【実施例】
【0037】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下、特に断らない限り、組成物における含有成分割合を示す%は質量%(w/w%)を表す。CO
2濃度の%はv/v%である。また、細胞、培地及び培地関連試薬については、全て市販品を購入して用いた。
【0038】
紫外線照射による活性酸素産生に対する効果の検討
米糠油について、線維芽細胞に紫外線(UVA)を照射した際に発生する活性酸素種(以下ROS)の産生に対する効果を評価した。
【0039】
<使用材料>
・53歳女性由来ヒト皮膚線維芽細胞(以下HDF53)
・HDF53用培地:Minimum Essential Medium Eagle (Sigma Aldrich, M4655)に10%FBSおよび1%抗生物質(GibcoTM, 15240062)を添加して調製した。以下MEM(+)ともいう。
・PBS (Sigma Aldrich, D8537)
・HBSS (Sigma Aldrich, H8264)
・DCFH−DA(Sigma Aldrich)
なお、DCFH−DAプローブは細胞内に散在して、細胞内エステラーゼにより脱アセチル化し、非蛍光型 2’,7’−Dichlorodihydrofluorescein (DCFH)になり、更にROSにより素早く酸化され、強く蛍光する2’,7’−Dichlorodihydrofluorescein (DCF)に変化する。これにより、細胞内のROS量を蛍光強度により測定することができる。
・Premix WST−1 Cell Proliferation Assay System (TaKaRa Bio, MK400)(以下WST−1)
なお、WST−1は、細胞生存能力を発色測定により定量するための試薬である。生細胞中のミトコンドリア脱水素酵素によるテトラゾリウム塩(WST−1)のホルマザン色素への変換を基本としており、生細胞数が増加すれば、サンプル中のミトコンドリア脱水素酵素の全体の活性が増加することになり、この酵素活性の増加が、ホルマザン色素の生成増加を導くため、ホルマザン色素と培地中の代謝活性のある細胞の数とは直線的な相関を示すことになる。
【0040】
<実験操作>
48穴ウェルプレートにHDF53を1.2×10
4cells/wellで播種し、コンフルエントになるまで37℃ CO
25%インキュベーター内で3日間培養(使用培地:MEM(+))した。3日後、MEM(+)を除去してHBSSで1回洗浄し、新しいHBSSを各ウェルに300μlずつ添加した。上記のHDF53に、UVAを6000mJ/cm
2 照射した。HBSSを吸引除去し、新しいPBSで1回洗浄した。米糠油(三和油脂製「つや姫こめ油」又は築野食品製)を100μg/ml含むMEM(+)を各ウェルに500μlずつ添加した。各ウェルに 5mM DCFH−DA (Di(Acetoxymethyl Ester) (6−Carboxy−2’,7’−Dichlorodihydrofluorescein Diacetate))を3μlずつ添加した(最終濃度30μM)。37℃、CO
25%インキュベーター内で30分間培養した。培地を吸引除去し、PBSで1回洗浄した。新しいPBSを各ウェルに300μlずつ添加した。GEMINI XPS(Molecular Devices)で、Ex 488nm/Em 530nmの波長で蛍光強度を測定した。その後、PBSを吸引除去して10倍希釈したWST−1を含むMEM(+)を各ウェルに500μlずつ添加し、37℃、CO
25%インキュベーター内で2時間培養した。xMark Microplate Spectrophotometer(BIO RAD)で450nmの吸光度を測定した。当該実験は、N=3で実施した。また、米糠油を含まないMEM(+)をコントロールとした。
【0041】
測定した蛍光強度を
図1に示す。ただし、
図1に示す蛍光強度は、GEMINI XPSで測定した蛍光強度を、細胞生存率で割り補正した値である。細胞生存率は、WST−1を用いた検討において、xMarkで測定した各ウェルの吸光度を、UVA未照射コントロールの吸光度の平均値で割ることにより、算出した。なお、UVA未照射コントロールでの生存率を「1」とした。なお、
