(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746215
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】エアバッグの配設構造
(51)【国際特許分類】
B60R 21/213 20110101AFI20200817BHJP
B60R 21/231 20110101ALI20200817BHJP
【FI】
B60R21/213
B60R21/231
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-192167(P2016-192167)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-52370(P2018-52370A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154782
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知二
(72)【発明者】
【氏名】三原 直人
【審査官】
内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−362296(JP,A)
【文献】
特開2015−217688(JP,A)
【文献】
特開2002−362285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/213
B60R 21/231
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に形成された、扉又は窓が配設される開口の、少なくとも前記車体のルーフに沿った上辺に沿って固定される複数のエアバッグを備え、
前記複数のエアバッグのそれぞれの端部は、展開膨張時に車体の扉又は窓が配設される開口の間に配設されたピラーであって上方にエアコンの配管が配設されたピラー上を車体前後方向に横断するとともに前記ピラーの延出方向に沿って交互に配列され、
前記複数のエアバッグは、展開膨張時に前記配管の配設位置を露出させる空隙を形成する、
エアバッグの配設構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に用いられるエアバッグの配設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置は、車両の側面衝突時や横転時のような車両事故の際、乗員を迅速かつ確実に保護する機能、特に、車両側方からの衝撃力の入力に対し、乗員の頭部ないし肩部を保護する機能を有する装置である。
【0003】
エアバッグ装置は、その基本的な構成要素として、予め所定の折り畳み形状(蛇腹状やロール状)に折り畳まれた状態で収容されるエアバッグ本体、展開膨張用のガスを発生させて当該エアバッグの内部空間に供給可能なインフレータ(ガス発生装置)を主要な構成として備える。
【0004】
図5は、従来の車両におけるエアバッグ装置の構成を示す側面図である。
図5に示すように、エアバッグ装置100は、後述するエアバッグ本体120、第1のインフレータ111、第2のインフレータ112を含み、車両側壁部101の上方に配設される。
【0005】
エアバッグ本体120は、車両側壁部101の前方側のサイドウィンドウ102aに隣接して配置される第1のエアバッグ121と、ピラー103aを介してサイドウィンドウ102aの車両後方に位置するサイドウィンドウ102b、及びピラー103bを介してサイドウィンドウ102bの更に車両後方に位置するサイドウィンドウ102cに隣接して配置される第2のエアバッグ122とによって構成される。これら第1のエアバッグ121及び第2のエアバッグ122は、複数のブラケット125を介してサイドルーフレールに取り付け固定される。第1のエアバッグ121及び第2のエアバッグ122には、それぞれ第1のインフレータ111及び第2のインフレータ112から発生した展開膨張用のガスが流入口121a及び流入口122aを通じて供給される。
【0006】
第1のエアバッグ121は、その展開膨張時に車両前方に配置されたシートに着座する乗員の、少なくとも頭部を保護する位置に配置される。第2のエアバッグ122は、第1膨張部123及び第2膨張部124を備え、その展開膨張時に第1膨張部123が車長方向に沿って縦列配置された前方側のシートに着座する乗員の、少なくとも頭部を保護する位置P1に配置される。第2膨張部124は第1膨張部123の車長方向後方に位置し、後方側のシートに着座する乗員の、少なくとも頭部を保護する位置P2及びP3に配置される。
【0007】
