(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、BTA深穴加工機という深穴加工機が広く用いられている。BTAの名称は、ドイツ、英国、フランス、スウェーデン及び米国の間でかつてBoring&Trepanning Association(BTA)を組織し、工具の規格定形、作業条件の基準化に努め、相互に技術情報の交換を行い、この方式の一層の開発を目的として啓蒙を行ったことに由来している。具体的には、BTA深穴加工機は、内部に流路が形成された筒状のドリル(ボーリングバーとも言う)によってワークを加工する。加工においては、ドリルの外周面とワークの被削面との間に高圧の切削液が供給される。当該切削液は、発生する切粉をドリルの内部に形成された流路を通じて外部に排出させる機能の他、ドリルを冷却する機能、切削点の潤滑機能等を担っている。
【0003】
BTA深穴加工機によるワークの設置方法には、2つのタイプがある。ワークを工具と同心に回転されるようにチャックにより固定する方法と、ワークをテーブル上に載置する方法である。後者の方法の方が、ワークの形状の自由度が高い。また、後者の方法であれば、ワークを複数並列に設置しておいて、工具の軸線方向に対して垂直な面に沿ってテーブルを移動させることによって、複数の深穴加工を実現することもできる。
【0004】
ワークをテーブル上に載置する具体的な方法としては、テーブル上に設置された一対のVブロックを用いる方法が一般的である。この場合、一対のVブロック上にワークが載置され、例えばボルト等の締結具によって当該一対のVブロックの上方からワークが締付固定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
テーブル上にワークを設置する場合、貫通孔を加工する際に、工具がワークを貫通する際に高圧の切削液が飛散して周囲を汚してしまうことを防止するために、工具がワークを貫通する位置を覆うように、予めシール部材がワークに対して液密に当接配置される。
【0007】
具体的には、特公平7−4689号公報(特許文献1)に開示されているように、ワークストッパ手段(8)がシール部材である押し付け部材(83)をワーク(W)に対して押圧しておくことにより、工具(4)がワーク(W)を貫通する際に高圧の切削液が飛散して周囲を汚してしまうことを防止している(
図7参照)。
【0008】
ここで、強固にワークを固定しようとして締結具の締付力を大きくしすぎると、ワークが変形してしまうおそれがある。
【0009】
一方、締結具による締付力が小さいと、シール部によるワークへの押圧力(一定値に保たれる)によってワークが加工前に移動してしまうことがある。これを防止するためには、当該ワークが移動しないような小さな値に当該押圧力を抑えておく必要があり、場合によって、シール部のシール効果が十分でないという問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような問題に鑑みて、締結具による締付力が小さい場合であっても、シール部のシール効果を十分に実現することができるBTA深穴加工機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ワークの一方の側に配置され、他方の側の端部から一方の側の領域まで延びる流路が内部に形成された筒状の工具と、前記工具の一方の側の少なくとも一部を支持して当該工具をその軸線周りに回転させる工具回転機構と、前記工具回転機構を支持する主軸台と、前記主軸台を前記工具の軸線方向に移動させる主軸台移動機構と、前記ワークの加工時に、前記ワークの被削面と前記工具との間に切削液を供給すると共に、当該切削液を前記流路を介して前記工具の他方の側の端部から一方の側の領域へと環流させる切削液供給装置と、前記ワークの他方の側に当接されるシール部と、前記シール部を支持する移動体と、前記移動体を前記工具の軸線方向に移動させる移動体移動機構と、前記移動体移動機構による前記移動体の移動を禁止(不可化)するように当該移動体を固定する固定具と、を備えたことを特徴とするBTA深穴加工機である。
【0012】
本発明によれば、ワークの深穴加工に先立ち、移動体をシール部と共に所定の位置に移動させた後で、当該移動体を固定具によって任意の十分な強度で固定することができる。このため、ワークに対する締結具による締付力が小さい場合であっても、シール部のシール効果を十分に実現することができる。
【0013】
