特許第6746183号(P6746183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746183
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】マイクロ波放射計の較正方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/00 20060101AFI20200817BHJP
【FI】
   G01J5/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-513936(P2020-513936)
(86)(22)【出願日】2019年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2019026158
(87)【国際公開番号】WO2020009070
(87)【国際公開日】20200109
【審査請求日】2020年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2018-125788(P2018-125788)
(32)【優先日】2018年7月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595138616
【氏名又は名称】エレックス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 則幸
(72)【発明者】
【氏名】高野 忠
(72)【発明者】
【氏名】小關 研介
(72)【発明者】
【氏名】近廣 祐一
(72)【発明者】
【氏名】原田 健一
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05176146(US,A)
【文献】 特開昭62−153720(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0179048(US,A1)
【文献】 特開昭58−009031(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0053118(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00− 5/62
G01J 1/00− 1/60
G01N 22/00
G01R 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象からその温度に応じて発せられる電波を受信する一次放射器と、前記一次放射器に接続されて当該一次放射器から入力された信号を増幅して出力する受信機と、前記受信機の出力信号の電力密度を測定する電力測定部と、前記電力測定部によって測定された電力密度を前記測定対象の輝度温度として出力する結果出力部と、を備えたマイクロ波放射計に適用され、
前記受信機の入力側の前段に設けられた複数の較正源を観測し、前記受信機の出力側に現れる当該受信機の雑音温度を較正する方法であって、
前記複数の較正源として、輝度温度が既知の較正源と、前記受信機から当該受信機の入力側に放射された雑音を全反射する電波反射器とを組み合わせたことを特徴とするマイクロ波放射計の較正方法。
【請求項2】
前記電波反射器は前記一次放射器を覆う金属板であることを特徴とする請求項1記載のマイクロ波放射計の較正方法。
【請求項3】
前記電波反射器は前記受信機に対して前記一次放射器と選択的に接続される接地回路であることを特徴とする請求項1記載のマイクロ波放射計の較正方法。
【請求項4】
前記電波反射器は前記受信機に対して前記一次放射器と選択的に接続される開放端であることを特徴とする請求項1記載のマイクロ波放射計の較正方法。
【請求項5】
前記輝度温度が既知の較正源として、前記受信機の入力側から放射された雑音を吸収する電波吸収体を用い、
前記受信機の出力側に現れる雑音温度Trxと当該受信機の入力側に現れる雑音温度の固有比率をc、前記電波反射器の反射率をdとし、
前記電波反射器を観測して前記受信機の出力信号の電力密度P1を実測する一方、
前記電波吸収体を観測して前記受信機の出力信号の電力密度P2、前記電波吸収体の温度T2を実測し、
