特許第6746459号(P6746459)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746459
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷機
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20200817BHJP
【FI】
   B41J2/01 305
   B41J2/01 451
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-199005(P2016-199005)
(22)【出願日】2016年10月7日
(65)【公開番号】特開2018-58310(P2018-58310A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】新谷 栄一
(72)【発明者】
【氏名】島田 真典
【審査官】 長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−223790(JP,A)
【文献】 特開2006−154289(JP,A)
【文献】 特開2009−248559(JP,A)
【文献】 特開2011−56880(JP,A)
【文献】 特開2012−171766(JP,A)
【文献】 特開2007−261162(JP,A)
【文献】 米国特許第5397276(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷対象物(5)に接触しながら回転する回転体(1)と、
前記回転体(1)の表面の移動量を検出するロータリーエンコーダ(2)と、
前記回転体(1)から前記ロータリーエンコーダ(2)に回転を伝達する回転伝達機構(3)と、
前記ロータリーエンコーダ(2)で検出される前記回転体(1)の表面の移動量に応じたタイミングでインク(14)の粒子を吐出するインクジェットヘッド(4)とを有し、
前記回転伝達機構(3)は、前記回転体(1)の回転に伴って回転する円錐面(25)と、前記円錐面(25)に接触した状態で回転する円周面(26)と、前記円錐面(25)と前記円周面(26)を前記円錐面(25)の母線方向に相対変位させる回転伝達比調整部(23)とを有する、
インクジェット印刷機。
【請求項2】
前記インクジェットヘッド(4)は、互いに間隔をおいて配置された複数列のインク吐出口(13)を有する請求項1に記載のインクジェット印刷機。
【請求項3】
前記円錐面(25)の、軸方向と平行な方向に対する傾斜角が2°〜5°の範囲に設定されている請求項1または2に記載のインクジェット印刷機。
【請求項4】
前記回転伝達機構(3)は、前記回転体(1)の回転が入力される第1ローラ(20)と、前記ロータリーエンコーダ(2)の回転軸(21)と一体に回転するように前記回転軸(21)に接続された第2ローラ(22)とを有し、前記第1ローラ(20)の外周に前記円錐面(25)が設けられ、前記第2ローラ(22)の外周に前記円周面(26)が設けられ、
前記回転伝達比調整部(23)は、前記第1ローラ(20)を回転可能に支持する第1ローラ支持部材(27)と、前記第1ローラ支持部材(27)に前記円錐面(25)の母線方向に相対移動可能に連結されたエンコーダ支持部材(29)とを有し、そのエンコーダ支持部材(29)に前記ロータリーエンコーダ(2)が固定されている請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェット印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷対象物(例えば段ボールシート)に印刷を行なう印刷機として、一般に、フレキソ印刷機が用いられる。フレキソ印刷機は、印刷画像に相当する形状の凹凸を表面にもつ印版を使用し、その印版の表面にインクを塗布し、その印版を印刷対象物に接触させることで、印刷対象物への印刷を行なうものである。印版は、印刷する画像に応じて製作され、版胴の外周に着脱可能に装着される。印刷する画像は、版胴の外周の印版を取り替えることによって、変更することが可能である。
【0003】
ところで、フレキソ印刷機で印刷する場合、印刷する画像ごとに異なる印版が必要となる。そのため、比較的少ない枚数の印刷対象物に印刷を行なうときであっても、多数の印刷対象物に印刷を行なうときと同様に、新規に印版を製作する必要があり、コスト高であるという問題があった。
【0004】
またフレキソ印刷機においては、印刷する画像を変更するごとに、印版を交換する作業が必要である。そのため、特に、比較的少ない枚数の段ボールシートに印刷を行なうときは、段ボールシートに実際に印刷を行なっている時間に比較して印版の交換作業に要する時間の割合が大きいため、印刷コストが上昇しやすいという問題があった。
【0005】
そこで、本願の発明者は、フレキソ印刷機の上記問題を解消可能な印刷機として、特許文献1のようなインクジェット印刷機を使用することを検討した。
【0006】
特許文献1のインクジェット印刷機は、画像に対応するタイミングでインクジェットヘッドがインクの粒子を吐出することにより画像を形成するため、フレキソ印刷機のように印刷する画像ごとに異なる印版を製作する必要がなく、また印版の交換作業も不要である。
