、例えば、足部30の各接地面が接地した状態、又は、杖1が倒れにくく安定する状態でもよく、これら以外にも予め定められた状態でもよい。換言すると、足部30が同じ接地状態のときに、シャフト20の傾きを変えられる機構であってもよい。このような機構の一例として、足部30(又はグリップ10)へのシャフト20の差し込む深さを調整することで、シャフト20の傾きを調整できる機構を備えてもよい。例えば、第2接続部24と接続される、足部30に設けられた接続部38が、シャフト20の差し込む深さによってシャフト20の接地面に対する傾きが変化するように、シャフト20の挿入部分の傾斜が変化していてもよい。シャフト20の第2接続部24は接続部38に挿入可能であって、適宜の深さで固定できるようにしてもよい。この例とは逆に、足部30の接続部38がシャフト20の第2接続部24に挿入される構成でもよい。グリップ10に対しても同様の構成とすることができる。なお、接地面に対してシャフト20の傾きを調整できる機構(傾き調整部)は、この例に限らず適宜の形態でもよい。
【0050】
なお、本実施の形態において左右方向の向き(上下方向の軸周りの回転)については、シャフト20が断面長方形の形状を有し、グリップ10又は足部30がシャフト20に対応する形状の切欠を含む接続部を有することで配向されるが、これ以外の適宜の構成を用いてもよい。
【0051】
(シャフトの作用効果)
運動学では正常歩行時の膝の伸展−屈曲−伸展−屈曲という運動(double knee action)は、踵接地時の地面からの衝撃軽減に役立つ。
【0052】
第1湾曲部21は、歩行時の踵接地時に、第1湾曲部21の頂点(変曲点)で、角度にして1〜5度しなる。このしなりによって床反力を、グリップ方向とは別の方向(例えば、第1湾曲部21の変曲点下部からの延長方向:
図3(d)のF2方向)に逃すことができる。
【0053】
また、歩行時の立脚中期では第1湾曲部21と第2湾曲部22で合わせて数mm〜20mmのしなりによる沈み込みが起きる。従来の一般的な杖では床反力が上方向(ここではグリップ方向)へ伝わり、手部、肘及び肩への圧力が増大するが、本実施形態のシャフト20では第1湾曲部21と第2湾曲部22の沈み込みによって、従来の一般な杖と比較して、手部、肘及び肩への圧力が減少する。
【0054】
また、立脚中期のシャフト20の沈み込みにより杖把持側の上肢の持ち上がりが少なく、グリップ10をスムーズに進行方向に動かすことができる。一方、通常の一本杖では上肢の持ち上がりを逃がすため杖を傾けて使用する場合があり、歩行時の姿勢が崩れやすい。
【0055】
また、歩行時の立脚後期では立脚中期での沈み込みを維持したまま、足部の地面の蹴り出しのタイミングで第1湾曲部21と第2湾曲部22のしなりの反発がおき、前方への推進力を生み出す。
【0056】
(変形例)
本実施の形態のシャフト20は、上述の構成に限らず、例えば、以下のように構成することも可能である。シャフト20は、杖1をついて歩行する際に、杖1を持つためのグリップ10と接地面との間の押圧力によって、少なくとも鉛直方向に沈み込む伸縮部を備えてもよい。伸縮部は、上述の第1湾曲部21と第2湾曲部22に相当する。伸縮部は、伸縮度合いの異なる複数の伸縮部を有してもよい。伸縮部は、杖が歩行方向に傾いて接地面から離れる際に復元力を生じることで、少なくとも歩行方向への推進力を生じる。
【0057】
(効果)
以上のように、本実施形態のシャフトによると、杖の使用時の地面からの衝撃を軽減できる。また、本実施形態のシャフトによると、杖の使用時に上下方向に沈み、杖が接地点を中心として歩行方向に回転移動した場合に、杖を持つためのグリップは上下方向への移動が少ない。このため、杖の使用者は、杖を体に近い箇所に接地させても歩行がしやすい。したがって、杖を体から離れた箇所で接地して杖を左右方向に傾けて使用する場合に生じ得る姿勢の崩れや、不自然な歩行運動を回避でき、杖の使用による二次障害を回避し得る。さらに、杖を接地面から離す際に、沈み込みからの復元力が生じ、少なくとも歩行方向への推進力を生みだすことができる。
【0058】
5.足部の構成と作用効果
(足部の構成例)
図4に、本実施の形態における足部30の構成図を示す。
図4(a)は斜視図、
図4(b)は上面図、
図4(c)は正面図、
図4(d)は側面図をそれぞれ示す。足部30は、脚部、ベース部、杖先部と称されてもよい。
【0059】