以下の式、
【数5】

を用いて、前記受信機の雑音温度Trxを較正することを特徴とする請求項1記載のマイクロ波放射計の較正方法。
【請求項6】
測定対象からその温度に応じて発せられる電波を受信する一次放射器と、前記一次放射器に接続されて当該一次放射器から入力された信号を増幅して出力する受信機と、前記受信機の出力信号の電力密度を測定する電力測定部と、前記電力測定部によって測定された電力密度を前記測定対象の輝度温度として出力する結果出力部と、を備えたマイクロ波放射計において、
前記受信機の入力側の前段には当該受信機の出力側に現れる当該受信機の雑音温度を較正する際の基準となる複数の較正源を備え、
前記複数の較正源として、輝度温度が既知の較正源と、前記受信機から当該受信機の入力側に放射された雑音を全反射する電波反射器とを有することを特徴とするマイクロ波放射計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の輝度温度を測定するマイクロ波放射計に関するものであり、より詳しくは、測定対象物の輝度温度を正しく把握するための当該マイクロ波放射計の較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波放射計は、物体や地表面、海表面、大気などの輝度温度を知るための測定器である。物体や地表面、海表面、大気などは、その温度に比例して電波を放射するため、当該電波の強度を測定することで、前記輝度温度を把握することができる。前記マイクロ波放射計による測定方法では、測定対象である物体から放射される電波を受信機で受信した後、当該受信機から出力される信号の電力密度を高精度に測定し、前記電力密度に基づいて前記測定対象の輝度温度を出力している。
【0003】
一方、前記マイクロ波放射計では、増幅器を含む前記受信機での雑音の発生を回避することが困難であり、前記受信機から出力される信号の電力密度には前記雑音の電力密度が雑音温度として常に上乗せされている。従って、測定対象の輝度温度を正確に把握するためには、前記受信機の出力信号が示す測定対象の輝度温度から前記受信機の雑音温度を差し引く必要がある。しかし、前記雑音温度はマイクロ波放射計の周囲温度や時間と共に変動するので、測定対象の輝度温度を正しく把握するためには前記雑音温度の変化を適宜把握して当該マイクロ波放射計を適切に較正することが必要である。
【0004】
マイクロ波放射計の較正方法としては、輝度温度が既知である較正源を用い、当該較正源が発する電波の電力密度を測定して、当該電力密度が示す輝度温度と実際の輝度温度との差異から、前記受信機の雑音温度を把握する方法が公知である。また、前記受信機の雑音温度を正しく把握するために、前記較正源としては2種類の較正源、すなわち低温の輝度温度を示す低温較正源と高温の輝度温度を示す高温較正源を用い、それぞれの較正源の発する電波強度を測定することが行われている。更に、前記較正源の電波強度を測定する方法としては、較正源の発する電波をマイクロ波放射計の電波導入部である一次放射器によって受信するか、もしくは特定の輝度温度に対応した信号を発する較正源を用いて、当該較正源が発する信号を前記受信機の内部回路に直接的に導入することが行われている。
【0005】
従来、前記高温較正源としては、常温もしくはそれ以上の温度におかれた電波吸収体(アブソーバ)もしくは抵抗器を用いる例が公知である(例えば特許文献1)。電波吸収体や抵抗器は周囲温度に依存して安定した熱雑音を発生するため、温度計とともに用いることで雑音温度を正しく較正することができる。一方、前記低温較正源としては、液体窒素に浸された電波吸収体を用いる例が公知である(例えば特許文献2)。液体窒素は沸騰により一定の低温(1気圧下で77K)に保たれることから、当該液体窒素に浸された電波吸収体は安定した雑音を発生し、高温較正源と同様、雑音温度を正しく較正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−28731
【特許文献2】特表2001−506363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のマイクロ波放射計の較正方法のうち、低温較正源の温度を液体窒素で安定化させる方法は、測定対象から発せられる電波強度が安定するため、当該マイクロ波放射計を高い精度で較正することが可能である。しかし、液体窒素の性質上、取扱いには細心の注意が必要であり、誤った扱いをすると人体に危険が及ぶ可能性がある。
