(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外層部分は、前記内層部分の前記第2の端部側の位置から前記外向き移行部分によって引き出される前記ワイヤ集合体部分によって構成された第2の外層部分をさらに含む、請求項1ないし4のいずれかに記載のコイル部品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明者らは、将来技術として、撚線状態のワイヤ集合体部分を巻回した構造を用いて、モード変換特性を向上させるとともに、従来にない高インダクタンス値を一定の外形制約のもとに実現することを検討した。
【0006】
まず、単純に考えると、高インダクタンス値を実現するため、ワイヤ集合体部分のターン数を増やすことが有効である。
【0007】
しかしながら、撚線状態のワイヤ集合体部分を巻回しようとするとき、撚線自体が有する形態、すなわち、撚り合わされる2本のワイヤが形成する凹凸状の外周面に起因して、ワイヤ集合体部分を巻芯部上で隙間なく、きれいに整列させることができない。言い換えると、ワイヤ集合体部分を巻芯部のまわりに巻回すると、無駄なスペースが生じやすい。そのため、所定の寸法を有する巻芯部のまわりにワイヤ集合体部分を巻回する場合には、単線状態のワイヤを整列させて巻回する場合と比較し、ターン数が少なくならざるを得ない。その結果、高インダクタンス値を望むことは困難である。
【0008】
そこで、ワイヤ集合体部分のターン数を増やすため、撚線状態のワイヤ集合体部分を2層以上で巻回する構造をとることが考えられる。これについて、以下に
図18ないし
図20を参照して説明する。
【0009】
なお、
図17は、本件図面において採用された2本のワイヤからなるワイヤ集合体部分の図示態様を説明するためのもので、(A)には、第1のワイヤ41および第2のワイヤ42がZ撚りにされた撚線43zが拡大された正面図で示され、(B)には、第1のワイヤ41および第2のワイヤ42がS撚りにされた撚線43sが拡大された正面図で示されている。本件図面では、撚線43zおよび撚線43sのいずれであっても、また、撚りが与えられない場合であっても、第1のワイヤ41および第2のワイヤ42からなるワイヤ集合体部分44は、
図17(C)に示すような単線状態で模式的に図示される。
【0010】
図18および
図19には、巻芯部45のまわりに巻回された第1および第2のワイヤ41および42からなるワイヤ集合体部分44が模式的に断面図で図示されている。ワイヤ集合体部分44の断面内に記入された数字は、ワイヤ集合体部分44の巻芯部45まわりでの巻回が何ターン目であるかを示す数字、すなわちターン序数である。なお、ワイヤ集合体部分44の各々の断面内へのターン序数の記入は、後述する同種の図面においても採用される。
【0011】
図18に示したコモンモードチョークコイル51mでは、ワイヤ集合体部分44は、巻芯部45の第1の端部46から第2の端部47に向かって、巻芯部45の周面に接する状態で第1ターン(以下、「ターン1」のように表現する。)からターン16まで単一層をもって巻回されている。他方、
図19に示したコモンモードチョークコイル51nでは、ワイヤ集合体部分44は、巻芯部45の第1の端部46から第2の端部47に向かって、巻芯部45の周面に接する状態でターン1からターン16まで巻回された後、巻芯部45の第1の端部46近傍まで戻され、ターン1からターン16からなる内層部分の外周側に外層部分を構成するようにターン17からターン31まで巻回されている。
【0012】
ここで、本件発明者らは、
図18に示したコモンモードチョークコイル51mと比較し、
図19に示したコモンモードチョークコイル51nでは、モード変換特性であるSds21が悪化することを発見した。
【0013】
図18に示した単一層で16ターンのワイヤ集合体部分44を備えるコモンモードチョークコイル51m(比較例1)と、
図19に示した2層で31ターンのワイヤ集合体部分44を備えるコモンモードチョークコイル51n(比較例2)と、について、モード変換特性を評価するため、Sパラメータ、より特定的にはSds21の周波数特性を求めたものが
図20に示されている。
【0014】
図20からわかるように、点線で示した比較例1に比べて、実線で示した比較例2では、より高レベルのSds21値を示し、モード変換特性が大きく悪化している。すなわち、比較例2によれば、比較例1に比べて、ワイヤ集合体部分44のターン数が多く、より高いインダクタンス値が得られることが容易に推測することができるものの、モード変換特性については大きく悪化することがわかった。
【0015】
同種の問題は、コモンモードチョークコイルに限らず、巻芯部のまわりにおいて互いに同じ方向に共に巻回されるワイヤ集合体部分を有する2本のワイヤを備える、バランやトランスなどのコイル部品においても遭遇し得る。
【0016】
そこで、この発明の目的は、外形を単純に大きくすることなく、高いインダクタンス値を得るためにワイヤのターン数を増やしながらも、良好なモード変換特性を得ることができるコイル部品を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明は、巻芯部ならびに巻芯部の互いに逆の第1および第2の端部にそれぞれ設けられた第1および第2の鍔部を有するドラム状コアと、巻芯部のまわりに巻回された互いに電気的に接続されていない第1および第2のワイヤと、を備える、コイル部品に向けられる。第1および第2のワイヤは、巻芯部のまわりで互いに同じ方向に共に巻回されたワイヤ集合体部分を有する。
【0018】
このようなコイル部品において、上述した技術的課題を解決するため、この発明では、ワイヤを以下のようにして巻回することを特徴としている。
【0019】
すなわち、この発明では、第1ないし第
3の局面があるが、これら局面に共通して、ワイヤ集合体部分は、第1および第2のワイヤが互いに撚り合わされた状態の撚線部分を有し、
(A)巻芯部の周面に接する状態で巻回された内層部分と、
(B)内層部分の外周側に巻回された外層部分と、
(C)内層部分から外層部分へと移行される外向き移行部分と、
(D)外層部分から内層部分へと移行される内向き移行部分と、
を構成しており、
上記外層部分は、上記内層部分の巻回中心軸方向での中間位置から上記外向き移行部分によって引き出されかつ上記内向き移行部分によって内層部分の上記中間位置に戻されるワイヤ集合体部分によって構成された第1の外層部分を含むことを特徴としている。
【0020】
上述の第1の外層部分は、外形を単純に大きくすることなく、第1および第2のワイヤの全体としてのターン数を増やすことに寄与する。また、第1の外層部分は、内層部分の巻回中心軸方向での中間位置から引き出されかつ上記中間位置に戻されるワイヤ集合体部分によって構成されるので、第1の外層部分を構成するワイヤ集合体部分とその内側に位置する内層部分を構成するワイヤ集合体部分との間で隣り合うターン間でのターン序数の差は、
