特許第6746512号(P6746512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6746512破壊評価解析装置、破壊評価解析システムおよび破壊評価解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746512
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】破壊評価解析装置、破壊評価解析システムおよび破壊評価解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20200817BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20200817BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20200817BHJP
   G21C 17/003 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   G01N3/00 Z
   G01N17/00
   G06Q50/06
   G21C17/003
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-16717(P2017-16717)
(22)【出願日】2017年2月1日
(65)【公開番号】特開2018-124175(P2018-124175A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】久保 達也
(72)【発明者】
【氏名】小川 琢矢
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 利之
(72)【発明者】
【氏名】林 貴広
【審査官】 大門 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−059863(JP,A)
【文献】 特開2014−062780(JP,A)
【文献】 特開2007−178292(JP,A)
【文献】 特開2007−198838(JP,A)
【文献】 特表2015−532430(JP,A)
【文献】 特表2016−509670(JP,A)
【文献】 米国特許第07162373(US,B1)
【文献】 柴田 勝之 他,1111.確率論的破壊力学に基づく圧力器信頼性 解析コードの開発,日本原子力学会誌,社団法人日本原子力学会,2001年,Vol.43,No.4,387〜396頁
【文献】 小坂部 和也 他,現行の原子炉圧力容器の健全性評価手法に対する PASCAL ver.2を用いた確率論的検討,日本原子力学会和文論文誌,2007年,Vol.6,No.2,172〜182頁
【文献】 小坂部 和也 他,確率論的破壊力学解析を用いた破損確率評価における不確かさの影響に関する検討,計算工学講演会論文集,2015年 6月,Vol.20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00
G01N 17/00
G01N 3/00
G06Q 50/06
JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
き裂進展解析が繰り返し実行される繰り返し回数に関する情報を受け入れるとともに、き裂進展解析の評価期間内における非破壊検査の検査期間の間隔、非破壊検査費用、補修費用、事故対応費用およびき裂検出確率算出式に関する情報を受け入れる入力部と、
中性子照射を受ける構造物に生じるき裂の先端近傍の応力を算出する応力算出部と、
この応力算出部で算出された応力と前記構造物に生じるき裂およびき裂進展速度に関するき裂進展情報とに基づいて、応力拡大係数を算出する応力拡大係数算出部と、
前記構造物のポアソン比および縦弾性係数を含む構造物情報と前記構造物の中性子照射量を含む情報とに基づいて、破壊靱性値を算出する破壊靱性値導出部と、
前記き裂進展情報と前記き裂進展解析の評価期間および評価期間における時間増分に関する時間情報とに基づいて、き裂進展量を算出するき裂進展量算出部と、
前記応力拡大係数算出部で算出された応力拡大係数と前記破壊靱性値導出部で算出された破壊靱性値とを比較して破壊の有無を判定する破壊判定部と、
前記時間情報と前記き裂進展解析の繰り返し回数による時間増分の総和が評価期間に達したかを判定する評価期間判定部と、
前記時間増分の総和が前記検査期間の間隔に対応する時間に達したときに、き裂が検出されるかを判定するき裂検出判定部と、
前記非破壊検査までの期間および最後の非破壊検査終了から評価期間終了までの期間に前記き裂検出判定部で判定されたき裂の有無の回数が、前記き裂進展解析の繰り返し回数に達したかを判定する繰り返し判定部と、
前記破壊判定部で破壊と判定された回数と前記き裂進展解析の繰り返し回数との比から前記構造物の破壊確率を算出する破壊確率算出部と、
前記き裂検出判定部で検出されたき裂の比率に応じて補修費用と非破壊検査の回数および検査範囲に応じて検査費用と破壊確率に応じて事故対応費用を算出する費用算出部と、
を備えることを特徴とする破壊評価解析装置。
【請求項2】
前記構造物内の板厚方向の中性子照射量の分布および前記構造物内の板厚方向の各位置における中性子照射量のばらつきに関する中性子照射量分布情報に基づいて、前記構造物の板厚方向の中性子照射量分布およびばらつきを設定する中性子照射量設定部を備え、