【0008】
また、液体窒素そのものを簡易な設備で保管できないので、マイクロ波放射計の較正を頻繁に実施することは困難であり、1年間に数回の較正しか実施できないのが現状である。しかし、受信機の雑音温度はマイクロ波放射計の周囲温度や時間経過に依存して変動するため、較正の実施頻度が低いと、較正時点からの時間経過に伴って受信機の雑音温度を正しく把握できなくなり、結果としてマイクロ波放射計で測定した輝度温度の精度が低下してしまう。
【0009】
更に、液体窒素を用いる場合には、当該液体窒素で満たした容器をマイクロ波放射計の一次放射器の前にかざす必要があり、低温較正源を含む装置全体を小型化することが困難である。また、機構的に人手を煩わすことなく較正方法を自動化することが困難であり、人工衛星など地上以外の場所では利用できないという課題があった。また、較正方法を実施する度に液体窒素を購入する必要があり、運用コストが嵩むといった課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、較正源として液体窒素を不要とすることで、人手を煩わすことなく自動で高頻度に較正作業を実施することが可能であると共に、装置の小型化を図って人工衛星上でも適用可能であり、しかも運用コストを低減化することが可能なマイクロ波放射計の較正方法を提供することにある。
【0011】
本発明方法は、測定対象からその温度に応じて発せられる電波を受信する一次放射器と、前記一次放射器に接続されて当該一次放射器から入力された信号を増幅して出力する受信機と、前記受信機の出力信号の電力密度を測定する電力測定部と、前記電力測定部によって測定された電力密度を前記測定対象の輝度温度として出力する結果出力部と、を備えたマイクロ波放射計に適用される。具体的には、前記受信機の入力側の前段に設けられた複数の較正源を観測し、前記受信機の出力側に現れる当該受信機の雑音温度を較正する方法であって、前記複数の較正源として、輝度温度が既知の較正源と、前記受信機から当該受信機の入力側に放射された雑音を全反射する電波反射器とを組み合わせている。
【発明の効果】
【0012】
電波を全反射する電波反射器の熱放射は極めて小さく、当該電波反射器それ自体の輝度温度は無視できる程度に低い。このため、較正源として用いる電波反射器は前記受信機の入力側から放射された雑音のみを全反射して当該受信機に戻しており、液体窒素で冷却した従来の低温較正源と同様に受信機に入力する電波強度を安定させることができる。
【0013】
従って、本発明方法によれば、取り扱いが難しく且つ装置の小型化の障害となる液体窒素を使用する必要がなく、人手を煩わすことなく自動で高頻度に較正作業を行うことが可能となる。その結果、長期間にわたり高い精度を保持しつつ、無人で運転することのできる高精度なマイクロ波放射計を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明方法が適用されるマイクロ波放射計の基本構成を示すブロック図である。
図2】本発明方法が適用されたマイクロ波放射計の第一実施形態を示すブロック図である。
図3】本発明方法が適用されたマイクロ波放射計の第二実施形態を示すブロック図である。
図4】本発明方法が適用されたマイクロ波放射計の第三実施形態を示すブロック図である。
図5】受信機の入力側に現れた雑音を電波反射器によって全反射する態様を示す説明図である。
図6】高温較正源及び低温較正源を用いて用いた従来の構成方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を用いて本発明のマイクロ波放射計の較正方法を詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明方法が適用されるマイクロ波放射計の基本的構成を示すブロック図である。測定対象が放射する電波Rはアンテナとしての一次放射器1によって受信され、当該一次放射器1に接続された受信機2に入力される。前記受信機2は一次放射器1から入力された信号を増幅した後に電力測定部3に出力し、当該電力測定部3によって入力信号の電力密度が測定される。前記電力測定部3の後段に接続された結果出力部4は測定された電力密度を輝度温度として外部に出力する。
