特許第6746276号(P6746276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746276
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】透明導電性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20200817BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20200817BHJP
   C08J 3/11 20060101ALI20200817BHJP
   C08J 7/044 20200101ALI20200817BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20200817BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20200817BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   H01B5/14 A
   B32B27/18 J
   C08J3/11
   C08J7/044
   H01B1/12 F
   H01B1/20 A
   H01B13/00 503B
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-48753(P2015-48753)
(22)【出願日】2015年3月11日
(65)【公開番号】特開2016-170915(P2016-170915A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2017年12月15日
【審判番号】不服2019-13337(P2019-13337/J1)
【審判請求日】2019年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセルホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西本 智久
(72)【発明者】
【氏名】野村 涼
(72)【発明者】
【氏名】土井 秀軽
【合議体】
【審判長】 大島 祥吾
【審判官】 神田 和輝
【審判官】 大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/053572(WO,A2)
【文献】 特開平11−202104(JP,A)
【文献】 特開2014−96313(JP,A)
【文献】 特開2010−277888(JP,A)
【文献】 特開2013−152850(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/153971(WO,A1)
【文献】 特開2014−72044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08J
H01B1/00-1/24
H01B5/00-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、前記透明基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを含む透明導電性シートであって、
前記透明導電性膜は、導電性高分子と、疎水性有機バインダとを含み、
前記疎水性有機バインダは、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、フッ化ビニリデン−アクリル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド、及びポリプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる一つであり、
前記導電性高分子は、複数の層状の膜を形成し、
前記疎水性有機バインダは、複数の層状の膜を形成していることを特徴とする透明導電性シート。
【請求項2】
前記導電性高分子の膜は、前記疎水性有機バインダの膜の間に配置されている請求項1に記載の透明導電性シート。
【請求項3】
前記疎水性有機バインダが、連続膜を形成している請求項1又は2に記載の透明導電性シート。
【請求項4】
前記疎水性有機バインダの連続膜の厚さが、10nm以上300nm以下である請求項3に記載の透明導電性シート。
【請求項5】
前記導電性高分子は、ポリチオフェン系化合物とポリスチレンスルホン酸とを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電性シート。
【請求項6】