前記破壊靱性値導出部は、前記構造物のポアソン比および縦弾性係数を含む構造物情報と前記構造物の中性子照射量分布情報とに基づいて、前記破壊靱性値を算出する請求項1に記載の破壊評価解析装置。
【請求項3】
前記中性子照射量設定部は、前記構造物の板厚方向の各位置においての中性子照射量のばらつきが正規分布しているものとして扱う請求項2に記載の破壊評価解析装置。
【請求項4】
前記中性子照射量設定部は、前記正規分布の中央値および標準偏差が前記構造物の板厚方向の深さの関数であるものとして扱う請求項3に記載の破壊評価解析装置。
【請求項5】
前記中性子照射量設定部は、前記き裂の先端近傍の中性子照射量のばらつきの前記正規分布の標準偏差が前記き裂の先端近傍の中性子照射量の中央値に比例するものとして扱う請求項3に記載の破壊評価解析装置。
【請求項6】
前記中性子照射量設定部は、前記き裂の先端近傍の中性子照射量のばらつきの前記正規分布の標準偏差が一定値であるものとして扱う請求項3に記載の破壊評価解析装置。
【請求項7】
前記応力算出部は、前記き裂の先端近傍の応力のばらつきが正規分布しているものとして扱う請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の破壊評価解析装置。
【請求項8】
前記応力拡大係数算出部は、次の式により前記応力拡大係数Kを算出する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の破壊評価解析装置。
K=(Fσ+Fσ)√(πa)
ただし、Fは膜応力分の重み係数、σは膜応力、Fは曲げ応力分の重み係数、σは曲げ応力、aはき裂深さ、πは円周率を示す。
【請求項9】
前記応力拡大係数算出部は、a/t(tは構造物の板厚)の関数として、膜応力分の重み係数F、および曲げ応力分の重み係数Fを算出する請求項8に記載の破壊評価解析装置。
【請求項10】
前記き裂検出判定部は、前記き裂検出確率算出式の情報をき裂長さの関数とし、ある検査期間における全繰返し数の計算が終了した時点で、繰り返し回数に対するき裂が検出された回数の比と1の差を算出し、この値を破壊確率に乗じ、前記破壊確率を再計算する請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の破壊評価解析装置。
【請求項11】
前記費用算出部は、保全費用を、非破壊検査時期に前記き裂検出判定部において算出されたき裂検出確率および補修費用の積と、検査費用、検査回数および検査範囲の積と破壊確率および事故対応費用の積の総和から算出する請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の破壊評価解析装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の破壊評価解析装置と、
前記構造物の表面における放射線量を測定する放射線検出器と、
前記構造物に生じたき裂を計測する探傷装置と、
を備えることを特徴とする破壊評価解析システム。
【請求項13】
き裂進展解析が繰り返し実行される繰り返し回数に関する情報を受け入れるとともに、き裂進展解析の評価期間内における非破壊検査の検査期間の間隔、非破壊検査費用、補修費用、事故対応費用およびき裂検出確率算出式に関する情報を受け入れる入力ステップと、
中性子照射を受ける構造物に生じるき裂の先端近傍の応力を算出する応力算出ステップと、
この応力算出ステップで算出された応力と前記構造物に生じるき裂およびき裂進展速度に関するき裂進展情報とに基づいて、応力拡大係数を算出する応力拡大係数算出ステップと、
前記構造物のポアソン比および縦弾性係数を含む構造物情報と前記構造物の中性子照射量を含む情報とに基づいて、破壊靱性値を算出する破壊靱性値導出ステップと、
前記き裂進展情報と前記き裂進展解析の評価期間および評価期間における時間増分に関する時間情報とに基づいて、き裂進展量を算出するき裂進展量算出ステップと、
前記応力拡大係数算出ステップで算出された応力拡大係数と前記破壊靱性値導出ステップで算出された破壊靱性値とを比較して破壊の有無を判定する破壊判定ステップと、
前記時間情報と前記き裂進展解析の繰り返し回数による時間増分の総和が評価期間に達したかを判定する評価期間判定ステップと、
前記時間増分の総和が前記検査期間の間隔に対応する時間に達したときに、き裂が検出されるかを判定するき裂検出判定ステップと、
前記非破壊検査までの期間および最後の非破壊検査終了から評価期間終了までの期間に前記き裂検出判定ステップで判定されたき裂の有無の回数が、前記き裂進展解析の繰り返し回数に達したかを判定する繰り返し判定ステップと、
前記破壊判定ステップで破壊と判定された回数と前記き裂進展解析の繰り返し回数との比から前記構造物の破壊確率を算出する破壊確率算出ステップと、
前記き裂検出判定ステップで検出されたき裂の比率に応じて補修費用と非破壊検査の回数および検査範囲に応じて検査費用と破壊確率に応じて事故対応費用を算出する費用算出ステップと、
を含むことを特徴とする破壊評価解析方法。
【請求項14】