足部30は、地面と接して杖を支持する複数の接地部31、32、33を備える。ここで、地面とは、屋外に限らず、屋内の床でもよく、杖1を使用して歩行する環境における歩行路面である。杖を突く初期段階(例えば、上述の初期接地)にはひとつの接地部が接地する。使用者の体重がかかる中期段階(例えば、立脚中期)には、2次元に配置された複数の接地部が接地する。杖を地面から離す終期段階(例えば、立脚終期)には、歩行方向に対して垂直な横方向に配置された少なくとも2つの接地部が接地する。
【0060】
本実施の形態の足部30の例では、複数の接地部は、歩行方向の後ろ側に位置する第1接地部31と、歩行方向に対して垂直な横方向に並び、歩行方向の前側に位置する第2接地部32及び第3接地部33とを有する。このように第1接地部31〜第3接地部33は、2次元に配置されている。ここで、上記初期段階には第1接地部31が接地する。上記中期段階には、第1乃至第3接地部31〜33が接地する。上記終期段階には、第2接地部32及び第3接地部33が接地する。
【0061】
第1接地部31は、足部30のうち、歩行方向の後ろ側に位置し、使用者の手で杖1のグリップ10を把持した状態で足部30を前方に振り出すと、杖の最下端にくる。したがって、杖の足部30を前方に振り出して杖を地面につくと、第1接地部31が地面に接地する。
【0062】
第1接地部31による接地面は1箇所であり、杖1を地面に突いた状態で、接地面を中心に杖1を360度どの方向に対しても傾けることができ、杖1の操作性に優れている。360度どの方向にも傾けることができることで、歩行周期における立脚中期への移行において次の進行方向に対し、並列に杖1を置くことができる。また、歩行経路がカーブのときに、接地面が1箇所であると曲がりに伴って水平方向にも接地点を軸に杖(わかりやすくは足部)を回転することができ、スムーズにカーブを歩行しやすい。
【0063】
なお、本実施の形態において、接地面が1箇所であるとは、接地面が物理的な面積を有してもよく、細かな多点で接地する態様でもよい。例えば、接地面が1箇所であるとは、接地した状態で杖1がどの方向にも傾きやすい状態であり、接地面が2箇所であるとは、接地した状態で杖1が特定方向(2箇所を結ぶ方向)には傾きにくく、当該特定方向と垂直な方向には傾きやすい状態であり、接地面が2次元に配置された3箇所であるとは、接地した状態で杖1がどの方向にも傾きにくい状態である。
【0064】
第2接地部32及び第3接地部33は、足部30のうち、歩行方向の前側に、横方向に並んで位置する。第2接地部32及び第3接地部33は、第1接地部31から2股に分かれて構成されてもよい。例えば立脚中期において、足部30は第1乃至第3接地部31〜33で接地する。接地面は3箇所であり、安定性に優れている。歩行では片脚立位状態で反対下肢を振り出している相において杖1と地面との接触面積を増やし、安定性を強化することができる。
【0065】
例えば立脚後期において、足部30は第2接地部32及び第3接地部33が地面に接地している。ここでの接地面は2箇所である。立脚後期は遊脚期の準備期であり、遊脚期では前方方向へ足を振り出す。足の振り出しは歩行の歩幅に大きく影響し、振り出しが大きいほど歩幅も拡大するが、大きな振り出しのためには反対足の安定性の補填のために杖1等による安定の補填が必要である。杖による1点支持では地面との接触面積が少なく、安定性の補填としては弱い。また、杖による2次元方向に配置された3点での支持(又は4点以上の支持)では安定性の補填には繋がるが、前方への推進力は生まれず、足の大きな振り出しには繋がらない。本実施の形態のように、横方向に配置された2箇所での支持は、杖1と地面との接触面が1点支持に比べて大きく、かつ、進行方向に対して垂直に位置しているため、強い安定性が補填できる。また、第2接地部32及び第3接地部33が接地した状態で杖1を前後方向に例えば0〜45度傾けることができる。前後方向へ0〜45度の傾きが歩行に併せて発生することにより、歩行における推進力を生み出すことにもつながる。
【0066】
足部30は、第2接地部32及び第3接地部33の歩行方向の前側に、前方向上側に反った、つま先部34、35をさらに有してもよい。例えば、つま先部34、35は、上方へ5度反り返る構成とすることができる。反り返る度合は、これに限らず適宜の度合でもよい。つま先部34、35が上方へ反り返っていることで、上述の前後方向への傾きが生じた際においても地面との接触面積を確保し、安定性を維持できる。
【0067】