前記透明導電性膜における前記導電性高分子と前記疎水性有機バインダとの体積比が、1:99〜70:30である請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電性シート。
【請求項7】
前記透明基材は、プラスチック、ゴム、ガラス又はセラミックスからなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の透明導電性シート。
【請求項8】
前記透明導電性膜の表面抵抗値が、50〜107Ω/スクエアである請求項1〜7のいずれか1項に記載の透明導電性シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法であって、
導電性高分子と、疎水性樹脂と、溶媒とを含む透明導電性膜形成用塗布液を作製する工程と、
前記透明導電性膜形成用塗布液を、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理する工程と、
分散処理した前記透明導電性膜形成用塗布液を透明基材の上に塗布して加熱することにより、前記透明基材の上に透明導電性膜を形成する工程とを含むことを特徴とする透明導電性シートの製造方法。
【請求項10】
前記溶媒は、プロトン性極性溶媒と、非プロトン性極性溶媒とを含む請求項9に記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項11】
前記導電性高分子は、ポリチオフェン系化合物とポリスチレンスルホン酸とを含む請求項9又は10に記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項12】
前記疎水性樹脂は、疎水性樹脂エマルジョンとして用いる請求項9〜11のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チオフェン系やアニリン系の高分子は優れた安定性及び導電性を有することから、有機導電性材料としてその活用が期待されている。その活用の一つとして、液晶ディスプレイ、透明タッチパネル等の各種デバイスに用いられる透明電極の形成に、上記高分子にドーパントを付加した導電性高分子を溶媒に分散させたコーティング組成物が用いられている。しかし、上記導電性高分子をコーティング組成物として使用し、このコーティング組成物を用いて基材上に導電性膜を形成した場合、導電性膜の硬さや導電性膜の基材への密着性が十分ではない。特に、基材がガラス等の非吸液性材料から形成されている場合、基材の透明性を損なわずに、十分な硬さの導電性膜を形成することは難しい。このような問題に対して、例えば、特許文献1では、透明導電性膜の硬度や透明導電性膜の基材への密着性を向上できるバインダが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−324143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、バインダとしてポリビニルアルコール(PVA)等の樹脂を用いることで、導電性膜の硬度、基材への密着性を改善できることが記載されている。しかし、得られた導電性膜の電気特性、光学特性、物理特性及び耐湿熱性は十分ではなく、未だ改良の余地がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、電気特性、光学特性、物理特性及び耐湿熱性に優れた透明導電性膜を有する透明導電性シート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の透明導電性シートは、透明基材と、前記透明基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを含む透明導電性シートであって、前記透明導電性膜は、導電性高分子と、疎水性有機バインダとを含み、前記導電性高分子は、複数の層状の膜を形成し、前記疎水性有機バインダは、複数の層状の膜を形成していることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の透明導電性シートの製造方法は、導電性高分子と、疎水性樹脂と、溶媒とを含む透明導電性膜形成用塗布液を作製する工程と、前記透明導電性膜形成用塗布液を透明基材の上に塗布して加熱することにより、前記透明基材の上に透明導電性膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気特性、光学特性、物理特性及び耐湿熱性に優れた透明導電性膜を有する透明導電性シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の透明導電性シートの模式断面図である。
図2図2は、実施例1の透明導電性シートの断面の電界放射形走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の透明導電性シート)