図1において、+はp<0.1、*はp<0.05、**はp<0.01(いずれもT−testによる)を示す。
【0042】
紫外線照射によるMMP−1産生に対する効果の検討
米糠油について、線維芽細胞に紫外線(UVA)を照射した際のMMP−1の産生に対する効果を評価した。
【0043】
<使用材料>
・53歳女性由来ヒト皮膚線維芽細胞(以下HDF53)
・HDF53用培地:Minimum Essential Medium Eagle (Sigma Aldrich, M4655)に10%FBSおよび1%抗生物質(Gibco
TM, 15240062)を添加して調製した。以下MEM(+)ともいう。
・PBS (Sigma Aldrich, D8537)
・HBSS (Sigma Aldrich, H8264)
・Premix WST−1 Cell Proliferation Assay System (TaKaRa Bio, MK400)(以下WST−1)
・Human Total MMP−1 (R&D systems, DY901B)*MMP−1検出用ELISAキット
・DuoSet Ancillary Reagent Kit2 (R&D systems, DY008)
【0044】
<実験操作>
48穴ウェルプレートにHDF53を1.2×10
4cells/wellで播種し、コンフルエントになるまで37℃ CO
25%インキュベーター内で3日間培養(使用培地:MEM(+))した。3日後、MEM(+)を除去してHBSSで1回洗浄し、新しいHBSSを各ウェルに200μlずつ添加した。上記のHDF53に、UVAを8000mJ/cm
2 照射した。HBSSを吸引除去し、PBSで1回洗浄した。米糠油(三和油脂製「つや姫こめ油」又は築野食品製)を50μg/ml含むMEM(+)を各ウェルに500μlずつ添加し、37℃ CO
25%インキュベーター内で72時間培養した。72時間後、培地を回収して12000rpmで1分間遠心分離し、上清を回収して使用するまで−30℃で保管した。また、各ウェルの残った培地を吸引除去し、新しいPBSで1回洗浄した。10倍希釈したWST−1を含むMEM(+)を、各ウェルに300μlずつ添加し、37℃ CO
25%インキュベーター内で2時間培養した。培養後、xMark Microplate Spectrophotometer(BIO RAD)で450nmの吸光度を測定した。また、遠心分離して得た培地上清中のMMP−1の濃度測定を、ELISAキット付属のプロトコールに従って行った。ELISAの測定において、吸光度はxMark Microplate Spectrophotometer(BIO RAD)で450nmの吸光度を測定した。
【0045】
当該実験は、N=3で実施した。また、米糠油を含まないMEM(+)をコントロールとした。
【0046】
測定したMMP−1の濃度を
図2に示す。ただし、
図2に示す濃度は、ELISAの測定において、xMarkで測定した吸光度を、細胞生存率で割り補正した値である。細胞生存率は、WST−1を用いた検討において、xMarkで測定した各ウェルの吸光度を、UVA未照射コントロールの吸光度の平均値で割ることにより、算出した。なお、UVA未照射コントロールでの生存率を「1」とした。なお、
図2において、*はp<0.05、**はp<0.01(いずれもT−testによる)を示す。
【0047】
抗酸化遺伝子発現の検討
NHEK細胞(正常ヒト表皮角化細胞;新生児由来)を用いて、米糠油に含まれる抗酸化成分であるγ−オリザノールにより抗酸化遺伝子の発現が変化するかを検討した。また、γ−オリザノール内包リポソーム及び米糠油内包リポソームにより、抗酸化遺伝子の発現が変化するかを検討した。なお、細胞、培地及び培地関連試薬については、全て市販品を購入して用いた(倉敷紡績株式会社又はシグマアルドリッチ)。
【0048】
<増殖培地調製方法>
37℃に恒温化したHuMedia−KB2培地 500mLに同じく恒温化したインスリン 0.5ml、hEGF 0.5ml、ハイドロコ−チゾル 0.5ml、BPE(ウシ脳下垂体抽出液)2ml、ゲンタマイシン/アンフォテリシンB 0.5ml(抗菌剤)を加えた。これを緩やかに混合した後、4℃に保存した。
