特許第6746197号(P6746197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746197
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】トラッキング現象の検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20200817BHJP
   G01R 31/50 20200101ALI20200817BHJP
   G01R 31/333 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   G01R31/12 D
   G01R31/50
   G01R31/333 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-56454(P2016-56454)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-173008(P2017-173008A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227401
【氏名又は名称】日東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 淳史
【審査官】 青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−134576(JP,A)
【文献】 特開2005−283523(JP,A)
【文献】 特開2007−113960(JP,A)
【文献】 特開2005−140721(JP,A)
【文献】 特開平10−014094(JP,A)
【文献】 特開平04−269671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12−31/20
G01R 31/327−31/34
G01R 31/50−31/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンセントプラグで発生するトラッキング現象の検出システムであって、
コンデンサと抵抗を直列に配置したCR回路からなる検知ルートを、商用電源の電路の異極間に複数配置し、
前記抵抗の両端に印加される電圧値を測定する測定手段と、前記測定手段の測定結果を基に、トラッキング現象を判定する判定手段を備え、トラッキングが発生したとの判定は、複数の検知ルートの各測定手段により測定された全ての電圧値が閾値を超えた場合になされるトラッキング現象の検出システム。
【請求項2】
前記複数の検知ルートのうち、少なくとも一つの検知ルートに配置されたCR回路のコンデンサの周波数特性は、他の検知ルートに配置されたCR回路コンデンサの周波数特性とは異なる請求項に記載のトラッキング現象の検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電路における放電事故を検出可能な手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電路における放電事故を検出する手段が検討されている。例えば特許文献1には、火花放電により生ずる発光現象を検出した際に電路を遮断する手段が提案されている。また、商用電源に重畳されたノイズを周波数分析して事故の発生を検出する方法なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−106686号公報
【0004】
ところで特許文献1に記載の技術は、製品の外部で生じた発光現象を製品の内部に配置した発光素子によって検出する構造を採用している。このため、特許文献1に記載の技術を採用すると、製品に穴加工をしなくてはならなかった。また、商用電源に重畳されたノイズを周波数分析して事故の発生を検出する方法では、ノイズが小さい場合には波形を観測することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような事情に鑑みてなされた本発明の課題は、製品に穴加工をしなくても放電事故の発生を検知できるようにすることである。また、放電事故によって生じるノイズが微小であっても検出可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、次のような手段を採用する。第一の手段は、コンデンサと被測定部を直列に配置した検知ルートを電路の異極間に配置し、前記被測定部を測定する測定手段を備えた放電事故の検出システムである。
【0007】
また、第一の手段において、前記測定手段の測定結果を基に、放電事故を判定する判定手段を備えた構成とする第二の手段が好ましい。
【0008】
また、第二の手段において、前記検知ルートが、コンデンサと抵抗を直列に接続したCR回路であり、前記測定手段を前記抵抗の両端に印加される電圧値を測定するように配置し、放電事故によって発生する高周波ノイズを測定する構成とした第三の手段が好ましい。
【0009】
また、第三の手段において、前記判定手段は、測定された電圧値が閾値を超えた場合に放電事故があると判定する構成とした第四の手段が好ましい。
【0010】
また、第三又は第四の手段において、前記判定手段は、前記測定手段により測定された高周波ノイズの一定時間当たりの発生回数が設定値を超えた場合に、放電事故があると判定する構成とした第五の手段が好ましい。