本発明の透明導電性シートは、透明基材と、上記透明基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを備え、上記透明導電性膜は、導電性高分子と、疎水性有機バインダとを含み、上記導電性高分子は、複数の層状の膜を形成し、上記疎水性有機バインダは、複数の層状の膜を形成していることを特徴とする。
【0011】
本発明の透明導電性シートの透明導電性膜は、上記導電性高分子が複数の層状の膜を形成し、上記疎水性有機バインダが複数の層状の膜を形成しているため、電気特性、光学特性、物理特性及び耐湿熱性に優れている。
【0012】
また、上記透明導電性膜が疎水性有機バインダを含むことにより、上記透明導電性膜と上記透明基材との密着性を向上できる。特に、上記透明基材としてプラスチックフィルム等のフレキシブル基材を用いる場合に、上記透明導電性膜が疎水性有機バインダを含むことは、上記透明導電性膜と上記透明基材との密着性や追従性の観点で好ましい。
【0013】
上記導電性高分子とは、Conductive Polymers(CPs)と呼ばれる高分子であり、ドーパントによるドーピングによって、ポリラジカルカチオニック塩又はポリラジカルアニオニック塩が形成された状態で、それ自体が導電性を発揮し得る高分子をいう。
【0014】
本発明では、上記導電性高分子として、ポリチオフェン系化合物とドーパントとを含むものを用いる。本発明における導電性高分子としては、ポリチオフェン系化合物としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)と、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸とを含む混合物(PEDOT/PSSともいう。)を用いることができる。
【0015】
上記導電性高分子の膜は、上記疎水性有機バインダの膜の間に配置されていることが好ましく、更に、上記疎水性有機バインダは、連続膜を形成していることが好ましい。これにより、本発明の透明導電性シートの透明導電性膜の電気特性をより向上できる。
【0016】
ここで上記透明導電性膜の電気特性が向上する理由について図1を用いて説明する。図1は、本発明の透明導電性シートの模式断面図である。図1において、本発明の透明導電性シート10は、透明基材11と、透明基材11の上に形成された透明導電性膜12とを備えている。また、透明導電性膜12は、疎水性有機バインダ12aと、導電性高分子12bとから形成されている。疎水性有機バインダ12aは、複数の層状の連続膜を形成し、導電性高分子12bは、複数の層状の膜を形成し、導電性高分子12bの膜が疎水性有機バインダ12aの連続膜の間に配置されている。透明導電性膜12が上記構成を有することにより、導電性高分子12bの膜が導電パスとして機能し、透明導電性シート10の導電性を向上できると考えられる。これは図1では表示できないが、透明導電性膜12の全体構造において、導電性高分子12bの膜は完全に独立して存在しているのではなく、導電性高分子12bの各膜がそれぞれ電気的に接合しているからであると考えられる。
【0017】
上記疎水性有機バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、フッ化ビニリデン−アクリル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等の疎水性樹脂が使用できる。
【0018】
また、上記疎水性有機バインダの使用形態としては、溶媒溶解型又はエマルジョン型が使用できる。特に、PVDFエマルジョン、フッ化ビニリデン−アクリル共重合体エマルジョン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ポリエステルエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン等が好ましい。また、上記エマルジョンにおける樹脂粒子の平均粒子径は、10〜300nmであることが好ましく、その平均粒子径は既知の粒度分布計で測定することができる。
【0019】
上記透明導電性膜における上記疎水性有機バインダの連続膜の厚さは、10nm以上300nm以下であることが好ましい。この範囲内であれば、透明導電性膜の物理特性及び耐湿熱性を向上できるからである。
【0020】
また、上記導電性高分子と上記疎水性有機バインダとの体積比は、1:99〜70:30とすることができる。上記導電性高分子と上記疎水性有機バインダとの体積比が上記範囲内であれば、上記透明導電性膜の電気特性、光学特性、物理特性及び耐湿熱性を向上できる。特に、透明電極の形成において、より好ましい体積比は5:95〜35:65である。
【0021】