前記費用算出ステップは、保全費用を、非破壊検査時期に前記き裂検出判定ステップにおいて算出されたき裂検出確率および補修費用の積と、検査費用、検査回数および検査範囲の積と破壊確率および事故対応費用の積の総和から算出する請求項13に記載の破壊評価解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、中性子照射を受ける構造物の破壊評価解析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子照射を受ける構造物としては、たとえば原子力発電プラントの原子炉圧力容器内に設置された炉内構造物がある。この構造物は、炉心で発生する中性子の照射により材料の劣化が生じて破壊靱性値が低下し、き裂が生じる場合がある。そこで、構造物の非破壊検査が行われる。また、き裂が検出された場合に補修が行われる。検査頻度を上げれば構造物の健全性は保たれるが、検査や補修には費用が生じるため、健全性と経済性の観点から構造物の健全性評価が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−512526号公報
【特許文献2】特開2007−198838号公報
【特許文献3】特開2011−38778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非破壊検査において、き裂が検出された場合に補修工事を行うため、非破壊検査によるき裂の補修の影響を評価に加えることが望ましい。ただし、非破壊検査には、検査費用と補修費用がかかるため、健全性の観点のみならず、経済性の観点からも非破壊検査の検査期間の間隔を決定する必要がある。
【0005】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、非破壊検査の影響および非破壊検査による検査費用と補修費用を考慮した確率論的破壊解析が可能な破壊評価解析技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る破壊評価解析装置は、き裂進展解析が繰り返し実行される繰り返し回数に関する情報を受け入れるとともに、き裂進展解析の評価期間内における非破壊検査の検査期間の間隔、非破壊検査費用、補修費用、事故対応費用およびき裂検出確率算出式に関する情報を受け入れる入力部と、中性子照射を受ける構造物に生じるき裂の先端近傍の応力を算出する応力算出部と、この応力算出部で算出された応力と前記構造物に生じるき裂およびき裂進展速度に関するき裂進展情報とに基づいて、応力拡大係数を算出する応力拡大係数算出部と、前記構造物のポアソン比および縦弾性係数を含む構造物情報と前記構造物の中性子照射量を含む情報とに基づいて、破壊靱性値を算出する破壊靱性値導出部と、前記き裂進展情報と前記き裂進展解析の評価期間および評価期間における時間増分に関する時間情報とに基づいて、き裂進展量を算出するき裂進展量算出部と、前記応力拡大係数算出部で算出された応力拡大係数と前記破壊靱性値導出部で算出された破壊靱性値とを比較して破壊の有無を判定する破壊判定部と、前記時間情報と前記き裂進展解析の繰り返し回数による時間増分の総和が評価期間に達したかを判定する評価期間判定部と、前記時間増分の総和が前記検査期間の間隔に対応する時間に達したときに、き裂が検出されるかを判定するき裂検出判定部と、前記非破壊検査までの期間および最後の非破壊検査終了から評価期間終了までの期間に前記き裂検出判定部で判定されたき裂の有無の回数が、前記き裂進展解析の繰り返し回数に達したかを判定する繰り返し判定部と、前記破壊判定部で破壊と判定された回数と前記き裂進展解析の繰り返し回数との比から前記構造物の破壊確率を算出する破壊確率算出部と、前記き裂検出判定部で検出されたき裂の比率に応じて補修費用と非破壊検査の回数および検査範囲に応じて検査費用と破壊確率に応じて事故対応費用を算出する費用算出部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、非破壊検査の影響および非破壊検査による検査費用と補修費用を考慮した確率論的破壊解析が可能な破壊評価解析技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る破壊評価解析システムの構成を示すブロック図。
図2】実施形態に係る破壊評価解析装置の構成を示すブロック図。
図3】実施形態に係る記憶部の構成を示すブロック図。
図4】実施形態に係る演算部の構成を示すブロック図。
図5】解析対象の例としての二次元き裂を有する平板の概念図。
図6】中性子照射量分布の例を示すグラフ。
図7】中性子照射量のばらつきの確率密度関数の例を示すグラフ。
図8】中性子照射量のばらつきの累積確率の例を示すグラフ。
図9】最小費用を提案するための例を示すグラフ。
図10】保全費用算出結果を示した例のグラフ。
図11】実施形態に係る破壊評価解析方法の手順を示すフローチャート。
図12】実施形態に係る破壊評価解析方法の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る破壊評価解析装置、破壊評価解析システム、および破壊評価方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0010】
図1は、実施形態に係る破壊評価解析システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、破壊評価解析システム500は、対象とする炉内構造物などの構造物(以下、構造物と記す。)10に生じたき裂15に関連して構造物10が破壊に至るか否かを評価する。破壊評価解析システム500は、破壊評価解析装置100、放射線検出器200、および探傷装置300を有する。なお、構造物10としては、原子炉圧力容器内に設置されたシュラウドまたは上部格子板などがある。このような構造物10は、炉心で発生する中性子の照射により材料の劣化が生じて破壊靱性値が低下する。