【0007】
そして、本願の発明者は、実際に社内において、印刷対象物に接触しながら回転する回転体と、その回転体の表面の移動量を検出するロータリーエンコーダと、そのロータリーエンコーダで検出される移動量に応じたタイミングでインクの粒子を吐出するインクジェットヘッドとを有するインクジェット印刷機を試作した。
【0008】
この結果、発明者は、次の問題があることを見出した。
【0009】
すなわち、ロータリーエンコーダの検出信号によるタイミングでインクジェットヘッドからインクの粒子を吐出して印刷を行なうとき、実用に耐える印刷精度を得るためには、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比を、きわめて高い精度をもって微調整する必要がある。例えば、印刷対象物の長さが1mある場合、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比に1%の誤差が存在するだけでも、印刷される位置が、本来の位置に対して最大10mm程度変動してしまうという問題がある。そして、この問題を解消するには、例えば、ロータリーエンコーダに回転を伝達する回転伝達経路の途中にあるローラの外径寸法を加工して調整し、このローラの外径寸法の調整によって、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比を微調整する方法が考えられるが、ローラの外径寸法を繰り返し加工して調整する作業は容易ではない。またロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比を、いったん正確に微調整したとしても、その後、回転体の表面の摩耗等により、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比が変動することがあり、この場合、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比を再調整する必要が生じる。
【0010】
また、回転体の表面の移動方向に間隔をおいて複数列のインク吐出口を有するインクジェットヘッドを用いる場合、その複数列のインク吐出口からそれぞれ吐出するインクで1つの画像(例えば、回転体の表面の移動方向に直交する方向に連続する直線)を形成することがある。このとき、インクジェットヘッドの最前列のインク吐出口と、最後列のインク吐出口との間には、数十ミリ程度の距離があり、最前列のインク吐出口からのインクの吐出タイミングと、最後列のインク吐出口からのインクの吐出タイミングとは、ロータリーエンコーダの検出信号を用いて同調制御される。ここで、例えば、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比に3%の誤差が存在すると、最前列のインク吐出口から吐出されるインクと、最後列のインク吐出口から吐出されるインクとの間に0.5mm以上のずれが生じ、その結果、画像の縁がぼやけたり、画像の線が曲がったりする問題が生じるということが分かった。この問題を解消するためにも、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比をきわめて高い精度をもって微調整する必要がある。
【0011】
上記の問題を解消する方法として、例えば、ロータリーエンコーダの検出信号をデータ処理することにより、インクジェットヘッドからのインクの吐出タイミングを補正する方法が考えられるが、実用的な印刷スピードを確保するためには、極めて短い時間(具体的にはμs単位)でデータ処理する必要があり、実現が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012−101371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明が解決しようとする課題は、高い精度をもって印刷することが可能なインクジェット印刷機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成のインクジェット印刷機を提供する。
具体的には、
印刷対象物に接触しながら回転する回転体と、
前記回転体の表面の移動量を検出するロータリーエンコーダと、
前記回転体から前記ロータリーエンコーダに回転を伝達する回転伝達機構と、
前記ロータリーエンコーダで検出される前記回転体の表面の移動量に応じたタイミングでインクの粒子を吐出するインクジェットヘッドとを有し、
前記回転伝達機構は、前記回転体の回転に伴って回転する円錐面と、前記円錐面に接触した状態で回転する円周面と、前記円錐面と前記円周面を前記円錐面の母線方向に相対変位させる回転伝達比調整部とを有する、
インクジェット印刷機を提供する。
【0015】
このようにすると、回転伝達比調整部で円錐面と円周面とを円錐面の母線方向に相対変位させることで、回転体からロータリーエンコーダに伝達する回転の回転伝達比を微調整することができる。そのため、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比をきわめて高い精度をもって微調整することが可能である。
【0016】
前記インクジェットヘッドとしては、互いに間隔をおいて配置された複数列のインク吐出口を有するものを採用することができる。
【0017】