上記透明導電性膜の表面抵抗値は、50Ω/スクエア以上10000Ω/スクエア以下であることが好ましい。更に、上記透明導電性膜をタッチパネル用電極として用いる場合には、上記透明導電性膜の表面抵抗値は、50Ω/スクエア以上200Ω/スクエア以下が好ましい。表面抵抗値が小さいほど良好な電気特性を示す。
【0022】
上記透明導電性膜の全光線透過率は、90%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上である。全光線透過率が高いほど良好な光学特性を示す。上記全光線透過率は、分光光度計、例えば、日本分光社製の“V−570”により測定可能である。
【0023】
上記透明導電性膜の膜厚は、用途に応じて適宜設定されるものであるが、通常、0.01〜10μm程度である。膜厚が薄すぎても厚すぎても、均一な透明導電性膜を形成することが困難となる。上記導電性高分子の割合にもよるが、膜厚が薄いと、表面抵抗値が増加する傾向にあり、膜厚が厚すぎると、全光線透過率が低下する傾向にある。
【0024】
上記透明基材としては、例えば、プラスチック、ゴム、ガラス、セラミックス等の種々のものが使用できる。
【0025】
(本発明の透明導電性シートの製造方法)
本発明の透明導電性シートの製造方法は、導電性高分子と、疎水性樹脂と、溶媒とを含む透明導電性膜形成用塗布液を作製する工程と、上記透明導電性膜形成用塗布液を透明基材の上に塗布して加熱することにより、上記透明基材の上に透明導電性膜を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0026】
本発明の透明導電性シートの製造方法によれば、電気特性、光学特性、物理特性及び耐湿熱性に優れた透明導電性膜を備えた透明導電性シートを製造できる。
【0027】
<透明導電性膜形成用塗布液>
上記導電性高分子としては、前述のポリチオフェン系化合物としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)と、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸とを含む混合物(PEDOT/PSS)を用いることができる。
【0028】
上記透明導電性膜形成用塗布液における上記導電性高分子の含有量は、上記透明導電性膜形成用塗布液に含まれる全固形成分の質量に対して0.7質量%以上70.0質量%以下であることが好ましい。上記導電性高分子の含有量が、上記透明導電性膜形成用塗布液に含まれる全固形成分の質量に対して0.7質量%を下回ると透明導電性膜の導電性が低下し、70.0質量%を超えると透明導電性膜の物理特性や耐湿熱性が低下する傾向にある。
【0029】
上記疎水性樹脂は、前述の疎水性有機バインダとして使用できる疎水性樹脂と同じ樹脂が使用できるが、その使用形態は、疎水性樹脂エマルジョンとして用いることが好ましい。上記導電性高分子は通常水性分散液として用いるため、上記疎水性樹脂エマルジョンと上記導電性高分子水性分散液とを混合して上記透明導電性膜形成用塗布液を作製した際に、疎水性樹脂と導電性高分子とが分離して、それぞれ層状の膜を形成しやすいからである。
【0030】
上記疎水性樹脂の含有量は、上記透明導電性膜形成用塗布液に含まれる全固形成分の質量に対して30.0質量%以上99.3質量%以下が好ましく、より好ましくは65.0質量%以上95.0質量%以下である。上記疎水性樹脂の含有量が少なすぎると、十分な硬度を有する透明導電性膜が得られにくい傾向にあり、上記疎水性樹脂の含有量が多すぎると、透明導電性膜が白濁化し、光学特性が悪化する傾向にある。
【0031】
上記溶媒は、プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒とを含んでいることが好ましい。プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒とを併用することにより、比較的低い乾燥温度で透明性に優れた透明導電性膜を得ることができる。
【0032】
上記プロトン性極性溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、メチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、酢酸等が挙げられ、上記非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0033】
上記非プロトン性極性溶媒の含有量は、上記溶媒の全質量に対して1.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。上記非プロトン性極性溶媒の含有量が、上記溶媒の全質量に対して1.0質量%を下回ると透明導電性膜の光学特性が低下する傾向にあり、50.0質量%を超えると透明導電性膜の耐湿熱性が低下する傾向にある。
