特許第6746708号(P6746708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746708
(24)【登録日】2020年8月7日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】医療機器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20200817BHJP
【FI】
   A61B18/14
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-549675(P2018-549675)
(86)(22)【出願日】2016年11月9日
(86)【国際出願番号】JP2016083224
(87)【国際公開番号】WO2018087837
(87)【国際公開日】20180517
【審査請求日】2019年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】銅 庸高
【審査官】 後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−075053(JP,A)
【文献】 特表平10−512769(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/118757(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性および撥水性を有する母材中に金属粒子が拡散分布された導電材料を構造部の少なくとも一部に塗布して導電コーティング部を形成する工程と、
高周波エネルギーを前記導電コーティング部に伝達するためのエネルギー伝達部の少なくとも一部に前記導電材料を塗布して第2導電コーティング部を形成する工程と、
前記導電コーティング部および前記第2導電コーティング部を熱処理して仮硬化させる工程と、
前記導電コーティング部と前記第2導電コーティング部とを突き合わせた状態で、前記仮硬化させる工程よりも高い温度で熱処理してこれらが一体になるように本硬化させる工程と、
を備える医療機器の製造方法。
【請求項2】
前記構造部少なくとも外表面は樹脂材料で構成される請求項1に記載の医療機器の製造方法。
【請求項3】
前記導電コーティング部と前記第2導電コーティング部との間に、つなぎ導電コーティングを介在させる請求項1に記載の医療機器の製造方法。
【請求項4】
記導電コーティング部を、前記構造部の外表面の少なくとも一部に形成され、組織を処置する処置部の少なくとも一部に塗布する請求項1に記載の医療機器の製造方法。
【請求項5】
前記エネルギー伝達部は、前記導電コーティング部へ結線された導線であって、
記第2導電コーティング部により前記導線と前記導電コーティング部との結線部を一体的に固定する請求項1に記載の医療機器の製造方法。
【請求項6】
前記構造部の非導通部分の熱伝導率は、金属の熱伝導率よりも小さい請求項1に記載の医療機器の製造方法。
【請求項7】
前記構造部の非導通部分は、樹脂材料で形成される請求項1に記載の医療機器の製造方法。
【請求項8】
前記導電コーティング部は撥水性をもつ樹脂を母材とし、金属粒子を含請求項1に記載の医療機器の製造方法。
【請求項9】
前記母材は、少なくともフッ素樹脂を含む請求項8に記載の医療機器の製造方法。
【請求項10】
前記金属粒子は、銀粒子である請求項8に記載の医療機器の製造方法。
【請求項11】
前記構造部の長手方向に関して、前記第2導電コーティング部の長さ、前記導電コーティング部の長さよりも小さく形成する請求項4に記載の医療機器の製造方法。
【請求項12】
前記構造部の外表面から前記第2導電コーティング部の外表面までの寸法は、前記構造部の外表面から前記導電コーティング部の外表面までの寸法よりも大きい請求項1に記載の医療機器の製造方法。
【請求項13】
前記構造部は外力により変形可能な素材、形状を有しており、外力による変形により織へのダメージを低減する、もしくは接触面積を増加させることによる処置性の向上に寄与する請求項1に記載の医療機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する、とりわけ、エネルギーによって生体組織に処置を行う医療機器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開2014/141530号明細書には、エネルギー印加面への生体組織の付着を防止した治療処置具が開示される。エネルギー印加面に形成されるコーティングには、Ni−PTFEが用いられる。
【0003】