図19に示した比較例2の場合に比べて小さくすることができる。したがって、第1のワイヤおよび第2のワイヤによって発生するコモンモード信号に対する線間容量の合成容量値についても、
図19に示した比較例2の場合に比べて小さくすることができる。
【0021】
なお、本件において、「巻芯部のまわり」とは、巻芯部の周面に接する直上部分だけでなく、ワイヤなどの部材を介した巻芯部の上方部分も含む。また、「内層部分の巻回中心軸方向での中間位置」とは、内層部分の始端および終端を除いた任意の位置であり、必ずしも内層部分の中央部分を指すものではない。さらに、中間位置は、点ではなく、広がりを持った範囲としてもよく、たとえば、第1の外層部分について、引き出される中間位置と、戻される中間位置とは厳密に点として一致する必要はなく、引き出される点から戻される点までの範囲を中間位置としてもよい。
【0022】
この発明において、好ましくは、巻芯部のまわりのワイヤ集合体部分は、複数箇所で第1の外層部分を構成するようにされる。このようにすれば、モード変換特性の悪化を抑制しながら、ワイヤ集合体部分のターン数を増やすことができ、それによって、インダクタンス値の向上を図ることができる。
【0023】
また、外層部分は、内層部分の第2の端部側の位置から外向き移行部分によって引き出されるワイヤ集合体部分によって構成された第2の外層部分をさらに含むことも好ましい。この第2の外層部分によっても、モード変換特性の悪化を抑制しながら、ワイヤ集合体部分のターン数を増やすことができ、それによって、インダクタンス値の向上を図ることができる。なお、上述の場合、第2の外層部分の第2の端部側において、巻芯部の直上に巻回されるワイヤ集合体部分がさらに存在していてもよい。
【0024】
この発明
の第1および第2の局面にあっては、内層部分では、ワイヤ集合体部分は第1の端部側から第2の端部側に向かって巻回されるが、外層部分では、
特に第1の局面にあっては、ワイヤ集合体部分は、第1の端部側から第2の端部側に向かって巻回され
、特に第2の局面にあっては、逆に第2の端部側から第1の端部側に向かって巻回され
る。特に、前者の場合、後者の場合に比べて、外層部分を構成するワイヤ集合体部分とその内側に位置する内層部分を構成するワイヤ集合体部分との間で隣り合うターン間でのターン序数の差をより小さくすることができる。一方、後者の場合、前者の場合に比べて、外向き移行部分を短くすることができ、特性ばらつきの低減や小型化、信頼性および製造効率の向上などを図ることができる。
【0025】
この発明において、外向き移行部分は、巻芯部のまわりにおいて、2箇所以上かつ5箇所以下存在することが好ましい。外向き移行部分の数がより多くなるほど、内層部分と外層部分との間で線間容量が発生する部分におけるターン序数の差を小さくすることができる。
【0026】
この発明において、ワイヤ集合体部分の巻芯部のまわりでのターン数は15以上であることが好ましい。たとえば、このとき、平面寸法が4.5mm×3.2mmのコモンモードチョークコイルにおいて、50μH以上のインダクタンス値を得ることができる。
【0027】
この発明
の第3の局面では、第1および第2のワイヤの撚線部分では、1ターンあたりの撚り数が0.5以上かつ8以下であ
る。このように、撚り数を一定以上とすることにより、モード変換特性向上効果を高めることができる。また、撚り数を一定以下とすることにより、コイル部品の信頼性および製造効率の確保を図ることができる。
【0028】
ワイヤ集合体部分は、少なくとも内層部分と外層部分との双方で撚線部分となっていることが好ましい。このように、撚線部分が増えることにより、特性を向上させることができる。
【0031】
外向き移行部分および内向き移行部分は、それらが存在する部分で、ワイヤ集合体部分の巻回体を部分的に大きく膨らませてしまう可能性がある。上述したような構成によれば、ワイヤ集合体部分の巻回体の部分的な膨らみを、巻芯部における板状コアに対向する部分や当該部分の反対側の部分といったスペース的に制約を受けやすい部分を避けて位置させることができる。その結果、同じ外形であっても、巻芯部をより太くすることができ、それによって、電気的特性の向上および機械的強度の向上を図ることができる。また、上述したワイヤ集合体部分の巻回体の部分的な膨らみを、巻芯部における板状コアに対向する部分の反対側の部分に存在しないようにすれば、存在する場合に比べて、ワイヤと実装基板との間の距離を大きくできるので、ワイヤと実装基板との間に生じる浮遊容量を低減することができるとともに、ノイズ入放射の影響を低減することができる。
【0032】
この発明において、巻芯部の、巻回中心軸に垂直な断面形状は、円形、楕円形または角がアール面取りされた多角形であることが好ましい。巻芯部の断面形状をこのように選ぶことにより、ワイヤ集合体部分の巻回形状が崩れにくくなり、第1のワイヤと第2のワイヤとのバランスを良好に保つことが容易になる。特に、撚線部分では巻回形状が崩れやすく、上記巻芯部の断面形状の選択は、撚線部分を有さない場合よりもはるかに大きな効果を発揮する。
【発明の効果】
【0033】
この発明によれば、外形を単純に大きくすることなく、高いインダクタンス値を得ることができるとともに、良好なモード変換特性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[第1の実施形態]
図1および
図2を参照して、この発明の第1の実施形態によるコイル部品としてのコモンモードチョークコイル51について説明する。なお、
図1および
図2において、前述した
図17ないし
図19に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付している。
【0036】
コモンモードチョークコイル51は、ドラム状コア52と、それぞれインダクタを構成する第1および第2のワイヤ41および42と、を備えている。
図1では、第1および第2のワイヤ41および42の各々の両端部のみが図示されていて、中間部については、
図17を参照して前述したとおり、第1のワイヤ41と第2のワイヤ42とからなるワイヤ集合体部分44として、単線状態で模式的に図示されている。ドラム状コア52は、電気絶縁性材料、より具体的には、アルミナのような非磁性体、Ni−Zn系フェライトのような磁性体、または樹脂などから構成される。ワイヤ41および42は、たとえば、絶縁被覆された銅線から構成される。
【0037】
ドラム状コア52は、巻芯部45ならびに巻芯部45の互いに逆の第1および第2の端部46および47にそれぞれ設けられた第1および第2の鍔部53および54を有する。第1および第2のワイヤ41および42は、その大部分がワイヤ集合体部分44として模式的に図示されているように、巻芯部45のまわりにおいて第1の鍔部53側の第1の端部46と第2の鍔部54側の第2の端部47との間で、互いに同じ方向に共に並行しながら螺旋状に巻回されている。なお、第1および第2のワイヤ41および42は、通常、互いに実質的に同じターン数を有する。