【0011】
また、第三乃至第五の何れかの手段において、前記電路の異極間には複数のCR回路を備え、前記判定手段は、各CR回路の被測定部の測定結果を比較して、放電事故の有無を判定する構成とする第六の手段が好ましい。
【0012】
また、第六の手段において、少なくとも一つのCR回路は、他のCR回路に備えられたコンデンサの周波数特性とは異なるコンデンサを備える第七の手段が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
第一の手段では、発光現象を受光素子によって検出する必要がないため、製品に穴加工をする必要がない。また、電路の異極間に被測定部とコンデンサが直列に配置される構成であるため、ノイズが比較的小さくても検出することが可能となり得る。また、放電事故の発生位置と、検知ルートとの位置が離れている場合であっても、放電事故を検出できる。
【0014】
第二の手段では、検出結果に基づき、判定手段で判定をしているため、検出結果をもとにした判断が容易となる。
【0015】
第三の手段では、CR回路を採用している。したがって高周波を検出可能となり、放電事故によるノイズが比較的小さくても検出することが可能となる。
【0016】
第四の手段では、測定された電圧値が閾値を超えた場合に放電事故があると判定する。したがって、判定をする手段の構成を比較的簡素なものとすることが可能となる。
【0017】
第五の手段では、測定手段により測定された高周波ノイズの一定時間当たりの発生回数が設定値を超えた場合に、放電事故があると判定する。したがって、機器の電源を投入するときに発生するスイッチングノイズと、トラッキング現象等が発生した際のノイズを区別することが可能となる。
【0018】
第六の手段では、電路の異極間には複数のCR回路を備えている。また、前記判定手段は、各CR回路の被測定部の測定結果を比較して、放電事故の有無を判定する。したがって、検出精度を上げることが可能となる。
【0019】
第七の手段では、電路の異極間には複数のCR回路を備え、少なくとも一つのCR回路は、他のCR回路に備えられたコンデンサの周波数特性とは異なるコンデンサを備えている。また、前記判定手段は、各CR回路の被測定部の測定結果を比較して、放電事故の有無を判定する。したがって、周波数帯の異なるノイズを検出することが可能となり、検出精度を上げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第一の実施の形態の概略図である。
図2】第一の実施の形態でトラッキングが発生した場合の概念図である。
図3】トラッキングが発生していない状態において、測定手段で測定した電圧波形の例である。
図4】トラッキングが発生している状態において、測定手段で測定した電圧波形の例である。
図5】第二の実施の形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に発明を実施するための形態を示す。図1は第一の実施の形態の概略図である。図2は、第一の実施の形態でトラッキング等の放電事故が発生した場合の概念図である。図1に示すように、第一の実施の形態の放電事故の検出システム1では、負荷抵抗に繋がる電路2の異極間に検知ルート7が配置されている。この検知ルート7はコンデンサ3と被測定部5を直列に配置したものであり、第一の実施の形態における被測定部5は抵抗である。被測定部5は測定手段9により測定される素子であり、放電事故の有無により、測定結果に差が表れる素子である。より具体的に説明すると、通常時は、図1の矢印で示したように電流が流れる。したがって、検知ルート7にはほとんど電流は流れない。一方、トラッキングが発生した場合など、電路2に放電事故が発生すると、商用電源に高周波のノイズ電流が重畳する。このため、図2の矢印で示すように、検知ルート7にも所定の電流が流れるようになる。このため、放電事故の有無により測定結果に差をもたらすことが可能となる。また、このような手段を採用しているため、放電事故による発光現象を発光素子によって検知するものとは異なり、放電事故の発生位置と、検知ルート7との位置が離れている場合であっても、放電事故を検出できる。
【0022】
このようなことを可能にしているのは、コンデンサ3の特性を利用しているからである。コンデンサ3のインピーダンスは次式に示されるように、周波数ごとにコンデンサ3のインピーダンスの大きさが異なる特性(以下、周波数特性という)を有する。
Z = 1 / j2πfC
(Z:インピーダンス、j:虚数、f:周波数、C:コンデンサの静電容量)
【0023】
例えば、直流の場合、通常は電流が流れない。一方、主に高周波である特定の周波数帯では電流が流れる。これは、インピーダンスが小さくなるためである。この性質を利用し、通常時の商用周波数(例えば50〜60Hz)に対しては検知ルート7にほとんど電流を流さない状態としつつ、高周波である特定の周波数帯が生じた際には検知ルート7に電流が流れる状態とすることが可能である。なお、コンデンサ3の種類によりインピーダンスの周波数特性が異なるため、所望の周波数特性を備えるコンデンサ3を選択すれば比較的簡単に所望の性能とすることが可能となる。
【0024】