このようにすると、複数列のインク吐出口からそれぞれ吐出するインクで1つの画像を形成するときに、各列のインク吐出口から吐出するインクの吐出タイミングを高い精度をもって同調制御することが可能となり、シャープな印刷が可能となる。
【0018】
前記円錐面の、軸方向と平行な方向に対する傾斜角は2°〜5°の範囲に設定すると好ましい。
【0019】
前記傾斜角を2°以上とすることにより、ロータリーエンコーダを微調整するときの作業効率を確保することが可能となる。また、前記傾斜角を5°以下とすることにより、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比を高い精度をもって微調整することが容易となる。
【0020】
前記回転伝達機構としては、前記回転体の回転が入力される第1ローラと、前記ロータリーエンコーダの回転軸と一体に回転するように前記回転軸に接続された第2ローラとを有し、前記第1ローラの外周に前記円錐面が設けられ、前記第2ローラの外周に前記円周面が設けられた構成のものを採用することができる。この場合、前記回転伝達比調整部としては、前記第1ローラを回転可能に支持する第1ローラ支持部材と、前記第1ローラ支持部材に前記円錐面の母線方向に相対移動可能に連結されたエンコーダ支持部材とを有し、そのエンコーダ支持部材に前記ロータリーエンコーダが固定されている構成のものを採用することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明のインクジェット印刷機は、回転伝達比調整部で円錐面と円周面とを円錐面の母線方向に相対変位させることで、回転体からロータリーエンコーダに伝達する回転の回転伝達比を微調整することができる。そのため、ロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比をきわめて高い精度をもって微調整することが可能であり、高い精度をもって印刷することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の実施形態のインクジェット印刷機を示す概要図
図2図1のII−II線に沿った拡大断面図
図3図1のロータリーエンコーダの近傍の拡大図
図4図3に示すロータリーエンコーダの近傍をベルトの移動方向の下流側から見た図
図5】(a)は、図1に示すロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比を微調整した後に直線を印刷したときの直線の一部を拡大して示す図、(b)は、図1に示すロータリーエンコーダの最小検出角度に対する印刷対象物の移動量の比を微調整する前に直線を印刷したときの直線の一部を拡大して示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に、この発明の実施形態のインクジェット印刷機を示す。このインクジェット印刷機は、図示しない駆動源で回転駆動されるベルト1と、ベルト1の表面の移動量を検出するロータリーエンコーダ2と、ベルト1からロータリーエンコーダ2に回転を伝達する回転伝達機構3と、ロータリーエンコーダ2で検出されるベルト1の表面の移動量に応じたタイミングでインクの粒子を吐出するインクジェットヘッド4とを有する。
【0024】
ベルト1は、無端状に形成され、複数のローラ6に巻き掛けられている。ベルト1は、ベルト1の上面に載せられた印刷対象物5を、その印刷対象物5がインクジェットヘッド4に対向する位置を通過するように搬送する。インクジェットヘッド4は、ベルト1の上面に対向する位置に固定して設けられている。印刷対象物5は、例えば、段ボールシートである。
【0025】
図2に示すように、インクジェットヘッド4は、ベルト1の表面の移動方向に間隔をおいて配置された複数列のインク吐出口13を有する。各列のインク吐出口13は、ベルト1の表面の移動方向に直交する方向(図の左右方向)に一列に並ぶ多数のインク吐出口13から構成されている。また、各列のインク吐出口13は、ベルト1の表面の移動方向(図の上下方向)に隣り合う列のインク吐出口13が、ベルト1の表面の移動方向に直交する方向(図の左右方向)に互いにずれた配置となるように設けられている。そして、この各列のインク吐出口13からインク14を吐出するときに、その吐出タイミングを同調させることで、各列のインク吐出口13から吐出したインク14を、ベルト1の表面の移動方向に直交する方向に並ぶ位置に付着させ、印刷対象物5の表面に1つの画像(例えば、ベルト1の表面の移動方向に直交する方向に連続する直線)を形成することが可能となっている。インクジェットヘッド4の最前列(図の一番下の列)のインク吐出口13と、最後列(図の一番上の列)のインク吐出口13との間の距離は、10〜50mmの範囲に設定されている。
【0026】
図3図4に示すように、回転伝達機構3は、ベルト1の回転が入力される第1ローラ20と、ロータリーエンコーダ2の回転軸21と一体に回転するように回転軸21に接続された第2ローラ22と、ベルト1からロータリーエンコーダ2に伝達する回転の回転伝達比を調整する回転伝達比調整部23とを有する。
【0027】
第1ローラ20の外周には、円筒面24と円錐面25が同軸に設けられている。円筒面24は、ベルト1に転がり接触している。ベルト1が回転したとき、円筒面24と円錐面25は、ベルト1の回転に伴って回転する。円錐面25の傾斜角(円錐面25の軸方向と平行な方向に対する円錐面25の傾斜角)は、2°〜5°の範囲に設定されている。