【0038】
第1の鍔部53には、第1および第2の端子電極55および56が設けられ、第2の鍔部54には、第3および第4の端子電極57および58が設けられる。端子電極55〜58は、たとえば、導電性ペーストの焼付け、導電性金属のめっき、導電性金属片の貼付け等によって形成される。
【0039】
第1のワイヤ41の各端部は、それぞれ、第1および第3の端子電極55および57に接続され、第2のワイヤ42の各端部は、それぞれ、第2および第4の端子電極56および58に接続される。これらの接続には、たとえば、熱圧着や溶接が適用される。
【0040】
コモンモードチョークコイル51は、さらに、板状コア59を備える。板状コア59は、ドラム状コア52と同様、たとえば、アルミナのような非磁性体、Ni−Zn系フェライトのような磁性体、または樹脂などから構成される。ドラム状コア52および板状コア59が磁性体からなるとき、板状コア59が第1および第2の鍔部53および54間を連結するように設けられることによって、ドラム状コア52は、板状コア59と協働して、閉磁路を構成する。
【0041】
以上のような構成を有するコモンモードチョークコイル51における第1および第2のワイヤ41および42からなるワイヤ集合体部分44の巻回状態が
図2に模式的断面図で示されている。なお、
図1および
図2は模式図であるため、ワイヤ集合体部分44のターン数に関して、
図1に示したものと
図2に示したものとは一致していないが、ワイヤ集合体部分44の巻回状態の説明は、主として
図2を参照して行なう。
【0042】
ワイヤ集合体部分44は、第1および第2のワイヤ41および42が互いに撚り合わされた状態の撚線部分を有し、
(A)第1の端部46側を始端として巻芯部45の周面に接する状態で巻回された内層部分Nと、
(B)内層部分Nの外周側に巻回された外層部分Gと、
(C)内層部分Nから外層部分Gへと移行される外向き移行部分Sと、
(D)外層部分Gから内層部分Nへと移行される内向き移行部分Tと、
を構成している。
【0043】
上述の外層部分Gは、
内層部分Nの巻回中心軸方向での中間位置から外向き移行部分Sによって引き出されかつ内向き移行部分Tによって内層部分Nの上記中間位置に戻されるワイヤ集合体部分44によって構成される2つの第1の外層部分Gaと、
内層部分Nの第2の端部47側の終端位置から外向き移行部分Sによって引き出されるワイヤ集合体部分44によって構成される第2の外層部分Gbとに分類される。
【0044】
以下、ワイヤ集合体部分44の巻回態様を、ワイヤ集合体部分44の、巻芯部45上でのターン序数に従って説明すると、まず、ターン1〜5によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン5からターン6へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン6〜9によって1つ目の第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン9からターン10へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0045】
次に、ターン10〜15によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン15からターン16へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン16〜21によって2つ目の第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン21からターン22へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0046】
次に、ターン22〜26によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン26からターン27へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン27〜31によって第2の外層部分Gbが構成される。
【0047】
上述したワイヤ集合体部分44の一方端は、
図1に示すように、第1のワイヤ41と第2のワイヤ42とに分けられ、それぞれ、第1および第2の端子電極55および56に接続される。ワイヤ集合体部分44の他方端においても、第1のワイヤ41と第2のワイヤ42とに分けられ、それぞれ、第3および第4の端子電極57および58に接続される。
【0048】
図1(A)において、ワイヤ集合体部分44が構成する外層部分Gが一部破断されて図示され、破断された箇所に内層部分Nが見えている。そして、前述した外向き移行部分Sについても、内層部分Nのいくつかのターンを横切るように延びている状態を見ることができる。なお、念のため、当該破断箇所は、説明のために図示したものであって、実際のコモンモードチョークコイル51には当該破断箇所は存在しない。
【0049】
外向き移行部分Sおよび内向き移行部分Tは、巻芯部45上で0.5ターン未満の範囲で延びている。
【0050】
この実施形態は、以下のような特徴を備えている。
【0051】
まず、ワイヤ集合体部分44は、複数箇所、具体的には2箇所で第1の外層部分Gaを構成している。このことは、モード変換特性の悪化を抑制しながら、ワイヤ集合体部分44のターン数を増やすことを可能にし、それによって、インダクタンス値の向上を図ることを可能にする。
【0052】
また、外層部分Gとして、第1の外層部分Gaだけでなく、第2の外層部分Gbをも備えている。このことも、モード変換特性の悪化を抑制しながら、ワイヤ集合体部分のターン数を増やすことに寄与する。
【0053】
また、外層部分Gでは、ワイヤ集合体部分44は、第1の端部46側から第2の端部47側に向かって巻回されている。そのため、ワイヤ集合体部分44が第2の端部47側から第1の端部46側に向かって巻回されている場合(
図12参照)に比べて、外層部分Gを構成するワイヤ集合体部分44とその内側に位置する内層部分Nを構成するワイヤ集合体部分44との間で隣り合うターン間でのターン序数の差をより小さくすることができる。
【0054】
また、外向き移行部分Sは、巻芯部45のまわりにおいて、3箇所存在している。外向き移行部分Sの数がより多くなるほど、内層部分Nと外層部分Gとの間で線間容量が発生する部分におけるターン序数の差を小さくすることができ、ワイヤ集合体部分44の有するコモンモード信号に対する合成寄生容量を小さくすることができる。したがって、これにより、モード変換特性の悪化を抑制しつつ、インダクタンス値の向上を図ることができる。
【0055】
また、ワイヤ集合体部分44の巻芯部45上でのターン数は15以上の31である。ターン数が15以上といった構成は、コモンモードチョークコイル51において、平面寸法が4.5mm×3.2mmとしたとき、50μH以上のインダクタンス値を得ることを可能にする。