【0034】
上記溶媒の含有量は特に限定されないが、上記透明導電性膜形成用塗布液の全質量に対して、50.0質量%以上99.5質量%以下とすればよい。また、上記溶媒には、無極性溶媒を含んでいてもよい。
【0035】
上記透明導電性膜形成用塗布液は、上記導電性高分子、上記疎水性樹脂、上記溶媒を混合することにより製造できる。また、上記透明導電性膜形成用塗布液は、更に分散機を用いて分散処理することが好ましい。上記分散機を用いて分散処理することにより、確実に上記導電性高分子が複数の層状の膜を形成し、上記疎水性樹脂が疎水性有機バインダとして複数の層状の膜を形成することができる。上記分散機としては、ボールミル、サンドミル、ピコミル、ペイントコンディショナー等のメディアを介在させたメディア分散機、及び超音波分散機、高圧ホモジナイザー、ホモミキサー、ディスパー、ジェットミル等のメディアレス分散機が使用できる。特に好ましいのは、高圧ホモジナイザーである。
【0036】
<透明導電性膜の形成>
上記透明導電性膜形成用塗布液を透明基材の上に塗布する方法としては、例えば、バーコート法、リバース法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、ディッピング法、スピンコート法、スリットコート法、スプレーコート法等の塗布方法を用いることができる。
【0037】
上記塗布後の加熱は、上記透明導電性膜形成用塗布液の溶媒成分が蒸発する条件であればよく、100〜150℃で5〜60分間行うことが好ましい。溶媒が透明導電性膜に残っていると強度が劣る傾向にある。加熱方法としては、例えば、熱風乾燥法、加熱乾燥法、真空乾燥法、自然乾燥等により行うことができる。また、必要に応じて、塗膜にUV光やEB光を照射して塗膜を硬化させたりして、透明導電性膜を形成してもよい。
【0038】
<導電パターンの形成工程>
本発明の透明導電性シートの製造方法は、上記透明導電性膜上の導電パターンを形成する位置にレジスト膜を形成する工程と、導電性を失活させる不活性剤を用いて、上記レジスト膜をマスクとして、上記透明導電性膜の露出部の導電性を失活させる工程とを更に備えることができる。これにより、簡単且つ安価に高精度の導電パターンを透明基材の上に形成できる。
【0039】
上記レジスト膜は、例えば、レジスト剤を上記透明導電性膜上にスクリーン印刷することにより形成できる。上記レジスト剤は特に限定されず、適宜選択できる。
【0040】
上記不活性剤としては、上記導電性高分子を失活できるものであればよく、例えば、酸化性化合物、塩基性化合物が挙げられる。
【0041】
上記酸化性化合物としては、例えば、過酸化水素系化合物、過塩素酸系化合物、次亜塩素酸系化合物、過酢酸系化合物、メタクロロ安息香酸系化合物、亜硫酸系化合物等が挙げられる。
【0042】
また、上記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4−メチルピリジン、水酸化テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に述べる。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。特に指摘がない場合、下記において、「部」は「質量部」を意味する。
【0044】
(実施例1)
<透明導電性膜形成用塗布液の調製>
先ず、以下の成分を添加、混合して透明導電性膜形成用混合液を調製した。
(1)導電性高分子分散液(ヘレウス社製、商品名“クレビオスPH1000”、導電性高分子:PEDOT−PSS、固形分濃度:1.2質量%、溶媒:水):40.00部
(2)疎水性樹脂エマルジョン(アルケマ社製のPVDFエマルジョン、固形分濃度:24質量%、溶媒:水):6.00部
(3)非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド):12.70部
(4)プロトン性極性溶媒(エチルアルコール):33.20部
(5)プロトン性極性溶媒(イオン交換水):8.10部
【0045】
次に、上記透明導電性膜形成用混合液を、高圧ホモジナイザーを用いて80MPaの圧力で分散処理して透明導電性膜形成用塗布液を作製した。
【0046】
<透明導電性シートの形成>
次に、厚さ0.7mmの10cm角の無アルカリガラス(全光線透過率:91.2%)を基板として用い、基板の一方の主面の全面に上記透明導電性膜形成用塗布液をスピンコーティング法により塗布し、その後120℃で1時間加熱した。これにより、一方の主面に透明導電性膜が形成された実施例1の透明導電性シートを作製した。上記透明導電性膜の膜厚は、290nmであった。
【0047】
<透明導電性膜の断面構造の観察>