特開2006−288425号公報には、先端チップ部へのタンパク質の付着量を低下させたバイポーラピンセットが開示される。一対のアーム状の先端チップ部の対向面上には、貴金属材料と非伝導性微粒子からなる複合メッキ皮膜と、この複合メッキ皮膜上に貴金属材料からなる積層メッキ皮膜と、が設けられる。
【0004】
特開2010−227462号公報には、生体組織の固着防止のコート層を備えた医療用電極が開示される。このコート層には、金属よりも耐熱酸化特性が高い材料、金属よりも電気化学的な耐酸化性が高い材料等、複数の材料を混在されて構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2014/141530号明細書
【特許文献2】特開2006−288425号公報
【特許文献3】特開2010−227462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医療機器において、金属を用いて通電すること自体に問題が生じることがある。たとえば、処置等による熱がこもった状態で、組織と接触してしまうと、熱侵襲につながってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の一つの形態に係る医療機器の製造方法は、絶縁性および撥水性を有する母材中に金属粒子が拡散分布された導電材料を構造部の少なくとも一部に塗布して導電コーティング部を形成する工程と、高周波エネルギーを前記導電コーティング部に伝達するためのエネルギー伝達部の少なくとも一部に前記導電材料を塗布して第2導電コーティング部を形成する工程と、前記導電コーティング部および前記第2導電コーティング部を熱処理して仮硬化させる工程と、前記導電コーティング部と前記第2導電コーティング部とを突き合わせた状態で、前記仮硬化させる工程よりも高い温度で熱処理してこれらが一体になるように本硬化させる工程と、を備える
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、導電コーティング部を介して生体組織に電気エネルギーを流すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態の処置具の全体構成を示した模式図である。
図2図2は、図1に示す処置具のハンドピースのロッド部材の先端部およびジョー部材を示した側面図である。
図3図3は、図2に示すロッド部材(ジョー部材)を拡大して示す断面図である。
図4図4は、図3に示すロッド部材(ジョー部材)の製造工程を示した断面図である。
図5図5は、第1実施形態の処置具の変形例において、生体組織の表面に沿わせてロッド部材を湾曲させた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施形態]
本発明の医療機器の一例である処置具の第1実施形態について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、処置具11(医療機器)は、ハンドピース12と、電源ユニット13と、ハンドピース12と電源ユニット13とを接続するケーブル14と、を備える。
【0012】
図1図2に示すように、ハンドピース12は、外殻を構成するハウジング15と、ハウジング15と一体に設けられた固定ハンドル16と、ハウジング15に対して回動できるハンドル17と、ハウジング15に設けられた複数の操作ボタン18と、棒状のロッド部材21(処置部、プローブ)と、ロッド部材21の外表面に形成された少なくとも一つの第1電極22と、ロッド部材21の基端側の周囲を覆ってロッド部材21を保護する円筒形のシャフト23(シース)と、ロッド部材21とシャフト23との間に設けられてシャフト23内部に液が侵入することを阻止するリング状の水密部材と、シャフト23に固定された回転用ノブ24と、ロッド部材21に対して回動可能に構成されたジョー部材25と、ジョー部材25の外表面に形成された少なくとも一つの第2電極26と、シャフト23の内部に設けられジョー部材25を開閉する際に進退される円筒形の進退部27と、を備える。
【0013】
本実施形態では、ロッド部材21の長手方向Lに平行な2方向の一方を先端側とし、先端側とは反対側を基端側として説明を進める。長手方向Lは、ロッド部材21の中心軸Cに沿う方向である。ロッド部材21およびジョー部材25は、生体組織(組織)に処置を行うエンドエフェクタ30を構成する。処置具11は、ロッド部材21側の第1電極22とジョー部材25側の第2電極26との少なくとも二つの電極を含んだ処置具を構成する。
【0014】