【0056】
また、図示されないが、第1および第2のワイヤ41および42の撚線部分では、1ターンあたりの撚り数が0.5以上かつ8以下とされ、好ましくは、4以上かつ8以下とされる。このように、撚り数を所定数以上とすることにより、モード変換特性向上効果を高めることができる。また、撚り数を所定数以下とすることにより、コモンモードチョークコイル51の信頼性および製造効率の確保を図ることができる。
【0057】
また、図示されないが、外向き移行部分Sおよび内向き移行部分Tでは、第1および第2のワイヤ41および42に撚りが与えられない。外向き移行部分Sはその上に外
層部分Gが巻回される部分であり、内向き移行部分Tはワイヤ集合体部分44の最外周となる部分であって、いずれの部分SおよびTもワイヤ集合体部分44の巻回状態を左右する部分である。したがって、当該部分を巻回状態の乱れが大きい撚線部分としないことにより、ワイヤ集合体部分44の巻回状態をより整ったものとして、ばらつきを低減することができる。また、生産工程において、ワイヤ集合体部分44の巻回を安定して行なうことができる。
【0058】
また、図示されないが、ワイヤ集合体部分44の巻回の途中で、ワイヤ集合体部分44に与えられる撚りの方向を
図17(A)に示すZ撚りと同(B)に示すS撚りとの間で切り換えてもよい。このような撚りの方向の切換えは、たとえば特許第5239822号公報において記載された方法を適用すれば、容易に達成できる。
【0059】
また、
図1(A)に示した外向き移行部分Sの位置からわかるように、外向き移行部分Sおよび内向き移行部分Tは、巻芯部45における板状コア59に対向する部分および当該部分の反対側の部分のいずれにも存在しないようにされる。外向き移行部分Sおよび内向き移行部分Tは、それらが存在する部分で、ワイヤ集合体部分44の巻回体を部分的に膨らませてしまう可能性がある。上述したような構成によれば、ワイヤ集合体部分44の巻回体の部分的な膨らみを、巻芯部45における板状コア59に対向する部分や当該部分の反対側の部分といったスペース的に制約を受けやすい部分を避けて位置させることができる。その結果、同じ外形であっても、巻芯部45をより太くすることができ、それによって、電気的特性の向上および機械的強度の向上を図ることができる。
【0060】
以上の特徴は、特に断らない限り、他の実施形態についても当てはまる。
【0061】
図1および
図2に示したコモンモードチョークコイル51のSパラメータ(Sds21)の周波数特性が
図3に示されている。コモンモードチョークコイル51のモード変換特性の評価を容易にするため、
図3では、
図20でも示した、
図18のコモンモードチョークコイル(比較例1)のSds21と
図19のコモンモードチョークコイル(比較例2)のSds21とが併せて示されている。
図3において、コモンモードチョークコイル51(実施例1)のSds21は実線で、比較例1のSds21は点線で、比較例2のSds21は一点鎖線でそれぞれ示されている。
【0062】
図3に示すように、モード変換特性(Sds21)は、比較例1が最も良好で、次いで、実施例1、比較例2の順に値が高くなっている。
【0063】
前述したように、比較例1では、ワイヤ集合体部分44が単一層をもって巻回されているので、内層側と外層側との間でのワイヤ集合体部分44の線間容量は発生し得ないため、モード変換特性が最も良好である。他方、実施例1および比較例2では、内層側と外層側との間でのワイヤ集合体部分44の線間容量は発生する。そのため、モード変換特性については、実施例1および比較例2は比較例1より劣る。
【0064】
実施例1と比較例2とで比較すると、内層側にあるワイヤ集合体部分44と外層側にあるワイヤ集合体部分44との間でのターン序数の差は、比較例2より実施例1の方が小さい。
【0065】
すなわち、実施例1では、たとえば、内層側にあるワイヤ集合体部分44のターン2に対して、外層側にあるワイヤ集合体部分44のターン6およびターン7が隣接している。また、内層側にあるワイヤ集合体部分44のターン10に対して、外層側にあるワイヤ集合体部分44のターン16およびターン17が隣接している。また、内層側にあるワイヤ集合体部分44のターン22に対して、外層側にあるワイヤ集合体部分44のターン27およびターン28が隣接している。したがって、内層側にあるワイヤ集合体部分44と外層側にあるワイヤ集合体部分44との間でのターン序数の差は、4ないし7である。
【0066】
これに対して、比較例2では、内層側にあるワイヤ集合体部分44のターン2に対して、外層側にあるワイヤ集合体部分44のターン17およびターン18が隣接している。したがって、内層側にあるワイヤ集合体部分44と外層側にあるワイヤ集合体部分44との間でのターン序数の差は、15ないし16と大きい。
【0067】
そのため、ワイヤ集合体部分44全体が有するコモンモード信号に対する線間容量は、比較例2より実施例1の方が小さい。この線間容量の差が起因して、モード変換特性は、比較例2より実施例1の方が良好となったものと推測される。
【0068】
以下、上記推測の根拠となったデータを示す。
【0069】
図4には、上記実施例1と上記比較例2とについて、モード変換特性の構成パラメータであるS21とS31との差分であるS21−S31の周波数特性が、(A)実数部と(B)虚数部とに分けて示されている。
図4に示したS21−S31は、(A)実数部と(B)虚数部とのいずれにおいても、0に近いほど、モード変換特性が良好であると評価できる。
図5には、実施例1と比較例2とについて、コモンモード時のコイル全体の寄生容量の周波数特性が示されている。
【0070】
通常は、
図4に示したS21−S31と
図5に示したコモンモード容量との間に何らかの関連があると想像できるものではなかった。しかしながら、本件発明者らは、比較例2について、
図4に示したS21−S31と
図5に示したコモンモード容量とを参照すると、コモンモード容量がピークとなっている周波数域で、S21−S31が0から大きく離れ、モード変換特性が悪化していることを発見した。他方、実施例1では、
図5に示したコモンモード容量特性に目立ったピークは現れず、
図4に示したS21−S31については、比較例2に比べて、0により近く、モード変換特性が良好であることがわかった。
【0071】
このように、本件発明者らは、
図4に示したS21−S31と
図5に示したコモンモード容量との間に関連性があることを見出した。
【0072】
そこで、本件発明者らは、コモンモード容量のピークを低減しよう(増加しないようにしよう)と検討するなかで、コモンモード時には、ワイヤ集合体部分をなす2本のワイヤには、信号が同相で伝搬されるため、同じターン序数の2本のワイヤの間では互いに同電位であるので寄生容量は発生しないことから、2本のワイヤが撚り合わされた撚線状態であっても、単線でのコモンモード時の容量低減と同じ考え方を採用できるのではないか、ということに想到した。