好ましくは、前記移動体移動機構は、工具の軸線方向に延びて前記移動体が移動可能に支持されるレール部材と、前記レール部材を支持する支持部と、前記支持部に対して前記移動体を前記レール部材に沿って移動させる駆動機構と、を有する。
【0014】
このような移動体移動機構であれば、移動体を工具の軸線方向に迅速且つ正確に移動させることができる。
【0015】
また、好ましくは、前記固定具は、前記支持体に対して前記移動体をクランプ固定するクランプ部材である。この場合、移動体を支持部に対して容易且つ確実に固定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、添付の図面を参照して本発明の一実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態のBTA深穴加工機100の概略正面図であり、
図2は、
図1のBTA深穴加工機100の移動体41及びシール部40周辺を示す概略正面図であり、
図3は、
図1のBTA深穴加工機100を左方から見た場合の移動体41及びシール部40周辺の概略側面図である。
【0019】
図1に示すように、BTA深穴加工機100は、加工機200と、当該加工機200を制御する制御装置300と、を有している。
【0020】
本実施の形態の加工機200は、深穴加工の対象となるワークWの設置位置(ワークWの設置方法については後述される)の一方の側(
図1においては右側)に配置され、他方の側の(
図1においては左側)端部から一方の側の領域(例えば、一方の側の端部。但し、端部でなくてもよい)まで延びる流路(図示は省略されている)が内部に形成された筒状の工具10を有している。また、本実施の形態の加工機200は、工具10の一方の側の少なくとも一部を支持して当該工具10をその軸線周りに回転させる工具回転機構11と、工具回転機構11を支持する主軸台20と、主軸台20を工具10の軸線方向に移動させる主軸台移動機構21と、を有している。
【0021】
更に、本実施の形態の加工機200は、加工時においてワークWの被削面と工具10との間に切削液を供給すると共に、当該切削液を前記流路を介して工具10の他方の側の端部から一方の側の領域へと環流させる切削液供給装置30と、を有している。本実施の形態の切削液供給装置30は、工具10によって貫通されている円筒状の内部孔(不図示)と、当該内部孔から当該切削液供給装置30の下方外面に露出する切削液供給口(不図示)に至る流路と、を有すると共に、ワークWの一方の側(
図1においては右側、
図3においては奥側)に当接可能であって、工具10の軸線方向に移動可能な圧力台31を有している。
【0022】
また、
図1乃至
図3に示すように、本実施の形態の加工機200は、ワークWの他方の側(
図1においては左側、
図2においては右側、
図3においては手前側)に当接されるシール部40と、シール部40を支持する移動体41と、移動体41を工具10の軸線方向(
図1及び
図2においては左右方向、
図3においては奥行方向)に移動させる移動体移動機構と、を有している。
【0023】
本実施の形態の移動体41は、
図2及び
図3に示すように、シール部40を一方の側に支持する円柱状部42と、円柱状部42を支持する正面視で矩形の台座43と、台座43の底面(
図1乃至
図3における下側の面)に固定された移動体移動機構と、を有している。
【0024】
本実施の形態の移動体移動機構は、リニアガイド(直動ガイド)45a、45bであり、
図3に示すように、台座43の下面の2箇所に一定の間隔を空けて設けられている。
【0025】
また、
図1乃至
図3に示すように、本実施の形態の加工機200は、ベッド80上に支持されている。ベッド80は、特に
図3において詳細に示されているように、直方体状の本体部83と、この本体部83の上面に所定の間隔を空けて工具10の軸線方向に平行に設けられた2本のレール81a、81bと、前記軸線方向に向かって両側(
図3においては左右両側)の上部に水平方向に張り出した張出部82a、82bと、2本のレール81a、81bの間において工具10の軸線方向に延び、上方に垂直に立ち上がるプレート84と、を有している。
【0026】
前述の2台のリニアガイド45a、45bは、2本のレール81a、81bの各々に沿って移動して移動体41を工具10の軸線方向(
図2の矢印方向)に移動させるようになっている。
図2において、移動前の移動体41は破線で示されており、移動後の移動体41は実線で示されている。
【0027】
更に、
図1乃至