また、足部30は、第2接地部32及び第3接地部33と第1接地部31との間に、鉛直方向上部に凸をなすアーチ部36、37を有してもよい。また、第2接地部32及び第3接地部33の形状により、横方向に延びるアーチであって、鉛直方向上部に凸をなすアーチが形成されてもよい。このアーチ部を構成するために、第2接地部32及び第3接地部33の各々は、1枚のプレートが、先端に向かって内側へ90度ねじれるように構成されている。これらのアーチにより、前後方向、左右方向及び水平回転方向の姿勢制御を容易にする機能を提供する。これにより、杖1の安定性がさらに増す。
【0068】
足部30は、杖のシャフト20と接続する接続部38をさらに備える。接続部38は、足部30のうち歩行方向の後ろ側、換言すると第1接地部31の上に位置する。グリップ10とシャフト20の少なくとも一方の向きが、本実施の形態のように歩行方向に対して予め定められている場合、接続部38は、足部30の向きが歩行方向に対応するように定める方向指定部(図示せず)を有してもよい。すなわち、方向指定部によって、足部30がシャフト20に取り付けられる際に、つま先部34、35が歩行方向を向くようにシャフト20に取り付けることができる。方向指定部は、例えば一方向に向けられた凹部又は切欠部(若しくは突起部)でもよく、シャフト20に形成される一方向に設けられた突起部(若しくは凹部又は切欠部)に嵌合するよう構成されてもよい。これにより、足部30が歩行方向に対して正しく配向されることができる。
【0069】
また、足部30(例えば接続部38)は、接地面に対してシャフト20の傾きを調整できる機構(傾き調整部)を有しても良い。ここでの傾きは、歩行動作において経時的に変化する杖1(シャフト20)の傾きではなく、杖1の予め定められた接地状態における傾きを指す。予め定められた接地状態とは、例えば、足部30の各接地面が接地した状態、又は、杖1が倒れにくく安定する状態でもよく、これら以外にも予め定められた状態でもよい。換言すると、足部30が同じ接地状態のときに、シャフト20の傾きを変えられる機構であってもよい。このような機構の一例として、足部30の接続部38へのシャフト20の差し込む深さを調整することで、シャフト20の傾きを調整できる機構を備えてもよい。例えば、接続部38が、シャフト20の差し込む深さによってシャフト20の接地面に対する傾きが変化するように、シャフト20の挿入部分の傾斜が変化していてもよい。シャフト20の第2接続部24は接続部38に挿入可能であって、適宜の深さで固定できるようにしてもよい。この例とは逆に、足部30の接続部38がシャフト20の第2接続部24に挿入される構成でもよい。なお、接地面に対してシャフト20の傾きを調整できる機構(傾き調整部)は、この例に限らず適宜の形態でもよい。
【0070】
なお、本実施の形態において足部30の左右方向の向き(上下方向の軸周りの回転)については、シャフト20が断面長方形の形状を有し、接続部38が対応する形状の切欠を有することで配向されるが、これ以外の適宜の構成を用いてもよい。
【0071】
足部30の大きさは、以下のように例示することができるが、これに限定するものではない。例えば、足部30は、横方向の幅が90mm、高さ(接地面から接続部38の先端まで)が117mm、接続部38の幅が20mm、前後方向の長さ(つま先部の前端から38の後端までが151mm)である。また、足部30は主にカーボンで形成することができるが、底面(又は、接地部31〜33)は、例えばゴム素材で形成してもよい。例えば、カーボンで形成された足部にゴム素材で形成された底面を接着してもよいし、インサート成形により足部30を形成してもよい。
【0072】
(効果)
以上のように、本実施の形態の足部によると、体重を支える安定性と歩行しやすさの双方を兼ね備えた杖を提供できる。また、歩行の過程に合わせて、安定性と歩行のしやすさを変化させて、歩行の過程に応じた所望の安定性と操作性を提供することができる。さらに、歩行における推進力を生み出すことができる。
【解決手段】使用者が手で把持する杖用のグリップ10であって、使用者の手の平を、手首を歩行方向の後ろ側にしてのせる上面11と、上面の歩行方向の前側から、下方向に湾曲する湾曲部13とを備える。上面11は、使用者の複数の指が湾曲部13に係ってグリップ10を把持した場合に、使用者の手の手根管列に相当する位置に設けられ、歩行方向に対して垂直な横方向に延び、上に凸に湾曲した近位横アーチ部113、及び/又は、使用者の複数の指が湾曲部13に係ってグリップ10を把持した場合に、使用者の手の遠位部に相当する位置に設けられ、歩行方向に対して垂直な横方向に延び、上に凸に湾曲した遠位横アーチ部114を有する。