【0011】
探傷装置300は、プラントが停止してメンテナンス状態に移行した後に、構造物10の近傍に持ち込まれて、構造物10に生じたき裂深さを含むき裂15の形状、寸法を測定する。たとえば構造物10がシュラウドである場合は、シュラウドの内周面に探傷装置300の検出部を近接させた状態で走査を行う。
【0012】
この探傷装置300は、超音波を用いて検査を行う超音波探傷装置を例示する。また、探傷装置300は、他の検査装置であってもよい。例えば、X線を用いて検査を行うX線検査装置でもよいし、電場または磁場を用いて検査を行う検査装置でもよい。
【0013】
放射線検出器200は、プラント運転中に、構造物10の表面の中性子の強度、すなわち中性子束レベルを測定する。放射線検出器200は、プラント運転中に炉心内の出力分布を測定する局所出力領域モニタ(LPRM:Local Power Range Monitor)のうち、最も近いものを用いてもよい。あるいは、これらのLPRMの出力から算出される原子炉の炉心内の中性子束の分布に基づいて、構造物10の内壁における中性子束を推定することができる。
【0014】
放射線検出器200による測定結果、あるいは炉心内の中性子束分布に基づく推定結果を、照射時間で累積することにより、構造物10の内壁の中性子照射量を求めることができる。
【0015】
破壊評価解析装置100は、計算機システムであり、構造物10の内壁の中性子照射量、探傷装置300の測定結果によるき裂15の深さ、および計算機システムの入力部からの外部情報に基づいて、構造物10が破壊に至るか否かの破壊評価を行う。
【0016】
図2は、実施形態に係る破壊評価解析装置の構成を示すブロック図である。この図2に示すように、破壊評価解析装置100は、記憶部110、演算部120、入力部140および出力部150を有する。
【0017】
入力部140は、外部から入力される少なくとも、次の複数の情報を受け入れる。これらの情報は、き裂進展解析の繰り返し実行される繰り返し回数Nに関する情報、構造物10の形状・寸法、ポアソン比および縦弾性係数、使用温度条件を含む構造物情報、き裂進展解析の評価期間(評価時間)における時間増分に関する情報(時間情報)、評価期間内における非破壊検査の検査期間の間隔、非破壊検査費用、補修費用、事故対応費用およびき裂検出確率算出式の情報(非破壊検査情報)、き裂15の形状・寸法およびき裂進展速度を含むき裂15に関する情報(き裂進展情報)、構造物10内の板厚方向の中性子照射量の分布および構造物10内の板厚方向の各位置における中性子照射量のばらつきを含む中性子照射量に関する情報(中性子照射量情報)、および構造物10に付加される外荷重およびそのばらつきに関する情報(外荷重情報)である。
【0018】
本実施形態において、評価期間とは、非破壊検査の対象となる構造物の運用期間であって、非破壊検査を行う総回数の算出の対象となる期間である。また、非破壊検査の検査期間の間隔とは、先の非破壊検査から次の非破壊検査までの間の期間である。なお、非破壊検査の検査期間の間隔という用語は、評価期間開始から最初の非破壊検査までの間の期間と、最後の非破壊検査から評価期間終了までの間の期間という意味を含む。たとえば構造物の運用期間が30年間であるとした場合に、評価期間が30年間となる。また、評価期間が30年間であるときに、非破壊検査の総回数を2回とした場合に、非破壊検査の検査期間の間隔は、約10年となる。なお、非破壊検査の検査期間は、1年以上かかる場合もある。その場合において、非破壊検査の検査期間の間隔は、先の非破壊検査の開始時から次の非破壊検査の開始時までの間の期間である。
【0019】
図3は、実施形態に係る記憶部の構成を示すブロック図である。この図3に示すように、記憶部110は、繰り返し回数記憶部111、非破壊検査情報記憶部112、時間情報記憶部113、中性子照射量情報記憶部114、構造物情報記憶部115、き裂進展情報記憶部116、外荷重情報記憶部117、および演算結果記憶部118を有する。
【0020】
繰り返し回数記憶部111は、入力部140が受け入れたき裂進展解析の繰り返し実行される繰り返し回数Nに関する情報を記憶する。非破壊検査情報記憶部112は、入力部140が受け入れたき裂進展解析の評価期間内における非破壊検査の検査期間の間隔、非破壊検査費用、補修費用、事故対応費用およびき裂検出確率算出式を記憶する。
【0021】
時間情報記憶部113は、入力部140が受け入れたき裂進展解析の評価期間における時間増分に関する時間情報を記憶する。中性子照射量情報記憶部114は、入力部140が受け入れた構造物10内の板厚方向の中性子照射量の分布および構造物10内の板厚方向の各位置における中性子照射量のばらつきを含む中性子照射量に関する中性子照射量情報を記憶する。
【0022】
構造物情報記憶部115は、入力部140が受け入れた構造物10の形状・寸法、ポアソン比および縦弾性係数、使用温度条件を含む構造物情報を記憶する。構造物情報には、前述の構造物10の形状・寸法、ポアソン比および縦弾性係数、使用温度条件の他に、使用温度条件および中性子照射量に依存する当該構造物10の材料の破壊靱性値も含まれる。
【0023】
き裂進展情報記憶部116は、入力部140が受け入れた構造物10に生じているき裂15の形状・寸法およびき裂進展速度を含むき裂15に関するき裂進展情報を記憶する。このき裂進展速度は、応力拡大係数と中性子照射量の少なくとも一方に依存している。外荷重情報記憶部117は、構造物10に付加される引張荷重FおよびモーメントMを含む外荷重情報を記憶する。演算結果記憶部118は、演算部120で演算された結果を記憶する。