図3に示すように、本実施の形態の加工機200は、ベッド80に対して移動体41をクランプ固定する油圧式のクランプ部材60(後に詳述される)を有している。このクランプ部材60は、2台のリニアガイド45a、45bの間において、移動体41の底面に固定されており、ベッド80に固定されたプレート84をクランプ固定することにより、移動体41をベッド80に対して固定させ得るようになっている。
【0028】
また、
図1に示すように、本実施の形態の制御装置300は、リニアガイド45a、45bを制御する制御手段50を有している。
【0029】
図4は、
図1のBTA深穴加工機100に設けられたクランプ部材60の概略断面図である。
図4に示すように、本実施の形態のクランプ部材60は、一対のシリンダ61a、61bが連結部62によって連結され、全体としてコ字状の横断面を有している。クランプ部材60は、2台のリニアガイド45a、45bの間において、一対のシリンダ61a、61bがプレート84を挟み込むようにして移動体41の底面に固定されている(
図1乃至
図3参照)。各シリンダ61a、61bの内部には、作動流体としての圧油と、この圧油に加えられる圧力によってシリンダ61a、61b内を移動可能なピストン63a、63bと、が設けられている。各ピストン63a、63bは、プレート84に面する側に押圧部64a、64bを有している。この押圧部64a、64bは、シリンダ61a、61bのプレート84に面する側に設けられた開口から突出しており、圧油に圧力が加えられた際に、プレート84を左右両側からクランプするようになっている。
【0030】
また、
図4に示すように、シリンダ61a、61bとピストン63a、63bとで囲まれた各2つの領域は、第1油路66及び第2油路67によって圧油の流路制御弁(ソレノイドバルブ)65、圧油を加圧するためのポンプ68及び圧油を貯留するタンク69に接続されている。ピストン63a、63bにプレート84をクランプさせる際には、第1油路66を介してシリンダ61a、61b内に圧油が供給されるようになっている。アンクランプの際には、第2油路67に圧油が供給されるようになっている。なお、
図4において、油路66、67とシリンダ61a、61bとの接続部分の詳細についての図示は省略されている。
【0031】
次に、本実施の形態のBTA深穴加工機100の作用について説明する。
【0032】
まず、シール部40と圧力台31との間に、ワークWが設置される。本実施の形態では、工具10の軸線方向からの位置ずれを防止するべく、テーブル上に載置されたVブロック(不図示)上にワークWが載置される。
【0033】
次に、リニアガイド45a、45b及び圧力台移動機構70によって、移動体41(シール部40)及び圧力台31がワークWに向かって共に移動される。この時、ピストン63a、63bはプレート84をクランプしていない。すなわち、移動体41は、リニアガイド45a、45bによって工具10の軸線方向に移動可能である。そして、シール部40及び圧力台31によってワークWが挟持され、工具10の軸線方向におけるワークWの加工前の位置決めが完了する。
【0034】
この状態で、第1油路66を介してシリンダ61a、61bとピストン63a、63bとの間の領域に圧油が供給される。これにより、ピストン63a、63bによってプレート84がクランプされ、プレート84と押圧部64a、64bとの間に働く摩擦力によって、移動体41がベッド80に対して移動することが禁止される。すなわち、移動体41がベッド80に対して固定される。
【0035】
この状態から、深穴加工が開始される。すなわち、工具回転機構11によって工具10がその軸線回りに回転されると共に、主軸台移動機構21が起動されて、主軸台20が他方の側に向かって移動される。すなわち、工具10がワークWに向かって移動される。回転する工具10がワークWに当接することで、当該ワークWに対する深穴加工が開始される。工具10とワークWとの当接に先行して、切削液供給装置30により工具10とワークWの被削面との間に高圧の切削液が供給される。当該切削液は、圧力台31の内部孔(不図示)に供給され、当該内部孔を通流して工具10とワークWの被削面との間に流入する。当該切削液は、工具10を冷却する機能を担う。また、当該切削液は、加工により発生される切粉を押し出し(排出)して、工具10の内部に形成された流路(不図示)を介して工具10の一方の側の領域(例えば一方の側の端部に設けられた排出口(不図示))へと排出される。
【0036】