更に、展開膨張後の第1のエアバッグ121及び第2のエアバッグ122の下方には、車長方向に沿って延在するテンションロープ126が配設される。テンションロープ126は、その第1延在部126aが第1のエアバッグ121及び第2のエアバッグ122の下部に挿通された係合状態で車両の前後方向に沿って延在する一方、第2延在部126bがガイド部129を経由して取付け部122bと固定装置127との間を車高方向に延在する構成を有する。
【0008】
テンションロープ126は固定装置127を介することにより各延在部に所定の張力が付与された状態が形成される。
【0009】
このようなエアバッグ装置100においては、テンションロープ126が、展開膨張後の第1のエアバッグ121及び第2のエアバッグ122の下方に張力が付与された状態で延在することにより、エアバッグ本体120が車両室外方向及び車両上方(少なくとも車両室外方向)へ移動するのを規制する機能を有する。これにより、事故の際、乗員により作用する荷重により展開膨張したエアバッグが付勢されるのを抑制して、エアバッグの保護効果を高めることが可能になる、とされる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−219714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の技術によるエアバッグ装置には、以下のような課題があった。すなわち、エアバッグ装置100においてテンションロープ126及び張力を与えるための固定装置127を設けることは、装置の複雑化、高コスト化を招くこととなっていた。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成にてエアバッグの保護効果を高めることが可能なエアバッグの配設構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、車体に形成された、扉又は窓が配設される開口の、少なくとも前記車体のルーフに沿った上辺に沿って固定される複数のエアバッグを備え、前記複数のエアバッグのそれぞれの端部は、展開膨張時に車体の扉又は窓が配設される開口の間に配設されたピラー
であって上方にエアコンの配管が配設されたピラー上を車体前後方向に横断するとともに前記ピラーの延出方向に沿って交互に配列さ
れ、前記複数のエアバッグは、展開膨張時に前記配管の配設位置を露出させる空隙を形成する、エアバッグの配設構造である。
【0014】
更に、本発明は他の側面として、前記複数のエアバッグのそれぞれの端部は、展開膨張時に前記ピラーの延伸方向に沿って交互に配列されるものとしてもよい。
【0015】
更に、本発明は他の側面として、前記複数のエアバッグは、それぞれ前記ピラーと前記上辺との交点にて折畳まれているものとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明は、簡易な構成にてエアバッグの保護効果を高めることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係るエアバッグの配設構造の構成を示す側面図
【
図2】本発明の実施の形態に係るエアバッグの配設構造の構成を示す斜視図
【
図3】本発明の実施の形態に係るエアバッグの配設構造の動作状態を示す側面図
【
図4】本発明の他の実施の形態に係るエアバッグの配設構造の構成を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係るエアバッグの配設構造の構成の概略を示す側面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態のエアバッグの配設構造1は、車体10においてBピラー11により車長方向前後に渡って区画される、前部ドアが配設されるドア開口10x及び後部ドアが配設されるドア開口10yのそれぞれの上辺に配置されるエアバッグ本体30a及び30bを主要な構成として備える。
【0021】
エアバッグ本体30aは、ロール状又は蛇腹状に折り畳まれてドア開口10xの上辺の輪郭に沿って車長方向に延在する折り畳み形状を形成し、図示しない専用のインフレータとともに車体10内に収容され、ブラケット31aを介して、車体10を構成するルーフサイドレール12に固定される。エアバッグ本体30bも、エアバッグ本体30aと同様にドア開口10yの上辺の輪郭に沿った折り畳み形状を形成し、エアバッグ本体30aのものとは独立した専用のインフレータとともに車体10内に収容され、ブラケット31bを介して、車体10内を構成するルーフサイドレール12に固定される。
【0022】
更に、収納状態にあるエアバッグ本体30aにおいて、車長方向後方にて延出する端部は、
図2の斜視図に示すように、Bピラー11表面まで延出してから、車長方向前方に折り返されて折り返し端30a1を形成している。同様に、収納状態にあるエアバッグ本体30bにおいて、車長方向前方に向かって延出する端部は、Bピラー11表面まで延出してから、後方に折り返されて折り返し端30b1を形成している。なお、エアバッグ本体30bにおいては、車長方向後方に位置する他端も、