【0024】
図4は、実施形態に係る演算部の構成を示すブロック図である。この図4に示すように、演算部120は、応力算出部121、応力拡大係数算出部122、き裂進展量算出部123、評価期間判定部124、き裂検出判定部125、中性子照射量設定部126、破壊靱性値導出部127、破壊判定部128、繰り返し判定部129、破壊確率算出部130および費用算出部131を有する。
【0025】
図5は、解析対象の例としての二次元き裂を有する平板の概念図である。図5は、構造物10に、引張荷重Fと、曲げモーメントMが付加されている場合を示している。曲げモーメントMは、き裂15に垂直の方向に付加されている。つまり、曲げモーメントMは、図5の紙面奥方向に向かって構造物10が曲がる方向に付加されている。き裂15に対する荷重の作用の形式は、モードIの引張形式、モードIIのせん断形式、モードIIIの面外せん断形式に分類される。図5は、引張形式の場合を示している。
【0026】
図4に示す応力算出部121は、構造物10のき裂15の先端近傍の応力を算出する。具体的には、応力算出部121は、外荷重情報記憶部117に記憶された引張荷重Fおよび曲げモーメントMを含む外荷重情報と、き裂進展情報記憶部116に記憶されたき裂の形状・寸法に関するき裂進展情報に基づいて、き裂先端近傍の応力として、引張荷重Fに起因する膜応力σおよび曲げモーメントMに起因する曲げ応力σを算出する。
【0027】
ここで、外荷重情報には、引張荷重Fおよび曲げモーメントMの負荷の条件に起因して引張荷重Fおよび曲げモーメントMの値にばらつきが存在する場合がある。このような場合には、引張荷重Fに起因する膜応力σおよび曲げモーメントMに起因する曲げ応力σにもばらつきが付帯する。このばらつきの確率密度関数は、たとえば正規分布で近似することができ、膜応力σおよび曲げ応力σは、それぞれ中央値と標準偏差により表現することができる。
【0028】
ここで、ばらつきを考慮して確率的に膜応力σおよび曲げ応力σを設定するには、乱数を用いる方法がある。例として、膜応力σの算出式を式(1)[数1]に示す。
【0029】
【数1】
【0030】
式(1)において、膜応力σmは式(1)を満たす値として決定され、F(σ)は膜応力がσとなる際の確率密度関数、σは標準偏差、μは中央値である。
【0031】
応力拡大係数算出部122は、応力算出部121において算出された膜応力σおよび曲げ応力σと、構造物情報記憶部115に記憶された構造物情報と、き裂進展情報記憶部116に記憶されたき裂進展情報とに基づいて、次の式(2)によりき裂先端の応力拡大係数Kを算出する。
【0032】
K=(Fσ+Fσ)√(πa) …(2)
【0033】
ただし、式(2)において、aはき裂の深さ、Fは膜応力に対する重み係数、Fは曲げ応力に対する重み係数である。
【0034】
ここで、膜応力σおよび曲げ応力σは、ばらつきを考慮して確率的に求められた値であるので、これに基づいて導出された応力拡大係数Kもまた、確率的な値である。
【0035】
膜応力に対する補正係数Fおよび曲げ応力に対する補正係数Fを、次の式(3)、(4)のように、(a/t)の関数として求めてもよい。ただし、tは構造物10の板厚である。
【0036】
=fm(a/t) …(3)
=fb(a/t) …(4)
【0037】
さらに具体的には、次の式(5)[数2]および式(6)[数3]により、膜応力に対する補正係数Fおよび曲げ応力に対する補正係数Fをそれぞれ求めてもよい。
【0038】
【数2】
【0039】
【数3】
【0040】
図6は、中性子照射量分布の例を示すグラフである。図6において、横軸は構造物10の板厚方向の距離(板厚方向の深さ)a、縦軸は、中性子照射量Φtである。
【0041】
中性子照射量Φtは、中性子束Φの中性子照射の時間に関する積算量である。中性子照射の時間は、板厚方向の各部に共通であるから、中性子照射量Φtは、中性子束Φに比例する。中性子束Φは、板厚方向に進むにつれて減衰する。したがって、中性子照射量Φtも、図6の曲線Aに示すように板厚方向に進むにつれて低減するような分布を有している。
【0042】
ここで、中性子照射量の板厚方向の分布は、通常、次の式(7)のように指数関数で与えられる。あるいは、次の式(8)[数4]を用いてもよい。ただし、aは板厚方向の深さ、aの係数は、長さの逆数の次元をもつ定数である。
【0043】
Φt=Φt×exp(−ha) …(7)
【0044】
【数4】
【0045】
構造物10の板厚方向における中性子束の減衰は、中性子と構造物10との相互作用の結果により生ずるものである。構造物10の構成は結晶粒などの影響により微視的には非均質である。また、中性子と構造物10との相互作用も確率的なものである。これらの結果、中性子照射量は、曲線Aに沿って減衰するものの、曲線Aの近傍でばらつきが存在する。
【0046】
たとえば、板厚方向の距離(板厚方向の深さ)がaの位置においては、曲線Aによれば中性子照射量Φtは、Φtであるが、ばらつきを考慮すると、たとえばΦtを中央値として、図7に示す例のように、その近傍にばらついている。このばらつきは、たとえば正規分布で近似することができ、中央値と標準偏差により表現することができる。
【0047】