【0073】
すなわち、比較例2では、ワイヤ集合体部分44が2層で巻回されるが、前述したように、内層側にあるワイヤ集合体部分44と外層側にあるワイヤ集合体部分44との間でのターン序数の差が大きい。隣接するターン間において、ターン序数の差が大きくなると、コモンモードチョークコイル全体で見た寄生容量値における、これらのターン間に発生する線間容量の相対的影響が大きくなり、それに応じて、大きな線間容量が発生する。
【0074】
これに対して、実施例1では、第1の外層部分Gaは、内層部分Nの巻回中心軸方向での中間位置から引き出されかつ上記中間位置に戻されるワイヤ集合体部分44によって構成されるので、第1の外層部分Gaを構成するワイヤ集合体部分44とその内側に位置する内層部分Nを構成するワイヤ集合体部分44との間で隣り合うターン間でのターン序数の差は、比較例2の場合に比べて小さくすることができる。したがって、実施例1でのコモンモード容量は、
図5に示すように、比較例2の場合に比べて小さくすることができる。
【0075】
なお、参考のため、
図18に示した比較例1では、ワイヤ集合体部分44が単一層をもって巻回されているので、上述したようなワイヤ集合体部分44が内層側と外層側とに存在するといった構成はとらない。すなわち、連続するターン序数間の線間容量(すなわち直列容量)のみ発生し、総寄生容量に大きな影響を与えるターン序数の差が大きい線間容量(並列容量)が発生せず、総寄生容量は小さい。
【0076】
一方、ワイヤ集合体部分44のターン数を比較すると、実施例1および比較例2は31であるのに対し、比較例1は16と少ない。したがって、インダクタンス値については、実施例1および比較例2は比較例1より高いことが容易に推測できる。
【0077】
以上の点から総合的に判断すると、実施例1のみが良好なモード変換特性および高いインダクタンス値の両立が可能であることがわかる。
【0078】
[第2の実施形態]
次に、
図6を参照して、この発明の第2の実施形態によるコモンモードチョークコイル51aについて説明する。
図6ならびに後述する
図8ないし
図15において、
図2に示した要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0079】
コモンモードチョークコイル51aは、上述したコモンモードチョークコイル51と比較して、ワイヤ集合体部分44のターン数が多い。すなわち、ターン数は37とされる。また、コモンモードチョークコイル51では、外向き移行部分Sが巻芯部45のまわりにおいて3箇所存在していたが、コモンモードチョークコイル51aでは、5箇所存在する。したがって、コモンモードチョークコイル51aでは、5つの外層部分G、より詳細には、4つの第1の外層部分Gaおよび1つの第2の外層部分Gbが形成される。
【0080】
コモンモードチョークコイル51aについて、ワイヤ集合体部分44の巻回態様を、ワイヤ集合体部分44の、巻芯部45上でのターン序数に従って説明すると、まず、ターン1〜4によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン4からターン5へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン5〜7によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン7からターン8へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0081】
次に、ターン8〜11によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン11からターン12へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン12〜15によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン15からターン16へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0082】
次に、ターン16〜19によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン19からターン20へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン20〜23によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン23からターン24へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0083】
次に、ターン24〜27によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン27からターン28へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン28〜31によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン31からターン32へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0084】
次に、ターン32〜34によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン34からターン35へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン35〜37によって第2の外層部分Gbが構成される。
【0085】
コモンモードチョークコイル51aのSds21の周波数特性が
図7に示されている。なお、
図7では、コモンモードチョークコイル51a(実施例2)のモード変換特性の評価を容易にするため、
図3でも示した、コモンモードチョークコイル51(実施例1)のSds21が併せて示されている。
図7において、コモンモードチョークコイル51(実施例1)のSds21は実線で、コモンモードチョークコイル51a(実施例2)のSds21は点線でそれぞれ示されている。
【0086】
図7に示すように、モード変換特性(Sds21)について、実施例2は実施例1より改善が見られる。このような改善は、実施例2では、実施例1に比べて、外向き移行部分Sの数が多く、内層部分Nと外層部分Gとの間で線間容量が発生する部分におけるターン序数の差を小さくすることができたためであると推測される。
【0087】
[第3の実施形態]
次に、
図8を参照して、この発明の第3の実施形態によるコモンモードチョークコイル51bについて説明する。
【0088】
コモンモードチョークコイル51bは、たとえば
