特許第6746323号(P6746323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アールティの特許一覧

<>
  • 特許6746323-モータ制御装置 図000002
  • 特許6746323-モータ制御装置 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746323
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/06 20060101AFI20200817BHJP
【FI】
   H02P7/06 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-23898(P2016-23898)
(22)【出願日】2016年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-143666(P2017-143666A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2019年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】515208326
【氏名又は名称】株式会社アールティ
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(72)【発明者】
【氏名】佐倉 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】中川 範晃
(72)【発明者】
【氏名】中川 友紀子
【審査官】 佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−033970(JP,A)
【文献】 特表2012−506685(JP,A)
【文献】 特開2000−184765(JP,A)
【文献】 特開昭51−084020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流モータを制御するモータ制御装置であって、
前記直流モータに対するアナログの電流指令信号を生成し、供給する指令供給部と、
前記直流モータのコイルを流れる印加電流を検出するためのシャント抵抗と、
前記シャント抵抗の両端の電流値の差分に応じて、前記印加電流に関するアナログ印加電流信号を出力する第1の差分器と、
前記指令供給部から供給される前記アナログ電流指令と前記アナログ印加電流信号との差分信号を出力する第2の差分器と、
前記差分信号と、所定のクロック信号とに基づき、該アナログ電流指令に対して所定のデルタシグマ変調処理を行う変調処理部と、
前記変調処理部によって前記所定のデルタシグマ変調処理が施された出力信号に基づくタイミングで、前記直流モータを駆動するための駆動電圧パターンを生成する生成部と、
を備える、ロボットアームのモータ制御装置。
【請求項2】
前記変調処理部は、前記所定のクロック信号が入力され、該クロック信号の周期に基づいて、前記アナログ電流指令と前記アナログ印加電流信号との差分信号を遅延させるD型フリップフロップを有する、
請求項1に記載の、ロボットアームのモータ制御装置。
【請求項3】
前記直流モータは、ブラシ付きの直流モータである、
請求項1又は請求項2に記載の、ロボットアームのモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ブラシレス直流モータの制御装置が開示されている。当該制御装置では、直流モータに含まれる各層のコイルに対応して設けられたホール素子によって検出された磁界信号に対して所定のデルタシグマ変調処理が施され、各コイルへの印加電圧に加えられている。これにより、直流モータの各層のコイルは、デルタシグマ変調処理が施された信号によってスイッチング駆動されることになり、温度上昇の抑制が図られる。また、所定のデルタシグマ変調処理において、各層のコイルへの印加電圧のタイミングで負帰還させることで、当該変調処理のループ内の時間遅れがオフセットにならず、トルクリップルの低減が図られる。
【0003】
また、特許文献2においても、ブラシレス直流モータの制御装置が開示されており、そこでは、モータの各層のコイルへの駆動印加電圧のアナログ信号に対して、所定のデルタシグマ変調処理が施されている。このような構成により、高精度のロータの駆動制御の実現が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012−506685号公報
【特許文献2】特開平5−344780号公報
【特許文献3】特開2015−61323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロボット等の限られた空間内に配置される直流モータは、必然的にその容積も限られる。更に、その制御装置を当該直流モータに組み込む場合(すなわち、ビルトイン方式で形成する場合)には、制御装置そのものの容積も限られることとなる。このように制御装置のコンパクト化が図られる過程においては、制御装置内の電気回路を形成する半導体等の発熱が問題となりやすい。ただし、半導体素子の発熱そのものについては、近年の半導体技術の向上によりそのジュール熱は抑制されてきているが、一方で、効率の側面においては、スイッチングロスの問題が十分には解決されていない。
【0006】