【0049】
<凍結NHEK細胞の解凍及び培地交換方法>
凍結NHEK細胞の入ったアンプル2本を37℃の恒温槽で解凍した。解凍後、予め15mlチューブに分注した4℃のHumedia−KG2培地 6mlに細胞溶液を混合した。予め37℃に恒温化したHumedia−KG2培地 39mlを13mlずつ3つのフラスコに移した。混合した細胞溶液を接着細胞培養フラスコ(SUMILON 250mL)に2mlずつ移し、細胞が均一になるように混合させてから、しばらく静置した。37℃、5%CO
2インキュベーターで培養した。翌日以降、細胞密度が80%コンフルエントになるまで1日1回培地交換を行なった。
【0050】
<NHEK細胞の継代培養方法>
増殖培地を吸引し、37℃に恒温化したHEPES緩衝液を5mL加え、軽く細胞層を洗浄した。HEPES緩衝液を吸引し、0.25%トリプシン溶液を2mL加え、37℃、5%CO
2インキュベーターで3分静置した。その後、フラスコ底面に接着している細胞をはがした(フラスコの縁を軽く叩き、細胞をはがす)。そこに37℃に恒温化したトリプシン中和液を4mL加えてトリプシン酵素の反応を停止させた。細胞懸濁液を50mlファルコンに回収し、遠心した(RT、1,000rpm、5min)。上清を吸引し、Humedia−KG2培地10mlに混合した後、血球計算盤で細胞数を計測した。その後、接着細胞24wellプレートに培地量950μL、細胞数が1.33×10
5個になるよう蒔いた。翌日、培地交換を行なった。
【0051】
<試料添加方法>
増殖培地を吸引し、PBS 1mlで洗浄した後、Humedia−KB2培地 1mlに混合した試料(γ−オリザノール又はBSA)を添加し、24時間培養した。なお、γ−オリザノールは、培地中のγ−オリザノール終濃度が10μg/ml、50μg/ml、又は100μg/ml、となるように添加した。BSAは、終濃度約0.14%となるように添加した。γ−オリザノールは、オリザ油化株式会社から購入して用いた。
【0052】
<細胞回収方法>
Humedia−KB2培地を吸引し、PBS 1mlで洗浄した。PBSを吸引し、RLT(細胞溶解液) 350μlを加え、プレートシェイカーで3min振盪した。24wellプレートの周りをビニールテープで覆い、−80℃へ保存した。
【0053】
<cDNAの作製>
−80℃から24wellプレートを取り出し、恒温槽で解凍した。70% EtOH 350μlを加え、プレートシェイカーで3分振盪した。Total RNAサンプルはRNeasy Mini Kit(キアゲン社)を用いて抽出した。NANODROP 2000 Spectrophotometer(Thermo SCIENTIFIC)でRNA濃度を測定し、PrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ社)を用いて、約500ngのTotal RNAからcDNAを作製した。
【0054】
<リアルタイムPCR>
Primix Ex Taq(タカラバイオ社)10μlにプライマー、ROX DyeIIとRNA Free水を加え、18μlの混液を調製し、2μl(約50ng)のcDNAサンプルを加えて、Real−Time PCR測定サンプルを各プライマーごとに調製した。内在性コントロールとしてβ−actin、又はGAPDH、ターゲット抗酸化遺伝子としてNrf2、Nqo1、HO−1、及びSOD1を選択した。Real−Time PCR Standard7500(Applied Biosystems)により、ターゲット遺伝子の発現解析(相対定量)を行なった。検量線法による解析結果を
図3に示す。また、
図3の結果は内在性コントロールとしてβ−actinを用いて解析した結果である。なお、
図3は、BSA添加培地での遺伝子発現量を1としたときの各培地における遺伝子発現量比を示す。また、
図3において、+、*、**、***は、それぞれ、コントロール(BSA添加)と比較して有意差が有ることを示す(+:P<0.1、*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001)
【0055】