図2に示したコモンモードチョークコイル51と比較して、ワイヤ集合体部分44のターン数が同じでありながら、外向き移行部分Sおよび内向き移行部分Tの数が多い。
【0089】
コモンモードチョークコイル51bについて、ワイヤ集合体部分44の巻回態様を、ワイヤ集合体部分44の、巻芯部45上でのターン序数に従って説明すると、まず、ターン1〜2によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン2からターン3へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン3によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン3からターン4へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0090】
次に、ターン4〜5によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン5からターン6へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン6〜7によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン7からターン8へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0091】
その後、同様の巻回状態が繰り返され、最終的に、ターン28〜29によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン29からターン30へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン30〜31によって第2の外層部分Gbが構成される。
【0092】
この第3の実施形態によれば、前述の第1の実施形態に比べて、外向き移行部分Sの数が8と多く、その結果、内層部分Nと外層部分Gとの間で線間容量が発生する部分におけるターン序数の差を小さくすることができる。
【0093】
[第4の実施形態]
次に、
図9を参照して、この発明の第4の実施形態によるコモンモードチョークコイル51cについて説明する。
【0094】
コモンモードチョークコイル51cは、たとえば
図8に示したコモンモードチョークコイル51bと比較して、ワイヤ集合体部分44のターン数が同じでありながら、外向き移行部分Sおよび内向き移行部分Tの数がさらに多くされている。
【0095】
コモンモードチョークコイル51cについて、ワイヤ集合体部分44の巻回態様を、ワイヤ集合体部分44の、巻芯部45上でのターン序数に従って説明すると、まず、ターン1〜2によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン2からターン3へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン3によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン3からターン4へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0096】
次に、ターン4によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン4からターン5へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン5によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン5からターン6へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0097】
その後、同様の巻回状態が繰り返され、最終的に、ターン30によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン30からターン31へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン31によって第2の外層部分Gbが構成される。
【0098】
この第4の実施形態によれば、上述の第3の実施形態に比べて、外向き移行部分Sの数が15とより多く、その結果、内層部分Nと外層部分Gとの間で線間容量が発生する部分におけるターン序数の差をさらに小さくすることができる。
【0099】
[第5の実施形態]
次に、
図10を参照して、この発明の第5の実施形態によるコモンモードチョークコイル51dについて説明する。
【0100】
コモンモードチョークコイル51dは、たとえば
図2に示したコモンモードチョークコイル51と比較して、ワイヤ集合体部分44のターン数が少ないが、外向き移行部分Sおよび内向き移行部分Tの数が同じである。そして、コモンモードチョークコイル51dでは、内層部分Nおよび外層部分Gについて、3つのグループに分けられ、隣り合うグループ間においてスペースが設けられている。
【0101】
コモンモードチョークコイル51dについて、ワイヤ集合体部分44の巻回態様を、ワイヤ集合体部分44の、巻芯部45上でのターン序数に従って説明すると、まず、ターン1〜5によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン5からターン6へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン6〜9によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン9からターン10へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。ターン9とターン10との間にはスペースが設けられる。
【0102】
次に、ターン10〜14によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン14からターン15へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン15〜18によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン18からターン19へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。ターン18とターン19との間にはスペースが設けられる。
【0103】
次に、ターン19〜22によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン22からターン23へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン23〜25によって第2の外層部分Gbが構成される。
【0104】