【0017】
このような構成のマイクロ放射計において、前記受信機2から前記電力測定部3に出力される信号の電力密度は測定対象の輝度温度を示しているが、この信号の電力密度には当該受信機2の内部で生じた雑音のそれが雑音温度Trxとして重畳されている。そして、前記受信機2の雑音温度Trxは周囲温度や時間経過によって変動するため、前記受信機2の出力信号から測定対象の輝度温度を正しく把握するには、前記受信機2の雑音温度Trxを適宜計測して前記電力測定部3に保持させ、マイクロ波放射計を較正する必要がある。
【0018】
次に、本発明方法におけるマイクロ波放射計の較正方法を説明するが、本発明方法についての理解を深めるため、最初に、輝度温度が既知の複数の較正源を用いて実施する従来の較正方法について説明する。
【0019】
図6は従来の較正方法が適用されるマイクロ波放射計の概略を示した図である。このマイクロ波放射計は二つの較正源10,11を備え、各較正源10,11を前記一次放射器1の前面に対して選択的に移動させて配置することが可能となっている。一方の較正源10は常温に保持された電波吸収体であり、これは高温較正源として機能する。他方の較正源11は液体窒素に浸された電波吸収体であり、これは低温較正源として機能する。尚、図6中には前記受信機2の出力信号が入力される当該受信機から後段の構成が省略されている。
【0020】
前記高温較正源10の実際の輝度温度をThot、高温較正源を観測した際に受信機が出力した信号の電力密度をPhot、輝度温度と電力密度(電力スペクトル密度)の比例係数をaとした場合、前記受信機2の出力信号は高温較正源10の実際の輝度温度Thotに対して前記雑音温度Trxを重ね合わせた内容になるので、高温較正源10を観測したときの電力密度Photは以下の式で表される。
hot=a・(Thot+Trx
【0021】
同様に、低温較正源11の実際の輝度温度をTcold、低温較正源を観測した際に受信機が出力した信号の電力密度をPcoldとした場合、低温較正源を観測したときの電力密度Pcoldは以下の式で表される。
cold=a・(Tcold+Trx)
【0022】
高温較正源10を観測した際の電力密度Photと低温較正源11を観測した際の電力密度Pcoldの比をY1とした場合、このY1と受信機2の出力側に現れる雑音温度Trxの関係は以下の式(1)及び式(2)で表すことができる。
【0023】
【数1】
【0024】
【数2】
【0025】
このようにして、高温較正源10の輝度温度Thot及び低温較正源11の輝度温度Tcoldが既知であれば、それらを観測した場合の電力密度Phot及びPcoldの比Y1から、受信機2の出力側の雑音温度Trxが求められる。この雑音温度Trxは時間とともに変動するので、前記高温較正源10と前記低温較正源11は短い間隔で交互に観測し、当該雑音温度Trxは適宜較正する必要がある。
【0026】
このようにして前記受信機2の出力側の雑音温度Trxを較正したら、測定対象物の輝度温度を測定することが可能となる。
【0027】
測定対象物を大気とした場合、当該大気の輝度温度をTskyとすると、大気を観測した時の電力密度Pskyは前記受信機2の出力側の雑音温度Trxを用いて以下の式で表される。
sky=a・(Tsky+Trx
【0028】
一方、輝度温度が既知の高温較正源10の観測を行い、その際の電力密度を前述の如くPhotとすると、PhotとPskyの比率Y2は以下の式(3)で表される。そして、Y2、Thot、Trxが既知であることから、Tskyを求めることができる。
【0029】
【数3】
【0030】
このように二つの較正源を用いて受信機2出力側の雑音温度Trxを較正し、当該雑音温度Trxを加味しながら、測定対象の実際の輝度温度を計測することが可能となる。しかし、前述したように液体窒素を利用した低温較正源は安全性、較正する頻度、費用等の点で制約が多く、マイクロ波放射計の実用性を損なう一因となっていた。
【0031】