本実施の形態の検知ルート7はCR回路を採用している。このCR回路の抵抗を検知ルート7の被測定部5としている。本実施の形態の測定手段9は電圧を測定できるものであり、抵抗の両端の電圧を測定できるように配置されている。このような測定手段9を採用した場合の測定結果の違いを図3及び図4を利用して説明する。図3はトラッキングが発生していない場合の電圧波形の例である。また、図4はトラッキングが発生した場合の電圧波形の例である。図3に示されている事項から理解されるように、商用電源だけの場合、ほとんど電圧は計測されない。一方、図2に示すようなトラッキングが発生した場合、図4に示すような電圧波形が計測される。なお、抵抗値を変えることで電圧値が変わるため、所望の電圧値が測定できるように抵抗を選択すると、比較的簡単に所望の性能を得ることが可能となる。
【0025】
本実施の形態の放電事故の検出システム1には判定手段8を備えている。この判定手段8による判定は、どのようなものであっても良い。例えば、特定の設定値である閾値を超えた場合に放電事故が生じたと判定させることができる。この場合、閾値は放電事故が発生していないときに測定される値よりも大きい値に設定しておけばよい。図4においては、閾値の例を破線で示している。この場合、一度でも閾値を超えれば、放電事故と判断される。
【0026】
他にも閾値を複数回超えた際に放電事故と判断させることも可能である。この場合、閾値を超える状態が一定時間の間に設定回数を超える頻度で発生した際に放電事故と判断させることも可能である。このようにしておけば、機器の電源を投入する際に発生するスイッチングノイズと、放電事故に起因するノイズを区別することが可能となる。
【0027】
次に、第二の実施の形態について説明する。図5は第二の実施の形態の概略図である。本実施の形態においては電路2の異極間に二つのCR回路を備えている。また、一方のCR回路は、他方のCR回路に備えられたコンデンサ3のインピーダンスの周波数特性とは異なるコンデンサ3を備えている。一方の被測定部5を測定する測定手段9により得られた測定結果と、他方の被測定部5を測定する測定手段9により得られた測定結果は、互いに判定手段8に送られる。判定手段8では、各測定結果を比較して、放電事故の有無を判定する。例えば、周波数特性が異なる二つのCR回路を備え、一方のCR回路の測定手段9では、閾値を越えたが、他方のCR回路の測定手段9では、閾値を越えなかった場合には、放電事故ではないと判定し、双方が閾値を越えた場合には、放電事故であると判定することによって、検出精度を高めるものとしてもよい。また、異極間に二つのCR回路を備え、双方のCR回路に備えられたコンデンサ3のインピーダンスの周波数特性が同じ場合でも、双方の測定手段9で閾値を越えた場合に、放電事故であると判定することによって、検出精度を高めるものとしてもよい。
【0028】
これらの実施の形態の説明においては、コンセントプラグなどで発生するトラッキング現象において説明しているが、配線コードの短絡事故や配線コードの断線事故を検出することも可能である。例えば、ブレーカによる配線コードの短絡保護は、短絡電流が半サイクル以上流れないと遮断されない。これに対して本実施の形態のように短絡時に発生する高周波ノイズを検出する構成であると、半サイクル未満でも検出可能である。このことを利用すれば、より早く短絡事故の処理をさせるようにすることも可能となる。
【0029】
以上、二つの実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、測定手段は電圧を測定するものでなくても良い。例えば、電流や磁界などを測定しても良い。また、被測定部は抵抗でなくても良い。
【0030】
測定された高周波ノイズの波形に対して更に周波数分析を行い、放電事故の検出精度を上げることも可能である。また、別途ノイズフィルターを用いて特定の周波数帯を減衰させることで、放電事故の検出精度を上げることも可能である。
【0031】
さらには、測定手段が検出する電圧波形を定期的に記録し、蓄積させることで、通常時の電圧波形を学習する機能を判定手段に保持させ、放電事故で生じる異常な波形と、通常時の波形とを比較することで、放電事故の検出精度を上げることも可能である。
【0032】
判定手段によって放電事故が検出されたとき、警告手段によって警告する構成とすることも可能である。
【0033】
また、電路の異極間に設けるCR回路は三つ以上の複数としても良い。この場合、少なくとも一つのCR回路を、他のCR回路に備えられたコンデンサのインピーダンスの周波数特性とは異なるコンデンサとすれば、周波数特性の違いを比較することが可能となる。もちろん全てのコンデンサが互いに異なる周波数特性を備えるようにしても良いし、同じ周波数特性を備えるようにしても良い。いずれの場合でも、判定手段は、各CR回路の被測定部の測定結果を比較して、放電事故の有無を判定することが可能となる。
【0034】
また、事故の内容ごとに発生する周波数が異なるため、複数の検知ルートを設定し、各々の検知ルートに各事故に対応する周波数特性を有するコンデンサを振り分けて設置する構成とすれば、複数種類の事故に対応させることが可能となる。
【0035】
以上、交流電路の放電事故について説明してきたが、直流電路でもよい。直流電路の場合、通常時には、コンデンサは充電され、CR回路に電流が流れないという性質を利用する。
【符号の説明】
【0036】
1 放電事故の検出システム
2 電路
3 コンデンサ
5 被測定部
7 検知ルート
8 判定部
9 測定手段
図1
図2
図3
図4
図5