この第5の実施形態は、この発明の実施形態の多様化に寄与するものである。具体的には、第5の実施形態のように、外向き移行部分Sによって引き出される位置および内向き移行部分Tによって戻される位置である内層部分Nの中間位置は、点ではなく、広がりを持った範囲としてもよいことを示している。すなわち、当該2つの位置は、厳密に点として一致する必要はなく、引き出される点から戻される点までの範囲、たとえば第5の実施形態のターン5からターン10までの範囲、ターン14からターン19までの範囲それぞれを中間位置としてもよい。
【0105】
[第6の実施形態]
次に、
図11を参照して、この発明の第6の実施形態によるコモンモードチョークコイル51eについて説明する。
【0106】
コモンモードチョークコイル51eは、たとえば
図2に示したコモンモードチョークコイル51と比較して、第2の外層部分Gbが存在せず、その分、ワイヤ集合体部分44のターン数が少ない。コモンモードチョークコイル51eにおいて、ワイヤ集合体部分44の巻回態様は、ターン1からターン26までは、
図2に示したコモンモードチョークコイル51と同様である。そして、ターン26が最終ターンとされる。
【0107】
この第6の実施形態は、この発明の実施形態の多様化に寄与するものである。
【0108】
[第7の実施形態]
次に、
図12を参照して、この発明の第7の実施形態によるコモンモードチョークコイル51fについて説明する。
【0109】
コモンモードチョークコイル51fは、たとえば
図2に示したコモンモードチョークコイル51と比較して、ワイヤ集合体部分44のターン数が同じであるが、外層部分Gの巻回方向が逆である。すなわち、外層部分Gでは、ワイヤ集合体部分44は、第2の端部47側から第1の端部46側に向かって巻回される。
【0110】
コモンモードチョークコイル51fについて、ワイヤ集合体部分44の巻回態様を、ワイヤ集合体部分44の、巻芯部45上でのターン序数に従って説明すると、まず、ターン1〜5によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン5からターン6へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン6〜9によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン9からターン10へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。上述したターン6〜9は、第2の端部47側から第1の端部46側に向かって巻回される。
【0111】
次に、ターン10〜15によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン15からターン16へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン16〜21によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン21からターン22へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。ここでも、上述したターン16〜21は、第2の端部47側から第1の端部46側に向かって巻回される。
【0112】
次に、ターン22〜26によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン26からターン27へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン27〜31によって第2の外層部分Gbが構成される。ターン27〜31についても、第2の端部47側から第1の端部46側に向かって巻回される。
【0113】
コモンモードチョークコイル51fの外層部分Gでは、ワイヤ集合体部分44は、第2の端部47側から第1の端部46側に向かって巻回されている。そのため、
図2のコモンモードチョークコイル51のように、ワイヤ集合体部分44が第1の端部46側から第2の端部47側に向かって巻回されている場合に比べて、外層部分Gを構成するワイヤ集合体部分44とその内側に位置する内層部分Nを構成するワイヤ集合体部分44との間で隣り合うターン間でのターン序数の差が、かなり大きくなる箇所がもたらされることは否めない。しかし、前述の
図19に示したものに比べれば、上記ターン序数の差を小さくすることができる。
【0114】
また、
図2のコモンモードチョークコイル51に比べて、外向き移行部分Sを短くすることができる。外向き移行部分Sは、内向き移行部分Tとは異なり、その上に外層部分Gが巻回される部分であり、外層部分Gの巻回状態に影響を与えやすい部分である。したがって、当該部分を短くすることで、コモンモードチョークコイル51fでは、巻回状態のばらつきを低減でき、特性ばらつきの低減や小型化、信頼性および生産効率の向上などを図ることができる。
【0115】
[第8の実施形態]
次に、
図13を参照して、この発明の第8の実施形態によるコモンモードチョークコイル51gについて説明する。
【0116】
コモンモードチョークコイル51gは、第1の端部46側に現れる最初の外層部分Gの始端となるターン3の位置に特徴がある。すなわち、ターン3は、第1の端部46側に現れる最初の内層部分Nの始端となるターン1より第1の端部46側にある。このような構成は、たとえば第1の鍔部53にターン3を当接させることにより実現させることができる。
【0117】
コモンモードチョークコイル51gについて、ワイヤ集合体部分44の巻回態様を、ワイヤ集合体部分44の、巻芯部45上でのターン序数に従って説明すると、まず、ターン1〜2によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン2からターン3へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン3〜4によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン4からターン5へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0118】
次に、ターン5〜6によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン6からターン7へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン7〜8によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン8からターン9へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0119】
その後、同様の巻回状態が繰り返される。
【0120】
この第8の実施形態は、この発明の実施形態の多様化に寄与するものである。