また、更に直流モータの制御装置においては、スイッチングノイズやモータのコイルへの印加電流検出のためのシャントアンプのコモンモード電圧のジャンプが問題視されている。コモンモード電圧のジャンプは、電源電圧までの立ち上がりを十数ナノ秒で遷移し、その除去は技術的にも容易ではない。特に、直流モータへの印加電流を制御する電流制御を行う場合、各層のコイルに流れている電流を検出する必要がある。そして、当該ジャンプの影響を軽減するために、電流検出用のシャント抵抗の素子大きさを小さくする必要もあるが、一方でジュール熱を抑制する観点から、シャント抵抗の両端子間電圧を低くせざるを得ず、結果としてスイッチングノイズの影響が強くなりS/N比が低下し、以て高精度の電流検出が困難となる。
【0007】
このように、直流モータに対して電流制御を行う制御装置のコンパクト化を図るためには、直流モータの高精度制御の観点からS/N比の向上も熟慮する必要がある。そこで、本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、コンパクトであり且つ高S/N
比の電流制御が可能な直流モータの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、上記課題を解決するために、直流モータを駆動するための電流指令に対して、デルタシグマ変調処理を施す構成を採用した。この構成により、直流モータへの電流印加のタイミングと、シャント抵抗を介した電流検出のタイミングをずらすことで、コンパクト化された電気回路においても比較的高いS/N比の電流制御が可能となる。
【0009】
具体的には、直流モータを制御するモータ制御装置であって、前記直流モータに対するアナログの電流指令信号を生成し、供給する指令供給部と、前記直流モータのコイルを流れる印加電流を検出するためのシャント抵抗と、前記指令供給部から供給される前記アナログ電流指令と前記シャント抵抗を介して検出された前記印加電流に関するアナログ印加電流信号との差分信号と、所定のクロック信号とに基づき、該アナログ電流指令に対して所定のデルタシグマ変調処理を行う変調処理部と、前記変調処理部によって前記所定のデルタシグマ変調処理が施された出力信号に基づいて、前記直流モータを駆動するための駆動電圧パターンを生成する生成部と、を備える。
【0010】
本発明に係るモータ制御装置は、モータの電流制御を行う制御装置である。例えば、モータに所定のトルクを発揮させるための制御(以下、「トルク制御」といもいう)を行う場合には、当該電流制御が行われることになる。そして、直流モータの電流制御を行うために、シャント抵抗を介して、モータのコイルを流れる印加電流が検出される。シャント抵抗は、特定の範囲の抵抗値を有する必要は必ずしもないが、シャント抵抗のジュール熱抑制の観点から、その抵抗値は可及的に小さい方が好ましい。
【0011】
そして、変調処理部は、指令供給部から供給されるアナログ電流指令と、シャント抵抗を介して検出されるアナログ印加電流信号との差分を利用し、更に所定のクロック信号を利用することで、アナログ電流指令に対して所定のデルタシグマ変調処理を行う。なお、指令供給部は、例えば、直流モータに対して実行を要求するトルクパターン等に基づいてアナログ電流指令を供給する。このように変調処理部により所定のデルタシグマ変調処理を行うことで、アナログ印加電流信号のアナログ電流指令への反映(すなわち、実質的には、シャント抵抗を介したアナログ印加電流信号の取得)のタイミングと、モータへの電流印加のタイミングをずらすことが可能となる。一般に、スイッチングロスはスイッチングを行った瞬間に生じ、時間の経過とともにノイズは収束していく。すなわち、スイッチングロスは時間軸で見たときに特定の時間範囲に集中して生じるイベントである。したがって、上記のように所定のデルタシグマ変調処理により、アナログ印加電流信号のアナログ電流指令への反映のタイミングと、モータへの電流印加のタイミングをずらすことができ、スイッチングノイズによるアナログ電流指令への影響を抑制できる。更に、デルタシグマ変調処理を行うことで、精度の高い電流指令に関する出力信号を生成部に渡すことができ、以て、高精度の直流モータの電流制御が実現される。
【0012】
以上より、モータ制御装置をコンパクト化した場合でも、高S/N比の電流制御を可能とする、直流モータの制御装置を提供することが可能となる。なお、変調処理部による両タイミングのずれは、変調処理部に供される所定のクロック信号の周期に従って調整され得る。
【0013】
ここで、上記のモータ制御装置において、前記変調処理部は、所定のクロック信号が入力され、該クロック信号の周期に基づいて、前記アナログ電流指令と前記アナログ印加電流信号との差分信号を遅延させるD型フリップフロップを有してもよい。D型フリップフロップを利用することで、上記両タイミングをずらすための有意な遅延処理を実現可能である。
【0014】
また、上述までのモータ制御装置において、前記直流モータは、ブラシ付きの直流モータであってもよい。なお、当該言及は、本発明に係るモータ制御装置が適用される直流モータの種類を限定する意図は無い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンパクトであり且つ高S/N比の電流制御が可能な直流モータの制御装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るモータ制御装置の概略構成を示す図である。
図2図1に示すモータ制御装置で実現される電流制御の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
図1は、本実施例に係るモータ制御装置1の概略構成を示す図である。モータ制御装置1は、ブラシ付き直流モータ(以下、単に「モータ」という。)100を駆動制御するための装置であって、特に、電流制御するための装置である。なお、モータ100は、そのステータ側には三層の駆動コイルが配置されているが、図1においては、説明を簡便にするために、一層のコイルに対しての制御構成が開示されている。したがって、以降の説明では、一層のコイルにおける制御信号の生成等について詳細に述べるが、他の二層のコイルにおいても同様の制御信号の生成が行われるものである。