ハンドピース12は、第1電極22に接続された導線28と、第2電極26に接続された導線28と、を有する。図3に示すように、導線28のそれぞれは、一端が高周波電力供給部31と接続された導線本体32と、導線本体32の一端とは反対側の他端に設けられた端子33と、を有する。導線28のそれぞれは、一般的な電線(銅製の心線の周囲を樹脂等で被覆したもの)で形成されてもよいし、電線の代わりに金属製のパイプや棒の一部を利用して電気供給経路としたもので構成されてもよい。端子33は、第1電極22および第2電極26のいずれかと電気的に接続される。端子33は、導線本体32の他端に取り付けられた金属板で構成されてもよいし、或いは電線の被覆を当該他端で剥いで電線の心線を露出させて形成した露出部で構成されてもよい。導線28は、生体組織を処置するための高周波エネルギーを導電コーティング部34に伝達するエネルギー伝達部の一例である。また、本発明の他の形態として、エネルギー伝達部は、導電コーティング部34との接点である第2導電コーティング部35(構造部の導通部分の接点)と、前記構造部へエネルギーが供給される導線28(供給路)と、で構成されてもよい。さらに、本発明の他の形態として、エネルギー伝達部は、導電コーティング部34がロッド部材21(構造部)の導電部分上に構成されたことによるオーバーラップ部分と、ロッド部材21(構造部)へエネルギーが供給される供給路(導線28)と、で構成されてもよい。
【0015】
シャフト23は、円筒形をなしていて、内部に位置されるロッド部材21を保護している。シャフト23は、基端側においてハウジング15に対して回転可能な状態でハウジング15に取り付けられている。回転用ノブ24は、シャフト23に対して固定的に設けられている。ハウジング15に対して回転用ノブ24を回転させることにより、シャフト23、ロッド部材21、及びジョー部材25を中心軸C回りに一体的に回転できる。シャフト23は、先端部にジョー部材25を支持するための支持ピン36を有する。
【0016】
ジョー部材25は、図2に矢印で示すように、ロッド部材21に対向した対向位置と、ロッド部材21から離隔した離隔位置と、の間で支持ピン36を中心に回動可能である。支持ピン36は、シャフト23に取り付けられている。術者は、ハンドル17をハウジング15に対して回動させることで、このジョー部材25の開閉操作を行うことができる。すなわち、術者がハンドル17を操作すると、シャフト23の内側に設けられた進退部27がシャフト23の中心軸Cに沿って進退移動し、これによってジョー部材25を開閉動作させる。なお、本実施形態では、ジョー部材25が設けられているが、ジョー部材25を省略してロッド部材21のみで処置部を構成する電気メス状の構造(モノポーラ処置具)であってもよい。
【0017】
ロッド部材21は、例えば耐熱性のある樹脂材料(例えば、ポリイミド、LCP、PEEK等)、或いはセラミックによって成形され、絶縁性を有する。ロッド部材21は、一部を樹脂材料によって形成することで断熱性、低熱伝導率等の性能を確保した結果、その部分が絶縁性となってしまってもよい(非導通部としてよい)。絶縁性のあるロッド部材21は、少なくとも一部に非導通部を持つ構造部の一例である。ロッド部材21は、その外表面上の少なくとも一部に、組織を処置するための処置部(処置面)を有する。ロッド部材21は、例えば射出成形によって安価で大量に製造できる。また、樹脂材料で形成されるロッド部材21の熱伝導率は、金属の熱伝導率よりも小さい。図2に示すように、ロッド部材21は、ジョー部材25と対向する側に第1面41を有する。なお、一般的なPEEKの耐熱温度は、343℃程度である。本発明の他の形態として、ロッド部材21(構造部)は、非導通部(樹脂材料部分)と、非導通部に隣接して設けられた導電部分(金属材料部分)と、を有する構造であってもよい。
【0018】
ジョー部材25は、例えば耐熱性のある樹脂材料(例えば、ポリイミド、LCP、PEEK等)、或いはセラミックによって棒状に成形され、絶縁性を有する。ジョー部材25は、一部を樹脂材料によって形成することで、断熱性、低熱伝導率等の性能を確保した結果、その部分が絶縁性となってしまってもよい(非導通部としてよい)。ジョー部材25は、例えば射出成形によって安価で大量に製造できる。また、樹脂材料で形成されるジョー部材25の熱伝導率は、金属の熱伝導率よりも小さい。ジョー部材25は、ロッド部材21と係合可能な形状(例えば、ロッド部材21の一部を収納可能な凹部を有する形状)をなしている。ジョー部材25は、少なくとも一部に非導通部を持つ構造部(処置部)の一例である。ジョー部材25は、その外表面上の少なくとも一部に、組織を処置するための処置部(処置面)を有する。ジョー部材25は、ロッド部材21と対向した位置で、ロッド部材21と係合することができる。ジョー部材25は、例えば射出成形によって形成できる。ジョー部材25は、ロッド部材21と対向する側に第2面43を有する。本発明の他の形態として、ジョー部材25(構造部)は、非導通部(樹脂材料部分)と、非導通部に隣接して設けられた導電部分(金属材料部分)と、を有する構造であってもよい。