き裂検出判定部125は、非破壊検査情報記憶部112に基づき、非破壊検査期間(時期)にき裂15の検出確率を算出し、この検出確率の値に応じて破壊確率を再計算する。具体的には、き裂検出判定部125は、き裂進展解析の繰り返し回数による時間増分の総和が非破壊検査情報記憶部112で入力した検査期間の間隔に対応する時間に達した際に、き裂15が検出されるかを判定する。き裂15の検出確率算出式は、き裂長さの関数とする。0以上1未満の乱数を用いて、求めた検出確率が乱数の値よりも大きければ、き裂15は検出されたものと判定する。
【0048】
き裂15の検出判定を受けたサンプルのき裂長さおよび中性子照射量の情報は、演算結果記憶部118に記憶され、次のサンプルの計算を行う。1回目の検査期間までの全繰返し数の計算を終了したら、次の検査期間まで再度全繰り返し回数の計算を行う。
【0049】
ある検査期間における全繰返し数の計算が終了した時点で、繰り返し回数に対するき裂が検出された回数の比と1の差を算出し、この値を破壊確率に乗じることにより、破壊確率を再計算する。次の検査期間までの計算の再開時において、検出されたき裂15のき裂長さは初期き裂長さとし、検出されなかったき裂15は演算結果記憶部118に記憶されたき裂長さから計算を行う。
【0050】
中性子照射量設定部126は、き裂先端の位置における中性子照射量を確率的に設定する。すなわち、中性子照射量設定部126は、中性子照射量情報記憶部114に記憶された中性子照射量分布情報に基づいて構造物10の板厚方向の中性子照射量分布およびばらつきを設定する。
【0051】
図7は、中性子照射量のばらつきの確率密度関数の例を示すグラフである。図7において、横軸は、中性子照射量Φt[n/m]、縦軸は、ばらつきの確率密度関数p(Φt)の値である。
【0052】
図8は、中性子照射量のばらつきの累積確率の例を示すグラフである。図8において、横軸は、中性子照射量Φt[n/m]、縦軸は、ばらつきの累積確率P(Φt)であり、最小値0から最大値1までの値をとる。ここで、累積確率P(Φt)は確率密度関数p(Φt)を用いて次の式(9)[数5]により得られる。
【0053】
【数5】
【0054】
中性子照射量設定部126は、累積確率P(Φt)として0から1の間の任意の数値Xを与え、図8を用いて、この数値Xに対応する中性子照射量Φtを設定する。0から1の間の任意の数値Xを確率的に与えるには、たとえば、乱数発生器を用いて乱数として与える方法がある。
【0055】
き裂進展量算出部123は、き裂進展情報記憶部116に記憶されたき裂進展情報と時間情報記憶部113に記憶された時間情報とに基づいて、き裂進展量を算出する。具体的には、き裂進展量算出部123は、応力拡大係数算出部122で算出された応力拡大係数と中性子照射量設定部126で設定された中性子照射量の少なくとも一方の関数としたき裂進展速度式と、時間情報記憶部113に記憶された時間増分量との積により、き裂進展量を算出する。
【0056】
破壊靱性値導出部127は、中性子照射量設定部126で設定されたき裂15の先端部a1における中性子照射量Φtに基づいて、き裂15の先端部近傍の破壊靱性値KICを導出する。破壊靱性値KICは、構造物10の材料、環境温度および中性子照射を含む環境条件に依存する。
【0057】
したがって、破壊靱性値導出部127は、構造物情報記憶部115に記憶された構造物10に関する材料、材料使用温度と、中性子照射量設定部126で設定された中性子照射量とから、き裂15の先端近傍の破壊靱性値KICを導出する。すなわち、破壊靱性値導出部127は、構造物情報記憶部115に記憶された構造物情報と、中性子照射量情報記憶部114に記憶された中性子照射量情報とに基づいて、破壊靱性値KICを算出する。
【0058】
なお、破壊靱性値KICを、次の式(10)[数6]を用いて算出してもよい。ただし、式(10)において、Eは縦弾性率、νはポアソン比を示す。
【0059】
【数6】
【0060】
中性子照射量Φtが、前述のように、ばらつきを考慮して確率的に設定されるので、これに基づいて算出された破壊靱性値KICも、ばらつきを考慮した値であり、かつ確率的な値である。
【0061】
破壊判定部128は、応力拡大係数算出部122で算出された確率的な値である応力拡大係数Kと、破壊靱性値導出部127で導出された確率的な値である破壊靱性値KICとを受け入れて、両者を比較し、破壊の有無を評価する。すなわち、応力拡大係数Kが破壊靱性値KICを下回っていれば、破壊すると判定する。この判定結果は、演算結果記憶部118に記憶される。
【0062】
評価期間判定部124は、時間情報記憶部113に記憶された評価期間(評価時間)と、繰り返し回数による時間増分の総和を比較し、時間増分の総和が評価期間に達したかを判定する。時間増分の総和が評価期間に達した場合は、非破壊と判定する。この判定結果は、演算結果記憶部118に記憶される。
【0063】
繰り返し判定部129は、非破壊検査までの期間(評価期間開始から最初の非破壊検査開始までの期間、先の非破壊検査終了から次の非破壊検査開始までの期間)および最後の非破壊検査終了から評価期間終了までの期間に、き裂検出判定部125において判定されたき裂の有無の回数が、繰り返し回数記憶部111に記憶されている所定の繰り返し回数Nに達したかを判定する。
【0064】
破壊確率算出部130は、破壊判定部128で破壊と判定された回数と外部入力されたき裂進展解析の繰り返し回数との比から構造物10の破壊確率を算出する。具体的には、破壊確率算出部130は、非破壊検査までの期間および最後の非破壊検査終了から評価期間終了までの期間に繰り返し回数が所定の繰り返し回数Nとなった後に、演算結果記憶部118に記憶された破壊判定部128での判定結果に基づいて、破壊確率を算出する。
【0065】