【0121】
[第9の実施形態]
次に、
図14を参照して、この発明の第9の実施形態によるコモンモードチョークコイル51hについて説明する。
【0122】
前述した第1ないし第8の実施形態では、内層部分Nを構成するワイヤ集合体部分44の隣り合うターン間に形成される凹部に、外層部分Gを構成するワイヤ集合体部分44を嵌り込ませていた。これに対して、第9の実施形態では、内層部分Nを構成するワイヤ集合体部分44の各ターンに対して、外層部分Gを構成するワイヤ集合体部分44の各ターンが巻芯部45の径方向に整列していることを特徴としている。このような整列状態は、単線状態のワイヤでは実現することが困難であるが、ワイヤ集合体部分44であれば、比較的容易に実現できる。なぜなら、ワイヤ集合体部分44の表面には互いに絡み合うことが可能な凹凸が形成されているからである。
【0123】
コモンモードチョークコイル51hについて、ワイヤ集合体部分44の巻回態様を、ワイヤ集合体部分44の、巻芯部45上でのターン序数に従って説明すると、まず、ターン1によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン1からターン2へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン2によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン2からターン3へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0124】
次に、ターン3によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン3からターン4へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン4によって第1の外層部分Gaが構成され、次いで、ターン4からターン5へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0125】
その後、同様の巻回状態が繰り返される。
【0126】
この第9の実施形態は、この発明の実施形態の多様化に寄与するものである。特に、第9の実施形態の場合、線間容量を発生させる部分におけるターン序数の差を特に小さくすることができる。また、第9の実施形態の場合、同じ巻芯部45の長さに対してワイヤ集合体部分44の巻回数をより多くできる。これにより、第9の実施形態では、良好なモード変換特性を得るとともに、高いインダクタンス値を得ることができる。
【0127】
[第10の実施形態]
次に、
図15を参照して、この発明の第10の実施形態によるコモンモードチョークコイル51iについて説明する。
【0128】
コモンモードチョークコイル51iでは、ワイヤ集合体部分44を3層に巻回したことを特徴としている。
【0129】
コモンモードチョークコイル51iについて、ワイヤ集合体部分44の巻回態様を、ワイヤ集合体部分44の、巻芯部45上でのターン序数に従って説明すると、まず、ターン1〜2によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン2からターン3へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン3によって中間層部分Cが構成され、次いで、ターン3からターン4へと移行する部分によって内向き移行部分Tが構成される。
【0130】
次に、ターン4〜5によって内層部分Nが構成され、次いで、ターン5からターン6へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成され、次いで、ターン6〜7によって中間層部分Cが構成され、次いで、ターン7からターン8へと移行する部分によって外向き移行部分Sが構成される。
【0131】
次に、ターン8〜9によって外層部分Gが構成され、その後、同様の巻回状態が繰り返される。
【0132】
この第10の実施形態は、この発明の実施形態の多様化に寄与するものである。
【0133】
図16には、巻芯部45の、巻回中心軸に垂直な断面形状についての好ましい例が示されている。
【0134】
巻芯部45の上記断面形状は、通常、矩形であるが、特に、これに限定されるものではない。しかしながら、巻芯部45の断面形状が、
図16(A)に示した円形、またはこれに近い形状、たとえば、
図16(B)示した楕円形または
図16(C)に示した角がアール面取りされた矩形のような多角形であるとき、ワイヤ集合体部分44の撚線状態および巻回形状が崩れにくくなるという利点を有している。特に、撚線部分では巻回形状が崩れやすく、上記のような巻芯部45の断面形状の選択は、撚線部分を有さない場合よりもはるかに大きな効果を発揮する。
【0135】
なお、
図1に示したコモンモードチョークコイル51では、第1の鍔部53に第1および第2の端子電極55および56が設けられ、第2の鍔部54に第3および第4の端子電極57および58が設けられたが、すべての端子電極がいずれか一方の鍔部に設けられていてもよい。
【0136】
以上、この発明を図示したコモンモードチョークコイルに係る実施形態に関連して説明したが、この発明はバランやトランスなどにも適用することができる。また、図示した各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0137】
また、ワイヤ集合体部分44は、第1および第2のワイヤ41および42が互いに撚り合わされた状態の撚線部分を少なくとも一部分に有すればよく、これにより撚線部分を全く有さない場合よりも、線間容量の不均衡による特性の悪化を低減することができる。なお、特性悪化の低減からは撚線部分の占める部分が大きい方が好ましい。特に、外向き移行部分Sおよび内向き移行部分Tを除いた部分、すなわち、内
層部分Nおよび外
層部分Gが撚線部分であることが好ましく、このとき巻回状態と特性のバランスを取ることができる。
【0138】
ただし、内
層部分Nまたは外
層部分Gの一方のみを撚線部分としてもよく、特に外
層部分Gのみを撚線部分とした場合は、ワイヤ集合体部分44が自身の上に巻回される内
層部分Nを巻回状態の乱れが小さい非撚線部分とすることができ、巻回状態の向上を図ることができる。
【0139】
また、上記実施形態では、巻芯部45のまわりに巻回された第1および第2のワイヤ41および42のほぼすべてをワイヤ集合体部分44としたが、これに限られず、ワイヤ集合体部分44は、巻芯部45のまわりに巻回された部分の一部であってもよい。すなわち、巻芯部45のまわりで、第1および第2のワイヤ41および42が異なる方向に巻回されるか、別々に巻回される箇所があってもよい。
【0140】
また、上記実施形態では、第1および第2のワイヤ41および42は、互いに実質的に同じターン数を有するとしたが、これに限られず、ターン数が異なっていてもよい。