【0019】
図2に示すように、第1電極22は、ロッド部材21の第1面41(処置部、処置面))に平板状に形成される。図3に示すように、第1電極22は、ロッド部材21の外表面に形成された導電コーティング部34と、導電コーティング部34と導線28の端子33とを接続するように設けられた第2導電コーティング部35と、を有する。第1電極22を構成する導電コーティング部34のうちの大部分は、生体組織と直接接触する第1処置面42を構成する。導電コーティング部34の第1処置面42から外れた位置(例えば、円筒形のシャフト23の内側の位置)に、第2導電コーティング部35が設けられる。なお、後述する本硬化(焼成)処理後には、導電コーティング部34および第2導電コーティング部35は、一体になった導電コーティング部を構成することができる。
【0020】
導電コーティング部34は、絶縁性および撥水性を有する合成樹脂の母材中に複数の金属粒子が拡散分布して形成した導電材料によって構成される。より具体的には、導電コーティング部34の母材は、例えば、PTFE等のフッ素樹脂と、ポリアミドイミド等のバインダーと、を混合したもので構成される。図3に示すように、導電コーティング部34は、ロッド部材21の外表面上の少なくとも一部に、生体組織と接触する処置部(第1処置面42)を構成するように形成される。導電コーティング部34は、少なくともロッド部材21の非導通部に塗布されている。複数の金属粒子は、例えば、銀粒子で構成されるが、他の導電性の良好な銅粒子等の他の種類の金属粒子であってもよい。複数の金属粒子(銀粒子)には、球形状の金属粒子および鱗形状の金属粒子等の種々の形状の金属粒子が含まれている。
【0021】
図3に示すように、第2導電コーティング部35は、導電コーティング部34と導線28(端子33)との間に介在されて導電コーティング部34と導線28とを一体的に固定している。第2導電コーティング部35は、導電コーティング部34と同一の組成の導電材料で構成される。第2導電コーティング部35は、導線28と導電コーティング部34との結線部を構成する。図3に示すように、第2導電コーティング部35は、導電コーティング部34の外表面に設けられ、導電コーティング部34の上側に重なるように形成される。したがって、ロッド部材21の外表面から第2導電コーティング部35の外表面までの寸法L2は、ロッド部材21の外表面から導電コーティング部34の外表面までの寸法L1よりも大きい。また、ロッド部材21(構造部)の長手方向Lに関して、第2導電コーティング部35の長さは、導電コーティング部34の長さよりも小さい。
【0022】
導電コーティング部34および第2導電コーティング部35が本硬化(焼成)された状態では、これらの母材に含まれる有機成分(液体成分)が気化して金属粒子同士が連絡する。これによって、導電コーティング部34および第2導電コーティング部35は、全体として導電性を発揮できる。
【0023】
図2に示すように、第2電極26は、ジョー部材25の第2面43に平板状に形成される。第2電極26は、第1電極22と同様に導電コーティング部34および第2導電コーティング部35からなり、これらの構造およびこれらを構成する材料は第1電極22と同様である。このため、図3を第2電極26の説明に兼用する。第2電極26は、ジョー部材25の外表面に形成された導電コーティング部34と、導電コーティング部34と導線28の端子33とを接続するように設けられた第2導電コーティング部35と、を有する。第2電極26を構成する導電コーティング部34のうちの大部分は、生体組織と直接接触する第2処置面44を構成する。導電コーティング部34は、少なくともジョー部材25の非導通部に塗布されている。導電コーティング部34の第2処置面44から外れた位置(例えば、円筒形のシャフト23の内側の位置)に、第2導電コーティング部35が設けられる。なお、後述する本硬化(焼成)処理後には、導電コーティング部34および第2導電コーティング部35は、一体になった導電コーティング部を構成することができる。
【0024】
図1に示すように、電源ユニット13は、高周波電力供給部31と、これを制御する制御部45と、を有している。制御部45は、高周波電力供給部31から第1電極22および第2電極26への電力の供給を制御することができる。術者によって操作ボタン18が操作されると、制御部45は、高周波電力供給部31から第1電極22および第2電極26に電力を供給する。複数の操作ボタン18には、例えば、生体組織に対して高出力で高周波エネルギーを出力する第1操作ボタン18Aと、生体組織に低出力で高周波エネルギーを出力する第2操作ボタン18Bと、が含まれる。高周波エネルギーは、導電コーティング部34に伝達される電気エネルギーの一例である。