この繰り返し回数Nのうち、破壊判定部128が破壊すると判定した回数をDとすると、破壊確率dは、d=D/Nにより与えられる。ただし、非破壊検査までの期間における破壊確率dは、非破壊検査期間に、き裂15の検出確率に応じて再計算される。繰り返し回数が所定の繰り返し回数Nとならなかった場合は、時間増分とき裂増分の総和を0とする。この結果は、演算結果記憶部118に記憶される。
【0066】
費用算出部131は、非破壊検査期間に、き裂検出判定部において検出されたき裂の比率に応じて補修費用と、非破壊検査の回数および検査範囲に応じて検査費用と、破壊確率に応じて事故対応費用を算出する。ここで、補修費用、検査費用および事故対応費用から成る保全費用Cは、補修費用C、き裂検出確率P、検査費用C、検査回数n、検査範囲I、事故対応費用Cおよび破壊確率dを用いて次の式(11)により得られる。
【0067】
C=C×P+C×n×I+C×d …(11)
【0068】
検査頻度に対する補修費用、検査費用および事故対応費用の関係は、図9に示すように、検査頻度の増加に伴い補修費用および検査頻度は増加し、事故対応費用は減少する。また、検査費用は、検査範囲が小さいほど低下する。この補修費用、検査費用および事故対応費用の和が最小となる検査頻度が最も経済的である。炉内構造物の一例である上部格子板の評価を例として検査期間の間隔を、5年、10年、20年および30年とした場合の保全費用算出結果を図10に示す。なお、検査範囲は100%とする。この計算例では、検査頻度4回程度で最も経済性がよいという評価となる。
【0069】
出力部150は、演算結果記憶部118に記憶された破壊確率や費用を含む主要な情報と、記憶部110のその他の部分に記憶された主要な情報を出力する。
【0070】
なお、本実施形態では、破壊評価解析装置100に、破壊確率算出部130およびき裂検出判定部125により算出された破壊確率に基づいて、構造物10の健全性を評価する健全性評価部をさらに設けてもよい。
【0071】
この場合、評価全体として正規分布を仮定すると、たとえば、標準偏差の3倍をカバーする確率で破壊しないとする場合には、破壊確率dの判定値を0.0015程度にすればよい。あるいは、標準偏差の6倍をカバーする確率で破損しないとする場合には、破壊確率dの判定値を3.4×10−6程度にすればよい。この場合、繰り返し回数Nは、充分に判定できるための繰り返し回数とする必要がある。
【0072】
本実施形態の破壊評価解析装置100は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の破壊評価解析方法は、プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0073】
図11および図12は、実施形態に係る破壊評価解析方法の手順を示すフローチャートである。図11に示すように、まず、入力部140が、き裂進展解析の繰り返し回数Nに関する情報、構造物情報、き裂進展情報、時間情報、非破壊検査情報、中性子照射量情報、外荷重情報などの各種情報を受け入れる(ステップS01)。これらの情報は、それぞれ記憶部110内の各部に記憶される(ステップS02)。
【0074】
次に、応力算出部121により、確率的な応力の設定が行われる(ステップS03)。具体的には、き裂先端部での膜応力σおよび曲げ応力σについてのばらつきの分布のそれぞれの累積確率に基づいて、たとえば、乱数発生器から発せられた0から1の範囲の乱数に基づいて、膜応力σおよび曲げ応力σの値が設定される。
【0075】
次に、応力拡大係数算出部122が、応力算出部121により確率的に設定された膜応力σおよび曲げ応力σの値に基づいて、前述の式(2)を用いて応力拡大係数Kを算出する(ステップS04)。
【0076】
また、中性子照射量設定部126が、き裂15の先端部近傍における中性子照射量Φtについてのばらつきの分布の累積確率に基づいて、たとえば乱数発生器から発せられた0から1の範囲の乱数に基づいて、中性子照射量Φtを設定する(ステップS05)。
【0077】
次に、破壊靱性値導出部127が、構造物情報記憶部115に記憶された構造物10に関する材料のポアソン比および縦弾性係数と、中性子照射量設定部126で設定された中性子照射量とから、き裂15の先端近傍の破壊靱性値KICを導出する(ステップS06)。
【0078】
次に、き裂進展量算出部123が、き裂進展情報記憶部116に記憶されたき裂進展情報と時間情報記憶部113に記憶された時間情報に基づいて、き裂進展量を算出する(ステップS07)。
【0079】
ここで、ステップS04はステップS03の後に、また、ステップS06はステップS05の後に行うという条件のもとに、ステップS03およびステップS04は、ステップS05およびステップS06の後に行うことでもよい。
【0080】
次に、破壊判定部128は、応力拡大係数算出部122で算出された応力拡大係数Kと、破壊靱性値導出部127で導出された破壊靱性値KICとを比較し、応力拡大係数Kが破壊靱性値KICを下回っていれば、破壊すると判定し(ステップS08)、この判定結果は、演算結果記憶部118により記憶される(ステップS09)。
【0081】
図12に示すように、破壊確率算出部130は、演算結果記憶部118に記憶された破壊判定部128での判定結果に基づいて、破壊確率を算出する(ステップS10)。この結果は、演算結果記憶部118に記憶され、出力部150により出力される。
【0082】