図1に示すように延出方向に沿って車長方向前方に折り返されて折り返し端30b2を形成している。
【0023】
更に、車体10のBピラー11の上方から、図示しないルーフインナパネルの車幅方向に延出してなる中央近傍内には、エアコン20が配置される。エアコン20からは、ルーフインナパネル内を車幅方向に沿ってBピラー11の上端に向かって延出するリキッドチューブ21、サクションチューブ22及びドレインホース23がそれぞれ接続されており、リキッドチューブ21及びサクションチューブ22は、Bピラー11を構成するピラーインナ及びピラーアウタにより形成される閉空間内に導入され、車体10の下方に延出して、図示しない車長方向前方に位置するコンプレッサ及び熱交換器にそれぞれ接続される。
【0024】
更に、ドレインホース23もルーフインナパネルからBピラー11内を延出して車体外に端部を露出させ、エアコン20内に滞留した水を車外へ排出させる。
【0025】
ここで
図2の斜視図に示すように、ドレインホース23の先端23aはBピラー11の上端の表面に設けられた開口11xを介して車幅方向に沿って延出し、図示しないエアコン20に接続される。
【0026】
更に、開口11xはエアバッグ本体30aの折り返し端30a1とエアバッグ本体30bの折り返し端30b1の間に位置して、ドレインホース23は、エアバッグ本体30a及び30bに対して車幅方向に沿って内側に延出する。一方、リキッドチューブ21及びサクションチューブ22は、エアバッグ本体30a及び30bに対して車幅方向に沿って外側に配置され、図示を省略した。
【0027】
以上の構成において、エアバッグ本体30a及び30bは本発明の複数のエアバッグに相当する。また、車体10のドア開口10x及び10yは本発明の開口に相当し、Bピラー11は本発明のピラーに相当する。
【0028】
このような構成を有する本発明の実施の形態のエアバッグの配設構造は、エアバッグ本体30a及び30bの端部が展開膨張時にBピラー11の表面に重なって配置される形状を備えたことを特徴とする。
【0029】
すなわち、
図3に示すように、エアバッグ本体30aは、展開膨張すると、ブラケット31aから車高方向下方に向かって拡張され、ドア開口10xを閉塞する扉である前部ドアのサイドウィンドウ40aを含む、ドア開口10xの車長方向上方を覆う位置に配置される。更に、エアバッグ本体30aにおいては、折り返し端30a1が展開して、ドア開口10xから車長方向後方に沿って膨出し、Bピラー11上に重なって配置される端部32aを形成する。
【0030】
同様に、エアバッグ本体30bは、展開膨張すると、ブラケット31bから車高方向下方に向かって拡張され、ドア開口10yを閉塞する扉である後部ドアのサイドウィンドウ40bを含む、ドア開口10yの車長方向上方を覆う位置に配置される。更に、エアバッグ本体30bにおいては、折り返し端30b1が展開して、ドア開口10yから車長方向前方に沿って膨出し、Bピラー11上に重なって配置される端部32bを形成する。なお、エアバッグ本体30bにおいては、折り返し端30b2も同様に展開し、ドア開口10yから車長方向後方に沿って膨出し、車体10の後方に重なって配置される端部33bを形成する。
【0031】
更に、エアバッグ本体30aの端部32aとエアバッグ本体30bの端部32bとは、Bピラー11上においてはその延伸方向に沿って交互に配列され、展開膨張時に係合された状態で互いを押圧して、エアバッグ本体30a及び30bを一体化するよう固着させる。なお、Bピラー11の、ドレインホース23が露出する開口11x近傍はエアバッグ本体30aとエアバッグ本体30bとの表面が離隔してなる空隙30xが形成され、展開膨張時にエアバッグ本体30a及び30bとドレインホース23とが干渉することを防ぐようにしている。
【0032】
このような本実施の形態においては、エアバッグ本体30a及び30bは、それぞれ端部32a、33bがBピラー11上に重なって配置されることにより、車両室外方向及び車両上方へ移動するのを規制する機能を有する。すなわち、事故の際、展開膨張したエアバッグ本体30a及び30bに乗員による荷重が作用すると、付勢力を受けたエアバッグ本体30a及び30bは端部32a及び32bがそれぞれBピラー11に干渉することにより、それ以上の移動が規制される。これにより、エアバッグ本体30a及び30bの移動を抑制して、エアバッグの保護効果を高めることが可能となる。
【0033】
更に、本実施の形態においては、エアバッグ本体30a及び30bの規制は、それぞれのエアバッグ本体の一部である端部32a及び32bと車体10のBピラー11との干渉によりなされるため、規制のためのテンションロープ等の別部材を用いる必要が無い。したがって、より簡易な構造、ひいては低コストにてエアバッグの保護効果を高めることが可能になる。