【0025】
図3図4を参照して、本実施形態の処置具の製造方法について説明する。
ロッド部材21およびジョー部材25を、射出成形等によって樹脂材料等で成形する。なお、ロッド部材21およびジョー部材25は、チタン合金やアルミニウム合金等の金属材料を加工することで形成されていてもよい(この場合、ロッド部材21およびジョー部材25は、金属材料の表面に樹脂材料を設けた構造等、一部に樹脂材料部分を含んでいるが全体としては金属材料で形成される構造であってもよい。)。第1電極22は、ロッド部材21の第1面41(処置部、処置面))に平板状に形成される。図3に示すように、第1電極22は、ロッド部材21の外表面に形成された導電コーティング部34と、導電コーティング部34と導線28の端子33とを接続するように設けられた第2導電コーティング部35と、を有する。続く工程において、このロッド部材21の少なくとも一部(図2に示す第1面41)に対して導電材料を塗布して導電コーティング部34を形成する。同様に、ジョー部材25の少なくとも一部(図2に示す第2面43)に対して導電材料を塗布して導電コーティング部34を形成する。続く工程では、図4に示すように、複数の導線28の端子33の少なくとも一部(一方の面33A)に対して、導電材料を塗布して第2導電コーティング部35を形成する。
【0026】
次の工程では、ロッド部材21およびジョー部材25に塗布した導電コーティング部34と、複数の導線28の端子33に塗布した第2導電コーティング部35と、を仮硬化(仮乾燥)させる熱処理を行う。この熱処理は、例えば、60〜120℃にした炉の内部に、所定時間放置することでなされる。
【0027】
仮硬化の終了後、続く工程では、図4に示すように、ロッド部材21の導電コーティング部34に対して端子の第2導電コーティング部35を突き合わせて、図3に示す状態にする。これと並行して、図4に示すように、ジョー部材25の導電コーティング部34に対して導線28の第2導電コーティング部35を突き合わせて、図3に示す状態にする。なお、導電コーティング部34と、第2導電コーティング部35との間に、つなぎ導電コーティングを介在させてもよい。つなぎ導電コーティングは、導電コーティング部34と同一の組成の導電材料であるが、熱処理を行う前のものである。
【0028】
この状態で、ロッド部材21およびジョー部材25に塗布した導電コーティング部34と、端子33に塗布した第2導電コーティング部35と、を本硬化(焼成)させる熱処理を行う。この熱処理は、仮硬化の熱処理よりも高い温度で、例えば、200〜330℃にした炉の内部で、所定時間放置することでなされる。この工程によって、ロッド部材21またはジョー部材25の導電コーティング部34と、複数の導線28の端子33に塗布した第2導電コーティング部35と、が一体的に接合(固定)されるとともに電気的に接続される。なお、導電コーティング部34と、第2導電コーティング部35との間につなぎ導電コーティングを介在させた場合も同様に、導電コーティング部34と第2導電コーティング部35とが一体的に接合され、さらに接合強度の信頼性および導電性についての信頼性が向上する。
【0029】
ロッド部材21の導電コーティング部34は、本硬化によって第1電極22を構成し、導電コーティング部34のうちの大部分が第1処置面42となる。また、ジョー部材25の導電コーティング部34は、本硬化によって第2電極26を構成し、導電コーティング部34のうちの大部分が第2処置面44となる。以上より、ロッド部材21に対する第1電極22の製造工程およびジョー部材25に対する第2電極26の製造工程が完了する。
【0030】
続いて、図1から図3を参照して、本実施形態の処置具11の作用について説明する。

術者は、処置において、ハンドル17を操作してロッド部材21とジョー部材25との間に生体組織を挟むことができる。さらに術者は、第1操作ボタン18Aまたは第2操作ボタン18Bを操作することで、挟んでいる生体組織に対して高周波エネルギーを投入して、生体組織の凝固、或いは凝固・切開等の処置を行うことができる。
【0031】
例えば術者が第1操作ボタン18Aを操作する場合には、制御部45の制御下で、第1電極22と第2電極26との間で生体組織に高周波エネルギーが供給される。これによって、生体組織の広範囲(ロッド部材21とジョー部材25との間に把持される生体組織の全体)に対して高周波電流が流されて、生体組織の凝固または凝固・切開等がなされる。このとき、第1電極22と第2電極26との間にのみ通電することでき、ロッド部材21の背面側(ジョー部材25と対向する側とは反対側)やジョー部材25の背面(ロッド部材21と対向する側とは反対側)などの余計な所に電流が流れないので、効率的な高周波処置が可能となる。