【0028】
第2ローラ22の外周には、第1ローラ20の円錐面25に接触する円周面26が設けられている。図では、円周面26として円筒状の面を採用した例を示したが、円錐面25の頂点と同じ位置かその近傍の位置を頂点とする円錐状の面を円周面26として採用することも可能である。
【0029】
回転伝達比調整部23は、第1ローラ20を回転可能に支持する第1ローラ支持部材27と、第1ローラ支持部材27にスライド機構28を介して円錐面25の母線方向に相対移動可能に連結されたエンコーダ支持部材29とを有する。エンコーダ支持部材29には、ロータリーエンコーダ2が固定されている。回転伝達比調整部23は、円錐面25と円周面26を円錐面25の母線方向に相対変位させることで、ベルト1からロータリーエンコーダ2に伝達する回転の回転伝達比を変化させる機構である。
【0030】
スライド機構28は、第1ローラ支持部材27に固定されたベースプレート30と、ベースプレート30に対して平行移動可能に支持されたスライドプレート31と、ベースプレート30に対するスライドプレート31の相対位置を調節する位置調整部32とを有する。位置調整部32は、回転操作用のつまみ33と、そのつまみ33の回転をスライドプレート31の平行移動に変換する送りねじ部34と、ベースプレート30に対するスライドプレート31の位置を保持するクランプ部35とを有する。第1ローラ支持部材27には、ベースプレート30を固定する傾斜座面36が形成されている。傾斜座面36は、第1ローラ20の円錐面25の第2ローラ22に対する接触部と同方向に傾斜した平坦面である。クランプ部35は、ベースプレート30に対するスライドプレート31の位置を保持するクランプ状態と、ベースプレート30に対するスライドプレート31の位置の保持を解除したクランプ解除状態とを外部操作で切り換える機構である。
【0031】
ところで、上記インクジェット印刷機において、実用に耐える印刷精度を得るためには、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比を、きわめて高い精度をもって微調整する必要がある。例えば、印刷対象物5の長さが1mある場合、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比に1%の誤差が存在するだけでも、印刷される位置が、本来の位置に対して最大10mm程度変動してしまう。そのため、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比を、きわめて高い精度をもって微調整する必要がある。またロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比を、いったん正確に微調整したときでも、その後、第1ローラ20の外周の円筒面24の摩耗等により、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比が変動することがあり、この場合、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比を再調整する必要が生じる。
【0032】
また、上記インクジェット印刷機は、インクジェットヘッド4が複数列のインク吐出口13を有するため、ロータリーエンコーダ2の検出信号に基づいて、インクジェットヘッド4の各列のインク吐出口13からのインクの吐出タイミングを同調制御し、図2に示すように、複数列のインク吐出口13からそれぞれ吐出するインク14で1つの画像(例えば、ベルト1の表面の移動方向に直交する方向に連続する直線)を形成することができる。ここで、例えば、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比に誤差が存在すると、最前列のインク吐出口13から吐出されるインク14と、最後列のインク吐出口13から吐出されるインク14との間にずれが生じ、その結果、画像の縁がぼやけたり、画像の線が曲がったりしてしまう。この問題を解消するため、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比を、高い精度をもって微調整する必要がある。
【0033】
そこで、上記実施形態のインクジェット印刷機においては、以下のようにしてロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比を微調整することが可能となっている。
【0034】