【0034】
更に、本実施の形態においては、エアバッグ本体30a及び30bは、端部32a及び32bがBピラー11の延伸方向に沿って交互に配置されることにより、展開膨張時に係合された状態で互いを押圧して、エアバッグ本体30a及び30bを一体化するよう固着させる。
【0035】
これにより、荷重による付勢力にエアバッグ全体として抗することができ、移動を規制するとともに乗員の荷重を分散して、保護効果を更に高めることが可能となる。
【0036】
更に、本実施の形態においては、端部32a及び32bは、折り畳み状態においてはBピラー11の上端近傍に近接して対向して配置される。これにより、Bピラー11の中央部分を、車両における他用途の構成部品を配設する空間として利用することが可能となる。特に、本実施の形態のように、ルーフ部分にエアコン20を組み込んだ車両の場合、Bピラー11上においてドレインホース23とエアバッグとを干渉せずに配設することが可能となり、より好適である。
【0037】
このように、本発明の実施の形態のエアバッグの配設構造によれば、簡易な構成にてエアバッグの保護効果を高めることが可能になるという効果を奏する。
【0038】
しかしながら、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。上記の説明においては、エアバッグ本体30a及び30bは、それぞれ単一の端部32a及び32bがBピラー11上にて交互に配列される構成としたが、本発明のエアバッグの端部は複数であってもよい。
【0039】
例として、
図4に示すエアバッグの配設構造2においては、エアバッグ本体30aは車高方向に沿って略中央部分に配置された端部33aを有するとともに、エアバッグ本体30bは端部33aを車高方向に上下から挟むように配置された2つの端部34b及び35bを有する。かかるエアバッグの配設構造2によれば、展開膨張時にエアバッグ本体30bの端部34b及び35bがエアバッグ本体30aの端部33aを挟持することとなり、エアバッグ本体30a及び30bを更に強力に固着させ、乗員の保護効果を更に高めることが可能となる。
【0040】
更に、上記の実施の形態においては、エアバッグの配設構造1は、Bピラー11を間に挟んだドア開口10x及び10yにそれぞれ対応するエアバッグ本体30a及び30bを備えたものとしたが、エアバッグは3つ以上であってもよいし、Aピラー、Dピラー、Cピラーその他、車両の車体を構成する任意のピラーを間に挟んでなるものであってよい。
【0041】
要するに、本発明のエアバッグの配設構造は、車体に形成された、扉又は窓が配設される開口の、少なくとも前記車体のルーフに沿った上辺に沿って固定される複数のエアバッグを備えたものであればよく、車体における当該開口の具体的な構成、用途等によって限定されるものではない。更に、本発明のエアバッグの配設構造は、展開膨張時に車体の扉又は窓が配設される開口の間に配設されたピラーに重なって配置されるものであればよく、車体における当該ピラーの具体的な構成、用途等によって限定されるものではない。
【0042】
以上のように、本発明は、エアバッグの配設構造であって、車体に形成された、扉又は窓が配設される開口の、少なくとも前記車体のルーフに沿った上辺に沿って固定される複数のエアバッグを備え、前記複数のエアバッグのそれぞれの端部は、展開膨張時に車体の扉又は窓が配設される開口の間に配設されたピラー
であって上方にエアコンの配管が配設されたピラー上を車体前後方向に横断するとともに前記ピラーの延出方向に沿って交互に配列さ
れ、前記複数のエアバッグは、展開膨張時に前記配管の配設位置を露出させる空隙を形成するものであればよく、その他の具体的な目的、用途、構成によって限定されるものではない。
【0043】
したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内であれば、以上説明したものを含め、上記実施の形態に種々の変更を加えたものとして実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のような本発明は、簡易な構成にてエアバッグの保護効果を高めることが可能になるという効果を有し、例えば乗用車等の車両への適用において有用である。
【符号の説明】
【0045】
1、2 エアバッグの配設構造
10 車体
10x、10y ドア開口
11 Bピラー
11x 開口
12 ルーフサイドレール
20 エアコン
21 リキッドチューブ
22 サクションチューブ
23 ドレインホース
23a 先端
30a、30b エアバッグ本体
32a、32b、33a、33b、34b 端部
30a1、30b1、30b2 折り返し端
30x 空隙
31a、31b ブラケット
40a、40b サイドウィンドウ