【0032】
例えば術者が第2操作ボタン18Bを操作する場合には、制御部45の制御下で、先端側にある第1電極22と第2電極26との間の位置で生体組織に高周波エネルギーが供給される。このとき、第1電極22と第2電極26とに供給される電力は、第1操作ボタン18Aを操作して供給される通常の電力よりも小さい(すなわち、通常出力よりも小さい低出力である)。この場合も、第1電極22と第2電極26との間にのみ通電され、効率的な高周波処置が可能となる。
【0033】
第1実施形態によれば、以下のことがいえる。処置具11は、少なくとも一部に非導通部を持つ構造部と、前記構造部の少なくとも一部に形成された、導電性および撥水性を有する導電コーティング部34と、電気エネルギーを前記導電コーティング部34に伝達するエネルギー伝達部と、を備え、前記導電コーティング部34は少なくとも前記構造部の非導通部に塗布されており、前記構造部の非導通部においても、前記導電コーティング部34を通じて電気エネルギーが供給される。
前記エネルギー伝達部は、導電コーティング部34へ結線された導線28であって、導線28と導電コーティング部34との結線部は、第2導電コーティング部35により一体的に固定される。
【0034】
一般に、物体に撥水性のコーティングを施した場合には、その物体に対して追加的に他の物体を固定(接着)することが困難になることが多い。上記の構成によれば、撥水性の導電コーティング部を施した表面に対してエネルギー伝達部を固定(接着)することができる。これによって、エネルギー伝達部を介して導電コーティング部に高周波エネルギーを供給することができ、導電コーティング部を高周波電力処置時の電極として活用できる。また、導電コーティング部は、塗布する領域を変化させることによって構造部に対して任意の形状をとることができる。このため、処置対象の臓器、器官、組織等に応じて、導電コーティング部の形状を適宜に変化させることができる。これによって、目的の処置に応じて最適な形状の導電コーティング部(電極)を実現できる。
【0035】
構造部の熱伝導率は、金属の熱伝導率よりも小さい。例えば高周波エネルギーによる処置を行うと、導電コーティング部34に隣接した構造部の温度が上昇することがある。この構成によれば、構造部の温度上昇を抑制することが出来る。また、構造部の温度が上昇してしまった場合でも、構造部の熱伝導率が金属よりも低いため、処置中に誤って周辺組織に構造部を接触させた場合でも、周辺組織に急激に熱が加わらなくなるため、熱によるダメージを防止することができる。
【0036】
導電コーティング部の樹脂の母材は、少なくともフッ素樹脂を含む。この構成によれば、フッ素樹脂の撥水性およびすべり性によって導電コーティング部34に対する生体組織片の張り付きを防止できる。
【0037】
構造部の長手方向に関して、第2導電コーティング部35の長さは、導電コーティング部34の長さよりも小さい。この構成によれば、処置面となる導電コーティング部34の面積を十分な広さで確保することができる。
【0038】
本実施形態の処置具の製造方法は、絶縁性および撥水性を有する母材中に金属粒子が拡散分布された導電材料を構造部の少なくとも一部に塗布して導電コーティング部34を形成する工程と、高周波エネルギーを導電コーティング部34に伝達するためのエネルギー伝達部の少なくとも一部に前記導電材料を塗布して第2導電コーティング部35を形成する工程と、導電コーティング部34および第2導電コーティング部35を熱処理して仮硬化させる工程と、導電コーティング部34と第2導電コーティング部35とを突き合わせた状態で、前記仮硬化させる工程よりも高い温度で熱処理してこれらが一体になるように本硬化させる工程と、を備える。
【0039】
この構成によれば、本硬化前の導電コーティング部34に対して本硬化前の第2導電コーティング部35を突き合わせることで、固定(接着)が難しい撥水性の導電コーティング部34を施した表面に対してエネルギー伝達部を固定することができる。これによって、導電コーティング部34を高周波エネルギーによる処置の際の電極として活用することができる。また、導電コーティング部34は、塗布する領域を変化させることによって構造部に対して任意の形状をとることができる。このため、処置対象の臓器、器官、組織等に応じて、導電コーティング部34の形状を適宜に変化させることができ、目的の処置に応じた最適な形状の導電コーティング部34(電極)を実現できる。
【0040】
(変形例)