【0019】
ここで、モータ制御装置1は、変調処理部10と、駆動パターン生成器5と、モータドライバ6を有している。また、モータ制御装置1の制御対象となるモータ100の一層のコイルを流れる印加電流を検出するためのシャント抵抗7が、当該コイルに対して直列に接続されている。なお、シャント抵抗7の抵抗値は、シャント抵抗7のジュール熱を抑制できるように可及的に小さい値であるのが好ましい。また、シャント抵抗7の両端のそれぞれは、シャントアンプ8の正の入力端子と負の入力端子に接続されている。したがって、シャントアンプ8からは、シャント抵抗7を流れる電流、すなわちモータ100のコイルを流れる印加電流に対応した信号が出力される。このシャントアンプ8の出力信号が、本発明に係るアナログ印加電流信号に相当する。
【0020】
ここで、変調処理部10について説明する。変調処理部10は、所定のデルタシグマ変調処理を行う機能部であり、具体的には、コンパレータ2、積分器3、D型フリップフロップ4から形成される。コンパレータ2の正の入力端子には、モータ100を電流制御するための指令を生成し供給する指令供給部(不図示)から供給されてくる電流指令20が入力される。なお、本実施例においては、モータ100は、図示しないアーム型のロボットのボディ内に格納されており、モータ制御装置1によって所定のトルク制御に供されるものである。ここで、所定のトルク制御は、モータ100の出力トルクを一定に維持する制御であり、例えば、モータ100によって支えられるロボットの関節の姿勢を、重力荷重に対して静止維持させるためにトルクを発生させる制御等が例示できる。したがって、指令供給部は、ロボットのアームの姿勢維持に必要な情報を取得する一又は複数のセンサ等からの信号を基に、モータ100が発揮すべきトルクに対応した電流指令20を生成し、変調処理部10に供給する。なお、この電流指令20は、アナログ信号である。
【0021】
また、コンパレータ2の負の入力端子には、上記のシャントアンプ8の出力信号(アナ
ログ印加電流信号)が入力される。したがって、コンパレータ2は、電流信号20とシャントアンプ8の出力信号(アナログ印加電流信号)の差分を算出し、出力する。このコンパレータ2の出力信号が、本発明に係る差分信号に相当する。そして、コンパレータ2の出力信号(差分信号)は、積分器3を経て積算され、D型フリップフロップ4のD入力に入力される。また、D型フリップフロップ4のクロック端子clkには、所定の周波数を有するクロック信号30が入力されている。このD型フリップフロップ4は、クロック端子clkのクロック信号の立ち上がりでD入力の値がQ出力として保持される。
【0022】
このように構成される変調処理部10は、D型フリップフロップ4のQ出力が、変調処理部10としての出力信号になる。そして、コンパレータ2、積分器3、D型フリップフロップ4で構成される変調処理部10では、電流指令20に対してデルタシグマ変調処理が施されることになり、その中で、D型フリップフロップ4は上記差分信号の積算信号を遅延させるように機能する。
【0023】
更に、変調処理部10のD型フリップフロップ4のQ出力は、駆動パターン生成器5に渡されて、そこでモータ100を駆動するためにコイルに印加される駆動電圧パターンが生成される。したがって、駆動パターン生成器5が本発明に係る生成部に相当する。そして、駆動パターン生成器5が生成した駆動電圧パターンに従って、モータドライバ6がモータ100に駆動電圧を印加する。
【0024】
このように構成されるモータ制御装置1では、変調処理部10により、アナログの電流指令20と、同じくアナログのシャントアンプ8の出力信号と、及びクロック信号30とを利用してデルタシグマ変調処理が施されることで、クロック信号30と同期して、シャントアンプ8の出力信号が電流指令20と比較されて、モータ100への印加電圧を基礎づける、変調処理部10の出力が決定される。このようなモータ100の駆動のための信号処理は、変調処理部10の出力ビットストリームが、モータ100のコイルにおける逆起電力に対応する電流信号と電流指令の合算値に対応し、駆動パターン生成器5によってその合算値がモータ100に印加される電圧に変換されると見ることができる。これにより、モータ100の高精度の電流制御が実現される。
【0025】
ここで、図2に、モータ制御装置1によって電流制御が行われる場合の、モータ100への印加電流の推移の一例を示す。図2の横軸は、経過時間を表している。図2において、両端矢印はスイッチングノイズの影響が大きく出ている期間である。しかし、クロック信号の立ち上がり時に変調処理部10の出力ビットストリームも立ち上がり、それに応じてモータ100への印加電流もスイッチングノイズの影響を受けることなく、好適な印加電流波形を形成していることを確認することができる。
【0026】
以上より、本実施例に係るモータ制御装置1によれば、アーム型のロボットボディ内にモータ100とともに当該制御装置1を搭載するために、そのコンパクト化を図った場合でも、高S/N比の電流制御が可能となる。このことは、アーム型ロボットの小型化そのものにも資するものである。更には、本実施例に係るモータ制御装置1は、アーム型ロボットに限られず、その他の型式のロボットにも好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1・・・モータ制御装置
2・・・コンパレータ
3・・・積分器
4・・・D型フリップフロップ
5・・・駆動パターン生成器
6・・・モータドライバ
7・・・シャント抵抗
8・・・シャントアンプ
10・・・変調処理部
20・・・電流指令
30・・・クロック信号
図1
図2