まず、図4に示すクランプ部35を操作することで、ベースプレート30に対するスライドプレート31の位置の保持を解除する。次に、位置調整部32のつまみ33を回転操作することによって、スライド機構28のスライドプレート31をベースプレート30に対して平行移動させる。これにより、第1ローラ20の円錐面25と第2ローラ22の円周面26とが、円錐面25の母線方向に相対変位し、ベルト1からロータリーエンコーダ2に伝達する回転の回転伝達比が変化する。具体的には、第2ローラ22を第1ローラ20の円錐面25の大径側に相対移動させることで、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比が小さくなる方向に回転伝達比が変化し、第2ローラ22を第1ローラ20の円錐面25の小径側に相対移動させることで、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比が大きくなる方向に回転伝達比が変化する。ここで、円錐面25の傾斜角が2°以上とされているため、ロータリーエンコーダ2を微調整するときの作業効率が確保され、一方、円錐面25の傾斜角が5°以下とされているため、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比を高い精度をもって微調整することが容易となっている。その後、再びクランプ部35を操作することで、ベースプレート30に対するスライドプレート31の位置を保持する。このようにして、ベルト1からロータリーエンコーダ2に伝達する回転の回転伝達比を微調整し、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比をきわめて高い精度をもって微調整することができる。
【0035】
このインクジェット印刷機は、上記のように回転伝達比調整部23で円錐面25と円周面26とを円錐面25の母線方向に相対変位させることで、ベルト1からロータリーエンコーダ2に伝達する回転の回転伝達比を微調整することができる。そのため、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比をきわめて高い精度をもって微調整することが可能であり、高い精度をもって印刷することが可能である。
【0036】
また、このインクジェット印刷機は、図2に示すように、複数列のインク吐出口13からそれぞれ吐出するインク14で1つの画像を形成するときに、各列のインク吐出口13から吐出するインク14の吐出タイミングを高い精度をもって同調制御することが可能であり、シャープな印刷が可能である。
【0037】
上記実施形態のインクジェット印刷機において、インクジェットヘッド4の複数列のインク吐出口13からそれぞれ吐出するインク14で1つの画像を形成するときに、シャープな印刷が可能であることを確認する試験を行なった。その試験結果を図5(a)、(b)に示す。図5(b)は、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比に3%の誤差が存在する状態で、インクジェットヘッド4の複数列のインク吐出口13からそれぞれ吐出するインク14で、印刷対象物5の移動方向に直交する方向に連続する直線を印刷したときの、直線の一部の拡大画像を示す。一方、図5(a)は、図5(b)の印刷を行なった後、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比を微調整した状態で、インクジェットヘッド4の複数列のインク吐出口13からそれぞれ吐出するインク14で、印刷対象物5の移動方向に直交する方向に連続する直線を印刷したときの、直線の一部の拡大画像を示す。図5(b)では、インクジェットヘッド4の各列のインク吐出口13からのインク14の吐出タイミングにずれが生じることで、直線の縁がぼやけているのに対し、図5(a)では、インクジェットヘッド4の各列のインク吐出口13からのインク14の吐出タイミングが高い精度をもって同調し、直線の縁がシャープになっている。このように、ロータリーエンコーダ2の最小検出角度に対する印刷対象物5の移動量の比を微調整することで、シャープな印刷が可能となることを確認することができる。
【0038】
上記実施形態では、枚葉の印刷対象物5をベルト1で搬送し、その枚葉の印刷対象物5の表面にインクジェットヘッド4からインクの粒子を吐出する枚葉式のインクジェット印刷機を例に挙げて説明したが、この発明は、搬送方向に切れ目なく連続する印刷対象物5(例えば巻紙)を複数のローラに架け渡した状態で移動させ、その印刷対象物5の表面にインクジェットヘッド4からインクの粒子を吐出する輪転式のインクジェット印刷機に適用することも可能である。この場合、印刷対象物5に接触しながら回転するローラ(印刷対象物5が架け渡されたローラ)の表面に接触するように第1ローラ20を設け、その第1ローラ20からロータリーエンコーダ2に回転を伝達する回転伝達機構3に、回転伝達比調整部23を設けるとよい。
【0039】
また、上記実施形態では、インクジェットヘッド4から、直接、印刷対象物5の表面にインクを吐出する直接型インクジェット印刷機を例に挙げて説明したが、この発明は、印刷対象物5に接触しながら回転する中間転写体(例えば円筒状の版胴)の表面に対向してインクジェットヘッド4を配置し、そのインクジェットヘッド4から中間転写体の表面にインクの粒子を吐出し、その中間転写体の表面から印刷対象物5にインクを転写する転写型インクジェット印刷機に適用することも可能である。この場合、中間転写体の表面に接触するように第1ローラ20を設け、その第1ローラ20からロータリーエンコーダ2に回転を伝達する回転伝達機構3に、回転伝達比調整部23を設けるとよい。
【符号の説明】
【0040】
1 ベルト
2 ロータリーエンコーダ
3 回転伝達機構
4 インクジェットヘッド
5 印刷対象物
13 インク吐出口
14 インク
20 第1ローラ
21 回転軸
22 第2ローラ
23 回転伝達比調整部
25 円錐面
26 円周面
27 第1ローラ支持部材
29 エンコーダ支持部材
図1
図2
図3
図4
図5