作製した透明導電性シートの透明導電性膜の断面構造の観察を次にようにして行った。先ず、作製した透明導電性シートの透明導電性膜の上にエポキシ樹脂を塗布して包埋して、そのエポキシ樹脂面を機械研磨法にて整面した。その後、日本電子社製の断面試料作製装置“SM−09010”(商品名)を用いてイオンポリッシングにより断面を作製し、フラットミリング処理して断面観察用試料を得た。その断面観察用試料を日立製作所製の電界放射形走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、加速電圧:2.0kV、倍率:100000倍で観察して、二次・反射電子混成像を得た。その観察像を図2に示す。
【0048】
図2から、透明導電性シート20において、ガラス基板21の上には、透明導電性膜22が形成され、透明導電性膜22の上には、エポキシ樹脂層23が形成され、疎水性有機バインダ22aは、複数の層状の連続膜を形成し、導電性高分子22bは、複数の層状の膜を形成し、導電性高分子22bの膜が疎水性有機バインダ22aの連続膜の間に配置されていることが確認できる。また、図2から、疎水性有機バインダ22aの連続膜の厚さは、約20〜100nmであった。
【0049】
(実施例2)
以下の成分を添加、混合して透明導電性膜形成用混合液を調製し、その透明導電性膜形成用混合液を実施例1と同様にして高圧ホモジナイザーを用いて分散処理して透明導電性膜形成用塗布液を作製し、その透明導電性膜形成用塗布液を用い、透明導電性膜の膜厚を180nmとした以外は、実施例1と同様にして実施例2の透明導電性シートを作製した。
(1)導電性高分子分散液(ヘレウス社製、商品名“クレビオスPH1000”、導電性高分子:PEDOT−PSS、固形分濃度:1.2質量%、溶媒:水):60.00部
(2)疎水性樹脂エマルジョン(ダイセルファインケム社製のアクリル樹脂エマルジョン、商品名“AST499”固形分濃度:41.7質量%、溶媒:水):3.00部
(3)レベリング剤(ビックケミージャパン社製、商品名“BYK−337”、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン15質量%とジプロピレングリコールモノメチルエーテル85質量%との混合液):0.20部
(4)非プロトン性極性溶媒(エチレングリコール):10.00部
(5)プロトン性極性溶媒(n−プロピルアルコール):20.00部
(6)プロトン性極性溶媒(イオン交換水):6.80部
【0050】
作製した透明導電性シートの透明導電性膜の断面構造の観察を実施例1と同様にして行ったところ、図2と同様の観察像を得て、その観察像から疎水性有機バインダの連続膜の厚さは、約30〜150nmであった。
【0051】
(実施例3)
高圧ホモジナイザーを用いた分散処理をせずに透明導電性膜形成用混合液をそのまま透明導電性膜形成用塗布液として用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3の透明導電性シートを作製した。
【0052】
作製した透明導電性シートの透明導電性膜の断面構造の観察を実施例1と同様にして行ったところ、図2と同様の観察像を得て、その観察像から疎水性有機バインダの連続膜の厚さは、約40〜200nmであった。
【0053】
(比較例1)
以下の成分を添加、混合して透明導電性膜形成用混合液を調製し、その透明導電性膜形成用混合液を実施例1と同様にして高圧ホモジナイザーを用いて分散処理し、透明導電性膜形成用塗布液を作製し、その透明導電性膜形成用塗布液を用い、透明導電性膜の膜厚を389nmとした以外は、実施例1と同様にして比較例1の透明導電性シートを作製した。
(1)導電性高分子分散液(ヘレウス社製、商品名“クレビオスPH1000”、導電性高分子:PEDOT−PSS、固形分濃度:1.2質量%、溶媒:水):39.20部
(2)親水性樹脂(クラレ社製のポリビニルアルコール、商品名“PVA−217”):1.41部
(3)非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド):12.70部
(4)プロトン性極性溶媒(エチルアルコール):33.20部
(5)プロトン性極性溶媒(イオン交換水):13.49部
【0054】
作製した透明導電性シートの透明導電性膜の断面構造の観察を実施例1と同様にして行ったところ、透明導電性膜の断面構造は均一な単層構造であることを確認した。
【0055】
次に、上記で得られた透明導電性シートについて、下記に示す各評価を行った。
【0056】
<電気特性>
透明導電性シートの電気特性は、下記のように透明導電性シートの透明導電性膜の表面抵抗値を測定することで評価した。
【0057】
透明導電性シートの透明導電性膜の表面抵抗値は、三菱化学アナリテック社製の抵抗率測定装置“Loresta−GP”(MCP−T610型)とLSPプローブを用いて測定した。