続いて、図5を参照して、第1実施形態の処置具11の変形例について説明する。ここでは、主として第1実施形態と異なる部分について説明し、第1実施形態と共通する箇所については説明を省略する。
【0041】
本変形例では、ハンドピース12は、ジョー部材25を有しない。このため、ハンドピース12のエンドエフェクタ30は、ロッド部材21のみによって構成される。このため、本変形例の処置具11は、電気メス様の構造を有し、いわゆるモノポーラ処置具を構成する。
【0042】
ロッド部材21は、例えば樹脂材料(例えば、PEEK等)によって、第1実施形態のロッド部材21よりも直径が小さい棒状に成形される。このため、ロッド部材21は、絶縁性だけでなく、第1実施形態のロッド部材21に比して大きな可撓性を有する。ロッド部材21は、例えば射出成形によって安価で大量に製造できる。ロッド部材21は、構造部の一例である。ロッド部材21は、ジョー部材25と対向する側に第1面41を有する。
【0043】
続いて、図5を参照して、本実施形態の処置具11の作用について説明する。
本変形例では、ロッド部材21が細長いため、図5に示すように生体組織の外表面の形状に追従するように撓むことができる。したがって、本変形例では、生体組織の外表面に対する第1電極22(導電コーティング部34)の接触面積が大きく確保される。また、ロッド部材21が可撓性を有するように構成されるため、ロッド部材21の先端を誤って生体組織に刺してしまうこともなく、生体組織を傷つけてしまう危険性が低減される。
【0044】
さらに術者は、第1操作ボタン18Aまたは第2操作ボタン18Bを操作することで、当接している生体組織に対して高周波エネルギーを投入して、生体組織の凝固、或いは凝固・切開等の処置を行うことができる。
【0045】
例えば術者が第1操作ボタン18Aを操作する場合には、制御部45の制御下で、第1電極22と、患者の体外にある対極板との間で、生体組織に高周波エネルギーが供給される。これによって、第1電極22において生体組織に対して高周波電流が流されて、第1電極22付近にある生体組織の凝固等がなされる。
【0046】
例えば術者が第2操作ボタン18Bを操作する場合には、制御部45の制御下で、先端側にある第1電極22と、患者の体外にある対極板との間で、生体組織に高周波エネルギーが供給される。このとき、第1電極22に供給される電力は、第1操作ボタン18Aを操作して供給される通常の電力よりも小さい(すなわち、通常出力よりも小さい低出力である)。これによって、第1電極22において生体組織に対して高周波電流が流されて、第1電極22付近にある生体組織の凝固等がなされる。
【0047】
本変形例によれば、前記構造部は、樹脂材料で形成される。この構成によれば、構造部の熱伝導率を小さくできるとともに、構造部に十分な可撓性を持たせることができる。これによって、生体組織の外表面にロッド部材21を追従させることができ、生体組織に対して導電コーティング部34が接触する面積を大きく確保することができる。これによって、生体組織に対して処置を加える面積を大きく確保することができ、術者の作業性を向上できる。また、構造部に可撓性を持たせることで、処置中に誤って生体組織に構造部を刺してしまうことがなく、処置中の安全にも配慮した処置具11を提供できる。
【0048】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変形実施することができる。また、本発明は、生体に対して、直接接触した状態で電気エネルギーを供給することが可能な処置具、鉗子、電気メス等、上記した処置具11以外の医療機器にも同然に適用できる。また、ロッド部材21に供給されるエネルギーは、高周波エネルギーに限られず、それ以外のエネルギーであってもよい。すなわち、超音波エネルギー、熱エネルギー、光エネルギー、電磁波のいずれかのエネルギーを処置に用いるエネルギーとして単独出力するように構成しても良いし、高周波エネルギー、超音波エネルギー、熱エネルギー、光エネルギー、電磁波のうちいずれかを適宜に組み合わせて出力しても良い。この場合、特に、超音波エネルギー、熱エネルギー、光エネルギー、および電磁波で構成される群から選択された一つのエネルギーと、高周波エネルギーと、の両方を同時若しくは個別に出力可能としてもよい。なお、ロッド部材に供給されるエネルギーとして、超音波エネルギーを利用する場合には、超音波振動による負荷(高い応力)に耐えるように、構造部の一部に金属材料を用いることが望ましい。
【符号の説明】
【0049】
11…処置具、28…配線、31…高周波電力供給部、32…配線本体、33…端子、33A…一方の面、34…導電コーティング部、35…第2導電コーティング部、51…導電コーティング部。
図1
図2
図3
図4
図5