そこで、本発明では、較正源に液体窒素を用いることなく雑音温度Trxを把握し、マイクロ波放射計を較正する方法として、受信機2の発する雑音を較正源で反射させて当該受信機2に戻し、そのときの前記受信機2の出力信号を利用して雑音温度Trxを適宜把握する方法を提案するものである。
【0032】
以下では、本発明の較正方法について説明する。
【0033】
前記受信機2が発する雑音は主に当該受信機2の出力側に現れるが、同時に入力側にも一定の比率で現れる。図5に示すように、前記受信機2の入力側に対して電波反射器20を設けると、当該受信機2の入力側に現れた雑音は前記電波反射器20によって反射され、受信機2に戻って入力される。前記電波反射器20としては、電波を全反射することが必要であり、その反射率は0.99998以上、すなわち約100%であることが必要である。金属板の略すべては前記反射率の条件を満たすので、前記電波反射器として使用可能であり、例えば装置の軽量化を考慮した場合はアルミニウム等の軽金属製の金属板を使用するのが最適である。
【0034】
電波を全反射する電波反射器20の熱放射は極めて小さく、当該電波反射器20それ自体の輝度温度は無視できる程度に低い。このため、前記受信機2の入力信号は前記電波反射器によって反射されて当該受信機2に戻された雑音温度Tinのみとなる。また、前記受信機2の出力信号は、前記雑音温度Tinと、本来的に当該受信機2の出力側に現れていた雑音温度Trxとが重畳されたものになる(図4参照)。
【0035】
前記受信機2の出力側に現れる雑音と入力側に現れる雑音の出力比をc、前記電波反射器20の自体の物理的な電波反射率をdとすると、前記電波反射器20によって受信機2に戻された雑音温度Tinと前記受信機2の出力側の雑音温度Trxの関係は以下のように表すことができる。
in=c・d・Trx=b・Trx
【0036】
ここで式中の係数bは、前記受信機2の入力側に戻された雑音温度Tinと前記受信機2の出力側の雑音温度Trxの大きさの比率である。前記出力比cは受信機に固有の値であり、マイクロ波放射計の周囲温度に依存しない値である。また、前記電波反射器20の電波反射率dも周囲温度に依存しない値である。このため、前記係数bもマイクロ波放射計の周囲温度に依存しない値である。
【0037】
従って、較正源としての前記電波反射器を観測した際に前記受信機から出力される信号の電力密度P1は以下の式で表される。
1=a・(c・d・Trx+Trx)=a・(b・Trx+Trx
【0038】
前記電波反射器20としては、前記金属板を利用することができ、当該金属板を前記一次放射器1の前方にかざすことで前記受信機2の入力側から発した雑音を容易に当該受信機に戻すことが可能である。また、前記電波反射器20の他の具体例としては、受信機に対する入力を回路的に接地回路に短絡しても良いし、受信機に対する入力を回路的に開放しても良い。
【0039】
一方、前記電波反射器20の他の第二の較正源としては、前述した高温較正源11と同様に、実際の輝度温度がT2の電波吸収体を用いることができ、これを前記一次放射器1の前にかざすことで第二の較正源とする。ここで、電波吸収体を第二の較正源とする理由は、前述したように前記受信機2の入力側にも当該受信機2の雑音が現れることから、この雑音が第二の較正源で反射して前記受信機2に戻されるのを防止するためである。この電波吸収体を観測した際に前記受信機2から出力される信号の電力密度P2は以下の式で表される。
2=a・(T2+Trx
【0040】
前記電波反射器20を観測した際に前記受信機2から出力される信号の電力密度P1と、前記電波吸収体を観測した際に前記受信機2から出力される信号の電力密度P2の比率をY3とすると、Y3は以下の式(4)で表される。
【0041】
【数4】
【0042】
前記電波吸収体の温度T2は当該電波吸収体に温度センサを設けることによって、容易に実測することができるので、式中の出力比cと反射率dが既知の値であれば、前記電力密度P1及びP2を実測することにより、受信機2の出力側の雑音温度Trxを計算によって導き出すことができる。
【0043】
前記受信機2の出力比cと前記電波反射器の反射率dの積である係数bは既知の値として予め求めておくことが必要である。この場合には、前述した高温較正源10と低温較正源11を用いて受信機2の雑音温度Trxを把握した後、前述の電力密度P1及びP2を求め、前掲の式から反射率bを求める。このとき、低温較正源11の温度を安定化するために液体窒素が必要となるが、反射率bは恒久的に若しくは実用上十分な長期に渡って変動することがないため、このマイクロ波放射計の日常の使用において液体窒素を使用する必要はない。