【0058】
<光学特性>
透明導電性シートの光学特性は、下記のように透明導電性シートの全光線透過率を測定することで評価した。
【0059】
透明導電性シートの全光線透過率は、日本電色工業社製のヘイズメータ"NDH2000"を用いて測定した。
【0060】
上記測定の結果、全光線透過率が80%以上の場合、光学特性は良好と判断し、全光線透過率が80%を下回った場合、光学特性は不良と判断した。
【0061】
<物理特性>
透明導電性シートの物理特性は、下記のように透明導電性シートの透明導電性膜の鉛筆硬度を測定することで評価した。
【0062】
透明導電性シートの透明導電性膜の鉛筆硬度は、日本工業規格(JIS)K5400に規定された鉛筆硬度の測定方法に基づき、新東科学社製の表面性試験機“HEIDON−14DR”を用いて測定した。
【0063】
<耐湿熱性>
透明導電性シートの耐湿熱性は、下記のように透明導電性シートの保存試験を行うことで評価した。
【0064】
先ず、透明導電性シートの透明導電性膜の初期の表面抵抗値を前述の電気特性の評価と同様にして測定した。次に、透明導電性シートを恒温恒湿槽に入れて65℃、相対湿度90%で500時間保存した。続いて、保存後の透明導電性シートの透明導電性膜の表面抵抗値を上記と同様にして測定した。最後に、下記式(1)により表面抵抗値の変化度を算出した。
表面抵抗値の変化度=保存後の表面抵抗値/初期の表面抵抗値 (1)
【0065】
上記測定の結果、表面抵抗値の変化度が1.2以下の場合、耐湿熱性は良好と判断し、表面抵抗値の変化度が1.2を上回った場合、耐湿熱性は不良と判断した。
【0066】
上記評価の結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、本発明の実施例1〜3の透明導電性シートは、透明導電性膜の表面抵抗値が全て180Ω/スクエアを下回って電気特性が良好であり、また光学特性及び耐湿熱性も全て良好との評価を得ることができ、更に物理特性である鉛筆硬度も全てB以上を得たことが分かる。特に、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理した透明導電性膜形成用塗布液を用いた実施例1及び2は、分散処理していない透明導電性膜形成用塗布液を用いた実施例3に比べて電気特性がより向上することが分かる。
【0069】
一方、比較例1では光学特性及び耐湿熱性が劣り、鉛筆硬度も5B以下となり物理特性も劣ることが分かる。
【0070】
続いて、上記で得られた透明導電性シートについて、下記とおりパターニング適性の評価を行った。
【0071】
<レジスト膜の形成>
先ず、透明導電性シートの透明導電性膜側の主面の中央部に5cm角の面積にスクリーン印刷法によりレジスト剤(ヘレウス社製、商品名“Clvious SET S”)を印刷し、その後100℃で5分間加熱した。これにより、透明導電性膜上にレジスト膜を形成した。
【0072】
<導電性の低下>
次に、透明導電性膜上にレジスト膜が形成された透明導電性シートを、塩素系不活性剤(ヘレウス社製、商品名“Clvious Etch”)を10%水溶液に調製した溶液に20分間浸漬した後、蒸留水で洗浄し、100℃で5分間加熱した。これにより、透明導電性膜の露出部の導電性を低下させた。
【0073】
<レジスト膜の剥離>
次に、上記透明導電性シートをトルエンに3分間浸漬し、レジスト膜を剥離した後、蒸留水で洗浄し、100℃で5分間乾燥した。
【0074】
次に、得られた透明導電性シートの電気特性を評価した。評価方法については以下に説明する。
【0075】
<電気特性>
先ず、透明導電性シートの導電パターン形成面において、導電パターンが形成されている導電部の表面抵抗値を、三菱化学アナリテック社製の抵抗率測定計“Loresta−GP”(MCP−T610型)とLSPプローブを用いて測定した。また、透明導電性シートの導電パターン形成面において、導電パターンが形成されていない非導電部の表面抵抗値を、三菱化学アナリテック社製の抵抗率測定計“Hiresta−UP”(MCP−HT450型)とURSプローブを用いて測定した。ここでは、導電部と非導電部の表面抵抗値の差が、1×106Ω/スクエア以上である場合は、良好な電気的コントラストが得られていると評価する。
【0076】
その結果、実施例1〜3の透明導電性シートでは、良好な電気的コントラストが得られていたが、比較例1の透明導電性シートでは、良好な電気的コントラストが得られていないことが分かった。
【符号の説明】
【0077】
10、20 透明導電性シート
11 透明基材
21 ガラス基板
12、22 透明導電性膜
12a、22a 疎水性有機バインダ
12b、22b 導電性高分子
23 エポキシ樹脂層
図1
図2