ワークWの深穴加工の間、ワークWには、工具10等により、一方の側から他方の側に向かう押圧力が与えられている。当該押圧力は、ワークWの材料特性に依存する加工時の抵抗及び工具10のワークWに対する送り速度等による工具10起因の力の他、圧力台31からの力や高圧の切削液による力も影響する。
【0037】
しかしながら、本実施の形態では、移動体41がクランプ部材60によってベッド80に対してクランプ固定されているため、以上のような押圧力によっても、深穴加工の間にワークWが一方の側から他方の側に向かって移動されることはない。すなわち、深穴加工の間、ワークWの静止状態が維持される。
【0038】
以上のような本実施の形態によれば、ワークWの深穴加工に先立ち、移動体41をシール部40と共に所定の位置に移動させた後で、当該移動体41をベッド80に対してクランプ部材60によってクランプ固定することができる。このため、ワークWに対する締結具による締付力が小さい場合であっても、ワークWが加工前に移動してしまうことがなく、シール部40のシール効果を十分に実現することができる。また、クランプ部材60の使用により、移動体41をベッド80に対して容易且つ確実に固定することができる。
【0039】
また、リニアガイド45a、45bは、ベッド80上に設けられ、工具10の軸線方向に延びるレール81a、81bに沿って移動体41を移動させるようになっている。このため、リニアガイド45a、45bは、移動体41を工具10の軸線方向に迅速且つ正確に移動させることができる。
【0040】
なお、本実施の形態では、クランプ部材60は、移動体41の底面に固定され、ベッド80の上面から垂直に立ち上がるプレート84をクランプするようになっているが、このような形態には限られない。
【0041】
例えば、
図5は、
図1のBTA深穴加工機100に採用可能な移動体441及びクランプ部材460a、460bの変形例を示す概略側面図である。
図5において、
図1乃至
図4に示す本実施の形態のBTA深穴加工機100と同様の構成部分については略同様の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0042】
図5に示すように、この変形例のクランプ部材460a、460bは、一対のシリンダがベッド480の上部に水平方向(
図5における左右方向)に張り出した2つの張出部482a、482bを挟み込むようにして、移動体441の両側に固定されている。この変形例においても、工具の軸線方向におけるワークの加工前の位置決めが完了すると、各クランプ部材460a、460bは、油圧制御装置(不図示)によって、張出部482a、482bをクランプするように制御され、移動体441がベッド480に対して固定される。
【0043】
あるいは、
図1のBTA深穴加工機100に採用可能な移動体及びクランプ部材の他の変形例が
図6に示されており、次のような構成を有している。すなわち、この変形例において、移動体541は、底面に固定された鉛直下方に延びるロッド584を有しており、ベッド580は、上面に工具の軸線方向に延びる溝586と、当該ベッド580の上面を覆う天板587とを有している。
【0044】
図6に示すように、天板587には、ロッド584の直径よりも幅広のスリット588が工具の軸線方向に延びており、ロッド584は、スリット588を貫通して溝586内まで延びている。このロッド584の下端には、クランプ部材560が固定されている。具体的には、この変形例のクランプ部材560は、ロッド585の下端に固定され、上方が開放されたシリンダ561と、シリンダ561内を摺動可能であり、上部にフランジ状の押圧部564が設けられたピストン563と、を有している。なお、図示されていないが、このクランプ部材560は、適宜の油路を介して油圧制御装置に接続されている。
図6において、
図1乃至
図4に示す本実施の形態のBTA深穴加工機100と同様の構成部分については略同様の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0045】
この変形例においては、工具の軸線方向におけるワークの加工前の位置決めが完了すると、油圧制御装置によってクランプ部材560のピストン563が上方に向かって移動され、ピストン563の押圧部564が天板585の下面に押し付けられる。すなわち、当該押圧部564の上面と天板583の下面との間に働く摩擦力によって、移動体541のベッド580に対する移動が禁止される。すなわち、移動体541のベッド580に対して固定される。