【0044】
前記第二の較正源としては、前記電波吸収体を前記一次放射器1の前に配置する以外に、受信機の入力側に抵抗器を接続し、これを第二の較正源としても良い。この場合、前記抵抗器は前記受信機2の入力側に現れた雑音の反射を防ぐ必要があるので、当該抵抗器は前記受信機と電気的インピーダンスの整合がとれたものでなければならない。
【0045】
次に、本発明方法を適用するマイクロ波放射計の実施形態について説明する。
【0046】
図2は本発明方法を適用するマイクロ波放射計の第一実施形態を示している。このマイクロ波放射計の基本的構成は図1に示したものと同一なので、それらの構成については図2中に図1と同一の符号を付し、ここでの説明は省略する。
【0047】
前記一次放射器1の前面には、較正源としての金属板(電波反射器)21又は電波吸収体30を選択的に配置することが可能となっている。前記金属板21としては反射率が0.99998以上の金属材料を用いる。また、前記電波吸収体30は無反射吸収体である。当該電波吸収体30には温度センサ(図示せず)が設けられて、当該温度センサの出力信号から前記電波吸収体30の温度T2を実測できるようになっている。
【0048】
この第一実施形態のマイクロ波放射計を較正するにあたっては、先ず、前記電波吸収体30を前記一次放射器1の前に配置し、当該電波吸収体30を観測した時の前記受信機2から出力される信号の電力密度P2を測定する。次に、電波吸収体30に代えて前記金属板21を前記一次放射器1の前に配置し、前記受信機2の入力側から前記一次放射器を介して発せられている雑音を前記金属板6で全反射させ、全反射した雑音を前記一次放射器で受信して前記受信機に入力する。そして、このときに前記受信機から出力される信号の電力密度P1を測定する。
【0049】
これにより、前述した式(4)を用いて受信機の出力側に現れる雑音温度Trxを求めることができ、把握された雑音温度Trxを用いることで、マイクロ波放射計で測定された測定対象の輝度温度を較正することができる。
【0050】
この第一実施形態のマイクロ波放射計では、前記電波吸収体30と前記金属板21を前記一次放射器の前面に選択的に配置する機構が必要となるが、これら電波吸収体30及び金属板21は軽量であり、これらを移動する機構は容易に実現可能である。また、取り扱いが面倒な液体窒素も不要なので、較正作業を自動化することも可能であり、較正作業の頻度を増やして輝度温度の測定精度を高めることも可能である。
【0051】
図3は本発明方法を適用するマイクロ波放射計の第二実施形態を示している。このマイクロ波放射計についても基本的構成は図1に示したものと同一なので、それらの構成については図3中に図1と同一の符号を付し、ここでの説明は省略する。
【0052】
この第二実施形態では、前記一次放射器1の前面に前記金属板21又は前記電波吸収体を30配置する代わりに、前記一次放射器1と前記受信機2の間に当該受信機2に対する入力の切り替えスイッチ5を設けている。この切り替えスイッチ5は前記一次放射器1、接地回路22、抵抗器31のいずれか一つを前記受信機2の入力側に接続するように構成されている。
【0053】
前記抵抗器31は前記受信機2と電気的インピーダンスが整合されており、前記切り替えスイッチ5を操作して前記抵抗器31と前記受信機2を接続した際には、当該抵抗器31が無反射吸収体として機能して前記受信機2の入力側に現れた雑音を吸収する。また、抵抗器31はそれ自体の温度T2に応じた雑音を出力し、当該雑音が前記受信機に入力される。前記抵抗器31には温度センサ(図示せず)が設けられており、当該温度センサの出力信号から前記抵抗器31の温度T2を実測できるようになっている。
【0054】
また、前記切り替えスイッチ5を操作することで、前記受信機2の入力側は接地回路22に短絡することができる。前記受信機2を前記接地回路22に短絡すると、当該受信機2の入力側に現れた雑音は前記接地回路22で全反射を起こすため、当該接地回路22は前述の第一実施形態の金属板21と同様に電波反射器として機能する。