き裂検出判定部125は、非破壊検査情報記憶部112に記憶された非破壊検査期間の間隔と、き裂検出確率算出式に関する情報に基づき、非破壊検査を実施するか否かの判定を行う(ステップS11)。ここで、検査が無い場合(ステップS11:NO)は、ステップS13へ移行する。一方、検査がある場合(ステップS11:YES)は、ステップS12へ移行する。
【0083】
ステップS12では、時間増分の和が非破壊検査期間に到達したかを判定する。ここで、非破壊検査期間に到達していない場合(ステップS12:NO)は、ステップS03に戻る。一方、検査期間に到達している場合(ステップS12:YES)は、ステップS14へ移行する。このステップS14では、き裂検出確率算出式に関する情報からき裂が検出されるか否かの判定を行う。
【0084】
ステップS13では、時間情報記憶部113に記憶された評価期間と、繰返し計算による時間増分の総和を比較し、時間増分が評価期間に達したか判定する。ここで、時間増分の総和が評価期間に達した場合(ステップS13:YES)は、ステップS15に移行する。一方、時間増分の総和が評価期間に達していない場合(ステップS13:NO)は、ステップS03に戻る。
【0085】
ステップS15では、非破壊検査までの期間および最後の非破壊検査終了から評価期間終了までの期間に、ステップS11において検出の有無を判定された回数が、ステップS01で入力された所定の繰り返し回数Nに到達したか否かを判定する。ここで、繰り返し回数に達していない場合(ステップS15:NO)は、ステップS03に戻る。一方、繰り返し回数に達している場合(ステップS15:YES)は、ステップS16へ移行する。
【0086】
ステップS16では、き裂検出判定部125が繰り返し回数に対するき裂が検出された回数の比と1の差を算出し、破壊確率に乗じることにより、破壊確率を再計算する。非破壊検査が無い場合は検出回数を0とする。
【0087】
ステップS17では、前述したステップS13と同様に、時間情報記憶部113に記憶された評価期間と、繰返し計算による時間増分の総和を比較し、時間増分が評価期間に達したか判定する。ここで、時間増分の総和が評価期間に達した場合(ステップS17:YES)は、ステップS18へ移行する。一方、時間増分の総和が評価期間に達していない場合(ステップS17:NO)は、ステップS03に戻る。
【0088】
ステップS18では、き裂検出確率および補修費用の積と非破壊検査の回数、非破壊検査の範囲および検査費用の積と破壊確率および事故対応費用の積の総和から費用を算出する。
【0089】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0090】
本実施形態の破壊評価解析装置100は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0091】
なお、本実施形態の破壊評価解析装置100で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD−ROM、CD−R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0092】
また、破壊評価解析装置100で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この破壊評価解析装置100は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0093】
以上の過程は、たとえば乱数発生器により発せられた乱数に基づき導出された応力拡大係数Kと、同様に乱数発生器により発せられた乱数に基づき導出された破壊靱性値KICとを、繰り返しの都度、導出して比較することから、モンテカルロ法の手法によっているといえる。
【0094】
以上のように、本実施形態によれば、破壊靱性値の分布およびばらつき、あるいは外部からの荷重による応力のばらつき、時間経過および非破壊検査の影響を考慮した確率論的破壊解析が可能となる。また、補修費用、検査費用および事故対応費用の総和が最小となる検査頻度が最も経済的であると判定することができる。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0096】
たとえば、き裂に対する荷重の作用の仕方として分類される、モードIの引張形式、モードIIのせん断形式、モードIIIの面外せん断形式のうち、実施形態では、モードIの場合を例に示したが、モードIに限定されるものではない。本発明は、他のモードIIおよびモードIIIの場合にも、それぞれのモードに対応した応力および破壊靱性値を用いることにより同様の構成および方法により適用可能である。
【符号の説明】
【0097】
10…構造物、15…き裂、100…破壊評価解析装置、110…記憶部、111…繰り返し回数記憶部、112…非破壊検査情報記憶部、113…時間情報記憶部、114…中性子照射量情報記憶部、115…構造物情報記憶部、116…き裂進展情報記憶部、117…外荷重情報記憶部、118…演算結果記憶部、120…演算部、121…応力算出部、122…応力拡大係数算出部、123…き裂進展量算出部、124…評価期間判定部、125…き裂検出判定部、126…中性子照射量設定部、127…破壊靱性値導出部、128…破壊判定部、129…繰り返し判定部、130…破壊確率算出部、131…費用算出部、140…入力部、150…出力部、200…放射線検出器、300…探傷装置、500…破壊評価解析システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12