なお、PCRに用いた各プライマーの塩基配列は次の通りである。(F:はフォワードプライマーを、R:はリバースプライマーを示す。)
β−actin
F:TTGTTACAGGAAGTCCCTTGCC
R:ATGCTATCACCTCCCCTGTGTG
GAPDH
F:GCACCGTCAAGGCTGAGAAC
R:TGGTGAAGACGCCAGTGGA
Nrf2
F:CTTGGCCTCAGTGATTCTGAAGTG
R:CCTGAGATGGTGACAAGGGTTGTA
Nqo1
F:GGATTGGACCGAGCTGGAA
R:AATTGCAGTGAAGATGAAGGCAAC
HO−1
F:AAGACTGCGTTCCTGCTCAAC
R:AAAGCCCTACAGCAACTGTCG
SOD1
F:AGTGCAGGGCATCATCAATTTC
R:CCATGCAGGCCTTCAGTCAG
【0056】
<リポソームの調製>
表1に示す組成(合計100%)となるよう原料を混合し、これを高圧乳化機(スターバーストミニHJP−25001:(株)スギノマシン社製)で200Mpa、5パスの条件で処理し、リポソーム懸濁液(γ−オリザノール内包リポソームを含有する)を調製した。また、γ−オリザノールはオリザ油化株式会社から購入して用いた。レシチンは大豆レシチンを日油株式会社から購入して用いた。米糠油は「つや姫こめ油」を三和油脂株式会社から購入して用いた。また作成したリポソームは透過型電子顕微鏡 HT7700(HITACHI)にて存在を確認した。
【0057】
【表1】
【0058】
以下の検討には、得られたリポソーム懸濁液(0.5%γオリザノール内包リポソーム懸濁液、1%米糠油内包リポソーム懸濁液、及び空リポソーム懸濁液)を用いた。なお、1%米糠油リポソーム懸濁液をイオン交換水で10倍希釈し、0.1%米糠油内包リポソーム懸濁液を調製して、これも以下の検討に用いた。
【0059】
<細胞の3次元培養>
3次元(3D)皮膚モデル作製用ツールであるEpiderm 200Xキット及びEPI−100MM培地(いずれもクラボウ社)を用いて、3次元皮膚モデルを作製した。具体的には、Epiderm 200Xキットを用いて、次の手順で作製した。接着細胞24wellプレートに予め37℃に恒温化したEPI−100MM 500μlを加えた。3次元皮膚モデルの入ったインサートカップを接着細胞24well プレートに泡が入らないよう移した。37℃、5%CO
2インキュベーターで2〜3時間培養して、3D皮膚モデルを作製した。
【0060】
<遺伝子発現検討>
3D皮膚モデル上部に試料(0.5%γオリザノール内包リポソーム懸濁液、1%米糠油内包リポソーム懸濁液、0.1%米糠油内包リポソーム懸濁液、又は空リポソーム懸濁液)を40μl添加し、24時間培養した。その後、培地を吸引し、3D皮膚モデル上部を組織が崩れないよう注意しながらPBSで3回洗浄した。メスでインサートカップから3D皮膚モデルとメンブレンを切り出し、その後3D皮膚モデルからメンブレンを剥がした。細胞ストック用チューブに3D皮膚モデルを入れ、液体窒素で凍結し−80℃で保存した。その後、上述した方法と同様にしてRNAを抽出してcDNAを作製しリアルタイムPCRを行って遺伝子(Nrf2及びNqo1)発現を解析した。Ct法による解析結果を
図4に示す。また、
図4の結果は内在性コントロールとしてGAPDHを用いて解析した結果である。なお、
図4において、+、*は、それぞれ、コントロール(空リポソーム)と比較して有意差が有ることを示す(+:P<0.1、*:P<0.05)。
【0061】
<マイクロアレイ解析>
上記のようにして調製した3D皮膚モデル細胞のRNAを用いて、DNAマイクロアレイ解析を行い、MPP−2遺伝子、MPP−9遺伝子、及びMMP−10遺伝子の発現を検討した。DNAマイクロアレイとしてはDNAチップジェノパール皮膚チップ(三菱ケミカル株式会社)を用いた。基準サンプル(すなわち、空リポソームを添加して培養した3D皮膚モデル細胞のRNA)の補正値を1としたときの、各試料を添加して培養した3D皮膚モデル細胞のRNAの発現量を表2に示す。表2の数値の右肩の*はコントロール(空リポソーム)に比して有意差があることを示す(P<0.05)。
【0062】
【表2】