【0055】
この第二実施形態のマイクロ波放射計を較正するにあたっては、先ず、前記切り替えスイッチ5を操作して前記抵抗器31と受信機2を接続し、前記抵抗器31から出力された雑音を前記受信機2に入力して、このときに前記受信機2から出力される信号の電力密度P2を測定する。次に、前記切り替えスイッチ5を操作して前記受信機2を接地回路22に短絡させ、前記受信機2の入力側から発せられている雑音を前記接地回路22で全反射させ、全反射した雑音を前記受信機2に入力する。そして、このときに前記受信機2から出力される信号の電力密度P1を測定する。
【0056】
これにより、前述した式(4)を用いて受信機2の出力側に現れる雑音温度Trxを求めることができ、把握された雑音温度Trxを用いることで、マイクロ波放射計で測定された測定対象の輝度温度を較正することができる。
【0057】
この第二実施形態のマイクロ波放射計では、前記切り替えスイッチ5の操作によって較正源としての電波反射器及び電波吸収体を選択することができるので、前述の第一実施形態に比較して装置の構成を簡易化することができ、その実施が容易であると共にマイクロ波放射計の小型、軽量化に資するものである。また、第一実施形態と同様に、取り扱いが面倒な液体窒素も不要なので、較正作業を自動化することも可能であり、較正作業の頻度を増やして輝度温度の測定精度を高めることも可能である。
【0058】
図4は本発明方法を適用するマイクロ波放射計の第三実施形態を示している。この第三実施形態のマイクロ波放射計は前述の第二実施形態と略同一の構成を有しており、相違点は、第二実施形態の接地回路22に代えて、前記受信機2を開放端23に接続できるようにした点である。
【0059】
すなわち、前記切り替えスイッチ5は前記一次放射器1、前記開放端23、前記抵抗器31のいずれか一つを前記受信機2の入力側に接続するように構成されている。前記切り替えスイッチ5を操作することで、前記受信機2の入力側は開放端23に短絡することができる。前記受信機2を前記開放端23に短絡すると、当該受信機2の入力側に現れた雑音は前記開放端23で全反射を起こすため、当該開放端23は前述の第二実施形態の接地回路22と同様に電波反射器として機能する。
【0060】
この第三実施形態のマイクロ波放射計を較正するにあたっては、先ず、前記切り替えスイッチ5を操作して前記抵抗器31と受信機2を接続し、前記抵抗器31から出力された雑音を前記受信機2に入力して、このときに前記受信機2から出力される信号の電力密度P2を測定する。次に、前記切り替えスイッチ5を操作して前記受信機2を開放端23に短絡させ、前記受信機2の入力側から発せられている雑音を前記開放端23で全反射させ、全反射した雑音を前記受信機2に入力する。そして、このときに前記受信機2から出力される信号の電力密度P1を測定する。
【0061】
これにより、前述した式(4)を用いて受信機2の出力側に現れる雑音温度Trxを求めることができ、把握された雑音温度Trxを用いることで、マイクロ波放射計で測定された測定対象の輝度温度を較正することができる。
【0062】
この第三実施形態のマイクロ波放射計においても、前述の第二実施形態と同様に、装置の構成を簡易化することができ、その実施が容易であると共にマイクロ波放射計の小型、軽量化に資するものである。また、第一実施形態及び第二実施形態と同様に、取り扱いが面倒な液体窒素も不要なので、較正作業を自動化することも可能であり、較正作業の頻度を増やして輝度温度の測定精度を高めることも可能である。
【0063】
尚、以上説明してきた本発明の較正方法において、較正源としての電波吸収器及び電波反射体は任意に組み合わせて使用することが可能である。
【0064】
また、各実施形態の電力測定部3はアナログ回路により構成することも可能である。また、前記受信機2の出力信号はアナログ信号からデジタル信号に変換した後に、電力密度の測定をデジタル信号処理によって行っても良い。更に、受信機2の出力信号はアナログ回路により検波を行い、検波されたアナログ信号をデジタル信号に変換した後に、電力密度の測定をデジタル信号処理によって行っても良い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6